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Application Note ポリウレタン重合における 残留イソシアネートの制御 イソシアネートは、コーティング剤・発泡フォーム・接着剤・断熱材などに用いられるポ リウレタンにとって最も重要な原料の一つです。世界的な需要拡大に伴い、イソシアネー ト市場は2019年までに39億ドルに達すると予想されています。生産量が増加したこと で、製品の品質に関する懸念と共に、残留イソシアネートの人体に対する影響が心配さ れるようになってきました。米国環境保護庁は残留イソシアネートの人体暴露への懸念 に対応し、2015年に有害物質規制法を拡張、新製品における残留イソシアネート量に制 限を設けました。 イソシアネート反応の制御は、まずプロセスを理解するところから始まります。現在行わ れているオフラインサンプリングによる残留イソシアネート(NCO)濃度分析法には以 下のような問題点があります。 オフライン分析では結果が出るまでに時間がかかり、リアルタイムな判断が不可能な ため、製品品質にばらつきが生じ、また生産能力の低下につながる 連続性のあるデータが取れないため、プロセス中の各時点における情報が不足してい イソシアネートの暴露による人体へのリスクが増大 上記の問題は、プロセス分析技術(PAT)としての in situモニタリングによって解決されま す。具体的には、選択性および感度の両面から、全反射測定(ATR)センサーを装着したin situ 中赤外分光光度計(ReactIR TM )が最適な測定装置です。インライン式の分光光度計 は反応開始・進行挙動・反応率・中間体(高反応性・短寿命・単離困難)の生成、そして 終点をリアルタイムにモニターすることに特化した装置です。サンプリングしオフライン分 析をしなくても、イソシアネート・ポリオール・副生成物・プレポリマーの濃度を反応条件 下で定量できます。結果として工場とラボにおける製品の品質規格と作業員の安全を担 保し、環境規制にも対応できます。 以下の例は、ジイソシアネートとポリオールの反応です(Scheme 1.)。製品中の残留イ ソシアネート量には、反応温度・原料の品質・供給速度・反応速度・反応時間を含む、複 数の主要なプロセス条件が影響する可能性があります。 Scheme 1. ジイソシアネートとポリオールの反応によるプレポリマーの生成

ポリウレタン重合における Application Note 残留イソシア …...Application Note ポリウレタン重合における 残留イソシアネートの制御 イソシアネートは、コーティング剤・発泡フォーム・接着剤・断熱材などに用いられるポ

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    eポリウレタン重合における 残留イソシアネートの制御

    イソシアネートは、コーティング剤・発泡フォーム・接着剤・断熱材などに用いられるポリウレタンにとって最も重要な原料の一つです。世界的な需要拡大に伴い、イソシアネート市場は2019年までに39億ドルに達すると予想されています。生産量が増加したことで、製品の品質に関する懸念と共に、残留イソシアネートの人体に対する影響が心配されるようになってきました。米国環境保護庁は残留イソシアネートの人体暴露への懸念に対応し、2015年に有害物質規制法を拡張、新製品における残留イソシアネート量に制限を設けました。

    イソシアネート反応の制御は、まずプロセスを理解するところから始まります。現在行われているオフラインサンプリングによる残留イソシアネート(NCO)濃度分析法には以下のような問題点があります。• オフライン分析では結果が出るまでに時間がかかり、リアルタイムな判断が不可能なため、製品品質にばらつきが生じ、また生産能力の低下につながる

