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平成26年11月  第731号 19 スペースデブリ問題の現状と世界の取り組みについて 宇宙航空研究開発機構 ISO/SC14国際標準検討委員会 デブリ検討分科会主査) 加藤 明 1.はじめに 人類の宇宙活動の歴史が始まって約60年の 間に地球周回軌道に残された不要な人工物体 は「宇宙のごみ」(世界的にはSpace Debris呼ばれている。以下「デブリ」と呼ぶ)とし て知られ、地上から観測可能でかつ発生源が 明確なものだけで2 万個近く、数センチや数 ミリの物も含めれば数千万個から1億個にも なる。 地上の「ごみ」には、ちり(塵)のように 小さなものから、粗大ごみ、投棄車両、有害 廃棄物、爆発性の危険物などいろいろなもの があるように、デブリにも微小な塵、放出さ れたボルト・ナットやベルト等の部品類、用 済みとなったロケットの機体、運用を終了し た「人工衛星」(以下「衛星」)、それらが爆 発した時に発生した多量の破片などがあり、 大きさも 1 ㎜以下の微小なものから大型ト ラックくらいのものまで様々である。加えて、 原子炉衛星に含まれる放射性物質、爆発事故 の可能性のある燃料を搭載したままのロケッ トの残骸などの危険物もある。 ただし、デブリは地上のごみと異なって、 ①超高速(秒速7 ㎞以上)で周回しているの で衛星や宇宙ステーションに衝突すると危険 であること、②地上から良く見えないので衝 突を回避することも容易ではないこと、③簡 単には除去できないこと、などの問題がある。 本稿では、①デブリ問題の背景としてデブ リの分布状態と宇宙活動に対する脅威につい て、②デブリへの対策に向けての我が国及び 世界の動き、③国連における「宇宙活動の長 期持続性の検討」の進捗について、④まとめ として今後予想される変化について述べる。 2.デブリ問題の背景 デブリの分布状態と一般の衛星に対する衝 突の脅威について紹介しよう。 地球軌道を周回する軌道上の宇宙物体の情 報は、専ら米国戦略司令部(USSTRATCOMが地上観測を行って軌道要素や発生源を特定 して世界に公開しているデータベースから知 ることができる。そこに公開されている物体 のサイズは低軌道で10㎝以上、静止軌道では 50100㎝と言われている。図1に各年の宇宙 物体の増加数と消滅数を示す。これは地上か ら観測できて継続的に追尾可能で、発生源が 明確な物体に限られる。増加数には新たに打 上げられた衛星、打上げられた後に軌道に残 留するロケット機体(H-Aでは第二段機体)、 軌道に放出された部品類、破砕事故が発生し た場合の破片類などが含まれる。消滅数には、 大気抵抗等の自然力で落下した物体、コント ロールされて大気圏に再突入した物体、他天 体に向けて地球軌道を離脱した探査機などが 含まれる(厳密には他の衛星と結合した物体 も含まれる)。この増減から残留物の累積数 を求めるとNASAが随所で発表しているよう に、2014 10 月現在で17,000 個以上(軍事衛 星等非公開衛星を含めれば20,000個を超える) が登録されている。特に2007年に中国が行っ た衛星破壊実験で発生して今も残存している

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平成26年11月  第731号

19

スペースデブリ問題の現状と世界の取り組みについて

宇宙航空研究開発機構(ISO/SC14国際標準検討委員会 デブリ検討分科会主査)

