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データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定 誌名 誌名 水産工学 ISSN ISSN 09167617 巻/号 巻/号 442 掲載ページ 掲載ページ p. 85-90 発行年月 発行年月 2007年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定 誌名 水産工学 ISSN 09167617 巻/号 442 掲載ページ

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データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定

誌名誌名 水産工学

ISSNISSN 09167617

巻/号巻/号 442

掲載ページ掲載ページ p. 85-90

発行年月発行年月 2007年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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水産工学 Fisheries Engineering Vol. 44 No. 2, pp.85-90, 2007

[研究輸文]

85

データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定

江幡 恵吾1* . 原 正和1・村田 政 隆2・松村一弘2

不破 茂1・平石智徳3・山本勝太郎3

Measuring the Movement of the Trolling Depressor by using the Data-Logger

Keigo EBATAl*, Masakazu HARAl, Masataka MURATA2, Kazuhiro MATSUMURA2,

Shigeru FUWA1, Tomonori HIRAISHI3 and Katsutaro YAMAMOT03

Abstract

The movement of the trolling depressor is important for catching the target species. The purpose of

this study is to clarify the dynamics of the trolling depressor by using the data-logger.

A flume tank experiment was conducted to measure the tension of the line and the attitude and the

angular velocities of the trolling depressor. The length of the main line was 2.5m. The flow speed was

1.l0m/s. ln this experiment. a two times larger model of the trolling depressor was used to install the

underwater motion measuring unit. The acceleration. the attitude and angular velocities of the trolling

depressor were measured by using this unit at the intervals of 0.01 seconds.

As a result of the experiment. it was possible to clarify the change of pitching angle, rolling angle,

yawing angle of the trolling depressor, and each periods were 0.7, 1.4, 1.4 seconds.

1,はじめに

曳縄漁業で使用される潜航板の運動は,擬餌針の動き

を調節する上で重要な要因のひとつである1)寸)。 漁業者

は,潜航板の振れ回り運動を「振り」と呼び,対象とす

る魚種やサイズに応じて「振り」の大きさを変化させて,

擬餌針の運動を調節している。すなわち,直接見ること

ができない擬餌針の動きを潜航板の動きから推測し,潜

航板と道糸の取り付け位置などを変化させることで潜航

板の運動を調節している。聞き取り調査によると,漁業

者は,漁獲に適した潜航板の動きとして,釣竿と道糸の

固定点を中心に対称に振れ回るのが良いとしており,そ

の振れ幅は大き過ぎても小さ過ぎても良くないとしてい

る。このような潜航板の取扱方法を習得するには,相当

初06年9月21日受付, 2007年5月1日受理

な経験が必要とされ,漁業者個人の感覚でしか漁獲と潜

航板の動きとの関係が捉えられていないのが現状である。

したがって,擬餌針の運動と対象魚との関係を明らかに

するためには,まず始めに擬餌針の運動を制御するため

に使用される潜航板の運動状態を明らかにする必要があ

る。そこで前報4)では,三分力計を用いて道糸張力の測

定を行い,張力の各成分と道糸長さの関係から,潜航板

と道糸を結ぶ結着点の運動軌跡を推定した。その結果,

結着点は 3次元的に振れ回る運動を繰り返しながら, 8

字のような軌跡を描くことが明らかになった。

本研究では,潜航板の振れ回り運動について,さらに

詳細に調べるために,潜航板自体の運動状態を把握する

ことを目的とする。そのために,潜航板の中にロガー機

能を有する水中運動計測ユニット 5) (以下, r運動計測ユ

Key words : Trolling depressor, Trolling fishery, Movement, data-logger

キーワード:潜航板,曳縄漁業,運動,データロガー

1 Faculty of Fisheries, Kagoshima University, Shimoarata 4-50-20, Kagoshima 890-0056, ]apan (鹿児島大学水

産学部 〒8卯ー0056鹿児島市下荒田4丁目50-20)

2 Hokkaido lndustrial Technology Center, Kikyou 379, Hakodate 041-0801, ]apan (北海道立工業技術センター

〒041-0801函館市桔梗町379)

