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36 スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み 1. はじめに 特集 概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、 I CT)機器の利用 に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、U I )を持つアプリケーションである。 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、 ICT機器 の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、U I 設計を行う必要がある。そこ で、「ふるさと元気」の U I を設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ ストを実施し、高齢者の特性を把握しているU I 専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者 の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」の U I 設計の指針を整備した。 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のU I 設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの 品質向上のためにユーザ中心設計に基づくU I 設計を行うことの有用性、課題について考察する。 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾[1] の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用 いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開 発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した 生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢 者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生 活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている (図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン アプリケーションが「ふるさと元気」である。 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを 支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、 様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特 性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿 杉本 圭優      柵 富雄 スマート端末によるモバイルクラウド

スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

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スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

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特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

41

Page 2: スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

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スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

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特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

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スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

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 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

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特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

41

Page 4: スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

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38 39

スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

43

特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

41

Page 5: スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

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40 42

38 39

スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

43

特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

41

Page 6: スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

36 37

40 42

38 39

スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

43

特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

41

Page 7: スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

36 37

40 42

38 39

スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

43

特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

41

Page 8: スマートフォンにおける 高齢者向けユーザインタフェース設計の … · 実態を反映したui設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ 特性、「ふるさと元気」のui設計の指針を紹介するとともに、ソ

36 37

40 42

38 39

スマートフォンにおける高齢者向けユーザインタフェース設計の取り組み

1. はじめに

特集

概要 インテックが開発したスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」は、情報通信(以下、ICT)機器の利用

に慣れない高齢者でも使いやすいユーザインタフェース(以下、UI)を持つアプリケーションである。

 高齢者にとって使いやすいアプリケーションを提供するためには、高齢者の認知的、身体的特徴や、ICT機器

の操作経験が一般的に少ないこと等、高齢者の様々な特性を踏まえたうえで、UI設計を行う必要がある。そこ

で、「ふるさと元気」のUIを設計するにあたり、既存のツイッターアプリケーションを対象としたユーザビリティテ

ストを実施し、高齢者の特性を把握しているUI専門家とともに、ツイッターアプリケーションの問題点と高齢者

の特性を明らかにしたうえで、問題点を解決する「ふるさと元気」のUI設計の指針を整備した。

 本稿では、高齢者の特性、評価結果、「ふるさと元気」のUI設計の指針を紹介するとともに、ソフトウェアの

品質向上のためにユーザ中心設計に基づくUI設計を行うことの有用性、課題について考察する。

特集

特集

特集

 2010年秋に、インテックは、富山インターネット市民塾 [1]

の「富山シルバー情報サポータ活動事業」にて高齢者にご活用

いただくスマートフォンアプリケーション「ふるさと元気」を開

発した。富山県内の産官学が連携しインターネットを活用した

生涯学習事業を運営する富山インターネット市民塾では、高齢

者の ICT 利活用を支援するシルバー情報サポータが高齢者の

ICT 利活用をサポートしている。この取り組みでは、高齢者で

も親しみやすい ICT 機器である iPhone を使い、ツイッター

を介してシルバー情報サポータと高齢者とが地域活動やイベン

ト情報を共有したり、高齢者ならではの身近な知恵、日々の生

活の中で感じた思い等を高齢者自ら情報発信したりしている

(図1参照)。この取り組みの中で活用されているスマートフォン

アプリケーションが「ふるさと元気」である。

 「ふるさと元気」は、高齢者の日常的なコミュニケーションを

支援することが目的であること、ICT 機器の操作に不慣れで、

様々な身体能力が低下している高齢者が活用するアプリケー

ションであることから、高齢者が ICT 機器の利用する際の特

性を把握したうえで、高齢者にとって使いやすいアプリケー

ションとして設計することが求められる。また、アプリケーション

に対するユーザ品質を向上させるためにも、ユーザの特性を綿

杉本 圭優      柵 富雄

第12号

第12号

第12号

スマート端末によるモバイルクラウド

43

特集

SAKU Tomio

柵 富雄

● 先端技術研究所 研究開発部● 富山インターネット市民塾推進協議会事務局長● NPO法人地域学習プラットフォーム研究会理事長● 教育、地域活性化などをテーマとした社会システム研究、 およびITを活用した地域での実践活動を企画・推進

