27
フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と事例の最新動向について 2016年8月

フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランス・英国の水道分野における官民連携制度と事例の最新動向について

2016年8月

Page 2: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

目次1.フランス

フランスにおける地方自治の枠組み

フランスにおけるPPPの枠組みの整理

フランスにおける水道事業の枠組み

水道事業体に対する個別調査を通じた分析

法・会計・税務上の課題、金融実務や市場慣行に関する補足

近年の動向

2.英国

英国における水道事業の枠組み

水道事業会社に対するヒアリング調査を通じた分析

市場関係者による規制の枠組みに対する評価

近年の動向

(参考)調査においてヒアリングを実施した企業情報

©Cabinet Office, Government of Japan、 Development Bank of Japan Inc.、 Japan Economic Research Institute Inc. 2016本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引等を勧誘するものではありません。本資料は内閣府・㈱日本政策投資銀行、㈱日本経済研究所が信頼に足ると判断した情報に基づいて作成されていますが、内閣府・㈱日本政策投資銀行、㈱日本経済研究所はその正確性・確実性を保証するものではありません。本資料のご利用に際しましては、ご自身のご判断でなされますようお願い致します。本資料は著作物であり、著作権法に基づき保護されています。本資料の全文または一部を転載・複製する際は、著作権者の許諾が必要ですので、㈱日本政策投資銀行、㈱日本経済研究所までご連絡下さい。著作権法の定めに従い引用・転載・複製する際には、必ず、『出所:内閣府・㈱日本政策投資銀行、㈱日本経済研究所』と明記して下さい。

Page 3: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

調査の概要

背景・趣旨 • 近年、財政再建と成長戦略等実現のため、政府を挙げてPPP/PFI推進施策を展開中 • コンセッション(公共施設等運営権)の推進はその大きな柱の1つであり、「PPP/PFI推進アクションプラン」において、空港・道路・上下水道等を案件形成の重点分野として取り組み

• そのような中、本件は、「日本再興戦略2016」にも記載されている通り、水道分野におけるコンセッションの導入の可否を検討する際に必要な情報を地方公共団体等へ提供するため、フランス及び英国における最新の制度設計や先行事例の収集・分析を実施したもの

調査内容・方法 • フランス及び英国の水道分野において活用されている官民連携スキーム(フランスにおけるコンセッションやアフェルマージュ、英国における民営化スキームや規制の枠組など)に係る最新の制度設計や具体プロジェクト事例・課題等について、文献調査及び現地ヒアリング調査を実施

現地ヒアリング調査メンバー内閣府 福田隆之大臣補佐官内閣府民間資金等活用事業推進室内閣官房日本経済再生総合事務局厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部水道課 水道計画指導室㈱民間資金等活用事業推進機構㈱日本政策投資銀行㈱日本経済研究所­

現地ヒアリング調査期間2016年6月13日~17日

1

Page 4: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

1. フランス

2

Page 5: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランスにおける地方自治の枠組み

フランスでは1982年3月、「コミューン、デパルトマンおよびレジョンの権利と自由に関する法」の制定により、1986年までに300もの権限と地方自治の発展に関する法令が発せられ、地方分権への流れが加速していった

2002年には国道(28,000㎞)の県への移管をはじめ、国防外務以外の全ての省庁に関係する大規模な第二次分権の開始、さらに2003年には憲法が改正され、第一条に「組織は分権されている」旨が明記されることになり「地方分権」が同国の地方自治の特徴の一つとして確立された

同国における地方公共団体はレジョン(州)、デパルトマン(県)、コミューン(市町村)の階層に分かれている。但し、これらの階層には上下関係は無く並列関係にあることに加え、各階層の公共団体に一定の権限が委譲されている

行政は政治主導であり、議員により選出された議長が行政トップを兼ね、かつ公共団体間に上下関係がないため、例えば知名度の高い議員や国務大臣クラスが議長になる場合、地方の発言力が高まることもある

コミューンは国内に36,680の団体が存在しているが、行政サービスの効率化などを目的としたEPCI(コミューン間公共組織)を設立することができ、約4,500団体が存在している

レジョン(いわゆる「州」)…27団体 第二次世界大戦後に国土開発産業整備の単位として創設されたもの デパルトマン(県)の範囲が小さいことを背景に「地方」が公共団体として組織化されたもの 1969年に行政公共事業体になり、82年に公選の州議会開設、86年に州議会議長が首長となる地方公共団体となった

デパルトマン(いわゆる「県」)…101団体 中心都市から馬で1日で回れる地域を単位として創設された組織 地方分権前は官選県知事が支配をしていたものの、地方分権後は県議会議長が首長となり、組織構造が変化。中央官庁の影響力は官選の「地方長官」に留まっており、長官の権限も法令チェック等であり限定的

コミューン(いわゆる「市町村」)…36,680団体 カトリックの教区を起源とする「共同体」 コミューン間で(人口規模等による)原則として上下関係は存在しない。(但しパリ、リヨン、マルセイユ等の大都市は例外あり)

参考文献:㈶自治体国際化協会(2009)「フランスの地方自治」、国土交通省国土政策局ホームページ (http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/international/spw/general/france/index.html )

フランスにおけるPPPの枠組み フランスでは古くから官民連携の土壌が発展しており、19世紀以降、水道や鉄道分野などで民間事業者への委託が行われた

フランスにおけるPPPは、コンセッション,アフェルマージュ,レジー・アンテレッセ等に代表される「公役務の委任(DSP:Délégation deService Public)」と、近年英国におけるPFI手法に倣って導入された「官民協働契約(CP:Contrat de Partenariat)」が存在しており、DSP手法の契約(サービス提供のみのアフェルマージュ契約)は累計で1万件以上存在すると言われている

フランスにおけるPPPの枠組み

公役務の委任(D SP) 官民協働契約(C P)及び類似契約

概要1993年のサパン法によって導入された、私人(私法人を含む)に公役務の遂行を委ねるために取られてきた伝統的な種々の契約を包摂する概念

2004年6月 17日のオルドナンス*により、英国の PFI手法に倣って導入されたサービス購入型の契約類型が規定される

業務範囲 (設計、建設)、維持管理、運営 設計、建設、維持管理、運営

支払 利用料金 公的主体からの支払、又は公的主体からの支払と利用料金の混合

リスク移転 あり あり

手法(例)コンセッション( concession de service public)アフェルマージュ( affermage)レジー・アンテレッセ( régie intéressée)ジェランス( gérance)

パートナーシップ契約(C P)行政財産賃借権(B EA)病院財産賃借権(B EH)行政財産一時占有許可(A OT)買戻条項付賃借権(L OA)

*オルドナンス(授権法律に基づく行政立法):立法の領域で行政権が制定することができる命令の一種

参考文献:EPEC(2012) ”France PPP Units and Related Institutional Framework”、MAPPP(2007) “PPP:the French experience”木村琢磨(2005)「フランスにおけるPFI型行政の動向-公私協働契約を中心にー」季刊行政管理研究

中村義孝(2011)「フランスの裁判制度(1)」立命館法学2011年1号(335号) 3

Page 6: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランスにおけるPPPの枠組みの整理( DSPの類型) DSPにはコンセッション、アフェルマージュ等の手法が含まれているが、分類やそれぞれの手法の定義については法令上も明確ではなく、判例・学説に委ねられている

フランスにおける水道事業分野ではアフェルマージュが最も一般的に用いられているが、コンセッションや複数方式を組み合わせた形も用いられている

DSPの類型

コンセッション 契約内容に建設を含まない場合も 対象:水道・電力・ガス・鉄道など

④利用料金

民間

利用者

③公共サービ支払 スの提供

①施設の整備契約

公共

②管理・運営

レジー・アンテレッセ 受託者は公共から収入を得る 実績に応じた報酬が設定されている場合もある

利用者③公共サービスの ④利用料金

提供 支払⑤事業対価支払

民間 公共②管理・運営 契約 ①施設の整備

アフェルマージュ コンセッションより契約期間は短期化 近年フランスでは主流に 日本の「コンセッション」と類似

②管理・運営契約

公共①施設の整備

④利用料金

民間

利用者

③公共サービ支払 スの提供

*大規模修繕がどの程度含まれるかは契約によって異なるが、新設があれば費用に拘わらずコンセッション、既存の施設であればアフェルマージュとするという基本的な考え方がある

ジェランス 受託者は公共から収入を得る 但し、契約に基づく一定額・単価に基づく収入のみ

レジー・アンテレッセに比し民間の裁量が少ない

利用者

③公共サービスの ④利用料金提供 支払

⑤事業対価支払

民間 公共②管理・運営 契約 ①施設の整備

*2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的(参考文献:EPEC(2012)「France PPP Units and Related Institutional Framework」、中村義孝(2011)「フランスの裁判制度(1)」立命館法学2011年1号(335号))

フランスにおけるPPPの枠組みの整理(コンセッションの歴史) フランスでは、古くから「公役務の特許」(コンセッション)という行政契約の手法を用いてインフラの整備・運営等を行ってきた。この「公役務の特許」等の公共サービスの委託契約では、官公庁契約における厳格な入札手続きとは異なり、手続的な制約を受けない随意契約によって契約が締結されていたが、1993年に制定されたサパン法等によって、公開性・競争性の確保と交渉可能性の留保の併存を図った手続きが導入された

2016年4月以降、サパン法における公役務委任の関する条文は廃止され、新たな法的枠組みにより「コンセッション契約」が規定された「コンセッション」方式の導入に関する歴史的な経緯

運河・橋への導入。 19世紀頃に鉄道、地下鉄、水道、発電所等(主に収益事業性を有する公役務)、 20世紀には道路、市外電車、廃棄物処理、地域空調等(主に非収益事業的な公役務)へ導入16世紀以降

1993年

通称ムルセフ法:契約手続きの適正化と透明性、並びに一定の契約を公募し競争に付すことに関する法律の成立2001年

公共工事・物品・サービスの契約手続に関する EU指令(D IRECTIVE 2004/18/EC) • サービスの対価として当該事業の運営権を付与するものを「サービスコンセッション」と分類2004年

2004年のE U指令に準拠する形で、公共工事コンセッション契約に関して、オルドナンスで規定(2009年7月 15日付オルドナンス 2009-864号)2009年

コンセッションの契約手続に関する EU指令(D IRECTIVE 2004/18/EC)(コンセッションに関する初の包括的な指令)2014年

オルドナンス No2016-65及びデクレ **No2016-86により、サパン法における公役務の委任に関する条文廃止・「公役務の委任」の概念に包摂される種々の契約(D SP)を新たに「コンセッション契約」として規定(2016年 4月1日から適用)

2016年

通称サパン法:汚職の防止並びに経済生活と公的手続における透明性に関する法律の成立 • フランス実定法規上はじめてD SPに関する規制法規が設定公共工事の契約手続に関する EU指令*(C OUNCIL DIRECTIVE 93/37/EEC) • 建設工事の対価として当該施設の運営権を付与するものを「公共工事コンセッション」とし公示のルール等を設定

* EU指令:EU法は第1次法(条約など)と第2次法(法など)に分類され、第2次法はさらに①規則、②指令、③決定、④勧告・意見に分類される。そのうち指令は『指令の中で命じられた結果についてのみ、加盟国を拘束し、それを達成するための手段と方法は加盟国に委ねられる。指令の国内法制化は既存の法律が無い場合には新たに国内法を制定・追加・修正することでなされる』もの 1

**デクレ(décret):共和国大統領及び首相が行う一方的な行政行為である命令の総称 2

1)総務省ホームページ「世界情報通信事情 EU」(http://www.soumu.go.jp/g-ict/country/eu/)、2)中村義孝(2011)「フランスの裁判制度(1)」『立命館法学2011年1号(335号)』pp8参考文献:亘理格(2002)「フランスのPFI的手法」『会計検査研究№25(2002.3)』pp119-pp139、1993/2004/2014年 EU指令(http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:31993L0037&rid=6、http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32004L0018&rid=1、http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32004L0018&rid=1)、CLAIR(2008)「フランスにおける基礎自治体の運営実態調査」p8[2008/10/10]、木村琢磨(2005)「フランスにおけるPFI型行政の動向-公私協働契約を中心にー」季刊行政管理研究、PFI/PPP推進協議会(2010)「コンセッションとは何か」 4

