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2014 2 中国ラグジュアリーホテル業界 【要旨】 中国のラグジュアリーホテル(45 つ星)市場は、中国ホテル市場の 65% を占めており、SARS の流行した 2003 年を除いて、過去 10 年以上に亘っ て拡大基調を辿ってきた。 但し、足元では、国内旅客数こそ増加しているものの、先進国における景 気低迷を背景に訪中外国人数が低迷しているため、客室稼働率は弱含んで おり、客室単価も小幅の増加にとどまっている。このため、ラグジュアリ ーホテルの売上高伸び率は、近年、鈍化している。 市場シェアを運営事業者別にみると、外資系ホテルチェーンのシェアは、 中資系ホテルチェーンを大きく上回っている。外資系は、知名度の高さに 加えて、長年蓄積した運営ノウハウやスケールメリットによるコスト競争 力の高さから、客室単価や運営利益などの指標において高い水準を確保し ており、中資系に比べて総じて堅調な業績を確保している。 今後の中国のラグジュアリーホテル業界を展望すると、旅客数の大幅な伸 びが期待できないなか、客室数の一段の増加が見込まれていることから、 客室稼働率は現状維持が精々で、客室単価の上昇も望み薄。 加えて、売上の 4 割強を占める料飲部門では、中国政府による「三公経費 の抑制」方針を受けて減収が見込まれ、人件費も引き続き上昇基調を辿る とみられることから、収益性が低下する懸念は払拭できない。 もっとも、中国のラグジュアリーホテルの運営コストは依然として低水準 であるため、業界全体として一定の利幅を確保することは可能とみられ、 外資系ホテルが高い競争力を有する構造にも大きな変化はなかろう。また、 都市中心部でのホテル開発用地に限りがあるなか、中心部の大規模商業施 設に隣接したホテルは立地面での優位性から競争力が高まろう。 2014 3 【香港駐在報告】 HKIR.2013-74

中国ラグジュアリーホテル業界...2014 年2 月 中国ラグジュアリーホテル業界 【要旨】 中国のラグジュアリーホテル(4・5 つ星)市場は、中国ホテル市場の65%

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Page 1: 中国ラグジュアリーホテル業界...2014 年2 月 中国ラグジュアリーホテル業界 【要旨】 中国のラグジュアリーホテル(4・5 つ星)市場は、中国ホテル市場の65%

2014 年 2 月

中国ラグジュアリーホテル業界

【要旨】

中国のラグジュアリーホテル(4・5 つ星)市場は、中国ホテル市場の 65%

を占めており、SARS の流行した 2003 年を除いて、過去 10 年以上に亘っ

て拡大基調を辿ってきた。

但し、足元では、国内旅客数こそ増加しているものの、先進国における景

気低迷を背景に訪中外国人数が低迷しているため、客室稼働率は弱含んで

おり、客室単価も小幅の増加にとどまっている。このため、ラグジュアリ

ーホテルの売上高伸び率は、近年、鈍化している。

市場シェアを運営事業者別にみると、外資系ホテルチェーンのシェアは、

中資系ホテルチェーンを大きく上回っている。外資系は、知名度の高さに

加えて、長年蓄積した運営ノウハウやスケールメリットによるコスト競争

力の高さから、客室単価や運営利益などの指標において高い水準を確保し

ており、中資系に比べて総じて堅調な業績を確保している。

今後の中国のラグジュアリーホテル業界を展望すると、旅客数の大幅な伸

びが期待できないなか、客室数の一段の増加が見込まれていることから、

客室稼働率は現状維持が精々で、客室単価の上昇も望み薄。

加えて、売上の 4 割強を占める料飲部門では、中国政府による「三公経費

の抑制」方針を受けて減収が見込まれ、人件費も引き続き上昇基調を辿る

とみられることから、収益性が低下する懸念は払拭できない。

もっとも、中国のラグジュアリーホテルの運営コストは依然として低水準

であるため、業界全体として一定の利幅を確保することは可能とみられ、

外資系ホテルが高い競争力を有する構造にも大きな変化はなかろう。また、

都市中心部でのホテル開発用地に限りがあるなか、中心部の大規模商業施

設に隣接したホテルは立地面での優位性から競争力が高まろう。

2014 年 3 月

【香港駐在報告】 HKIR.2013-74

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【目 次】

I. 概要

1. ホテル軒数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2. 市場規模 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

II. ラグジュアリーホテル

1. ラグジュアリーホテルの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2. 需要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3. 供給 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4. 客室稼働率及び客室単価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

III. ラグジュアリーホテルの業績

1. 売上高 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2. 客室あたり売上高・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3. 客室あたり運営利益・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

IV. 主要企業の動向

1. 運営事業者別の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2. ラグジュアリーホテルの競争力(外資系と中資系の比較)・・・・・・・・

3. 外資系と中資系の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

V. 今後の展望

1. ラグジュアリーホテル業界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2. 主要ホテルを取り巻く環境・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3. 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3