3 Graduate School of Fisheries Sciences, Hokkaido University, Minato 3-1-1, Hakodate 041-8611, ]apan (北海道

大学大学院水産科学研究院 〒041-8611函館市港町3-1-1)

* Tel :ω9-286・4231,Fax: 099-286・5507,[email protected]

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86 水産工学 Vol.44 NO.2

ニットjと呼ぶ)を内蔵させた模型を製作し,潜航板の

回転角と加速度の変化を直接測定する実験を行い,測定

された潜航板の姿勢,および加速度の変化から潜航板の

挙動を考察した。

2.実験材料および方法

1)座標系と潜航板の回転角の定義

曳縄漁具の曳航システムにおける座標系と潜航板の回

転角の定義を,それぞれFig.l,Fig.2に示す。

慣性座標系をO-c1)1;とする。釣竿と道糸の結着点を

原点 Cjとした固定座標系を Cj-XjY1Zlとする。潜航板

の重心位置Gに原点をもち,潜航板に固定された回転

座標系を G-X2Y2Z2とした。C2は道糸と潜航板との結

着点を示している。Xj軸は漁具を曳航する漁船の進行方

向,Yj軸は進行方向に直角で横方向, Zj軸は進行方向に

直角で鉛直下方向を正とした。X2軸は潜航板の長手方

向 Y2軸 は幅方向 Z2軸は下方向を示してい

る。X2,Y2, Z2軸まわりの回転角をそれぞれロール角φ,

ピッチ角8,ヨ一角ψとした。ピッチ角。は潜航板の先

端が上向きを,ロール角φは潜航板の後端倶uから見て時

計まわりを,ヨ 一角ψは潜航板の上方から見て時計まわ

りをそれぞれ正とした。

2)運動計測ユニット

Fig.lに示すように,潜航板の運動は,回転座標系

G -X2Y2Z2において重心位置Gを原点とした剛体の 6

自由度運動方程式で表すことができる6)。ここで,潜航

板の X2,Y2, Z2軸方向の速度成分を U,V,ωとし ,X2,

Y2, Z2軸まわりの角速度を p,q, rとすると,潜航板の

変位と姿勢の検知に必要なセンシング量は,回転座標系

G-X2Y2Z2における各軸方向の速度,加速度,各軸ま

わりの角速度,角加速度になる。

運動計測IJユニットの各センサを選定する際に,計測の

目的に応じた仕様を検討する必要があり,運動計調IJユニ

ットを潜航板に内蔵させるためには,運動計測ユニ ット

の寸法上の制限がある。運動計演uユニ ットの大きさを可

能な限り小さくすることを考慮して,運動計測ユニ ット

のセンサの選定を検討した。その結果,各軸方向の速度

は加速度の計測結果から,回転角は角速度の計測結果か

らの演算によ って等価的な値を求めることにした。防水

仕様が必須である箆体の材質には,低コス トで加工性の

良いアルミを採用した。入手可能な様々なセンサを比較

した結果,傾斜センサ,角速度センサ,加速度セ ンサの

3つを採用することにした。よって,測定にはロール角

φ,ピ ッチ角 θの回転角の 2入力,ロール角ゆ,ピ ッチ

角8,ヨ一角ψの角速度の 3入力 X2,Y2軸方向の加速

度U,Vの2入力の計7種類のセンサを用いた。運動計測

ユニ ットの仕様をTable1に示す。本ユニ ットにはロガ

ー機能,およびパソコ ンによる計測設定やデータ収集機

寸fY2

Fig. 1 The definition of coordinate systems.

