－146　－

スポーツウェアーの材質・機能の違いが非定常負荷運動時

の生理応答に与える影響

広 島 工 業 大 学

（共同研究者）香　川　大　学

川崎医療福祉大学

広 島 工 業 大 学

西　村　一

吉　岡

小野寺

高　本

樹

哲　昇

登

Effects　of］丶Materials　and　Functions　of　Sports　Clothes　on　Physiological　Response

during　Unsteady　Workload　Exercise　　　 ‥　　I　　　レ

by

Kazuki　Nishimura

77jΓθぶhima 　Inぶtitute 　ofTechn θ／θgy

Akira　Yoshioka

Kagawa びniversity

Sho　Onodera

Kawasaki びiversi 印 可Medical 　Wべ ／召だ

Noboru　Takamoto

Hiroshima　Institute　of　Technology

ABSTRACT

The　purpose　of　this　study　was　to　determine　the　heart　rate　（HR ），　the　blood　pressure

（BP ）and　the　oxygen　uptake　responses　in　wearing　sports　clothes　with　compression　皿d

gradation　during　unsteady　workload　exercise ・　Volunteering　to　participate　in　this　study

were　18　healthy　Japanese　males，　who　gave　their　informed　consent　prior　to　participation．

Each　subject　performed　cycling　exercise　for　32　rain，　皿d　recovered　仮〕r　10　min　in　the

supine　position・　They　performed　the　exercise　in　two　portions，　a　calibration　test　portion

デサントスポーツ科学Vol ．　33

－147　－

and　gradual　increase　and　decrease　of　work］load　exercise　test　portions．　The　calibration

test　consisted　of　three　4min　bouts　of　exercise　at　20，　60　and　40％　of　maχimum　oχygen

uptake ．　The　gradual　increase　and　decrease　of　workload　exercise　test　consisted　of

4min　bouts　of　gradual　increase　and　decrease　of　workload　exercise　at　between　20

and　60％　of　maχimum　oχygen　uptake．　The　experimental　conditions　were　control

condition 　（C －condition）　and　wearing　sports　clothes　in　compression　and　gradation

condition　（CG －condition）．　HR，　BP，　oxygen　uptake　were　measured　in　both　experiments・

Maximal　and　minimal　values，　amplitude　and　phase　lags　at　workload　top　and　bottom

were　measured　in　each　gradual　increase　and　decrease　of　workload　exercise　cycle・　At

rest，　physiological　markers　showed　no　significant　difference　in　either　condition．　HR

at　60％　and　top　of　workload　in　the　CG－condition　was　significantly　lower　than　in　the

C －condition　（p＜　0．05，　respectively）．　At　20％，40％and　bottom　workload ，　however ，

HR　showed　no　significant　difference　in　either　condition．　The　phase　lags　to　the　top

the　workload　in　the　CG－condition　was　significantly　shorter　than　on　the　C－condition

（p＜　0．05）．However，　phase　lags　to　the　bottom　of　the　workload　showed　no　significant

difference　in　either　condition．　BP，　oxygen　uptake　and　double　product　showed　no

significant　difference　in　either　condition・　These　data　suggest　that　the　sports　clothes

in　compression　and　gradation　acts　as　an　advantage　of　the　relative　exercise　intensity