4

5

8

9

10

12

13

14

15

16

18

19

22

22

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Ⅰ.概要

1. ホテル軒数

◇ 評価基準の変更に伴い2011年に大幅に落ち込むも、足元では増加に転じている

中国における星付きホテル(注)の軒数は、2000 年から 2009 年にかけて年平均伸び

率 10%で推移してきたが、伸び率は次第に鈍化。2009 年は 1%の微増にとどまり、

2010 年には 1.7%の減少に転じた(図表 1)。

その後、星付きホテル軒数は、2011 年に 16.5%と大幅に減少。これは、国家旅遊局

が 2011 月 1 月に星付きホテルの評価基準を改正したため。改正後の新基準では、4

つ星クラスでは就寝用にベッドを整えるターンダウンサービスの提供やビジネスセ

ンター設備が必須となり、評価項目を満たさないホテルは 3 つ星以下に格下げられた。

こうした新基準は、特に、1~3 つ星ホテルへの影響が顕著であり、4 つ星ホテル

も減少。一方、5 つ星ホテルには大きな影響がみられなかった。

2012 年には、1~3 つ星ホテルの軒数が引続き減少したものの、4・5 つ星ホテル軒

数が増加したため、全体としては 0.3%とわずかながら増加に転じている。

なお、客室数をみると、新基準が適用されて以降、1~3 つ星ホテルでは減少が続い

ている一方、ラグジュアリーホテル(4・5 つ星ホテル)では 2012 年に再び増加に

転じている(図表 2)。

(注)中国では多様なホテルが存在しているため、中国国家旅遊局は「旅游饭店星级的划分

与评定」(観光ホテルの分類と評価)といった、欧州の Hotelstars Union と同様のスタ

ークラス制度で国内ホテルの格付を行っている。星付きホテルとは、当基準に基づき

1~5 つ星ホテル(5 つ星が最高水準)として認定されているホテルのことを指す。

図表 1:中国における星付きホテル軒数の推移 図表 2:クラス別客室数伸び率の推移

(資料)CEIC、CNTA 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業

調査部作成 (資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

50

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

5 4 3 2 1

(前年比、%)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

1つ星

2つ星

3つ星

4つ星

5つ星

(軒)

1.0% ▲1.7%

▲16.5%

0.3%

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10.5

3.2

7.0 6.3

9.1

16.7

11.110.1

7.58.7

19.8

26.4 26.0

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

0

5

10

15

20

25

30売上高(左軸)

伸び率(右軸)

(億元) (前年比、%)

2. 市場規模

◇ プラス成長を維持しており、市場の65%をラグジュアリーホテルが占める

2000~2012 年における星付きホテル全体の売上高は年平均伸び率 12.4%で拡大し、

全期間にわたってプラス成長を維持(図表 3)。

近年の状況をみると、2009 年は、北京オリンピック後の反動減とリーマンショッ

クなどの影響から微増(前年比 3.2%増)に留まったものの、2010 年には同 16.7%

増と大幅に成長。2011~2012 年についても、欧州債務問題や中国経済の減速(注)

により成長ピッチは鈍化しているものの、引続き拡大中。

(注)中国における GDP 前年比伸び率:2010 年 10.4%増、2011 年 9.3%増、2012 年 7.7%増(1999 年の 7.6%増以来の低成長)。

こうした結果、2012 年の市場規模は約 2,460 億元に達し、2000 年(同 604 億元)

の 4 倍に成長。なお、クラス別にみると、4・5 つ星ホテルの売上高は市場全体の

約 65%を占めている(図表 4)。

図表 3:星付きホテルの売上高推移 図表 4:クラス別市場シェア(2012 年)

(資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 (注)1 つ星ホテルの比率は約 0.15%。 (資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

4つ星33.7%

5つ星31.4%

2つ星6.4%

3つ星28.5% 星付きホテル

売上高2,461億元

CAGR: 12.4%

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Ⅱ.ラグジュアリーホテル

1. ラグジュアリーホテルの概要

(1) 業界構造

◇ 中国のラグジュアリーホテル業界では、外資系のシェアが中資系を大きく上回る

外資系ホテルチェーン(以下、外資系)は 1980 年代より中国に進出しており(注)、

5 つ星ホテルを中心に事業を展開してきた。その業歴の長さから、外資系によって

運営されているホテルは、2012 年のラグジュアリーホテル市場の 6 割弱を占めて

いる(図表 5)。

(注)中国に進出している主な外資系ホテルチェーンと進出時期:インターコンチネンタ

ル(英、1984)、アコー(仏、1985)、シャングリラ(香港、1984)、ペニンシュラ

(香港、1989)、ヒルトン(米、1988)、マリオット(米、1998)。

一方、中資系ホテルチェーン(以下、中資系)によって運営されるラグジュアリ

ーホテルは全体の約 25%を占めており、このうち大手に位置付けられる錦江ホテ

ル(1984 年に設立、上海錦江国際ホテルグループ傘下)や金陵ホテル(1983 年設

立)などは、外資系大手とほぼ同時期に設立されている。

図表 5:運営形態別の市場シェア(2012 年、軒数ベース)

(注)1.アンケート調査の結果に基づいて計算(回答企業数:588 社) 2.外資系:外資運営会社によって運営されるホテル 3.中資系:中資運営会社によって運営されるホテル 4.独立系:ホテルグループ・チェーンに属さず、ホテル所有者の運営会社によって単独で

運営されるホテル (資料)中国ホテル業務統計をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

外資系4つ星12.8%

外資系5つ星44.7%

中資系5つ星13.3%

中資系4つ星11.1%

独立系5つ星6.5%

独立系4つ星11.6%

外資系合計57.5%

中資系合計24.4%

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◇ 香港及び中国系のラグジュアリーホテルは直営方式が主流

