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メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析 Numerical simulation of bubble interactions using an adaptive lattice Boltzmann method 荒明 裕貴 1 Yuki Araake 1 東北大学工学部建築・社会環境工学科広域被害把握研究分野 著者:Zhao Yu, Hui Yang, Liang-Shih Fan 出典:Chemical Engineering Science 66, pp.3441-3451, 2011. 気泡間の相互作用は気泡の挙動に多大な影響を及ぼす.その界面で起こる現象は非常に複雑 であり,混相流解析は困難を極める.この問題に対し,界面の表現が容易であるという点で格 子ボルツマン法(以下,LBM)が注目されている.本研究では多緩和時間係数(以下MRTLBM にメッシュ・アダプテーション(以下AMR)を適用し,気泡間相互作用の解析を行った.その 結果,気泡間相互作用は2気泡間の水平・鉛直方向のRe数による挙動の変化及び気泡後流によ る作用の影響であることを確認し,LBMが多数の気泡を含む流体の数値解析への応用が可能で あることを示した. Key Words : 格子ボルツマン法,メッシュアダプテーション 1. はじめに 混相流の界面で起こる現象は複雑である.気泡が発生 し,集合体となった際の挙動は,気泡が単一であるとき とは大きく異なることが知られている.これは気泡間相 互作用が働いているためである 1) 混相流の数値解析は従来,粒子法や有限要素法が用い られているが,本研究では複雑な境界条件を容易に表現 でき,また質量及び運動量の保存性に優れるLBMによ り解析を行う. LBMは一般的に Mo10 !! , Re10 ! において計算 安定性を保つとされているが,LBMにメッシュアダプ テーションを施すことで Mo ~10 !!! , Re ~10 ! の範囲に おいても,安定性を保つことができることが報告されて いる 2) 本研究では解析を行うにあたり,気泡の挙動は液体の 物性値の影響を表すMo数及び,慣性力と粘性力の比Re 数によって分類できると仮定する.初めに単一気泡に関 する解析を行い, LBMにメッシュアダプテーションを 施したモデルによる解析と既に得られている実験結果 3) を比較し,解析の再現性を検証する.また,複数気泡で 数パターンの計算条件を設定して数値計算を行い実験結 果と比較し,メッシュアダプテーションを施したLBM の実用性を検証することを目的とする. 本研究では格子ボルツマン方程式を2章で示し,3章に おいてLBMにメッシュアダプテーションを施した解析 の結果を単一気泡,2気泡,気泡群の3通り示し,4章で 本論文の結論を述べる. 2.格子ボルツマン法の概要 多緩和係数型の格子ボルツマン法は以下の式(1)で表さ れる. f i σ ( x + c i Δt, t + Δt ) f i σ ( x, t ) = Λ ij ( f j σ f j σ ( eq ) ) ( x,t ) + ( I ij 1 2 Λ ij )S j σ ( x,t ) Δt j j (1) ただし,粒子分布は f i σ ,並進速度は c i ,衝突行列は Λ ij とする.S j σ は式(2)で表される. S i σ = (c i u σ ) F σ ρ σ c s 2 f i σ (eq) (2)

メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

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Page 1: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

メッシュアダプテーションを用いた格子

ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析 Numerical simulation of bubble interactions using

an adaptive lattice Boltzmann method

荒明 裕貴1 Yuki Araake

1東北大学工学部建築・社会環境工学科広域被害把握研究分野

著者:Zhao Yu, Hui Yang, Liang-Shih Fan

出典:Chemical Engineering Science 66, pp.3441-3451, 2011.

気泡間の相互作用は気泡の挙動に多大な影響を及ぼす.その界面で起こる現象は非常に複雑

であり,混相流解析は困難を極める.この問題に対し,界面の表現が容易であるという点で格

子ボルツマン法(以下,LBM)が注目されている.本研究では多緩和時間係数(以下MRT)LBMにメッシュ・アダプテーション(以下AMR)を適用し,気泡間相互作用の解析を行った.その結果,気泡間相互作用は2気泡間の水平・鉛直方向のRe数による挙動の変化及び気泡後流による作用の影響であることを確認し,LBMが多数の気泡を含む流体の数値解析への応用が可能であることを示した.

Key Words : 格子ボルツマン法,メッシュアダプテーション

1. はじめに

混相流の界面で起こる現象は複雑である.気泡が発生

し,集合体となった際の挙動は,気泡が単一であるとき

とは大きく異なることが知られている.これは気泡間相

互作用が働いているためである1). 混相流の数値解析は従来,粒子法や有限要素法が用い

られているが,本研究では複雑な境界条件を容易に表現

でき,また質量及び運動量の保存性に優れるLBMにより解析を行う. LBMは一般的に Mo>10!!, Re<10! において計算安定性を保つとされているが,LBMにメッシュアダプテーションを施すことで Mo ~10!!!, Re ~10! の範囲においても,安定性を保つことができることが報告されて

いる2). 本研究では解析を行うにあたり,気泡の挙動は液体の

物性値の影響を表すMo数及び,慣性力と粘性力の比Re数によって分類できると仮定する.初めに単一気泡に関する解析を行い, LBMにメッシュアダプテーションを施したモデルによる解析と既に得られている実験結果3)

を比較し,解析の再現性を検証する.また,複数気泡で

数パターンの計算条件を設定して数値計算を行い実験結

果と比較し,メッシュアダプテーションを施したLBMの実用性を検証することを目的とする. 本研究では格子ボルツマン方程式を2章で示し,3章においてLBMにメッシュアダプテーションを施した解析の結果を単一気泡,2気泡,気泡群の3通り示し,4章で本論文の結論を述べる.

2. 格子ボルツマン法の概要

多緩和係数型の格子ボルツマン法は以下の式(1)で表される.

fiσ (x + ciΔt, t +Δt)− fi

σ (x, t)

     = − Λij ( f jσ − f j

σ (eq) ) (x,t ) + (Iij −12Λij )Sj

σ(x,t )Δt

j∑

j∑

(1)

ただし,粒子分布は fiσ,並進速度はci,衝突行列は

Λijとする.Sjσ は式(2)で表される.

Siσ =

(ci −uσ ) ⋅Fσ

ρσcs2 fi

σ (eq)                                      (2)

Page 2: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

(a) (b)

気泡間相互作用と外力の総和はFσ ,マクスウェル分布に基づく平衡状態の粒子分布は fi

σ (eq)とする.気泡間

相互作用は,気泡間相互作用ポテンシャルを用いて式(3)のように定義される.なお気泡間相互作用ポテンンシャ

ルは,第一成分を粘性流体自体の気泡間相互作用ポテン

シャル,第二成分を隣り合う要素の気泡間相互作用ポテ

ンシャルとして式(4)に示す.

Fint

σ (x)− Gσσσ=1

2

∑ ψσ (x) wiψσ (x+ ci )cii=1

q

∑    (3)

ψ1(ρ1) =1− exp(−ρ1)   ψ 2 (ρ2 ) = ρ2   (4)

このことから気泡間相互作用は隣り合う要素からの響

も考慮しており, に含まれる.さらに式(1)を解くため粒子分布関数の転換行列を用いてモーメント場に置き換

える.

f σ = Tf σ   (5)

の格子形状は3次元19型格子形状を用いる,これらを用いて格子ボルツマン方程式右辺を変形すると以下の

ようになる.

 T (RHS) = − Λαβ ( fβ

σ − fβσ (eq) ) (x,t )

β

                  + (Iαβ −12Λαβ )Sβ

σ(x,t )Δt

β

∑ (6)

の成分は,緩和係数を含み,動粘性係数及び時間刻

み幅により定義される.巨視的密度は以下のように定義

される.

ρ = fiσ

i=0

q−1

∑σ=1

2

∑ (7)

3. 解析方法及び結果

(1)計算条件

50個から60個のメッシュを用いる.計算領域は気泡を中心とし,単気泡の場合は,縦横256mm高さ512mm,二気泡の場合は縦横320mm,高さ640mmとする.なお,気泡群の計算領域については気泡群における解析に示す.

メッシュアダプテーションは気泡を中心に行う. (2)単気泡における解析

単独気泡の上昇の解析と既存結果3)とを比較し,計算

結果の再現性を検討する. 気泡はDMTST02モデル3)を使用し,Mo数は1.6*10!!

表-1 単独気泡解析結果

図-1 気泡形状比較 –(上)解析(下)実験結果

とする.気泡の直径は1.5mm及び2.3mmとする.気泡の直径及びRe数に対応する終端速度及び最大Re数について表-1に示す. 表-1より,単気泡の流体中を上昇する挙動の解析は,気泡の直径,最大Re数で実験結果3)と高い相関性のある

結果が得られた.また,気泡の形状も同様に,その結果

を図-1に示す.なお,図-1の(a)は直径1.5mm,(b)は直径2.3mmの気泡である.気泡形状も実験結果3)とほぼ同様

の結果が得られた.

(3)2気泡間の相互作用

2つの気泡の間に働く相互作用は引張及び反発であるが,それはRe数に依存し,気泡間の距離によって気泡間相互作用の大きさが変化することが報告されている4). そこで本研究では2気泡の気泡間距離及びRe数を複数パターン設定し解析を行い,気泡間相互作用による気泡

の挙動の変化を再現する. また,球状の気泡の解析を行うことで,その後楕円体

の気泡でも同様に解析を行い気泡の形状の違いによる変

化についても検証する. a) 水平方向に並べた場合

水平方向に並んだ2気泡について解析を行う.浮力と表面張力の比を表すEo数を0.34に固定し気泡間距離と気泡半径の比S* は3, 4の2ケースの解析を行う.Re数はS*に応じて複数設定し,その時の鉛直方向変位Z(mm)を横軸に設定する.解析結果を図-2に示す. 図-2より,Re数が49.6以上においては引力が働きそれ以下では斥力が働くことがわかった.これより気泡間相

互作用がRe数に依存することを確認できた.Re=20程度では引力及び斥力が釣り合うという報告がある3)が,本

解析においても同様な結果が得られた.また,Re=16.3

Siσ

f σ

Λ

���" �!� ����� ���" �!� �����

��� ����� ����� ��� ���

��� ����� ����� ��� ���

���� ������� �

Page 3: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

図-2 二気泡水平方向における解析実施結果

図-3 鉛直方向二気泡速度履歴

での2つの結果より気泡間距離が短いほど気泡間相互作 用が強く働くことも表現できた.

b)鉛直方向に並べた場合

気泡を鉛直方向に並べて解析を行う.S*は4, Eo数は0.34, Re数は16.8に設定し結果を図-3に示す.なお,縦軸は単一気泡の終端速度と対象気泡上昇速度の比である. 解析結果より,単一気泡より大きな上昇速度が確認さ

れた.この傾向は既存の実験結果5)と一致する.しかし

終端速度の値が既存結果5)より20%ほど,過大評価となった.これはLBMの熱力学平衡への依存及び疑似圧縮性による体積保存の誤差に起因する.この誤差を小さく

する手法として界面のメッシュをより細分化することを

挙げる. c) 斜め45度方向に並べた場合 気泡を斜め45度方向に並べた場合の解析結果を示す.以下にRe数の違いによるS*の変化を示す.なお,S*=3に

図-4 斜め方向二気泡間距離変化

設定し, Eo=0.34とする. 図-4より,初めは気泡後流の働きによる斥力が大きく

働いていることがわかる.その後,鉛直方向距離が小さ

くなるにつれ,水平方向の働きが徐々に大きくなる.こ

こから,気泡間相互作用の大きさは気泡間距離に依存し

ているといえる. Re=61.4のケースでは水平方向に引力が働くため,気泡間距離が小さくなる結果が得られた.この傾向は前項の水平方向並びの時と一致する.また,Re数が大きくなるほど気泡の上昇速度も大きくなり,この傾向は前項の 鉛直方向並びの傾向と一致する. 以上の結果より,気泡の挙動の変化は水平方向及び鉛

直方向の二気泡間の相互作用によって表現できる. d) 楕円体気泡での解析

本項では楕円体の気泡で解析を行い,球状気泡との違い

を考察する.楕円体気泡では,Re = 178に設定する.S*は3で固定する.斜め45度方向に並べたときの気泡間距 離の変化を図-5二気泡の水平方向変位を図-6に示す.ま

た,解析の気泡の挙動を図-7に示す. 楕円体気泡解析の特徴は,水平方向並び時,鉛直方向

並び時共に,球状気泡に比べて10%程速い上昇速度が確認されたことである.また,斥力・引力ともに球状気泡

と同じような傾向は確認されたが,その働きが強いこと

がわかった.

これらの結果は,気泡の形状に起因し,楕円体では気

泡間相互作用の働きが強められることがわかった.気泡

の上昇速度が大きくなったのは,気泡後流の働きが強め られたためと考えられ,気泡後流は球状気泡時よりも楕

円体気泡の方が強く確認された.このように気泡間相互

作用の強弱は,気泡間距離だけでなく気泡形状にも依存

することが確認された. (4)気泡群における解析

気泡群における解析では14のランダムに配置された気

S*

mm

S*

t

t

Page 4: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

図-5 楕円体二気泡鉛直方向速度変化

図-6 楕円体二気泡水平方向変位

泡群の解析を行う.体積分率は2%とし平均気泡間距離 は気泡半径の6倍とする.格子については縦横160mm, 高さ320mmの領域に22個の格子を用いる.Re数を4.1, 2 0.9 , 37.4の3通り設定した. 解析結果は,時間が進むにつれて気泡が領域内の中心

に向かう傾向がLou. Jら(2010)の研究結果6)と一致した.

また,楕円体気泡による解析を行うと,より強い気泡間

相互作用が働きその相対位置に大きな影響を及ぼしてい

ることが確認された.このことから,気泡群での解析で

は,気泡間の相互作用を正しく解析し再現することが重

要であることが示された.

