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佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月) セルフヘルプグループ生成の要件に関する研究 〔抄 録〕 本研究では、わが国におけるセルフヘルプグループ生成の要件を検討 した。 まず、セルフヘルプグループの起源を集団形成 との関係か ら概観 した。次に、先行 研 究 に お け る活 動 事 例 か ら、 セ ル フヘ ル プ グ ル ー プ の 特 徴 を検 討 し、3類 型 にお け る 特 性 を解 明 した 。 さ ら に、 セ ル フヘ ル プ グ ルー プ と専 門職 との最 適 な 関 係 及 び 専 門職 の 役 割 か ら、 セ ル フヘ ル プ グル ー プ生 成 の 要件 を明 確 に した。 セルフヘルプグループのあ り方から当事者を理解 しようとする、本研究のような試 み が 、 利 用 者 の 立 場 か らの ソ ー シ ャ ル ワ ー ク実 践 の あ り方 や 専 門 性 を考 え る ひ とつ の 手がか りになることを期待 したい。 キーワード セ ル フ ヘ ル プ グ ル ー プ,当 事 者 理 解,ソ ー シ ャ ル ワ ー ク,専 門性 は じめ に 近年の措置制度から契約制度への転換は、利用者自らが適切なサービスを選択するための知 識 や 情 報 を得 る こ とが 要 求 され 、 しか も専 門 職 との 関係 に お い て も、 や や もす る と消 費 者 とサ ー ビ ス提 供 者 とい った 希 薄 な 関係 に な る こ とで サ ー ビ ス が 必 要 な 人 に適 切 に行 き渡 りに く くな る こ とが 懸 念 され る。2002年4月 に導 入 さ れ た介 護 保 険 制 度 に続 き、 障 害 者福 祉 サ ー ビス にお い て も支援 費 制 度 が2003年 から導入されようとしている。そうした流れは、サービスの利用者 と提供 者 との 「対 等 な関 係 の確 立 」 を名 目に、 サ ー ビス を理 解 して い る 賢 い 契 約 者 で 、 か つ 経 済 的 に 恵 ま れ た消 費 者 のみ が 利 用 者 と して取 り扱 われ て い くこ とが 危 惧 され る。 戦後の混乱期に、 自らが人間らしく生 きるために止むに止 まれず権利要求を行った、結核患 者 た ち の 患 者 運 動 を振 り返 る と、 今 日に お け る社 会福 祉 基 礎 構 造 改 革 の うね りの 中 で サ ー ビス や制度のあ り方の変化に臆せず立ち向かうエネルギーが、当事者たちには存在するのではない か と期 待 せ ず に は お れ な い。 一219

セルフヘルプグループ生成の要件に関する研究 阪 下 紀 子 ...archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/DO/0031/DO00310L219.pdfセルフヘルプグループ生成の要件に関する研究(阪

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  • 佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月)

    セル フヘ ルプグルー プ生成 の要件 に関す る研 究

    阪 下 紀 子

    〔抄 録〕

    本研究では、わが国におけるセルフヘルプグループ生成の要件を検討 した。

    まず、セルフヘルプグループの起源を集団形成 との関係か ら概観 した。次に、先行

    研究における活動事例か ら、セルフヘルプグループの特徴を検討 し、3類 型における

    特性を解明した。さらに、セルフヘルプグループと専門職 との最適な関係及び専門職

    の役割か ら、セルフヘルプグループ生成の要件 を明確にした。

    セルフヘルプグループのあ り方から当事者を理解 しようとする、本研究のような試

    みが、利用者の立場か らのソーシャルワーク実践のあり方や専門性を考えるひとつの

    手がか りになることを期待 したい。

    キ ー ワ ー ド セ ル フヘ ル プ グ ル ー プ,当 事 者 理 解,ソ ー シ ャル ワ ー ク,専 門 性

    はじめに

    近年の措置制度から契約制度への転換は、利用者自らが適切なサービスを選択するための知

    識や情報を得ることが要求され、 しかも専門職との関係においても、やや もすると消費者とサ

    ービス提供者といった希薄な関係になることでサービスが必要な人に適切に行 き渡 りにくくな

    ることが懸念される。2002年4月 に導入された介護保険制度に続 き、障害者福祉サービスにお

    いても支援費制度が2003年 から導入されようとしている。そうした流れは、サービスの利用者

    と提供者との 「対等な関係の確立」を名 目に、サービスを理解 している賢い契約者で、かつ経

    済的に恵まれた消費者のみが利用者 として取 り扱われていくことが危惧される。

    戦後の混乱期に、 自らが人間らしく生 きるために止むに止 まれず権利要求を行った、結核患

    者たちの患者運動を振 り返 ると、今 日における社会福祉基礎構造改革のうね りの中でサービス

    や制度のあ り方の変化に臆せず立ち向かうエネルギーが、当事者たちには存在するのではない

    かと期待せずにはおれない。

    一219

  • セルフヘルプグループ生成の要件に関する研究(阪 下 紀子)