Page 7: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランスにおける PPPの枠組みの整理 サパン法は汚職防止を目的として1993年に成立した法律であるが、その一環として、フランスにおいて初めて「公役務の委任(DSP)」の枠組を規定した

但し、2014年2月のEU指令に基づくフランス法への書き換えにより、DSPは新たに「コンセッション契約」として規定され、2016年4月1日から係る枠組みが適用された。なお、サパン法の公役務の委任に関する条文は削除された(オルドナンスNo2016-65 [2016/1/29]、デクレNo2016-86 [2016/2/1]による)

当該規定に伴い、従前DSPは設計・建設工事を伴う「コンセッション」と事業権契約の「アフェルマージュ」等に分かれていたが、これらは新たに「コンセッション契約」に一本化され、サパン法で定めていた契約締結までのプロセスも多少変更されたものの、関係者に対するヒアリングにおいて実務上への影響は殆ど発生していないとの回答を得た

これまでサパン法が定めていた契約締結のプロセス* 法律の変更による2016年4月以降の枠組み

⑦議事機関**への提案※地方公共団体の場合は、議事機関の承認が必要

契約締結

①委任の基本部分に関する決定※国の場合は議会は関与しないが、地方公共団体の場合は議事機関の議決が必要

②公募の為の事前公告※競争性を有する契約申込みが複数個提出されるよう公告し、候補者から応募調書を受領

③候補者リストの作成※【競争環境の維持】応募調書に従って候補者の能力を精査、見積提出要請先を選定

④契約条件明細書の送付及び見積書の提出※契約の諸条件を提示し、候補者から見積書を受領

⑤見積書の開封※地方公共団体の場合、開封委員(首長+議員3~ 5名)により、内容を評価される※ヒアリングでは、首長は開封委員の決定に係わらず事業者を選定することが可能だが、実務上は合理的な理由がない限りにおいて難しいと回答があった

⑥見積書を提出した各事業者との自由な交渉に基づく事業者選定※【適切妥当な受任事業者を選定】候補者との交渉に大幅な自由が認められている

2016年4月1日までの行政契約類型

***公役務の特許:鉄道や高速道路、上下水道などの事業を、日本の特殊法人や独立行政法人に相当する公施設法人(établissements publics)や民間企業に委ねる方法。1990年代以降は、この公役務特許が“公役務の委任”に変容して官

※ 黄色枠は特徴的なプロセス 公庁契約と共に行政契約の2大類型をなしている

コンセッション(設計・建設工事・ファイナンスを伴う )・公共役務・ 2009/7/15オルドナンス No2009-864

公役務の委任-公役務の特許* **(建物や施設の設置を必要としない)-アフェルマージュ-レジー・アンテレッセ

2016年4月 1日以降の行政契約類型コンセッション契約

工事(t ravaux= public works)

役務(s ervices)→公役務の委任

* 2016年の法改正により手続の一部に変更あり 参考文献: 亘理格(2002)「フランスのPFI的手法」『会計検査研究№25(2002.3)』p119-p139** 議事機関とは地方公共団体が委託者の場合、概ね地方議会を指す 出典: 【右図】Institut de la gestion déléguée (2016) ”LES CONTRATS DE CONCESSION”p2をもとに作成

フランスにおける水道事業の枠組み(概要) フランスにおける水道事業は地方公共団体が責任(上水:取水・浄水処理・供給など、下水:下水収集、汚水処理など)を有しているものの、オペレーターは公共・民間のいずれでも可能な枠組みとなっている

地方公共団体は上下水道事業を自ら運営するか民間事業者と契約するか、どちらを選択するかは自由である。水道供給にあたっては、殆どが広域行政組織として他の市町村とグループを形成しており、36,680コミューンに対しコミューンに対し、公共水道・衛生サービスの運営契約締結数は10,367件(2010年時点)となっている。なお、「Water pays for Waterの原則」により、水道事業では、運営主体が公共であれ民間であれ、収支はバランスがとれたものでなければならないと規定されている

水道事業体のうち上水:約65%、下水:約50%が民間委託を行っており、委託先は上位3社(Veolia、Suez、Saur)で寡占状態(2013年時点)。なお委託に当たってはアフェルマージュ方式を用いることが主流と言われているが、コンセッションやレジー・アンテレッセ方式が用いられることもある

上水道事業のシェア 下水道事業のシェア(2013年)

Veolia (2013年)

34% 公営 公営 Veolia 47%34% 21%

Suez その他民間21%事業者­

1%

Suez その他民間Saur­ 19% 事業者

Saur 10%12% 1%

民間委託の合計:53%民間委託の合計:66%

(上下水道事業共に供給人口ベース) 参考文献:(公財)水道技術研究センター(2013)「フランスの公共水道サービス(その3)」2013年6月21日p2

(出典:BIPE/FP2E(2015) 「Les services publics d’eau et d’assainissement en France, Sixième édition Octobre 2015」p92)

[補注]Veolia及びSuezの概要は末尾参照 Veoliaは、1853年にリヨン市においてジェネラル・デ・ゾー社として設立。フランス国内初の民間水道事業受託会社で、世界的な水メジャーの1社に位置づけられる Suezは、1858年にフランスにて設立。現在は水・廃棄物処理事業を行う会社として、同じく水メジャーの1社として位置づけられる Saurは、1933年にフランスにて設立。水・廃棄物処理事業やインフラ関連事業を行っている 5

Page 8: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

110

130

150

170

4.4

フランスにおける水道事業の枠組み(水道料金・有収水量) フランスにおける水道料金は、1994年を基準とした場合、公営・民間の事業主体ともに、消費者物価指数よりも高い上昇率を示している。これはEUによる環境規制が強化されたこと等に起因するものと考えられるが、EU他国も同様の規制を受けているため、同国の水道料金は相対的には低い。他方、日本の水道料金はほぼ横ばいに推移しており、2014年時点では1990年比で2%下落している

フランスの有収水量は、2006年~2010年まで減少傾向にあったが2011年以降は横ばいで推移している。一方、日本の平均有収水量(用水を含む)は、2006年以降概ね減少傾向である

フランス・日本共に水道普及率は100%近くになっており、両国に大きな差は認められない

フランスの水道料金­ 日本の水道料金 (1994年を100として指数化、2010年以降は推計値) (1990年を100として指数化)

108­115120

124 124 126 127

132 134 138 141

146 151

153 158

100 107

114 122 127

118 117 119 121 125

127 129

133 137

144 148 151

108 110 113 115

120 122 124

128 128 130 133 136

170

100 104 106 106 100

150

130

110 100

106 107 9810510410290 100 90 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 1990 1995 2000 2005 2010 2014

公営 民間 消費者物価指数 水道料金 消費者物価指数

フランスにおける有収水量 日本における平均有収水量(含、用水) 欧州諸国の上下水道の平均料金(2015)(10億㎥) (10億㎥)

4.5 19.5 4.6 19.1 19.2 8 6.67

平均料金(EUR/㎥)18.9 4.2 18.8 18.8 19.0 4.1 6 5.16­ 平均:4.2 4.57 4.51 4.26 4.19 3.77 3.52

4 18.5 18.5 18.4 3.9­ 3.9 3.9 4.05EUR4 18.5 3.8 418.1 2.51 3.8 3.6 3.4

1.35 18.0 2

017.5 2006 2008 2010 2012 2006 2008 2010 2012 2014

(参考)フランスにおける水道普及率:99%(2008) (参考)日本における水道普及率:97.8%(2014)※但し、諸外国と日本では、有収水量の定義が異なるため、比較はできない

出典:【日本】[水道料金](公社)日本水道協会「日本の水道の現状」(http://www.jwwa.or.jp/index.html)、[平均有収水量]総務省「地方公営企業年鑑」、[水道普及率]厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部水道課、【仏】BIPE “Public water supply and sanitation services in France”(Fifth edition March2012)pp.47、“Les services publics d‘eau et d’assainissementen France 2015” pp.64及びpp.68、[消費者物価指数(仏・日)]IMF-World Economics Outlook Databases(2016/4版)、[水道普及率]WHO/UNICEF JMP(2015)

フランスにおける水道事業の枠組み(水道料金の水準)

フランスにおける消費支出に占める水道料金の割合は、2013年時点で0.8%であり、1995年以降大きく変動はしていない。日本における家計の1ヶ月間の消費支出に占める水道料金の割合も、2014年時点で0.7%であり、1975年以降大きく変わっていない

日本とフランスを比較すると、水道料金や事業主体は異なるものの、家計に占める割合としては、大きく乖離しないことがわかる 1995年に制定されたバルニエ法により、水道利用者に対する情報提供のため、上下水道事業について、その運営形態・事業実施期間・段階を問わず、地方公共団体の長または広域事業体の長に対して、料金及びサービス品質に関する年次報告書を提出することが義務付けられており、社会的なモニタリングの枠組みも設けられている。報告書は議会に提出後、一般市民も入手可能となっている

日本及びフランスにおける消費支出に占める水道料金の割合 【参考】水道料金の内外価格差(2014/2時点、円換算)

日本 フランス

1985年 0.6% N/A

1995年 0.6% 0.7%

2005年 0.7% 0.8%

直近 0.7%(2014年 )

0.8%(2013年 )

日本 フランス 英国(東京) (パリ) (ロンドン)

上水道(2 0㎥使用時) 100 170 194

下水道(2 0㎥使用時) 100 243 210

※ 日本の場合は家計の1か月間の消費支出に占める水道料金の割合を示す ※ 調査結果は条件設定や為替レートの変動等により影響を受けている ※ 日本は東京(東京都水道局)、英国はロンドン(Thames Water)、フランスはパリ(パリ市水道局)を対象

※ 2010年時点のフランス家庭における平均的な年間の総支出額は39,000EUR(約451,750円/月)、そのうち327EUR(約3,788円/月)が年間の水道関連支出。一方、2014年時点の日本の消費支出は294,336円/月、そのうち水道料金は2,007円/月(フランス国立統計経済研究所(INSEE)、総務省より)

※ 為替レートはMain Economic Indicators (OECD)の平成26年2月値(英国:1GBP=168.91円、フランス:1EUR=139.37円)を採用

参考文献:(公財)水道技術研究センター(2013)「フランスの公共水道サービス(その4)」p8出典:左表

【仏】BIPE(2012・2015)「Les services publics d‘eau et d’assainissement en France」(1985-2005年の値は2012年次報告書)【日本】(公社)日本水道協会ホームページ「日本の水道の現状」(http://www.jwwa.or.jp/shiryou/water/water.html)右表 6消費者庁ホームページ「公共料金の窓2-3公共料金の内外価格差」(http://www.caa.go.jp/information/koukyou/doukou03.html)

Page 9: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランスにおける水道事業の枠組み(水道事業を監視する枠組み) フランスでは、上下水道事業をEU (規制、専門家の評価及び総合管理)、全国及び地方(資金供与及び監視組織を通じて)の各レベルの組織が監視する体制が構築されている

フランスにおける上下水道事業関係者の関係性

欧州連合(E U)(EU指令など )

政府MEDDE (政策的ガイドラインの策定や立法)

ONEMA(水・水生環境庁)(上下水道事業の監視、など )

(環境・持続可能開発・エネルギー省)

会計検査院など

水機構[A gence de l’eau](主要流域においてコミューン向けの資金供与や投資支援を行う )

コミュ―ンなど(運営方式の選択・オペ 監視機関レーターの監視、投資)

デパルトマンなど(水道の供給責任を負い、管理監督、予算管理、情報の透明性

民間事業者 公団等

の確保に努める )

出典: BIPE(2012・ 2015)「 Les services publics d‘eau et d’assainissement en France」(公財)水道技術研究センター (2013)「フランスの公共水道サービス(その 3)」 p4をもとに作成