SUGIMOTO Yoshimasa

杉本 圭優

● 先端技術研究所 研究開発部● 大学教育、生涯学習分野での学習支援システムの研究、 企画に従事● 日本教育工学会、会員

第12号

参考文献

[1] 富山インターネット市民塾, http://toyama.shiminjuku.com/

[2] 中川聰:ユニバーサルデザインの教科書,pp44-45,日経BP社,

  (2002)

[3] 株式会社ユーディット, http://www.udit.jp/

[4] 樽本徹也:ユーザビリティエンジニアリング, pp111-115, pp126,

  オーム社,(2005)

[5] JIS Z8530人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計

  プロセス, http://www.jisc.go.jp/

[6] ヤコブ・ニールセン:ユーザビリティエンジニアリング原論,

  pp131-133,東京電機大学出版局,(1999)

図1 「ふるさと元気」を通したコミュニケーション

2. ユーザ特性とUI設計プロセス 人は加齢により、視力の低下や物事を覚えにくく忘れやすい

といった記憶力の低下等、さまざまな身体能力が変化する

[2]。また、高齢者は、長年にわたる生活経験の中で培った理解

の仕方や考え方を持っており、時として、ICT 機器の操作に必

要な概念の理解を妨げる場合がある。加えて、ICT 機器の操作

経験が一般的に少ないこと等、高齢者の ICT 機器の利用に影

響を与える認知的、身体的特徴等をもとに、以下のようにユー

ザ特性をまとめる。

  ● 特性1 視力が低下している

   視力が弱まり、小さい文字や線の細い文字が見づらい。

   コントラストが低い文字や線が見づらい。

  ● 特性2 メタファがたとえているものを推測できない

 アプリケーションでよく使われるメタファ(UI において

アイコンなどの画像を使い、動作や表示をたとえること)