decrease　in　moderate　bicycle　exercise・

要　旨

本研究は，段階的着圧機能を有するスポー＝ツ

ウェアーの着用が非定常負荷運動中の生理指標

に及ぼす影響を明らかにした．健康な成人男性

18 名を対象に自転車運動を実施した．運動は，

定常負荷運動（最大酸素摂取量の20 ％，　60％，

40％）と非定常負荷運動（最大酸素摂取量の20－

60％ 強度における漸増漸減負荷運動）とした．

測定条件は，段階的着圧ウェアーを着用する条

件と着用しない条件とした．測定項目は，心拍数，

血圧，酸素摂取量とした．漸増漸減負荷運動の

心拍数，酸素摂取量の最高値，最低値，位相の

遅れ時間，振幅割合を算出した．その結果，段

階的着圧ウェアーの着用が安静時と運動後回復

期の生理指標に及ぼす影響は小さいが，定常負

デサントスポーツ科学Vol．33

荷運動（60％），漸増負荷局面の心拍 数を有意に

減少させ，位相の遅れ時間を有意に短縮させる

ことがわかった，この応答は，低強度運動にお

いては観察されなかった．以上の結果より，段

階的着圧機能を有するスポーツウェ アーの着用

は，中等度の自転車運動において相対的な運動

強度減少の利点として作用するものと考える．

緒 言

段階的着圧機能を有するスポーツウェアーが

開発され，競技スポーツのみならず多くのスポー

ツ現場に普及している．段階的着圧ウェアーは，

手首，足首の着圧が最も高く，心臓に近くなる

ほど着圧が低く設計されているレ 着圧による静

脈還流の増加が筋疲労，遅発性筋肉痛の軽減お

よび運動パフォーマンスを向上させると考えら

－148　－

れている． しかしながら，その詳細については

十分に検討 されていない．早田ら5）は，段階的

弾性ストッキ ング着用が下肢の静脈コ ンプライ

アンス を上昇 させることを報告した．運動に関

する知見は，低 速度の走運動中のエ ネ ルギ・一消

費量が有 意に減少 すること2）やリカンペント自

転車運動中の呼吸循環動態に影響を及ぼさない

こと8 ）などがみられる．我 々は，段 階的着圧機

能を有するスポーツウェアーの着用が20m シ ャ

ト ルランの反復回数 を有意に増加 させ るこ とを

明らかにした13）．一方，　20m シャトルラ ン終了

時 の心拍数 に段階的着圧 ウェ ア・－の有無に よっ

て有意な差が観察 されなかったレ このことから，

同一反復回数であ れば心拍数は，段階的着圧ウェ

アーの着用が低値を示すものと考察した．

正弦波運動負荷試験3・　4・　9・　10・　14）あるい は漸増

漸減負荷運動試験11・　12・　15）などの非定常負荷法

を用い れば，運動負荷に対する生体の適応力 を

評価で きる6）．多 くの先行研 究は，運動負荷に

対す る追従性 の指標 として，心拍数お よび酸素

摂取量の振幅 割合あるいは位相の遅 れ時間を用

い てい る．　Fukuoka 　et　al．^ は，非鍛 錬者と比較

して持久性運動 習慣者の運動負荷に対する酸素

摂取量の振 幅が大 きいこと，位相の遅 れ時間が

短いこ とを明ら かにし， 運動負荷に対する振幅

割合と位相の遅 れ時間が持久性 能力 を強 く反映

する指標であ る可能性を指摘した．鍋倉ら9）は，

持久的 なトレ ーニ ングの実施が心拍応答の振幅

割合の増大と位相の遅れ時間の短縮を引 き起こ

すこ とを明 らかにした 我々ぱ，漸増漸減負荷

運動 に対する心拍応答の追従性 を午前と午後で

比較し たに 午前中は，運動負荷に対 する心拍応

答の振 幅割合 が増大し，運動負荷の追従性に優

れることを報告したn ）．　　　　　 十

以上の先行研 究の知見に基づ き，段階的着圧

機 能を有するスポ ーツウェアーの着用 はレ 運動

負荷 に対する心拍，血圧お よび呼吸 応答の追従

性の指標が高値を示すものと仮説立てした．本

研究は，非定常負荷運動中の心拍数，血圧およ

び酸素摂取量を指標とし，段階的着圧ウェアー

の着用の有無が運動時の生理応答に及ぼす影響

を明らかにすることを目的とした．

1．研究方法　　　　　　 十

1　．　1　対象者

被験者は，健康成人男性18 名としたi 被験者

の特性は，年齢21 ．0±0．6歳（mean 土SD ），身長