    そうしたことから、セルフヘルプグループ(以 下SHGと する)が どのように生成し、活動を

    してきたかを把握し、如何なるものであるかを理解する作業は、利用者本位のサービスのあり

    方を模索する現在においてこそ意味があ り重要なことである。また、SHGを 理解することは、

    専門職 としての専門性やソーシャルワーク実践のあり方を利用者の立場か ら検証する作業でも

    ある。

    1.セ ル フヘル プ グル ー プの起 源

    農村型社会から都市型社会への移行は、家族の危機対処能力の弱体化、高齢者への介護能力

    や老幼弱者への保護能力の低下等、といった新たな社会的問題を生起させた。また、自由と民

    主主義を守るための運動が生起 したことも、その後の新たな集団形成につなが り、SHGも その

    中のひとつであった。欧米型SHGの 導入も、自由と民主主義という価値基盤が存在してこそ可

    能にしたと言える。加えて、 これまで潜在化され解決されることのなかった課題や、プライバ

    シー保護を前提 とした課題への対応のために、非地域性、匿名性、あるいは活動の自由の保障

    などを留意 した、新たなタイプの集団が要請された1)。

    そうしたことから、SHG形 成の要件としては、生活環境、社会的背景、 しかも地域性が 「個

    人の要請」 と合致することはもとより、自由と民主主義という価値基盤が存在 し、 しか も既存

    のサポー ト・システムではニーズが充足されないことが挙げられる。

    ところで、新たな集団のひとつであるSHGの はじまりは、敗戦後に結核入院患者によってな

    された患者運動であるとされ2)、その歴史は比較的新 しい。そして、わが国におけるSHGの な り

    たちは、大別すると①初期の頃の当事者が自らの生命維持や人権回復のために止むに止まれず

    起こした運動、②市民運動の展開に伴って設立された患者 ・障害者の運動、③ 自立生活運動の

    理念等、欧米の運動の影響 を受けたものやアルコホーリックス ・アノニマス(以 下AAと する)を

    はじめとする欧米型SHGの モデル化、といったことが挙げられ、その形成のあり方は多様である。

    2.セ ル フヘル プ グル ープの特徴 と類型

    1978年 から2001年 までの国内先行研究で取 り上げられたSHG事 例 をもとに して、①対象者、

    ②SHGの 事例、③分類、④生成の契機、⑤活動形態、⑥内容 ・課題、⑦専門職の調整 ・支援の

    有無、⑧匿名性の有無、といった項 目を設け、SHGの 特徴と生成について検討した[表1参 照]。

    尚、ここでの分類 としては、「心理」、「疾病 ・障害」、「依存」、「回復」、「市民団体」といった石

    川ら3)の分類に、「社会生活」を加えた6項 目を採用 した。

    そうした特徴か ら、SHGを 大別すると① 「話 し合い型」、② 「運動型」、③ 「専門職調整型」、

    といった3類 型からなることがわかった。そして、各類型別にSHGの 特性を明確にした[表2参

    一220一

  • 佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月)

    照]。 そして、そうした特性を充足することが、各類型におけるSHG生 成の要件になると考える。

    〔1〕話 し合い型

    「話 し合い型」は、「語る」という作業によって、お互いにメンバーの体験を共感し、自己の

    意識変革を目指す。AAに みる欧米型SHGや そのモデル化によるものが多 く、分類では 「依存」

    や 「回復」がこれに該当する。

    アルコールや薬物等、何 らかの依存をもつ人たちは、社会的非難や偏見の対象とされ、しか

    も医療関係者等専門職か らも厄介者 として扱われ、回復の機会を閉ざされてきた4)。そうした人

    たちが受容的雰囲気でしかも守 られた空間で、お互いの体験 を語る機会を得ることによって、

    自分やメンバーの対処する力が高められていく。また、遺族ケアのためのSHGの メンバーをは

    じめ 「回復」を課題 とする人たちも、そうした活動によって、自らの生活を前向きに進んでい

    くことを可能にする。苦悩や心の痛みをわかって くれる仲間との出会いそのものが、当事者た

    ちには大きな意味を持ち5)、彼等の生 き方そのものを変えていくのかもしれない。

    この類型では、基本的には専門職の直接的な支援は必要としない。また、匿名性を有し流動

    的なメンバー構成であり、グループ内の人間関係の特質としては、情緒的側面を重視 している。

    そして、プライバシー保護や、グループ活動に対する他者からの攻撃や不利益から守ることが、

    活動の前提 となる。また、ここでの専門職の関わ り方は、グループ活動そのものに直接的に影

    響力を与えず、当事者にSHGを つなげる調整や、場所の提供、専門的知識あるいは情報提供等

    といった側面的な支援を行うことが要請される。

    〔2〕運動型

    「運動型」は、何 らかの運動を契機 として結成 されたSHGで あり、分類では 「疾病 ・障害」

    が多 く該当する。人権の回復、制度やサービスの不備や不足 に対する改善要求、市民権運動、

    あるいは自立生活運動の理念等、欧米の影響によるもの等、その活動のあり方は多様である。

    元ハ ンセン病患者たちの死闘とも言うべ き、人権侵害と差別を極めた強制隔離政策に対する

    長 きに渡 る抗議運動は、最近にな りようや く国に謝罪させるところとなった。 また、活動によ

    って社会に知 らしめサービスや制度の整備へ とつなげていった事例もある6)。そして、既存のサ

    ービス ・制度にはないニーズの存在を専門職に気づかせ、専門性を再認識 させたのも、当事者

    たちの運動が契機であった7)。加えて、障害をもつ人たちは、治療の場 を離れて、当事者同士で

    支え合い、主体的でしか も自分 らしい生活のあり様を追求 した8)。

    活動の特徴 としては、仲間との分かち合いに加 えて、生活環境改善のために社会に訴え、制

    度やサービスの改善を要求することを主な目的とし、グループの結束が極めて強いことである。

    グループ内の人間関係の特質としては、集団目的の達成や集団維持を目指す機能的側面を重視

    している。さらに、専門職 との関係は、完全に独立 した関係にある。

    〔3〕専門職調整型

    「専門職調整型」は、治療の中で当事者の苦悩 を知った専門職の呼びかけ、あるいは専門職

    一221一

  • セルフヘルプグループ生成の要件に関する研究(阪 下 紀子)

    が治療 と離れてグループの力で治療効果を期待 し結成 したものを指し、専門職の直接的間接的

    支援や調整 を有するグループを言う。

    わが国にSHG研 究が導入された初期の頃は、集団治療的機能として専門職によって次々とグ

    ループが結成された9)。また、疾病や障害、あるいは不登校等、何 らかの課題を有する人の親や

    家族たちの集まりもまた、孤立 し苦悩に苛まれていた状況を目にした専門職の呼びかけによっ

    て結成されたものであった1°)。

    この類型のSHGの メンバーの多 くは、医療保健福祉分野におけるサービス利用者であ り、専

    門職はサービス提供者という関係にある。そのため両者は契約関係にあり、援助関係でかつ利

    害関係を有することは否めない。そして、活動の目的としては、利用者のケアや生活改善のた

    めに設定された目標の達成、あるいは精神的苦痛や不安の軽減や孤立化の防止等といった心理

    的サポー トが挙げられる。そのため、グループ内の人間関係の特質としては、情緒的側面に加

    えて機能的側面をも重視 している。さらに、専門職 によるグループ形成のための積極的な介入

    や、その後の時系列的展關キ考慮 した調整 ・支援が必要不可欠であることから、専門職 との関

    係は、 どちらか と言うと密着 した関係にあると言える。

    ところで、専門職の援助は、利用者の生活する力を高めるための援助 であるとするなら、必

    ず しも利用者のサービス ・制度の枠組みに限定されるだけでなく、"仲間の支え"や"支 え合い"