に慣れておらず、メタファが指し示す操作内容や指示内容

を推測できない。新しい概念を覚えるのが難しいので、メ

タファに馴染みづらい。

  ● 特性3 UI から操作結果を推測できない

 ICT 機器の操作やメタファに慣れていないことから、画

面の表示が何を指示しているのか、アプリケーションを

使って何ができるのかを理解すること、推測することが難

しく、操作が行えない。

  ● 特性4 試行を通しての操作習得が難しい

 ICT 機器を操作することが日常的でないこと、操作に対

する恐れや、操作に失敗することに慣れていないことか

ら、操作を何度も試しながら行い、試した結果から操作方

法やメタファがたとえているものを理解することが難し

い。さらに、機器を壊してしまうのではないかという心配か

ら、積極的に操作を試さない高齢者も多い。

  ● 特性5 画面遷移の把握が難しい

 短期記憶に加齢の影響が出るため、複数ある画面間を

遷移した経過を記憶することが難しい。そのため、画面間

の相対的な位置関係の把握が困難となり、目的とする画面

に移動できない場合が増える。

 UI 設計のプロセスとして、ユーザビリティテストとよばれる

評価手法をもちいて、既存のツイッターアプリケーションをUI

専門家である株式会社ユーディット [3](以下、ユーディット)と

共同で評価する。その後、ユーザ特性と評価結果、UI 専門家の

知見を合わせて、UI 設計を行う際の指針を定める。

密に調査、把握したうえで具体的なユーザ特性を作り、特性に

適合したUI 設計を行うことが必要と考えられる。

 今回、ユーザ中心設計の手法であるユーザビリティテストに

よって、高齢者がツイッターアプリケーションを利用する上での

問題点の分析を行い、その結果とユーザ特性をもとにユーザの

実態を反映した UI 設計を行った。本稿では、高齢者のユーザ

特性、「ふるさと元気」のUI 設計の指針を紹介するとともに、ソ

フトウェアの品質向上のためにユーザ中心設計に基づく UI 設

計を行うことの有用性、課題について考察を行う。

3. ユーザビリティテストによる  アプリケーションの評価3.1 ユーザビリティテストについて ユーザビリティテストとは、ソフトウェアのプロトタイプや完

成品をユーザに使っていただき、その様子を観察、記録し、UI

の問題点を実験的に明らかにする手法である。ユーザビリティ

テストにはいくつか手法があるが、今回の検証は発話思考法に

て行う。発話思考法は、ソフトウェアのユーザ(モニタ)に対して

アプリケーションの操作方法を示さず、目的(タスク)のみを示

し、モニタにアプリケーションを使って試行錯誤しながら目的

を遂行してもらう。目的に至る操作の過程で頭の中に思い浮か

んだこと、次に何をしようとしているのかなどを、モニタに発話

していただく。モニタの操作の様子と発話を記録し、分析の対

象とする [4]。 ユーザビリティテストでは、5名のモニタがそろえ

ば問題の約8割は明らかになるといわれている [4]。

 今回のユーザビリティテストの目的は、高齢者が iPhone や

ツイッターアプリケーションを利用した際、つまずきやすい操

作場面と、その理由を開発者が把握し、iPhone やツイッターア

プリケーションに特有の使いにくさを深く理解できるようにす

ること、高齢者のつまずきとユーザ特性の関係について検証を

行うことである。よって、iPhone にて一般的に利用されるツ

イッターアプリケーションを対象としてユーザビリティテストを

行った。

3.2 ユーザビリティテストの実施内容 ユーザビリティテストにて行ったテスト内容とテストに必要

な設備機材、当日のテスト実施スケジュール、テスト後の作業

等について述べる。

 モニタとして参加した高齢者は60~70代の男性で、1 名を

除いて老眼の影響は強くない。PC の利用経験は苦手と回答し

たものが2名、基本的な操作が可能と回答したものが2名であ

り、うち1名は携帯電話を日常的に利用している。

 モニタに対しては、ツイッターアプリケーションがインストー

ルされた iPhone を手渡し、アプリケーションに表示されてい

るつぶやきに対し返信のつぶやきを文字入力し、送信すること

を主なタスクとして設定する。

 ユーザビリティテストでは、インテックからはビデオカメラな

どの記録用の機材、テスト用の機材の準備、会場設営、記録撮

影を行なう観察者として参加し、UI 専門家であるユーディット

からは、テストを行うインタビューアとして1名参加した。インタ

ビューアのほかに、ユーディットからは、観察者に対してテスト

を行なう際のポイントの説明や、テストについて解説を行う専

門家1名が参加した。

 3回実施したうちの1回目は、テスト用の部屋と観察者用の

2部屋を準備した。テスト用の部屋には、インタビューアとモニ