加藤 明

1.はじめに人類の宇宙活動の歴史が始まって約60年の

間に地球周回軌道に残された不要な人工物体は「宇宙のごみ」(世界的 にはSpace Debrisと呼ばれている。以下「デブリ」と呼ぶ)として知られ、地上から観測可能でかつ発生源が明確なものだけで2万個近く、数センチや数ミリの物も含めれば数千万個から1億個にもなる。地上の「ごみ」には、ちり(塵)のように小さなものから、粗大ごみ、投棄車両、有害廃棄物、爆発性の危険物などいろいろなものがあるように、デブリにも微小な塵、放出されたボルト・ナットやベルト等の部品類、用済みとなったロケットの機体、運用を終了した「人工衛星」(以下「衛星」)、それらが爆発した時に発生した多量の破片などがあり、大きさも1㎜以下の微小なものから大型トラックくらいのものまで様々である。加えて、原子炉衛星に含まれる放射性物質、爆発事故の可能性のある燃料を搭載したままのロケットの残骸などの危険物もある。ただし、デブリは地上のごみと異なって、①超高速(秒速7㎞以上)で周回しているので衛星や宇宙ステーションに衝突すると危険であること、②地上から良く見えないので衝突を回避することも容易ではないこと、③簡単には除去できないこと、などの問題がある。本稿では、①デブリ問題の背景としてデブリの分布状態と宇宙活動に対する脅威について、②デブリへの対策に向けての我が国及び

世界の動き、③国連における「宇宙活動の長期持続性の検討」の進捗について、④まとめとして今後予想される変化について述べる。

2.デブリ問題の背景デブリの分布状態と一般の衛星に対する衝

突の脅威について紹介しよう。地球軌道を周回する軌道上の宇宙物体の情

報は、専ら米国戦略司令部(USSTRATCOM)が地上観測を行って軌道要素や発生源を特定して世界に公開しているデータベースから知ることができる。そこに公開されている物体のサイズは低軌道で10㎝以上、静止軌道では50~100㎝と言われている。図1に各年の宇宙物体の増加数と消滅数を示す。これは地上から観測できて継続的に追尾可能で、発生源が明確な物体に限られる。増加数には新たに打上げられた衛星、打上げられた後に軌道に残留するロケット機体(H-ⅡAでは第二段機体)、軌道に放出された部品類、破砕事故が発生した場合の破片類などが含まれる。消滅数には、大気抵抗等の自然力で落下した物体、コントロールされて大気圏に再突入した物体、他天体に向けて地球軌道を離脱した探査機などが含まれる(厳密には他の衛星と結合した物体も含まれる)。この増減から残留物の累積数を求めるとNASAが随所で発表しているように、2014年10月現在で17,000個以上(軍事衛星等非公開衛星を含めれば20,000個を超える)が登録されている。特に2007年に中国が行った衛星破壊実験で発生して今も残存している

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工業会活動

20

約3,000個の破片や2009年2月に米国衛星(イリジウム)とロシアの衛星(コスモス)が衝突して発生した約1,600個の残存破片が軌道環境の悪化を加速している。図2は高度40,000㎞までの軌道上物体(運用中の衛星、ロケットの残骸、それらの破片)の分布状況を定性的に示す。高度36,000㎞付近の静止衛星群、高度20,000㎞付近の測位衛星群、高度2,000㎞以下の低軌道衛星群が目立つが、定量的には高度2,000㎞以下に圧倒的に多数の物体が集中している。デブリのサイズ毎の衝突頻度を知るため

に、図3にデブリのサイズ毎に単位面積(㎡)・単位時間(年間)当たりの衝突数を高度に沿って示した。厳密に言えばデブリのフラックスを示した図である。デブリが衝突した場合の被害は、例えば、衛星の構体パネルを貫通するデブリのサイズは0.2㎜程度、0.5㎜のアルミ板を貫通するのは1.0㎜程度である。デブリ

の衝突は相対速度10㎞/sec程度になることが多いが、衝突したデブリと被災したパネルから液化した高エネルギの雲塊(クラウド)状の飛散物が噴出して背後の機器を破壊したり、1㎝以上のデブリであれば衛星全体を破砕させる場合がある。衛星の健全な運用を保証するためには何らかの防護策が必要である。更に、10㎝以上の物体は衛星に衝突すれば完全な破砕現象を招き多量の破片を飛散させる。そのような事故の発生確率は、図3より単位㎡あたり年間10-5回となるが、軌道上に存在する衛星やロケットの残骸は5,000個を超えることから、その平均断面積を10㎡と仮定すれば数年で1回の衝突が起きてもおかしくない。このうち運用中の衛星は1,000機程度と言われており、これらが全て衝突回避機能を持っているとしても軌道環境の悪化は避けられない状況である。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500登録物体数