    という援助のあり方が有効に機能する場面 もあろう11)。そうして見ると、後者のための援助の

    ひとつとしての 「SHGへ の取 り組み」は、 ソーシャルワーク実践のひとつ として評価 され位置

    づけられることが必要である。

    3.セ ル フヘ ルプ グル ープ 生成 と専 門職

    (1)専 門職との最適な関係

    専門職がSHGと どう関わっていくかという問題は、GartnerとRiessma皿(1977)に よる専門

    職 との関わ りに対するSHGの 懸念12)や、Katz(1977)に よるソーシャルワークやその他の臨床

    分野の専門職のSHGに 対する懸念13)にみるように、以前から研究者の問で論議されてきた。

    また、その10年 後、Powell(1987)は 、SHGと 専門職の関係を中心課題としてすえて、セル

    フ ・ヘルプの発展は、ソーシャル ・ウェルフェアーの肩代わ りとはならなかったことと、両者の

    システムが二者択一ではなく、むしろお互いが支え合った形で共存 していることを指摘 した'4)。

    ここで、SHGと 専門職 という両者のシステムの共存 を意味する最適な関係 として、①調整、

    ②相互補完、③パー トナーシップ、④当事者理解、 といった4つ の要素を提示する。そして、

    Gartnerら のSHGの 懸念を引 き起こす ものであり、SHGと 専門職の最適な関係を阻む要素として

    は、①過剰な干渉、②吸収、③パターナリズム、④当事者支配、を提示する。

    〔1〕調整 と過剰な干渉

    一222

  • 佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月)

    SHGの めざす活動のあり方や抱える問題によって、SHGと 専門職 との関わ り方は大 きく異な

    る。例 えば、自立生活センターとしての機能を持つSHGと セルフ ・ケア としての機能を持つ

    SHGと では、前者が自立生活運動という障害者の概念への挑戦から出発 したものであるのに対

    し、後者はケアの質の向上や制度の充実を図るための支援者と見なす傾向がある161。また、活

    動や抱 える課題の性格上、パー トナーシップやチームプレーといった専門職 との密接な関わ り

    が不可欠な場合がある'6)。

    このように、SHGの 生成過程の中で固定化 された専門職への認識や位置づけによって、両者

    の関係性が決定づけられる。つまり、専門職の介入が当該グループの専門職に対する捉え方次

    第で、「調整」や 「過剰な干渉」 と見なされる。

    また、類型別にみるSHGの 特性からも、各類型によってSHGと 専門職との最適な距離や関係

    が異なるため、専門職はそれに応 じた働きかけを行うことが求められる。

    〔2〕相互補完 と吸収

    専門職の支援が、SHGの 活動や抱える課題の性格上、知識や情報の提供という役割のために

    は不可欠であった り'7)、あるいはSHGの 支援が、ソーシャルワークの介入の不足や欠如 という

    現状の中で、ケアシステムの一部として機能 した りする'8)場合がある。

    このように、SHGへ の専門職による支援、あるいはSHGに よるソーシャルワーク実践の代替

    としての支援によって、双方の機能がより充実 したものになることがある。 しかし、そうした

    双方の相互補完的な役割は、ややもすると両者の力関係が不均衡になり、一方のシステムの一

    部 として他の一方が吸収されるという関係を作 り出す危険性をも有 している。とりわけ、専門

    職がSHGを ソーシャルワーク実践の機能の一部 として一方的に活用 したり、SHGが 専門職に依

    存 し主体性を失ったりする、 といった状況は危惧されるところである。

    〔3〕パー トナーシップとパ ターナリズム

    精神障害をもつ人たちのSHGに み られるように、サービス利用によって地域生活を始めた人

    たちが、専門職の呼びかけによってSHGを 発足 させたり、グループ発足後の活動開始時点に専

    門職の関わ りがあったりす ることは少なくない'9)。そして、この種のグループへの専門職の役

    割としては、あ くまでもグループと一定の距離をお き、専門職は当事者の要求に応 じて側面的

    に支援することになる。つまり、そのグループの主体は当事者であるという姿勢はあ くまでも

    崩さない2°)。当事者 と専門職との依存関係 においては、両者 とも悪影響を及ぼす。 また、専門

    職が責任を引き受けるという行為 は、専門職 自身が援助行為を辛 くするだけでな く、当事者 自

    身の主体性をも奪うことになる。

    〔4〕当事者理解 と当事者支配

    ある障害をもつ人たちのSHGに 関わった専門職の言及によると、専門職がSHG活 動を体験す

    ることは、当事者のおかれている現状やニーズの把握を可能にし、そのことが専門職の今後の

    実践には重要であることを示唆している21)。

    -223一

  • セルフヘルプグループ生成の要件に関する研究(阪 下 紀子)