タが入り、モニタの様子やソフトウェアの操作を記録するため

のビデオカメラを設置した。観察者用の部屋には、テスト用の

部屋にあるビデオカメラからの映像を表示するディスプレイを

設置し、観察者が待機する。2、3回目のテストでは、部屋の確

保の都合から、テスト用の部屋に観察者が同席した。モニタに

与える心理的な負担を減らすためにも、観察者用の部屋とテス

ト用の部屋は分けることが望ましい。

 今回行ったユーザビリティテストの実施スケジュールは、以

下の通りである(表1参照)。

表1 ユーザビリティテストの実施スケジュール

 モニタの負担を考えると、1人のモニタに対して1時間のテ

ストが限界であり、会場の準備や担当するインタビューアの負

担も考えると5名のモニタに対するテストで丸1日必要である。

また、カメラ位置の微調整や映像データの保存、インタビューア

の発言の見直し、ソフトウェアの設定、モニタへの対応など、テ

ストの間の準備に30分程度必要である。

 今回、テストの設計や、ビデオ映像からの記録起こし、記録か

らの問題点の分析、問題点をまとめたレポートの作成をユー

ディットが行なった。標準の工数として、テストの設計には丸2

日、記録起こしには通常1時間のテストで3時間以上かかるの

で、5名テストを行なうと丸2日必要となる。加えて、問題点の

分析、レポートの作成は2、3日必要である [4]。

4. 評価結果とUI設計の指針4.1 ユーザビリティテストの結果 ユーザビリティテストにて観察された問題点と、ユーザ特性との

対応、問題点を解決するためのUI設計の指針を表2にまとめる。

 表の左側の列は、高齢者の ICT 機器の利用に影響を与える

認知的、身体的特徴等をユーザ特性としてまとめたものであ

る。表の中央の列は、ユーザビリティテストにて観察された高齢

表2 ユーザビリティテストの結果とUI 設計の指針

4.2 問題点と解決策 ユーザビリティテストで観察された問題点と、その解決策で

ある UI 設計の指針について述べる。問題が発生した際のモニ

タの発言や問題点と対応するユーザ特性をもとに、問題の発生

原因を推測しUI 設計の指針を導く。

  ● 問題点1 小さな文字サイズ

 高齢者には画面に表示されたつぶやきの文字サイズが

小さく、表示されたつぶやきの中から自身が送信したつぶ

やきを読み取ることができない。スマートフォンアプリケー

ションは、一般に、限られたスペースに多くの情報を盛り込

むことから、高齢者には文字サイズが小さいものと考えら

れる。

  ● 解決策1

 画面内に表示する文字サイズに基準を設け、基準以上の

文字サイズを使うこととする。基準として、つぶやき、画面

の説明など重要な内容について、文字サイズは16pt、ボタ

ン内に表示する文字は15pt とする。また、フォントは明瞭

さの面からゴシック体で統一し、ボタン内に表示する文字、

画面の説明など重要な内容については太字フォントを利

用する。

  ● 問題点2-1 ボタンのアイコン

 ユーザビリティテストで利用したアプリケーションでも、

つぶやきの送信や作成を行うボタンは文字での説明がな

されておらず、アイコンのみ表示されており、高齢者は、送

信の際、どこを押せばよいのか迷う場面が観察された。ス

マートフォンアプリケーションは、一画面に表示できる情

報量が少ないことから、ボタンの操作内容を示すために、

表示領域が必要な文字ではなく、アイコン(画像)を使って

表現することが多い。

  ● 解決策2-1

 ボタンの操作内容を示すには、アイコンは極力使わず、

必ず文章による操作内容の説明をつけることとする。また

ボタンや画面内の説明についても「つぶやきを送信する」

「場所を知らせる」等のように操作する対象を加えた説明

とし、操作内容をより具体的にわかりやすく表現する。

  ● 問題点2-2 ボタンと他の UIとの違い

 ユーザビリティテストでもちいたアプリケーションは、ボ

タンのデザインが統一されておらず、様々なデザインのボ

タンがあり、高齢者は画面内のボタンであると思われる

様々な箇所を押してみては、その反応を確認する場面が観

察された。

  ● 解決策2-2

 ボタンのデザインは複数用意するのではなく、ボタンで

あると高齢者が認識しやすいように、一つのデザインに統

一する。また、画面ごとにボタンや説明の文章などの位置

が共通であると、画面の内容やボタンの操作をより理解し

やすい。よって、複数の画面間でボタンの位置など共通と

し、高齢者に対して、あらかじめ特定の位置に注意を向け

やすいようにUI を設計する。

  ● 問題点3 何ができるのかわからない

 ユーザビリティテストでは、モニタとなった高齢者が、た

びたびつぶやきの入力画面やつぶやきが複数表示された

画面等を見つめながら、この画面では何ができるのかと話