Fig. 2 The attitude of the trolling depressor. (φ,8

and φare the roll angle, pitch angle and yaw

angle of the trolling depressor)

能が具備されている。選動計測ユニ ットを瀞航板に直接

内蔵させたことで,潜航板の姿勢変化と同時に運動計測

ユニット自体の姿勢も変化するため,潜航板の重心位置

Cを原点と した回転座標系G-X2Y2Z2における運動を

計測することができる。物体の傾斜角度の計測に使用さ

れる角度センサは応答速度が一般的に遅いため,速い応

答速度が求められる場合には,角度の変位量を求めるた

めに,角速度センサが使用されている。そこで,本研究

では,角度センサは潜航板の初期の姿勢を計測するとき

のみに使用し,潜航板の運動が開始されてからは,すべ

て角速度センサの測定値から角度を算出することにした。

潜航板による実験を行う前に,本ユニットのセンサ出

力について確認を行う必要がある。傾斜センサ,加速度

センサの出力値は他の計測機による出力値と比較を行う

ことで,角速度センサの出力値は演算により等価的な回

転角を算出することで出力には問題がないことが確認さ

れている5)。ただし,角速度セ ンサおよび加速度センサ

の結果を経過時間で積分することから,それぞれ角度,

速度を算出する場合には,経過時間によるドリフト成分

が混入する。そのために,求めようとする角度,速度を

中心とした前後の半周期分において,潜航板の運動の

1周期分に相当する移動平均を算出して,測定値とその

移動平均値の差を求めることによ ってドリフ ト成分の影

響をなくすようにした。

使用した角速度センサは,微動するオフセット電圧が

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データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定 87

Table 1 The main specification of the underwater motion measuring unit

Sampling time

Maximum samples

A/D converter

Mesurement time

Interface

Con tour dimension

Mass

Inclination sensor

Manufacturer

Product

Detection range

Resolving power

Accuracy

Time constant

Angular velocity sensor

O.OI-ls

65536/1ch

8bit

about llmin (at sampling time : O.Ols)

RS-232C

241 (Iength) X

130(width) x30(height)mm

1.115g

APPLIED GEOMECHANICS

Model900

:i: 20deg

O.Oldeg

土2.5%F.S

Is

Manufacturer TOKIN

Product CG-L33

Detection range

Resolving power

Accuracy

Time constant

Acceleration sensor

Manufacturer

Product

Detection range

Resolving power

Accuracy

Time constant

:i:360deg/s

O.ldeg/s

:i:3.4% F.S.

10ms

ANALOG DEVICES

ADXLl05

:i:5g (m/s2)

lOmg

:i:0.2% F.S.

O.lms

Photo 1 The trolling depressor in which the under-

water motion measuring unit is insta11ed.

Table 2 Specifications of trolling depressors used in the experiments

Enlarged-scale Prototype model

length (cm) 66.0 33.0

mass (g) 2210 202

volume (cm3) 4612.48 576.56

specific gravity 0.48 0.35

.position of center of gravity 0.52 0.53

ペDistancebetween front edge and center of garavity)/length

運動計測ユニットの大きさを可能な限り小型化するこ

とを考えたが,実物の潜航板に内蔵させることができる

大きさにはならなかった。そのため, Photo 1に示すよ

うな,通常,使用されている潜航板の拡大模型(2倍模

型,全長66.0cm)を製作し,その中に運動計測ユニッ

トを内蔵させることにした。拡大模型潜航板の後端には

長方形のゴム(縦3.0cm,検4.0cm,厚さ3.0mm) と長さ

20cmのテトロン組紐(直径2.2mm) を取り付けた。

出力されることから,直流信号成分を除去するためにカ 実験に使用した拡大模型の潜航板と実物の潜航板

ツプリングコンデンサを用いた反転増幅回路が組み込ま (YO-ZURI K -11) の諸元をTable2に示す。実物の潜

れている。カットオフ周波数はO.05Hzであり, O.45Hz以 航板をもとに,拡大模型を製作したために,形状は 2倍

上の時に99%以上の精度で増幅率が一定値を保つ。しか の相似形になるようにできた。拡大模型の中に,運動計

し,ステップ信号等の非周期的な信号対しては微分回路 測ユニットを内蔵させたことによって,質量が大きくな

として動作するため,測定値には回路に依存したノイズ り,その結果,比重は実物の潜航板よりも大きくなった。

成分が含まれることになる。また,角速度センサのオフ 重心の位置は,実物の潜航板では,先端からO.53L(L:

