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馬場 信介 竹中工務店 ヨーロッパ竹中ドイツ支店 設計部長 61 1999 ドイツの首都ベルリンにドイツ連邦議会 新議事堂 ライヒスタークが完成しました第二次世界 大戦でソビエト軍に破壊されその後放置されていた旧 議事堂ビルを改修する国際コンペに当選したのは英国人 建築家ノーマンフォスター卿既存建物上部に直径 40m高さ23.5m のガラス張りキューポラを乗せると いう大胆な提案 写真1見た目のインパクトのみな らず内に込められた先進的な環境技術の数々で人びと に衝撃を与えましたドーム内に設置された鏡張りの逆 円錐型導光装置は自動太陽追跡装置付きのサンシー ルドを備え熱やぎらつきを防ぎながら豊かな自然光 を下部に位置する議場に導きます自然換気システム地中熱利用等徹底した自然エネルギー利用設備を備え不足する熱源もナツメヤシナタネヒマワリ等の野菜 油を燃料としたバイオマスエネルギー利用等によって補 廃熱発電時には二酸化炭素排出量を通常より94も低減させるという驚異的なエコロジカルデザインを 実現しました京都議定書の締結から数年後というタイ ミングで世界に 環境の時代の建築像を強く発信しまさにエポックメイキングなドイツの環境建築となりま したそれから10 年あまり地球環境のサスティナビリティ に対する関心はますます高まり今や国際的に最も重要 な政治的テーマとなっているのは既知の通りです同時 京都議定書に定められた温室化ガスの削減義務を達 成するには大きな困難が待ち受けていることも分かっ てきました建築物からのCO2 排出は世界総排出量の うち約1/3 を占めるとされまた交通工業等他分野に 比して1990 年比で増加傾向が顕著であり建築への規 制強化が各国で進められています早くから環境問題への意識が高く京都議定書でも率 先して8CO2 削減義務を負ったEU 2000 年に 欧州気候変動プログラムを設置しその方針に沿ってさ まざまな施策を行ってきました2007 2 EU 境理事会は2020 年までにEU 域内の温暖化ガス排出量 1990 年比で20削減する目標を設定しこの達成に 向けた対策の一環として 建築物のエネルギー性能に関 する指令を定めましたここでは新築や既存建築物 の改修の際国ごとに定められたエネルギー効率の基準 を満たすことを義務付けており2020 年にはオフィス や住宅等も含むすべての新築建築物がほぼ ゼロエネ ルギービルとなることが求められていますゼロエネルギービル 略称ZEBZero-energy buildingとは 年間の一次エネルギー消費量がオンサ イトにおける再生可能エネルギー生産量以下になる EU 定義ということで新築住宅や低層小規模な建物で あれば実現可能とされていますが事務所等エネルギー 消費の大きい建物種別では実現が非常に難しいとされて いますしかしEU の上位方針を受け加盟各国でZEB 誘導目標に据える動きが始まっておりイギリスでは 2016 年までに新築住宅を2019 年までに新築の全建 ヨーロッパにおける環境建築 の動向 支部通信 写真1 ドイツ連邦議会新議事堂 写真2 プラス エネルギー キューポラ内部

ヨーロッパにおける環境建築 - OCAJI的なものとして英国発のBREEAM、米国発のLEED、 日本で普及しつつあるCASBEE等が挙げられます(表 1)。中でもLEEDは米国国外の建物評価も積極的に対

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Page 1: ヨーロッパにおける環境建築 - OCAJI的なものとして英国発のBREEAM、米国発のLEED、 日本で普及しつつあるCASBEE等が挙げられます(表 1)。中でもLEEDは米国国外の建物評価も積極的に対

馬場 信介(株)竹中工務店 ヨーロッパ竹中 ドイツ支店 設計部長

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 1999年、ドイツの首都ベルリンに、ドイツ連邦議会新議事堂(ライヒスターク)が完成しました。第二次世界大戦でソビエト軍に破壊され、その後放置されていた旧議事堂ビルを改修する国際コンペに当選したのは英国人建築家ノーマン・フォスター卿。既存建物上部に直径40m、高さ23.5mのガラス張りキューポラを乗せるという大胆な提案(写真1)は、見た目のインパクトのみならず、内に込められた先進的な環境技術の数々で人びとに衝撃を与えました。ドーム内に設置された鏡張りの逆円錐型導光装置は、自動太陽追跡装置付きのサン・シールドを備え、熱やぎらつきを防ぎながら、豊かな自然光を下部に位置する議場に導きます。自然換気システム、地中熱利用等徹底した自然エネルギー利用設備を備え、不足する熱源もナツメヤシ、ナタネ、ヒマワリ等の野菜油を燃料としたバイオマスエネルギー利用等によって補い、廃熱発電時には二酸化炭素排出量を通常より94%

