6
建設労務安全 22・2 16 87 ドラグショベルの災害 ヒューマンエラー 災害事例 ドラグショベルを用途外使用 つり荷が落下し下敷きに ドラグショベルは、機種とアタッチメ ントの種類が豊富で、その利便性から 多用されているが、建設機械の中では 災害件数が最も高いため、使用に当た っては注意を要する。 労働安全コンサルタント 笠原 秀樹 ドラグショベルは、車両系建設機械の うちの掘削用機械の一つで、油圧ショベ ル、ユンボ、バックホウ、パワーショベ ル等と呼ばれています。油圧ショベルは (社)日本建設機械工業会の統一名称、ユ ンボは商品名、パワー・ショベル、バック ホウ(back-hoe)はその機能からの名称 です(本稿ではドラグショベルに統一)。 ドラグショベルは、アタッチメントを 取り替えることで様々な用途に使えます が、荷をつり上げる等の用途外使用は厳 しい条件があります(安衛則第164条)。 また、クレーン機能を備えたドラグシ ョベルは移動式クレーンとして使用可能 で、荷重計のほか、バケットに格納可能 な外れ止め付つりフックや、外部表示灯 (橙色)などが備えられています。クレ ーン作業を行う場合は、機械のつり上げ 荷重に応じ、移動式クレーン運転免許、 小型移動式クレーン運転技能講習または 特別教育を修了した者でなければ運転は できません。玉掛け作業には、玉掛け技 能講習修了者、特別教育修了者の資格が 必要です(平12・2・28 事務連絡)。 さらに、ドラグショベルを用いて荷の つり上げ作業を行うときは、作業に携わ る者どうしで、作業内容・作業に係る指 示系統・立入禁止区域等について、必要 な連絡調整を行わなければなりません (安衛則第662条の6)。 平成20年度の建設機械等による死亡災 害は54人(全体の12.6%)、そのうちド ラグショベルによるものは20件(37%) と最多です(一口メモ参照)

ドラグショベルを用途外使用 災害事例 とヒューマ …...2010/02/01  · ※H2などの記号は、建設業の ヒューマンエラー分類区分を 表わします。詳しくは、平成

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

建設労務安全 22・216

87 ドラグショベルの災害

ヒューマンエラーヒューマンエラーと災害事例災害事例災害事例

ドラグショベルを用途外使用つり荷が落下し下敷きに

ドラグショベルは、機種とアタッチメントの種類が豊富で、その利便性から多用されているが、建設機械の中では災害件数が最も高いため、使用に当たっては注意を要する。

労働安全コンサルタント

笠原 秀樹

ドラグショベルは、車両系建設機械の

うちの掘削用機械の一つで、油圧ショベ

ル、ユンボ、バックホウ、パワーショベ

ル等と呼ばれています。油圧ショベルは

(社)日本建設機械工業会の統一名称、ユ

ンボは商品名、パワー・ショベル、バック

ホウ(back-hoe)はその機能からの名称

です(本稿ではドラグショベルに統一)。

ドラグショベルは、アタッチメントを

取り替えることで様々な用途に使えます

が、荷をつり上げる等の用途外使用は厳

しい条件があります(安衛則第164条)。

また、クレーン機能を備えたドラグシ

ョベルは移動式クレーンとして使用可能

で、荷重計のほか、バケットに格納可能

な外れ止め付つりフックや、外部表示灯

(橙色)などが備えられています。クレ

ーン作業を行う場合は、機械のつり上げ

荷重に応じ、移動式クレーン運転免許、

小型移動式クレーン運転技能講習または

特別教育を修了した者でなければ運転は

できません。玉掛け作業には、玉掛け技

能講習修了者、特別教育修了者の資格が

必要です(平12・2・28 事務連絡)。

さらに、ドラグショベルを用いて荷の

つり上げ作業を行うときは、作業に携わ

る者どうしで、作業内容・作業に係る指

示系統・立入禁止区域等について、必要

な連絡調整を行わなければなりません

(安衛則第662条の6)。

平成20年度の建設機械等による死亡災

害は54人(全体の12.6%)、そのうちド

ラグショベルによるものは20件(37%)