セット電圧が微動するために,静止状態においても測定 潜航板の全長),底面からO.25h(h:潜航板の高さ)の

値は常時Oを示さない。よって,角度算出のために単純 ところにあり,拡大模型では先端からO.52L,底面から

に積分処理をすると,これらの不要成分が積算されるこ 0.25hであった。

とから,積分結果に対し補正を行わなければならない。 3) 測定方法

潜航板の運動周期は0.45Hz以上であるため, 主要周波数 潜航板の運動計測実験は,鹿児島大学水産学部の鉛直

成分に対しては,ほぽ安定した測定値が得られる。そこ 循環式回流水槽で行った。その概要をFig.3に示す。観

で,積分した角度値を用い移動平均処理を行い,不要成 測水路内の大きさは,長さ6.0m,幡2.0m,水深l.Omで

分の除去処理を図った。周期運動をしている場合,その あり,その中の限られたスペースで潜航板を運動させな

周期を区間として,移動平均処理を行えば,その値は ければならない。そのために,道糸の長さ(テトロン組

Oになる。よって,同処理を行って得られた値は,不要 紐:直径2.2mm) は2.5mとし,設定流速はl.lOm/sとし

な周波数成分等であるとみなせるため,簡易的な補正技 た。実験時の水温はlO.8tであった。潜航板の運動は,

術としては有効であると判断した。 流体中における運動であり,潜航板は 3次元的に姿勢を

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88 水産工学 Vol.44 NO.2

ー-Flow}.一一一ー

Fig. 3 Schematic illustration of experimental set-up in the flume tank.

変化させながら高速で振れ図る運動を繰り返しているた

め速度変動が大きい。よって,実験時と操業時における

潜航板の運動の相似則は,慣性カと粘性カの比で表され

るレイノルズ数Reを用いて検討した7)。潜航板の全長L

を代表長さとした実験時のReは, 5.7 X 105であった。操

業中の曳航速度は約 4-5ノットであり,このときのRe

は5.3x 105-6.6 x 105である。よって,回流水槽実験時

のReは操業時のレイノルズ数の範囲内であることから,

実験時と操業時における潜航板の運動の相似性は保たれ

ているとした。

道糸の固定点において作用する張力 Tαの測定には,

三分力計(日章電機:LMC-3502,容量1ooN)を用いた。

三分力計および運動計測ユニ ットのサンプリング周波数

は100Hzとして30秒間の測定を行った。

運動計測ユニ ットに内蔵されているロール角φ,ピッ

チ角。の傾斜センサは応答性が1.0秒であり潜航板の運

動と比較して遅いため,静止した状態でのみ潜航板の回

転角を計測することができる。よって,運動中のロール

角ゆ,ピッチ角 θ,ヨ一角 ψは,それぞれの角速度

p, q, rの計測値から演算することによ って算出するた

め,潜航板を運動させる前に初期値となる回転角を求め

ておくことが必要である。そこで,理事航板の実験を始め

る前に,潜航板の全長方向である X2軸方向と水槽の流

れ方向である Xl軸方向が平行となるような状態で,す

なわちヨ一角ψが Oとなるように静止させて,ロール

角ゆ,ピ ッチ角。の初期値を計調IJした。その後,潜航板

を観測水路内に入れて,流水中での運動計測を行った。

3. 実験結果および考察

道糸張力Tの測定値には,常時5Hz以上のノイズ成分

が含まれていた。三分カ計,アンプ, A/D変換器を接

続し,張力の測定をしていない状態でも同様なノイズ成

分が検出されたため,潜航板に作用する道糸張力とは関

係のないノイズ成分として考えた。そのため,道糸張力T

の測定値から 5Hz以上のノイズ成分を数値フィルターで

除去した。このようにしてノイズ成分を除去した道糸張

(Z)@O@OL甲

CO一叫E@ト

T a

T a

T M

-40 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0

Elapsed time (s)

Fig. 4 Relationship between the tension force and elapsed time.