も低減させるという驚異的なエコロジカル・デザインを実現しました。京都議定書の締結から数年後というタイミングで、世界に「環境の時代」の建築像を強く発信し、まさにエポックメイキングなドイツの環境建築となりました。それから10年あまり、地球環境のサスティナビリティに対する関心はますます高まり、今や国際的に最も重要な政治的テーマとなっているのは既知の通りです。同時に、京都議定書に定められた温室化ガスの削減義務を達

成するには、大きな困難が待ち受けていることも分かってきました。建築物からのCO2排出は世界総排出量のうち約1/3を占めるとされ、また交通・工業等他分野に比して1990年比で増加傾向が顕著であり、建築への規制強化が各国で進められています。早くから環境問題への意識が高く、京都議定書でも率先して8%のCO2削減義務を負ったEUは、2000年に欧州気候変動プログラムを設置し、その方針に沿ってさまざまな施策を行ってきました。2007年2月、EU環境理事会は2020年までにEU域内の温暖化ガス排出量を1990年比で20%削減する目標を設定し、この達成に向けた対策の一環として“建築物のエネルギー性能に関する指令”を定めました。ここでは、新築や既存建築物の改修の際、国ごとに定められたエネルギー効率の基準を満たすことを義務付けており、2020年にはオフィスや住宅等も含むすべての新築建築物がほぼ“ゼロ・エネルギー・ビル”となることが求められています。ゼロ・エネルギー・ビル(略称ZEB:Zero-energy

building)とは「年間の一次エネルギー消費量が、オンサイトにおける再生可能エネルギー生産量以下になる(EU

定義)」ということで、新築住宅や、低層小規模な建物であれば実現可能とされていますが、事務所等エネルギー消費の大きい建物種別では実現が非常に難しいとされています。しかし、EUの上位方針を受け加盟各国でZEBを誘導目標に据える動きが始まっており、イギリスでは2016年までに新築住宅を、2019年までに新築の全建

ヨーロッパにおける環境建築の動向

支部通信

写真1 ドイツ連邦議会新議事堂 写真2 プラス・エネルギーキューポラ内部

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築物をZED(ただしオフサイト措置を含む)化する方針が打ち出されました。ドイツではZEBの法制化はいまだなされていませんが、実証実験は活発に行われており、中でも連邦交通建設都市開発省(BMVBS)がダルムシュタッド工科大学と協働で建設した「ゼロ」ならぬ「プラス」・エネルギー・ハウスがデュッセルドルフで公開され、話題となっています(写真2)。

トラックで搬送可能なユニット4つを連結した89m2

のこの住宅は、不活性ガスを封入した3重、4重ガラス等により非常に高い断熱性能を持っており、加えて気温によって蓄熱性能が変化する内装ボードや、空気熱源ヒートポンプ、屋上・庇・雨戸のルーバーにまで太陽光発電パネルを仕込むこと等で使用エネルギーの最適化を行った結果、オンサイトの再生可能エネルギー生産量が住宅のエネルギー消費量を上回るという、驚くべき結果を示しています。また室内空間としても、仕上げ材に再生可能な建材として木材を多用し、自然光、自然換気がもたらす清々しさと相まって、従来の省エネ住居の閉鎖的な空間とは一線を画しています。このプラス・エネルギー・ハウスに使用されている技術は、いくつかの例外を除き既に製品として使用可能なものです。この他にも、自然エネルギーを有効活用する風力発電、地中熱利用、太陽温水器、雨水利用システムや、建物のエネルギー負荷を減らすための高性能ガラス、ダブルスキン・ファサード、緑化技術、また温室効果ガス排出量を抑えるバイオマス、高効率な設備機器等多くの技術が開発され、通常の建築にも盛り込まれるようになってきました。これら環境技術を積極的に盛り込んだ建築はグリーンビルディングと呼ばれ、社会への環境貢献という観点からCSR(企業の社会的責任)の一手法として定着してきています。こうした動きを受け、建物の包括的環境性能を第三者評価・格付けをする動きが活発化しており、代表的なものとして英国発のBREEAM、米国発のLEED、