4. 結論

本研究ではMRTLBMにメッシュアダプテーションを施したモデルによる解析の気泡形状及び挙動の解析の正確 性を確認し,この手法の実用性を示した.水平方向並び の二気泡では,既住研究と一致する結果が得られた.し

図-7 楕円体斜め方向二気泡挙動

かし,鉛直方向並びでの二気泡の解析では,同じRe数に おける気泡の上昇速度が既存結果より20%ほど大きく 出力された.これは体積保存の誤差と考えられ,界面の メッシュをさらに細分化することで誤差を小さくするこ

とができる.しかしメッシュを細かくするほど計算量が

増えてしまうことに注意する必要がある.気泡群におけ

る解析では,気泡の相対位置には気泡間相互作用が大き

く関わることがわかった.そのため気泡間相互作用を正しく解析することで,気泡群の挙動を表現することがで

きることがわかった. 今後の課題として,気泡間相互作用及び気泡の挙動を

正しく表現し,気泡群の解析をさらに精密に行うこと,

メッシュアダプテーションを施す前後の解析結果を比較

し,その効果を確認することが挙げられる. 参考文献

1) 栗原 央流:相互作用を考慮した非休憩気泡群の非線形振動解析,数理解析研究所講究録,No.1800/pp.161-170,2012

2) Jakobsen, H.A., Lindborg, H. and Dorao, C.A.: Modeling of bubble column reactors, Ind.Eng.Chem.Res. No.44/pp.5107-5151, 2005.

3) Roberto, Z. and Jacques, M.: Path instability of rising spheroidal air bubbles, A shape-controlled process, A.I.P. No.20, 2008.

4) Legendre, D., Magnaudet, J. and Mougin, G.: Hydrodynamic interactions between two spherical bubbles rising side by side in a viscous liquid, J. Fluid. Mech. No.497/pp.133-166, 2003.

5) Huang, H., Zheng, H., Lu, X. and Shu, C.: An evaluation of a 3D free-energy-based lattice Boltzmann model for multiphase flows with large density ratio, Int. J. Numer. Meth. Fl. No.63/pp.1193-1207, 2010.

6) Cheng, M., Hua, J. and Lou, J.: Simulation of bubble-bubble interaction using a lattice Boltzmann method, Comput Fluids No.39/pp.260-270, 2010.

水平方向変位

(m

m)

t

t

mm / s

Page 5: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

迅速な被災地図作製のためのデータ分析

―高解像度SAR画像を使用した

ドイツの洪水と日本の津波の研究事例― Data Analytics for Rapid Mapping: Case Study of a Flooding Event in Germany and the

Tsunami in Japan Using Very High Resolution SAR Images

織田征和1 Masakazu Oda

1東北大学工学部建築・社会環境工学科広域被害把握研究室

著者:Corneliu Octavian Dumitru, Shiyong Cui, Daniel Faur, Mihai Datcu

出典:IEEE journal of selected topics in applied Earth observations and remote sensing, Vol.8, No.1, pp.114-129, January 2015

この研究では,2013年にドイツのエルベ川で起こった洪水と2011年に日本で発生した津波による被害の把握を,迅速な被災地図作製による量的な視点からとらえることを主としている.

災害発生前後のTerraSAR-X画像を半自動の画像処理手法に適用し,被災状況を把握する.画像データを細かいパッチに分け,それぞれのパッチにガボールフィルタを適用して特徴量を抽出

する.本手法は,単純な分類をするのではなく,適切で視覚的なデータ分析を生み出すことが

できる.本研究の独創性は,半自動でデータ解析をし,詳細な分類を行い,被害を把握する点

にある.また大規模で異なる災害状況においても適応できる点にある.

Key Words :被災地図,TerraSAR-X,ガボールフィルタ

1. 序論

近年,災害や緊急事態に対応するために地球観測衛星

の使用が増加している.災害時,被災地図は災害やその

規模を明らかにするために重要である.また迅速に被災

地図を作製する技術が求められている.

災害が発生したとき,質的・量的な分析で被害エリア

を明らかにする必要がある.そのため我々は,災害前後

のTerraSAR-X画像を半自動で画像処理を行い,データ分析する手法を提案する.本手法では,視覚的にも分か

りやすい結果を得ることができる.そのため,専門家と

一般人両方が利用でき,データと異なる定量的な調査結

果を比較するのが容易になった.本論文では,2013年6月にドイツのエルベ川で起こった洪水と2011年3月に日本で発生した津波,2つの災害を考える.日本での事例に関しては,大きく分けて2つの目的がある.1つ目は,災害前後の比較による津波後の被害評価を行う.2つ目は,7枚の災害後画像を使用して70日の期間,浸水した農地や瓦礫などの経過観察を行う.

本研究では,大きく複雑なデータを処理するために半

自動の一連の画像処理を用いる.また,情報を大量に抽

出できることに加えて,本手法は多数のカテゴリー検出

とそれらの分析を可能にする.

この論文の構成は,2章で画像データ処理・分類・データ分析を行い,3章でドイツの洪水の研究事例,4章で日本の津波の研究事例,5章でまとめを行う.

2.一連の画像データ処理

(1)データセット

災害前後のTerraSAR-Xの画像を選択し,ダウンロードする.

(2)パッチ

TerraSAR-Xの画像を,パッチ(区画)に分ける.パッチサイズは,解像度とピクセル間隔で決定される.

本研究ではドイツの事例では100×100ピクセル,日本の事例では160×160ピクセルを使用する.

(3)サムネイル

それぞれのパッチのサムネイルと全体画像のサムネ

Page 6: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

図-1 HMCインターフェース

イルを作成する.ここで作成したサムネイルは図-1上で

使用される.

(4)ガボールフィルタ 各パッチから特徴量を抽出する.本研究では,ガ

ボールフィルタと呼ばれる線形のフィルタを様々なス

ケールと向きで分析する.このガボールフィルタは適合

率と再現率において高精度を示す。2次元ガボール関数を拡大,回転すると様々なガボールフィルタができる.

ガボールフィルタのためのスケールと向きの数に関して

は,既往研究1)から,4つのスケールと6つの向きを用いることで最適な結果が得られることが分かっている.

(5)サポートベクターマシン

サポートベクターマシンと呼ばれる認識性能の優れ

た分類器を使って、パッチを分類する.この分類器は,

非常に限られた数の教師データでも高精度の能力を発揮

する. 教師データの選択について.マンマシン通信(HMC)インターフェースは図-1で示すように3枚のパネルで構成される.HMCは簡単に言うと,ユーザーと機械とがやり取りを行うことである.まず左上のパネルでは抽出さ

れたすべてのパッチが表示される.左下のパネルでは現

在の決定境界付近のパッチが表示される.ここでの決定

境界とはあるカテゴリーの領域間の境界を指す.右のパ

ネルにおいて,ユーザーは,抽出されたパッチと全教師

データの分布を確認できる.また,左上のパネル内の

パッチと右パネルは繋がっているので,周辺環境を

チェックすることによって選択した教師データも確認で

きる.教師データは3枚のパネルのいずれから選択され,パッチをある1つのカテゴリーへと割り当てる.この作業は全てのパッチがグループ化されるまで行われる. (6)グランドトルースデータ

Google Earthなどの視覚的サポートのあるグランドトルースデータを使って,適切な分類を行う.そのとき,

階層的に分類2)3)が行われる.分類の付かないパッチは

「未分類」として集められる.

表-1 検出されたカテゴリーを階層的に分類した結果

カテゴリー 小カテゴリー

1)農業 a)農地

2)産業エリア a)産業ビル

3)自然植生 a)森林

4)軍施設 a)演習場

5)居住区 a)低密度居住区

6)水域 a)河川 b)洪水エリア

(7)データ分析

被害エリアを特定するために,災害前後の画像(時

に数ヶ月,数年規模)を使い全体エリアのデータ分析を

行う.結果は,まず初めに抽出されたカテゴリー別に被

害エリアが全体に占める割合を定める.次にその地表の

面積を㎢,haで表す.定義したカテゴリーが災害前後で同じであるかどうか,またそれぞれのカテゴリーのパッ

チの数が災害前後で合致するかどうか,を調査する.こ

のようにして,被害エリアの査定を行う.結果は,災害

発生前に分類され,被害を受けたそれぞれのカテゴリー

と災害の後現れる新しいカテゴリー(洪水エリア,瓦礫

など)が全体に占める割合を表す. これまでの一連の処理は半自動化で行われる.その中

で作業が自動では行われない部分が3つある.1つ目は,カテゴリー分けにおいて,HMCによるパッチのランク付けの中にユーザーの操作が含まれていること.2つ目は,意味づけ作業において,さらに詳細な意味づけが必

要とされること.3つ目は,データ分析において,被害エリアを定量評価するために外部のツールを使う必要が

あることが挙げられる.

4.研究事例:ドイツの洪水

1つ目の事例は,ドイツで5月の下旬から6月上旬にかけての大雨による洪水である.ドイツ西部に位置するマ

グデブルグではエルベ川の水位が7.48mを記録し,およそ23000人が避難を強いられた. (1)データの諸元

2008年6月26日に撮影されたTerraSAR-X画像を災害前画像,同様に2013年6月15日のTerraSAR-X画像を災害後画像とした.データは北行軌道からHH偏波で観測された. 解像度は,レンジ方向,アジマス方向共に5.90m,入射角は35°である. (2)結果

災害前後の画像からカテゴリーの数を特定し,階層的

に分類2)3)を行った.この分類を表-1に示す.

Thus, the number of scales and orientations are twoimportant parameters that have to be well selected whenextracting Gabor feature. A set of filter responses isgenerated when applying a Gabor filter bank. The statisticsof the sub-bands, i.e., mean and variance, are calculatedand used as feature vectors. In this case, it is assumed thatthe filter response follows a Gaussian distribution.

Regarding the number of scales and orientations forGabor filters, the same study [7] showed that for differentconfigurations, the best results are obtained using fourscales and six orientations.

5) Apply a classifier in order to group the extracted featuresinto categories. For this task, a Support Vector Machine(SVM) tool with relevance feedback (RF) was built. Theperformances of this classifier, reported in the literature,are very good and the kernel has the capacity to performhighly accurate classification using a very limited numberof examples.

Given N training samples, with , ,

the objective of SVM is to find a hyperplanewith a normal vector w and bias b that can separate

two classes with a maximum margin. A two-class linearSVM can then be formulated as a quadratic optimizationproblem in (2), which is the dual form of soft margin SVM.

The corresponding decision function of a test featurevector is

The kernel function that we applied is chi-square kernel

The Human–Machine Communication (HMC) interface isshown in Fig. 2 and comprises three panels [6]. The upper-left panel shows the retrieved positive patches, whereas thelower-left panel shows the patches that are close to thecurrent decision boundary in the feature space. Throughthe upper-left panel, users can visually check the consis-tence of the current class. In active learning, the patchesclose to the current boundary in the feature space determinethe current classifier. In order to verify the evolution of thedecision boundary, all the patches that play a role indetermining the classifier are shown in the lower-left panel.The large right panel shows the image that is being workedon. Multiple images can be visualized in this panel.Through this panel, users can see the distribution of theretrieved patches and all the training samples. The userscan also verify the selected training samples by checkingthe surrounding context, as there is a link between patchesin the upper-left panel and the right panel. Training sam-ples can be selected from any of the three panels, andpatches are assigned to a single category based on thedominant content in the patch. The training and generatingof categories stops after all patches have been grouped.

Fig. 2. SVM-RF tool interface used to retrieve the categories that exist in an image (this is a pre-event tsunami image). The top left panel shows the relevant retrievepatches (e.g., agriculture) while bottom left panel shows the irrelevant retrieve patches (e.g., ocean). The right large panel shows the image that is being processed,benefiting from the zoom function. Through this panel, users can see the distribution of the retrieved patches and all the training samples. The users can also verify theselected training samples by checking the surround context as there is a link between patches in the up left panel and the right panel. Training samples can be selectedfrom anyone of the three panels.

116 IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN APPLIED EARTH OBSERVATIONS AND REMOTE SENSING, VOL. 8, NO. 1, JANUARY 2015

Page 7: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

図-2 災害前後における各カテゴリーが

全体に占める割合

図-3 左図が災害前,右図が災害後の画像で

緑色の箇所はエルベ川(左図),洪水エリア(右図)を表す.

ドイツの事例では,結果6個のカテゴリーに分けられた.またこの定量分析の結果を図-2に示す.災害前後の画像

を比較分析した結果,被害の大きかったカテゴリーは農

地・森林・河川・低密度居住区であった.また災害前後

の比較から,「洪水エリア」と呼ばれる災害後新しいカ

テゴリーが現れた. 調査で分かったことはエリアの約3分の1が浸水し,森林や川,そしてエルベ川沿いの地域が水で覆われた.

データ分析によって179.1㎢のエリアが洪水の被害を受けたことが判明した.図-3は今回の洪水による被害を地

図で表した.緑色が示すエリアは,左図においては災害

前のエルベ川の様子,右図においては災害後の洪水エリ

アを表している.

5.研究事例:日本の津波

続いての事例は,2011年3月11日に東日本で発生した地震による津波について.この震災による死者行方不明者

合わせて2万人以上に上った.津波は海岸に何回も押し寄せ,いくつかの都市,製鉄所で火災が発生し,原発の

表-2 検出されたカテゴリーを階層的に分類した結果

カテゴリー 小カテゴリー

1)農業 a)農地

2)裸地 a)山

3)産業エリア a)産業ビル

4)居住地 a)中密度居住区

5)輸送機間 a)空港-滑走路 b)橋

6)水域 a)水産養殖 b)水路 c)瓦礫

d)浸水エリア e)海洋 f)海岸

図-4 災害前に撮影されたTerraSAR-X

画像から抽出された各カテゴリーが全体に占める割合

事故,そして輸送機関の一部と空港が破壊された.