ホテルの運営形態は、運営会社がホテルを所有する直営方式と、運営会社がホテ

ルを所有せず、賃貸借契約や運営受託(MC:Management Contract)、またはフラ

ンチャイズ(FC)といった形で運営する方式に大別される。直営方式は運営会社

の背負う経営リスクが相対的に高い。

中国におけるラグジュアリーホテルの運営方式をみると、欧米系(インターコン

チネンタル、マリオット、スターウッドなど)では賃貸借契約や MC、FC が主流

である一方、香港系(シャングリラ、ペニンシュラなど)及び中資系(錦江、金

陵など)は直営方式を採用するケースが多くみられる(図表 6)。なお、近年、香

港系や中資系でも、所有・経営・運営を分離させた形態が増加傾向にある。

図表 6:ホテル運営形態の概要

(資料)各種資料をもとに三菱東京UFJ銀行企業調査部作成

◇ 5つ星ホテルは、北京・上海に集中している

地域別にみると、ラグジュアリーホテルの多くが 1 級都市に進出しており、そのな

かでも特に北京・上海に集中している。

5つ星ホテルでみると、北京と上海がいずれも中国全土の1割弱を占めている(図表7)。

図表 7:1 級都市におけるラグジュアリーホテル軒数(2012 年)

(注)広州と深センは 2011 年のデータを使用。

(資料)統計年鑑、CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

シェア(%) シェア(%) シェア(%)

北京 60 9.2 124 5.6 184 6.4

上海 53 8.1 65 3.0 118 4.1

広州 20 3.3 38 1.8 58 2.1

深セン 18 2.9 32 1.5 50 1.8

1級都市合計 151 23.5 259 11.8 410 14.5

中国合計 654 100 2,201 100 2,855 100

ラグジュアリー(4・5つ星合計)

4つ星5つ星

 大← →小 

運営会社 オーナー オーナー オーナー

運営会社 オーナー/運営会社 オーナー オーナー

運営会社 運営会社 オーナー オーナー

運営会社 運営会社 オーナー オーナー

運営会社 運営会社 運営会社 オーナー

運営会社 運営会社 運営会社 運営会社

運営会社 運営会社 運営会社 運営会社

粤海ホテル(広州)

シェラトン広州

マンダリンオリエンタル(三亜)

北京リーガルホテル

ダブルツリー・バイ・ヒルトン(上海)

シェラトン胶州(北京)具体例

静安シャングリラ(上海)

ペニンシュラ北京

賃貸借契約運営受託契約

(MC)

ブランド

マーケティングシステム

直営方式(自社保有)

他社運営

フランチャイズ(FC)

運営会社のリスク

施設の所有

什器備品(ベッド・机等)

経営(損益の帰属)

従業員の帰属

人事権・運営権

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7

公務 5.0%

その他 3.0%

観光27.3%

ビジネス 64.7%

(2) 宿泊客の内訳

◇ 中国人宿泊客が全体の7割弱を占める

ラグジュアリーホテルにおける宿泊客の国籍別内訳をみると、中国人宿泊客が 69%、

外国人宿泊客が 31%となっている。外国人宿泊者のなかでは、欧州、米国、日本が

上位を占めている(図表 8)。

また、宿泊目的別では、ビジネスが最も高い比率を占めている(図表 9)。

なお、外資系 5 つ星ホテルは知名度の高さから、中資系ホテルよりも外国人宿泊客

の割合が高く、1 級都市に立地する外資系ホテルでは、外国人宿泊客の割合が 7 割

に達するケースもみられる模様。

国内69.0%

韓国2.2%

その他 8.1%

台湾2.3%

香港 3.1%

日本 4.1%

米国 4.5%

欧州6.7%

図表 8:ラグジュアリーホテル宿泊客の国籍別シェア

(2012 年)

図表 9:ラグジュアリーホテルの宿泊目的別シェア

(2012 年)

(注)4・5 つ星ホテルを平均した数値。 (資料)中国ホテル業務統計をもとに

三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

(注)4・5 つ星ホテルを平均した数値。 (資料)中国ホテル業務統計をもとに

三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

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▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

40

50

60

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

米国 香港

日本 欧州

(前年比、%)

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

30

35

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

合計

国内旅客

訪中外国人

(前年比、%)

2. 需要

◇ 国内旅客数が増加している一方、訪中外国人数はここ2年低迷

2000~2012 年における中国全体の旅客数は年平均伸び率 11.6%で増加。

国内旅客数は、SARS(2003 年)や四川大震災(2008 年)、中国経済の減速(2012

年)などの影響により、減少や伸び率鈍化に見舞われた年もあったものの、可処

分所得の向上を背景に、総じて好調であり、全旅客数の伸びを牽引(図表 10)。

一方、ラグジュアリーホテルの主要顧客である外国人宿泊客の推移をみると、近年

は低迷している(図表 11)。これは、欧米の景気低迷や対中投資が前年比約 1 割落

ち込んだことに加えて(図表 12)、新型インフルエンザの流行により訪中観光客数

が減少したことが大きい。

図表 11:主要訪中外国人増減率の推移 図表 10:中国旅行客数の推移

図表 12:対中投資額と伸び率の推移

(注)訪中外国人は台湾・香港・マカオを含む。 (資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業

調査部作成

(資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業

調査部作成

CAGR:11.6%

▲0.9

25.615.2 11.5

67.6

0.3

19.225.9

86.0

14.9

▲9.5

9.8

▲23.6

0

50

100

150

200

250

300

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

▲40

▲20

0

20

40

60

80

100対中投資額(左軸)伸び率(右軸)

(10億米ドル) (前年比、%)