日本で普及しつつあるCASBEE等が挙げられます(表

1)。中でもLEEDは米国国外の建物評価も積極的に対応することから、国際企業の発注条件に採用される等、国際標準化として定着する兆しが見られています。いずれの評価法も、環境保護やエネルギーの効率化に止まらず、室内環境の質、快適性を評価項目として重視しており、単なる省エネ建築では高評価が得られない仕組みと言えます。欧州大陸のプロジェクトで初のBREEAMの最高評価・EXCELLENTを獲得した、デュッセルドルフの建築家、インゲンホーフェン氏による「ヨーロッパ投資銀行」は、徹底したエネルギー削減を行いながらも、すべての事務室から眺望が得られ、年間を通じて窓を開放しての自然換気が可能など、素晴らしい居住環境を実現しており、環境技術とその評価システムが足かせにならず、かえって豊かな空間をもたらす起爆剤となった好例と言えます。

厳しくなる環境規制は、「環境建築」のみが存在し得る時代の到来を宣言しているかのように見えます。 しかしこれらの制約条件は、「環境の時代」に相応しい新たな魅力を備えた多彩な環境建築デザインの出現をもたらし、私たちを楽しませてくれることでしょう。

表1 主な環境性能評価システム名称 BREEAM LEED CASBEE

発祥国 イギリス アメリカ 日本初版 1990年 1996年 2002年

評価項目

1. マネジメント2. 健康と快適性3. エネルギー4. 交通5. 水6. 材料7. 土地利用8. 敷地の生態系9. 汚染

* オフィス用の最新版「BREE AM98 for Offices」の評価項目

1. 敷地計画2. 水消費の効率化3. エネルギーと大気4. 材料と資源の保護5. 室内環境の質6. 革新性および設計・建設のプロセス

* 全米グリーンビルディング評議会(USGBC)が容認したプログラム

Q 環境品質 Q1. 室内環境 Q2. サービス性能 Q3. 室内環境   (敷地内)

L 環境負荷 L1. エネルギー L2. 資源・マテリ

アル L3. 敷地外環境

BEE  建築環境性能効率

   Q/L

(出典:ディテール184号)

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高橋 成幸(株)間組 メキシコ事務所 主任

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1. はじめに8月に入り、日本の夏は記録的な猛暑が続いているよ

うで、天気予報で最高気温35度以上の予報を目にすることが珍しくなくなりました。加えて、熱中症で病院に搬送された人数も例年より多く記録され、亡くなられた方も500名近くに上るとのニュースも伝え聞いています。8月が過ぎても、しばらくは残暑厳しい毎日が続くのだろうと考えると、日本にいる家族・友人は大変な毎日を送っているのではないかと心配する毎日です。それに反し、メキシコシティは2,200mの高地にあるせいか、8月とは思えないほど涼しく、湿度が低いため、蒸し暑さを微塵も感じることもなく、とても爽やかな日々が続いております。朝晩は冷え込み、気温は概ね16度程度。わが家では夏にもかかわらず、ヒーターを付ける日も珍しくありません。年末年始はさすがに冷え込むものの、ほぼ1年を通して同じような気候が続くため、あまり季節感を感じることもなく、今年も夏の到来を感じないまま、夏が終わるような気がしてなりません。

2. メキシコの2010年 過去に開催されたオリンピック、ワールドカップの常連国、カンクンやアカプルコといった世界的なリゾート地、テキーラやコロナビールといったお酒、マンゴーやアボカド等の農作物の輸入元等々、日本におけるメキシコの認知度は高いものです。日・メキシコ経済連携協定(日墨EAP)締結から4年が

経過し、日本とメキシコの経済的な結び付きも年々強くなっております。しかしながら、メキシコという国の存在を認識しているものの、実際にメキシコという国がどのような国かご存じない方も多いと思います。メキシコの歴史は世界史の授業でもほとんど触れられず、日本で出版されているメキシコ関連の本は、旅行雑誌が大半で、政治・経済を扱っているものはごく僅かですし、メキシコのニュースも日本で伝わる機会がほとんどありま

せん。日本で話題になることはありませんが、実は今年2010年はメキシコにとって大きな節目の年で、スペインからの独立戦争勃発から、ちょうど200年。メキシコ社会革命の勃発から100年という記念すべき年に当たります。独立記念日の9月16日、革命記念日の11月20日には、各地でさまざまな催しが行われますが、9月15日(独立記念日前日の夜)にメキシコ独立革命の指導者ミゲル・イダルゴが革命直前に行った演説「ドローレスの叫び」をメキシコ大統領が再演を行いますが、独立を祝う人びとがメキシコ全土から集い、夜中にもかかわらずメキシコシティの中央広場はたくさんの人の波で覆い尽くされます。今年は特に記念すべき年でもあり、これまで以上の規模の祭典が各地で予定されているようです。私も今から楽しみでなりません。