(1)データの諸元

被災地を撮影したTerraSAR-X画像が全部で17枚ある.この中で8枚は北行方向,残りの9枚は南行方向から観測された.そして,今回は被害エリアが大部分を占める南

行方向の画像9枚を用いる.内訳は災害前が2枚,災害後が7枚である.撮影日は,災害前が2008年9月21日と2010年10月20日の2枚,災害後が2011年3月12日から2011年6月19日までの3ヶ月間の7枚である.データは南行軌道からHH偏波で観測され,ピクセル間隔は2.5m,画像サイズは9885×15025ピクセルである.解像度はレンジ方向が5.77m,アジマス方向は5.75m,入射角は35°である.

(2)結果

ドイツでの事例と同じく階層的に分類2)3)を行う.日

本の事例では表-2のように12個のカテゴリーに分けられた.図-4,5は,災害前後において,それぞれのカテゴ

リーがエリアに対して占める割合を表し,比較したもの

である.海洋が画像データの半分以上を占め,山・中密

度居住区・農地はそれぞれ10%を表している.残りの10%は,空港・水産養殖・橋・水路・海岸・未分類を表している.災害後のグラフの,「瓦礫」と「浸水エリア」

0.5$ 2.02$ 4.14$ 5.17$

29.84$

58.33$

0$0.44$ 2.02$ 3.08$ 0.83$

26.75$

36.67$30.21$

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���:2008/06/26$�� :2013/06/15$

9.46%&

0.25%& 2.38%&

0.23%&

1.90%&1.92%&

10.82%&

62.00%&

1.11%&9.45%&

0.00%&0.00%& 0.48%&

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torrential rainfall. Flooding and damages primarily affectedSouth and East German states (Thuringia, Saxony, Bavaria, andBaden-Wuerttemberg) and further, western regions of the CzechRepublic andAustria. Floods have been recorded on the Elbe andDanube rivers and on their tributaries, leading to high water andflooding along their banks.

In Magdeburg, which is one of the oldest cities in easternGermany, about 23 000 people were evacuated because the Elbewater level reached a record of 7.48 m [15].

A. State-of-the-Art

In the research literature, there are few studies treating thefloods produced by Elbe along the years and only one, recentlypresented at TerraSAR-X Science Team Meeting at DLR [16],considers the mapping of water extension on Elbe in 2011.

More than 15 years ago, the scientists investigated the poten-tial of experimental airborne synthetic aperture radar (SAR) tomap the distribution of wetlands, agriculture fields, periodicallyinundated woodlands, and settlements to monitor long-termdevelopments and for determination of hydrological parameterschoosing as a test area the river Elbe and its floodplain [17].

During the Elbe flood event of mid-August 2002 in Germany,ENVISAT acquired ASAR data using several imaging modes.For data analyses, ERS SAR archives and optical data fromSPOT and Landsat systems were made available. The compari-son with ERS data enables the evaluation of polarization con-figurations contributions on flood surface detection. The authorsof [18] highlight the increased capabilities of ASAR for floodextent delineation.

In [16] the use of TerraSAR-X products is proposed formapping the flood water extension on Elbe in 2010 and 2011within the area around Walmsburger oxbow. A digital elevationmodel (DEM) of the area is exploited in order to mitigate theflood hazards in the future.

To achieve relevantflood crisis data requires the use of specificsatellite sensor types—TerraSAR-X and dedicated algorithms—flood mask extraction, to meet the user expectation. In 2013, theGerman Joint Information and Situation Centre (GMLZ) taskedthe Center for Satellite Based Crisis Information (ZKI) with thecreation of satellite and aerial image-based situation informationcovering the regions that are most affected by the floods inThuringia, Saxony, Bavaria and Baden-Wuerttemberg. As speci-fied in [1], ZKI delivered the first map products revealing thedisaster areas toGMLZ in the earlymorning of June4.Thesemapsshow the water extent covering urban areas, agricultural lands orforestry. TerraSAR-Xproductswere used toderive thewatermaskand Rapid Eye, Radarsat 2, or Pleiades images as a reference.

B. Description of the Data

The dataset consists of two images: one TerraSAR-X imageacquired before the flooding on June 26, 2008 as predisasterimage and one TerraSAR-X image acquired after the flooding onJune 15, 2013 as postdisaster image.

The TerraSAR-X products [19] are Multilook Ground RangeDetected (MGD) products with StripMap mode, radiometricallyenhanced (RE) with single polarization (HH). The pixel spacingis equal to 2.75 m with the image size of pixels

(both images are coregistered and tiled to the same size). Theground range resolution is 5.90mand azimuth range resolution is5.90 m. The incidence angle is and the pass direction isascending.

C. Results

Before starting the quantitative analysis of the data, weclassified and annotated the predisaster image on June 26,2008—left side of Fig. 3—and the postdisaster image on June15, 2013—right side of Fig. 3—using the methodology pre-sented in Section II. On the basis of this methodology, it ispossible to identify a number of categories that appear in thesetwo images and to give a semantic label to each category. Ataxonomy scheme with three levels is defined in our previouswork [10], [11] and the selected ones for pre- and postdisasterimage are shown as follows:

1) Agriculturea) Ploughed agricultural land

2) Industrial production areasa) Industrial facilities

i) Industrial buildings3) Natural vegetation

a) Mixed forest4) Military facilities

a) Test and shooting ranges5) Settlements

a) Inhabited build-up areasi) Low density residential area

Fig. 3. Two images depict the area used for evaluation. On the left side is the pre-event image acquired on June 26, 2008 and on the right side is the postevent imageacquired on June 15, 2013. The river Elbe is shown on left side, while the floodedarea is shown on the right side. The result of classification for both pre- andpostevent images is labeled in green.

118 IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN APPLIED EARTH OBSERVATIONS AND REMOTE SENSING, VOL. 8, NO. 1, JANUARY 2015

Page 8: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

図-5 災害直後に撮影されたTerraSAR-X

画像から抽出された各カテゴリーが全体に占める割合

図-6 災害の3ヶ月後に撮影されたTerraSAR-X

画像から抽出された各カテゴリーが全体に占める割合

農地と空港が「浸水エリア」に,水産養殖が「瓦礫」へ

と変化した. 図-6では津波の3ヶ月後の分類結果を表している.図-4,5と比較したとき,ある程度復興は進んでいるが,浸

水エリアの一部(特に農地)がいまだ残されている状況

である.水産養殖に関しては大部分が破壊されたため,

以前の機能を取り戻すことは難しい.図-7は,災害前後

の画像を表す.青色の箇所は被害エリアを表しているが,

災害前画像にはそれが重ねられて表示されている. 日本での事例をまとめる.災害後3ヶ月間のTerraSAR-X画像を使い,災害前の画像と比較することで,分かったことは以下の2点である. 1) 津波で「水産養殖」が全体的に破壊され,漁港と

合わせて大量の「瓦礫」が発生した.その蓄積さ

れた瓦礫は3.8%のエリアを占めた.津波の3ヶ月後,その瓦礫は0.7%以下まで減少した.

2) 空港と農地のエリアの半分が浸水した.そして新

しく“浸水エリア”(7.0%)と呼ばれるものが出現

図-7 左図は災害前,右図は災害後の画像を表す. 青色の箇所は被害エリアを表し,

左図ではそれを上から重ねて表示している.

した.津波の3ヶ月後,3.7%まで減少した.またその期間で,空港は復旧したが,農地はまだ7割程度しか戻っていない.最後に調査で分かった津波による被害エリア

は,58.9㎢であった.

6.結論

今回提唱した一連の手法は,被災地図作製だけでなく,

データに価値を付加した量的な分析結果を提供した.そ

して画像データを細かいパッチに分けることで,日本の

事例に関しては10個以上の分類を行うことができた. 今後の計画は大きく分けて2つある.1つ目は,今回の2つの調査エリアをTerraSAR-Xの新しい画像を用いて経過を追うことである.2つ目は地震,竜巻,ハリケーン,火山噴火などの異なる状況・災害の下で,本研究で使用

したデータ分析を適用させることである. 参考文献

1) Dumitru, C.O. and Datcu, M.: Information content of very high resolution SAR images: Study of feature extraction and imaging parameters, IEEE T. Geosci. Remote., vol.51, no.8, pp. 4591–4610, Aug. 2013.

2) Dumitru, C.O. and Datcu, M.: How many categories are in very high resolution SAR image?, In Proc. IGARSS., pp.4257-4260, Jul.21-26, 2013.

3) Dumitru, C.O. and Datcu, M.: Diversity of settlement categories in very high resolution SAR images, In Proc. JURSE., pp.87–90, Apr.21–23, 2013.

5.31%& 0.12%&0.05%&0.18%& 1.76%&

1.92%&

10.82%&

58.02%&

1.06%&9.45%&

3.81%&

6.71%& 0.79%&

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Considering the results of the classification, for a number ofpatches, two different semantic annotations are identified.Comparing pre- and postdisaster images, 900 patches wereidentified with dissimilar semantics (e.g., in predisaster image,the patch is semantically annotated as aquaculture and in post-disaster image, the patch is annotated as debris).

Figs. 15 and 16 compare the percentage of each category withthe total number of patches. Ocean represents more than half ofthe image (60%), “mountain,” “medium density residentialarea,” and “ploughed agricultural land” (in the predisaster image)each represents 10%. The last 10% are represented by “airport,”“aquaculture,” “bridge,” “channel,” “shore,” and “unclassified.”

In the predisaster image (see Fig. 15), the “debris” and“flooded areas” do not exist but we introduced them with 0%for a simple comparisonwith the categories defined in the case ofthe postdisaster image (in order to have in Fig. 16 the same colorcode of the retrieved categories).

By comparing predisaster and postdisaster images, we noticed1) 236 patches from “ploughed agriculture land” and indi-

vidual houses disappeared in the postdisaster image andwere embedded in the new category called “flooded area;”

2) 7 patches from “airport” were changed to “flooded area;”3) 132 patches from “aquaculture” disappeared and can be

retrieved in the new category called “debris.”Analyzing only this pair of images (two out of the nine images

from our dataset), we say that the most affected categories andimplicitly the area that represent these categories are: “ploughedagriculture land,” “aquaculture,” and “airport.”

The semiautomated classification of the damaged area causedby the tsunami is presented on the left side of Fig. 17. The green

Fig. 14. Two out of nine images depict a part of the area affected by the March2011 tsunami and classified using our proposed processing chain. On the left side,a part of a predisaster image is shownwhile in the right side the corresponding areain the postdisaster image acquired on March 12, 2011. On the right side, thedamaged area is shown in blue color, while in the left side this area is overlappedon the predisaster image. The negative examples selected during the classificationare marked in red.

TABLE IIACQUISITION TIME FOR THE DATA ACQUIRED AS PRE- AND POSTDISASTERS

Fig. 15. Semantic categories retrieved fromTerraSAR-Xproduct image acquiredbefore tsunami on October 20, 2010.

Fig. 16. Semantic categories retrieved fromTerraSAR-Xproduct image acquiredone day after the tsunami on March 12, 2011.

DUMITRU et al.: DATA ANALYTICS FOR RAPID MAPPING: CASE STUDY OF A FLOODING EVENT 123

Page 9: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

リアルタイムでの津波波形と地震波及びGPS

データの併用インバージョンによる津波予測

:2011年東北津波への適用 Tsunami Forecast by Joint Inversion of Real-Time Tsunami Waveforms and Seismic or

GPS Data: Application to the Tohoku 2011 Tsunami

菊地 昭裕1 Akihiro Kikuchi

1東北大学工学部建築・社会環境工学科広域被害把握研究室

著者:Yong Wei, Andrew V. Newman, Gavin P. Hayes, Vasily V. Titov, Liujuan Tang

出典:Pure Appl. Geophys. 171(2014),3281-3305 津波波源の特定は現在の津波予測の最も重要な要素である.津波の発生を直接計測することは困

難だが,深海津波計や地震計,GPS等の機器を用いて即時的にモデル化することが可能である.本研究では2011年3月11日に日本で起きた大津波に対する様々な発生モデルの強みと限界について,日本近海での発生・伝播・浸水のデータの比較検討を通して評価した.本研究は深海津波計の機

能と迅速な津波波源推定の有効性を示し,様々な津波の計測手法が観測データにどの程度整合す

るかということを確認することで,津波予測において最も正確で迅速な手法を模索することを目

的とするものである.

Key Words : 深海津波計,GPS,津波インバージョン,津波予測,モデリング

1.序論

津波を引き起こす主な原因は,地震断層による急速な

海底の変形である.早い段階における津波波源の特徴の

調査は,正確で実用的な浸水及び陸上遡上の予測におい

て重要である.現在最も使用されている地震断層及び津

波のリアルタイム計測器は,深海津波計やGPS計測器,地震計等であるが,これらの計器によるデータはリアル

タイムでの断層による津波の波源推定モデルに直接入力

される.

深海津波計による津波計測は,津波による圧力変化を

直接測定するもので,近年の直接的な津波計測で最も一

般的である.潮位計による水位測定とは異なり,深海津

波計は港や海岸での反射の影響を受けないことや,圧力

変化による即時的な計測が長所だが,短波長の波に対す

る感度が低いことが欠点である.

GPSは震源域の断層活動を正確に計測し,それにより断層の詳細な発生機構を把握できる.しかし,2011年の東北地震では,陸地と沿岸地域を除いてリアルタイム計

測には有効でなかった.GPS信号は水を通過できないので,GPS計測器はほとんどが陸上での使用に限られ,沖

合や海溝付近での地震断層の特徴付けには適さないから

である.GPSをリアルタイム計測に活用するための一つの解決策は深海津波計等の計器と併用してインバージョ

ンを行うことである.

地震計を使った地震波インバージョンは,空間的・時

間的な断層の様子を短時間で特定することが可能である.

この計測法では広大な断層の分布モデルを特定できるが,

地形の初期条件により制約を受けることが想定される.