170．7　＝！t3．7cm，体重62．0±11．3kg，最大酸素摂取

量47．4±7．5mlykg／minであうた．被験者にはヘ

ルシンキ宣言の趣旨に沿い，研究の目的卜 方法，

期待される効果卜 不利益がないこと，危険を排

除した環境とすること，個人情報保護について

説明を行い，書面にて研究参加の同意を得た．

1 レ2　 実験方法　卜

各条件の測定に先立ち自転車エ ルゴメーター

（AEROBIKE75XLII　 ；　COMBI　社匚 を用いた漸増

負荷運動試験によって最大酸素摂 取量の測定を

行った．被験者は，仰臥位姿勢の 安静を5 分間

保った後 に32 分間の自転車運動を行った．運動

課題は，12 分間の定常負荷運動お よび20 分間の

漸増漸減負荷運動 とした．定常負荷 運動は，最

大酸 素摂 取 量 の20 ％，60％ お よ び40 ％ 負 荷 強

度の頽とし，各負荷4 分間とした．漸増漸減負

荷運動は，最大酸素摂取量の40 ％ 負荷 強度から

15 秒毎 に5 ％ ずつ60 ％負荷 強度 まで漸増 させ，

60％ からは同様に20 ％ 負荷強度まで漸減させた．

i 周 期の 運動時 間 は4 分間 とし，5 周期 実施 さ

せ た．測 定条 件は，段 階的着圧 ウェ アー（ロ ン

グスリ ーブト ップ（B10001005 ）， ロングタイツ

（B10001001 ）；スキンズ社，段階的圧迫圧ソック

ス（CGSOCKS33 ）　；ア ルケア株式 会社） を着用

する条件（CG 条件）および段階的着圧ウェアー

を着用しない条件（コントロール（C ）条件）の

デサントスポーツ科学Vol ．　33

2 条件とした．両条件は，異なる日の同一時間帯

（午後3 時から6 時）に実施した，両条件の実施

順はランダムとし，測定間隔は1 週間とした．被

験者には，前日のアルコール摂取不可，実験開始

3 時間前からの絶食を指示した 実験室の室温お

よび湿度は，23．3±1．1℃および60．9±6．1％であっ

た．

1．3　測定項目　　　＼

測定項目は，心拍数，血圧および酸素摂取量と

した．心拍数は，胸部双極誘導法から得られた

心電図波形の1 分間のR 波の数とした（メモリ

心拍計LRR －03；アームエレクトロニクス株式会

社），定常負荷運動における各負荷の後半1 分間

の平均値をその負荷の心拍数として用いた．　20％

負荷と60％負荷における心拍数の差を定常負荷

における振幅とした．さらに，漸増漸減負荷運

動における心拍応答の5 周期を加算平均し厂曲

線回帰式を推定した／推定式から心拍応答の最

高値，最低憔 漸増漸減負荷運動における振幅，

振幅割合（定常負荷を基準とした漸増漸減負荷

運動の心拍応答の相対値）および位相の遅れ時

間を算出した．血圧測定は聴診法を用い，測定

時間は30 秒間とした．安静時は，4 分後および

5 分後に測定を行い，平均値を安静時血圧とした．

定常負荷運動は，各負荷の3 分後および4 分後に

測定を行い，平均値を各負荷の血圧とした．漸

増漸減負荷運動は，各周期の最高負荷および最

低負荷局面に測定を開始し，5 周期の平均値をそ

れぞれの局面における血圧とした．血圧測定を

行った30 秒間の平均心拍数と収縮期血圧との積

をダブルプロダクトとし，心筋の酸素消費量の

指標として用いた．酸素摂取量の測定には，ブ

レスバイブレス（AE300S；ミナト医科学株式会社）

法を用いた．酸素摂取量の評価は，心拍数と同

様に定常負荷運動における各負荷の酸素摂取量，

振幅，漸増漸減負荷運動における最高値，最低値，

デサントスポーツ科学Vol．33

－149　－

振幅，振幅割合および位相の遅れ時間を算出し

た

1．4　統計処理

測定値．は，平均 土標準偏差で示 した 各パ

ラメーターの両条件間の差を繰り返 しのある二

元配置分散分析（ANOVA ）を用いて検定した

両条件の平均値の比較は，対応のあ るt－testを

用い検定した．いずれの場合も危険 率5 ％ 未満

（p＜0．05）を有意な差とした．

2．結　果

表1 にC 条件およびCG 条件にお ける仰臥位

安静時の各生理指標の比較を示した．心拍数，収

縮期と拡張期血圧，ダブルプロダクト，心臓副

交感神経系調節の指標であるIn　HF　お よび酸素摂

