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東北大学 ニュートリノ科学研究センター Research Center for Neutrino Science Tohoku University

ニュートリノ科学研究センター · 陽子 原子 原子核 陽子原子核 原子と素粒子 素粒子はクォーク族とレプトン族に分類され、 合わせて12個確認されています。またこれ

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東北大学

ニュートリノ科学研究センター

Research Center for Neutrino Science Tohoku University

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ニュートリノ科学研究センター(旧泡箱写真解析施設)

1

沿革 昭和 46 年、 泡箱写真 (*) の測定解析による素粒子物理学の研究を目的

として設置された理学部附属泡箱写真解析施設は、 主として海外の大型

加速器を用いて素粒子反応を撮影した泡箱写真を解析し、 重いクォークで

あるチャームクォークを含む粒子の検出や寿命の測定、 そしてニュートリノ

と原子核の反応の解明に数多くの成果を挙げました。

 同施設は低エネルギーニュートリノ ・ 反ニュートリノの観測および極低放

射能環境における実験的研究を通じ、 素粒子原子核物理学 ・宇宙物理学

および地球物理学の発展に寄与する事を目的として、 平成 10 年に大学院

理学研究科附属ニュートリ科学研究センターへ、 さらに平成 21 年に学内

共同教育研究施設として東北大学ニュートリノ科学研究センターへ改組 ・

転換されました。

(*) 泡箱写真

粒子加速器によるビームに同期して液体の

標的を膨張させ過飽和にし、 素粒子反応で

発生する多数の粒子の飛跡に沿って発生す

る小さな気泡を写真に撮ったもの。

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ニュートリノ

2

陽子

原子 原子核 陽子原子核

原子と素粒子

素粒子はクォーク族とレプトン族に分類され、

合わせて 12 個確認されています。 またこれ

らの粒子には、 質量が同じで電荷などの符

号が反対である反粒子が存在します。

原子核

中性子陽子

電子

反電子ニュートリノ

ニュートリノは 3 種類存在し、 質量があると時間と共に

別の種類のニュートリノに変身する現象が周期的に起こ

ります。 これをニュートリノ振動といいます。

(*)

我々を形作っている原子をさらに細かく分解して

いくと、 これまで判明している粒子の中で最小単

位である素粒子、 クォーク (上図でアップ、 ダ

ウンと示されている粒子) が現れます。 また、

ニュートリノは下図のようなベータ崩壊 (β崩壊)

と呼ばれる現象や、 核融合 ・核分裂反応に伴っ

て発生する素粒子の一種です。

物質を構成する最小の粒子を素粒子といいます。 現在

確認されている素粒子は、 陽子や中性子を構成する

クォークと、 電子の仲間であるレプトンに分類され、 ど

ちらも 6 種類あることが分かっています。 レプトンの中

で 3種類は電荷がなく、 これをニュートリノと言います。

 ニュートリノは宇宙で光の次に多く飛び交い、 太陽な

ど星の中心で起こる核融合反応や、 重い星の最期に

起こる超新星爆発、 宇宙線が飛び込む地球の大気、

原子炉や地球の内部、 そして私たちの体の内部からも

発生します。

 ニュートリノはこのようにありふれた粒子ですが、 他の

物質と反応しにくく、 1 光年 (光が 1 年間に進む距離)

の厚さの鉛でも通り抜けるほどです。 このため検出は

とても難しく、 最近まで質量があるのかどうかさえ不明

でした。 しかし 1990 年代以降、 ニュートリノ研究は目

覚しく発展し、 ニュートリノが質量を持つ場合に起こる

「ニュートリノ振動」 (*) が実際に観測され、 3 種類

のニュートリノの混じり具合も明らかになってきました。

しかしニュートリノの質量の絶対量は未だに不明です。

またすべての素粒子には自分と電荷が正反対の 「反粒

子」 が存在しますが、 ニュートリノは電荷がないため自

分自身が反粒子である可能性もあり、 これも未解決の

問題です。 このようにニュートリノは依然として謎に包ま

れた素粒子です。

 一方で、 ニュートリノが他の物質と反応しにくいという

性質を利用し、 太陽の中心、 地球の内部、 原子炉の

内部など、 外からは直接見えないものを観測する手段

として利用できる可能性があります。 これまで性質がわ

からなかったために、 役に立つかどうかさえ分からな

かったニュートリノですが、 今後はニュートリノを用いた

応用研究についても進展が期待される魅力的な素粒子

です。

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カムランド検出器 : 設置場所とカムランドエリア

3

カムランド 池の山標高1000m

跡津坑道

製造装置

        カムランドエリアの概略図

  カムランドの位置 (岐阜県飛騨市神岡町)