3. メキシコ経済の現状2008年9月に起こったリーマン・ショック、2009年

4月にここメキシコに端を発した新型インフルエンザにより、2009年のメキシコ経済は大きな痛手を被りました。リーマン・ショック以前までは、米国-メキシコ間の金利差拡大と好調なメキシコ経済に支えられ、1ドル=10メキシコ・ペソを切るという記録的なペソ高状況にありましたが、僅か半年で市場最安値の1ドル=15.50メキシコ・ペソを記録。それまで3%台をキープしていた失業率も、2009年度に入ってからは6.4%という高い数値を記録しています。対外輸出の8割を米国が占めているメキシコにおいては、2008年度までは米国の好景気に支えられていた反面、一度米国の経済状況が悪くなると、それに追随するように悪くなってしまう傾向にあり、アメリカ経済の動向に左右される状況は、今も昔もそれほど違いはないようです。ただし、昨今の世界経済の回復基調に伴い、2010年

4月より自動車生産・輸出とも大幅増、失業率も改善傾向に転じ、正規雇用も増えているとの話を聞き及びます。

メキシコの現状と治安問題

支部通信

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ドル-メキシコ・ペソレートは、リーマン・ショック前の水準には到底及ばないものの、1ドル=12.5~13.00

メキシコ・ペソで概ね安定。また、外貨準備高の増加に努め、2010年7月時点で1,000億ドルという過去最高の外貨準備高を記録しました。以前発生した累積債務危機、通貨危機のような恐れはないものと思われます。ただし、建設生産指数の伸び率は、前年同月比で

2009年度は毎月▲5%~▲10%、2010年度も0%~▲

5%となっており、メキシコにおける建設投資は回復の基調は見せておりません。自動車産業等が順調に回復基調にあるため、今年の後半もしくは来年以降、これらが建設投資の増加に繋がっていくと考えております。

4. 治安問題カルデロン大統領が就任してから約4年、麻薬組織に対する取締りを強化した結果、メキシコ各地で軍・警察と麻薬組織の衝突が多発しております。麻薬組織幹部の射殺、警察官の殺害、政府関係者の暗殺、両者の銃撃戦に巻き込まれた一般市民の犠牲者。このようなニュースが新聞紙上で見られない日はありません。メキシコの北部、米国国境に面するシウダ・デ・フアレス市では、治

安当局と麻薬組織間、異なる麻薬組織間内での抗争が激化し、現在ではメキシコの中で一番危険な都市とされています。麻薬犯罪の掃討作戦開始から2010年7月までに、麻薬組織との抗争に巻き込まれ、約22,000人以上の方がたが亡くなられております。2010年には、麻薬抗争はその他の地域にも飛び火し、モンテレイという日系企業が多数進出している地域にも及んでいます。7月21日には日本外務省より危険情報が発令されています。麻薬関連の事件以外では、年間8,000件以上もの誘拐事件が発生しております。報告数値のみでは世界で一番誘拐事件が発生している国となりますが、警察への不信から、警察への届出が行われていない場合もあるため、実際はこの3倍以上の件数が発生しているのではないかと考えられております。経済状況に明るい兆しが見えてきているところですが、上記のような治安問題が外資系企業の進出を阻むことになりはしないか、メキシコ駐在員としては、自分の身の安全と共に心配する事項でありますので、早くこの治安問題が解決されることを願ってやみません。

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池尻 茂樹三井住友建設(株)インド社 社長

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1. 大渋滞の国インド事情イスラムの国インドネシア・ジャカルタからヒンズーの国インド・デリーへ来て早3年も過ぎてきますと、インド生活環境にも必要以上に順応し、文句も吐かずひたすら前を向いて仕事をしている自分自身に感心する昨今です。インドではこの時期(8月)は雨季の真只中で局地的豪雨に見舞われることが多く、インフラ排水設備が十分に整っていないために、各地で道路が冠水し交通渋滞に遭遇すること度々です。片道30~40分で行くことができる距離に4~5時間かかるなど珍しいことでもなく、ごく普通の出来事なのです。インドの交通事情ははなはだ悪く、最大要因としてはドライバーのマナーの悪さに尽きるかと思われます。たとえば、高速道路片側3車線は時に6車線となることは当たり前ですし、もっと悪質な行為は、渋滞回避目的で反対車線を堂々と逆走運転するため、双方数十キロにわたって睨み合いの大渋滞を引き起こす原因となっています。このようなマナーがまかり通るため、至るところで接触事故が発生しさらなる渋滞となるのです。この無秩序が当たり前のような国インドは、28州からなる共和制連邦国家で、国民総人口11~12億で、中