最も大きな懸念は断層から海面までのエネルギー転換の

プロセスであり,今なお解決困難な問題として残る.

本研究では,2011年の日本における東北津波のモデルをこれら3つのリアルタイムインバージョン手法を用い

て導出し,結果を比較しつつ評価することで,それぞれ

の計測法の強みと限界性を明らかにした.

2.手法と津波モデル

この研究では津波モデルとして2011年に日本で起きた東北津波のモデルを用いた.この津波解析モデルは

Method of Splitting Tsunami(MOST)と呼ばれる解析手法に基づいており,津波の発生から伝播,浸水までの挙動の

Page 10: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

図-1 (a)深海津波計によるインバージョン(b)深海津波計とGPS

によるインバージョン

表-1 断層パラメータ

予測が可能である.MOSTは,非線形浅水理論式と境界条件から陸地での浸水を計算する.陸上遡上計算や砕波

の再現性,計算効率などの観点から,MOSTはリアルタイム数値計算に最も適している. Macinnesら(2013)は9つの地震における津波発生機構

を調べるため,深海津波計,GPSデータ,地震データを単独で,または組み合わせて用いた津波解析モデルを使

用した.低空間分解能の地形データでは,高分解能のも

のに比べてかなりの誤差があることを確認した.水深・

地形測定における高分解能の空間格子は様々な発生モデ

ルを区別するのに必要であり,最も適する分解能は

2arcs(~60m)であることが分かっている.海洋深さと地形の測定にはETOPO1やJ-EGG500,GSI,LiDAR等が用いられた. 以上のことをふまえ,以下の項目を検討していく. (1)津波波源推定の3つの手法の特徴. (2)各手法の強み及び限界性. (3)各手法の沿岸域における津波警報への適用可能性.

3.2011年3月の日本における津波の発生モデル

(1)深海津波計による津波解析

図-1(a)中のグラフは,2011年に日本で起きた東北津波で深海津波D21418とD21401が地震後30分間に観測した波の高さである.D21418は最高で1.8mの波を観測し,これは深海津波計による観測史上最高の高さである.図

中の紫の線はプレートの境目であり,黒い箱は海溝に沿

う地形を100km×50kmの小領域に分解したものである.色がついている6つの領域がこのインバージョンで用い

られたものであり,上述した2つの津波計のデータから

この6つの領域についての断層パラメータを求めた(表-1).赤い部分はずれが特に大きかった部分である.注目すべきは,この手法ではたった2つの深海津波計のデー

タから波源が特定できる点である. (2)深海津波計とGPSを併用した津波解析

本研究では,地震による断層の広がりや津波の発生を

評価するにあたり,本手法ではGPSデータとMOSTインバージョンによる海底変位データを組み合わせるという

独自の手法を取り入れた.海底の上昇予測と陸上GPSデータを均等に分配するため,断層付近の海底を77個の

小領域に分け,それぞれの小領域の鉛直変位推定に陸上

GPSによって重みを与えた.本手法では断層周辺の366個の陸上GPSステーションのデータを使用した.誤差は水平方向に10cm以内,鉛直方向に20cm以内となるよう配分した.図-1(b)がその結果である.最終的な解は

GPSデータと海底変位の両方との整合性が確認できた(二乗平均平方根は水平成分で2.8cm,鉛直成分で3.9cm).同様に,水平断層成分は海底の水平変位とほぼ一致した

ことが後のSato(2011)らによる研究によって確認された. GPS/深海津波計による解の一つの大きな特徴は,津波インバージョンのために予め定義された断層モデルの

正確さに関わらず実用的であるという点である.

小断層 走向 傾斜 滑り角 深さ(km) 1 185° 19° 90° 5.0 2 185° 19° 90° 5.0 3 188° 19° 90° 5.0 4 188° 21° 90° 21.3 5 198° 19° 90° 5.0 6 198° 21° 90° 21.3

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図2 各手法による初期波源推定

(3)地震データから得られた有限断層モデル

2011年3月の地震の有限断層モデルは,長波の地震波をインバージョンすることで断層の滑り量,走

向,傾斜,滑り角等のパラメータを取得する.この

インバージョンに使用した断層面はUS Geological Survey(USGS)が配信するCMT解(セントロイド・モーメント・テンソル解)によって定義されたもの

である.初期断層の大きさは.マグニチュードと断

層長さ及び幅のスケーリング則から得た. 津波モデル推定に際して,断層パラメータは水面

変形の計算のためにMOSTへの入力値として利用された.断層の初期鉛直変位はOkada(1985)により算出されるものである.

表-2 各手法の精度(水位観測値比)

表-3 各浸水モデルの観測値比

4.モデル結果

津波後の日本の研究者による調査により,各地点

の津波遡上高と3000カ所の沿岸地域での浸水範囲のデータが得られた.最大遡上高は岩手県宮古市の

39.7mであった.20m以上の高い津波は北緯39-40°の沿岸の集中しており,これは狭い入り江が多くあっ

たためである.Weiら(2013)とMacinnesら(2013)は北緯39~40°の沿岸での高い陸上遡上を説明するために,高空間分解能の空間格子を用いることの重要性を指

摘する.30arcs(~900~1000m)の空間分解能では沿岸の特徴を捉えるには不十分であり,10~20mの過小誤差につながるとした.それゆえ,本研究ではWeiら(2013)によるモデルと同じ20arcs(~60m)の空間分解能のものを用い,3つのモデルに適用した(図-2(e)-(g)).結果は,全てのモデルで遡上高が低い所はよく再現されていたが,遡上高が大きい所では違

いが生じ,それは北緯39~40°の地域で特に顕著だった.深海津波計モデルから計算された遡上高は,遡

上高が高い場所も低い場所もよく再現できており,

宮古市における最大遡上高39.7mも精度よく再現したが,全体としてやや過小に計算された.深海津波

計のみのモデルに比べ,GPS/深海津波計モデルでは低い遡上の地域でより正確な予測をしたが,北緯

39.5~40°の遡上が高かった地域では10mもの過小誤差が生じた. 深海津波計による時系列データは津波波源の迅速

な特定のみならず,深海域でのモデル推定結果の評

価にも役立つ.表-2は最大波についての各手法のモ

デルと観測値との平均整合率を表している.深海津

波計インバージョンでは4つの深海津波計による観測値との平均整合率が91.6%であった.GPS/深海津波計インバージョンでは一つの深海津波計を除いて

は整合性が認められた.地震波インバージョンでも

91.6%と高い整合率が認められた. 津波浸水の調査によって,波源モデルの更なる詳

細な検討が可能となった.最も浸水が激しかったの

は仙台と相馬の間の沿岸と,更に南下した福島第一

原子力発電所周辺である.本研究では津波浸水予測

における3つのインバージョン手法の違いを示すた

め,上述した日本の沿岸地域を中心とした浸水モデ

ル結果で比較を行った.相馬-福島第一原発間では3つのモデル結果は観測結果によく整合した.GPS/深海津波計モデルは全体として最も大きな浸水範囲

を示した.表-3は各浸水モデルによる推定浸水面積

深海津波計 GPS/深海津波計 地震波

深海 91.6% 76.8% 91.6% 沿岸 77.9% 63.0% 45.6%

深海津波 GPS/深海 地震波 整合率 98.5% 94.4% 68.2%

Page 12: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

表-4 計測時間

と観測された浸水面積との整合率を求めたものであ

る.この結果から,深海津波計によるものが最も精

度が高いことが確認された. 5.考察

この研究で示した3つのインバージョン手法のう

ち,津波計によるインバージョンと地震波インバー

ジョンは2011年3月11日の津波で実際に使われたものである.GPS/深海津波計モデルはその後発展したものだが,まだ解決すべき課題は多い.深海津波

計データはリアルタイムで利用できる一方,その他

多くの手法ではRTK-GPSから得たデータが利用できる.地震波断層モデルでは地球全体の地震計からの

データを使うため,その解は地域によって異なる速

度体系に依存する上,震源の不確定性にも歪められ

る.それゆえ,それ単体ではリアルタイム計測には

適さないであろう.

表-3は2011年の東北地震に関する予備的及び補正

後の各手法の計測時間である.リアルタイムRTK-GPSが迅速に地震断層の発生と地形のひずみを捉えることができていた一方で,当時はそのような自動

システムが機能しておらず,またGPSによるインバージョン手法も確立されていなかった.今では,

Ohtaら(2012)の研究によって,GPSに基づく解が有効であると分かり,大きな地震においても十分に活

用できる手法であるといえる.

日本の2011年の津波以来,観測とモデリングの技術は計算時間の短縮という点で格段に改良された.

深海津波計は発生源の近くに配置され,10-20分以内に津波の前兆を捉えることができる.2012年9月のコスタリカ地震以降,いくつかの短時間計測器も

開発された.リアルタイムでGPSデータを提供するネットワークも確立された.GPSネットワークに残る問題はそれらが陸地に限られることと,正確な予

測に必要な地形情報を常に欠いていることである.

当分の間は,地震波インバージョンモデルが地震に

よる断層の詳細についての最も速い情報であり続け

ると考えられる.

6.結論 2011年3月11日の地震と津波から得られた地震計やGPS,深海津波計によるデータはリアルタイム解析の重要な考察対象である.この研究では,2011年の津波をのみの場合,津波計とGPSを併用した場合,地震波の場合の3つのモデルを比較して調査した. これらのモデルはMOSTによる解析の入力として利

用され,津波の発生,伝播及び浸水をシミュレー ションした.その結果はそれぞれのモデルの比較に

おける強みと限界性について示唆に富むものだった. 本研究では深海及び沿岸域における津波の波形の モデルを比較し,津波の遡上高や浸水の範囲につい

て調査した.3つの発生モデルのうち,深海津波計

によるリアルタイム解析が,地震による断層の形状

特定が通例であるにもかかわらず,津波の観測結果

と最もよく整合していた.特に,三陸海岸における

津波の遡上高と浸水の解析の正確さが際立った. GPS/深海津波計法は海岸線に沿った北緯39-40°の間で最大50%,高さに換算して30-40mの過小誤差があった.地震波インバージョンは同じ場所で10m丁度の津波高を予測した.地形のひずみによりデータ

が歪められた北部では,地震計やGPSステーションはうまく機能せず,遡上高の過小誤差につながった. 3つの発生モデルについての考察は,日本で起き

た震災において最も迅速に利用できた津波の観測法

の,津波のモデリングや予測への重要性を明らかに

した.これらの発生モデルはリアルタイム解析及び

津波後の調査によって確証された高精度な津波モデ

ルにつながった.津波波源のインバージョンにおけ

る津波の直接的観測は断層と津波の相互関係の間の

不確実性を取り除き,津波の効果的かつ正確な予測

を可能にした. GPS計測が地震後より迅速に利用できるようになり,また地震波モデルが正確さを欠くことなく迅速

に構築できるようになれば,沿岸における津波災害

の評価の待ち時間を減らすことができるだろう.ま

た,本研究ではこれらのデータを深海津波計と組み

合わせることで,更なる時間短縮が見込まれること

が明らかになった.近年の日本の沖合における深海

津波計の増加は,津波の観測を20分以内にまで短縮した.震源の位置に左右されるものの,今後更なる

計測時間の短縮が期待できる.計測手法や計測器の

組み合わせ方の改善による計測時間の短縮と,陸上

での津波警報への利用法の確立がこれから取り組ま

れるべき課題である.

参考文献

1)首藤伸夫,今村文彦,越村俊一,佐竹健治,松冨英

夫:津波の事典,朝倉書店,2010 2)高川智博,津波の逆推定手法,ながれ31 9-14,2013 3)Arcas,D.,Titov,V.:Sumatra tsunami: Lesson from modeling, Surv. Geophys., 27(6),doi:10.1007/s10712- 006-9,679-705.2006 4)Percival,D, Denbo D., Eble M., Gica E., Mofjeld H., Spillane M., Tang L., Titov V.: Extraction of tsunami source coefficients via inversion of DART buoy data, Nat. Hazards 58:567-590 doi 10.1007/s11069-010-9688-1 5)Chen,T., Newman,A.V., Feng,L., Fritz,H.M.:Slip distribution from the 1 April 2007 Solomon Island earthquake,a unuique image of near trench rupture, Geophys.Res.Lett.,36,zl16307,doi

インバージョン 簡易 補正後

深海津波計 30分 1.5時間 GPS/深海津波計 数時間 —

地震波 5-15分 7時間

Page 13: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

1

ネンジュモ(シアノバクテリア)の

ライフサイクルと個体群動態のモデル化 Modelling life cycle and population dynamics of Nostocales (cyanobacteria)

清水 大輔1

Daisuke Shimizu

1東北大学工学部建築・社会環境工学科環境水理研究室

著者:K.D. Jöhnk, R. Brüggemann, J. Rücker, B. Luther, U. Simon, B. Nixdorf, C. Wiedner

出典:Environmental Modeling & Software 26 (2011) 669–677

温暖な地域の湖で発見されたネンジュモ(シアノバクテリア)は,一般的に気候変動から恩恵を受けている

と想定されている.環境条件の変化の下でネンジュモの将来的な発達を予測するために,それらのライフス

タイル全体をモデル化する数学的モデルを開発した.対象生物は,過去数十年の間に北部の温帯に広がった

熱帯種で,ネンジュモの一種であるCylindrospermopsis raciborskiiである.ドイツ北部の浅い湖に生息してい

る13年分の個体群動態データセットを使用してモデルを較正,検証を行った.私たちは個体群動態のライフ

サイクルの解析にあたり,異なるモデルパラメータの影響をランク付けするために半順序の理論に基づいて,

感度分析とハッセ図を使用した.結果,C.raciborskiiの季節的な動態は,主にその栄養細胞の最適生育温度

によって決定された.水中の遠洋個体群や,堆積物中のアキネート個体群(安静時の状態)の動態は気候条

件に従って,湖の水温や水中光強度に大きく依存している.そのため,湖の水温の将来的な上昇はネンジュ

モ属のC.raciborskiiの増大につながると考えられる.