 ニュートリノは非常に物質と反応しにくいため、 研

究するのに十分な数を検出するためには大量の物質

を必要とします。 そこで、 世界最大の 1000 トンの有

機液体である液体シンチレーターを用意したニュート

リノ実験が提案されました。 それがカムランドです。

そ の 名 前 (KamLAND) は Kamioka Liquid

Scintillator Anti-Neutrino Detector、 す な わ ち 「神

岡液体シンチレーター反ニュートリノ検出器」 のこと

で、 設置場所は岐阜県飛騨市神岡町にある神岡鉱

山の地下実験室です。 この場所は岐阜県と富山県

の県境にある 「池の山」 の山頂直下 1000 m に当た

ります。

 ニュートリノを観測するには、 観測の邪魔となる宇

宙線を遮蔽する地下および山の中が都合が良く、 カ

ムランドにおける宇宙線は地上の 10 万分の 1 です。

また神岡鉱山は 2001 年まで採掘が行われて来たた

め鉱山内はメンテナンスが行き届いており、 実験を

行うには好都合です。 さらに神岡から 180 km ほど

離れた位置には大型の発電用原子炉が多数点在

し、 原子炉ニュートリノ実験を行うにはまたとない打っ

てつけの場所です。

 カムランド検出器は神岡鉱山の跡津坑の坑口から

2 km ほどの所にあり、 そこはかつて小柴先生率い

る東京大学のカミオカンデ実験チームが活躍し、 超

新星爆発ニュートリノの検出およびニュートリノ天文

学が創始された所です。 カムランドエリア入り口の防

火扉を通ると分岐した坑道があり、 観測に使う液体

シンチレーターを純化するための大型プラントが設置

されています。 そのまま検出器に向かって進むと、

検出器の外部に純水を供給する純水装置がありま

す。 検出器内部の実物大型模型を横目に検出器上

部に向かう坑道を上るとキセノン取扱い設備が設置

してある部屋があり、 その先に高純度窒素ガス製造

装置があります。 さらに実験コントロールルームを経

て各種モニターや光電子増倍管の電源があるクリー

ンルームに到着します。 検出器の最上部のドームに

は、 検出器の内部にアクセスするための装置や測

定用の電子回路システムが設置されています。

 カムランドは 1998 年に建設が始まり、 2001 年 11

月に完成し宇宙線の信号をとらえました。 翌年 1 月

22 日より実験を開始し、 以後 2 度の液体シンチレー

ター純化作業 (2007 年 5 月〜8 月、 2008 年 6 月

〜2009 年 2 月) を挟みながら、 365 日、 24 時間

体制で共同実験チームによるニュートリノの観測が

続けられています。

 2011 年からはカムランド実験に加え、 カムランド

禅実験も平行して行われており、 汎用性の高い実

験装置として世界でも最先端の研究を行っていま

す。

跡津坑道

製造装置

液体シンチレーター純化装置

超高純度窒素ガス

防火扉

純水装置

コントロールルーム

液体シンチレーター

カムランド検出器

球形タンク

クリーンルーム

外水槽

光電子増倍管

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カムランド : (反) ニュートリノの検出方法

4

先発信号

後発信号

陽子

中性子

重陽子

ガンマ線陽電子

陽子

電子

ガンマ線

ガンマ線

反電子ニュートリノ

 ニュートリノや反ニュートリノは、 ごくまれにし

か他の物質と反応しないため検出するのが大

変難しい粒子です。 カムランドではこの低頻度

のニュートリノ反応事象を検出するために、 液

体シンチレーターと呼ばれる発光性の油を用い

ています。 液体シンチレーターは、 ベータ線や

ガンマ線などの放射線が通過するとシンチレー

ション光という青い光を出します。 水を使った

ニュートリノ検出器に比べ、 シンチレーション光

による発光量は約 100 倍も大きいため、 より低

いエネルギーを観測できるというメリットがありま

す。 カムランドでは、 この光を直径 18 m のス

テンレス球形タンクの内部に設置された 1879 本

の光電子増倍管でとらえ、 ニュートリノ事象を

検出します。

 カムランドはニュートリノのうち、 特に反電子

ニュートリノ (原子炉や地球内部から発生する

ニュートリノ) を識別して検出する事が出来ると

いう大きな特徴があります。

 反電子ニュートリノが液体シンチレーターの陽

子と反応すると、陽電子と中性子が発生します。

陽電子は液体シンチレーターの中で光を発しな

がらすぐに電子と対消滅してガンマ線を放出し、

さらに液体シンチレーターを発光させ先発信号

を出します (先発信号)。 一方、 中性子は他

の陽子などと衝突を繰り返した後、 平均 210 マ

イクロ秒後 (1 マイクロ秒は 100 万分の 1 秒)