取量の両条件間に有意な差はみられなかった．

図1 にC 条件およびCG 条件にお ける定常負

荷運動中の（a）心拍数，　（b）血圧，（c）ダブル

プロダクトおよび（d）酸素摂取量の比較を示し

た．20％強度および40％強度の心拍数，収縮期

と拡張期血圧，ダブルプロダクトおよび酸素摂取

量に両条件閧に有意な差はみられなかった．し

かしながら，60％強度において，CG 条件の心拍

数は，有意な低値を示した（p＜0．05）．

漸増漸減負荷運動における（a）心拍数，（b）

血圧，（c）ダブルプロダクトおよび（d匚酸素摂

取量の最高値および最低値の比較を示した（図

2）．心拍数の最高値は，C 条件と比 較してCG

条件において，有意な低値を示した（p＜0．05）．

しかしながら，最低値は，すべての測定項目に

おいて両条件間に有意な差はみられなかった．

図3 に（a）定常負荷運動における心拍応答の

振軋 （b）漸増漸減負荷運動における心拍応答の

振幅および（c）振幅割合を示した．定常負荷運

動のおける心拍応答の振幅は，C条件と比較して，

CG 条件において有意な低値を示した（p≪0．05）．

－150

abcdefghl

・Jklmnopqr

表I　C 条件お よびCG 条件における仰臥位安静時の各生理指標の比較

収縮期血圧（mmHg ）　 拡張期血圧（mm ㈲　　 獣 熊 量（m心 湎φ

c 条件一日3

129n7

59　123658　343

り乙

11990012209101

り乙

11　11111191111

CG 条件

58104677327226702

9820111120311121021

11111111111111111

C 条件968851267504740688

65546656448646656

″り

CG 条件08553626048130482

6654646655566765g

‥）

C 条件

8795242743　3　3　7　3

308393030321

名I

£

－840

44233343534433343f4

‘

CG 条件－4．26

4．41

3．84

3．4

4．17

3．78

4

2．68

4．83

4．96

4．38

3．67

3．83

3．23

3．78

3 ．7

3．76

DP（mmHg・bpm・圓 ）

C 条 件　CG 条件

59 ．3　　54 ．7

82 ．3　　82 ．1

75 ．5　　652

83 ．7　　94 ．5

75 ．8　　73 ．4

80 ．1　　101 ．5

52 ．2　　62 ．8

59 ．3　　79 ．5

87 ．3　　66 ．8

79 ．7　　88 ．3

61 ．6　　59 ．6

66　　　74 ．9

74 ．1　　79 ．7

66 ．3　　8〔〕．8

56 ．9　　67 ．1

70 ．8　　69 ．7

63 ．6　　62 ．9

mean

SD

150

140

（E

忿

）

叔

黒

心、

130

120

110

100

90　80

260

鈔40

も

洞

）（

）缸

140

120

100

80

20

心 拍 数（bpm ）

C 条 件　CG 条件

52 ．5　　55 ．8

63 ．8　　65 ．7

64 ．5　　60 ．4

72 ．8　　85 ．2

63 ．7　　66 ．7

81　　　89

51 ．6　　54 　2

58 ．1　　62 ．6

77 ．3　　625

63 ．2　　66 ．4

49 ．3　　53 ．2

61 ．1　　　64

74 ．9　　712

58 ．6　　66 ．2

54 ．7　　57 ．9

62 ．6　　65 ．2

52 ．2　　52 ．4

56 ．5　　56 ．4－62 ．1　　64 ．2

±9 ．3　　±9 ．9

In　HF

c 条件　cG 条 件

635　　4 ．32

7．46　　7 ．55

7．3　　　7．25

6．8　　　6．n

7．44　　7 ．24

6．75　　5 ．87

7．86　　7 ．93

7．75　　7 ．43

6．86　　8 ．08

5．55　　5 ．75

7．6　　7 ．9

6．33　　6 ．12

5－84　　7 ．15

4．67　　5 ．36