と最多です(一口メモ参照)。

17 建設労務安全 22・2

87 ドラグショベルの災害

災害事例とヒューマンエラー

原因として、①ドラグショベルがクレーン機能を備えていなかった機械のため細かな操

作ができず、荷降ろし時に敷鉄板に衝撃を与えた(主たる用途外使用)、②つり具のフッ

クに外れ止めがなかった、③玉外し作業者の位置が不適切――などが挙げられます。

事例シートには、当時現場では移動式クレーンが使用可能な状態だったのですが、なぜ

使用しなかったかの説明はありません。

災害は3枚目の敷鉄板(0.6m×1.5m、重さ約1.6t/枚)の積込み作業で発生しました。

2枚目までうまくいったため3枚目は慣れから気を緩めたかもしれません。

事例のように、敷鉄板の荷下ろし時の災害発生は多く、敷鉄板専用のつりフックと、移

動式クレーンの使用を厳守することです(本誌平成15年1月号参照)。

ドラグショベルで敷鉄板を積込み中、敷鉄板が落下し下敷き①ドラグショベルで敷鉄板を積込み中、敷鉄板が落下し下敷き

原因と対策原因と対策

※H2などの記号は、建設業の

ヒューマンエラー分類区分を

表わします。詳しくは、平成

20年10月号23頁【一口メモ】

を参照して下さい。

道路工事で、ドラグショベルのバケットに取り付けたフックにつり具を掛けて敷鉄板を

つり上げ、トラックに積込み中、つり具のフックが敷鉄板から外れて玉外し作業中の被災

者(トラック運転手)が敷鉄板と共にトラック荷台から転落。被災者は敷鉄板の下敷きと

なり死亡した。(H1:教育不足、H2:危険軽視・安易、H3:省略本能)

建設労務安全 22・218

事例のドラグショベル(バケット0.1裙)の標準荷重は180kg(0.1裙×1.8t/裙=0.18t)

です。標準荷重の4倍の重さ(720㎏)のコンクリートバケットをつり上げて旋回したた

め転倒するのは当然のことです。当該重機は機体重量が3トン未満ですから、安衛法第31

条の3の特定作業には該当しませんが、元方事業者は作業計画を定め関係者に周知すべき

です。

原因は、ドラグショベルの主たる用途外使用ですが(安衛則第164条)、イラストでは橋

梁の上から0.3裙バケットでコンクリートをつり下ろしているため、当初からドラグショ

ベルを使用する計画だったようです。なぜコンクリートポンプ車を使わなかったのでしょ

うか。下請任せの安易な作業計画に大きな問題があります。

標準荷重とは、ショベル系掘削機械で各アタッチメントを装備したとき、作業機械とし

て十分な強度・安定度を持つように定めた標準の負荷荷重のことです。計算式の1.8t/裙

は土砂の比重です。

ドラグショベルの用途外使用で機体が横転し転落②ドラグショベルの用途外使用で機体が横転し転落

原因と対策原因と対策

えん堤のブロック積みの裏込めコンク

リート工事で、ドラグショベルのバケッ

ト(0.1 裙)にコンクリートバケット(0.3

裙)をつり、生コンクリートを入れて旋回した時、機体がバラ

ンスを失いブロック法肩から2.5m転落。運転者は頭部打撲を

負った。(H1:教育不足、H2:危険軽視・安易)

19 建設労務安全 22・2

原因は、運転者の不注意運転に加え、作業範囲内の立入禁止、誘導者の配置などいずれ

の措置もなかったことです。

車両系建設機械を使用して作業を行う時は、運転中の機械に接触することにより労働者

に危険を及ぼすおそれのある個所は立入禁止が原則です(安衛則第158条第1項)。しかし、

誘導者を配置し誘導させるときは立入禁止を解除することができます。運転者は誘導者に

従わなければなりません(同条第2項)。

誘導者とは、建設機械の運行に当たり、運転者による安全確認が困難な場合、運転者に

適切な合図・誘導を行う者のことです。被災者はドラグショベルのオペレーターの手元と

して同僚2人と共に清掃作業を行っていました。機体の後退で自動的に発する警報音や回

転警告灯等の警報装置に気づかないことがあり、誘導者の配置が必要です。

本事例と同様なパターンの災害事例がありました。ドラグショベルを用いて管路埋設工

事の終了後、ドラグショベルを後退させる際、運転者は大きな音を発するランマーを使用

していた作業者に気を取られ、機体のすぐ後ろで清掃作業を行っていた被災者に気づかず

に轢いた災害です。

共通点は、立入禁止措置、誘導者の配置が共になく、オペレーターが周囲の状況を十分

確認せずにドラグショベルを後退させ、被災者も機械に背を向けて作業を行っていたなど

悪い条件が重なりました。

こうしたヒューマンエラーを防ぐために安全教育や作業計画が大切です。

管路埋設工事でドラグショベルを後退中、作業者に激突③管路埋設工事でドラグショベルを後退中、作業者に激突

原因と対策原因と対策

災害事例とヒューマンエラー

排水管・電線管等の管路埋設工事が完

了し、排土板付きドラグショベルで埋め

戻し作業を行っていた。埋め戻し作業が

終わったため排土板で整地しようとドラ

グショベルを後退さ

せていたところ、清

掃作業中の被災者

(普通作業者)に激

突し、被災者は死亡

した。(H1:教育

不足、H2:危険軽

視・慣れ)