に液体シンチレーターを発光させ、 これが後発

信号となります。 反電子ニュートリノ以外のほと

んどの邪魔物反応では液体シンチレーターの発

光は1度きりですが、 反電子ニュートリノ反応で

はこのように特徴的な 2 回の発光現象が時間

差をおいて起きるために、 高い信頼度で邪魔

物反応を除去し、 反電子ニュートリノを識別す

る事が出来ます。 こうして反電子ニュートリノ事

象を正しく観測することができるのです。 カムラ

ンドでは 1 日に邪魔物反応が 100 万事象程度

観測されていますが、 その中から 1 日に 1 事

象程度の原子炉反ニュートリノ、 20 日に 1 事

象程度の地球反ニュートリノを識別する事が出

来る性能を有しています。

    カムランド検出器のステンレス球形タンク

    の内部から天井を見上げて撮影した写真

16 個 ×4 の光電子増倍管が作る菱形が組み合わされ

た 30 面体構造になっています。 この中に 1000 トンの

液体シンチレーターを入れた直径 13 m の透明なバルー

ンと、 その外側を覆う透明なミネラルオイルを封入し、

微弱なニュートリノ信号を検出します。

    反電子ニュートリノを検出する反応の概略図

先発信号 ・ 後発信号、 共に液体シンチレーター中で

発生した陽電子やガンマ線が発光を引き起こします。

     カムランドでのイベントディスプレイ

1 つの点は光電子増倍管 1 つに対応し、 色のつ

いている点は光を検出した事を示す。

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これまでの研究結果

原子炉反ニュートリノを用いたニュートリノ振動の研究

5

観測数

/予測数(振動無し)

原子炉からの距離(m)

 1970 年頃にR. デービス博士によって太陽ニュート

リノが初めて観測されましたが、 そのニュートリノの

数は理論予想よりもはるかに少ないという不思議な

観測結果でした。 それから 30 年、 さまざまな実験

が行われ、 また太陽理論の修正や改善がなされま

したが、 その差は埋まることはなく観測数は理論の

予測に比べて少ないままでした。 これを太陽ニュー

トリノ問題といいます。 その後、 太陽理論の予測が

正しく、 そして観測された量も正しいのであれば、

ニュートリノが 「変身」 したからではないかという考

え方が提唱されました。 素粒子の標準理論で 0 とさ

れているニュートリノ質量がもし 0 では無い場合、

ニュートリノが飛行している間に別種のニュートリノに

変身し、 また元のニュートリノに戻ってくるニュートリ

ノ振動という現象が起きるために、見かけ上数が減っ

たように見えているのだというのがこの考え方です。

 カムランド実験では、 このことを原子炉反ニュート

リノを用いる事で確認しようとしました。 原子炉反

ニュートリノは純粋に反電子ニュートリノとして発生

し、 人工のニュートリノであるため、 太陽ニュートリ

ノとは違い発生する量やエネルギー分布が正確に分

かっています。 また、 カムランドが設置されている

神岡鉱山は、 周辺約 130 km ~ 220 km に多数の原

子炉群が存在し、 約 180 km の距離に巨大な原子

炉が 1 基あるのとほぼ同等の特徴的な場所です。

この原子炉群では世界全体の原子力発電所の熱出

力の約 7% が作られ、 そこから大量の反電子ニュー

トリノが飛来します。もしニュートリノ振動が事実なら、

長距離を飛行する反電子ニュートリノが別の反ニュー

トリノに変身し、 観測数が減少するだけでなく、 観

測されるエネルギースペクトルにも特有のパターンが

現れると考えられました。

 カムランドはこの原子炉ニュートリノの観測を目指し

て建設され、 2002 年 1 月 22 日に観測を開始し、

2003 年に最初の 145 日の観測データを公表しまし

た。 観測された原子炉反ニュートリノ事象は 54 個、

一方でニュートリノ振動無しとして予測される数は 87

個で観測数は明らかに少なく、 カムランドは世界で

初めて原子炉ニュートリノ消失の証拠を示しました。

これはまた、 太陽ニュートリノ問題を解決した事を意

味し、 世界の注目を集めました。

    日本の原子力発電所の位置とカムランド

世界最大の原子力発電所である柏崎刈羽発電所や、 日

本有数の原子力発電所密集地帯である若狭湾などがカ

ムランドから 180km 近辺に密集している。 各原子炉の運

転データは、 各電力会社の協力により東北大学に提供

されている。

    ニュートリノの予測数に対する観測数の割合

横軸は原子炉からの距離、 縦軸はニュートリノの予測数

に対する観測数の割合を表し、 点線はニュートリノ振動で

予測される割合を表す。 各点は世界各地で行われた原

子炉ニュートリノ実験による観測結果。

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約 2 周期分の振動パターンが見えた

電子型ニュートリノ

他の種類のニュートリノ

6

カムランドで観測したニュートリノ振動パターン

2

反電子ニュートリノ生き残り確率

ニュートリノが飛んだ距離 (km) / エネルギー (MeV)