す場面が頻繁に観察された。高齢者は、つぶやきを入力す

るためのテキスト入力欄や送信ボタンが画面内に表示さ

れていても、つぶやきの入力を行うための画面であること

が認識できず、操作が行えなくなる。

  ● 解決策3

 複数の画面に共通して、画面上部に「つぶやき 書く」

「つぶやき 読む」「声 録音する」など、画面で行う事柄を

表示する。また表示する文面は、問題点2-1の解決策でも

あげたように、「つぶやき」「声」等の操作する対象と、「書

く」「録音する」等の操作内容を含む文面とする。

  ● 問題点4 行いたいことが行えない

 つぶやきの送信後に、送信したつぶやきを確認したい

が、つぶやきがどこに表示されるのか、もしくはどう操作す

れば送信したつぶやきを確認できるのかなど、高齢者の混

乱している様子が頻繁に観察された。つぶやきを送信する

ごとに画面上部に吹き出しがあらわれ、その中に送信した

つぶやきが表示されるので、画面内をより注意深く見なが

ら再度送信を行えば、吹き出しに気づくと思われる。しか

し、高齢者は、送信したつぶやきを確認できない理由を機

器の故障やアプリケーションの不具合、自身の操作間違い

等と判断し、それ以上、操作を行わない傾向がある。

  ● 解決策4

 アプリケーションの UI は、高齢者が操作した結果を予

測しやすく、また、予測せずとも操作結果が高齢者にも明

らかにわかるように設計する。具体的には、つぶやきの送

信など何らかの操作を行った場合は、操作の処理を実行す

る前に、画面内にてポップアップ等、気づきやすい表示方

法でこれから実行する操作を確認してもらうとともに、操

作の中断も行えるようにする。また、確認後も、送信が完了

したことや、送信完了後に、送信されたつぶやきを中心部

など認識しやすい箇所に大きく表示するなど、高齢者でも

操作結果を確認しやすいよう設計する。

  ● 問題点5 元の画面に戻れず迷う

 ある高齢者はつぶやきの送信後に、送信したつぶやきを

確認するため、画面内のいろいろな箇所をタッチして複数

の画面を表示させているうちに、もとの画面に戻れない状

況が観察された。

  ● 解決策5

 画面遷移の階層構造を浅くし、行いたい操作が完了する

までの画面遷移数、操作ステップ数を少なくする必要があ

る。また、現在の画面の状態が把握できない場合でも、ひと

つ前の画面に戻り続けることで、画面の状態を再度把握で

きるものと考えられる。そこで、画面内にひとつ前の画面に

戻るボタンを設け、ボタンに気づきやすいよう、複数の画

面間で共通した位置に表示する。

 以下にあげる問題点6~8は、あらかじめ想定したユーザ特

性を原因としない問題点である。よって、問題が発生した際の

モニタの発言や行動をもとに、問題の発生原因を推測しUI 設

計の指針を導く。

  ● 問題点6 ユーザ ID

 複数表示されたつぶやきのうち、自ら発信したつぶやき

を特定することができない高齢者が観察された。

  ● 発生原因6

 つぶやきと一緒に表示されたツイッターのユーザ ID の

意味が高齢者には理解できず、混乱をきたしたようである。

  ● 解決策6

 コミュニケーションの手段としてツイッターの仕組みを

利用するものの、高齢者とシルバー情報サポータ間のコ

ミュニケーション支援という目的からも、つぶやきの発信

者としてツイッターのユーザ ID を画面に表示するのでは

なく、ユーザの氏名を表示する。また「画像」や「音声」など

ICT 固有の抽象的な用語は使わず、「写真」や「声」など、具

体物を示す日常的な用語を使うこととする。

  ● 問題点7 フリック操作

 高齢者には、フリック操作によるつぶやきの更新が行え

なかった。フリック操作等のタッチスクリーン固有の操作

方法は、用途によっては操作が直感的であり、ボタン等に

比べて効率的であるので、スマートフォンではよく利用さ

れる操作方法である。

  ● 発生原因7

 ボタンを押す等の操作と違い、日常生活にて行うことの

ないスマートフォン特有の操作方法であることから、操作

方法が理解しにくいと考えられる。また、フリック操作を理

解したとしても、高齢者にとっては、フリックによる操作結

果(テストでは、フリック操作にてつぶやきの更新が行われ

る)が予測しづらいことが考えられる。

  ● 解決策7

 操作を行う方法として、極力、ボタンを押すなどの一般

的に広く使われ、わかりやすい方法をもちいる。フリック操

作を使う場合は、操作結果を予測しやすい用途(フリック

によって、文章をスクロールする等)に限定して採用する。

  ● 問題点8 アプリケーションからの情報表示方法

 画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリ

ケーションからの情報(つぶやきの受信完了を示す情報)