    もし、SHGを サービス利用者の現状把握のために、専門職が、利用者に対 して強引な入会の

    働 きかけや運営における過剰な干渉等を行えば、SHGに よって支配者のレッテルを貼 られるこ

    とになろう。SHG体 験を通 して利用者である当事者の声 を聴 く姿勢が、専門職の当事者理解の

    手がか りにつながることを認識すべきである。

    (2)専 門職の役割

    SHGと の関わ りからソーシャルワーク実践における専門職の役割を挙げる。

    〔1〕SHG活 動に参加する力を高め、参加 を動機づけること

    当事者がSHG活 動に参加する力を有しているか否かの判断を行った り、当事者が参加するた

    めの力を高めたりするための専門職による働きかけが必要である。また、社会的 ・心理的に孤

    立した当事者の支援のために有効な方策のひとつ として、活動参加への動機づけは重要な役割

    である。

    〔2〕SHG活 動の機会をつくること

    当事者 とSHGと をつな ぐために、専門職は、SHGに 関する情報提供やSHGメ ンバーとの交流

    の機会、活動に対する家族等関係者の理解 を促す配慮に加え、当事者がSHG活 動の意思決定を

    可能にする働 きかけを行う必要がある。

    〔3〕組織化

    必要な社会資源やサポー トシステムが存在しない場合、新たにグループを形成することが求

    められる。専門職が当事者に呼びかける他、数名の当事者 自身が自主的に働 きかける場合もあ

    ろうが、専門職がグループ結成ために相談や支援を求められる場合 もあろう。

    〔4〕グループの発展のための支援

    「専門職調整型」にみるSHGは 、専門職の調整 ・支援が重要な役割を有 し、SHG形 成時か ら

    密接 に関わることは、既 に述べたとおりである。また、専門職 とは完全独立の立場を取 るSHG

    であって も、彼等の共通課題における情報 ・知識の収集や、研究活動のためには、専門職の支

    援が不可欠となる。

    〔5〕SHGを 援助資源として活用すること

    SHGメ ンバーによる支援が、苦悩に直面した当事者への心理的援助として重要な役割を果た

    すことか ら、SHGを 援助資源 として位置づけられることがある。支援活動を行 うことで、メン

    バーもまた 「ヘルパー ・セラピー22)」の効果を高めたり、自己の存在価値 を高めたりする。さ

    らに、グループの社会的認知をも高める。

    〔6〕セルフヘルプ機関との違携

    専門職 とセルフヘルプ機関との連携は、専門職がヒューマンサービスのための援助機能を拡

    大 し23)、当事者の 「ニーズ」 をいち早 く充足 させるために重要なことである。そ して、当事者

    とセルフヘルプ機関との関わりを可能にするためには、当事者の 「ニーズ」を受け止め、当事

    一224

  • 佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月)

    者に 「グループ活動」の必要性を促す、橋渡 し役 としての専門職の存在が必要になる。また、

    専門職がセルフヘルプ機関を紹介することは、 より迅速にグループの参加や組織化を可能にす

    ると言える。

    以上のことか ら、当事者が福祉サービス利用者である場合については、何 らかのかたちで専

    門職が関与しているというよりも、む しろ専門職によるソーシャルワーク実践が、SHG生 成の

    ためにかなり貢献 している。 もしくはその貢献を期待することができると言える。

    (3)ソ ーシャルワーク実践におけるセルフヘルプグループへの支援活動の限界

    ソーシャルワーク実践においてSHGに 関わることは以下のような限界を有 してお り、その実

    践のあり方によってはSHGと 専門職の両者の関係性 を悪化 させるという危険をも伴なっている。

    〔1〕治療的介入の強化による弊害

    弊害とは、当事者 と専門職との関係、 もしくはSHGと 専門職 との関係に歪みを生 じさせる危

    険性があるということである。SHG活 動の参加 を動機づける等、専門職が、当事者への支援活

    動のひとつである治療的介入を強化することによって、当事者の意思決定を阻害 し、両者の間

    に支配や依存といった不均衡な力関係が作 り出されることが危惧 される。また、SHGの 活動の

    あり方についての理解が不十分であることから、専門職による治療的介入が、SHGと 専門職 と

    の関係性 を悪化させ、当事者に 「専門職によるグループ支配」 という疑念を抱かせることにも

    なりうる。

    〔2〕専門職 とSHGの 立場の違い24)からの両者の認識のズレ

    両者の立場の違いが、ソーシャルワーク実践におけるSHGへ の支援を制限させることになる25)。

    医学的行為に基づ く治療の効果を期待する当事者にとっては、それを目的としない個人的要請

    に基づ くグループを紹介 される行為は、当事者に症状の改善の可能性 を失わせ失望感を与えた

    り、専門職への不信感 を植えつけたりしかねない。

    〔3〕所属機関の機能による業務の制約

    わが国のソーシャルワーカーは、「専門性よりも所属機関の機能や方針によって業務が左右 さ

    れたり制限されるケースが見 られる26)」。そうしたことから、専門職によるSHGと の協働や支援

    への試みを、所属する組織内で受け入れられなかったり評価 されなかった りしたら、実践 とし

    て充分に発揮されることはない。また、ソーシャルワーク実践においては、組織内の他職種 と

    の連携 をも重視 されるため、業務上関わりを持つ人たちに自らの支援のあ り方を認識 させるこ

    とも必要である。

    〔4〕専門職の業務内容の未確立

    専門職のSHGへ の支援活動が、直接的な治療や症状の改善や具体的なサービスの提供ではな

    いこと、 しかも日本においては相談援助に対する認識が対価の対象 として見なされにくいこと

    から、援助する側 もされる側も双方 とも、業務範囲としての認識があいまいである。また、専

    225

  • セルフヘルプグループ生成の要件に関する研究(阪 下 紀子)

    門職が所属機関の一員としてSHGへ の支援活動を行う場合、業務の一環として行うか否かとい

    う判断が不明確で、専門職に負担をしいることになる。

    〔5〕専門職の介入が困難な領域

    例えば、子 どもや女性、高齢者 といった人たちに対する家族か らの虐待は深刻な問題とされ

    ながら、多 くの場合、報復を恐れるあまり当事者によってなかなかその実態が明らかにされな

    い。たとえ専門職が介入できたとしても、その時には既に事態が緊迫 した状況であ り、当事者

    のパワー喪失状態はかなりひどくなっている。当事者にあっては、援助 を求めるという認識の

    希薄さや、仲間との出会いの機会がないことによって、孤独感や喪失感、自暴自棄に陥り精神

    的肉体的に追いつめられた状況にある。そうした人たちにこそ、SHG生 成を可能にする支援が

    必要であるにも拘わらず、ソーシャルワーク実践が充分機能 していないと言わざるを得ない状

    況である。

    〔6〕新たなサービス ・制度の導入による援助関係の変容

    例えば、介護保険制度の導入により、時間数やサービス量 といった数値評価が重視 され、サ

    ービスの利用者 と提供者といった契約関係が強調されるようになった。また、専門職にあって

    は、膨大なノルマにより日々忙殺 され、業務マニュアルに基づ く場当たり的でかつ断片的な援

    助 を余儀なくされてい く。そ して、利潤追求に傾倒する組織 においては、他機関との連携や協

    働は、ますます希薄なものになるであろう。

    このように、新たなサービス ・制度の導入が利用者固有の生活に寄 り添って丁寧に築いてき

    たこれまでの援助関係のあり方を崩壊 させ、希薄で表面的な関係に変容させてい く27)。また、

    そうした変容は、専門職のSHGへ の支援や介入 を消極的なものにするだけでなく、利用者の生

    活する力 を高めるために必要な人 とのつなが りや組織的でかつ社会的な援助の機会をつ くるこ

    とを阻害 していくことになる。

    以上のことから、SHG生 成の要件は、既 に述べた集団形成のあ り方や、各類型別のSHGの 特

    性を充足するということだけではな く、専門職の役割が深く関係していることがわかる。また、

    ソーシャルワーク実践によるSHGへ の支援活動の限界が、SHG生 成を阻む要素であることが認

    識できた[表3は 、これまで述べてきたSHG生 成の要件を簡単にまとめた]。

    4.今 後 の課題

    ここで、SHGと ソーシャルワークの両者の発展を可能にするための今後の課題を提示する。

    まず第1は 、利用者の継続 した生活を意識 した援助のあ り方 を踏まえて、地域のSHGと の協

    働やSHGの 特性を取 り入れた実践が求められる。場当たり的でかつ断片的な援助や、機関や専

    門職によって異なる介入では、利用者の生活は改善されることはない。そして、新たな制度や

    サービスの導入等 に左右 されずに、専門職と利用者 とのつなが りを維持するためには、より利

    一226一

  • 佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月)