 カムランドでは観測データを増やし、 2005 年には

515 日の観測データを用いた結果を発表しました。

この発表ではニュートリノ消失の有意性を 99.998% の

信頼度まで高めただけでなく、 ニュートリノ振動固有

のエネルギースペクトルのゆがみを観測し、 ニュート

リノ振動の直接証拠となる振動パターンをとらえるこ

とに成功しました。

 さらに 2008 年に発表した最新の結果は、 1491 日

の観測データを元に解析を行ったものです。 前回の

発表ではニュートリノ振動パターンは 1 周期まで確認

しましたが、 今回はさらにデータを蓄積し、 解析手

法を改善する事でほぼ 2 周期まで確認する事に成功

しました(下図)。また、これまでの詳細な解析により、

ニュートリノ振動を特徴付ける物理量が高い精度で

決定されました。 なかでもカムランド実験が開始する

前は 7 桁もの不定性があったニュートリノ質量の 2 乗

差 (Δm2) が 2.8% という高精度で決まりました。

 このようにカムランド実験は、 30 年間謎だった太陽

ニュートリノ問題を解決しただけでなく、 電子ニュート

リノの振動現象を詳細に測定し、 振動固有の物理量

を精密に決定する事に成功しました。

        振動パラメーター解析の結果

横軸は振動の大きさを表し、 縦軸は 2 つのニュートリ

ノ質量の 2 乗差を表す。 黒の線は世界各地の太陽

ニュートリノ実験の結果を合わせた領域、 色のついた

領域はカムランドの結果を表す。 これらの結果が一

致していることにより、 ニュートリノ ・ 反ニュートリノで

の振動に違いが無い事が示された。

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地球反ニュートリノの研究

7

 地熱の測定により、地球内部で発生している

熱量は 47 TW (TW( テラワット )=1 兆ワット ) と

見積もられています。これは大型の原子炉 1 万

5000 基に匹敵する巨大な熱エネルギーです。こ

のうち地球生成時の隕石の集積に起因する熱な

どのほかに、地球内部に含まれている放射性元

素 ( ウラン、トリウム、カリウム ) の崩壊で開

放れるエネルギーが約 20 TW と考えられていま

す。この熱は地震、火山活動、地磁気の原因と

なるだけでなく、マントル対流、プレートテク

トニクスなどの地球の動力学や、地球の生成・

進化の研究における最も基本的な物理量です。

しかし従来の地質調査のボーリングで調べられ

るのは 1 km 程度までであり、地球深部の放射性

元素の量と分布を直接観測することは出来ませ

ん。

 カムランドでは地球内部のウランとトリウム

系列の娘核がベータ崩壊して生成される反電子

ニュートリノの一部を観測することができます。

このエネルギーの低い反ニュートリノ事象をと

らえ、その事象数を調べることで、地球内部で

放射性元素が発するエネルギーを測定すること

が出来ます。

 カムランド初期 750 日の観測および解析によ

り、カムランドは世界で初めてこの放射性物質

起源の地球反ニュートリノを検出する事に成功

し、検出された反ニュートリノから計算される

地球ニュートリノの発生量は、地球物理によっ

て予想される値と一致することがわかりました。

この結果は、ニュートリノという地球内部を見

通す新しい目が得られ、ニュートリノ地球物理

学という新たな研究分野が切り開かれた事を意

味します。

 今後、反ニュートリノの飛来方向がわかる検

出器の開発、世界各地にカムランドと同様の検

出器を設置するなどの方法により、ニュートリ

ノを用いた地球の「断層写真」を撮ることが出

来ると期待され、ニュートリノを用いた応用研

究としても活発に議論されています。

カムランド検出器でとらえた反ニュートリノのエネルギー分布

 上図はカムランドでの全観測データからノイズ事象を差し

引いた、 地球ニュートリノ事象のエネルギースペクトル。 青

の領域は期待される地球ニュートリノの予測スペクトル。

 下図はカムランドでの 2135 日間の全観測データ。 白の領

域は原子炉ニュートリノ、 赤と緑は反ニュートリノ以外の邪

魔物反応による事象、 そして青色領域は地球ニュートリノの

予測される信号の分布を表しています (データに対する最

適値)。

カムランドでの観測に相当する地球ニュートリノの生成点分布

 地球表面の地殻部分にもっとも高い濃度でウランやトリウム

が分布していて、 核の部分にはウランやトリウムは存在してい

ないと考えられています。

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地球反ニュートリノの観測による地球モデルへの制限

8

崩壊頻度

 カムランドでは 2007 年および 2008 年から 2009

年にかけて蒸留法による大規模な液体シンチレー

ターの純化を行うことで、 液体シンチレーター中

の放射性不純物からのノイズ事象を 20 分の 1 に

低減し、 地球反ニュートリノ観測の感度および精

度を向上させました。

 カムランド初期からのデータも含め、 2135 日分

のデータを解析した結果、 地球反ニュートリノの

観測数は 106  となり、 前回と比べ、 飛躍的に

精度が高まりました。 また、 この事象数は、 地

球内部の放射性元素が 21 TW の熱を発している

ことを意味し、 隕石の分析結果にもとづいた地球

進化モデルの推定値 20 TW と一致するとともに、

地球内部全体で発している熱量 47 TW の半分に

すぎないことを意味しています。

 地球内部の熱は、 放射性元素の崩壊による熱

の発生の他に、 隕石の衝突や重い成分が地球

内部に沈み込んだときに解放された重力エネル

ギーなどの地球の形成時に蓄えられた原始エネ