国に次いで人口が多い国です。その人口増加加速は年1,600万人で、2030年には中国を抜き去ると言われています。日本では考えられない凄まじいスピードで新生児が誕生しています。インド国民の81%はヒンズー教徒ですが、同時にインドには1億人以上のイスラム教徒が生活しており、世界有数のイスラム国家とも言えます。1947年インドはイギリスからの独立を勝ち取り、世界最大の民主国家として今日に至っていますが、現実的には宗教色が色濃く残っているため、多くの問題が存在します。特にヒンズー教のカースト制度は公式には禁止されていますが、慣習として根強く残存しており、インド人の6人に1人は最下層カーストである不可触民です。これらの多くはインド最大の都市であるムンバイ市などの高層ビルの谷間のスラム街で暮らしており、約4億人が収入1ドル/1日以下の最貧民層であることを直視することがインドを理解する早道なのかもしれません。

2. インド経済発展と課題1991年度の経済開放以後、経済自由化政策推進(製造

業外資100%許容)等により多くの外資企業の投資が一段と進み、ここ数年GDPは6~8%/年を越す経済発展を継続しています。現在、国民総生産額は100兆円規模で世界第12位ですが、このままのペースで経済発展

ヒンズー教の国インドで暮らす

タージ・マハル(世界遺産) ムガール帝国時代の1653年竣工の霊廟建築 デリー近郊グルガオン市街に建設中の高層事務所ビル

支部通信

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66 支部通信

を続けると2030年には日本を抜き世界第3位の経済大国となると予想されています。インド経済発展は内需型とされますが、当面の課題は人口の7割を抱える農村部の発展をいかに促進するかです。インド経済の基盤である農業産業を発展させることで、新たな購買力が生まれ国全体の発展に繋がるためです。そのためには、やはり早期の農業インフラ整備(灌漑整備、新しい農業技術)が求められています。

3. 日本企業の進出状況とインドとの繋がりインド進出日系企業は既にインド国全体に650社

(1,100拠点)に上り、主にデリー経済圏(280社)、チェンナイ地区(150社)、バンガロール地区(80社)、ムンバイ地区(80社)等が主な進出先です。日系企業進出に比例して当然ながら日本人駐在員も増加しており、現在インド全体で4,000人の日本人が暮らしていると言われています。一方、日本政府はインド経済発展支援目的で、大規模なインフラ事業への円借款事業支援を発表しており、今後も日本政府、民間企業による供与協力は拡大を続けるものと思われます。

日本とインドの繋がりは古く、飛鳥時代に中国を経由し仏教が日本へ伝来したことや、七福神のうちの3神(大黒天、毘沙門天、弁財天)がヒンズー教由来とされている等、今も繋がりは私たちの身近に存在しています。また、インパール作戦ではインド独立運動を日本が側面支援していますし、1948年の第2次世界大戦の東京裁判ではインド人裁判官、パール判事の日本への無罪勧告は裁判自体の違法性を主張したものとして有名です。これらはインドと日本の絆を感じさせる歴史的出来事と言えます。

4. これからのインド建設市場および投資計画2008年度インド建設市場規模は4~5兆円でありま

したが、今後は経済発展と共に市場も大きくなると予想され、現在は約6~7兆円規模に拡大されています。建設市場の内訳は、道路および鉄道事業、発電事業、通信事業、港湾事業、空港事業等のインフラ事業工事が建設市場全体の75~78%を占めています。現在、日本政府円借款(4,500億円)案件のDMIC(Delhi Mumbai

Industrial Corridor:デリー・ムンバイ高速貨物鉄道計画)等の事業がゆっくりではあるが動き出しており、当面はこれらの超大型インフラ事業が市場の中心であることは間違いないと思われます。一方、民間事業の主力事業形態は石油ガス等のプラント事業で、建設市場の18%前後を占めている折り、残りの5%前後が自動車産業、繊維産業、その他商業施設です。

5. 終わりに最後になりますが、10月の雨季が明けると同時に、インドでも比較的過ごしやすい季節となります。現在、雨季の停滞前線並みのゴルフの腕も、季節の変わり目に敏感に反応し、奇跡的な回復の兆しが見えてくることを期待して、インドからの便りを結ばせていただきます。

Aaap Sabhi Ko Namastey (皆さん、さようなら)

インド国マップ