    • 連続性のあるデータが取れないため、プロセス中の各時点における情報が不足している

    • イソシアネートの暴露による人体へのリスクが増大

    上記の問題は、プロセス分析技術(PAT)としてのin situモニタリングによって解決されます。具体的には、選択性および感度の両面から、全反射測定(ATR)センサーを装着したin situ 中赤外分光光度計(ReactIRTM)が最適な測定装置です。インライン式の分光光度計は反応開始・進行挙動・反応率・中間体(高反応性・短寿命・単離困難)の生成、そして終点をリアルタイムにモニターすることに特化した装置です。サンプリングしオフライン分析をしなくても、イソシアネート・ポリオール・副生成物・プレポリマーの濃度を反応条件下で定量できます。結果として工場とラボにおける製品の品質規格と作業員の安全を担保し、環境規制にも対応できます。以下の例は、ジイソシアネートとポリオールの反応です(Scheme1.)。製品中の残留イソシアネート量には、反応温度・原料の品質・供給速度・反応速度・反応時間を含む、複数の主要なプロセス条件が影響する可能性があります。

    Scheme 1. ジイソシアネートとポリオールの反応によるプレポリマーの生成

  • 2 Application NoteMETTLER TOLEDO

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    e ReactIRプローブを反応槽に直接挿入し、反応の最初から最後までを連続測定しました。Figure1は、60秒ごとに採取したIRスペクトルを、三次元グラフでプロットとしたものです(奥行きが時間を表す)。原料物質(ジイソシアネート)が減少すると同時に、生成物のプレポリマーの増加が見て取れます。

    Figure 1からわかるように、反応系中の各成分は別々のピークとして容易に検出できました(2270cm-1は-NCO基、1740cm-1はプレポリマーの-C=O基です)。Figure 2は各反応成分の相対濃度の時間変化をグラフ化したもので、反応の進行挙動がわかります。ここから反応機構を考察でき、また反応速度を計算できます。反応終点が反応開始から三時間程度であることも、精度よく特定できます。

    NCO濃度が規格内であるかを確認するために、サンプルを採取し、残留NCO濃度を滴定法[ASTMのD2572-97(2010)]にて測定しました。次にFigure3に示したように、滴定法の結果を、in situ FTIRによるジイソシアネート成分の吸光度変化に相関づけました。生成物中には未反応の-NCO基が残存しており、ジイソシアネート濃度は0に達しません。

    Figure 1. Scheme1の反応を追跡した三次元グラフ。X軸は波数(cm-1)、Y軸は吸光度、Z軸は時間(hour)

    Figure 2. 各反応成分のピーク強度の時間変化

    Figure 3. ジイソシアネートの吸光度変化と滴定法の測定値を統合し、残留NCO濃度を確認

  • メトラー・トレド株式会社 オートケム事業部Tel:03-5815-5515Fax:03-5815-5525Email:[email protected]

    製品の仕様・価格は予告なく変更することがありますので、あらかじめご了承ください©05/2016Mettler-ToledoK.K

    まずはReactIR測定値の検証と、収率および純度がスペックを満たしていることを確認した上で、図2のような吸光度のリアルタイムトレンドを用いて、反応中の各成分毎にプロセスを制御するための吸光度の限界値を設定できます。実製造中、吸光度のトレンドが限界値から逸脱すると、in situ FTIRが即座に検出しますので、技術者や現場作業者は製造途中にリアルタイムで必要な調整が行えます。リアルタイムに有用な情報を得て、スペックアウトとなるバッチを減らす、または完全に無くすことによって生産の高効率化、品質の安定化をもたらし、コスト削減することが可能です。

    プロセスの理解:百聞は一見にしかず in situ FTIRReactIRでイソシアネート反応をモニタリングするということは、製造現場やラボ実験において、反応中に何が起きているのかを直接「見る」ということです。今起きていることがわかれば、プロセス条件を素早く調整、制御できます。反応に関する情報をより多く得ることで、研究者や技術者、工場のオペレ ーターは迅速に最適化が行えるとともに、より堅牢で品質の高いプロセスをスケールアップできます。また作業環境の安全性を高め、残留NCO濃度を基準値内に収め、さらに製造能力の向上とコスト削減に寄与します。

    参考文献

    1. IsocyanateMarketworth$38,729Millionby2019,http://www.marketsandmarkets.com/PressReleases/isocyanate.asp

    ReactIR 45PReactIR 45mReactIR 15

    www.mt.com/ReactIRFor more information