フランスにおける水道事業の枠組み(水機構:A gence de l’eau) フランスでは水機構(Agence de l’eau) による流域管理が実施されている。同機構は河川流域に応じた6地域において其々の管理下の水道事業の監視を行うと共に、水道料金に包含される環境税を原資に水道事業に関係するインフラ整備等に対する補助金の交付を所管する

水機構の資金は、消費者に課される環境税収入(排水賦課金)で賄われている。 徴収された資金は、地方公共団体、企業、農家による投資に対する財政支援のため、水機構によって再分配される

水機構の概要 水機構の経済的支援の内訳

設立 エコロジー・持続可能開発・エネルギー省下にある国の公的機関として1964年の水法に基づき設立 資源の定量的

マネジメント 機能 汚染者/利用者の負担原則に従い、取水及び水汚 農業汚染対策 7%

染に係る利用者から(間接的に)料金を徴収 6%

目的 ① 汚染の軽減 水環境の品質② 供給水の品質保証 の復元 ③ 水利用を伴う経済活動の持続的発展の促進 都市生活排水④ 水環境や湿地の保護

10% の処理 ⑤ 治水対策 産業汚染対策 56%⑥ 廃水処理及び飲料水に関する都市部と農村部の連携促進 6%

⑦ 人材の連携と企業の国際化の促進⑧ 水と水環境の管理やそれらの持続的な保護に関

政策の実行

する市民教育や子どもたちへの教育の増加­ 7%

飲料水供給­

8%

参考文献: Agence de l’eauホームページ( http://www.lesagencesdeleau.fr/les-agences-de-leau/ )、(公財)水道技術研究センター(2009)「水道ホットニュース(第163-2号:フランスの水道事業等について)」

出典: 【図】Agence de l’eauホームページ(http://www.lesagencesdeleau.fr/les-agences-de-leau/les-leviers-daction-des-agences-de-leau/)7

Page 10: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランスにおける水道事業の枠組み( PPPが普及した経緯) フランスでは歴史的にも早くから、公益事業の民間委託が行われている。水道事業については、1853年にリヨン市がジェネラル・デ・ゾー社(現Veolia)に対し、上水道整備の事業運営を委託(99年間)したことに始まる。その後も次々に公益事業を担う民間事業者が台頭し、現在に至っている

サパン法により、公共サービスの契約期間の上限は20年(上下水道と廃棄物処理分野)と規定された。これは(大規模な建設を伴う場合を例外として)上下水道に関しては、テクノロジー・技術水準からすると設備投資をして20年あれば十分な投資回収を図ることが出来る、と言う考え方に基づいている

契約更新のタイミングにおいて、管理形態については大部分(約9割)が原契約の内容を維持し、管理委託契約の廃止(再公営化:約5%程度)、管理委託契約の開始(民間化:約1%程度)は僅かであった

上下水道事業の入札手続きの結果、管理委託先の事業者が変更になった割合は概ね8~11%程度であり、事業の長期安定的な運営の観点から既存事業者が競争力を有している

フランスのそれぞれの基礎自治体(コミューン)の規模は非常に小さく、かつ多数(仏)人口6 ,582万人/基礎自治体3 6,680団体⇔(日)人口 12,692万人:基礎自治体: 1,718団体

小規模な基礎自治体の大多数は、行政基盤及び財政基盤が脆弱

戦後復興が一段落すると、各自治体の自立化の要求が高まり、 1980年代以降、急速に地方分権改革が進み、これまで国が有していた権限が地方公共団体に移譲された。一方、権限委譲の拡大に比して、財源補償は十分とはいえず、公共サービスの供給が困難になった

こうした小規模な地方公共団体の統合は、政治的に困難で、公益事業の広域化は進まなかった

そこで、公益事業の運営効率化ため、相対的に導入が容易なD SPが一層進んだと考えられる

883 875入札プロセスを経た上下水道事業のDSPの件数(1998~2010)

1,000 771684­ 693 632 611582­ 573 603544509 477 500

0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

参考文献: 公務公共サービス労働組合協議会(2010)「フランスの地方分権改革 視察報告書」、氏岡庸士(2004)「水道ビジネスの新世紀~世界の水道事業民営化のながれ~」水道産業新聞社出典: 【2015/1/1時点の人口】外務省ホームページ、【仏の人口・コミューン数】国土交通省国土政策局ホームページ「各国の国土政策の概要」

(http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/international/spw/)、【市町村数】総務省「広域行政・市町村合併」(http://www.soumu.go.jp/kouiki/kouiki.html)、 BIPE “Public water supply and sanitation services in France”(Fifth edition March2012)pp.60-61

フランスにおける水道事業の枠組み(民間委託の実態)

フランスにおける水道事業の民間委託率は欧州諸国の中でも高く、上水道分野では約6-7割が民間委託されている 人口規模が大きい団体では民間委託されることが多い一方、小規模なコミューンでは公共により直営される割合も多い。

欧州における水道サービスの運営主体(2008年時点)

英国 フランス スペイン ドイツ ポーランド オランダ

88%

12%

67%

33%

100%

54%46% 30%

70% 100%

公営 民営

(出典:(公財)水道技術研究センター(2013)「水道ホットニュース(第371号)」)

人口規模別の運営主体(2011年時点)

公営

DSP

1,000人未満

1,000人~3,500人

3,500人~10,000人

10,000人~100,000人

100,000人以上

(出典:Veolia提供資料)8

Page 11: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

フランスにおける水道事業の枠組み(民間委託の実態) 人口規模が大きい大都市圏では効率化の観点から民間委託されることが多い。なお、パリ、ニースは再公営化されているが、再公営化後も一定の業務については民間事業者に外注されている

主な人口上位都市圏における水道事業運営者2016.7時点の民間委託契約先 現在の契約締結前の契約先

公団 公団都市圏名 人口*1 Veolia Suez Saur SEM*2 (レジー) Veolia Suez Saur SEM (レジー)直営 直営

イル・ド・フランス ○ ○4,461,624 (Le syndicatdes eaux d'Ile de France) パリ 再公営化 ○ ○3,000,000(Paris)­

マルセイユ *3­○ ○ ○ ○ ○1,400,000 (Marseille Provence Métropole)­

リヨン ○ ○ ○1,333,032 (Métropole de Lyon)­

リール ○ ○ ○1,118,960 (Métropole Européenne de Lille)­

トゥールーズ *4­○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○738,142 (Toulouse Metropole)­

ボルドー *5­○ ○ ○737,061 (L'eau Bordeaux Metropole)­

ニース ○(Eau 再公営化 ○544,651 d'azur)

ストラスブール* 6(Metropole Nice cote d'azur)

○ ○423,602 (Eurometropole)­

カーン*7○ ○ ○300,000 (La Ville de Caen)

補注 *1:人口は2014年もしくは2015年時点の数値を引用、*2:SEM(Sociéte Économie Mixte:混合経済会社)は株式の50-80%を公共部門が出資する事業者で、法的には私企業として位置づけられる、*3:マルセイユ市は、もともとVeoliaの入ったSEMが担当。現在メトロポールを形成している地域には公営で行っている地区もある、*4:トゥールーズ・メトロポールでは、公団あるいはDSP(アフェルマージュまたはコンセッション)によって運営されている、*5:メトロポールの27の市町村のうち23が一つの責任組織をなしており、その他4市町村は合同で別の事務組合を組成。2018年に公営化の予定、*6:域内にいくつかの「組合」があり、それぞれが公営(公団・直営)している、*7:水の生産は「組合」が行い、配給をVeoliaが行っている参考文献:エマニュエレ・ロビーナ、岸本聡子、オリヴィエ・プティジャン(2015)「世界的趨勢になった水道事業の再公営化」pp11-12、Toulouse Metropoleウェブサイト(http://www.toulouse-metropole.fr/-/eau-potable?redirect=%2Fmissions)、日本政策投資銀行(2003)「英仏におけるPPP/PFI動向調査」出典:【各コミューン人口】Le syndicatdes eaux d‘Ile de France “Rapport Annuel 2015“ pp36、 Eau de Paris ”Rapport Annuel 2014” pp11 、Marseille Provence Métropole “Eaux de Marseille2015”pp4、Métropole de Lyon“ Rapport Annuel 2014”pp7“、Métropole Européenne de Lille ”Rapport Annuel 2014“pp78、Toulouse Metropole ”RapportAnnuel2014”P22、L’eau Bordeaux Metropole ″Rapport Annuel d‘activite2014“pp5&23、Metropole Nice cote d’azur ” Rapport d‘active2014“、 Eurometropole ”Rapport Annuel2014”pp16、La Ville de Caen “Caen.frウェブサイト"qualite de l'eau potable”)

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(個別調査対象) 民間委託に対する実務上の運用や課題、詳細の工夫等を明らかにするために、現地において以下の対象先に対しヒアリングを実施した。なおEau de Parisに対しては文献を用いた調査を行った

対象: リール(MEL:Métropole Européenne de Lille)、リヨン(ML:Métropole de Lyon)、イル・ド・フランス(SEDIF:Le syndicatdes eaux d'Ilede France)

調査日: 2016年6月13日~16日

リール リヨン イル・ド・フランス (参考)パリ(Eau de Paris)

職員数 N/A 700名 110人 N/A(委託先従業員数) (232名) (700名) (1400人) (925人)

給水量 約164,000㎥/日 750,000㎥/日300,000㎥/日 550,959㎥/日管路総延長 4,000㎞ 4,000㎞ 8,400㎞ N/A浄水場数 16 N/A 3 N/A

事業スキーム(従前のスキーム)

アフェルマージュ(コンセッション)

アフェルマージュ(アフェルマージュ)

アフェルマージュ +レジー・アンテレッセ

(レジー・アンテレッセ)商工公社による運営(アフェルマージュ)

最新契約年度 2015年 2015年 2011年 2010年契約先 Veolia Veolia Veolia -

(以前の契約先) (Su ez) (V eolia/Suez/Saur) ( Veolia) ( Veolia/Suez)契約期間

(従前の契約期間)8年契約(30年)

8年契約(18年)

12年契約/3年毎見直し(30年 /5年毎見直し) -

入札参加企業 Veolia/Suez/MEL水道局等 Veolia/Suez/Saur Veolia/Suez/Saur他1社 -全体ではやや値上げ

料金値下げ率 [貧困層・利用量少ない家庭は 約20% 約11% N/A値下げ] (1.65⇒1.48EUR/㎥ )

料金のうち、0.4EUR/㎥を 料金(1.80EUR/㎥)のうち、 料金のうち、利益をSEDIFに支料金収受のメカニズム MELに支払う 0.25EUR/㎥をMLに支払う 払うが、一部を報酬として受領 -

(リール・リヨン・イルドフランス-各団体へのヒアリング、パリ-Eau de Parisホームページ(http://www.eaudeparis.fr/)を基に作成) 9

Page 12: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(パリ市)

パリ市の水道は18世紀末に民営事業者として創業するも、その後は民営と公営が行き来するという歴史を経ている上水道事業は100年以上にわたって世界的な水メジャーであるVeoliaやSuez等の民間企業に委託されてきた

しかし1990年代以降、水道料金の高騰に伴う市民の不満が高まり、また直近の委託契約の締結の経緯に透明性が欠けていたことから、同契約が2009年末に終了するのを機に、2010年1月、水道事業の再公営化を公約に掲げていたデラノエ市長の下で再公営化された現在はパリ市の100%出資の商工公社(EPIC)が取水から給水に至るまで一貫した業務を行っている

水道事業のうち、送配水業務(下図、取水堰~配水場)については、2008年まで両社(Veolia及びSuez)の資本が入ったEau deParis社によるコンセッション形式で行われ、給水業務(配水管~料金徴収)については、2009年までセーヌ川を境としてCEP(Veoliaの子会社)とEFPE(Suezの子会社)によるアフェルマージュ形式で行われていた