(E)

'

a

v

a

'

s

z

j

!

?

!

!

-O

白、。

Z

、4z

i

j

j

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J

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2

E

:

-3ik内包摂辺

li--iiIllit--i

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断。

4321sdJza40ρAMtsρ

000

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4

ざ-ES晋53入

X35ZE--B〈

Elapsed time (.)

Fig. 5 The acceleration of the X2 and Y2 direction of the trolling depressor.

力Tの結果をFig.4に示す。Xl軸方向に作用する張力Tx1は,軸の方向と逆方向であるために負となる。Tx1,Ty1, Tzl

は,すべて周期的に変化しており,周期はそれぞれ約

0.71秒, 1.42秒, 0.71秒であった。振幅の大きさはTx1が

最も大きく ,-32.24--9.70Nの範囲で変化してい

た。Ty1,Tzlはそれぞれ:t2.l6N, 3.43-9.60Nの範囲で

変化していた。ここで,前報4)で考案した解析方法と同

様の方法で,結着点C2の軌跡の推定を行い,Yl軸方向

の振動運動と潜航板の加速度,回転角との関係を考察す

る。

X2' Y2輸方向に作用する加速度 U,Vの変化を結着点

C2の運動軌跡の Yl軸成分と併せてFig.5に示すo X2' Y2

軸方向の加速度u,iJ は正と負の値を交互に繰り返してお

り,周期はそれぞれ約0.71秒, 1.42秒であった。Y2軸方

向の加速度 bの振幅は,x2軸方向の加速度uの振幅と比

べて大きく ,:t1.3g (g:重力加速度)で変化している。

潜航板は流れに対して垂直な方向,すなわち y1i紬方向

の振れ回り運動を繰り返しているために,X2輸方向の

加速度 Uと比べて Y2軸方向の加速度 Uが大きくなった

ものと考えられる。Y2軸方向の加速度 UがOとなる直前

で,X2軸方向の加速度Uが負の値から正の値に変化して

いる。潜航板がYl軸方向の往復運動を繰り返す中で,

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89 データロガーを用いた運動中の潜航板の姿勢測定

250

2∞ 150

100

50

O -5d!10

-1∞ ー150

-2∞ -250

(叫¥国告)主oo-SL同一コ凶C〈

;il パ~ vl 印。!MfV11F←----u

/~ 1/1 4神/ や 1入υFY戸

{ぞE)主SZ〉

Elapsed time (s)

The roll, the pitch and the yaw angular velocity of the trolling depressor.

Fig.7 Elaps.d tim. (.)

The velocity of the X2 and Y2 direction of the trolling depressor.

Fig.6

The roll, the pitch and the yaw angle of the

trolling depressor.