‘Key Words’ Nostocales,Cylindrospermopsis raciborskii,Hasse diagram

1.導入

温暖化気候帯での淡水では,特にシアノバクテリ

アなどの多様性がとても増大している.この理由と

しては地球温暖化によるシアノバクテリアの熱帯地

域から温帯地域への拡大が挙げられる.シアノバク

テリアは,他の水生生物に影響を及ぼし,人間に潜

在的な危険をもたらし得る毒性の二次代謝物を広い

範囲で生成するため,シアノバクテリア集団の分布

とさらなる成長についての深い知識が生態系にとっ

て重要である. ネンジュモはアキネートを作り出

す点で,他のシアノバクテリアとは異なる.温帯地

域では,シアノバクテリアは,一年周期のライフサ

イクルがあり,夏の終わりにアキネートを形成し,

越冬するために土砂に落ち着く.そして春に新しく

ネンジュモを生成する.本研究の目的は,環境条件

の変化の下で,異なるネンジュモ種の過去,現在,

未来の個体群を分析し,ライフサイクル全体を通じ

てネンジュモの個体群動態をシミュレートするため

に数学的モデルを作成することである.モデルは,

成長調節,アキネート生産,実験室の研究,浅く富

栄養化した温帯地域にある湖で観測された

C.raciborskiiの長期間(13年分)の現地データに基づい

て作成された.C.raciborskiiをモデル生物として選

択した理由としては,豊富なデータが入手可能だっ

たからである.生物の季節動態の影響を判断するた

めに,パラメータ値の変化に対するC.raciborskiiの

個体群体積Cとアキネート個体数Aの感度分析を用

いて解析した.そしてAとCへの影響を同時に比較

するためハッセ図と呼ばれる技法を用いた.ハッセ

図を使用することで,シミュレーション結果に影響

を及ぼすパラメータの影響をランク付けすることが

できた.

2.計算方法

C.raciborskiiの個体群体積( )と,堆積物中のアキ

ネートの個体群密度( )の二つの変数をC.raciborskii

の個体群動態を記述するために使用したシミュレー

ションは,平均水温,混合水柱( )の光の供給,

及びセッキ深さ,を用いて駆動した.C.raciborskii

の個体群動態の時間変化は以下の式(1)を用いて表

される.

Page 14: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

= ( , , )

, ,

ここで, 成長速度 :温度 ウイ

ルス攻撃などによる死亡率 密度依存死亡

率 ( , ) 植物プランクトン被捕食率

アキネートを C.raciborskii に変換する定数

( , ):アキネートの発生 アキ

ネ ー ト の 形 成 ア キ ネ ー ト の 個 体 数

C.raciborskiiの個体数である.

式(1)中の (成長速度)は以下の式(2)で表される.

( , , )

ここで, 最大成長速度である.

通常,μ

は自然条件の下で到達されることはな

い.また,アキネート個体群動態の時間変化は以下

の式(3)を用いて表される.

= ( , )

ここで

アキネートが土砂に埋もれることによる死亡率

成長速度 は,別々の温度 ( ),光( ),およ

び栄養( ) のための関数を用いて説明した.式

(5) はそれぞれの式である.

(( )

(

))

(5)1)

(

)

ここで, 低温で決定されたパラメータ 形

状パラメータ 最適成長温度 最少光度

(閾値)

光飽和パラメータ セッキ深さ 半飽

和定数である.

ここで (セッキ深さ)は栄養制限をパラメータ

化する代理変数を表す.セッキ深さが大きいという

ことは,水中の濁度が低く植物プランクトンが少な

いということになり,結果として ,

が大きくなってしまうということになる.((1)式に

おける損失が大きくなる)指数 を導入することに

よって,この式を一般化することができ,セッキ深

さを介して栄養制限を説明することができる.ここ

でn>1とする.その理由は,n≦1としてしまうと,

fds(N)≧1となる可能性が出てきてしまい,

rts(T)=1 ,rls( )=1,fds≧1の場合に

( , , ) となってしまうことが考

えられるからである.

( は自然条件の下では到達しない.)これらの

式を図化したものが図-1である.

図-1 入力条件

3.結果

モデルは,2004~2006年のデータを用いて較正を行

い,その他10年分のデータを加えて用いて検証を

行った.温度依存性増殖と光制限値はC.raciborskii

の実験に基づいており,アキネートの形成,発生率

および死亡率のパラメータ値は,フィールド調査か

らのものである.ほとんどのパラメータは,文献値

Page 15: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

と実験室とフィールド実験における知見に基づいて

いた.シミュレーション結果を図-2に示す.

図-2 シミュレーション結果

シミュレーション結果は水温,光,動物プランクト

ンによる捕食(植物プランクトンに対する)などによ

る効果を反映して,非常に高い値と非常に低い値に

至るまで,大きく変化した.シミュレーションの性

能を,決定係数R2を推定することによって定量化し

た.(表-1)

表-1 適合度R2の表

Year R2 -Akinetes R

2 ‐C.raciborskii

1995 – 0.97 (9)

1996 – 0.84 (17)

1999 – 0.39 (17)

2000 – 0.39 (19)

2004 – 0.95 (16)

2005 0.91 (16) 0.80 (20)

2006 0.63 (20) 0.90 (18)

2007 0.89 (21) 0.02 (11, n.s.)

all years 0.75 (57) 0.72 (127)

測定値と予測値との適合は,1999,2000および2007

を除いて高いR2値を得た.パラメータは,正 (+

10%)の結果,パラメータ値の負(-10%)の変化との

差に基づいてランク付けした.ハッセ図2)(図-3)は,

シミュレーション結果に及ぼす影響の点で,パラ

メータ間の差を示している.

図-3 ハッセ図

上のバーがCへの影響度合いを表し,下のバーがA

への影響度合いを表す.ハッセ図からToptが最も大

きな影響を及ぼすことがわかる.ここで と と

が直線で繋がれていないということは,この三つの

変数がわずかに異なる反応を示すので,順序関係の

観点から直接的に比較できないことを表している.

また,+5%と-5%,+1%と-1%のパラメータの値で

も感度分析を行い,ハッセ図を作成したが,大幅に

結果を変えることはなかった.また, Topt(図-4左)

とTform(図-4右)の+10%(一点鎖線)と-10%の(破線)値

を用いて行った感度分析の結果を図-4に示す.

図-4 感度分析結果

図4からToptを+10%(約3℃)上昇させると2倍以上の変

化を見せることがわかる一方で,Tformを+10%(2℃)

上昇させてもさほど変化は見られない.ここでは二

Page 16: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

つのパラメータを例として取り上げたが,すべての

パラメータの

への影響度をランク付けする

ための表を下に示す.(表-2)

表-2 全てのパラメータの感度分析結果

Paramete

r Θ

[numbers μLsed−1]

[mm3 L−1]

Θ−10% Θ + 10% Θ−10% Θ + 10%

θ1 16.30 −12.60 1.87 −1.39

θ2 32.23 −25.95 3.79 −2.81

Topt 132.20 −85.94 20.73 −9.00

b 32.54 −28.12 3.81 −3.02

Idark 5.38 −5.35 0.52 −0.52

Ik 29.22 −25.35 3.38 −2.79

H 31.85 −26.24 4.15 −3.03

n −2.26 2.21 −0.39 0.40

μmax −51.77 62.70 −5.75 9.11

mdens 5.27 −4.74 0.44 −0.40

mC 33.73 −29.00 3.76 −3.05

mA 1.31 −1.29 0.04 −0.04

Tform −18.48 16.41 1.47 −1.55

pform −5.28 4.85 0.22 −0.21

Tgerm 2.75 −5.10 0.42 −0.74

Igerm 1.46 −3.79 0.24 −0.61

pgerm −2.59 2.24 −0.43 0.38

αA −9.48 9.48 0 0

αC −4.75 4.27 −0.65 0.61

A(t = 0) −5.07 4.60 −0.65 0.61

前述したとおり,二つの値の差の絶対値に基づきラ

ンク付けを行う.このような手順を踏み,ハッセ図

を作成することができた.

4.まとめ

本研究では,ネンジュモ(シアノバクテリア)のライ

フサイクルと個体群動態のシミュレーションのため

の動的モデルを開発した.C.raciborskiiとアキネー

ト個体群動態は,水の温度や水中光強度などの条件

に強く依存していた.C. raciborskiの個体群の大き

さは翌年のアキネートの個体数と比例関係にあるが,

しかし,1995/1996,2004/2005,および

2006/2007(図2)のシミュレーション結果によって示

されるように,アキネートの数は常に,

C.raciborskiiの個体群の大きさと比例関係にあるわ

けではない.感度研究とハッセ図は,C.raciborskii

の季節動態への温度と光の影響の大きさを示してい

る.温度の影響が大きく,光の影響が小さいという,

以前の解析の結果と今回の感度分析の結果のギャッ

プは,以下の1)~3)の理由が可能性として挙げられ

る.

1)ネンジュモのための損失率のデータが存在しない

こと.

2)光と温度の相乗効果が十分に理解されていないこ

と.

3)発芽直後の初期生育期間中に及ぼす「温度の影響

が不明であること.

このような成長及び損失の処理を記述したデータは,

さらにモデルを洗練するために必要とされる.その

ためのフィールド調査および実験は,モデルを改善

するために大切であろう.しかし,本モデルはすで

に,ネンジュモの季節動態を説明する貴重なツール

となった.このモデルによって,シアノバクテリア

の過去と将来の発展への洞察が得られる.将来予測

をするためには,将来の水の温度の正確な予測が必

須である.他の湖や,C.raciborskii以外の種にこの

モデルを適用するには,いくつか変更する点がある.

例えば,ネンジュモ種以外のモデル化には,式

(4)(5)へ光と温度依存性増殖のための適切なパラ

メータを挿入する必要がある.モデル評価と,ここ

で適応された感度研究から,モデルの構造や,実装

された機能は,データを良く記述しており,富栄養

化によるネンジェモ種の個体群動態を追算したり,

予測したりする目的を果たすのに十分である.時間

の経過にともなう個体群動態の予測に加えて,我々

のモデルからは,ネンジュモの普及に関する気候変

動の影響について疑問を解明することができる.

参考文献

1. 1) Jassby and Platt, 1976 A.D. Jassby, T. Platt

Mathematical formulation of the relationship between

photosynthesis and light for phytoplankton Limnology

and Oceanography, 21 (1976), pp. 540–547

2) Voigt et al., 2006 K. Voigt, R. Brüggemann, S.

Pudenz A multi-criteria evaluation of environmental

databases using the Hasse Diagram Technique (ProRank)

software Environmental Modelling & Software, 21

(2006), pp. 1587–1597

Page 17: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

1

複雑な地形における短期集中洪水予測 気象レーダー・ダイナミックモデル・アルゴリズムシステム

による降雨量を入力値とした流出シミュレーション

Prediction of a Flash Flood in Complex Terrain.

A Comparison of Flood Discharge Simulations Using Rainfall Input

from Radar, a Dynamic Model, and an Automated Algorithmic System

菅原雄太1

1東北大学工学部建築・社会環境工学科 水環境システム学研究室

著者:DAVID N. YATES, THOMAS T. WARNER, GEORGE H. LEAVESLEY

Journal of Applied Meteorology,vol.39,815-825,2000.

短期集中洪水とは6時間以内に降雨による流出が洪水レベルに達する洪水のことであり,複雑地形におい

て頻繁に発生する.本研究の対象領域であるバッファロー流域は激しい起伏を有した複雑地形となっており,

短期集中洪水が数多く報告されている.このような短期集中洪水の特性把握のため,本研究では気象レー

ダー,ダイナミックモデル,アルゴリズムシステム,それぞれによる降雨量を入力値として,PRMSにより

バッファロー流域で発生した短期集中洪水の再現を行った.結果として,現地観測値であるピーク流量

450m3s-1と比較し,最も高い精度を示したのは気象レーダー,S-Pol KDPによる降雨を入力値としたもので

あった.また,ダイナミックモデル,アルゴリズムシステムによる降雨を入力値とした流出再現は,流出の

タイミングについてはある程度の再現性を得られたが,特に流量の大小について精度が低い結果となった.

誤差の要因としては,モデルにおける雨雲の予測位置が実際と大きく異なったことが考えられ,今後更なる

降雨予測技術の発展が必要であるといえる.

Key Words : バッファロー流域,分布型水文モデル,リードタイム,PRMS

1. 研究背景と目的

コロラド州に位置するバッファロー流域は平均海抜

2300mかつ起伏が激しく,このような複雑地形であるこ

とから,頻繁に短期集中洪水1)の発生が確認されている.

しかしながら,本対象領域では森林の貯留効果とダフ

層の影響で土壌浸透量が大きく,この短期集中洪水は大

きくは問題視されていなかった.

しかし1996年5月18日,山火事の発生により,バッファ

ロー流域の地表面が著しく変化し,透水率が減少,表面

流出が増加する結果となり,以前と比較して大規模な短

期集中洪水が生じることとなった.山火事発生後,現地

踏査による短期集中洪水のピーク流出量は450m3/s2)と報

告されている.山火事発生以前の夏季平均基底流出量は

約1m3/s3)であり,450m3/sと比較すると短期集中洪水の規

模の大きさが容易に想像できる.この短期集中洪水によ

りバッファロー流域の近隣の町は破壊され,山火事と短

期集中洪水による総被害額は3500万ドルにも上った.

更に将来的に豪雨頻度が増加する4)ことを考慮すると,

バッファロー流域において豪雨による流出を再現し,短

期集中洪水の特性を把握することが求められているとい

える.

以上の背景より,本研究では,コロラド州バッファー

流域によって降雨量を入力値とした流出シミュレーショ

ンを行いその精度を検証することを目的とする.入力値

の降雨量を予測するにあたって以下の3つの方法を用い

た.