2010年1月以降は、上記の2つの業務(取水~料金徴収)を統合し、パリ市100%出資の商工公社が業務を実施

再公営化に伴う成果とされていること

再公営化の初年度、新しい市の事業体であるパリ市水道局は効率化で 3,500万 EURの節減に成功。その結果、料金の 8%引き下げが可能に

経営管理のもとで透明性と説明責任が強化され、市当局は市水道監視機関を設立してパリ市水道局への市民参加を促進し、透明性を向上

連帯活動にも注力し、パリ市の連帯住宅基金に1 7万5,000~ 50万 EURを拠出し、市内 4万 4,000の貧困世帯に水道連帯交付金を給付

水道水節約キャンペーンの展開 不法居住地域への水道供給の一律停止の中止

他方、再公営化の成果に対する否定的な意見もある

(参考文献・出典:溝渕(2010)「水道事業の民営化に関する研究-需要・供給構造の経済学的分析-」)

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(パリ市) パリ市水道事業の再公営化についてヒアリングの対象とした関係者の多くは、「(その経緯は)政治的な動向に影響を受けた事案」と評価 再公営化の是非については様々な意見があり、営業利益水準が低下していること等から否定的な意見も多いものの、それが必ずしも再公営化のみが原因とは言いにくい部分もあることから、継続的な注視が必要

なお本調査では、日程の調整がつかなかったため、パリ市に対するヒアリングは実施していない

現地ヒアリングにおける再公営化に対する評価

リール市(M EL、フランス北部の広域行政体) パリ市の再公営化は、政治的な動きであったと思う

イルド・フランス州(SE DIF、パリ市近郊の広域行政体) 再公営化の議論は、選挙の争点となるので極めて政治的な目的で行われることが多い

Espelia(公共側コンサルタント) 再公営化については、議員が公営と民営の選択について真剣に検討を行った結果と言うことだと思っている

リヨン市(M L、フランス南部の広域行政体) リヨンでも再公営化を検討したが、 (コストが)高くなると思った。パリ市の場合はあくまで政治的理由だと思っている

再公営化以降のパリ市水道事業の経営状況

凡例 公的機関に対して支払う賦課金など

下水収集と排水処理費用など

上水・飲料水供給費用など

(出典: (左図)Mairie de paris (2014) “Rapport Annuel2014”、 (右図)Veolia提供資料を基に作成) 10

Page 13: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(リール市) メトロポールリール(MEL)は1966年にリール広域の公共サービスの効率化を目的として設立され、現在は85自治体で構成 水道供給事業は2016年1月からVeoliaが8年間のアフェルマージュ契約で受託し、域内に対する水道供給を担っている なお2015年まではSuezが水道事業を担っていたものの、SuezとVeolia等の間でMELに対して提案競争が行われた結果、Veoliaが落札 また本手続は民間による提案に対しMELが対案を検討することが求められ、競争入札に参加をしている点が特徴的

契約更新時の手続とV eolia選定の経緯

更新に際しての「原則」について議決

2013.06提案募集開始

VeoliaとS uezなど計 4チームから提案を受領

2013.12

提案内容の開封Suezが瑕疵により脱落 *

2014.07事業者の最終決定 2015.04

*MELは入札過程でSuezの書類に瑕疵があったことを受け同社を入札から除外同社は選定方法に不備があるとして提訴したが、最終的には裁判所により同社の請求は棄却されている

MEL水道局に同内容を提示し競争入札を実施

アフェルマージュ契約の主な内容

Veoliaの提案により、貧困層の負担を軽減し、富裕層の負担を重くした。結果的にはやや値上がりしたものの、MELとしては評価(水道料金の値上げ見通し:公共1.1%/年、Veolia0.88%/年)

その他、Veoliaからは-水の節約を企図した料金体系の導入-年中無休の消費者窓口の設置-オンラインや郵便局での料金支払の利便性向上等の提案が多数提出され、13項目の基準で比較した結果、公共のプランに比しプラス評価

なお前回契約では施設整備も民間が行っていたが、今次契約からMELが更新投資などを実施することになったため、契約期間が短期化

現在の枠組みにおける公共側によるガバナンス

取締役会は10名で構成-Veolia:7名-一般有識者:2名-消費者団体代表:1名MELはオブザーバーとして2名参加(発言は可能だが、議決権は無し)

MEL、Veolia、NGO/NPOらで構成される・運営評議会・「戦略と将来像」委員会・「業務成績」委員会がiléoをモニタリング

Veoliaが本件事業の受託のため設立した

SPC

(出典:Veolia提供資料をもとに作成)

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(リヨン市) メトロポールリヨン(ML)は59の自治体から構成される人口約150万人の広域行政体であり、うち54自治体(給水人口120万人)が共同水道事業に参画し、現在はVeoliaに8年間のアフェルマージュ契約で事業を委託

MLは従前はVeolia/Suez/Saurに対し18年間のアフェルマージュ契約にて事業を委託していたが、更なる効率化を目指し契約期間を短縮。結果として水道料金を約20%削減することに成功するなどの成果を挙げている

契約更新に際しては、引継期間を設けるなど、従業員や事業ノウハウのスムーズは引継のための工夫が為されている点が特徴的 また設備の調達に際し、発注ロットが大きい民間事業者の方が、公共が調達する場合に比し安価で調達することが可能な場合もある

アフェルマージュ契約の主な内容

事業者が必要な運営コストを負担する分、収入は全て事業者に入る。受託者は契約で決められた分の金額を公共へ支払い、利益が残れば取り分となる

事業者は運営期間中(8年間)に合計5,000万EURの新規投資、年間1,500万EURの従前の施設に対する修繕投資をしなければいけない

5,500個の漏水探知センサーを設置予定(現在の契約で新たに盛り込まれた内容)

130のKPIを定め、未達成の場合はペナルティーを課す 管路を直径150mmで分類し、150mm以上は公共、150mm未満は民間事業者が責任を持って管理

地元事業者の活用について 管路敷設の際は地元企業を使う等の条件を付帯 技術面で問題がない限り、地元にできる企業があれば地元企業を使わなければいけないという義務が課されている

障害者雇用や失業者雇用の義務も同じ位置付けであり、政治的な決定が反映されている

契約更新に伴う従業員の転籍について Veoliaは今次契約更新時に、従前の契約によって雇用されていたSuez/Saurの職員を新しく40人受け入れている

Veoliaとしてはノウハウを豊富に有した職員の引継の優先順位は高く、また従前の事業者との引継期間(6か月)も設定した上で、事業の運営に必要な人材、ノウハウを継承していった

設備調達における民間委託のメリット 小さな公共団体だと多くても(メーターを)数百個の調達する規模でしかないものの、民間事業者は国内で数千個単位で調達するため、公共調達に比べて3~5割程度、価格を抑えられる場合があり、価格競争力上のメリットが認められる

公共側によるガバナンス 15名の職員が事業者の検査専従職員として配置され、毎月・期・年にフォロー委員会が開催される

契約終了時は100%原状回復することが規定されており、次期事業者に対し運用ノウハウ等の継承も遺漏なく行うことを要求している

11

Page 14: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(S EDIF) イル・ド・フランス地域圏における水道事業は、150自治体で構成されたイル・ド・フランス水道組合(SEDIF[但し、パリ市は除く])が所管 当初、SEDIFは約80の自治体で構成されていたが、EU指令による環境規制などが厳格化されたことを受け、SEDIFに加入するメリット(設備投資負担の軽減、など)が強まった小規模自治体などが加入を希望し、自治体数が増加した。但し、加入後は原則SEDIFと同じ料金体系に依拠することが求められる点が特徴的

SEDIFは1923年から水道事業を実施しているが、設立当初からVeoliaに事業管理を委託しているなお隣接するパリ市では再公営化が選択されたにも拘らず、2011年1月に契約を更新し、新たに12年間のアフェルマージュ+レジー・アンテレッセの混合方式の委託契約をVeoliaと締結

SEDIFと Veoliaとの契約形態について 公共側によるガバナンス

今次契約はアフェルマージュとレジー・アンテレッセを併用した新しい形態 年3回、150名の地方議員による投資や交渉等の経過に関この形態の特徴は、アフェルマージュだと利益は事業者のみ、 する会議 レジー・アンテレッセだと公共のみに帰属してしまうため、レ 月1回、13名の地方議員によるSEDIF事務局における会議ジー・アンテレッセのように事業の利益は当初公共に帰属す によるモニタリングるものの、収益などパフォーマンスに応じたインセンティブを設定し、当該利益の一定部分を事業者に支払う性質を有する混合契約であること

現行契約では原則として修繕など(年間約85km)は民間負担であるものの、新設や資産改良に資する設備投資は公共負担となっている。また、前回契約に比べ民間側の投資負担額が減ったため、契約期間が短期化(30→12 SEDIFの職員100名によるモニタリング

年)している -50名:工事のマネジメント但し、官民間の役割分担については、線引きが難しいので -50名:委託業務のマネジメントや受託事業者に対する検査契約で予め分担を決定することで実務上は対応している ※なおSEDIFにはSuez(事業者であるVeoliaの競合他社)出

身の技術職幹部も在籍し、SEDIFが締結する契約の管理等を行っていた

参考文献:CLAIR Paris ホームページ「パリの水道事業について(http://www.clairparis.org/ja/clair-paris-blog-jp/blog-2013-jp/736-eaudeparis-ja-jp-1),2013/3/5 」、CLAIR メールマガジン2011/ 3配信「フランスの水道管理事情~首都圏の状況~(概要版)(http://www.clair.or.jp/j/forum/c_mailmagazine/201103/2-1.pdf)」

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(特徴的な実務) 契約形態・・・ 昨今はアフェルマージュ方式が一般的であり、事業者側による設備投資を伴わないため、契約期間が従前より短くなっている 役割分担・・・ アフェルマージュ方式の場合、一般的には新設等の設備投資は公共が行い、修繕については民間が行う役割分担が一般的だ

が、その契約の内容によって役割分担は異なっている 料金収受・・・ 料金収受は受託者たる民間事業者が行うことが多いものの、収益配分についてはインセンティブ/ペナルティが設定された上で個

別にアレンジされることが多い。なお、不可抗力等の場合を除き、収入減少を理由に単価を上げることは認められていない。契約変更に該当する事例としては、工業汚染により新規設備が必要となった場合、国による経済的法令の変更等が挙げられ、そのような場合、受託者は公共へ契約見直しを求めることとなる

契約形態と期間 料金収受スキーム 水道事業運営の委託手法は、従前は施設整備を伴う超長期(30~50年程度)のコンセッション方式が多かったものの、現在は施設整備を伴わない短期(10年程度)のアフェルマージュ方式が主流

契約の短期化を通じ、公共側は次期契約更新を見据えた民間に対する料金値下げやサービス水準の向上に対する交渉力を有すことができ、運営上の規律を高めることが可能に

SEDIFではアフェルマージュとレジー・アンテレッセを組み合わせた新たな事業手法を用いる等の工夫も認められた

施設の所有権と施設整備に対する投資負担の分担 施設は公共が所有し、民間に無償貸与する形が多い(リール市、等)。アフェルマージュ契約における更新投資の分担は常に議論になるが、「修繕は民間、新設/設備投資は公共」という分担が一般的

詳細の役割分担は個々の契約において定められ、下表(ヒアリングによる分担の一例)の通り事例によって分担は異なっている。なお、役割の線引きは難しく、実務上で解決していくことが求められる

公共 民間

リール 管路所有・更新、水の生産 運営(給水・集金)

リヨン 管路所有・更新(直径1 5㎜以上)

運営(取水・生産・給水)、管路修繕(直径1 5㎜未満)

SEDIF 管路所有、新設、更新 運営(集金)、管路修繕

各事例とも概ねアフェルマージュ方式を採用した民間委託を実施しており、料金収受は民間が行っているが、その配分スキームについては其々特徴を持っている

SEDIFの場合、事業の利益は一度SEDIFに戻され、モニタリングの結果に応じ、インセンティブとして民間に配分される(2-8%程度)

SEDIFにおけるスキーム

②費用控除後の事業の利益

Veolia

民間 利用者

100%出資 (支払料金×1/3-運営費用)

①料金

③インセンティブ/ペナルティ

リールの場合は、SPCは水購入代をMELが出資する水道公団に支払う

MELにおけるスキーム Veolia

民間 利用者水道公団

①料金②水購入代

100%出資

ペナルティ

100%出資

リヨンの場合も水道料金の内、一定割合が公共に支払われる参考文献:CLAIR Paris ホームページ「パリの水道事業について(http://www.clairparis.org/ja/clair-paris-blog-jp/blog-2013-jp/736-eaudeparis-ja-jp-1)2013/3/5、