‐1,500

‐1,000

‐500

0

1957

1959

1961

1963

1965

1967

1969

1971

1973

1975

1977

1979

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

2007

2009

2011

2013

西 暦

破片類ロケット機体衛星落下破片類落下ロケット機体地球圏外脱出落下衛星

図1 宇宙物体の発生・消滅状況の経緯

注: 原則として発生年は発見した年である。ただし2007年の中国破壊実験、2009年の米ロ衛星衝突に関しては観測年によらず、それぞれの発生年に反映した。

(Space Track 2014年8月末)

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平成26年11月  第731号

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直径1 m

直径0.1 mm

直径1 mm(0.5 mmのアルミ板貫通)

直径1 cm(シャトルカーゴベイ損傷)

直径10 cm

時期:2011年期間:1年間軌道傾斜角度:98度面積:1m2

衝突物:メテオロイドとデブリ

316 回/年

0.3 回/年

6x10-5 回/年

10-5 回/年

3x10-6 回/年

直径0.2 mm(外部露出電源ケーブル破損ハニカムパネル貫通)

高度(km)

高度1,000kmの衝突率@1m2

1,000

100

1

10

0.1

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

単位

面積

当た

り年

間衝

突数

(回

/m

2/年

)

65 回/年

図3 米国モデル(DAS)による軌道高度とデブリ等衝突回数(単位面積、傾斜角度98度)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000

近地点高度(㎞)

遠地点高度(㎞)

衛星(3,481個)

ロケット機体(1,643個)

破片類(10,876個)

静止軌道帯

静止衛星を打上げたロケット群

ロシアのモルニア衛星及び打上げロケット

低軌道衛星及びその打上げロケット

測位衛星群

図2 軌道上物体の分布状況(遠地点高度40,000㎞未満)

(Space Track 2014年8月末)

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工業会活動

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対策①爆破行為の禁止②爆発事故の防止(残留推薬排出)

③衝突被害防止

対策①部品を放出しない

対策:運用終了後、①静止衛星は高く移動②低軌道衛星・ロケットは

25年で落とす。(落下の際には地上安全保証)

(百分率は地上から観測出来ている物体の数量割合)

衛星(運用中及び廃棄後)

20%

放出部品

5%

破砕破片

64%

廃棄ロケット

11%

ここに示した対策が世界のデブリ低減Guideline・規格の基本になっている。

図4 デブリ発生原因と主な発生防止対策(データ源泉: 数量割合はESAの2011年2月の国連COPUOS/STSCへの報告)

3.デブリ対策に向けての我が国及び世界の動き欧州宇宙機関(ESA)ではデブリの発生源の内訳を図4のように分類している。図中に注記を加えたが、デブリ問題への対策にはこれらの発生源に対応した防止策を講ずることが効果的である。世界のデブリ低減標準/ガイドラインはレベルに相違はあるが概ねこのような考えで表1に示す対策を推奨している。デブリ対策規制は、1995年にNASAが安全標準「NSS1740.14:軌道上デブリの抑制のためのガイドラインと評価手順」を制定したのが最初で、翌年には当時のNASDA(現:JAXA)が「スペースデブリ発生防止標準」を制定した。NASAの標準はサイエンティストが起草したもので要求文書ではないこともあって実行面で疑問が待たれる部分もあった。JAXAは基本的技術要求に加え、これを遵守するための対策計画の文書化や審査要求を含む管理標準として制定した。技術的要求内容はNASAとほぼ同等であるが検証不可能な推奨事項は避けている。