(資料)世界銀行資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

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9

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

▲20

0

20

40

60

80

1004つ星(左軸)5つ星(左軸)伸び率:4つ星(右軸)伸び率:5つ星(右軸)

(軒) (前年比、%)

3. 供給

◇ ラグジュアリーホテルの軒数は、4・5つ星ともに増加

中国におけるラグジュアリーホテルの軒数は 2000 年から 2012 年にかけて年平均

16.2%の伸び率で増加(図表 13)。ラグジュアリーホテルは、大規模商業施設やオ

フィスビル、住宅などを含む大型開発プロジェクトの一部として建設されるケー

スも多くみられる(注)。

(注)広州の「太古匯」にあるマンダリンオリエンタル広州や、北京の「中国国際貿易セ

ンター」にある国貿大酒店などが挙げられる。

また、各地の地方政府は都市のイメージアップを図るため、税制待遇措置などを

講じて、外資系を中心にラグジュアリーホテルの誘致に注力してきたことも成長

の後押しとなった。

なお、2011 年こそ、前述の評価基準改定により 4 つ星ホテルの軒数は減少したも

のの、2012 年には 4・5 つ星ともに増加している。2012 年に開業した主要 5 つ星

ホテルは図表 14 の通り。

図表 13:中国ラグジュアリーホテル軒数の推移

図表 14:主要新設 5 つ星ホテル(2012 年)

(資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調

査部作成

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部

作成

スターウッド

ホテル&リゾート

インターコンチネンタル

ホテルズグループ

ウィンダム

ホテルグループ

マリオット

インターナショナル

シャングリラ

ホテルズ&リゾーツ

三亜、紹関、蘇州等

広州、貴陽、南京、西安

常州、海口、揚州

ホテルチェーン 軒数 立地

長春、重慶、福州、三亜、蘇州等

19

11

7

4

3

寧波、青島等

CAGR: 16.2%

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10

50

55

60

65

70

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

5つ星 4つ星 星付きホテル

(%)

4. 客室稼働率及び客室単価

(1) 客室稼働率

◇ 客室稼働率は軟調に推移しており、2012年に低下

中国におけるラグジュアリーホテルの客室稼働率は、SARS(2003 年)とリーマン

ショック(2008~2009 年)の影響で一時的に落ち込んだ時期はあったものの、2000

年から 2011 年は概ね 60%を超える水準を維持(図表 15)。

2012 年は、欧米と日本を中心にビジネス需要が鈍化したため、5 つ星ホテルの客

室稼働率はわずかながら 60%を下回った。一方、4 つ星ホテルは客室数の増加が

小幅にとどまったこともあり、60%の稼働率を維持している。

図表 15:クラス別客室稼働率の推移

(資料)CEIC資料をもとに三菱東京UFJ銀行企業調査部作成

◇ 利益を出すには平均50%程度の客室稼働率が必要

中国におけるラグジュアリーホテルの客室稼働率の損益分岐点は、各ホテルのコスト

構造や平均客室単価で差異が生じるものの、概ね 50%程度とみられ、このうち 5 つ

星ホテルはコスト負担が相対的に重いことから、60%前後の客室稼働率が必要とみら

れる(図表 16)。

図表 16:中国ラグジュアリーホテル客室稼働率の損益分岐点

(資料)各種資料、ヒアリングをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

5つ星

4つ星 30-40%

ラグジュアリー全体 50%

60%

客室稼働率

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(2) 客室単価

◇ 小幅の上昇にとどまる

2003~2012 年の中国ラグジュアリーホテルの客室単価は、客室稼働率が軟調に推

移していることから、小幅の上昇にとどまっている(図表 17)。

図表 17:中国ラグジュアリーホテル平均客室単価の推移

(資料)中国ホテル業務統計資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

0

200

400

600

800

1,000

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

5つ星 4つ星

(人民元)

年平均伸び率:1.2%

年平均伸び率: 2.0%

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Ⅲ.ラグジュアリーホテルの業績

1. 売上高

◇ 総じて拡大基調を辿っているものの、近年は伸び率が鈍化

中国におけるラグジュアリーホ

テルの売上高は、2000 年の 270

億元から年平均伸び率 16%で拡

大し、2012 年に約 1,600 億元に達

している(図表 18)。

しかしながら、2012 年は、欧州債

務問題や中国経済の減速が響き、

伸び率は 2011 年の 12.3%増から

5.2%増と、1 桁台にまで鈍化して

いる。

◇ 5つ星ホテルは景気変動の影響などを受けやすい体質

クラス別の年平均売上高伸び率をみると、4 つ星・5 つ星ホテルともに、2000 年か

ら 2012 年にかけて約 16%のペースで拡大(図表 19)。

ただし、SARS が流行した 2003 年とリーマンショックの影響を受けた 2009 年にお

いては、比較的割安な 4 つ星ホテルはプラス成長を確保した一方で、5 つ星ホテル

は、前年割れに陥っており、5 つ星ホテルは、訪中外国人の動向や景気変動の影響

を受けやすい体質といえよう。

図表 19:クラス別売上高と伸び率の推移

(資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

図表 18:中国ラグジュアリーホテル総売上高の推移

17.7

22.127.4

▲ 0.9

24.9

33.6

13.1

14.810.8

1.3

33.4

12.3

5.2

0200

400600

8001,000

1,2001,400

1,6001,800

2,000

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

▲10

0

10

20

30

40

50総売上高(左軸)

伸び率(右軸)

(億元) (前年比、%)