5．39　　5 ．85

6．71　　7 ．08

7．97　　7 ．57

7．57　　　4．1

6．79　　6 ．59

±0 ．94　 ±1 ．21

60

運 動 強 度 （％）

運 動 強度 （％）

40

±9 ．5

114 ．8

±8．3 ±9 ．4

180

160

140

20　00　80

1　1

（切エEE）

出目

60　40

30

2 5　　

2 0　　

1 5

（

こIEへI

｀一E

）

劇

叫

歐｛

蕪

赳

10

20

59 ．5

±7 ．1

3．81

±0 ．52

3．91

±0 ．54

60

運 動 強 度 （％）

60

運 動 強 度 （％）

図I　C 条件およびCG 条件における定常負荷運動中の（a）心拍数，（b）血圧，

（c）ダブルプロダクトお よび（d）酸素摂取量の比較

0 ，△，▽，0，◇；C条件，●，▲，▼，■，◆；CG条件　※；p＜0．Q5，C条件vsCG 条件

漸増漸減負荷運動における心拍応答の振幅およ

び振幅割合は，両条件問に有意な差は観察され

なかった．図4 に（a）定常負荷運動における酸

69 ．6

±10 ．6

40

40

73 ．7

±12 ．6

素摂取量の振幅，（b）漸増漸減負荷運動におけ

る酸素摂取量の振幅および（C）振幅割合を示し

た．定常負荷運動，漸増漸減負荷運動における

デサントスポーツ科学Vol．　33

（E

忿

）

叙

垣

心ヽ

（E

盆

・叨エEEOO

’×

）

ちコ名

』Q1

○

150

140

130

120

110

100

0　0

9　8

0　0　0　0　0

6　4　2　0　8

2　2　2　2　1

160

140

120

100

（C ）

80 二莇1

60

0　　0　　0　　0　　0　　0

5　　4　　3　　2　　1

（Ei

）鼕躡

卜

卜

糶トト

面

卜上

■レレ

漸減負荷局面

180

160

140

0　0　0

12108

（ぞEE）出目

0　0

6　4

30

25　　20　　15

（に1

へ箜

ぺ｛E

｝

飆

陌

蜘

蕪

趨

10

漸増負荷局面

永

図2　C 条 件 お よ びCG 条件 に お け る 漸 増 漸 減 負荷

運動 中の（a）心拍数 ，　（b）血圧 ，　（c） ダブ ルプロ ダクトお よび（d） 酸素摂 取量 の比較

0 ，△ ，▽，0，◇；C条件，● ，▲ ，▼ ，■ ，◆；CG 条件　 ※；p＜　0．05，C条件vs 　CG条件

60

0　　0

5　　4

0　　0

3　　2

（E忿

）

蓼纖

0　　0

1

60

50

0　　0　　0

4　　3　　2

（笆

如祠

鼕碌

10

0

図3　C 条件およびCG 条件における（a）定常負荷運動の心拍応答の振幅，

（b）漸増漸減負荷運動の心拍応答の振幅および（c）振幅割合の比較

※；p＜　0．05　，C条件vsCG 条件

デサントスポーツ科学M 〕1．33

－151　－

－152 －

15

1 0

（

仁一万

箜

ヘ

ーE）

箴

5

0

j

）如茹卵碌

0　0

7　6

0　0

5　4

0　0

3　2

0　0

1

C 条件

図4　C 条件およびCG 条件における（a）

1

（

⊂一E

ぺ砂

一ヘ

ーE）

鴫急

璋

CG 条件

定常負荷運動の酸素摂取量の振幅，

（b）漸増漸減負荷運動の酸素摂取量の振幅お よび（C）振幅割合の比較

酸素摂取量 の振 幅お よび振幅割合は，両条件 間

に有意な差はみられなかった

図5 に（a）漸増負荷局面における心拍応答の

位相の遅 れ時間，（b） 漸減負荷局面 におけ る心

拍応答の位相の遅れ時間 （c）漸増負荷局面 にお

ける酸素摂取量め位相の遅れ時間お よび（d）漸

減負荷局 面におけ る酸素摂取量の位相 の遅れ時

間のC 条件お よびCG 条件の比較を示した， 漸

増負荷局 面にお ける心拍応答の位相 の遅 れ時 間

は，C 条件 と比較して，CG 条件におい て有意な

低値を示 した（p＜0．05）．漸減負荷局面においては，＼

両条件間に有 意な差 は観察 されなかった卜 酸素