JAXAは、この取り組みを世界共通のものとすべく、先進国政府系宇宙機関で構成するIADC(世界機関間スペースデブリ調整委員会)に先進国宇宙機関共通のデブリ対策規格の整備を提案し、約3年の活動を経て2001年に「IADCスペースデブリ低減ガイドライン」を制定するに至った。この制定までに要した数年の間に米国はNASAとDoDに適用する「米国政府標準手順」を発行し、フランスCNESも同様の標準書を作成するなど先進国で自主規制を設ける動きが生まれた。国連宇宙平和利用委員会(UNCOPUOS)ではそれまでデブリ対策の規制化に関しては具体的な進展が無かったが、IADCガイドラインの制定の見通しがたつと、これを国連でエンドースして同種の文書を国連ガイドラインとして作成することで合意した。これが2007年の国連総会で「デブリ低減ガイドライン」として決議された。これにはIADCガイドラインの定量的要求は極力排除した上位の概念的部分が提言されており、詳細についてはIADCガイドラインを参考文書として呼び出している。

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平成26年11月  第731号

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ISO(世界標準化機構)においても、国境を越えた国際企業を含む産業界にこの流れを浸透させるため、国連ガイドラインの制定の前から独自のデブリ対策規格の制定を目論んでいたが、国連ガイドラインの制定で勢いを得てデブリ専門の分科会を設け、ISO-24113「デブリ低減要求」を核として制定し、現在も種々のデブリ対策規格を制定中である。時間的にはこれと並行して欧州では「デブリ低減に向けた欧州行動規範」を制定した。これはIADCガイドラインより更に厳しく、各要求に定量的要求を課している。固体モータのスラグの直径(1㎜以下)、爆発事故発生確率(0.001以下)、廃棄処置の成功確率(0.9以上)等である。しかしESAはこの欧州行動規範には署名し

たものの、その実現性に疑問があるとの判断で、より現実的な要求にとどめた独自の指針

を発行している。欧州技術者の言を借りれば、もはや当該欧州行動規範は死文化しているとのことである。現在、欧州全体としてはECSS(欧州宇宙標準協会)がISO-24113を呼び出す形で制定した規格を適用している。

NASAはNPR 8715.6A(2008年A改訂)とSTD-8719.14(2011年A改訂)を制定し、要求内容を厳しく見直し、その適用方法について指針を示した。固体モータスラグの件以外は欧州行動規範と同レベルの要求である。フランスは2008年6月3日「宇宙法Sapce

Act」を制定した。この下位文書として「技術規則Technical Regulation」が制定されており品質保証面、安全面と並べてデブリ面の規制についても言及されている。以上を含めた世界のデブリ関連の規制化の

動向を図5に示す。

表1 主なデブリ対策

大区分 中区分 要求内容

部品放出

部品類放出抑制 分離後周回軌道に残る恐れのある締結具等は重大な問題が無い限り放出しない。(複数衛星打上げ時の支持構造体は免責)

固体モータ・火工品物 固形燃焼生成物の放出を避けるように設計・運用する。

軌道上破砕

破壊行為禁止 軌道上で衛星・ロケットを破壊しない。

運用中の事故 運用中の破砕発生事故を防止する。異常検知モニタを設けて、検知した時には速やかな対策を講ずる。

残留推薬放出等衛星・ロケットの残留エネルギを排除する。(残留推進薬の排出、バッテリの充電回路の遮断、高圧機器の排気あるいは強度確保、ホイールなど高速回転機構の停止保証)

衝突

大型物体衝突回避 他の宇宙物体と衝突する可能性を検知し、衝突を回避する。ロケット打上げ時には有人システムと衝突しないよう時刻を調整する。

小型物体衝突対策 デブリと衝突して宇宙機の廃棄処置が不可能になる被害の発生率を評価する。

運用終了後の処置

静止リオービット距離 静止高度の上下200㎞以内の保護軌道域を保全するため、運用を終了す

る衛星等は、高度を上げて退避させる。

低中高度軌道

軌道滞在期間短縮 高度2,000㎞以下の軌道域を保全するため、運用終了後は軌道寿命の短縮、自然落下、高度2,000㎞以上の高度への移動、再突入、回収等の処分により有用な軌道との干渉を避ける。