(資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

CAGR: 16.0%

0100

200300

400500600

700800

9001,000

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

▲10

0

10

20

30

40

50

605つ星売上高(左軸)4つ星売上高(左軸)5つ星売上高伸び率(右軸)4つ星売上高伸び率(右軸)

(億元) (前年比、%)

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13

料飲

43.1%

宿泊

47.5%

その他

9.4%

(2012年)281,239元

0

50

100

150

200

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

宿泊 料飲

(千元)

-

50

100

150

200

250

300

350

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12▲15

▲10

▲5

0

5

10

15

20

25トータルRevPAR(左軸)伸び率(右軸)

(千元) (前年比、%)

0

2. 客室あたり売上高

◇ 収入の9割強を宿泊・料飲部門が占め、このうち料飲部門の比率が増加している

過去 10 年間の客室あたり売上高(トータル Rev PAR(注 1))伸び率は、総じて低水

準での推移が続いており、同期間中の年率平均伸び率は 1%に留まる(図表 20)。

部門別の内訳(2012 年)をみると、宿泊部門が 47.5%、料飲部門(注 2)が 43.1%を

占めており、このうち料飲部門が増収基調を辿っている(図表 21、22)。

この背景としては、可処分所得が向上するなか、ラグジュアリーホテルでの会食

や結婚式、会議などを開催することが一種のステータスとして、中国内で浸透し

てきたことが大きい。また、ラグジュアリーホテルのワインや月餅などが贈答品

として人気が高いことも料飲部門における増収の後押しとなっている。

(注 1)Rev PAR(Revenue Per Available Room)=客室収入/販売可能客室総数 トータル Rev PAR=総売上高(客室、料飲とその他収入を含む)/販売可能客室総数

(注 2)料飲部門にはレストランや客室内、宴会場などでの料理・飲料、サービス収入の

ほか、宴会会場や会議室の使用料、その他料飲関連収入が含まれる。

図表 22:中国ラグジュアリーホテルにおける部門別 Rev PAR の構成比

(資料)中国ホテル業務統計資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

▲1.5%

図表 20:中国ラグジュアリーホテルのトータル Rev PAR 図表 21:部門別 Rev PAR の推移

(注)4 つ星と 5 つ星ホテルのトータル Rev PAR の平均値。 (資料)中国ホテル業務統計資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行

企業調査部作成

(注)2007 年は推定値。 (資料)中国ホテル業務統計資料をもとに三菱東京

UFJ 銀行企業調査部作成

CAGR: 1%

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3. 客室あたり運営利益

◇ 客室あたり運営利益は5つ星ホテルが下落した一方、4つ星ホテルは堅調に推移

5 つ星ホテルの客室あたり運営利益(GOP PAR(注))(2012 年)は、前年から僅か

に減少して約 116 千元となった(図表 23)。一方、4 つ星ホテルの客室あたり運営

利益は約 65 千元に達し、前年の落ち込みから持ち直し、直近ピークの 2007 年の

水準に迫るなど堅調に推移。

5 つ星ホテルの客室あたり運営利益が前年割れとなったのは、販売可能客室当

たり経費の上昇が原因とみられる。2012 年の中国における平均人件費が前年比

11.9%で増加しているなか、ホテル業界についてもコスト負担が増しており、5

つ星ホテルの人件費も 2 桁ピッチで上昇している模様。

4 つ星ホテルについては、料飲部門でコスト抑制に努め、販売可能客室あたり

経費が低減(約 5%削減)された結果、客室あたり運営利益は前年より改善し

ている。

(注)GOP(Gross Operating Profit):運営利益=年間売上高-各部門経費-その他関連経費

(告宣伝費、メンテナンス費、水道光熱費、その他管理費など) (注)GOP PAR(GOP Per Available Room)=運営利益/販売可能客室総数

図表 23:クラス別 GOP PAR の推移

2002 113,767 54,8422003 94,157 42,9462004 133,142 64,3632005 148,204 61,9012006 141,531 61,4182007 140,756 67,4582008 119,781 57,9562009 91,752 48,1922010 117,448 61,2602011 118,208 59,9582012 116,066 65,212

(人民元)

年 5つ星 4つ星

(注)2002~2006 年の GOP=トータル Rev PAR-販売可能客室当たり経費 (資料)CEIC 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

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Ⅳ.主要企業の動向

1. 運営事業者別の動向

(1) 中資系ホテルチェーン

◇ ラグジュアリーホテルを運営する中資系は少数に留まる

中資系ホテルのランキング上位 10 社の顔ぶれをみると、大半の企業は 3 つ星以下

のホテルを運営しており、ラグジュアリーホテルを主に手掛ける企業は上海錦江

国際ホテル、南京金陵ホテル、首旅建国ホテルの 3 社に留まる(図表 24)。

図表 24:中資系ホテル運営会社のランキング(2012 年) (注)1.ラグジュアリーは 5 つ星と 4 つ星ホテル、その他は 1~3 つ星ホテル、星なしや格安ホテルを含む。 (注)2.首旅建国ホテルマネージメントは 2013 年 10 月時点の数値。 (資料)HOTELS 2013 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

(2) 外資系ホテルチェーン

◇ ラグジュアリーホテルの上位を外資系が占める

外資系の大手ホテルチェーンの多くは中国に進出しており、インターコンチネン

タルやマリオットをはじめとする外資系は、独資でのホテル設立が解禁された

2005 年以降、中国事業を拡大させてきた。

こうした結果、中国におけるラグジュアリーホテルの参入企業の顔ぶれをみると、

上位 10 社のうち 7 社を外資系大手が占めている(図表 25)。

図表 25:中国ラグジュアリーホテルのランキング(2012 年)

