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22 ボデーショップレポート 2017 年 12 月号 特集 ヘッドライトの変化 検査機器の対応 急速な進化を続ける自動車技術の中 でも、ヘッドライトは特に著しい変化 が見られる領域の一つである。 ハロゲン、HID、LEDなど光源の進 化、デザイン及び配光パターンの多様 化を受け、アフターマーケットも対応 を重ねてきた。また、2015年に前照 灯に対する検査基準が一部変更され、 1998年9月1日以降に製造された車両 については原則、すれ違い用前照灯を 検査することが定められたことは記憶 に新しい。 近年の車両デザインなどによる配光 特性の多様化を受け、ヘッドライトテ スターによるエルボー点の測定方式は 以前見られたセンサー式から、テスタ ー内の測定スクリーンに投影された配 光からエルボー点を測定する「スクリ ーン式」や、スクリーンに投影された 配光をCCDカメラなどで撮影し、撮影 画像を処理して測定する「画像処理方 式」へと移行している。また、エルボ ー点を標準位置に調整せずに光度測定 するケースが増加していることから、 ヘッドライトとテスターの正対方式が 従来の光軸正対式から、ヘッドライト の中心に正対させる「ランプ正対式」 へと変化してきた。 光源の進化により、光の特性(分光 分布)が変化したことによる検査への 影響もある。 分光分布とは光源から放射される光 を波長ごとに分割し、各波長の光がど の程度含まれているかを表した分布の こと。赤の波長が高いハロゲンに比 べ、HIDとLEDでは青の波長が高く赤 の波長が低い特性がある。HIDヘッド ライトが登場する以前のヘッドライト テスターは、光度を測るセンサーが赤 の波長を重視して設計されていたた め、青の波長をあまり感知できず、光 度の測定値が上がらない場合があった。 このような事象を受け、日本自動車 機械工具協会(機工協)は旧タイプの ヘッドライトテスターに対して感度を 補正する改造に対応するため、要望書 を国土交通省へ提出、2013年6月に同 省から特例改造を認める通達が出され ている。なお、同特例改造は2017年7 月7日までの適用期間とされていたこ とから、期間後における整備事業者か らの改造要望へ対応するため、機工協 は「使用過程にある前照灯試験機の改 造要領」の一部改正を届出し、改造証 明を行っている。 さらなる技術革新を見据えて 予防安全の領域においても、ヘッド ライトに各種新技術が採用されてい る。ハンドルの舵角や車速によってヘ ッドライトの照射方向を調整するAFS (アダプティブ・フロントライティン グ・システム)に加え、前方確認用の カメラや各種センサーなどから先行車 のテールランプや対向車のヘッドライ トを判別し、直接ライトを当てないよ うに調整するADB(アダプティブ・ド ライビング・ビーム)を搭載する車種 も登場した。また、周囲の明るさに応 じて自動的に点灯するオートライト機 能は、2020年4月以降に発売される新 型車よりロービームへの装着が義務化 された。ヘッドライトと各種センサー を連動させたシステムは、今後さらに 普及・進化していくだろう。 アウディやBMWは光源にレーザー を使用した車種の販売を開始してお り、ヘッドライトの各種テクノロジー が今後も大きく変化していくことは想 像に難くない。ヘッドライトの進化に 対応していくためには最新技術を理解 するとともに、今後市場に登場するで あろう次世代の技術に対しても目を向 けておく必要がある。 ヘッドライトの進化と アフターマーケットへの影響 ヘッドライト光源の変遷 光源 白熱電球 オールグラス シールドビーム ハロゲン電球 HIDバルブ LED 形状

ヘッドライトの進化と アフターマーケットへの影響特集 26 ボデーショップレポート2017年12 月号 10年以上前から 試行錯誤されていた このところ、トヨタ、ダイハツの一

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Page 1: ヘッドライトの進化と アフターマーケットへの影響特集 26 ボデーショップレポート2017年12 月号 10年以上前から 試行錯誤されていた このところ、トヨタ、ダイハツの一