墓場軌道への移動軌道上回収

再突入時地上被害 落下危険度(傷害予測数)を打上げ前に予測し、技術の現状を踏まえつつ最大限の努力を払う。

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工業会活動

24

4.国連における宇宙活動の長期持続性の検討について純粋にデブリ問題に焦点を当てた国際的活

動は以上でほぼ終了し、今やデブリ問題は安全保障の問題とリンクして議論されている。衝突被害の防止策を中心として安全保障の強化に結びつける方向が、欧米を中心とした「宇宙活動に関する国際行動規範」や、ロシアを中心とした「透明性・信頼性醸成手段の構築」の議論の中で行われている。これらは軍縮会議の流れで行われているものである。これと並行して国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)では「宇宙活動の長期持続性の検討」が行われている。COPUOSは宇宙の平和利用の議論を行うところなので安全保障の議論を表だって行うことはできない。そこで軌道環境の保護の観点で衝突被害を防止するための方策を強く打ち出し、安全保障の議論とリンクさせようとの意思が見られる。その検討の体制を

図6に示す。全体を調整する「長期的持続性検討WG(略称)」の下に「地上の持続的発展」、「デブリ、宇宙運用、宇宙状況監視ツール」、「宇宙天気」、「規制体制、新規参入者対応」を扱う4つの専門家会合が設けられている。当初の計画では2014年春にベスト・プラクティス・ガイドラインと報告書が完成する予定であったが、作業遅れや新たな問題提起などのために2年遅れが決定されている。この「宇宙活動の長期持続性の検討」の背

景は幾つかあろうが、中国の破壊実験が2007年1月11日という特別な時期に、すなわち国連デブリ低減ガイドラインがCOPUOS科学技術小委員会にて最終調整される直前に実施されたことでフランスなどが危機感を強めたことが一つの契機となったと言われている。当該ガイドラインは各国の自主管理による性善説を前提とするものであったが、それでは限界があることが明確になったと言える。当該

NASA標準

米国政府標準

NASDA標準

仏CNES標準

露宇宙庁標準

先進国デブリ調整会議(IADC)ガイドライン

同解説書

対先進国標準作成プロジェクト

ESAハンドブック

国連COPUOS宇宙活動の長期

持続性の検討

ISOデブリ

対策規格

ISO‐24113デブリ

低減要求

先進国政府系

宇宙機関の合意

世界宇宙商業活動への啓蒙

国連

宇宙空間平和利用

委員会ガイドライン

各国政府の合意

1996年 2002年 2007年 将来

日米標準化→ 各国への普及→ 先進国政府機関合意→ 国連への発展→ 世界産業界への徹底(ISO)→ 法制化→ 厳しい規格による差別化、宇宙産業の寡占化への警戒 → 安全保障とのリンク

主旨の徹底

米国

日本

フランス

ロシア

欧州全域

宇宙活動に関する国際行動規範

仏国

宇宙活動法

環境悪化

ESA理事長室デブリ低減要求

世界のデブリ規制の流れ大型デブリ5,000個

大型デブリ10,000個 更なる増加

ECSS‐U‐AS‐10C「宇宙持続性」(=ISO‐24113)

技術規則

2011年1995年 2008年2004年

デブリ低減の欧州行動

規範

1999年 2000年

図5 世界のデブリ関連規格化の動向

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平成26年11月  第731号

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ガイドラインを各国自主管理に任せずに、具体的行動指針を示し、その遵守を徹底させる必要が生じたのであろう。最新の進捗状況報告は国連のウェブサイト

で公開されている2014年6月のCOPUOS本会議にWG議長が提出した報告書※である。これをベースに紹介する。そこには33件のガイドラインが列挙されている。これらはWG議長が専門家会合の仕切りを外してシャッフルして独自の見解で再整理した順番になっている。それぞれの専門家会合の報告書は議長や参加した専門家の見識で纏められているので、様々なレベルのガイドラインが混在している。幾つかは国家に対する法的規制体系の整備を推奨するものであり、その整備に際しての注意事項も同じレベルで記載されている。途上国支援とその際の配慮事項についても同レベルである。本来中心となるべき設計・運用プロセス上の推奨事項(ベストプラクティスと呼ばれている)は、衝突回避、宇宙天気(放射線など)、再突入注意報に集中している。既に文書化されている国際法や勧告については触れないことになっていたが、ITU(国際電気通信連合)勧告や国連の打上げ物体登録条約等にも言及されている。ガイドラインの詳細は国連のサイトを見ていただ