に気づかなかった。

  ● 発生原因8

 高齢者の場合、情報を理解するために必要となる視線の

移動や情報の読解にかかる時間が長い。また、画面全体に

わたって広く注意を向けることができないので、画面の一

部のみの変化が捉えにくい。

  ● 解決策8

 操作に対する結果やアプリケーションの状態を示す情

報を、高齢者にも見つけやすいよう表示する。画面の中心

部など認識しやすい箇所に重要な情報を表示するなどし

て、情報に対し注意を向けさせることや、情報を確認した

後に、確認ボタンを押してもらうなど確認の手順を踏むこ

とで、高齢者への情報の伝達を確実とする。

5. UI設計プロセスに対する評価と課題 ユーザビリティテストの結果から、多くの操作上の問題点が導

き出されたが、問題点の中には、あらかじめ想定したユーザ特性

を原因としない問題点もあった。今回、ユーザビリティテストを行

うことによって、そうした問題点が明らかになっただけでなく、観

察されたモニタの発話や行動から、問題の発生原因、すなわち高

齢者の ICT機器の利用に影響を与える認知的、身体的特徴であ

るユーザ特性の新たな発見につながった。導き出された問題点

に加え、新たに発見されたユーザ特性をもとに、UI設計の指針

を導くことができたことから、ユーザ特性を考慮した UI 設計を

行うには、ユーザビリティテスト等、ユーザの実態を把握する実験

的な手法をもちいて、ユーザ特性の検証や、操作上の問題点を抽

出することが有効と考えられる。

 また、システムを使いやすくすることに特に主眼をおいたイン

タラクティブシステム開発のアプローチである人間中心設計プ

ロセスを規格する JIS Z 8530[5] では、設計後のプロトタイプ

や完成品を対象としたユーザビリティテストの必要性を指摘し

ているため、今後は、ソフトウェアの開発プロセスにユーザビリ

ティテストを含める必要がある。

 ユーザビリティテストを行うにあたっての重要なことは、モニタ

のサンプリング、テストを行う会場の確保、設備の設営、タスクの

設定、モニタに対する適切な指示や対応等のテスト設計、ユーザ

の視点に立ったアプリケーションの問題点の分析があげられる。

 テスト設計は、ユーザビリティテストの有効性に影響を及ぼす

[6]。モニタのサンプリングを例にとると、今回のユーザビリティ

テストでは、富山インターネット市民塾の協力を得て、「ふるさと

元気」を利用する高齢者に近い ICT機器に不慣れな高齢者がモ

ニタとして参加した。よって、「ふるさと元気」のユーザが実際に遭

遇すると思われる問題点を明らかにすることができた。しかし、

モニタの選択によっては、誤ったテスト結果をもとに UI を設計

することにつながる。モニタのサンプリングでは、対象とするア

プリケーションを発注したお客様からの協力や、年齢、職務・業

務経験、身体的特徴、ICTに対する習熟度等、モニタに必要とな

る条件の設定が重要である。

 また、アプリケーションの問題点に対する解決策を導くには、

モニタの思考を正確に捉え、問題の原因を適切に導き出す必要

がある。そのためにも、モニタの発話だけでなく、視線の位置や、

ICT機器に対するインタラクション、モニタの身体的特徴等を含

め、ユーザビリティテストにて得られる様々な情報を、総合的に

分析することが求められる。今回、ユーザビリティテストはU I専

門家であるユーディットの協力を得て行ったが、独自にユーザビ

リティテストを実施するための経験やU Iに関する知識習得、分

析力の向上が課題である。

6. おわりに 今回、「ふるさと元気」のUI設計にあたり、ユーザ中心設計の

UI 評価手法であるユーザビリティテストによって、既存のツイッ

ターアプリケーションの評価を行い、評価結果と高齢者のユーザ

特性をもとに、UI設計の指針を定めた。また、アプリケーション

の使いにくい点、操作につまずきやすい点を、ユーザビリティテス

トにて、ユーザの実際の行動を観察することで理解することが

できた。

 今後、今回の成果を生かして、ユーザビリティテストをソフト

ウェアの品質向上のための手法としてインテックの開発プロセス

標準(IP3/DPS)に盛り込めるよう、ユーザビリティテスト以外

の評価手法を含めた体系化や、実施方法の標準化を行いつつ、

品質向上の実績をつくり、社内外への普及に努めていきたい。

 なお、本稿は、株式会社ユーディットによる「専門家評価報告

書」「ユーザビリティテスト報告書」「ユーザテスティング報告書」

の内容、他社の社名、登録商標を含んでいる。

時刻           内容

9:00~10:30

10:30~11:00

11:00~12:00

12:00~13:30

13:30~14:30

14:30~15:00

15:00~16:00

16:00~16:45

会場設営、カメラ設置、打合せ

予備テストのウォークスルー ( 試行 )