    用者に近い当事者たちによるSHGと 関わりを持つ ように積極的に働 きかけることが必要である。

    あるいは生活拠点の変化に拘わらず利用者にとって安心できる暮 らしづ くりのために、専門職

    は地域のサポー ト・センターとしての役割を担 うSHGと 連携することが要請 される28}。

    第2は 、ソーシャルワーク実践におけるSHGへ の支援の位置づけを明確にし、そのあり方が

    方法論として確立されることが求められる。

    例えば、AA活 動は、「12ステップ」の実践原理を基礎におき、「ミーティング」と 「メッセー

    ジ」というふたつの主要な実践を有 し、「酒への依存」からの脱却のために意図的 ・規律的に構

    成された援助 システムが存在していると考えられる。

    SHGは 多様であるが、単に同じような問題を抱えている人の集まりというだけでなく、何ら

    かのかたちで援助システムとして機能していると言えるのではなかろうか。各SHG固 有の実践

    が援助システムとしていかに機能しているかを解明する作業は、今後、専門職がSHGと いう組

    織を理解 し最適な関係をつ くる上で重要であると考える。

    また、SHGへ の支援には、SHGと 専門職 との最適な関係やSHGの 類型による特性を理解する

    ことが前提 になり、そのため専門職としての力量が不可欠であることは、既に述べてきたとお

    りである。そ して、専門職集団による一貫 したSHGと のネットワークがい くつかの機関で取 り

    組 まれている29)ことを踏まえて、SHGへ の支援がソーシャルワーク実践として適切に機能する

    ことが要請 される。

    第3は 、当事者たちの声に絶えず耳を傾け、自らの専門性への努力を厭わない専門職 として

    の姿勢が求められる。SHGの 当事者たちの活動は、個人の要請とその当時の社会状況とが合致

    したか ら生まれたというだけではあるまい。これで良いのかと常に自らの実践を振 り返 り自問

    自答 し、当事者の声に耳を傾けた専門職の存在を、無視することはできない。法制度が改正 さ

    れたりサービスのあ り方が変化 したりしても、当事者の求めと専門職の専門性への努力、そし

    て両者の協働が存在さえすれば、必ず道は開けることを数多 くの事例が教示 している3°)。

    おわ りに

    本研究では、先行研究における事例をもとにして、SHG生 成の要件について検討した。

    まずSHGの 起源を概観し、その特徴 を検討 したところ、SHGと 一口に言ってもその活動のあ

    り方は多様であった。また、SHGは 大別すると① 「話 し合い型」、② 「運動型」、③ 「専門職調

    整型」といった3類 型からな り、各々異なる特性 を有 していることがわかった。そ して、SHG

    と専門職との最適な関係については、Powellの 言及を参考にして、①調整、②相互補完、③パ

    ー トナーシップ、④当事者理解、といった4つ の要素に着 目し、事例から検討 した。そうした

    結果、当事者がサービス利用者である場合については、ソーシャルワーク実践がかなり貢献 し

    ている、もしくはその貢献が期待されることがわかった。また、ソーシャルワーク実践の限界

    一227

  • セルフヘ ルプグループ生成の要件 に関す る研 究(阪 下 紀子)

    を も明 らか に した 。 そ う した点 か ら、SHG生 成 を決 定 づ け る 要 素 とそ れ を 阻 む要 素 を 明確 に し

    た 。 こ う し た検 討 を も と に して 、SHGと ソ ー シ ャル ワ ー ク の 両 者 の発 展 を可 能 にす る た め に 、

    今 後 の 課 題 を提 示 した。 今 回 は文 献 研 究 に止 ま っ た た め、 今 後 は 実 証 的研 究 を深 め 、 よ り現 場

    に 直 結 した ソ ー シ ャ ル ワー ク実 践 に よ るSHGへ の 支援 の あ り方 を 追 究 して い きた い。

    〔注 〕

    (1)と りわけ、近年のオ ンライン ・セ ルフヘ ルプグループの出現 は、従 来か らの地域性 を伴 う地縁や血

    縁 に よる インフォーマ ル ・サポー トで は困難であった、プ ライバ シー保護や 匿名性等 とい った要件

    を も充足する ものと して注 目され る。酒への依存 か らの脱却 、摂 食障害や虐待体験 による トラウマ

    か らの回復 を 目指す グルー プ等があ る。 また、子育て支援 サイ トも当事者 同士の支 え合い によるも

    ので、近年の社会状況 を反映 した もの と言える。

    (2)日 本患者同盟四〇年 史編集委員会 『日本の患者同盟40年 の軌跡』法律文化社,1991,p.7

    (3)石 川到覚他 『セルフヘ ルプ ・グルー プ活動の実際』中央法規,1998,pp.228-244

    (4)DARCの 代表者 による と、「どこの施設 も薬物依 存者 は歓迎 されないばか りか、 回復のチ ャ ンス も

    与 えられ ないとい う理不尽 さを痛 感 した」 ことが、 グルー プ結成 の契機 となった と言 う。[近 藤恒

    夫 「薬物 依存か らの回復 を援助 一DARC(薬 物 嗜癖 リハ ビリセ ンター)」 『こ ころの科学』no.32,

    1989,p.41]ま た、窪田は、「アルコール依存症 者」 を絶望や不安か らの脱 出 と社会か ら押 しつ け

    られた 「無能力な敗残者」 と表現 し、 さらに 「一般社 会か らの非 難、 また阻害 と、治療や援助の専

    門家や専門機関か らの締め 出 しとい う二重の壁が、本人及び家族 の絶望 を深 めてい く」と言及 した。

    [窪田暁子 「アルコール依存症者 の回復 をエ ンパ ワー メン トの視 点か らみる」 『ソーシャル ワー ク研

    究』vo1.21,no.2,1995,pp.85-86]