(注)首旅建国ホテルマネージメントは 2013 年 10 月時点の数値。 (資料)HOTELS 2013、IBIS、各社アニュアルレポート、ホームページ資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業

調査部作成

5つ星 4つ星

インターコンチネンタルホテルズ・グループ (英) 136 78 58 160 インターコンチネンタル、クラウンプ

ラザ、ホリデーインエクスプレス 1984

上海錦江国際ホテル(グループ) (中) 121 72 49 1,031 錦江、華亭 1984南京金陵ホテルマネージメント (中) 116 102 14 120 金陵 1983首旅建国ホテルマネージメント (中) 81 66 15 88 建国 1982

マリオットインターナショナル (米) 61 51 10 61 マリオット、リッツカールトン、コー

トヤード1997

スターウッドホテル&リゾート (米) 58 28 30 104 シェラトン、W、ウェスティン、フォー

ポインツ1985

ウィンダムホテルグループ (米) 58 9 49 543 ウィンダム、スーパー8、ハワードジョ

ンソンプラザ、ラマダ、ディーズイン不明

アコーホテルズ (仏) 55 36 19 141 ソフィテル、ノボテル、イビス 1985

シャングリラホテルズ&リゾーツ (香港) 36 32 4 36 シャングリラ、トレーダース、チャイ

ナワールド、ケリーセンター1984

ヒルトンワールドワイド (米) 30 30 - 30 ヒルトン、コンラッド 1988

全体 ブランド名進出・設立

時期(年)

ラグジュアリー(軒)企業名

1 如家快捷ホテルマネージメント 1,772 × ◎ 6 南京金陵ホテルマネージメント 120 ◎ ×

2 7天チェーンホテルグループ 1,345 × ◎ 7 首旅建国ホテルマネージメント 88 ◎ ○

3 中国住宿グループ 1,035 × ◎ 8 港中旅ホテルズ 81 ○ ◎

4 上海錦江国際ホテル(グループ) 1,031 ◎ ◎ 9 海航ホテルグループ 80 ○ ◎

5 格林豪泰ホテルマネージメント 880 × ◎ 10 開元ホテルグループ 61 ○ ◎

企業名ホテル軒数

ラグジュアリー

その他 企業名ホテル軒数

ラグジュアリー

その他

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2. ラグジュアリーホテルの競争力(外資系と中資系の比較)

◇ 外資系は運営ノウハウを有する一方、中資系は現地事情に精通

外資系は、親会社またはフランチャイザーから、経験豊富な人材の供給や運営ノ

ウハウの共有などソフト面でサポートを受けるのが一般的。従業員教育も徹底さ

れており、品質管理の水準も高い(図表 26)。

一方、中資系ホテルは運営ノウハウが比較的乏しいものの、現地事情に適応した

取り組みを徹底していることが強み。例えば、上海錦江国際ホテルと南京金陵ホ

テルでは大規模な披露宴が行える広い宴会場を設けているし、現地消費者の好み

に合わせた料理を柔軟に提供している中資系ホテルも多くみられる。

図表 26:外資系と中資系ホテル競争力の比較

(資料)各種資料、ヒアリングをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

◇ 外資系ホテルは知名度の高さから高い集客力を有する

外資系は、サービスや設備、セキュリティーなどの面における信頼性の高さが利

用者に浸透しており、訪中外国人への訴求力では中資系を上回っている。

また、可処分所得が向上する中、外資系は、中国人宿泊客にも好まれている模様。

実際、中国人がインターネットで検索したホテルブランドランキングでは、シェラ

トンやヒルトン、シャングリラなどの外資系ホテルブランドが上位を占めている

(図表 27)。

図表 27:中国におけるホテルブランド検索数ランキング ホテルブランド ホテルブランド

1 シェラトン 6 フォーシーズンズ2 ヒルトン 7 ペニンシュラ3 シャングリラ 8 ケンピンスキー4 インターコンチネンタル 9 日航5 ウェスティン 10 リッツカールトン

(注)2013 年 1 月から 3 月まで、検索数が最も多かったホテルブランド。 (資料)Digital Luxury Group 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

• 国際的ネットワーク及びサポート体制 • 高コスト、高価格体質

• グローバルマネージメント人材の多さ • 柔軟性の低さ(ルール厳守)

• ブランドの国際的知名度の高さ • 現地文化と好みに関する知識の不足

• 徹底した品質管理

• 現地文化と好みを熟知 • サービス品質の維持・向上

• 低コスト、低価格体質 • ブランドイメージの確立

• 柔軟性の高さ • 国際的ネットワークを持たない

外資系

中資系

強み 課題

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◇ 規模に勝る外資系はスケールメリットを享受しやすい

大規模なホテルチェーンは、客室設備や什器備品などを低価格で大量に調達する

ことが可能であり、総じてコスト競争力は高い。また、グローバル展開している

ホテルチェーンでは、既存資源の活用を通じて、従業員教育や予約システム、広

告宣伝などにおけるコストを抑制することも可能。

中国においてラグジュアリーホテルを運営する企業のホテル客室数を比較すると、

外資系上位のインターコンチネンタルは約 67 万室、マリオットは約 66 万室を手

掛けており、中資系トップの上海錦江国際ホテルの 3 倍の規模となっている(図

表 28)。このため、外資系の大手ホテルチェーンは相応のスケールメリットを享受

可能で、中資系よりコスト競争力で優位とみられる。

図表 28:主要ラグジュアリーホテルチェーンの世界及び中国事業規模の比較(2012 年)