第1回目のテスト(モニタ2名)

会場設営の見直し、テスト2回目の準備

第2回目のテスト(モニタ1名)

テスト3回目の準備

第3回目のテスト(モニタ1名)

撤収、テストについて振り返り

ユーザ特性(問題の発生原因)        観察された問題点               UI設計の指針(解決策)

特性1

特性2

特性3

特性4

特性5

視力が低下している

メタファがたとえているものを推測できない

UIから操作結果を推測できない

試行を通しての操作習得が難しい

画面遷移の把握が難しい

問題点

1

問題点

2-1

問題点

2-2

問題点

3

問題点

4

問題点

5

問題点

6

問題点

7

問題点

8

小さな文字サイズ:文字サイズが小さく、送信したつぶやきがどれであるかを、画面内で特定することができない。

ボタンのアイコン:ボタンに表示されたアイコンだけでは、ボタンを押すことでつぶやきを送信できることが理解できない。

ボタンと他のUIとの違い:どれがボタンなのかわからず、いろいろな場所を押してどれがボタンであるかを確認した。

何ができるのかわからない:画面内に送信ボタンや入力ボックスが表示されていても、この画面で何ができるのかわからず、操作できない。

行いたいことが行えない:送信したつぶやきを確認したいが、どう操作すればよいのかわからない。

元の画面に戻れず迷う:送信したつぶやきを確認しようとして、いろいろな画面を表示しているうちに、現在の状態がわからなくなる。

ユーザID:つぶやきに記載されているユーザ IDが何を示しているかわからず、送信したつぶやきがどれか、画面内で特定することができない。

フリック操作:フリック操作が理解できず、フリック操作により、つぶやきを手動で更新することができなかった。

アプリケーションからの情報表示方法:画面下部に短時間のみ表示され自動で消えるアプリケーションからの情報に気づかなかった。

解決策

1

解決策

2-1

解決策

2-2

解決策

3

解決策

4

解決策

5

解決策

6

解決策

7

解決策

8

文字サイズの標準は以下のサイズとする。つぶやき、説明など16pt、ボタン内15pt。フォントはゴシック体、ボタン内、説明は太字とする。

ボタンを押すことで何ができるかを、ボタン内に文字で説明する。ボタン内にアイコンを表示する場合は、ボタンの外側に文字で説明する。説明は、「文章を選ぶ」など対象と操作内容を合わせて記載する。

ボタンのデザインは複数用意するのではなく、一つのデザインに統一する。複数の画面間で、ボタンの位置はできる限り共通とする。

現在の画面で何ができるのかを、画面上部に文字で説明する。説明は、「つぶやき 書く」など画面で行う事柄と対象を記載する。

操作結果や、操作によって処理される内容の確認を、ポップアップや画面内にわかりやすく表示する。

ひとつ前の画面に戻るための操作を、ボタンとして画面内の同じ位置に常に表示させる。搭載する機能を絞り込むことに加え、画面遷移の階層構造を浅くし、操作が完了するまでの画面遷移数、操作ステップを少なくする。

IDなどICT固有の理解が難しい情報は表示せず、氏名など日常生活で利用する用語や項目名を表示する。

ボタンを押すなどの一般的に広く使われている操作方法のみを利用する。フリック操作が必要な場合でも、フリック操作を行うことが自然に理解しやすい場合のみ採用する(例:長い文章をスクロールする)。

アプリからの情報は十分な時間表示するか、画面中心部などユーザが気づきやすい場所に表示する。確認後ボタン押すなどの操作を加え、情報に対する理解を確実に行う。

外出や地域活動への参加などを呼びかけ

生活の中での気づきや生活の知恵などを披露

iPhone iPhone

シルバー情報サポータ 高齢者

者の操作上の問題点である。観察された問題点から、問題点の

うち1~5がそれぞれ発生した原因、理由は、ユーザ特性1~5

であると判断し、表にその対応をあらわす。問題点のうち6~8

(太線枠内)は、その発生原因、理由があらかじめ想定したユー

ザ特性にあてはまらない問題点である。表の右側の列は、観察

された問題点の解決策となる UI 設計の指針である。この指針

をもとにUI に必要なデザイン要素や各種機能を盛り込んだ画

面設計書を作成する。

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