CLAIR メールマガジン2011/ 3配信「フランスの水道管理事情~首都圏の状況~(概要版)」(http://www.clair.or.jp/j/forum/c_mailmagazine/201103/2-1.pdf) 12

Page 15: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(特徴的な実務) 契約更新プロセス・・・既存のコンセッション・アフェルマージュ契約の終了に当たり更新契約の検討が行なわれる際、契約満期の数年前から更

新契約の内容について協議を行い、契約条件について詳細に検討するリール市の事例では、事業者選定のプロセスにおいて公共側の提案を求め、定量的な比較を実施した点が特筆される。ヒアリングにおいて、係る比較検討プロセスが2016年にEU指令によって義務化されたとの情報提供があった

イル・ド・フランス州(SEDIF) リール市(MEL)

次期管理形態の検討 2006年 2012年 • 契約更新の4年前からあらゆる可能性(民営or公 • 契約更新の3年半前から次期管理形態を検討し、市の供営、契約形態、契約範囲)の比較検討 給責任者の権限強化をキームを決定

• 民間委託スキームの決定 • 全上下水道設備はリール市が所有の決定管理形態を議会決定 2008年12月 2013年

• 議会にて民間委託継続を決議 • 議会にて給水のみをアフェルマージュとすることを決議 • 委託先の入札の実施を決定 • 委託方法の詳細な研究を開始

入札情報を発表 2009年4月/4社が入札 2013年12月/民間2社が入札 • Veolia、Suez、Saur、仏独JVが入札 • VeoliaとSuezから提案を受領後、内部のMEL水道局も

入札に参加資格審査 民間3社が通過 民間2社が通過+水道局が検討

• Veolia、Suez、 Saurが通過。仏独JVは書類不備 • Veolia、Suez、MEL水道局(公:リール市内部組織)で失格

• 委託業務の仕様、料金水準算定条件を通知提案・見積の提出 民間2社が提案提出・2社との交渉開始 2014年7月/2社が提案提出・1社+公の競争

• Veolia、Suezが審査通過 • Veoliaが審査通過、Suezは書類不備で失格 • VeoliaとMEL水道局の競争となる

交渉 2社とそれぞれ3回程度交渉 民間1社+水道局と継続的な交渉 • 2社と同時並行的に交渉を継続 • 13の基準で比較検討 • 「料金の値下げ」と「管理方法の改善」を重視 • 分析にはEspelia(公共専門コンサル)を起用

事業者決定 2010年6月 2015年評価項目のほぼ全てで優れていたVeoliaに決定 総合評価で優れていたVeoliaに決定

参考文献:CLAIR Paris ホームページ「パリの水道事業について(http://www.clairparis.org/ja/clair-paris-blog-jp/blog-2013-jp/736-eaudeparis-ja-jp-1)2013/3/5、CLAIR メールマガジン2011/ 3配信「フランスの水道管理事情~首都圏の状況~(概要版)(http://www.clair.or.jp/j/forum/c_mailmagazine/201103/2-1.pdf)」

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(各論紹介) 行政訴訟制度・・・フランスでは行政による決定に対し訴訟が発生することは珍しくなく、近年は少なくなってきたものの年間200-300件程度

の訴訟が発生している。水道事業分野でも多く発生しており、問題解決の手段として一般的。なおリール市の契約更新時にはSuezが訴訟を行っている

公共側アドバイザー・・・前述の通りフランスでは民間委託契約が多数存在するため、公共側に対して専門的にアドバイザリーを行うコンサルティング会社も存在した。なおヒアリングを行ったEspeliaはコンサルティングのみならず、政策に対する提言なども行う等、広範な役割も担っている

公共側専門のアドバイザーの存在行政訴訟制度

民間事業者は、行政の決定が不満であった場合に行政裁判所に訴えることが出来る枠組みが構築されている

【参考事例:リール市とSuezの係争】 • 2014年9月23日、リール都市圏はSuezに対し、同社が複数の条件を修正したことから、提出された当初のオファーが入札プロセスを規定するルールに従っていなかったとして、リール市はSuezと交渉を行うことなく、当初のオファーは拒絶された旨を通知

• Suezは本件をリール行政裁判所に提訴したが、同裁判所は、入札ルールとは異なった申請を提出するオプションは交渉中にのみ利用可能であり、当初のオファーの最中には利用できないとして、同社の請求を棄却

Espelia(エスぺリア)

1995年に設立。現在、税・財務、法務、技術等の各分野の専門知識を有するコンサルタント80名を擁し、これらの専門知識を組み合わせて、より良い民間委託契約を締結できるように、公共をサポートしている(利益相反となるため、民間企業に対するコンサルティングは行っていない)

民間委託契約では妥当な価格、適切な投資水準を助言することがEspeliaのミッションの一つであり、公共の為に民間企業に対して価格低減を求めるだけではなく、場合によってはダンピングの禁止を求める場合もある

(参考文献:Espelia ホームページ(http://www.espelia.fr/))

13

Page 16: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業体に対する個別事例調査を通じた分析(各論紹介) 契約解除時の取扱・・・契約上、公共側はファイナンスコストを含む設備投資費用を補償すれば、一方的な契約解除が可能な枠組みとする

ことが一般的な慣行として認識されている DSP契約におけるSPC・・・今回ヒアリングを実施したリール・リヨン・SEDIFでは、民間事業者にSPCの設立が義務付けられており、いずれも

Veoliaが設立するSPCが契約を締結している その他・・・ Veoliaでは効率的な機器調達・ITソリューションの開発を行うため、ビジネスパートナーとの取引や地元事業者からの調達

を実施

委託契約において公共側が一方的に契約を解除する権利 SPCの設立 フランスでは「公共的利益」のために、不可抗力が発生し正常な公 従来、DSP契約ではSPCを設立せず、民間事業者と直接契共サービスが提供できない場合、公共側が一時的な契約停止や 約を締結する傾向があったものの、今回ヒアリングを実施した契約解除を行い、自ら運営することが契約上想定されている 事例をはじめ、SPCを設立し契約を締結する事例が多くなっ

その場合、コンセッションに伴って敷設された設備の所有権は公共 ている に帰属するため、公共側はコンセッション契約中のプロジェクトによっ SPCを用いて契約締結した場合、当該事業に基づく数値やて発生した未償却投資額を補償すれば、一方的に契約を解除す 契約等を(通常の民間事業者との契約とは異なり)独立しることが出来る内容になっている て精査することが可能となる

「民間受託者に責任がある場合」についても、未償却資産分は支 また、フランスにおいてはSPCにも会社法に基づく商業登記が払わなければならないこととなっており、1930年の判例により定めら 必要であり、同法に基づきSPCに対しても刑事罰が適用されれている。また契約解除の場合に発生する補償は、設備投資費 る可能性がある 用に留まらず、ファイナンスコスト等も対象となり、民間委託者のリスクを低減させている

これらの利点を以て近年はSPCを用いる事例が多くなっている

効率的な機器調達・I Tシステムの導入 調達について・・・ Veoliaに対するヒアリングでは、機器の調達に際し、多少高くても長く使い維持管理費を安くすることを優先的に検討

し、効率性を追求。また海外で機器調達をする際でも、全世界のメーカーから調達するネットワークを有し、効率性を追求するが、結果的に現地国で調達することが最も効率的となっている

ITシステムの導入・・・VeoliaはITベンダー(IBMやNECなど)との協業を重視し、取引を行っているが、ITベンダーもVeoliaの海外のネットワークを用いたビジネスチャンスの拡大と言うメリットを以て、Win-Winの関係性を構築。その結果として、単独の自治体では実現することが難しいソリューションを提供することが可能

法・会計・税務上の課題、金融実務や市場慣行に関する補足(法務)

フランスにおけるDSPに関し、事業スキームを構築する上での実務上の注意点として認識されているのは以下の3点 ① 契約終了時の資産の返還・・・公共に対し返却すべき資産の線引きが難しいため、実務上の課題として挙げられている ② 不払いの場合における水道サービス拒絶の禁止・・・法令上、不払いを理由とした飲料水の提供を中断することは認められていないため議論になっている

③ 契約の終了時における従業員の移籍・・・労働法令により、労働者保護、及び事業の円滑な承継を目的として契約更新時に事業者が変更となる場合は自動的に次の委託者に従業員を転籍させるルールがあるものの、そのルールがあるために、前委託者は契約更新が近づくと、自治的経済主体(後述)に対し自グループで不要な人材(リストラ要員やローパフォーマー)を引き渡そうとするモラルハザードが課題として挙がっている

計画期間及びコンセッション契約における資産の返還 不払いの場合における水道サービス拒絶の禁止について

コンセッション終了時には、民間企業は事業に関する残余財産を原則として フランスでは、特に貧困層に対する水道供給、及び利用公共に返還することとなっているが、返還すべき財産の範囲を巡ってしばしば 者の料金未払いがしばしば問題として議論されてきたが、問題となることがある

通常、財産は次の 3つに分類され、その分類により契約終了時の取り扱いが異なっている。

これに対し2013年4月15日の法第 2013-312号(所謂B rottes法)は、「水道事業者は水道料金不払いの場合に契約を解除することを含めて、主たる住居に飲料水を提供することを中断すること」が出来なくする旨を規定

① 「要返済」:無償返却 した。なお、2015年5月29日付QPC第2015-470号決定に

公共おいて、フランス憲法裁判所は、この禁止が合憲であると確認している ② 「再取得」:時価で買い上げ

民間

これらの規定が施行され、水道料金の不払い世帯に対す③ 受託者所有­ る水道サービス拒絶が禁止されたことから、不払率が従前

と比較して倍増したため、解決に向けた議論が必要となっている

この資産の分類に際して、国内では裁判が頻繁に発生していたが、2012年のドゥエ市の係争に対する判例により「契約に拘わらず公共が事業を継続的に運営するために必要なものは全て返却資産として分類する」と決定された。ただし実務上、特定企業の知財に関わるものなどは、所有権の切り分けや継承が難しい、といった課題が残っている

(出典:McDermott Will &Emery(2016) フランスにおける公共水道事業(ヒアリング時提供資料)) 14

Page 17: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

法・会計・税務上の課題、金融実務や市場慣行に関する補足(法務)契約の終了時における従業員の移籍

既存のDSP契約の期間満了に伴う更新等、フランスの水道事業では運営者が変更されることがある 係る変更が発生した場合、既存運営者の従業員の移籍が実務上の課題として常に認識されているが、フランスでは従業員の移籍について以下のような法的な枠組みが設けられている【労働法(L.1224-1条)】“民間委託契約が終了する場合、自治的経済主体*に属する従業員の労働契約は自動で引き継がれる”【水道及び衛生サービス提供者のための団体協約(第2.5.2条)】“労働法(L.1224-1条)の要件が満たされない場合においても、下記の従業員については自動的に新たな事業体に移籍する” ① 業務補助及び複数の契約に取組むものを除き、運営及びクライアントに関与している者 ② 6か月を超える契約に関与している者

*『自治的経済主体』:目標を追及する経済的活動を可能にする人々又は有形無形の構成要素の組織がされた集団

但し、実務上は以下のような運用上の課題が発生しているため、解決に向けた継続的な議論が行われている

①モラルハザード・・・次の運営者への自動的な従業員移籍の枠組みを利用し、(事業終了後に旧運営者が)余剰人員を抱えることを回避するために、契約終了の 2~ 3年前からリストラ対象人材を自治的経済主体に移籍させる(ことで自動的に次の事業者に余剰人員が移籍されるようにする)モラルハザードが発生することがある。本来は、受託事業の円滑な引継ぎの為の法律であったが、合法的なリストラに悪用されている

②専門的職業人材の取扱・・・フランスでは、特定の会社に帰属しない専門職の人材(職業別職員組合を構成)が一部存在しており、このような人材は、特定の企業に引き継がれてしまうと他の仕事に影響を与えるため、引き続き同様の働き方を継続するように調整を行う

