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エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発 誌名 誌名 応用糖質科学 ISSN ISSN 21856427 著者 著者 窪田, 淳平 齋藤, 三四郎 巻/号 巻/号 8巻3号 掲載ページ 掲載ページ p. 229-231 発行年月 発行年月 2018年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発 誌名 応用糖質科学 ISSN 21856427 著者 窪田, 淳平

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Page 1: エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発 誌名 応用糖質科学 ISSN 21856427 著者 窪田, 淳平

エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発

誌名誌名 応用糖質科学

ISSNISSN 21856427

著者著者窪田, 淳平齋藤, 三四郎

巻/号巻/号 8巻3号

掲載ページ掲載ページ p. 229-231

発行年月発行年月 2018年8月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発 誌名 応用糖質科学 ISSN 21856427 著者 窪田, 淳平

応用糖質科学第8巻第3号 229-231(2018)

. 至J~~g

Development of Starch Product by Extruder*

エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発*

1 株式会社 J—オイルミルズフードデザインセンター

第6目6月麗賃7レッシュシンボジウム窪田淳平1,**'齋藤三四郎1

(くぼたじゅんぺい,さいとうさんしろう)

1Food Design Center, J-OIL MILLS, INC.

Jumpei Kubota1・** and Sanshiro Saito1

要旨: 主にシリアルやスナ ック等の膨化食品の製造・加工に利用されているエクス トルーダーに

ついて,当社の澱粉加工における利用例を紹介する利用例の 1つ目として,澱粉の「比重コン

トロール」を挙げる食品加工において澱粉を液体へ懸濁して使う場合,澱粉が沈澱して分散せ

ず,保水効果や食感改質効果が満足に発揮されない場合がある.エクス トルーダーを用いれば,

澱粉を造粒して比重を制御することが可能であるため,液体中での澱粉の分散性を改善する こと

が可能であるまた, 2つ目に,澱粉への「膨化構造 ・食感の付与」を挙げる.澱粉は保水性に

優れる一方添加した最終食品の食感が均ー化する点が課題となる場合がある.そこで澱粉を加

熱加圧することで膨化構造物を得られるというエクス トルーダーの性質を利用して,最終食品の

外観に違和感のない範囲で膨化物の形状を粗く調整することで,添加した食品の食感の均ー化を

抑えつつ,澱粉の保水性を付与することができるまた,得られた澱粉の膨化構造物は, 内部に

気泡構造を有する形になり ,スポンジのような吸水特性を持たせる ことも可能である.

キーワード: エクス トルー ダー,澱粉...

1. はじめに

ェクストルーダーは「extrude: (金属・樹脂 ・ゴムを)

押し出し成形する」という和訳の通り" ,粉体やペースト

状の原料に可塑剤(食品原料においては水)を加えなが

ら,スク リューで高圧力を掛けて押し出す装置である.古

くはプラスチックの成型など,工業分野で使われていた装

置であるが,現在では.食品分野においてパスタ,シリア

ル,スナ ック,蛋白質加工食品の製造方法として幅広く利

用されている原料の移送 ・混合 ・圧縮 ・混練 ・加熱 ・溶

融 ・加圧 ・押出・成型といった加工を一台で連続的に行え

る点が,生産効率が求められる食品加工の現場において,

この装置が普及した背景と言える.

このエクストルーダーは, 1本のスクリューで原料を押

し出す l軸型および, 2本のスクリューで原料を押し出

す2軸型のタイプが主流であるが, 2軸型は 2本のスク

リュー同士が互いに干渉して原料を噛み込んで搬送するた

め,加工原料の特性にあまり影響されずに装置の運転が可

能である'>.したがって,搬送性が低い高油分 ・高水分の

原料やデキストリン,糖類など, 1軸型では処理が難しい

原料を加工することができまた,加工条件についても多

様な設定が可能である.当社では,この 2軸エクストルー

ダーの特性を活かし,澱粉や副素材を組み合わせながら,

ユニークな機能を持った製品の開発を行っているここで

は, 2つの製品開発事例を挙げながら, 2軸エクストルー

ダーの加工技術を紹介する.