1) 気象レーダー(WSR-88D5),S-pol Reflectivity5),S-

Pol KDP)

2) ダイナミックモデル6)

3) アルゴリズムシステム7)

各章について,第1章は背景と目的,第2章は対象領域

の説明,第3章は降雨予測,第4章は流出量予測,第5章

は結果,第6章は結論である.

Page 18: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

2.対象領域の説明

本研究の対象領域はコロラド州デンバーの西50kmに位

置するバッファロー流域である.対象領域の主な土地被

覆は尖峰林である.対象領域は平均海抜2300m,最高海

抜は3600mであり,激しい起伏を有している.対象領域

において大規模な山火事が発生し,本領域の総面積の約

25%が焼失した.山火事による影響から植生の焼失,土

壌表面層のダフ層の焼失によって降雨の浸透率が小さく

なり表面流出が増大した.その結果,短期集中洪水流出

量が著しく増加することとなり,他領域と比較して,本

対象領域は短期集中洪水を評価することが重要であると

いえる.図-1に対象領域図を示す.

3.降水量の予測

1) 気象レーダー

本研究では,WSR-88Dと2種類のS-polレーダーを使用

した.WSR-88DとS-pol Reflectivityは水平偏波と垂直偏

波の2種類の偏波を発射し,その電波の反射率の差から

降雨予測を行う気象レーダーである.S-Pol KDPは水平

偏波と垂直偏波を発射し2種類の偏波の位相速度の差か

ら降雨予測を行う気象レーダーであり,比較的誤差が生

じにくい8).

2) ダイナミックモデル

本研究で使用したモデルはNWPモデルと呼ばれ,風

速,気温,大気圧などの様々な観測データを初期値とし

て,運動方程式,連続式,水蒸気量保存則,気体の状態

方程式,熱力学方程式を用いて降雨量を予測する数値予

報モデルである.

3) アルゴリズムシステム

本研究で使用したアルゴリズムシステムはNCAR

autonowcaster systemと呼ばれ,まずWSR-88Dや人口衛星

や数値モデルにおける観測値をデータセットする(用意

する).次にアルゴリズム分析をいくつか行うが,本研

究ではTITAN algorithmのみを扱っている.次にfuzzy

logic algorithmを使用し,雷雨の開始から衰退までを短い

期間で予測することが可能なソフトウェアシステムであ

る.

4.流出量の予測

1) 分布型水分モデル

流出を再現するため,本研究で使用した分布型水文モ

デルはPRMS9)(Precipitation-Runoff Modeling System)であ

る.図-1で示すように,流出を再現するにあたってGIS

解析とデジタル標高モデルを基に流域を37個のHRUs

(水文応答要素)に分割し、分割した各要素で計算を行

うことで,流出現象を再現するモデルである.HRUsは

標高,土地利用,降雨分布などの物理的特性に基づいて,

流域を細かく分割したセグメントのことである.本研究

において流域の物理的一貫性を保持しつつ,HRUsのサ

イズと位置を修正することで流出ネットワークを表現し

た.

図-1 対象領域における流出ネットワーク

Page 19: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

図-1における37個のHRUsで流出ネットワークを表現

し,流出ネットワークの最下点である区域番号22で,

流出量シミュレーションを行った.区域番号22の海抜は

2100mである.

2) PRMSに入力するパラメータの説明

表-2に示した物理パラメータはPRMSへ入力する主な

パラメータである.この物理パラメータにおいて,本研

究では山火事後の土壌を再現するため,土壌の飽和透水

係数の修正を行った.土壌の飽和透水係数が減少すると

土壌浸透量が小さくなり,表面流出量が大きくなる.

このことを利用して,飽和透水係数の値を小さくする

ように修正を行うことで山火事の影響を考慮したのであ

る.

5.結果

この短期集中洪水の現地踏査ではピーク流出量は

450m3/sあり,S-Pol KDPによるピーク流出量の推定値は

420 m3/sであった.この420 m3/sという値は現地観測値の

450 m3/sに最も近い値であった.本研究ではこの値を現

地観測値に近づけ,他の方法の精度検証の際に用いるた

め,土壌の飽和透水係数を25%減少させることで,表面

流出を増加させ,465 m3/sに修正した.この465 m3/sの値

をキャリブレーションのために使用した.

1) 気象レーダー

図-2は,3種類の気象レーダーによる流出量を示して

おり, 図-2においてピーク流量推定値は±20%の信頼

区間があることが示している.3つの気象レーダーを比

較すると,ピーク流出量が最も450 m3/s近く流出のタイ

ミングも一致しており,S-Pol KDPが最も信頼性が高い

結果となった.また気象レーダーを変えることで非常に

異なる流出が再現されることが示された.

2) ダイナミックモデル

図-3にダイナミックモデルによる降雨量を入力値とし

た流出シミュレーションを示す.図-3には精度検証のた

めS-Pol KDPによる降雨量を入力値とした流出量シミュ

レーションを示している.

本研究ではコスト面の問題から,Ex1~Ex3の3つのシ

ミュレーション期間でしか流出再現を行うことができな

かった.最も長いリードタイムを有するEx1の降雨にお

ける流出の開始はおおよそMST1912でありレーダーで算

出した流出時間と一致していたが,流出の大きさは

レーダーによる流出量と比較して小さくなっている.

図-3よりEx3の流出時間はS-Pol QPEの流出時間と一致し

ている.しかしEx3は図-3からわかるように2回目の

ピーク流出量を観測してない.MST1924でのEx3におけ

る最大流量200 m3 s-1は、最初の洪水のピーク流量のリー

ドタイムが42分であることを表している.

表-2 PRMSに使用された物理パラメータ

図-3 ダイナミックモデルによる

流出シミュレーション

図-4 アルゴリズムシステムによる

流出シミュレーション

図-2 気象レーダーによる流出シミュレーション

表-3 ダイナミックモデルのシミュレーション

期間

Page 20: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

3) アルゴリズムシステム

図-4にアルゴリズムシステムによる降雨量を入力値と

した流出シミュレーションを示す.

Ex1の流量の曲線はとても平らであり,シミュレーショ

ンされた流出が開始したのはレーダーで観測された流出

が開始する約30分前である.Ex2は流域で豪雨が発生し

ている期間に開始し,2回目のピークはレーダーによる

流出応答と比較して45分も遅れていて,かつ大きさも小

さい.Ex3の流量のピークは100 m3 s-1以下であるが,

レーダーが算出した流出の時間とかなり一致している.

山火事以前の土地条件における対象領域では100 m3s-1の

流量を達するリターンピリオドは100年に1度であると推

定された

6.考察

3つの気象レーダーで流出シミュレーションを行った

結果,最も精度が高いのはS-Pol KDPであった.S-Pol

KDPは比較的キャリブレーションの誤差やビーム障害,

異常伝盤に反応しないことからこのような結果になった

と考えられる.

ダイナミックモデルとアルゴリズムシステムによる流

出シミュレーションを行った結果,Ex2が最も精度が高

い結果となった.しかし気象レーダーでの流出シミュ

レーションとダイナミックモデル,アルゴリズムシステ

ムのEx2の流出シミュレーションを比較すると気象レー

ダーの方がはるかに精度が高いといえる.

気象レーダーと比較してダイナミックモデルとアルゴ

リズムシステムの精度が劣った要因はシミュレーション

の嵐の位置に関する詳細な調査によると,最大の勢力の

嵐が西へ移動し,わずかな勢力の嵐が北のダイナミック

モデル,北西のアルゴリズムシステムによって観測され,

発生場所と観測場所のずれが生じたことである.この観

測場所のずれが山火事とは関係のないところに降雨を配

置し,かつレーダーに比べて降雨強度を弱くする結果に

つながった.ダイナミックモデルとアルゴリズムシステ

ムは現状の精度でも洪水警報としては利用可能ではある

が,さらなる洪水予測の技術に用いられる場合,精度を

向上つまり正確な降雨予測の技術の向上が必要である10).

7.結論

本研究では気象レーダー,ダイナミックモデル,アル

ゴリズムシステムを用いた流出シミュレーションを行っ

た.結果として,総合的に最も精度が高かったのは気象

レーダーのS-Pol KDPである.ダイナミックモデルとア

ルゴリズムシステムは流出のタイミングは一致している

が,流出量の大きさの精度が低い結果となった.このこ

とから,今後正確に降雨を予測する技術の向上が必要で

ある.

参考文献

1) National Research Council, 1996: Assessment of Hydrologic and

Hydrometeorological Operations and Services. National

Academy Press, 51 pp.

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Page 21: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

1

河川周辺から発生する流木の

流出に対する流域の影響 Watershed controls on the export of large wood from stream corridors

助川友斗1

Yuto Sukegawa

1東北大学工学部建築・社会環境工学科水環境システム学研究室

著者:Alexander K. Fremier , Jung Il Seo , Futoshi Nakamura

出典:Geomorphology, vol.117, pp.33-43, 2010.

流木は河川の広範囲において生産され,移動,滞留している.国土交通省の管理下である日

本全国131基の貯水ダムで計測された流木量を集計したデータにより,過去の文献で流域面積と

流木量に対数近似の関係性が示された.しかし,決定係数はR2=0.27であり,これは流域面積以

外の要因も流木量に影響を与えているということを意味する.PCAにより流木量と相関のある

流域特性を調べると,流域面積と流木量の回帰曲線の残差から,残差と流木量計測場所の緯度

に有意な弱い相関が得られた(R2=0.01,P<0.005).また,ピーク流量や森林面積率も流木流出

に影響を与えていることが分かった.緯度に相関があることは,低緯度地域では台風の発生頻

度が高く,より大きなピーク流量が発生し,流木の生産に関する有意な事象が発生するからで

あると考えられる.これらの結果により様々な流域特性が流木の流出に影響を与えていること

が分かり,地域ごとに異なった河川管理方法の指標として役立つことができる.

Key Words : 流域地形計測,生態地形学的特長,生態学,流域水文学

1. はじめに

河川システムにおける流木の存在は,地形・生態

学的に重要である1)2).流木が生態系に与える影響と

しては,小流域においては,有機物や土砂,栄養塩

の貯留が重要な役割として考えられる.中流域河川

においては,集合状態の流木群が河川内生息場所の

多様性を形成し,魚類や底生動物の種多様性に貢献

している.下流域網状・蛇行大河川においては,多

くの流木は河川内ではなく砂礫堆や氾濫原に堆積し,

河畔植生の種多様性に貢献していると考えられる.

以上より,流木が河川環境に与える影響を把握する

ことは重要である.そこで,流域特性と観測した流

木の流出パターンを照らし合わせ,流木の動き(生

産,輸送,滞留,破砕/腐敗,流出)の特定を試み

た.Seo et al.(2008)により流木流出量と流域面積と

の相関については示された3).本研究では,考慮さ

れていなかった流木の流出に影響を与える支配構造

物を考慮に入れ評価する.目的としては,流域内で

の流木流出を定量化すること,単位流域面積当たり

の流木流出量と流域面積の相関関係を明かすこと,

流域全域の生産,輸送,滞留を予測することである.

流木の流出に影響があるものとしては,水辺の森林

開発や流木の物理的特徴,水路の形状,自然災害,

流域の水文,人為的変化等があり,複雑である4).

流木の輸送は流量や水深に関係し,流域面積が増加

すると流量や水深も増加する傾向にあるので,流木

の輸送能力は流域面積から予測することが可能であ

る.ピーク流量と流域特性,流木流出を比較するこ

とで研究を進めた.

図-1 対象流域と貯水ダムの位置

Page 22: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

2. 調査方法

2003年に,流木の回収と流量データを集めるため,

国土交通省の管理下である多数の日本のダム管理者

にコンタクトを取った.流木のデータは合計131基,

流量のデータは68基の貯水ダムから集めた(図-1).

(1)流木量の定量化方法

各貯水ダムに滞留している流木(図-2)をトラッ

クに収集し,各トラックの積荷の幅,長さ,高さか

ら流木の体積を求めた.このとき,個々の大きさは

考慮せず,見た目から間隙の大きさを推測し,積荷

の合計量から差し引きすることで,正味の流木の体

積を計算した.本研究では,各貯水ダムから得られ

た流木量の年間体積量を使用した.

(2)流量

詳細な流量のデータは,1993年から2003年の間の

一部のダムから得られたデータであり,これは有意

な出来事が起きた際のピーク流量を記録したもので

ある(68基のダム).記録された数値のピーク,平

均,最大を用いて計算した. 22 km2以下の小流域を

含まないため,このデータで大流域と小流域を比較

するには限界がある.

(3)流域特性

GISを用いて各流域を地図上に示し,日本の国土

地理院刊行のDEMを使用し流域を定義した.河川勾

配は,地下にある既知の水路網の平均水路勾配を採

用し計算した.GISで日本の土地利用図を作成,計

算し河川流路における森林の特徴を現す3つのメト

リクス(無林地,天然林,人工林)を得た.森林部

の割合から流木流出量が予測できるか,天然林,ま

たは人工林が更なる流木を生産するかどうかをテス

トするために,これらのメトリクスを算出した.

図-2 暴風雨後の二風谷ダムに滞留する流木

図-3 流木流出量と各因子との関係

Page 23: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

(4)WatershedとWoodshed

各流域において,流木の通行を制限する働きがあ

る大きなダムや堰を支配構造物と定義した(本研究

では全流域合計39箇所).流木の輸送に強い影響を

与えている流域を示すために,Woodshedと呼ばれ

る流域を定義した.Woodshedは障害物の影響を受

けずに河川が下流まで連続して続いている流域であ

る.上流における構造物の存在が流木流出に影響を

与えているかを確認するために,全ての貯水ダムに

おいてWoodshedの有無を確認した.