③要件に該当しない人材の取扱・・・市町村が新しい市町村連合に加入する場合も人材の取り扱いが論点になる。但し上述の通り、法令上の要件を満たさない水道事業に直接関わらない事務職や、複数の企業・自治体の仕事を掛け持ちしている人材は移転の対象とはならない

(出典:McDermott Will &Emery(2016) フランスにおける公共水道事業(ヒアリング時提供資料))

法・会計・税務上の課題、市場慣行に関する補足(会計) 償却・追加投資は、以下の枠組みに基づき会計的に処理される コンセッション契約に基づき民間事業者が建設したインフラは、当該事業者の有形固定資産に計上される 資産はコンセッション契約満期までに全て定額法により償却され、償却額が負債に計上されるその際、負債への繰入額が費用として認識されており、更新費と取得原価の差額に基づいて引当金が充てられる

期中の投資が発生する場合は、以下の原則に則る①契約満期に償却は終わらなければならない②契約以前に償却が終わるはずのもの(法定耐用年数)については、本来の償却期間で償却しなければならない③新しく入れ替える費用が予見されるものについては、新しい価格と現在の価格の差額について引当金計上が可能

契約上修繕が予定されている場合、修繕費に充てるための引当金の計上が可能とされている

例:コンセッション契約に基づく事業における償却・追加投資の財務諸表上のイメージ

(損益計算書(費用部分のみ)) (貸借対照表)

事業期間 1 2 3 4 5 6 7 8 総額 1期目 5期目 8期目

償却費(初期投資分) 12.5 12.5 12.5 12.5 12.5 12.5 12.5 12.5 100.0 設備

償却費(更新投資分)[引当] 20.0 20.0 20.0 20.0 20.0 100.0 -総額 100.0 120.0 120.0

更新投資費用[引当] 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 20.0 -償却 (20.0) - -

80.0 120.0 120.036.5 36.5 36.5 36.5 36.5 12.5 12.5 12.5 220.0

純資産

-資本 100.0 220.0 220.0

-損失 (36.5) (182.5) (220.0)

総資産 63.5 37.5 -[例]契約期間:8年、設備の耐用年数:5年、初期投資額:100 償却費

(無形固定資産) 12.5 62.5 100.05年目以降の推定更新投資額:120更新投資引当 4.0 20.0 20.0

80.0 120.0 120.0

なお、コンセッションとPFIにおける税務会計の基本事項は、①フランスの会計基準に従うこと、②上場企業の場合にはIFRS(国際財務報告基準)が適用されること、が挙げられ、コンセッション契約に関する税務会計の特定の規定は少なく、PFIに関し特別な会計規定は無い

(出典:KPMG (2016) ”Concessions contracts and PFI Accounting methods in France”) 15

Page 18: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

法・会計・税務上の課題、市場慣行に関する補足(新たな形態) 近年、地方公共団体と民間事業者が折半出資して設立するSemOpと呼ばれる組織を用いた手法が「第3の手法」として注目されている SemOpの長所は「自治体によるより良いコントロール、事業の利益を配当として公共と民間が享受可能、共同株主の民間企業からの運営ノウハウの吸収」などが挙げられている

水道事業分野では、シャルトル市やドール市など比較的小規模な自治体においてSuezやCDC(預金供託公庫:自治体に対する金融支援なども行うフランスの公的金融機関)が出資するSemOpが設立されており、今後の運営が注目される

スキーム図

公共 民間

SemOp

• 入札を経て選ばれた1名以上の民間株主により構成 • 株主たる地方公共団体との一つの公共契約を履行する目的のためだけに設立される (ドール市は上下水道でそれぞれ別のSemOpを設立するスキームを採用 )

出資:15%~66%

水道事業ではシャルトル市[人口4万人/アクアテール社+CDC]と、ドール市[人口2.5万人/Suez社]で設立されている事例がある

コンセッション契約満了後は清算され、残余予算は公共に返還される現在の法律では同じSemOpとの契約更新は不可

参考文献: フランス政府ホームページ(http://www.gouvernement.fr/)出典: 【図】McDermott Will &Emery(2016) フランスにおける公共水道事業

出資: 34%~85%

別途コンセッション契約

近年の動向

近年、フランスにおいては従前のような長期間のコンセッション契約が締結されるのではなく、運営に特化したアフェルマージュ契約が志向されている。これは、契約期間の短期化を始めとした公共側によるモニタリングや規律の強化に繋がる動きとして捉えられており、民間事業者は従来よりも高い効率性を実現するための取組が求められているため、入札における提案競争は激化している

併せて、リール市における事例のように入札の過程で公共側による提案を求める枠組みが普及し始めており、2016年からは法令により入札プロセスにおける官民間で競争入札を行わせるための枠組みが構築されたとの情報もあった。なお、様々な議論を惹起した「再公営化」についても、上記の選定プロセスにおいて公共側による提案に対する評価が客観的に高ければ、実現される可能性があることが明らかになったものの、各ヒアリング先からは「公共側による提案は民間側によるそれを上回る結果とはならなかった」との回答を得た

フランスではコミューン(市町村)数が36,680存在する中で、法令により2020年までにこれを2,000~3,000に統合することが求められている。しかしながら、市場関係者はその実現可能性について疑義を感じている場合もあるところ、その状況には注視が必要であろう。水道事業を効率的に運営する観点から、事業の広域化に対する必要性は高かったところ、民間事業者に対するヒアリングにおいて「コミューン間で広域化をしていない場合でも、(近隣の複数コミューンの事業を受託することができれば)事業者は職員や運営資源を兼用することができるので、効率性を高めることも可能」であるとの回答を得た

コミューン コミューン コミューン

事業者

同一の事業者でリソースを共有することで効率化

16

Page 19: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

2. 英国

17

Page 20: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

19世紀 産業革命に伴う急激な水需要が拡大するも、汚水処理が行われずに水質悪化が深刻化し、近代水道の整備の必要性が高まる

家庭用上下水道料金(平均)と消費者物価指数(C PI)の推移( 1989年以降)

20世紀 初めのころは、 2,000を超える水道事業者が存在

1945年 Water Act制定により、水道事業の統合・中央集権化が進められる

1973年 当時 1,600存在した水道事業体は主要河川流域等をベースとして大きく 10地域に再編され、それぞれの地域を所管する「水管理公社」が設立される

1989年 国の方針として公益事業に対し、民営化が進められる中、水道事業については地域独占性から競争原理が働きにくいため、民営化の適用除外が方針として打ち出されていた。しかしながら、最大公社であった Thamesが民営化を支持したこともあり、全ての水管理公社や水道会社の株式が売却され民営化に至った。その際には、サービス水準の維持及び効率化を担保する規制を明確に規定

英国における水道事業の枠組み(概要)

英国(この場合、イングランドとウェールズを指す)における水道事業は1989年以降、完全に民営化されており、現在は上下水道会社10社と上水道会社11社により水道事業が賄われている

かつてはフランス同様、各地方公共団体が所管する水道事業体が多数存在したものの、1940年代以降に順次水道事業の統合・中央集権化が進められた。そその後、1973年第1次オイルショック以降は、国内の経済状況が悪化し、かつECが課した厳しい水質基準に適合させるための設備投資が困難になったことなどを背景に民営化が検討され、1989年に現在の形となった

水道事業の民営化後に設立された規制機関は、経済規制を担うOfwat、環境規制を担う環境・食糧・農村地域省(Defra)、水質規制を担うDWIがある。その他、国家機関ではあるが消費者団体としての性格を有するCC Waterによって、水道事業者に対するモニタリングが行われている

英国における水道事業の枠組み(歴史的な経緯と民営化) 英国(イングランド・ウェールズ)における水道事業は、かつてはフランス同様に各自治体が供給責任を負っており、20世紀初頭は約2000もの水道事業体が存在したものの、1989年に完全民営化を行った。現在、水道事業は民間企業により運営されており、民営化のタイミングで設立された規制機関により料金や水質等がモニタリングされている。なお、英国も水道普及率はほぼ100%となっている

水道料金は、民営化後から1999年まで上昇し続けている。2000年の料金改定時にはOfwatによる(後述する)Price Reviewにより、運営費の効率化を要求するための12%の料金値下げが実施されたものの、結果的に2011年までに約45%(対1989年)の値上げが実施されている。2000年以前まで水道料金が右肩上がりである理由は、民営化以降、公社時代に先送りされていた更新投資や新たな環境規制に対応するための投資が集中して行われたためである

歴史的な経緯

水道利用者料金支払 給水

上下水道会社

規制

Drinking Water Inspectorate飲料水監察局(飲料水質の監視を担当)1990年設立。E U指令の基準に適合する水質基準の監視。またそれらの情報に関し、利用者への提供・アドバイスも実施。D efraの下部機関であるが、独立した権限を有す

The Water Services Regulation Authority水道事業規制局(顧客サービスにおける、サービス水準のモニタリング及び料金の規制を担当、後述)

DWI

CCWater

Ofwat

環境・食糧・農村地域省(D efra)

EU指令のもと、上下水道事業に係る政策決定を行う

Consumer Council for Water水道顧客審議会。“WaterAct2003“に基づき2 005年設立。一定の独立性が認められた国家機関であるが、消費者団体としての性格を有する。水道利用者の意見・要望を集約し、事業者に伝達・交渉する役割を持ち、O fwatに対する陳情も行うことが出来る。顧客サービス水準を維持向上させる役割が期待される

参考文献:Water guide.org.uk“Water Industry Regulators” (http://www.water-guide.org.uk/regulators.html)Department for Environment Food & Rural Affairs (2015)“Consumer Council for Water Framework Document”p2、

(公社)日本水道協会(2014)「平成26年度国際研修『イギリス水道事業研修』研修報告」

(参考・出典:(公社)日本水道協会(2014)「平成26年度国際研修『イギリス水道事業研修』研修報告」) 18

Page 21: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

英国における水道事業の枠組み(現在の事業主体) 当初2、000近く存在していた公営水道はその後再編され現在は21社 *に集約(なおスコットランド・北アイルランドには其々公社が1社づつ存在)。現在は地形と歴史的経緯から上下水道会社と上水道会社が混在する

今回のヒアリングにおいて、2017年からの法人向け水道小売事業の自由化や、Ofwatの業界再編容認への方針転換を背景に、業界の統合・再編が進む可能性も示唆されたことから、今後の動向が注目されるイングランド及びウェールズにおける水道会社

(出典:Ofwat ホームページ(http://www.ofwat.gov.uk/households/your-water-company/map/))

※地図中の表現において一部領域が重複している部分があるが、これは上下水道会社の管轄地域の一部と水道会社の供給地域が重複するもの

上下水道会社(上下水道の供給を行う会社)

給水地域

Anglian Water Services Ltd. イングランド東部

Northumbrian Water Ltd. イングランド北東部

Severn Trent Water Ltd. ミッドランド西部、東部

South West Water Services Ltd. イングランド南西部

Southern Water Services Ltd. イングランド南東部

Thames Water Utilities Ltd. ロンドン、テムズ流域

United Utilities Water plc イングランド北西部

Dwr Cymru Cyfyngedig/Weksh Water ウェールズ

Wessex Water Services Ltd. イングランド南西部

Yorkshire Water Services Ltd. ヨークシャー及びハンバー(公営) Northern Ireland Water Ltd. 北部アイルランド(公営) Scottish Water Ltd. スコットランド

水道会社(飲料水供給のみを行う会社)

略称

Affinity Water AFW

Bournemouth Water SBW

Bristol Water BRL Cholderton and District Water CHL Dee Valley Water DVWEssex&Suffolk Water (Northumbrian  water子会社 ) ESKHartlepool Water (Anglian  Water子会社 ) HPL Portsmouth Water PRT

South East Water SEW

South Staffordshire SSC

Sutton and East Surrey Water SES

Thames Water Commercial Services Ltd. Veolia Water Projects

その他:地域上下水道会社

Albion Water Ltd. Independent Water Networks Ltd. Peel Water Networks Ltd. SSE Water plc