摂取量の位相の遅れ時間は，両条件 間に有 意な

差はみられなかった．　　　　　　　　 ………く ………

運動後 回復期 の（a）心拍数，（b卜 血圧，バc ）

ダブルプロダクトお よび（d）酸素摂取量の推移

を図6 に示 した． 仰臥位 回復 におけ る心拍数，

血圧， ダブ ルプロ ダクトおよび酸 素摂取量 に両

条件に有意な差はみられなかった．

3 ．考　 察……………＝：エ，∧

本研究の結 果は厂段 階的着圧機 能を有す るス

ポーツウェ アー：の着用 が，中強度運動 中の心拍

数を低値で推 移させ↓ 位相の遅 れ時間を短縮 さ

せることを示唆し，運動 中の段階的着圧機 能を

有するス ポーヅ ウ1 アーの有用性 を示す知見で

ある．

安静時における両条件問の心拍数，収縮期と拡

張期血圧，ダブルプロダクト，ln　HF および酸素

摂取量に有意な差はみられなかった 早田ら5）は，

段階的弾性スト ッキング着用が下肢 の静脈コ ン

プライアンスを上昇 させ，静脈還流量 を増大 さ

せることを報告した．しかしながら，本研究のC

条件とCG 条件の間に有意な差がみられなかった

ので，段階的着圧 ウェアー着用が安静時の生理

指標 に及ぼす影響は小 さく，心拍 数，血圧 等に

デサントスポーツ科学Vol ．　33

（必

）区営

翁朔（｀茆胆

50　45

0　　5　　0

4　　3　　3

25

0　　5　　0　　5　　0　　5

5　　4　　4　　3　　3　　2

（必

）巨酋

茄啖e

弯汨

1甬ぐ

C 条件

（C ）

―

CG

（必）

区歯

砿朔e

罕

汨

0　　5

5　　4

0　　5　　0　　5

4　　3　　3　　2

0　　5　　0　　5　　0

5　　4　　4　　3　　3

（忿

）巨酋4

鬧Q

＝ｔ汨

25

－153　－

図5　C 条件およびCG 条件における（a）漸増負荷局面の心拍応答の位相の遅れ時間，（b）漸減負荷局面の心拍応答の位 相の

遅れ時間，（c）漸増負荷局面の酸素摂取量の位相の遅れ時間および（d）漸減負荷局面の酸素摂取量の位相の遅れ時間の比較

0 ，△，▽，0，◇；c条件，●，▲，▼，■，◆；CG条件　※；P≪0．05，C条件vsCG 条件

100

0　　0　　0

9　　8　　7

（Eg

）叙

垣々

60

105

（食）巨

隹翁

朔e

罕

佃

0　5　0　5　0　5　0　5

099887　7　6

1

120

110

0　0　0　0　0　0

0　9　8　7　6　5

1（切エEE

）

田

伺

01　2　3 　4　5　6　78　910仰臥位回復（分）

ト

ト匚匚卜■1111L

砌ぐ

0　1　2　3

j

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45　678　910仰臥位回復（分）

（C一EぺI

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（）1　2　3　4　5　6　7　8　910

仰 臥 位 回 復 （分 ）

0　1　2　34　5　6　7　8　910

仰 臥 位 回 復 （分 ）

図6　 運動後回復期の（a）心拍数，（b）血圧バc ）ダ ブルプロダクトおよび（d）酸素摂取量の推移

0 ，△，▽，0，◇；C条件，●，▲，▼，臘，◆；CG条件　※；p≪0．05，C条件vsCG 条件

デサントスポーツ科学Vol ．　33

－154　－

有意な差を生じさせない程度であったと考える．

定常負荷運動20 ％および40％負荷における心

拍数，収縮期血圧，ダブルプロダクトおよび酸

素摂取量は，両条件間に有意な差はみられなかっ

た，しかしながら，　60％負荷において心拍数は，

CG 条件が有意な低値を示した．この応答は，筋

のポンプ作用に段階的着圧による静脈還流の増

大が加算され，引き起こされたものと考える．こ

のことは，段階的着圧ウェアーが最大酸素摂取量

に有意な影響を及ぼさない7 ），低速度の走行中の

エネルギー消費量が減少する2），リカンベント

自転車運動中の酸素摂取量，心拍数，一回拍出量，

心拍出量に有意な影響を及ぼさない8 ）などの報

告と異なる．本研究は，ロングスリーブトップ，