    (5)例 えば、 身近 な人 の死別 を体験 した者 に とって、「死」 は身近 な人 を亡 くしたこ とに対 する悲 しみ

    のみ を意味 しているのではない。 身近 な人が 「死」を迎えるまでの出来事 や、生前の関わ り方 によ

    っ て、そ の捉 え方 は大 きく異 なる。本 人 に 「死」の宣告 をしなかった ことに対す る後悔 の気 持 ち、

    あ るいは、生 きる可能性 のない人の苦 しむ姿に直面 し、早期 の 「死」 を望んだこ とへ の 自責の念、

    医療者の事務的態度に対す るや り場 の無い怒 り等、苦悩す る遺族 の感情は複雑 であ り、 しか も同 じ

    遺族 の中で もそのあ り様 は異 なる。

    (6)例 えば、 「呆 け老人 をかか える家 族の会」 は、症状 に対す る知識や理解 さえな く、社会 的対 応 も不

    十分であ った頃に結成 され た。

    (7)例 えば、 日比谷図書館 開放運動 は、障害者 も含むすべての人の知的 自由権 を保 障す ることを求 めた

    ものであ り、 同時 にそれは図書館 員 としての専 門性 を問い ただすこ とに もなった と言える。当時、

    当事者 の使用 した 「読書権」 は、現在 で は一般化 された言葉 となっている。[日 本図書館協会障害

    者サ ービス委員会 『図書館員選書12:障害者サー ビス』社 団法人 日本 図書館協会,1996,p.27]

    (8)例 えば、「札幌いちご会」 は、障害者がケ アつ きの 自立生活 を地域で行っている もので あ り、 「べ て

    るの家」 は、病院の精神科 を利用す る当事者の有志たち による回復 者ク ラブのメ ンバ ーが 中心 とな

    り、つ くりあげて きた生活 と事業の拠点で ある。

    -228

  • 佛 教 大 学 大 学 院 紀 要 第31号(2003年3月)

    (9)例 えば 、 「福 岡 人 間 関係 研 究 会 」、 「生 活 の 発 見 会 」、 「うつ病 者 の 自助 グ ル ー プ」 が あ る。

    (10)例 え ば 、「社 会 福 祉 法 人 全 日本 手 をつ な ぐ育 成 会 」 は 、「知 的 障 害 を もつ子 ど も」 の 親 の会 と して 、

    また 「あ か ね 会 」 は病 院患 者(精 神 障 害 者)の 家 族 会 の ひ とつ と して紹 介 さ れ て い る。

    (11)例 えば 、 安 井 も また 「人 間 の ラ イ フ の 限界 をQOLの 各 レベ ル に お い て 熟慮 し、 そ れ で も人 間 に 開か

    れ た 可 能性 を信 じて お くこ とが エ ンパ ワ メ ン トの 基 盤 にお か れ る べ き」 で あ る と し、エ ンパ ワ メ ン

    トを ク ラ イエ ン ト(利 用 者)の 持 ち うる 「強 さ」 の み を 強調 して 、 「自己 実 現 」 と安 易 に結 び つ け

    る こ と を問 題 視 して い る。[安 井 理 夫 「ソー シ ャ ル ワ ー ク に お け る セ ル フヘ ル プ ・グル ー プ ーエ ン

    パ ワ メ ン トとQOLの 視 点 か らの検 討 」 『同朋 大 学 論 叢 』voL84,2001,p .87]

    (12)GartnerとRiessman(1977)は 、専 門 職 との 関 わ りに対 す るSHGの 懸 念 と して①SHGは 、 専 門職 を

    ま ね るの で は ない か 、② 専 門 職 に 「仲 間 入 り」(coopt)さ れ るの で は な い か 、③ 専 門職 に支 配 され

    る ので はな い か 、④SHGの 純 粋 さ、 単 純 さ、 親 密 さ を失 って し ま うの で は ない か 、④ 調 査 研 究 され

    る こ とに よ っ て 、SHGの 援 助 機 能 が 妨 げ られ る の で は な い か 、 とい った こ と を挙 げ て い る。[川 田

    誉 音 「セ ル フ ・ヘ ル プ ・グ ル ー プ につ い て」 『公 衆 衛 生 』vo1.45,no.8,1981,p.638の 引用]

    (13)Katz(1977)に よ る ソー シ ャル ワ ー クや そ の他 の 臨床 分 野 の 専 門職 のSHGに 対 す る 懸念 と して① メ

    ンバ ー の依 存 性 を長 び かせ る の で は ない か 、 ② 専 門 的援 助 を拒 否 す る傾 向 を強 め るの で はな いか 、

    ③SHGは 、 一 方 で は 社 会 的 統 合(integration)を す す め て い るが 、 も う 一 方 で は 分 離 や 孤 立

    (separationandisoiation)を す す め る こ とに な る の で は な い か 、 とい っ た こ とを挙 げ て い る。[川

    田誉 音,前 掲 書,vo1.45,no.8,1981,p.638の 引 用]

    (14)岩 田泰 夫 「セ ル フヘ ル プ グル ー プの 機 能 と現 状 一メ ンバ ー に対 す る機 能 を中 心 と して」 『作 業 療 法

    ジ ャ ー ナル 』vol.34,no.7,2000,p.724

    (15)窪 田暁 子 「SelfHelpGroupに み る類 型 につ い て 一AAタ イ プ とそ の特 質 を手 が か りに」 『東 洋大 学 児

    童 相 談 研 究 』no.12,1993,p.7

    (16)例 え ば 、前 田 は 、 精 神 障 害 を持 つ 人 の家 族 会 に お け る事 例 を挙 げ て い る。[前 田 ケ イ 「セ ル フヘ ル

    プ ・グ ル ー プ」 『精 神 療 法 』vol.10,no.3,1984,p.41]

    (17)例 え ば 、 前 田 が 紹 介 した 、 精 神 障 害 を 持 つ 人 の 家 族 会 は こ れ に あ た る 。[前 田 ケ イ,前 掲 書,

    vo1.10,no.3,1984,p.41]