客室数 ホテル軒数 客室数 ホテル軒数

インターコンチネンタルホテルズ・グループ

(英) 675,982 4,602 - 160

マリオットインターナショナル (米) 660,394 3,800 147,053 61

ヒルトンワールドワイド (米) 652,957 3,966 - 30

ウィンダムホテルグループ (米) 627,437 7,342 - 543

アコーホテルズ (仏) 450,487 3,516 31,000 141

スターウッドホテル&リゾート (米) 335,415 1,134 - 104

上海錦江国際ホテル(グループ) (中) 214,796 1,401 147,053 1,031

シャングリラホテルズ&リゾーツ (香港) 33,553 78 - 36

南京金陵ホテルマネージメント (中) 32,040 120 32,040 120

首旅建国ホテルマネージメント (中) 19,960 88 19,960 88

世界 中国

(注)首旅建国ホテルマネージメントは 2013 年 10 月時点の数値。 (資料)HOTELS 2013、IBIS、各社アニュアルレポート・ホームページ資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企

業調査部作成

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3. 外資系と中資系の比較

◇ 各種指標において、外資系ホテルは中資系ホテルを総じて上回っている

外資系は、客室稼働率や客室単価、トータル Rev PAR、GOP PAR などの指標にお

いて、中資系を総じて上回っている(図表 29)。

5 つ星ホテルでは、外資系の客室稼働率は中資系を下回っているものの、ブラ

ンド力の高さから客室単価は中資系の約1.5倍の水準にあり、トータルRev PAR

についても外資系が上回っており、GOP PAR についても、高い水準にある。

4 つ星ホテルでは、外資系が客室稼働率、客室単価ともに中資系を上回ってい

るものの、中資系は好調な料飲部門が牽引役となり、トータル Rev PAR では外

資系が中資系を下回っている。もっとも、コスト競争力に優れる外資系は運営

効率が高く、収益性では中資系を上回っている。

ラグジュアリーホテル全体でみると、外資系は客室単価や運営効率の高さを背景に、

中資系を上回る GOP PAR マージンを確保しており、上記指標に基づいてみれば、外

資系は中資系より総じて堅調な業績を確保しているとみられる。

図表 29:ラグジュアリーホテル主要業績指標の比較(2010~2012 年)

(注) :5 つ星ホテル比で高水準 :4 つ星ホテル比で高水準 (資料)中国ホテル業務統計資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