Fig.8

-l1.6deg/sと小さいことがわかる。波形で比較すると,

pとrはほぼ類似した波形となっており ,rの振幅がや

や大きい分,波形の山と谷が尖った形をしているo pの

波形の山と rの谷 rの波形の山と pの谷がほぼ一致し

ていることから,逆位相になっていることがわかる。q

の波形は,p, rの波形と異なっており ,負の値から正

の値へ増加するときには急激に変化しており,その後,

緩やかに減少する傾向がみられる。pが負から正に rが

正から負に変化した後に,また,pが正から負に rが負

から正に変化した後に,qが負の値から正の値へと増加

している。

この角速度の結果を経過時間で積分することにより,

ロール角ゆ,ピッチ角θ,ヨ一角ψを算出した。その結

果をFig.8に示す。なお,積分するときに必要なロール

角φ,ピッチ角θ,ヨ一角ψの初期値には,回流水槽内

に潜航板を入れる前に水槽の流れ方向と平行に静止させ

たときの値を用いた。結着点C2の運動軌跡と比較する

ため,YI軸方向の変位量も同様に示した。

ロール角φ,ピ ッチ角 8,ヨ一角 ψは,それぞれ土

42.6', -1.7'-1.4', :!: 42.2。の範囲で周期的に変化してい

た。ロール角。,ピッチ角8,ヨ一角 ψの周期は,それ

その方向を変化させるときに,すなわち +Y2軸方向か

らーY2軸方向へ -Y2軸方向から +Y2軸方向へ変化す

るときに,潜航板は X2軸方向に加速する運動をしてい

る。

この図の縦の点線は,結着点C2の変位量のYI軸成分

が最大,最小,およびOとなるところを示している。X2

軸方向の加速度uは,結着点C2の変位量の YI軸成分が

最大,最小となるあたりで,負から正へと変化している。

このことは,結着点C2の振動運動において,方向転換

をして振動の向きを変化させるときに,潜航板は X2軸

方向に加速する運動をしていることを示している。一方,

Y2軸方向の加速度 uは,結着点C2のYI軸成分が最大値

から Oとなるとき,および最小値から Oとなるときの聞

で,符号が変化している。すなわち,結着点C2の振動

運動の方向が変化する前に,潜航板自身が回転すること

によって方向転換をして,Y2軸方向の加速度。の向きを

変化させていることがわかる。

この潜航板の X2'Y2軸方向に作用する加速度 U,uの

結果を経過時間で積分することにより,潜航板の速度

U, Vを求めた (Fig.6)。回流水槽内の流速が1.l0m/sに

おいて,潜航板の X2軸方向の速度uは,ほぼ一定で約

0.91m/sとなっている。潜航板の Y2軸方向の速度 U

は,:!:0.32m/sの範囲で変化しており X2軸方向の速度

Uと比較して約 3分の 1以下となっている。潜航板の結

着点C2の変位は YI軸成分が最も大きいが,速度成分で

はX2輪方向の速度 Uが最も大きくなっていることがわ

かる。

次に,ロール角ゆ,ピッチ角θ,ヨー角ψの角速度で

ある p,q, rの変化をFig.7に示すo p, q, rはすべて周期

的な変化を繰り返している。p,rの周期は,約1.42秒で

あり,それぞれ:!:183.7deg/s, :!: 210.2deg/sの範囲で変化

している。qの周期は約0.7秒で,ロール角φ,ヨ一角ψ

の角速度と比べて,周期が約半分であり,範囲も -16.3

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90 水産工学 Vol.44 NO.2

ぞれ約1.42秒, 0.71秒, 1.42秒であった。角速度の結果

と同様に,ロール角ゆとヨ一角 ψの変化は逆位相で,波

形が類似している。3つの波形の中でピ ッチ角θの変化

だけが小さく,ほほO。で推移している。また,他の 2つ

の波形と比較して,周期が約半分になっており,ロール

角ゆ,ヨー角ψの半周期分とピッチ角。の 1周期分が,

ほほ一致している。

この図の縦の点線は,結着点Czの変位量のYl軸成分

が,最大, 0,最小となるところを示している。結着点

Czの変位量の Yl軸成分が最大,最小となった後に,潜

航板のロール角ゆ,ヨー角ψの符号が変化している。す

なわち,結着点Czの変位量の運動の方向が変化した後

に,潜航板のロ}ル角ゆ,ヨ一角ψの向きが変化してい

ることがわかる。また,結着点Czの変位量の Yl軸成分

の絶対値が最大となる直前で,ロール角ゆ,ヨ一角ψの

絶対値が最大となっている。このように,潜航板の 3つ

の回転角の中で,ピッチ角OはほぼOで,その変化は微

小であり,ロール角φ,ヨ一角ψの2つの回転角は大き

く変化させながら振れ回り運動をしていることが明らか

となった。

本研究では,潜航板の水中運動を測定するために開発

した運動計測ユニットを用いることによ って,潜航板の

回転角,回転角の角速度,加速度の変化を定量的に把握

することができた。このように,運動計調uユニ ットを用

いることによって,これまで把握することができなかっ

た遼動中の潜航板の加速度,角速度の変化を把握するこ

とができた。同時に道糸張力を測定することで,前報4)