ルギーの 2 つが考えられています。 カムランドの

観測結果により、 地球の熱源で放射性元素起源

のものは半分にすぎないということが判明し、 熱

流量がすべて放射性物質からなるというモデルを

排除しただけでなく、 46 億年前の地球形成時の

原始の熱が今でも残っているということが判明しま

した。 またこの結果は、 現在も地球は徐々に冷

えているということも示しています。

+29

-28

      純化前後での邪魔物反応頻度の変化

 液体シンチレーター中の放射性不純物による邪魔物反応

の純化前後での変化の様子。 地球ニュートリノ観測では赤

で示されているポロニウム 210 (  Po) が主要な邪魔物反

応となるが、 純化後は約 20 分の1に減少している。

210

     地球ニュートリノ観測から地熱への換算

カムランドの観測結果と、 地球モデルによる予測は一致

し、 熱流量をすべて地球内部の放射性物質起源とするモ

デルは 98.1% の信頼度で排除された。

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太陽 7Be ニュートリノの観測

いろいろな太陽ニュートリノのエネルギースペクトル

9

ニュートリノのエネルギー (MeV)ニ

ュー

トリ

ノの

フラ

ック

ス(/cm

/s)

2

現在進行中の計画

事象数

( )

Visible Energy [keV]0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600

/sec

3E

vent

s/10

keV

/m

-910

-810

-710

-610

-510

-410

-310

-210

-110before purif.

after 1st purif.

after 2nd purif. (03/23 - 03/30)

Beν7

CNOνpepν

C11

 太陽の中心では核融合反応によってエネルギー

が発生しています。 核融合反応によって 4 つの水

素の原子核 ( 陽子 ) は1つのヘリウムの原子核と

なり、このときに陽電子とニュートリノも発生します。

地球上には 1cm2 あたり1秒間に 660 億個もの太

陽ニュートリノがやってきています。 太陽ニュートリ

ノは発生するときの反応によって異なったエネル

ギーをもっていますが、 カムランドでは 7Be ニュー

トリノと呼ばれる低いエネルギーをもつニュートリノ

の検出を目指しています。 7Be ニュートリノは、スー

パーカミオカンデやカナダのSNO実験で観測され

た 8B ニュートリノの 1000 倍近い数が発生している

と予想されていて、 太陽中心部の様子をより詳しく

知ることができると期待されています。 また、 これ

まで解明してきたニュ-トリノの性質を考慮して解

析する事で、 核融合反応に影響する太陽内部に

含まれる重元素の割合など天体内部の反応の研

究に生かす事が出来ると考えられています。

 太陽ニュートリノの検出は液体シンチレーター中

の電子との反応現象を探して行いますが、 このと

きの液体シンチレーターの発光は1度きりのため、

他の邪魔物反応による発光と区別がつきません。

特に液体シンチレーターに含まれる微量の放射性

元素 ( 鉛やクリプトンなど ) が大敵で、 これらは

7Be 太陽ニュートリノの予想観測数に比べて 4 桁

~ 5 桁も多く、これまでのカムランドでは太陽ニュー

トリノを観測する事はできませんでした。 この問題

を解決するため、 カムランド実験グループでは数

年にわたる液体シンチレーター中の放射性元素除

去の開発研究を行い、 蒸留法によって放射性重

元素と放射性希ガス、 そして窒素ガスによるパー

ジ法が放射性希ガスを徹底的に除去する事が出

来るという事をつきとめました。 この結果に基づい

て 2006 年から神岡鉱山内に純化装置が建設さ

れ、 2007 年に 1 回目の純化、 2008 年から 2009

年にかけて 2 回目の純化が行われました。 2 回目

の純化終了後は、 数十日で崩壊していく放射性元

素が無くなるのを待つと共に、 線源などを用いて

検出器自体の振る舞いを調べ、 解析手法の開発

を行うなど、 カムランドの感度を飛躍的に高める

努力が続けられています。

坑内に設置した純化装置の一部

 中央に写っているのは純化装置の中心となる蒸

留装置 (重元素除去装置)。

純化前後でカムランドで観測されたエネルギースペクトル

黒線は純化前の観測結果。 赤線は 1 回目の純化後、

青線は 2 回目の純化後の観測によって得られたもの。

点線は太陽ニュートリノやノイズ事象のスペクトルを表し

ている。

検出エネルギー (MeV)

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開発研究

反ニュートリノの方向検出を目指した開発研究

      イメージング検出器のテスト機

画像増幅器と CCD カメラを組み合わせた検出器と液

体シンチレーターを用いて開発研究を行っている。

     方向検出の概略図

先発信号と後発信号の位置相関を測定する事で、

元々のニュートリノの方向を再構成する。

θcos-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 -0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

even

ts/b

in

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000Li:0.15wt%6

B:1.0wt%10

no Li

テスト機で観測した宇宙線の飛跡 (左)

