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1 トリコデルマ属菌を用いた 木製土木資材の腐朽遅延技術 旭川工業高等専門学校 物質化学工学科 教授 富樫

トリコデルマ属菌を用いた 木製土木資材の腐朽遅延 …...Trichoderma spp. (トリコデルマ属菌) 5 菌寄生菌Trichodermaspp. (カビの仲間)の活動とは?10μm

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トリコデルマ属菌を用いた木製土木資材の腐朽遅延技術

旭川工業高等専門学校

物質化学工学科

教授 富樫 巌

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地域産業(土木&林業)に貢献したい!

防腐薬剤を使わずに,木製土木構造物(遊具・遊歩道・看板など)

の腐朽を防ぐニーズが寄せられた.

研究背景

化学物質過敏症&シックハウス

健康ブーム(脱ケミカル

ブーム)

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木製土木構造物

固定化トリコデルマ=トリコデルマ+担持材料

《 防腐剤に頼らない木材利用を目指す 》

バイオロジカル・コントロールの利用!

木材腐朽の遅延が狙い!

具体的には・・・

接地箇所に,固定化トリコデルマを木材腐朽菌のバリアとして設置する.

研 究 目 的

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シイタケ菌床とトリコデルマ

トリコデルマは菌寄生菌!

Trichoderma spp.

(トリコデルマ属菌)

5

菌寄生菌Trichoderma spp.(カビの仲間)の活動とは?

10μm

①キノコやカビをいじめる抗生物質を

生産する!

②キノコやカビを殺す揮発性物質

を生産する!③キノコやカビの菌糸に侵

入して中身を食べる!

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トリコデルマANCT-05001

05

1015

2025

3035

40

1 3 5 7 9 11pH

コロ

ニー

半径

(m

m)

25℃培養2日経過

担 持 材 料240℃程度で熱処理した木材粉砕物(市販品)を使用.

そのpHは酸性であり,トリコデルマの好適pHと一致.

担持材料 木 炭

4.3 9.2

7

• 固定化トリコデルマの

木材腐朽遅延性能の評価(木材の重量減少率)

• 固定化トリコデルマの

耐候性能・耐久性能の評価

(熱耐性・寒冷耐性,乾燥耐性,流失耐性)

研 究 内 容

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供 試 菌 株

☆ トリコデルマ供試菌株

ANCT-05013

(攻撃性の高い菌株:59菌株より選抜)

☆ 木材腐朽菌株 (JIS K 1571指定菌ほか)

オオウズラタケ FFPRI 0507(MAFF 420001)

カワラタケ FFPRI 1030(NBRC 30340)

野生担子菌(4菌株)

ANCT-08036,同09001,同09002,同09003

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木材腐朽菌

腐朽遅延性能の評価方法

シラカンバ木片を木材腐朽菌の菌叢上に載せる.

木片と木材腐朽菌の上を固定化トリコデルマで覆う.

《JIS K 1571を流用》

固定化トリコデルマ

温度25℃で12週間培養し,木片の重量減少率を測定する. 200ml ビン

3本/ビン

10200 ml 培養ビン

↑木片3本/ビン

↓固定化トリコデルマ具体的には…

《Control 試験区》

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固定化トリコデルマ(ANCT-05013)の木材腐朽遅延性能(25℃・12週間曝露)

木片の重量減少率 (%)

オオウズラタケ カワラタケ

Control 試験区 76.6±0.78 ※ 71.7±2.14

固定化トリコデルマ 3.3±0.99 15.8±9.97

※平均±標準偏差(木片の供試数:12)

12

固定化トリコデルマ(ANCT-05013)の野生担子菌に対する木材腐朽遅延性能

※平均±標準偏差(木片の供試数:12)

25℃・8週間曝露 25℃・12週間曝露

ANCT-08036 同-09003 同-09001 同-09002

Control 試験区 85.6±10.08※ 85.7±13.37 19.7±23.2 4.8±12.45

固定化トリコデルマ 1.5±0.80 3.4±0.97 1.8±0.55 0.9±0.48

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菌体再生状況の観察

温度耐性試験方法

経時的に

サンプリングし,PDA平板培地に

接種,培養(25℃・10日間)

36℃,40℃, マイナス20℃

200 ml 培養ビン

固定化トリコデルマ(ANCT-05013)

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熱耐性試験の結果

100日間を超えて菌体再生がみられた.(経時的サンプリング最長日数:119日)

36℃

40℃

約2週間経過で菌体再生が観察されず(死滅).

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寒冷耐性試験の結果

100日間を超えて菌体再生がみられた.

(経時的サンプリング最長日数:117日)

ー20 ℃

ー20&5℃各7日間サイクル

10サイクルの凍結・融解後にも菌体再生がみられた.

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乾燥耐性試験の結果(室温)

初発水分60%の固定化トリコデルマは,368日間経過時に6%台まで低下したが,

菌体再生がみられた.

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流失耐性試験の結果

固定化トリコデルマ表面の様子(ANCT-05013)

2ℓ/min×60min/dの120回処理後に菌体再生あり!

菌 糸1 mm

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従来技術とその問題点

以上に解説した固定化トリコデルマによる木材の腐朽遅延技術には,避けることのできない要解決課題がある.

すなわち,

「カワラタケに対する腐朽遅延性能の改善」である!

具体的には,25℃・12週間曝露木片の重量減少率を5%程度以下に改善する技術的改良が必要である.

従来技術でのデータは,15.8%である.

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新技術の特徴・従来技術との比較

• 従来技術の問題点である,カワラタケに対する腐朽遅延性能を改良することに成功した.

• 固定化トリコデルマの担持材料として,従来はトリコデルマ属菌が好む酸性のもの(pH=4.3)を

用いた.しかし逆転の発想で,一般的な木炭・同粉砕物(pH=9.2)にも定着可能なトリコデルマ

属菌を用いることで,従来技術の問題点を解決することが可能となった.

• 25℃・12週間曝露木片の重量減少率が,16%から6%に改善された.

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想定される用途

• 本技術の特徴(脱ケミカル技術)を活かすには,子どもたちが利用する公園の整備や公立公園などにおいて,木製構造物(遊具,遊歩道,柵,看板など)の接地箇所の腐朽対策に用いることで,安心・安全と環境負荷の低さをアピールすることができる。

• 上述途以外に,例えばブドウ畑における木製支柱の接地箇所の腐朽対策に用いることで,より安心イメージの高いワイン造りに寄与できる。

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実用化に向けた課題

• 現在では,実験室規模で取得可能なデータをほぼ揃えた段階である.今後,フィールドにおける固定化トリコデルマの性能を確認する。

• 高専単独で実証的なフィールド試験を行なうことは,難しいと考えている.共同研究のパートナー(企業など)を求める。

地中

地面

土壌

接地箇所B

20木製土木資材

20

地中

地面

土壌

接地箇所B

接地箇所B

20木製土木資材

20

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企業への期待

• 木製土木構造物における接地箇所の腐朽遅延のみに限定した木材保存技術であり,その市場性の大きさよりも,特定ニーズへの対応技術であることに注目して欲しい.

• 木製土木資材と木材保存技術に関心を有する企業/公設研究機関などとのコラボレーショ

ンを目指す出会いを期待したい.

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称:

固定化トリコデルマの製造方法

および木材保存方法

• 出願番号 : 特願2010-244604 (H22.10.29出願)

• 出願人 : (独)国立高等専門学校機構

• 発明者 : 富樫 巌(旭川高専)

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お問い合わせ先

旭川工業高等専門学校

地域共同テクノセンター

TEL 0166-55-8129

FAX 0166-55-8082

e-mail [email protected]