くこととし、ここでは筆者の見解で図7のように整理したので参考にされたい。地上の持続的発展や国際協力などに多くの詳細なガイドライン案が提示されているのは、参加国の多くが、先進国と同等の便益を享受したり、そこから支援を受けて自国の宇宙活動を活発にしたいという意思の表れであろう。この検討の成果が国連の決議となれば、各国の宇宙活動に対する法的管理体系がより強く求められることになり、国際協力としての途上国援助の技術移転要請が活発に行われるようになるかもしれない(知的財産権の保護、不拡散減速の維持などの弊害は起きないように記述が配慮されている)。また、衝突回避等を目的とした宇宙物体情報等の共有・配布が求められる。衝突防止がクローズアップされれば衝突事故などで軌道環境を悪化させた場合の責任がより大きく意識されることになろう(国際法上の罰則などはない)。

※ “Proposal by the Chair of the Working Group on the Long-term Sustainability of Outer Space Activities for the consolidation of the set of draft guidelines on the long-term sustainability of outer space activities” A/AC.105/2014/CRP.5, Committee on the Peaceful Uses of Outer Space , Fifty-seventh session, Vienna, 11-20 June 2014(http://www.oosa.unvienna.org/pdf/limited/l/AC105_2014_CRP05E.pdf)

図6 国連における宇宙活動の長期持続性の検討の体制

国連/宇宙空間平和利用委員会(UN/COPUOS)

科学技術小委員会(STSC)

長期的持続性検討WG

地上の持続的発展のための宇宙利用

デブリ/宇宙運用/宇宙状況監視ツール

宇宙天気予報規制体制/

新規参入者

法律小委員(LSC)

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工業会活動

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5.まとめ前項で触れたように、長期持続性の検討結果で大きく影響を受けるのは国レベルの活動である。宇宙活動の法制化、対同盟国及び途上国との外交面、情報管理などで対応が求められる。宇宙活動の実行組織としても、宇宙物体登録条約等国際約束への遵守や、衝突回避や再突入安全等技術的に完全には対応できにくい分野の技術力の向上、軌道情報の開示などに配慮が必要になろう。この長期的持続性の議論に加えて「宇宙活動に関する国際行動規範」及び「透明性・信頼性醸成手段の構築」の決議が加われば、宇

宙戦略、宇宙計画の開示、衛星のミッション目的の開示、打上げ施設・追跡施設などの公開、環境に負の影響を与える事態を招いた場合はその説明あるいは影響を受ける国からの求めに応じて協議の場を持つ必要が出てくる。いずれにせよ、国際紛争を透明性と信頼性の確保で回避しようという世界の潮流には、大学や産業界を含めて、国全体として協調が求められる。一方では技術情報開示に伴う知的財産権や機密の保持など守りの体制も必要になる。

図7 国連における宇宙活動の長期持続性の検討の暫定結果の整理図(筆者私見)

国際協力・協調

基本理念(1) 国際協力推進

各国の努力

途上国支援(1) 能力開発、データ提供(2) 支援の際の配慮事項

社会への周知・啓蒙(1) 宇宙活動便益の周知(2) 国際的既存規格等の採用

推奨される最善の手法

宇宙物体登録と調整窓口(1) 宇宙物体登録(2) 衝突回避に向けた調整窓口指名

宇宙物体観測(1) 宇宙物体観測(2) データ共有

リスク評価(1) 再突入リスク低減(2) 接近解析による衝突回避

宇宙天気(1) モデル整備(2) データ取得

既存規定順守(1) 電波干渉(ITU勧告等)(2) 宇宙物体登録(3) デブリ低減ガイドライン(4) ハーグ行動規範

各国規制体系の整備(1) 長期持続性に配慮した各国規制体系の整備(2) 各国規制体系の整備に際しての注意事項(3) 規制体系整備の際の関係組織の調整(4) 経験・知識の共有(5) 研究の促進