イメージング検出器を用いると、 液体シンチレー

ターを使用しても飛跡を確認する事が出来る。

 カミオカンデ実験を率いた小柴昌俊博士は、 エネ

ルギー ・位置 ・方向という天文学に必要な3種類の

情報をニュートリノ検出で実現し、 ニュートリノ天文

学の創始という業績を認められて 2002 年にノーベル

賞を受賞しました。 また、 カミオカンデ以降の水チェ

レンコフ型のニュートリノ実験では、 方向検出を武器

として、 太陽ニュートリノやニュートリノ振動実験を推

進しています。 一方、 カムランドのような液体シンチ

レーターを用いたニュートリノ実験は、 より低いエネ

ルギーの反ニュートリノを測定する事ができる反面、

方向を検出する事が出来ません。 もしもカムランド

型の反ニュートリノ検出器でニュートリノが飛来した方

向が特定出来れば、 地球上のどの原子炉から飛来

したニュートリノが検出されたのか判別でき、 さらに

詳細な振動測定が可能となります。 また、 地球内

部のどの部分から発生した地球ニュートリノかを特定

することで地球内部の断層写真が一つの検出器で可

能になり、 超新星爆発からのニュートリノの方向を見

る事で世界各地の天文台に発生の速報を出す事も

出来ると考えられます。ニュートリノ科学研究センター

では、 このような次世代の液体シンチレーター型検

出器の開発研究も進めています。

 ニュートリノの方向を再構成するには、 先発信号と

後発信号の位置相関を用いる必要があります。 しか

し従来の液体シンチレーターでは、 後発信号の元と

なる中性子が液体中の水素と次々と衝突し、 方向

の情報を失ってしまった後に発光していました。 そこ

でリチウム 6 という物質を混ぜ、 方向情報を失う前

に発光させる方法を開発しています。

 また、 先発信号と後発信号の位置相関を確認する

には、 高精度の位置決定が必要となります。 その

ため、 従来では難しいと考えられてきた、 液体シン

チレーターのイメージング検出器の開発を目指し、

研究を進めています。

 ニュートリノの入射方向と再構成された方向の相関図

 シミュレーションによって得られた、 ニュートリノの元も

との方向と、 先発信号と後発信号の位置相関によって再

構成された方向の相関図。 1 は同じ方向を表し、 -1 は

反対方向を表す。 青のリチウム 6 を用いたものは相関を

持つ事が分かる。

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カムランド禅 (KamLAND-Zen)

0νββ崩壊の探索大統一理論のエネルギー領域?