2. エクストルーダーの加工技術

2.1. 澱粉の「比重コントロール」

澱粉は,タレやソース等の増粘材としての利用例をはじ

め,水練り製品や畜肉製品,和菓子,洋菓子,デザート か

ら麺,パンといった主食に至る まで,品質向上や食感改良

の目的で幅広く利用されている特に,レトル ト調理やチ

ルド保存,冷凍保存などを行う加工食品を美味しく保つに

は,欠くことのできない素材である.一方で, 日本人の主

食である米飯には,これまでほとんど利用されてこなかっ

たその理由は,米飯の炊飯水中に粉体である澱粉を均質

に添加できず,その効果を十分に活用できなかったためで

ある(図 1). 澱粉が沈澱しないように予備糊化して添加す

るという手法も考えられるが, この場合 粘度が高くなり

=::=::.. 澱粉(粉体)

疇二こ口こ殺粉は釜底に沈澱しご飯全体に分散しない

図l 炊飯工程へのi殿粉添加の課題

*本原稿は,日本応用糖質科学会第 6回応用糖質フレ ッシュシンポジウム (2017)で一部発表された

**連絡先 {Tel.045-852-4014, Fax. 045-852-6357, E-mail: [email protected]) ***Key words: extruder, starch

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◆ 230◆

図2.エクス トルーダー加工形状の熱量による影評

ぶ、:ミコート.(米fil状)

□二疇

図3. 米飯改質材 「アミコー トR」 の製品機能

米飯の均ーなコ ーティングにより米飯のほ ぐれ,粘り,粒感を向上

加熱調理時の炊飯水の対流が阻害されてしまうため, うま

<炊飯できないという課題が生じる.そこで我々は,エク

ストルーダーで澱粉へ適度に熱を加えて造粒・比重を調整

しつつ,澱粉の糊化度を抑えで炊飯水の対流を阻害しない

ようにすること で,炊飯用途に使用可能な澱粉素材の開発

を行った

エクストルー ダーでの造粒工程では,原料に水を加えな

がら圧力 を掛けて押し出すが,この時の熱量や圧力の調整

が重要とな る.加熱時の熱量や圧力が過剰にな ると,エク

ス トルー ダー内でク ッキングされた原料が装置から吐出さ

れ加圧条件か ら解き放たれた時に,膨 らんで比重が軽 くな

りす ぎてしま う また,その反対の場合,糊化が不足して

造粒が不十分となり,粉々にな る (図2).

加えて,原料であ る澱粉は農作物に由来するため,収穫

地域や年度によ る品質振れによ って,時々で最適とな る加

工条件が左右さ れる そのため, 常に一定品質の最終産物

を得る ためには, 原料の品質に合わせて,加工条件を適宜

調整していく必要がある.当社では原料の品質管理を徹底

すること ,また,原料品質に応じて加工条件を調整するこ

とで,常に一定比重の範囲内で,澱粉の造粒を行う技術を

確立した現在この技術は,当社の米飯改質材「アミ

図5. 様々な粒度の膨化物

応用糖質科学第 8巻第 3号 (2018)

コートR」に利用されており,米飯のほぐれ,粘り,粒感

といった食感面の美味しさ向上や,流通 ・保管後の品質維

持に貢献している(固 3).

2.2. 澱粉への「膨化構造・食感の付与」

先に述べた通り,澱粉は様々な食品に利用されている一

方で,添加した食品の食感面での均質化や澱粉特有の糊感

が敬遠されて使用用途や添加量が制限されるケースも多

い.特に,ハンバーグやソーセージといった食肉製品にお

いては,焼成時の肉汁ドリップ防止や流通における品質低

下抑制のため保水材として利用されているが,肉本来の繊

維質な噛み応えや舌触りを重視する場合,澱粉の食感はマ

イナスとなる.そこで我々は,澱粉の機能である保水性を

保ちながら,上記のような食感面のデメリットを抑える手

法として,エクストルーダーによる膨化構造・食感の付与

を検討した.