外資系 中資系 外資系 中資系

客室稼働率 (%) 57.8 61.2 65.4 62.7

客室単価 (人民元) 904 600 530 426

トータルRevPAR (人民元) 336,125 306,830 197,912 217,245

GOP PAR (人民元) 125,955 84,280 79,895 55,712

GOP PARマージン (%) 37.5 32.8 32.0 25.7

4つ星平均値

5つ星

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Ⅴ.今後の展望

1. ラグジュアリーホテル業界

(1) 需要の見通し

◇ 国内旅客数は順調に増加する見通しだが、訪中外国人数の伸びは引続き鈍化しよう

中国経済は、今後 2 年程度 7%台前半で堅調に推移すると見込まれていることから

(図表 30)、国内旅客数は引き続き 10%前半の伸び率で順調に増加すると思われる。

実際、2013 年の国内旅客数は前年同期より 11.6%増加している。

一方、訪中外国人数をみると、ビジネス客については堅調な中国経済を背景に引

き続き底堅い推移が見込まれるものの、観光客については欧米経済が軟調に推移

するなか急回復は期待できず、訪中外国人数の伸び率は引き続き鈍化しよう。

図表 30:中国 GDP 伸び率の見通し

(資料)国際通貨基金資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

10.4

9.3

7.7 7.67.3 7.0

5

6

7

8

9

10

11

10 11 12 13 14 15

(前年比、%) 見通し

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(2) 供給の見通し

◇ 大型ラグジュアリーホテルの新設が多数予定されている

中国のホテル業界では、積極的な新設投資が行われてきたが、今後もこうした流

れに変わりは無く、多数のラグジュアリーホテルの開業が見込まれている。

実際、インターコンチネンタル、ウィンダム、ヒルトンなどの外資系大手が 100

軒以上のホテルを開業する予定であり、北京や上海などの 1 級都市を中心に、客

室数は一層増加する見通し(図表 31)。

北京では、2008 年のオリンピック後も 5 つ星ホテルの開業が続き、2013 年の

客室数は約 3.6 万室(注)に増加するとみられるほか、2015 年は約 3.8 万室に達

する見通し(図表 32)。

(注)2013 年に開業した 5 つ星ホテル: コンラッド(ヒルトングループ)(朝陽区燕

莎 CBD、289 室)、新世界(朝陽区、309 室)、Rosewood(朝陽区、279 室)など

上海でも、2010 年の万博開催後も 5 つ星ホテルが相次いで開業。その結果、2013

年における客室数増は約 2.6 万室(注 2)に上る見込み。なお、2015 年頃の上海デ

ィズニーランドの開業に向け、客室数の増加は一段と加速する見通し。

(注)2013 年に開業した 5 つ星ホテル:Mandarin Oriental(浦東区、362 室)など

図表 31:中国における主要ラグジュアリーホテルチェーンの拡張計画

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

図表 32:1 級都市における 5 つ星客室数の推移

(資料)各社アニュアルレポート、報道資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

インターコンチネンタル 160 50,916 「クラウンプラザ」と「華邑」ブランドを中心に展開

ウィンダム 105 23,000 グループ戦略に基づき、中国内のFCホテル数を拡大

ヒルトン 100 - 2018年までの新規開業計画

スターウッド 100 - 2~3級都市が全体に占める比率を7割に高める

アコー 90 - 2016年までの新規開業計画

錦江 35 10,500 フランチャイズ契約にて展開

シャングリラ 17 6,841 2014年に9軒、2015年に3軒、2016年に4軒、2017年に1軒開業する予定

マンダリンオリエンタル 2 561 新しく開業したマンダリンオリエンタル上海を除いた数値

内 容拡張計画

ホテル軒数 客室数

0

1

2

3

4

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

北京

上海

(万室) 見通し

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(3) 客室稼働率、客室単価、客室あたり売上高、客室あたり運営利益の見通し

◇ 客室稼働率は横ばいが精々、客室単価は現状程度で推移しよう

今後の客室稼働率を展望すると、宿泊需要は、訪中外国人数の大幅な伸びが期待

できないなか、国内旅客が牽引役となり、緩やかな拡大が予想される一方、供給

面では、1 級都市を中心に一層の客室増加が見込まれていることから、ラグジュア

リーホテル全体の客室稼働率は横ばいが精々の展開となろう。

客室単価は、全体として供給増加に伴う単価下落圧力は増そうが、ブランドイメ

ージの維持という観点から極端な価格競争に陥ることは想定しがたく、人件費を

中心にコストが上昇基調を辿るなかにあっては、他国と比べて既に低い水準にあ

る客室単価の一段の引き下げは考えにくい。このため、現状程度で推移するとみ

られる(図表 33)。

図表 33:グローバル大手のアジア都市別客室単価の比較

(注)客室単価は各ホテルのデラックス・ツインルームの 1 泊料金(2013 年 11 月 18 日時点)。 (資料)各社ホームページ、各社回答をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成

◇ 客室あたり売上高や客室あたり運営利益は低下する可能性も

ラグジュアリーホテルにおける客室あたり売上高(トータル Rev PAR)は、中国

政府が 2013 年 5 月に発表した「三公経費(注)の抑制」を受けて、料飲部門におけ

る売上減少が見込まれることから、低下する可能性が高い。

(注)政府部門の海外出張費、接待費、及び公用車の購入・維持費のこと。三公経費は 2010年に 94.7 億元に達し、資金使途が不透明であるなど社会問題化。中央政府は公費支出

の抑制を求める方針を発表し、それ以来、官僚による高級品消費が減少している。

こうしたなか、人件費等の上昇により運営経費の増加は避けられないため、客室

あたり運営利益(GOP PAR)が低下する懸念は払拭できない。

もっとも、中国のラグジュアリーホテルの運営コストは依然として低水準であり、

50%程度の稼働率を維持できれば一定の利幅を確保することは可能とみられる。

(単位:米ドル)

東京 776 706 776

香港 628 720 720

シンガポール 376 - 400

上海 328 443 394

北京 218 246 -

シャングリラ ペニンシュラ マンダリンオリエンタル

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2. 主要ホテルを取り巻く環境

◇ 外資系は相対的に高水準の客室単価と客室あたり運営利益を維持する見込み

外資系は、高いブランド力とスケールメリットを梃に客室単価や客室あたり運営

利益(GOP PAR)などの指標において、中資系ホテルを上回っており(2010~2012

年、18 頁図表 29 参照)、今後もこうした構造に大きな変化はなく、総じて中資系

を上回る状況が続こう。

なお、料飲収入のウェートが比較的高い4つ星ホテルなどは、三公経費抑制の影

響から減収が見込まれ、今後についても、政策動向に影響を受けることから注視

が必要。

◇中心部の商業施設に隣接するホテルは立地面での優位性が高まる方向性

中国のラグジュアリーホテルは総合開発プロジェクトの一環として建設されるケ

ースが多くみられ、大規模商業施設やオフィスビルに隣接したホテルは立地面で

の利便性から、ビジネス客や観光客に対する集客力に優れる。

特に、北京や上海などの大都市中心部では、開発用地に限りがあることから、今

後のホテル建設は都市周辺部へのシフトを余儀なくされ、中心部に位置するホテ

ルの優位性は一段と高まろう。

3. 結論

中国のラグジュアリーホテル業界では、旅客数が緩やかな伸びにとどまるとみら

れるなか、客室の一段の供給増加が見込まれており、客室稼働率は現状維持が精々

となろう。客室単価は引き下げ余地が乏しく、概ね横ばい程度で推移する見通し。

また、客室あたり売上高(トータル Rev PAR)と客室あたり運営利益(GOP PAR)

は、人件費の上昇と三公経費の抑制による料飲収入の減少により、低下する懸念

が払拭できない。もっとも、中国のラグジュアリーホテルの運営コストは依然と

して低水準であり、50%程度の稼働率を維持できれば一定の利幅を確保すること

が可能とみられる。

運営事業者別にみると、外資系は高いブランド力とスケールメリットを背景に、

引き続き高い競争力を発揮するとみられる。

なお、大規模商業施設やオフィスビルなどの複合施設に隣接したホテルは、今後、

大都市中心部での開発用地に限りがあり、新規プロジェクトが都市周辺部に移行

するとみられるなか、立地面での優位性から競争力が高まろう。

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