(5)分析

流木と流域特性,流量の関係を調査するために

様々な統計方法を用いた.流木量と相関の高い因子

を抜き出し,またデータ内の相関のある変数を除く

ために,PCA(主成分分析法)を用いた5).変数の

一部はAICc(修正赤池情報量基準),ステップワイ

ズ法を用いて分析した.加えて,Watershed,

Woodshedと流木流出量の関係や,分位点回帰分析

を行った.

3.結果

(1)流域面積と流木流出量の関係

Woodshed面積,流域面積,河川長はPCAにより,

相関を持つことが分かった.流域面積と流木流出の

相関を見ると, Seo et al. (2008)が唱えたような非線

形関係を示した3).流木流出量と流域面積の相関と,

上流の支配構造物の関係を除いた場合の相関には若

干の違いが見られた(図-3B).支配構造物の影響

を除くことでより良い精度の相関が見られると予測

していたが,非線形関係に対する信頼性は,Seo et

al. (2008)と比較すると落ちていた3).75km2以下は流

域面積の増加に伴い流木量も増加したが,それ以上

の流域では流木量は横ばいになった(図-3A,B).

流域面積が減少することで,流木流出率は直線的に

減少した.流木流出は緯度が下がるほど増加する有

意な関係が存在する(図-3D).減少の原因には

様々あるが,流木流出量の減少は,主に流域面積の

測定で説明がつく(図-3A,C).

図-4 ピーク流量と流域面積の回帰とその残差とその他の因子との関係

Page 24: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

(2)流木流出に影響を与えるその他の要素

流域面積と流木流出量の回帰曲線の残差に注目し,

各貯水ダムにおける緯度との相関に着目すると,緯

度の増加に伴い残差値が負になることが示された

(図-3D).このことから,図-3Bにおいて,回帰曲線

より下側は緯度が高い地域が多く,上側は緯度が低

い地域が多いという傾向が示唆された.更なる調査

をするため,緯度と南日本におけるピーク流量とが

関係すること,ピーク流量が流域面積と共に直線的

に増加することを仮定した.前述したように小流域

では流量データが存在しないため不完全な流量デー

タではあるが,ピーク流量と流域面積との関係に着

目すると,ピーク流量と流域面積は高い相関がある

こと(図-4A),ピーク流量と流域面積の回帰の残

差が緯度と高い相関があることが分かった(図-

4B).流木流出量と流域面積の回帰の残差は,ピー

ク流量とは弱い相関があること(図-4C),森林地

面積との相関はあまり無いこと(図-4D)が示され

た.しかし,森林の少ない箇所では流木流出量が増

加すると言う若干の相関が見られた.ピーク流量が

増加すると流木流出量も増加する傾向にあることが

確証された.

4.考察

流木の生産,輸送,破砕/腐敗,滞留プロセスの

関係は複雑に絡み合い,流木流出のプロセスに対し

て影響を与えている.流木の生産や,輸送はピーク

流量と関係している6).また,ピーク流量により流

木の輸送,妨害プロセス(堤防崩壊,地滑りなど)

が起きている.

(1)気候変動と流木流出パターン

日本の気候は地域別に特徴がある.北日本は南日

本に比べて台風の影響を受けにくい.また,ピーク

流量が観測されるのは,一般に融雪時期である.低

緯度地域では,台風の頻度が高いため,融雪と比較

してより大きなピーク流量が発生し,流木輸送量や

斜面崩壊,地滑りが増加するため,潜在的により多

くの流木が生産される.

(2)小~中流域における流木流出量の分散

小~中流域での分散は,変動の大きなピーク流量

や河川勾配,森林型式などの流域特性の違いにより

引き起こる.急勾配な水路では,氾濫原での滞留が

少ないことや山地斜面からの突発的な生産などによ

り,多くの流木が生産される.上流では,降雨をと

どめておく土地面積が小さいので比較的ピーク流量

に達しやすい.今回,小~中流域の流木輸送量が少

ない理由としては,複雑な地形や,狭い谷,小さな

水路幅により輸送に対する抵抗が生じるためであり,

輸送と流れの大きさが関係しているからである.

(3)流木流出率の減少と流域面積

流木流出量は,流域面積に対し非線形的に増加す

る(図-3A).流木流出は,小から中流域において

は,流域面積に対して比例的に増加し,100km2周辺

で横ばいになる.流木流出率低下の原因には,主に

4つの原因が考えられる.1)小流域における流木流

出量の分散が大きく,年単位で見ると全ての支流か

ら流木が下流部に流れていくわけではないこと.

2)大流域の氾濫原では流木の滞留が増加すること.

3)大流域では,河川周辺に流木を生産する山地が

少ないことや,氾濫原からの生産が少なくなるため

流木の生産量が減少すること.4)上流部の流木は

破砕や腐敗により木片に変化すること.

(4)流出と輸送の閾値

相対的に流域間の年間変動が小さく,流木生産プ

ロセスと滞留/流出/破砕/腐敗プロセスとが均衡して

いる流域面積において流木流出量の閾値が存在する.

この閾値は,75-100km2の流域に最も当てはまる.

日本の木々は,過去に論文で提唱されてきたものよ

りも小さいため,この閾値は恐らく小さくなると考

えられている.河川勾配の崩壊や流木の輸送能力に

影響を与えるような地理的特徴の変化により,この

閾値は変化するだろう.

5.結論

本研究では,複数の統計解析手法を用いて,流木

流出量と流域面積に相関関係があることを確認した

ほか,緯度や森林面積率,河川勾配にも有意な関係

性が見られることを示した.また,ピーク流量が増

加すると流木流出量も増加する傾向が示された.以

上の結果より,地域ごとに異なった流木流出に関す

る河川管理方法の指標として役立てることができる.

参考文献

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Page 25: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

ダム決壊による衝撃波が垂直壁に与える影響 Investigation of dam-break induced shock waves impact on a vertical wall

髙松 怜菜1 Rena Takamatsu

1東北大学工学部建築・社会環境工学科環境水理学研究室

著者:Selahattin Kocaman , Hatice Ozmen-Cagatay

出典:Journal of Hydrology , vol.525, pp. 1-12, 2015.

現在の研究において,ダムの決壊によって引き起こされた衝撃波が下流端の垂直な壁に与え

る影響に関する,実験および数値流体力学シミュレーションの調査が為された.実験は摩擦の

ない水平な湿潤状態の矩形水路にて,二種類の水位で行われた.流量の測定には画像処理が用

いられ,水位の時間変化は固定カメラで録画していた流れの映像により決められた.

この研究では,下流端の壁にぶつかった反射波の形成と伝播について綿密に調べられた.数

値シミュレーションにおいて,三次元流れで利用できる二つの異なるアプローチ,k − ε乱流モ

デルのレイノルズ平均ナビエストークス式(RANS)と浅水流方程式(SWE)が使われた.実験で測

定した結果をその後数値シミュレーションと比べた結果,実験値とRANSによる解の方がSWE

より一致していた.

Key Words : Dam-break , Shock wave , Wet bed , Image processing , Vertical wall

1. はじめに

ダムの決壊現象は,長年,非定常な時間発展する流れ

に対する主要な研究テーマであった.ダムの決壊が起こ

ると壊滅的な氾濫を引き起こし,下流側の都市部や農地

を劇的に荒廃させてしまう.激しい洪水の予測をするこ

とは,緊急時に氾濫地域から避難するために重要である.

ダム決壊による衝撃波によって引き起こされる下流端

への垂直壁への波の伝播は,津波が引き起こす波の伝播

との類似性を示すという1)(Chanson et al. ,2000).衝撃波

の速度や深さは,氾濫による有害な影響への予防策を決

めるのに重要な要素である.

過去にStoker2)は特性曲線法を用いることでSaint-

Venent方程式を解きRitter3)の分析的解法を拡張させた.

しかしその分析的解法は,ダム決壊の初期段階に水路床

が湿潤状態のときにはあまり正確な結果を出せなかった.

Chang4)らは,粒子完全流体力学に基づく浅水方程式を

解く数値モデルを開発したが,その結果の不安定さは,

その数値モデルがダム決壊の初期段階をうまく再現でき

ないことを示す.ダム決壊の初期段階における波の動き

は,乱流モデルのRANSによって良くあらわされている.

研究所での実験は,現地資料を得ることが困難なため,

実際のダム決壊現象を理解することや,数値モデルの確

認をする上で重要な役割を担っている.

2. 実験について

(1) 実験装置

実験は,水平で,長さ8.9m,幅0.3m,高さ0.3mのガラ

ス製の矩形水路で行われた.垂直なゲートを上流側の端

から4.65mの位置に設けて水路を二つに分けて,上流側

を貯水槽にして下流側を湿潤状態にした.ダムの決壊は

ゲートを瞬間的に除去することで再現した.実験は異な

る水位で二回行われ,一回目は0.025m,二回目は0.10m

に設定された.実験の前に,貯水槽には0.25mまで水を

図1-1:実験装置

図1-2:測定地点P1-P6の位置

Page 26: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

溜めておいた.ℎ0は貯水槽のはじめの水位,ℎ1は下流の

水位を示していて,その比率は𝛼 = ℎ1/ℎ0=0.1と0.4で

ある.Stansby5)らによって,似たような水位比の

𝛼 = 0.10と𝛼 = 0.45の実験が過去に行われている. 流

量の測定には画像処理が用いられた.測定は,まず等間

隔で置かれた三つのCCDカメラでダムの決壊を記録し,

パソコンに送られてきた未加工の画像をデジタル化し,

その後画像の補正が行われ,最後に,三つのカメラでと

らえた画像を結合することによって,カメラの位置を変

えることなく下流側全体という広範囲の情報を得ること

が出来る.この実験は,Stansby5)などが行った類似した

実験とは違い,繰り返しなしで下流全体の流れの挙動の

可視化を実現させた.

(2) キャリブレーション

画像処理にてデータ収集を行うときに生じる,さまざ

まな不都合を除くために,カメラのレンズのゆがみ,三

つのカメラの違い,カメラとの直線距離の差による被写

体の大きさの差を除去する作業が行われた.

(3)水位の時間変動について

水位の時間変動は,録画された画像から直接決定され

た.波を調べるために多数の垂直な線を引き,画像の輝

度を変えることで水面がどこかを確認して空気と水の境

界を決め,空気と水の境目は色を変えて表示した.画像

処理法により,流れを乱すことなく水位の測定が可能に

なった.

3.数値解析について

実験で観測されるダム決壊による下流端の垂直壁への

影響はRANSとSWEという二つの異なる方法で解かれた.

(1) k − ε乱流モデルのRANS法

RANS方程式を構成する,流量と運動量についての公

式は以下のように表される.

𝜕

𝜕𝑥𝑖

(𝑢𝑖𝐴𝑖) = 0 (1)

𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑡+

1

𝑉𝐹

(𝑢𝑗𝐴𝑗

𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑥𝑖

) = −1

𝜌

𝜕𝑝

𝜕𝑥𝑖

+𝐺𝑖 + 𝑓𝑖 (2)

(1)(2)式において,𝑥は座標,𝑢𝑖は平均速度,𝐴𝑖はi方向の

開水路の断面積,𝑡は時間,𝑉𝐹は流量,𝑝は圧力,𝜌は密

度,𝐺𝑖は加速度,𝑓𝑖は粘性加速度を表している.ここで,

𝑓𝑖は以下のように表される.

𝑓𝑖 =1

𝑉𝐹

[𝜏𝑏,𝑖

𝜌−

𝜕

𝜕𝑥𝑖

(𝐴𝑗𝑆𝑖𝑗)] (3𝑎)

𝑆𝑖𝑗 = −(𝜈 + 𝜈𝑇) [𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑥𝑗

+𝜕𝑢𝑗

𝜕𝑥𝑖

] (3b)

𝜏𝑏,𝑖は壁のせん断応力,𝑆𝑖𝑗はひずみ速度テンソル,𝜈は

動粘性係数,𝜈𝑇は渦動粘性係数を表している.数値流体

力学では,𝜈𝑇を決めるために様々な乱流モデルが用いら

れる.ここではk − εモデルが使われた.このモデルで

は,渦動粘性係数は次のようにあらわされる.

𝜈𝑇 =𝐶𝜇𝑘2

휀 (4)

𝐶𝜇は経験的な係数である.k − ε乱流モデルでは,k, ε

は次の二つの輸送方程式から決定される.

𝜕𝑘

𝜕𝑡+ 𝑢𝑖

𝜕𝑘

𝜕𝑥𝑖

=𝜕

𝜕𝑥𝑖

(𝜈𝑡

𝜎𝑘

𝜕𝑘

𝜕𝑥𝑖

)

+𝜈𝑡 (𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑥𝑗

𝜕𝑢𝑗

𝜕𝑥𝑖

)𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑥𝑗

− 휀 (5a)

𝜕휀

𝜕𝑡+ 𝑢𝑖

𝜕휀

𝜕𝑥𝑖

=𝜕

𝜕𝑥𝑖

(𝜈𝑡

𝜎𝜀

𝜕휀

𝜕𝑥𝑖

)

+𝐶1𝜀

𝑘𝜈𝑡 (

𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑥𝑗

𝜕𝑢𝑗

𝜕𝑥𝑖

)𝜕𝑢𝑖

𝜕𝑥𝑗

− 𝐶2𝜀

휀2

𝑘 (5b)

このモデルでは各係数の値は次のようになる.

𝐶𝜇 = 0.09 , 𝐶1𝜀 = 1.44 , 𝐶2𝜀 = 1.92 , 𝜎𝑘 = 1.0 , 𝜎𝜀 = 1.3

(2) 浅水流方程式(SWE)

連続の式と運動方程式は以下のようにあらわされる.