*表中の21社 (その他を除く )のうち、 Essex&Suffolk Water及びHertlepool Waterはいずれも上下水道会社の子会社である

英国における水道事業の枠組み(事業主体の株主・基礎データ) 前述の英国内の主な水道事業会社の現在の主要な株主などは以下の通り。英国資本以外(中、豪、米、加、日、中東等)の株主も多数参画しており、また足下でも株式売買取引が行われようとしている事案がいくつか存在する

また外部格付会社による長期発行体格付についてはいずれも投資適格となっており、安定したキャッシュフローと規制の枠組みに基づく経営の健全性が高い信用力を担保していると考えられる

対象地域の 売上高 従業員数 格付[Moody’s]会社名 主要株主 人口[千人] (百万GBP) (人) (2015/03末)

上下水道

Anglian Osprey consortium:Canada Pension Plan Investment Board, Colonial First State Global Asset Management,IFM Investors, 3i

6,735 1,198 3,952 Baa1

Dŵr Cymru Glas Cymryu 3,725 727 2,831 A3

Severn Trent LSE上場 10,474 1,525 5,902 A3

Sounthern Greensands Holdings 4,636 800 2,090 Baa2

Northumbrian Cheung Kong Infrastructure Holdings 3,610 750 2,971 Baa1

South West Pennon Group 1,578 517 1,234 -

Thames Kemble Water Ltd, BT Pension Scheme, Abu DhabiInvestment Authority, China Investment Corporation

14,839 1,913 4,682 Baa1

上水道

United Utilities LSE上場 8,467 1,690 6,010 Baa1

Yorkshire Kelda Group 5,982 974 2,394 Baa2

Bournemouth Pennon Group(South Westと合併予定) 438 45 205 -

Wessex YTL Corporation 3,100 517 1,923 A3

Affinity Water Morgan Stanley, M&G Investments 3,588 293 1,098 Baa1

South East Hastings Diversified Utilities Fund, Utilities Trust of Australia

2,116 209 775 Baa2

Bristol Capstone Infrastructure Corporation、伊藤忠商事、 Grupo Agbar

1,160 122 481 Baa1

Portsmouth South Downs Capital Group(従業員給付信託) 708 37 237 Baa1

Sutton & East Surrey 住友商事、大阪瓦斯 670 61 242 Baa1(※人口・売上高・従業員数・主要株主は各社ホームページなどから 2014/03期のデータを参照し作成、格付はM oody’sが発表する長期発行体格付を参照) 19

Dee Valley Dee Valley Group 266 24 177 Baa1

South Staffordshire KKR、三菱商事 1,303 95 413 Baa2

Page 22: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

英国における水道事業の枠組み(O fwatによる規制の枠組み) Ofwat (The Water Services Regulation Authority)は1989年に設立された水道料金・サービス水準に係る規制機関 政府からは独立しているものの、政府による水道関係施策の遂行(”Water 2020”等)や、様々な規制の枠組みに基づくモニタリング、水道事業会社に対するライセンス付与等を行っている。特にモニタリングにおいては、5年に一度実施されるPrice Reviewにおいて水道事業会社が設定する水道料金の上限規制を設定する等の大きな権限を有している特徴的な機関

規制機関として水道事業に対する高い専門性を有しており、業界関係者からの評価は概ね良好。職員は175名で、ファイナンス[20人]・会計[15人]・法務[15人]・技術[7人]、やエコノミスト・政策などの各分野の専門家により構成されているなお、Ofwatは、設立当初は全て公務員で構成される組織で役員には学識経験者も含まれていたが、設立後25年を経過し現在のような実務家が多数を占める構成となってきたもの

Ofwatによる特徴的な規制の枠組みについて

Price Review(PR)5年毎に各会社から提出される事業計画を基に料金上限値を査定するための手続で、各社の経営に重要な影響を及ぼすため、1回のPRにつき2年程度を要する

Risk and compliance statement/Key Performance Indicators(KPI)各水道事業者の義務として、「リスク及び規制遵守に関する報告書」を作成し、Ofwatに提出することが求められる(年1回報告)。運営上のリスクやその対策などが記載される。その他、KPIの公表の義務を負っている。独自の指標を用いた業務実績評価(KPIは年最低1回公表)で、事業者は関係者(顧客、規制機関、投資家など)に対する情報公開が求められている

SIM(Service Incentive Mechanism)2010年より導入。水道事業者のサービスレベルを定量的に数値化した指標で、点数が低い場合にはペナルティ等も設定されている。例えば不具合が起こった際の会社との連絡方法と平常時を含めた顧客からの連絡に対する対応の良否が測定される。数値は公表され、利用者は水道事業者間のサービスレベルを比較することが可能な枠組みになっている

参考文献:(公社)日本水道協会「平成26年度国際研修『イギリス水道事業研修』研修報告」、(公財)水道技術研究センター「水道ホットニュース第317-2号KPIを用いた英国OFWATの新たな取組みについて(その1)」、「水道ホットニュース第247号浄水場のO&M契約におけるKPIの適用について(試案)-その1-)」、「水道ホットニュース第139号英国の民営水道会社の業績指標についてーOFWAT2007 -2008報告からー」、Ofwat “Introduction to Water 2020”(2015/6/2),“Promoting Markets Workshop”(2015/9/30),“Rules of procedure for the Water Services Regulation Authority”(2016/1/28)

英国における水道事業の枠組み(O fwatによる規制の枠組み) Ofwatによる特徴的な規制のうち、Risk and compliance statement及びKPIは以下の通り

Risk and compliance statement(リスク及び規制遵守に関する報告書) 本報告書を用いて、水道会社は顧客に対する説明責任を遂行し、Ofwatに対しては、運営上生じているリスクの説明と関連規制に準じた運営を行っているかどうかを示す

記載が求められる主な内容としては、①責務の把握・遵守、顧客ニーズの理解と対応②責務遂行に相応しい運用プロセス及びシステムの整備③運用プロセス及びシステムが運営上のリスクを適切に検知・処理・評価できるものであるか、等ただし、報告書の雛形はなく、各社が運営上のリスクやその対策を適切に記述できる、自由な様式で作成される

Key Performance Indicators(KPI) 関係者(顧客、規制機関、投資家など)に対し、水道会社がより透明性のある情報公開を促すために設定されているもの年に1度の公表が義務付けられているものの、各社の判断で、年2回以上の業務指標の公表や、指定業務指標以外の指標について公表することも可能

指標の性質に応じて4分野(顧客満足度、信頼性及び利便性、環境影響、財務)に分類される

KPI指標(17項目)顧客満足度 財務

SIM

下水の氾濫断水

税引後資本収益率信用格付資金調達力利子負担率

信頼性及び利便性 環境影響水道インフラ(ハード面) 温室効果ガス

の信頼性 汚染事故(下水)水道インフラ(ソフト面) 重大な汚染事故(下水)の信頼性下水道インフラ(ハード 汚染事故(上水)面)の信頼性 排水規制の遵守

下水道インフラ(ソフト 汚泥処分面)の信頼性漏水

安全な水道供給の指数

(参考文献:Ofwat “Key indicators-guidance”(2013/4/29)) 20

Page 23: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

英国における水道事業の枠組み(O fwatによる規制の枠組み) Ofwatの規制監視下にある水道事業会社は、Ofwatからの規制の一つとしてPrice Review(PR)が行われる PRは各水道会社から提出される事業計画に基づき5年単位で行われ、各会社ごとに料金改定の上限値が設定される。各水道事業会社は、この上限値に基づき、水道料金を決定する。なお、PR14(2014年に実施されたPR。2015年~2019年までの料金を決定)では平均して約5%の値下げが行われた

PRに当たっては、特に経営効率が高い上位1/4社の原価が標準的な料金原価とされ、上位1/4に入らない事業会社は、生産性・効率性を改善できなければ、その分の損失が出てしまう仕組みとすることで、地域独占事業ではありながらも業界全体のレベルアップを図っている。なお期中の水道事業者のパフォーマンスが良い場合、次回のPRにおいて水道料金を高く設定できるように評価され、事業の効率化やサービス向上へのインセンティブが働くように設計されている

PRでは常に利用者のニーズに対応するように枠組みが柔軟に変更されてきている[例えば、PR14まではCAPEX(資本的経費)を重視した費用計算をしていたものの、PR14ではTOTEX(資本経費・運営経費を合わせた総費用)を重視する枠組みに変更されている、など]

Price Reviewの枠組み

2015-20の支出

支出率(P AYG ratio):残余を RCV算出の原価へ

資本収益率( RCV×WACC)

RCV×WACC

※1支出(TOTEX)は経済モデルや周辺の指標をモデリングした内容から評価

2015の RCV

2015-20RCVの算出

RCVを上下水事業間で分配:既存の RCVを用いて

※2WACCは、上場している水道会社の数値等を参考にした資本コスト、及び投資適格(格付会社による格付においてBBB以上)レベルの負債コストの加重平均値を踏まえ算出されている

償却

RCV償却率

※3認可された価格は5年間有効。PR14の枠組みで達成された効率的取組に伴う利益等はPR19における改定時の料金交渉におい

支出(PAYG) 租税 て反映される枠組み※4 PRには通常約2年を費やす

2015-20年の卸売価格が認可される­ ※5 RCV(Regulatory Capital Value)は、水道料金の上限 期初の収入水準と年毎の改定率(小売物価指数+l-K)が明記される 値を設定する際に用いられる、水道事業に係る資産価額。毎期、 水質についてターゲット水準とインセンティブについても同時に設定する CAPEX・減価償却・インフレ率等を考慮して決定される

参考文献:Ofwat ホームページ(http://www.ofwat.gov.uk/)、Severn Trent Services “Severn Trent Overview”(2014)p6Yorkshire Water “Water 2020 issues paper ‒ Summary”P2、CC Water “CCWater Briefing Paper Cost of Capital and the Regulatory Capital Value”、出典:Ofwatヒアリング時提供資料

英国における水道事業の枠組み(O fwatによる規制の枠組み) その他、Ofwatは水道事業会社に対する監視を通じてインセンティブ・ペナルティを各事業会社に付す権限も有している インセンティブはPRにおける水道料金の上限値の引き上げ、ペナルティは罰金などが設定されており、最悪の場合はライセンスの取消もある また、不可抗力事由の発生時などでもOfwatは事業会社に対し支援を行うことは例外的である。一方で、万が一事業会社が破綻した場合でも、基本的にはキャッシュフローが安定的な事業であり負債のカットが達成されれば事業の再出発は可能と考えられていることから、公的インフラとして事業を継続させるための枠組みが担保されており、速やかに事業が継続できるような対応方法が構築されている

インセンティブとペナルティ 不可抗力事由が発生した場合と破綻時の対応

インセンティブ 天災などの不可抗力が発生した場合の対応方法期中のモニタリング評価が良い場合、事業会社は次回PRにおいて Ofwatは基本的には個々の事業会社の経営状況の悪化に伴う値上げする権利を獲得することが可能 支援は行っていないものの、天災などの不可抗力事由が発生し、なおOfwatによる当該インセンティブ設定における金銭的負担は無 「売上が10%以上減少した結果、追加投資が難しくなるレベル」く、あくまで最終消費者が値上げ部分を負担する枠組み に限り、Ofwatが認めた場合のみ例外的にPrice Review期中の

上限料金水準の改訂が認められる ペナルティモニタリングに当たっては、水道事業会社の上位1/4をベンチマー 経営破綻時の対応クとして、下位の経営状況を改善するような要求が行われる これまでに事業会社が破綻した事例は無いものの、事業会社の経なお効率化が図られてない場合や認可違反の事項が発生した場 営が破綻した場合は、裁判所を通じて特別管財人を立てることに合、環境対応が為されていない場合は、ペナルティとなり罰金が発 なる生。重大な義務違反等があった場合はライセンスの取消もあり得る その場合、企業としての水道事業機能は残し安定的な事業継続

性を担保しつつ不良債権処理を進めるため、株主や債権者たる金融機関などの発言権は制限されることとなり、特別管財人が新しい株主(事業法人乃至は投資家)を見つける、もしくは事業会社を再生させるか、の何れかのオプションが実行される