    (18)例 え ば 、 カ ナ ダ のヘ ルス ・サ イ エ ンス ・セ ン ター に お け る唇 裂 ・口蓋 裂 児 の親 の 会 で は 、 当該 グ ル

    ー プ が 障 害 児 出 産 直 後 の 母 親 に対 して行 わ れ る 援 助 シス テ ムの 中 に組 み 込 ま れ て い る。[中 田智 恵

    海 「セ ル フ ・ヘ ル プ ・グ ル ー プ につ い て の 一 考 察 一障 害 児 出産 直 後 の母 親 に対 す る援 助 方法 」 『人

    問 科学 』voL23,1984,p.55-59の 引用]

    (19)岩 間 は こ こで の専 門職 の役 割 と し て、 ① 困 った と きの 相 談役 、 ② 活 動 場 所 の提 供 や 資 金 的 な援 助 等

    の 物 理 的 援 助 、 と い っ た こ とを挙 げ て い る 。[岩 間 文 雄 「セ ル フヘ ル プ グ ル ー プへ の支 援 一専 門職

    が 担 う こ との で きる役 割 と は何 か 」 『ソー シ ャル ワー ク研 究 』vo1.23,no.4,1998,p.287]

    (20)例 えば 「べ て る の 家」 で は、 メ ンバ ー もス タ ッ フ も同 じ よ うに や り方 や 生 き方 を うや む や に しな い

    で 責 任 を持 つ こ と を要 請 して い る。[大 川 浩 子 他 、 「べ て る の家 と セ ル フヘ ル プ グ ル ー プ」 『作 業 療

    法 ジ ャー ナ ル 』,voL34,no.7,2000,pp.742]

    (21)例 えば 、 大 喜 多 は 、個 々 の利 用 者 の要 求 に応 じた サ ー ビス の実 現 を 目指 す た め に は、専 門 職が 当事

    一229一

  • セルフヘルプグループ生成 の要件 に関す る研究(阪 下 紀子)

    者の実情 を知 ることが必要であ り、当該 グループへ の体験 を、その ための ひとつの手がか りと して

    有益 であ ると した。[大喜多潤、「「青竹会」(上肢切断者友の会)に ついて」『作業療法 ジャー ナル』,

    vol.34,no.7,2000,pp.729-731の 引用]ま た、河野は、精神障 害者 を対象 としたSHGに つ いて、

    「一 人では耐 えきれ ないようなことを会が支えている とい う事実 を感 じることが できた。それ以来、

    会 は私 の研究の現場その もの にな り、 自分た ち自身で生 きている人たちの実情 を教 えられ始 めたの

    で あ る」 としてい る。[河 野仁 志 「す みれ会(札 幌)の 人 たち」 『作 業療法 ジャー ナル』vol.34,

    no.7,2000,p.738の 引用]

    (22)Riessman(1965,1990)が 打 ち出 した概念で ある。 「実感 を伴 う共感 と内的理解が援助者 を効 果的

    に機 能 させ る」 として いる。[三 島一郎 「セル フヘ ルプ ・グルー プの機 能 と役割」 久保紘 章他編

    『セルフヘルプ ・グループの理論 と展開』中央法規,1998,p.42の 引用]

    (23)90年 代 にはRiessmanに よって援助 の消費者が援助 の生 産者 となる プロシューマーモデルが提 唱 さ

    れ、SHGは 伝統 的専 門職 サービス と対照 をなす新た なヒューマ ンサー ビス として捉 え られ、 両者の

    協働 の方法が模 索 されるよ うになった。 匚岩 間文雄、「セ ルフヘルプ ・グループ と専 門職 の協働 のた

    めに」『関西福祉大学研究紀要』,vol。2,2000,p.145]

    (24)例 えば、岩 間に よる と、専 門職は、「社会的要請 を受 けて、科学 的な知識基盤 を持 ち、客観 的立場

    か ら援助す る」の に対 して、SHGは 、「個人的要請 に よって問題 をめ ぐる経験 を もとに組織 され、

    主観的で情緒的な相互援 助 を展 開する」 とされている。[岩 間文雄、前掲書,vol.2,2000,p.142の

    引用]

    (25)岡 もまた、SHGを 社会資源の一つ として一方的 に活用すべ きではない としている。 さらに、 「権利

    として質 を問 うことがで きないサー ビスを もって、ユ ーザ ーの生活保障 をす ることはで きない」 と

    言 う。[岡 知史 「ユーザーの活動」村 田信男他編 『精神 障害 リハ ビリテー シ ョン:21世 紀 にお ける

    課題 と展望』医学書院,2000,p.140の 引用]

    (26)岩 間文雄,前 掲書,vol.2,2000,pp.150-151

    (27)例 えば、植 田もまた、介護保 険制度下の 「買 うサー ビス」 の横行 は、暮 らしの場 において人 と人 と

    がつ なが りあい生 きて きた関係 を根 こそ ぎ奪 お うとしている と言 い、対 人援助 の しづ らさや利用者

    側 の相 談へ の動機が希薄化 してい るこ とを指摘 してい る。[植 田章 「スウェーデ ンに学ぶニ ーズ認

    定 のあ り方」 『ゆたか な くらし』no。246,2002,pp.56-58]

    (28)例 えば、植 田は、 スウェー デンの ある実践か ら学ぶ、地域でのケアシステムの必 要性 につい て言 及

    しているが 、その中で、 当事者や非営利団体が協同 して地域に根 ざ した 「小規模多機能施設」建 設

    や地域づ くりの直面す る課題 と結 びついた福 祉活動の実践 について触 れている。[植 田章,前 掲

    書,no.246,2002,pp.64-65]

    (29)赤 城 高原 ホスピタルをは じめ としたアル コール症の専門病院で は、院外 の 自助 グループ(AAや 断

    酒会 等のSHG)と のネ ッ トワークを行 っている。そ こで は患者 に対するアデ ィクションの治療 とし

    てだけはな く、治療 スタ ッフ もミーティ ングに参加 し回復者か ら学ぶ機会 をつ くっている。

    [hLLp:〃www2.gunmanet.or.jp/Akagi-kohgen-HP/Treatment.activity.htm(2002.7,20現 在)]

    (30)数 々の患者たちの権利回復 運動 をは じめ、痴呆症 の高齢者 をもつ家族やポ リオ患者に よるSHG活 動

    は、制度やサー ビスの不備 や未整備 を指摘 した。 また、 日比谷図書館解放運動 は、身体 障害者福祉

    一230

  • 佛教大 学大学院紀 要 第31号(2003年3月)