ロングタイツ，＝段階的圧迫圧ソックスを着用した

ことから，段階的着圧による静脈還流の増大が

顕著であったものと推測する．このことが，60％

負荷強度の心拍数を有意に減少させたものと考

える．　20％および40％負荷強度に有意な差がみ

られなかったので，本研究の知見は中等度運動

における筋のポンプ作用と段階的着圧による静

脈還流の増大の相乗効果によって引き起こされ

た可能性が考えちれる／漸増漸減負荷運動のおけ

る心拍数の最高値は，CG 条件において有意な低

値を示した．しかしながら，最低値には有意な

差はみられなかったので，本研究の知見が筋の

ポンプ作用と段階的着圧との相乗効果によって

心拍数およびが減少した可能性が高いと考える．

定常負荷における心拍数の振幅は，CG 条件に

おいて有意な低値を示した．このことは，　60％

負荷強度におけるCG 条件の心拍数の有意な減少

によるものである．漸増漸減負荷における心拍数

および酸素摂取量の振幅は両条件間に有意な差

はみられなかった．また，振幅割合にも有意な

差はみられなかった．我々は，水中環境におけ

る静脈還流の増大が心拍応答の振幅割合に有意

な影響を及ぼさないことを明らかにした12） 同

様の応答が本研究においてもみられたと考える．

CG 条件 におけ る心拍応答の位 相の遅 れ時 間

は，有意に短縮した このことは，段階的着圧ウェ

アー着用による運動中 に運動負荷 に対する追従

性が優 れることを示 す．漸増負荷 局面と漸減負

荷局面におけ る心拍変動スペ クト ル解析から得

られるHF 成分 は，漸 減負荷局面 において 有意

に高値 を示す10） このことから，位相の遅 れ時

間の短縮は，運動強度に対応した自律神経系 の

活動水準が関与するものと考えられる．つ まり，

段階的着圧 ウェ アー着 用による静脈還流量の増

大が漸増負荷 局面におけ る位相の遅 れ時間を短

縮させたものと推測する．

運動後回復期の両条件の心拍数，収縮期と拡

張期血圧， ダブ ルプロダ クトおよび酸素摂取量

に有意な差はみられな かった．　Berry　et　al．I）は，

最大酸素摂取量の110 ％強度の走行3 分間後の心

拍数，酸素摂取量に着圧の効果は観察されない

ことを明らかにした 村瀬ら8）は，段階的弾性

タイツ着用が自転車運動後回復期の酸素摂取量，

心拍数，一回拍出量および心拍出量に有意な影響

を及ぼさないことを明 らかにした 本研 究の知

見は，これらの先行研究を支持するものである．

以上のことから，段階的着圧 ウェアーは，　60％

負荷強度の心拍 数を有意 に減少させることが明

らかになった　 このこと は，筋の ポンプ作用 と

段階的着圧 による静脈還流の増大 の相乗効果 に

よって引き起こされる可能性を示唆する．段階的

着圧ウェ アー着用 による静脈還流の増大は，中

等度の自転車運動において効果的 であるこ とが

新しい知見であると考える．

4 ．まとめ

本研 究は，段 階的着圧 ウェ アーの着用が非定

常負荷 運動 におけ る心拍 数，血圧，酸素摂取量

に及ぼす影響につい て検討し た． その結果，以

下の知見が示 された．

デサントスポーツ科学Vol ．　33

（1）段階的着圧ウェアーの着用は，60％負荷

強度の自転車運動中の心拍数を有意に減少させ

る．さらに，運動負荷に対する位相の遅れ時間

を有意に短縮させるよしかしながら，運動強度

が低い場合にはこれらの応答は観察されない．

（2）段階的着圧ウェアーの着用による静脈還

流の増加が安静時および回復期の心拍数，血圧，

酸素摂取量に及ぼす影響は小さい．以上のこと

から，段階的着圧機能を有するスポーツウェアー

の着用は，中等度の自転車運動を実施する者に

とって，相対的な運動強度の減少などの利点と

して作用するものと考察する．

謝　辞　　　　　し

本研究を遂行するにあたり，多大な御協力を

頂 きました広島工業大学長崎浩爾先生よ本研究

室の学生諸子に心より感謝申し上げます．また，

研究助成を賜りました公益財団法人石本記念デ

サントスポーツ科学振興財団に厚く御礼申し上

げます．　　　　　　　　　　　　　　十

文　 献

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