22 ボデーショップレポート2017年 12月号

特集

ヘッドライトの変化検査機器の対応 急速な進化を続ける自動車技術の中

でも、ヘッドライトは特に著しい変化

が見られる領域の一つである。

 ハロゲン、HID、LEDなど光源の進

化、デザイン及び配光パターンの多様

化を受け、アフターマーケットも対応

を重ねてきた。また、2015年に前照

灯に対する検査基準が一部変更され、

1998年9月1日以降に製造された車両

については原則、すれ違い用前照灯を

検査することが定められたことは記憶

に新しい。

 近年の車両デザインなどによる配光

特性の多様化を受け、ヘッドライトテ

スターによるエルボー点の測定方式は

以前見られたセンサー式から、テスタ

ー内の測定スクリーンに投影された配

光からエルボー点を測定する「スクリ

ーン式」や、スクリーンに投影された

配光をCCDカメラなどで撮影し、撮影

画像を処理して測定する「画像処理方

式」へと移行している。また、エルボ

ー点を標準位置に調整せずに光度測定

するケースが増加していることから、

ヘッドライトとテスターの正対方式が

従来の光軸正対式から、ヘッドライト

の中心に正対させる「ランプ正対式」

へと変化してきた。

 光源の進化により、光の特性(分光

分布)が変化したことによる検査への

影響もある。

 分光分布とは光源から放射される光

を波長ごとに分割し、各波長の光がど

の程度含まれているかを表した分布の

こと。赤の波長が高いハロゲンに比

べ、HIDとLEDでは青の波長が高く赤

の波長が低い特性がある。HIDヘッド

ライトが登場する以前のヘッドライト

テスターは、光度を測るセンサーが赤

の波長を重視して設計されていたた

め、青の波長をあまり感知できず、光

度の測定値が上がらない場合があった。

 このような事象を受け、日本自動車

機械工具協会(機工協)は旧タイプの

ヘッドライトテスターに対して感度を

補正する改造に対応するため、要望書

を国土交通省へ提出、2013年6月に同

省から特例改造を認める通達が出され

ている。なお、同特例改造は2017年7

月7日までの適用期間とされていたこ

とから、期間後における整備事業者か

らの改造要望へ対応するため、機工協

は「使用過程にある前照灯試験機の改

造要領」の一部改正を届出し、改造証

明を行っている。

さらなる技術革新を見据えて

 予防安全の領域においても、ヘッド

ライトに各種新技術が採用されてい

る。ハンドルの舵角や車速によってヘ

ッドライトの照射方向を調整するAFS

(アダプティブ・フロントライティン

グ・システム)に加え、前方確認用の

カメラや各種センサーなどから先行車

のテールランプや対向車のヘッドライ

トを判別し、直接ライトを当てないよ

うに調整するADB(アダプティブ・ド

ライビング・ビーム)を搭載する車種

も登場した。また、周囲の明るさに応

じて自動的に点灯するオートライト機

能は、2020年4月以降に発売される新

型車よりロービームへの装着が義務化

された。ヘッドライトと各種センサー

を連動させたシステムは、今後さらに

普及・進化していくだろう。

 アウディやBMWは光源にレーザー

を使用した車種の販売を開始してお

り、ヘッドライトの各種テクノロジー

が今後も大きく変化していくことは想

像に難くない。ヘッドライトの進化に

対応していくためには最新技術を理解

するとともに、今後市場に登場するで

あろう次世代の技術に対しても目を向

けておく必要がある。

ヘッドライトの進化とアフターマーケットへの影響

ヘッドライト光源の変遷光源 白熱電球 オールグラス

シールドビーム ハロゲン電球 HIDバルブ LED

形状

BSR1712_tokusyu.indd 22 2017/11/06 20:31

Page 2: ヘッドライトの進化と アフターマーケットへの影響特集 26 ボデーショップレポート2017年12 月号 10年以上前から 試行錯誤されていた このところ、トヨタ、ダイハツの一

特集

26 ボデーショップレポート2017年 12月号

10年以上前から 試行錯誤されていた

 このところ、トヨタ、ダイハツの一

部の車両でヘッドライトのレンズ部が

補給部品として供給され、トヨタの一

部の車種で指数が設定され始めている

のは既報の通り。これはヘッドライト

の高機能化に伴う部品単価の上昇と無

関係ではない。

 実はヘッドライトレンズが供給部品

として設定されるのは今回が初めての

試みではない。部品は供給形態などが

変化するため、どの時期のものが初め

てだったかを調べることは難しいが、

たとえば2004年に発売された初代の

マークX(X12#系)にはヘッドライト

レンズの設定がある。ヘッドライトの

ステーが部品供給されるようになり、

ヘッドライトステーの取替数値の設定

が出たのもこのころである。

 当時、HIDヘッドライトが軽自動車

をはじめ、大衆車へも上級グレートや

メーカーオプションで設定されるよう

になり、普及が進んでいた。これは同

時にヘッドライトの部品価格の上昇を

意味していた。

 比較的小さい事故であっても損傷率

が高いヘッドライトの安価な修理は当

時からすでに認知されていた。

なぜ、定着しなかったのか

 2000年代半ばに一部の車種に設定

されたヘッドライトレンズの取替は、

ヘッドライト本体を工業用ドライヤー

業界動向ヘッドライトの高機能化に伴う部品単価上昇への対応

ヘッドライトを安価に修理する試みは今に始まったことではない

ムーヴキャンバスのヘッドライトレンズ。LEDとハロゲンそれぞれの光源に対する光軸基準点が設定されている

LED光軸基準点 ハロゲン光軸基準点

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