    法の制 定によ り、点字 図書館が更生援護 に資するこ とを 目的 とした施 設 と規定 されたことが端緒 と

    なって、公 共図書館か ら締め出 された盲学生たちが行った ものであるが、その運動 は図書館界 に障

    害 をもつ人たちの存在 を知 ら しめ、その後の図書館 におけ る障害者サー ビスの基盤整備 の契機 とな

    った。

    一231一

  • セルフヘルプグループ生成 の要件 に関す る研究(阪 下 紀子)

    表1SHG事 例 の 特 徴

    対 象 者 SHGの 事例 分 類 生成の契機 活動形態 内容 ・課題専 門 職 の 匿名性の

    調整 ・支援 有 無

    心理学に関心 福岡人間関係研 心理 専門職による意 自己変革 相互援助と自己啓 0 X

    のある人 究会 図的なグループ 発

    疾病患者 日本患者同盟 疾病 ・障害 患者運動活動 自己変革 施設の民主化要 X x

    家の影響 社会変革 求,生 活擁護

    疾病患者 ポリオ女性の会 疾病 ・障害 当事者による 自己変革 わか ちあい X x

    自主的結成 社会変革 二次障害

    日本ポリオリハビリ

    テーションの課題

    疾病患者 呆け老人をかか 疾病 ・障害 当事者による 自己変革 集い,相 談活動, X X

    える家族の会 自主的結成 社会変革 調査 ・研究,行 政

    への要望,啓 発

    障害をもつ人 重症心身障害児 疾病 ・障害 障害者運動が 社会変革 生活環境の改善社 X x

    (者)を 守る会 契機 会環境の向上

    障害をもつ人 青竹会 疾病 ・障害 リハ ビリセ ンタ 自己変革 情報収集 0 X

    一の呼びかけ 障害の受容

    障害をもつ人 べて るの家 疾病 ・障害 病院の当事者 自己変革 障害者の自立生活 0 X

    の有志たちに 社会変革

    よる結成

    親 ・家族 全日本手をつなぐ 疾病 ・障害 知的障害児を 自己変革 知的障害者施策を 0 X

    育成会(全 日本精 もつ親たちに 社会変革 すすめる上で貢献

    神薄弱者育成会) よる結成

    親 ・家族 あかね会 疾病 ・障害 主治医の呼び 自己変革 話し合い 0 X

    かけ 障害と障害者の生

    活のあり方を正し

    く理解

    依存を抱える AA 依存 欧米式SHGの 自己変革 「ミー テ ィ ン グ」 X O

    人 導入 と 「メ ッセ ー ジ 」

    依存を抱える BA,DARC 依存 AAの モデル,当 自己変革 AAと 同様 X 0

    人 事者による結成

    その他 死別体験者の分 回復 NPO法 人の活 自己変革 話 し合いに よる分 X X

    (遺族) かち合いの会 動の一環 かち合い (ただ し,プ

    [身近な人を亡 ラ イ バ シ ー

    くした人の会] は厳守)

    その他 AKK(ア ル コー 市民団体 医師の呼びか 自己変革 アルコール問題に対する 0 X

    (市民) ル問題を考える け 教育と広報(市民講座,

    市民の会) セミナー,相 談例会)

    その他 登校拒否児の親 社会生活 専門職による 自己変革 登校拒否の解決,親 た 0 X

    (親 ・家族) の会 結成 ちのセルフケア,親 た

    ちの孤立からの解放

    一232一

  • 佛教大学大学院紀要 第31号(2003年3月)

    表2類 型 別 に み たSHGの 特 性

    類 型 活 動 目 的 グ ル ープの条件 人間関係の特質 専門職との関係性

    ①話 し 合 い 型 問題 との共存,個 人 的 プライバシー保護,活 情緒的側面の重視 直接的影響力を持たな

    課題と向き合う場 動 にお ける安全性保 い

    持,非 組織化活動

    ②運 動 型 生活環境改善,制 度や グループの結束力,グ 機能的側面の重視 完 全独 立

    サ ー ビスの 改 善要求, ループの総意の一致

    啓発活動

    ③専 門 職 調 整 型 ケアや生活改善のため 専門職の直接的間接的 情緒的側面と機能的側 密 着

    に設定された目標の達 支援が不可欠 面の両面を重視 (専門職による形成時

    成,心 理的サ ポー ト からの時系列的展開を

    考慮 した調整 ・支援 の

    必要性)

    表3SHG生 成 の 要 件

    項 目 決 定 付 け る 要 素

    SHG形 成の あ り方 ① 生活環境,社 会的背景,地 域性が 「個人の要請」と合致

    ② 自由と民主主義を価値基盤とする

    ③ 既存のサポー ト ・システムの不備 ・不足

    SHGの 類型別の あ り方 各類型別 にみたSHGの 特性 を充足す ること[表2を 参照]

    SHGと 専 門職 との最適 な関係 ① 調整(⇔ 過剰な干渉)

    ② 相互補完(⇔ 吸収)

    ③ パ ー トナー シップ(⇔ パターナ リズム)

    ④ 当事者理解(⇔ 当事者支配)

    ※カッコ内は両者の最適 な関係 を阻む要素

    専門職の役割 ①SHG活 動 に参加す る力 を高めた り,動 機づ けた りする

    ②SHG活 動の参加の機 会をつ くる

    ③組織化

    ④ グループ発晨の ための調整 ・支援

    ⑤援助資源としての活用

    ⑥ セルフヘ ルプ機関 との連携

    項 目 生 成 を 阻 む 要 素

    ソーシャルワーク実践 にお けるSHGへ の支援 ① 治療的介入の強化による弊害

    活動の限界 ②SHGと 専 門職の 立場 の違いか らの両者の認識の ズレ

    ③ 所属機関の機能による業務の制約

    ④ 専門職の業務内容の未確立

    ⑤ 専門職の介入が困難な領域

    ⑥ 新 たなサービス ・制度の導入による援助 関係の変容

    謝辞

    本研究を進めてい くにあたって、御指導御鞭撻を賜 りました植田章助教授にはこの場を借 り

    まして深 く感謝いたします。

    (さか した の りこ 佛教大学福祉教育開発センター)

    (指導教授:植 田 章助教授)

    2002年10月16日 受理

    233一