 これまでのニュートリノ実験によって、 ニュートリノが

質量を持ち、 伝播する間に他のニュートリノに変化す

るニュートリノ振動という性質をもつという事が判明し

ました。 しかし、 ニュートリノの質量がいくらなのか、

そして3種類のニュートリノの重さに違いがあるのかと

いう事は未だ不明のままです。 さらに他の素粒子の

質量と比べ、 ニュートリノは極端に軽い値を持つこと

が分かっていますが、 この不自然な質量の理由は分

かっていません。 また、 ニュートリノは電荷や磁気な

ど、 プラス ・ マイナスの符号のある性質を持たないと

考えられているため、 ニュートリノとその反粒子であ

る反ニュートリノは同じものである可能性があります。

これをマヨラナ性 (マヨラナ粒子) と言います。 この

ように、 素粒子としてのニュートリノの性質は未知の

部分が残されており、 さらにその未知の部分が我々

の宇宙をどう形作っているのかのヒントを与えるので

はないかと期待されるようになってきました。

 現在、 世の中で最も小さいものを調べようとしてい

る素粒子分野、 そして最も大きなものを調べようとし

ている宇宙の分野、 それぞれの分野で大きな問題と

なっていることがあります。 素粒子分野では、 標準

理論と呼ばれる素粒子を記述する基本的な理論を超

える、 大統一理論が存在しているのか、 そしてそれ

はどのようなものかというもの。 そして宇宙の分野で

は、 我々を形作る物質はどのように出来たのかとい

うものです。 この謎を切り開くのがニュートリノの性質

です。

 もしニュートリノがマヨラナ粒子である場合、 重い未

発見のニュートリノを導入すれば、 極端に軽いニュー

トリノが自然に導かれるシーソー機構と呼ばれる理論

を用いることが出来ます。 ここで出てくる重いニュート

リノの質量は、 現在世界中で検証しようとしている大

統一理論のエネルギースケールを示唆する事から、

重要な知見が得られると考えられています。 また、

我々の宇宙は何も無いところから始まったと考えれ

ば、 物質と反物質が同じ数だけ生まれ、 さらに物質

と反物質がぶつかって消滅してしまうというのが自然

です。 しかし、 いま我々の目に見えているのは物質

のみの世界で反物質の世界は見つかっていません

し、 我々を形作っている物質はきちんと存在していま

す。 この謎は、 物質が反物質に比べ、 ほんの少し

          素粒子の質量階層構造

 ニュートリノだけが極端に小さい質量を持つ。 もし大

統一理論のエネルギー領域に重いニュートリノを設定

すれば、 シーソー機構によって極端に軽いニュートリノ

を説明できる。

        物質 (粒子) で出来た宇宙

 宇宙が出来た時には同数あったと考えられる粒子 ・

反粒子が、 現在では粒子のみの世界になっている。

        原子核の二重ベータ崩壊

 通常の二重β崩壊 (左、 2νββ) は 2 つのβ崩

壊が同時に起き、 電子 2 つと反ニュートリノを 2 つを放

出する。 ニュートリノがマヨラナ粒子の場合、 ニュート

リノを放出しない崩壊 (右、 0νββ) が可能となる。

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      ミニバルーン導入作業の様子

だけ残る確率が大きいのが理由ではないかと考えられ

ています。 実はこの差はクォークで確かめられていま

す。 しかし、 宇宙を形作るには、 16 桁 (1 億のさらに

1億倍)足りないことも分かっています。そこで現在では、

電子やニュートリノなどレプトン族と呼ばれている粒子が

物質世界を形作った犯人だろうという考えが注目を集め

るようになってきました。 これをレプトジェネシスと言い

ますが、 この考えの基礎は、 ニュートリノがマヨラナ粒

子である事を必要とします。

 このように、 ニュートリノのマヨラナ性と質量の値は、

素粒子 ・ 宇宙論にとって重要な課題となっています。

そしてこれら二つの重要な情報を得られると期待されて

いるのが、 ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊と呼

ばれる特徴的な原子核崩壊です。 ある特殊な原子核

は、 通常のベータ崩壊を行う事が禁止され、 2 つのベー

タ崩壊を同時に行わなければ崩壊する事が出来ませ

ん。 この時、 通常の二重ベータ崩壊では 2 個の電子と

2 個の反ニュートリノを放出するのですが (2νββ)、

ニュートリノが質量を持ち、 マヨラナ粒子である場合、

ニュートリノを放出せずに 2 個の電子だけを放出する崩

壊 (0νββ) が可能となります。 しかしこの反応はあ

まりにも長寿命で、 一般的にノイズ事象もたくさん含ま

れるため、 確たる発見例はありません。 寿命が長いの

であればそれだけ多くの崩壊核を用意し、 ノイズ事象が

桁違いに少ない環境を用意する必要がありますが、 カ

ムランドはそのどちらにも対応できるすぐれた検出器で

す。 その為、 世界各地の他の実験グループの計画と

比較し、 より早く、 より低いコストで、 そしてより高感度

で実現出来ると考えられていました。

 この、 これまでにない高感度による0νββ崩壊の探

索を行うため、 2009 年よりカムランド禅プロジェクト

(KamLAND-Zen , Kamioka L iqu id-sc int i l l a tor

Anti-Neutrino Detector Zero Neutrino double beta

decay search) が開始しました。 この計画を実現する為

の研究開発およびシミュレーションを用いた実験環境の

最適化により、 カムランド検出器内部に直径 3.16m のミ

ニバルーンを沈め、 その中に二重ベータ崩壊核である

キセノン 136 を溶かした液体シンチレーターを保持する

ことで世界最高感度の実験が実現できると判明したた

め、 2010 年のテストおよび準備期間、 2011 年春から

夏にかけてのキセノン取り扱い設備の建設、 ミニバルー

ンの製作を経て、 2011 年夏にミニバルーン設置および

キセノン溶解液体シンチレーターの導入作業が行われま

した。

       カムランド禅実験の概略図

 136Xe 400kg を溶解した液体シンチレーターをミニ

バルーンに入れ、 カムランドに沈める事によって、

極低放射能環境での測定を行う事が可能になる。

       キセノン取扱い設備

 液体シンチレーターへのキセノンの溶解および液

体シンチレーターからのキセノン回収を行う装置。

      ミニバルーン製作の様子

埃がバルーンに付かないように、 クラス1のスー

パークリーンルームで作業を行った。

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Visible Energy (MeV)1 2 3 4

Even

ts/0.

05M

eV

-110

1

10

210

310

410 U Series238

Th Series232

Bi210

Kr85

Bi208

Y88

mAg110

External BGSpallation

DataTotal

upper limit)Total (0Xe 0136

(90% C.L. upper limit)Xe 2136

(a)

Xe (yr)136 1/2T

Ge

(yr)

76 1/

2T

0.2

0.3

0.4

0.5

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.91

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

2410 2510 26102410

2510

2610

EXO

-200

90%

C.L

.

Kam

LAN

D-Z

enK

amLA

ND

90%

C.L

.

Com

bine

d90

% C

.L.

GCM

NSM

IBM-2

(R)Q

RPA

KK 68% C.L.