グルテンを含む小麦粉のように加熱時に生地(ドウ)

を形成できる穀物粉においては,エクストルーダーを用い

て,低水分の系で原料を加熱 ・加圧して押し出しを行うこ

とで,比較的簡単に膨化構造物を得ることができる. しか

し,澱粉単体での加工の場合,穀物粉のように生地の骨格

を形成する成分がなく,水と加熱を加えると糊になってし

まうため,安定して膨化物を吐出することが難しい.当社

ではエクストルーダーの加工条件(原料投入量, スク

リュー回転数,スク リュー形状,加熱温度,加水量,出口

図4. エクストルーダーによる澱粉の膨化構造の様子

走査電子顕微鏡観察像.

附帯粉砕設備により膨化物の粒度は調整可能.

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窪田・齋藤 :エクストルーダーを使用した澱粉製品の開発 ◆ 231◆

コーンスターチの糊化澱粉 (従来品)

'印 \疇前 圧縮20~30% 圧縮50% 圧縮後

図6. 「不オ トラストR」のスポンジ様の吸水作用

4倍量の色水を吸水させた試料を濾布に詰め,直径約 3cm球状成形,プランジャ圧縮.

形状といった設定条件)の調整と副素材の組み合わせによ

り,澱粉の糊化度を最適な範囲に保ち,安定的に膨化物を

製造できる技術を見出したエクストルーダーで加工を

行った澱粉膨化物の構造を走査電子顕微鏡 (JSM-6510

LV, 日本電子)で観察した像を示す(図 4).

澱粉が,エクストルーダー内で水と混合されて糊化,出

口で加圧膨化した後急速に加熱乾燥されており,元の澱

粉粒子の形状は確認されない.ただし,写真では確認でき

ないが,エクストルーダーでの糊化は低水分下での加工に

なるため完全には進まず,未糊化状態の澱粉も一部残存す

る最終食品の種類や形態にもよるが,得られた澱粉膨化

物を外観的に違和感のない範囲で粗めの粒度に調製するこ

とで(図 5), 添加した最終食品の食感の均一化を抑えるこ

とができる.

また,エクストルーダー内部では,スク リュー回転で澱

粉に強い機械せん断が加わるため,澱粉の低分子化が起こ

ることがわかっており,特に,膨化を目的とするような低

水分,高温,高せん断の加工条件下では,低分子化が著し

いとされている”.低分子化により,澱粉の吸水性は低下

するが原料澱粉由来の糊感が低減するというメリットが

ある'>.当社では,エクストルーダーでの低分子化に加え,

副素材を最適化することで,澱粉特有の糊感やねばつきの

少ない澱粉加工品「ネオトラストR」を上市している.本

製品は,エクストルーダーによる膨化構造・粒度の付与

と,低分子化による糊感やねばつきのない吸水性状によ

り,スポンジ様のユニークな食感を示すことから(図 6),

ハンバーグやミートボール,シュウマイ等,食肉製品を中

心とした加工食品のジューシー感やふっくら感の向上素材

として,広く利用されている

3. おわりに

エクストルーダーは,古くから工業用途,食品用途に利

用されている装置ではあるが,物性を調整する要因が多

く,最終的に得られる製品も幅広い.本文では,当社の澱

粉製品の開発事例を元に, 2軸エクストルーダーによる澱

粉加工技術を紹介した.澱粉特有の保水性を活かしつつ,

添加時の工程課題や,食感面での課題を改善する物理的な

加工手法と して,エクストルーダーは有用であると考える.

文献

I)岡村祐輔,木村建夫,高橋作太郎,東信行,政田誠,松田徳一郎,山下雅巳横山一郎:リーダーズ英和辞典松田徳一郎監修,研究社,東京, pp.762 (1984).

2)北村育夫中井義兼早川克志村垣博宣,森山修: 2軸型の開発と利用.「エクストルージョンクッキング」,食品産業エクストルージョン技術研究組合編,光琳,東京,pp. 59-62 (1987).

3) M.H. Gomez and J.M. Aguilera: A physicochemical model for extrusion of corn starch. J. Food Sci., 49, 40-43 (1984).

4) J.-M. Bouvier: Breakfast cereals. in Extrusion Cooking Tech-nologies and Applications, R. Guy, ed., Wood head Publishing Limited, Cambridge England, pp. 150-156 (200 I).