21

Page 24: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業会社に対するヒアリング調査を通じた分析 民営化された上水道事業の枠組み下における実務上の運用や課題、詳細の工夫等を明らかにするために、現地において以下の対象先に対しヒアリングを実施した

対象 :Thames Water、Sutton and East Surrey Water調査日時:2016年6月16日~17日­

Thames Water Sutton and East Surray Water(SESW)事業分野 上下水道 上水道事業エリア ロンドン及びテムズ川周辺域 ロンドン南東部:835㎢給水量 約260万㎥/日 平均16万㎥/日浄水場数 100 8

17,592M GBP 331M GBP総資産 [29,189億円]­ [549億円] 12,256M GBP 222M GBP

[368億円] RCV [20,335億円]­80.8/100(2015)SIM 76.74/100(2015)

職員数 5,057名 270名株主 Kemble Water Holdings Ltd., 26% 住友商事、大阪ガス

Price Review14における料金改訂率 -5% -3%

CEO: Martin Baggs Managing Director:Anthony Ferrar2010/3より現職。公認土木技師 2008年より現職。

経営層 前職はインフラファンドにて、欧州の電力分野向け投資 従前は、英国内の他の水道事業会社の総務・ファイナンスポートフォリオを管理。水事業会社の幹部も歴任してお 部門に15年程在籍しており、水道事業運営に対する知見・り、経営・運営経験も豊富(※2016/9退任予定) 経験も豊富

• 英国では水道料金の算定に当たり固定資産評価額を基準とした定額料金設定が一般的であり、水道メーターの設置は

料金メカニズム 義務ではない • メーター設置家庭は、[Ofwatによって定められた単価]×[使用量]で料金が決定されるメーター非設置家庭は、固定資産評価額を基準にした定額料金

為替レートは1GBP=165.92円(2016年3月31日時点のTTSレート(三菱UFJリサーチ&コンサルティング発表)を参照参考文献:Thames Waterホームページ(http://www.thameswater.co.uk)、Thames Water ”Annual Performance report 2015/16“p26、及びSESWホームページ(http://www.waterplc.com/index.asp)、SESW”Annual report2016“p17、PR料金改定率については、Ofwat “Setting price controls for 2015-20 Overview”をもとに作成

水道事業会社に対するヒアリング調査を通じた分析 Thames Water の 提携プロジェクト 英国における水道事業会社は、上述の通り規制機関により監視されているもののあくまで民営企業として経営することが求められていることから、

各分野において効率化に資する取組を独自に行っている 業務提携・・・ Thames Waterでは、技術・ITなどの面で業界各社と提携を行っている。提携により長期契約に基づく効率化への取組が可

能となり、また獲得した利益を分配することで提携先へのインセンティブにもなっている­

料金設定・・・ SESWでは水道料金の高騰を防ぐため、常に効率性を意識したオペレーションと適正な設備投資を行い、利用者の便益を高めるための施策を行っている­

人材確保・・・各社とも、Ofwatとの交渉では高い専門知識と交渉力を求められるため、外部アドバイザーの起用や幹部人材にOfwat出身者を招聘するなどの工夫を行っている­

業務提携(Thames Water) 水道料金設定における特徴(SESW)

Transformation & Technology Infrastructure Alliance SESWは、かつてSutton地区とEast Surray地区においてAlliance 上下水道ネットワークの維持管理 其々水道を供給していた事業者が合併した経緯を有し、管路・

テクノロジー面での提携。2020年に新 のための提携 システム等を統一することが難しかったため、其々の地区で効率たなITシステムの導入を企図 化を図りながら、異なる水道料金体系を適用している

clancy docwra また漏水率については東京都水道局の水準に比し高くなっていDeloitte IBM MURPHY るが、大幅な改善のためには料金上昇が不可欠となるため、顧BilFINGER accenture KIER MORRISON 客が受け入れられる適正な料金の範囲内で漏水対策を行って

Utility Services おり、また小幅ながらも漏水率の改善が進んでいる

eight2O 提携期間は15年上水道施設や下水パイプライン整備 (5年毎の見直し有)­等の大規模な設備投資のための提携­ Ofwatとの交渉に向けた人材の確保

特徴 Ofwatには水道や政策、規制に関する専門家が多数在籍して

Balfour Beatty MWH 提携企業との業務改善に伴う いるためPR等の交渉では非常に高いスキルが要求されるSkanska

利益は提携企業と均等分配 そのため、運営側でも専門性の高い人材を確保することが必要

IBM ATKINS 知的所有権については、同社 となり、幹部職員にOfwat出身者を招聘することも多い COSTAIN­ が6ヶ月以内に所有権を主張 但し、現場の実務担当者は地域出身者で占められている。水

した場合は同社に属し、主張し 道会社が地域の優良企業として認識されていることもあり長期なければ提携企業に帰属 間在席する職員も多い

(出典:Thames Waterヒアリング時提供資料) 22

Page 25: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

水道事業会社に対するヒアリング調査を通じた分析 英国における水道事業会社は純粋な民間企業であるため、資金調達を含めた経営は独自の意思決定により行われている 継続的に設備投資が必要な資金調達についても債券発行や銀行借入などの選択肢から独自に選択を行っている 外部格付機関は各水道事業会社につき長期発行体格付を投資適格水準としており、規制業種でキャッシュフローが安定的な側面を評価しているものの、負債比率の上昇等により徐々に低下が認められる

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

英国水道会社の平均格付け推移 英国水道会社の負債比率の平均格付け推移 Aaa

2000

2001

Aa1 2002

2003

Aa2 2004

2005

Aa3 2006

2007

A1 2008

A2 2009

2010

A3 2011

2012

Baa1 2013

2014

Baa22015

出典:KPMG(2012) “Financing Water Infrastructure Beyond 2015”2012/12を加工して作成

負債比率の上昇に伴い格付の低下が認められる

出典:M OODY’S (2012) “UK Water Sector:Stable Despite Changes to Regulatory Environment”2012/10/17を加工して作成

市場関係者による規制の枠組みに対する評価

Ofwatをはじめとする規制機関による規制の枠組みについては、事業者など市場関係者からは総じて高く評価されている 但し、規制の枠組みの詳細な論点については個別に議論が残るところ、官民間での議論が継続していくことが見込まれる

SESW(ロンドン南部の上水道事業者) Ofwatにより規定されているプロセスは複雑でかつコストもかかるが、相応にロジックが構成されており、モデルそのものは全体的には評価する

但し、個別のプロセスや評価手法には一部納得性のあるものではないケースも存在する

Thames Water(ロンドン及びテムズ川流域における上下水道事業者) 近年、 Ofwatは規制に対するアプローチを変えようとしている。従前は命令的な指示が多かったものの、現在は原則のみを決定する、と言うやり方。これは水道事業者にとっては裁量が増えるものの、リスクも増える

評価に際しては様々なK PIが存在するものの、その KPIも変化し続けているので、意図的に意思決定のプロセスを曖昧にしていると思っているこれは、最終利用者のニーズに敏感に反応した上で、柔軟にルール変更ができるようにすることで、事業者によるイノベーションを引き出そうとしているものだと理解している

Ofwatによる PRは5年毎に行われ、それ自体は支持しているが、常に総選挙の 6か月前の時期と重なるため、政治的に影響を受ける可能性があると思っている

Water UK(水道事業者による業界団体) Ofwatによる指標は非常にうまく機能していると考えられている。指標は組織設立当初はシンプルなルールからスターとしたが、 20年間で複雑化し、水道事業会社も規制に対する対策を真剣に考えなくてはならなくなってしまった

特に近年は消費者保護の視点が重視されている Ofwatと民間水道事業者とのコミュニケーションは、規制当局と受ける側、ということで緊張関係があるものの、環境変化等に合わせて段階的に(規制の枠組みを)発展させることで、厳しい規制でも基本的には受け入れられている

(民間コンサルタント) Ofwatは各社の指標への達成度を比較することを通じて競争環境を構築し、達成度を一覧で評価しており、今後の自由化も踏まえ、より一層競争環境が進んでいくことになると思われ、評価しうる

Ofwatは、利用者の便益のため料金値下げに繋がる取組を優先的に評価するような枠組みを講じており、利用者寄りの姿勢が認められる

23

Page 26: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

A社エリア

水道事業会社A 小売会社B 卸売

利用者(法人)

水供給小売

(料金請求)

近年の動向(小売自由化への動き)

英国における水道事業は民営化以降20年以上が経過し、Ofwatを初めとする規制機関やThamesWaterやSESWを初めとする民間事業者の間での役割やリスクの分担が適切に浸透してきているところである

他方、Ofwatはさらに市場の自由化を進めようとしており、例えば2017年4月以降、法人向け小売事業の自由化が決定されている。また、PR19では家庭向け水道事業における自由化が検討されるなど、2020年以降に一層市場の自由化が進む可能性もある

~2017.3­ 2017.4~

※利用者はA社/B社を選択するオプションを有す

小売(料金請求)

小売会社B※水道事業分野以外の企業でも参入可能

水道事業会社各社は係る自由化を見据え、水道事業者間で管路を連結するための検討を進めているという情報もあった

また水道事業会社間の統合の可能性についても言及があったところ、市場の自由化が進む可能性もあるものの、市場関係者の中には疑義を感じている場合もあったことから、今後の状況については注視が必要になってくるだろう

水道事業会社A

利用者(法人)A社エリア

水供給小売

(料金請求)

(参考)調査においてヒアリングを実施した企業情報

Veolia Environment Suez Environment Thames Water Sutton and East SurreyWater

(参考)東京都水道局

総資産

負債

純資産

売上高

水道部門売上高

営業利益

純利益

EBITDA

従業員数

純資産比率

主要株主

他の事業

35,889M EUR[46,369億円 ]

27,632M EUR[35,701億円 ]

17,592M GBP[29,189億円 ]

331M GBP[549億円 ] 26,776億円

8,170M EUR[10,556億円 ]

20,827M EUR[26,908億円 ]

14,478M GBP[24,022億円 ]

253M GBP[420億円 ]

2,520億円(企業債残高)

9,503M EUR[12,278億円 ]

6,805M EUR[8,792億円 ]

3,114M GBP[5,167億円 ]

79M GBP[131億円 ] ー

24,965M EUR[32,255億円 ]

15,135M EUR[19,554億円 ]

2,040M GBP[3,385億円 ]

63M GBP[105億円 ]

3,280億円(総収益)

11,348M EUR[14,662億円 ]

(45%)

7,719M EUR[9,973億円 ]

(51%)

2,040M GBP[3,385億円 ] (100%)

63M GBP[105億円 ](100%)

3,280億円(総収益、 100%)

1,315M EUR[1,699億円 ]

2,750M EUR[3,553億円 ]

742M GBP[1,231億円 ]

20M GBP[33億円] ー

580M EUR[749億円 ]

408M EUR[527億円 ]

566M GBP[939億円 ]

15M GBP[25億円] 351億円

2,997M EUR[3,872億円 ]

2,751M EUR[3,554億円 ] ー ー ー

81,611人(全体 173,959人) 82,536人 5,057人 270人 3,855人

26.5% 24.6% 17.7% 11.6% ー

ファンド 8.62%、ダッソーグループ 4.75%

ENGIE33.55% , CriteriaCaixa5.65%

Kemble Water Limited(マッコーリーグループ主導)

住友商事5 0%、大阪ガス 50% ー

エネルギー事業、廃棄物処理事業等

廃棄物処理 ー ーー

為替レートは1EUR=129.20円、1GBP=165.92円(いずれも2016年3月31日時点のTTSレート(三菱UFJリサーチ&コンサルティング発表)を参照出典:Veolia (2015)“Registration Document Annual Financial Report”/Suez(2015)”2015 Annual Results”、

Thames(2015)”Annual report and financial statements”/SESW(2015)”Annual Report 2015” 24

Page 27: フランス・英国の水道分野における 官民連携制度と …...2016.4.1以降、DSPは「コンセッション」の一種として法律にて分類されたものの、実務的には上図の分類が市場関係者において一般的

[本件問い合わせ先]株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 PPP/PFI推進センター

TEL:03-3244-1750

25