 カムランド禅実験では、 実験開始後 78 日間の観測

結果を用いて、 最初の結果を公表しました。 一つ目

の結果は素粒子標準理論で予測されているものの、

これまで 2 つの異なった結果が議論となっていた、

ニュートリノを伴う二重ベータ崩壊 (2νββ) の測

定です。 カムランド禅実験の結果から、 2νββは

2.38×1021 年という半減期をもつことが分かり、 キセ

ノン 136 原子核の特徴を調べることができました。 ま

た、 キセノン 136 を用いたニュートリノを伴わない二

重ベータ崩壊 (0νββ) の探索についてもこれまで

の上限値を更新する結果となりました。

 現在カムランド実験では 3 回目の二重ベータ崩壊探

索の結果を公表し、 最新結果での0νββ探索につ

いては 1.9×1025 年以上の半減期という上限値を設定

しています。 さらに他のキセノン 136 を用いた実験結

果を組み合わせることで 3.4×1025 年という制限を与

え、 ゲルマニウム 76 を用いた実験の一部のメンバー

が主張している0νββの検出を否定することができ

ました。 また、 この結果は、 ニュートリノ有効質量に

ついて 0.12 電子ボルトから 0.25 電子ボルト程度の上

限値 (幅があるのは理論的な不定性によるもの) に

相当します。

 これまでのカムランド禅実験の結果により、 すべて

の原子核種を包括した0νββ探索の感度が、 つい

に未検証の領域へ踏み出しました。 今後液体シンチ

レーターの純化や、 検出器の改良、 および次期計画

である KamLAND2-Zen を推進することにより、 さらに

微小なニュートリノ質量の検証を実現出来ると期待さ

れています。

         KamLAND2-Zen の概略図

 さらなる高感度での探索および世界初のニュートリノを伴

わない二重ベータ崩壊事象の発見を目指して、 エネルギー

分解能の向上およびキセノン濃度を向上させた次期計画で

ある KamLAND2-Zen の研究開発を進めています。

        各実験の結果と半減期の上限値

 横の帯 (実験値) と斜めの線 (各理論値) の交わっ

たところがゲルマニウム 76 の実験で検出したと主張して

いる数値。 縦線がキセノン 136 を用いた実験での上限

値。 検出したという主張は否定されたことを示している。

   KamLAND-Zen 最初の結果のエネルギー分布

 カムランド禅最初の測定結果によって、 ニュートリノを

伴う二重ベータ崩壊 (2νββ) が観測され、 ニュート

リノを伴わない二重ベータ崩壊 (0νββ) の上限値を

更新した。

     カムランド検出器に設置したミニバルーン

 ぼんやりと半球が見えているのがミニバルーン。 白い

線はナイロンフィルムの溶着線、 白い点は光電子増倍

管、 右上から中心に伸びているのはミニバルーン内部

の液交換用の配管で、 キセノン含有液体シンチレーター

導入に使用した。

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Web ページのご案内

ニュートリノセンター ・ カムランドについてもっと知りたいときには ...

ニュートリノ科学研究センターのホームページhttp://www.awa.tohoku.ac.jp/

センターの紹介やニュース、 行われているプロジェクトの紹介、 様々な写真などを見ることができます。

14

              カムランド実験の国際共同実験グループ

 カムランドは、 東北大学を中心としたアメリカ ・ オランダの計 16 の各大学 ・研究所との国際共同実験です。

カムランドには約 60 人の研究者が参加し、 年 2回の共同研究者会議 ・各ワーキンググループの会議 ・各国

との電話会議やテレビ会議 ・現地での共同作業などを通じ、 測定機器の開発 ・運転、 解析作業を共同で進

めています。

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東北大学

ニュートリノ科学研究センター〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6 番 3 号  TEL   FAX   ホームページ http://www.awa.tohoku.ac.jp/

茂住実験室〒506-1205 岐阜県飛騨市神岡町東茂住上町 408 番地  TEL   FAX

アクセス

■交通のご案内  仙台駅よりバス  青葉通経由動物公園循環で理学部自然史標本館前下車  または  宮教大行または青葉台行で情報科学研究科前下車

■一般公開のご案内  ニュートリノ科学研究センター   東北大学理学研究科のオープンキャンパス (7月頃 ) の   際に自由に見学することができます。  カムランド検出器   神岡鉱山の一般公開 ( ジオ ・ スペース ・ アドベンチャー、   7月頃 ) の際にご覧いただくことができます。

東北大学ニュートリノ科学研究センター(宮城県仙台市)

カムランド検出器(岐阜県飛騨市)

理学部自然史標本館 広場

ニュートリノ科学研究センター入口

泡箱の展示

■東北大学理学部入試情報のご案内  東北大学大学院理学研究科 ・ 理学部のホームページ  http://www.sci.tohoku.ac.jp/ から東北大学の入試情報に アクセスできます。

理学部構内の地図は東北大学理学研究科の Web より許可を得て転載しました。

2013.03

理学部自然史標本館前

情報科学研究科前

仙台市博物館

青葉城

広瀬川

東北大学工学部

東北大学理学部

東北大学川内キャンパス

仙台駅

青葉通

広瀬通

定禅寺通

0578-85-00300578-85-0031

022-795-6727022-795-6728