建設労務安全 22・220

マンホールはドラグショベルのつりフックから台付けワイヤロープ2本でつっていまし

た。掘削溝の中でマンホールの位置を修正するため再度つり上げた時、つり心がずれてい

たためマンホールが被災者のほうへ寄り、山留め親杭との間に挟まれました。

マンホールの材質、寸法、重量及びドラグショベルの用途外使用か否かなど詳細は不明

です。イラストから、マンホールは内径0.9m・高さ1.5mのコンクリート製で、重さは約

1tと推測されます。

対策として、ドラグショベルを使うならば、①クレーン機能(荷重計、格納可能な外れ

止め付つりフック、定格荷重表示、外部表示灯)を備えた機種の使用(「クレーン機能を

備えた車両系建設機械」(通達:平12・2・28 事務連絡))、②つり荷に心ずれのないような

玉掛け(玉掛け有資格者と適正な玉掛け用具)、③台付けワイヤロープの使用禁止、④合

図者の配置(安衛則第164条第3項第1号)が必要です。

また、ドラグショベルのオペレーターは被災者に気づかなかったため、合図者は運転者

と作業者の双方が見える位置で合図を送ることが大切です。

つり上げ作業には可能な限り移動式クレーンの使用を計画してください。

事業者は作業計画(作業内容、指示系統、立入禁止措置など)を定め、関係者に周知す

ることが必要です(安衛則第662条の6)。

集水枡設置工事で、ドラグ

ショベルでマンホールをつり上

げて掘削溝に設置中、荷が振れ

て、被災者(普通作業者55歳、

経験9年)が山留め親杭とマン

ホールに挟まれ骨盤骨折、左肋

骨骨折を負った。(H1:教育

不足、H2:危険軽視・安易)

ドラグショベルでマンホールをつり上げ中、つり荷と壁との間に挟まれる④ ドラグショベルでマンホールをつり上げ中、つり荷と壁との間に挟まれる

原因と対策原因と対策

21 建設労務安全 22・2

過去5年間の建設機械・クレーン等の死亡災害を年度別にまとめてみました(データ:建設業安全衛生早わかり・建災防)。ドラグショベルの災害は、総件数が減っても毎年約3割と高率で発生しています。

建設機械・クレーン等の死亡災害一 口 メ モ一 口 メ モ

残土埋立て工事現場

で、被災者(重機運転

手)は同僚と共にドラ

グショベル(機体重量

ドラグショベルが転倒し運転者が挟まれ死亡⑤ドラグショベルが転倒し運転者が挟まれ死亡

災害事例とヒューマンエラー

被災者はダンプトラックに残土を積み、残土埋立て現場まで運搬した後、同僚とドラグショベル2台で指定場所に残土を移動していました。原因として、次の3つが挙げられます。

①被災者は作業終了時に傾斜角18度の斜面をドラグショベルのバケットを高く上げたま ま下降運転し、機体はバランスを崩し横転しました。一般に、ドラグショベルで斜面を下降する場合は、バケットを地面近くに下ろし重心を下げ、機体の転倒を防ぎます。

②被災者はドラグショベルの運転資格(運転技能講習修了証、建設機械施工技術検定合格証等)を所持せず、運転の基本知識がなかったようです。

③現場では作業者の資格確認を行わず、作業計画の作成もなく、安全衛生管理体制に大きな不備がありました。ドラグショベルを整地・運搬・積込み用及び掘削用機械として使用する場合は、機体重

量3t以上では次のいずれかの運転資格が必要です。①車両系建設機械の運転技能講習修了証、②建設機械施工技術検定合格証(建設業法)、③建設機械運転科訓練修了証(職業

建設機械等による死亡災害発生状況

31 24 29 24 200

20

40

60

80

100

120

平成16 平成17 平成18 平成19 平成20

死亡者数(人)

その他

工事用EV・リフト

ケーブルクレーン等

その他車両系建設機械等

杭打ち抜き機等

不整地運搬車

ローラー等

ブルドーザー等

ブレーカー

バッテリカー・トロ等

ウインチ揚重機

コンクリートポンプ車

圧砕機

高所作業車

重ダンプ

移動式クレーン

ドラグ・ショベル等

97

79 76 79

59

ドラグショベル

能力開発促進法)。機体重量3t未満は、①車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転業務特別教育修了証、②3t以上の運転資格該当者です。

原因と対策原因と対策

3t以上)を運転し残土の移動作業

を行っていた。同僚が作業を終えた

ため、被災者も終えようと、盛り上

げた残土上から機体を下降運転させ

たところ、機体が傾き被災者は投げ

出され横転した機体に挟まれ死亡し

た。(H1:無知、H2:

危険軽視・安易)