で考察した方法から結着点Czの変位量を求め,結着点

Czの運動軌跡と潜航板の姿勢の関係を明らかにするこ

とができた。

しかしながら,本研究では潜航板の運動を計測するた

めに使用した運動計測ユニットの大きさの制限から,実

物の潜航板に内蔵させることはできなかったために,2

倍の大きさを持つ拡大模型を製作して,その中に運動計

測ユニットを内蔵させた。運動計測ユニットを内蔵させ

たことにより,潜航板の質量が変化して実物の潜航板よ

りも比重が大きくなってしまった。この問題を解決し,

さらに実際の操業における潜航板の運動を把握するため

には,運動計測ユニットのサイズおよび質量を小さくし

て,潜航板にセンサを内蔵させることによる影響を可能

な限り小さくすることが必要である。

本研究で使用した運動計測ユニットを開発する以前

は8),質量がさらに大きいセンサを使用していたため,

センサを内蔵させた状態の拡大模型の質量は2430gで比

重が0.49であった。その拡大模型を使用して海上で計測

をした結果,道糸長さが10m-30mに変化しでも,また

曳航速度が 2ノットから 4ノットに変化しでも,潜航

板の運動周期に変化はなく1.4秒で一定であった8)。この

ことから,比重が0.49から0.48へと変化しでも,また,

道糸の長さが変化しでも,潜航板の運動周期には変化が

生じないと考えられる。道糸の一端を固定して,他端に

おもりを取り付けた単振り子運動では,道糸の長さによ

って運動周期が変化するが9),潜航板の運動では,道糸

の長さによって運動の周期が変化することは見られない。

単振り子運動では,おもりに重力による力と道糸張力の

2つの力が作用し,道糸張力の大きさは変化するが,重

力による力はその大きさも向きも変化することがない。

一方,潜航板の振れ回り運動では,本研究で明らかにな

ったように,潜航板はピッチ角θ,ロール角。,ヨ一角

ψを変化させながら運動をしているために,流水中から

受ける力の大きさや向きが時々刻身と変化している。こ

れは, 単振り子運動と潜航板の運動の最も異なる点であ

る。このことから,潜航板の振れ回り運動と単振り子運

動とは異質なものであると考えられる。

今後は,本研究で得られた潜航板の運動状態の結果を

基に,潜航板の振れ回り運動のメカニズムを解明するこ

とで,運動制御へとつなげたいと考えている。さらに,

潜航板の運動と擬餌針の運動の関係を明らかにした上で,

擬餌針の運動と漁獲される魚種やサイズの関係が解明で

きれば,対象魚に応じた運動状態に潜航板を制御できる

可能性がある。

参 考 文 献

1) 金田禎之:日本漁具漁法図説,成山堂書庖,東京,

pp.491-513, 1977.

2) 九州・山口水試漁業分科会編.西日本海域におけ

る曳縄漁業,恒星社厚生閣,東京, pp.1-126,

1977.

3) 大洋漁業:日本の漁具と漁法,東京, pp.115・145,

1984.

4) 江幡恵吾・藤田伸二 ・不破茂・松村一弘:道糸

張力から推定した潜航板の運動軌跡,水産工学,

38, pp.239-245, 2∞2. 5) 村田政隆 ・松村一弘・宮原則行:角速度センサに

よる角度計測技術の実験的検証,北海道立工業技

術センター研究報告, 8. pp.23-30, 2∞4.

6) 中川憲治.工科のための一般力学,森北出版,東

京, pp.148-151, 1996.

7) 江守一郎 ・斉藤孝三 ・関本孝三 :模型実験の理論

と応用(第三版),技法堂出版,東京, pp.95・96,

2000.

8) K. Ebata, S. Fuwa, S. Fujita. K. Matsumura and

M. Murata : A method for the Movement of

Trolling Depressor Estimated by Using Data-

Logger. Contributions on the Theory of Fishing

Gears and Re!ated Marine Systems. 2. pp.285-

295. 2∞1. 9)戸田盛和:力学,岩波書庖,東京, pp.40-43, 1998.