𝜕(ℎ − ℎ𝐵)

𝜕𝑡+

𝜕[𝑢(ℎ − ℎ𝐵)]

𝜕𝑥= 0 (6)

𝜕𝑢

𝜕𝑡+ 𝑢

𝜕𝑢

𝜕𝑥= −

1

𝜌

𝜕𝑝

𝜕𝑥+𝑔𝑥 + 𝑓𝑥 (7)

𝑡は時間,ℎは水位,ℎ𝐵は床の高さ,𝑢は平均速度,𝑥は

座標,𝜌は密度,𝑝は圧力,𝑔𝑥はx方向の加速度,𝑓𝑥は粘

性抗力を表している.ここで静水圧を仮定しているため,

𝑝 = 𝑝0 + 𝜌𝑔𝐻 (8)

𝑝0は大気圧,𝐻は流体高さである.VOF法から,流体高

さについて次の式が得られる.

𝐻 = (1 − 𝑉𝐹)𝛿𝑧 + 𝐹 ∙ 𝑉𝐹 ∙ 𝛿𝑧 (9)

ここで,𝛿𝑧は計算格子の高さ,Fは流体の充填率をあら

わす.(1 − 𝑉𝐹)𝛿𝑧は地盤高を示すためℎ𝐵とできる.CV

の中央の水深は𝐻 − ℎ𝐵 = 𝐹 ∙ 𝑉𝐹 ∙ 𝛿𝑧であらわされる.流

下方向に微小区間を考えているため流体高さは

𝐻 − ℎ𝐵 = 𝐹 ∙ 𝐴𝑥 ∙ 𝛿𝑧とあらわすことができる.これを

(6)式に代入すると新たな式(10)が得られる.

𝜕(𝑉𝐹𝐹)

𝜕𝑡+

𝜕(𝑢𝐴𝑥𝐹)

𝜕𝑥= 0 (10)

これらの式から水位を求める.

(3)計算領域と条件

計算領域は,RANSのときは長さ8.9m,高さ0.3mで,

SWEモデルのときは8.9m,0.5mであった.水路は壁も

床も摩擦がなかった.長さ4.65m,高さ0.25mの貯水槽に

ためられた水の流量が初期条件として定義された.下流

側は長さ4.35m,高さ0.025mと0.1mの水位が決められた.

水表面の算出にVOF法を用いることによって,空気と水

Page 27: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

面の境界条件としてせん断応力と大気圧がゼロ,速度は

ゼロとされた. 計算領域は,網目状のセルに細分化さ

れ,RANSでもSWEでも一辺5mmとされた.セル数は,

RANSにおいて331452個,SWEにおいて26730個で計算

時間はRANSが130分,SWEは3.4分であった.時間は

SFL条件に従って決定した.

4.結果と考察

(1)実験結果

図2は,𝛼 =0.1と0.4のときの,水位変化を表す画像で

ある.下流側の水が赤く,貯水槽の水が緑に染められて

いる.図2-1は,𝛼 =0.1の波の方が0.4のときよりも速い

ということを示す.𝛼 = 0.1では乱流が生じている.反

射波は𝛼 =0.4の波の方が0.1よりも速くなっている.

𝛼 =0.1のときのP2P4P5の水位の時間変化は図3-1に示さ

れている.図では,無次元量を得るために座標xと水深h

は貯水槽の水深ℎ0で除されていて時間tは√𝑔/ℎ0がかけら

れている.ここで,gは重力加速度である.波が反射した

後は起伏ができている.P2からP5まで波が到達する時間

は9.5で反射波がP5からP2に到達する時間は18.8である.

このように,垂直壁に当たって反射した波は,エネル

ギーが消費され流速がおよそ半分くらいになる.図3-2

は,𝛼 =0.4のときのP2,4,5の位置の水位の時間変化であ

る.波動は𝛼 =0.1のときと比べると著しい.時間が経過

すると,波の振幅は減少していく.P2からP5の到達時間

は9.7,その逆は13.5である.このように,垂直壁にあ

たって反射した波は,エネルギーを消費しているため,

流速は28%ほど減少している.𝛼 の値が大きい方が反射

波の速度は大きい.最近の研究では,深さの比𝛼が減る

とエネルギー損失は増えると示されている.𝛼 =0.4のと

きの波動の発生は,初期水位が高いと乱流にならず,エ

ネルギーの損失が少ないということを示している.

図2-1:波の伝播の様子(反射前)

図2-2:波の伝播の様子(反射後)

図3-1:α =0.1の各観測点の水位

図3-2:α =0.4の各観測点の水位

図4-1:α =0.1のときのP3とP5の実験値と解析値

(2)実験値と計算値の比較

図4-1は,𝛼 =0.1のときの計算値と実験値の水位の比

較を示している.図では,実験値とRANSによる計算値

の芳しい同調が見られる.RANSモデルは反射波の先端

も自由表面での振動も再現している.しかしながら,反

射波の先端の速度をわずかに過大評価している部分もあ

る.SWE法では,静水圧分布を仮定し,垂直方向の加速

度を無視しているため,図における反射波の波動を予測

できていない.反射波の先端では,SWE法は水位の急上

昇を過大評価していて,そこで不連続性が生じている.

Page 28: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

図4-2:α =0.4のときのP3とP5の実験値と解析値

表1:実験値と各解析値との誤差率

𝛼 =0.1での波の先端の実験値と計算値の不一致は,空気

と水の境界面を正確に検知することのむずかしさからき

ている. 𝛼 =0.4のときの水位の時間変化は図4-2に示さ

れている.実験値とRANSの計算値はほぼ一致している.

RANS法は反射波の速度と下流端にぶつかった反射波に

よる自由表面の波動の両方を再現している.しかしなが

ら,下流側の特定の区域で反射波の先端の最大水位をわ

ずかに過大評価している.このモデルにおいて,SWEは

速度の垂直成分を無視したために波面の起伏が予測でき

なかった.SWEの図には反射波の先端において不連続性

があらわれているが,𝛼 =0.1のときは水表面において乱

流が起こっていて水表面の検出が難しい事から,乱流の

少ない𝛼 =0.4のときの方が反射波をよく予測できている

ということがわかる.

RANSとSWEにおける統計的な誤差は,表1に示され

ている.実験値に関する平均絶対誤差が計算された.

RANS法とSWE法の比較は,𝛼 =0.1でも0.4でも,RANS

の方がSWEより良い結果が出ていると示している.はじ

めの水位が小さくなると,乱流が多く発生するようにな

るため,𝛼 =0.1のときはRANSでもSWEでも誤差率は劇

的に増える.

5.まとめ

この研究では,湿潤状態の水路床を通る,ダム決壊に

よる衝撃波が下流端の垂直壁に与える影響について,異

なる二つの放水水位で調査が為された.ダムの決壊によ

り衝撃波が下流端へと流れていき,壁にぶつかり反射波

を生み出し,反射波は振動と共に上流方向へと伝わって

いく.大半の測定箇所において,反射波の速度ははじめ

の水位が上がると速くなっていて,エネルギー損失は,

𝛼が大きくなると小さくなるということを示している.

数値解析と実験との比較から,RANS法での結果は反

射波も自由表面での起伏も程よく再現できているという

こと,また,SWEでは反射波の到達時間の予測に不一致

があるということや波の反射による自由表面での起伏を

予測できていないということが分かる.

ダムの決壊による衝撃波が下流端の垂直壁に与える影

響に関する詳細な実験的な研究が不足しているため,将

来的には,ダムの決壊による衝撃波に対する水位の影響

をよりよく理解するために,𝛼 =0.1~0.4の間の,別の

数値に関しても同じ実験が行われるべきだ.

参考文献

1) Chanson, H., Aoki, S., Maruyama, M., 2000. Experimental

investigation of wave runup downstream of nappe impact:

applications to flood wave resulting from dam overtopping and

tsunami wave runup. Coasral/Ocean Engineering Report, No.

COE00-2, pp. 38.

2) Stoker, J.J., 1957. Water waves. Interscience,

3) Ritter, A., 1892. Die Fortpflanzung der Wasserwellen. Zeitshrift

Verein Deutscher Ingenieure 36(33), pp. 947-954.

4) Chang, T.J., Kao, H.M., Chang, K.H., Hsu, M.H., 2011.

Numerical simulation of shallow-water dam break flows in open

channels using smoothed particle hydrodynamics. J. Hydro.

408(1-2), pp.78-90.

5) Stansby, P.K., Chegini, A., Barnes, T.C.D., 1998. The initial

stages of dam-break flow. J. Fluid Mech. 374, pp.407-424.

Probe

RANS SWE RANS SWEP1 2.61 7.24 2.69 4.61P2 4.91 7.73 3.87 4.48P3 4.60 8.01 2.59 2.89P4 7.08 7.77 2.21 2.99P5 5.26 8.55 2.35 2.89P6 5.56 7.57 2.79 2.95

Average 5.00 7.81 2.75 3.47

α = 0.1 α = 0.4% Errors

Page 29: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

1

防災教育における

洪水対策コンピュータゲーム活用の効果 The effectiveness of a flood protection computer game for disaster education

戸川 直希1

Naoki TOGAWA

1東北大学工学部建築・社会環境工学科津波工学研究室

著者:Meng-Han Tsai, Yu-Lien Chang, Catherine Kao, Shin-Chung Kang

出典:Visualization in Engineering(2015) 3:9, doi:10.1186/s40327-015-0021-7, 2015

台湾では,毎年台風や大雨による洪水やその被害が発生し,人命や財産に大きな被害を与え

ている.大雨や洪水の知識や経験を次世代へ伝えていくためには,防災教育が必須となる.し

かし,台湾での現行の防災教育カリキュラムは,知識を教えることに止まっている.したがっ

て,本研究においては生徒に実践的な経験を与え,Game-Initiated Learning(GIL)という概念に基

づく,学習意欲を持ってもらうための新たな教育手法を開発した.その手法を,台湾の高校生

を対象として実施した.その際に,評価の視点として,1)対象者の学習への意欲,2)ゲーム運

用能力,3)災害話題への関心の3つを観測した.その結果から,GILは生徒の学習意欲を向上さ

せ,行動変化をもたらす可能性があることが明らかになった.

Key Words : ゲームを用いた教育,防災教育,行動モデル,学習意欲,洪水対策

1. はじめに

(1) 背景

台湾では,毎年台風や大雨による洪水・洪水被害に悩

まされている.このような地域では,後世へ実際の教訓

や経験を伝承していく必要がある.したがって,防災教

育が必要不可欠となってくる.しかし,現行の防災教育

カリキュラムは,理論的で概念的な知識とそれを教える

事に止まっている.近年,防災教育に限らず教育現場で

は,Game-based education1)としてゲームが活用されてい

る.Game-based educationは,ゲームをすることで知識を

学ぶことを目的としている.それに対し,本研究で開発

された新たな学習教育手法であるGame-Initiated

Learning(GIL)は,初めにゲームを行い,内容について対

象者間で議論を行い,最後にこちらから提供したタブ

レットから必要な情報を得る自己学習を行うといった3

段階構成となっていることである.本研究では,このよ

うに対象者に実践的な経験を与え,学習意欲を持っても

らう学習教育手法を開発する事を目的としている.

(2) 前提となる理論的行動モデル (FBM:Fogg

Behavior Model)

今回,GILを開発する上で前提となった人間の理論的

行動モデルとして,Fogg Behavior Model(FBM)2)があげら

れる.FBMは,意欲・能力・刺激の3要素が同時に働く

事によって,人の行動が起こることを示している.この

モデルでは,図-1に示すように意欲と能力はそれぞれ,

図-1 FBMの概念図

Page 30: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

縦軸と横軸にとられる.よって,FBMの概念において

は,意欲・能力が人間には備わっており,刺激は図中の

矢印や四角で囲まれた外発的なものであるといえる.刺

激は3種類あり,それぞれ「助長する刺激」,「合図を

与える刺激」,「活気を与える刺激」と呼ばれる.例え

ば,人の能力が高く,意欲が低い状態の時には行動は起

こらないが,そこに「活気を与える刺激」が働く事に

よって,行動が起こるということを示している.本研究

におけるGILの開発は,FBMの理論とGame-based

educationを結びつけたものである.また,GILはFBMに

おける「活気を与える刺激」として定義している.

2. リサーチクエスチョンと研究方法

本研究では,設計したゲームが「活気を与える刺激」

としての役割を果たしているかどうか,また実際の対象

者が低意欲・高能力(非行動領域)から高意欲・高能力

(行動領域)へと意欲を助長させているか評価する実験

を行う.本研究においては,行動変化を以下の3点のよ

うに定義する.1)生徒が意欲的に学習プロセスに携わ

ること,2)進んで学習すること,3)より多くの知識を

得ようとする強い意志があること.

GILが効果的に働いているかどうか判断するために,

以下のように,意欲・能力・災害話題への関心を分析す

る視点を定めた.

1) 意欲:意欲を表す3つの誘因の組み合わせとして,

喜び・苦しみ,期待・恐れ,社会的受容性・社会

的拒絶があげられるが,本研究では,喜び,期待,

社会的受容を選択した.

2) 能力:FBMの中では,時間・お金・体力・頭の回

転・社会逸脱性・非日常の6要素を用いて定義され

ている.しかし,本研究においては,対象者のス

ケジュール調整を行い,無償で行ったこと等から,

特に“頭の回転”の要素に着目した.

図-2 ゲーム画面

3) 災害話題への関心:ゲーム中,後の生徒の様子を

ビデオや観測者の自由記述によって記録し,内容

を4種に分類した.

3. ゲーム(Flood Protection)の設計

ゲームは6レベルまで用意され,レベルごとに地図が

指定されている.また,図-2に示すように各レベルには

洪水から保護すべき3地域が存在する.各地域は,税

率・資金・人口・洪水への抵抗力のような資本を所有し

ている.各レベルにおいて,5回の洪水の原因となる波

が発生するため,それぞれの地域を土のう・ポンプ・堤

防・遊水地・屋上緑化・街路緑化の6種類の工学的手法

によって洪水対策を行う.また,これらの工学的手法は

レベルが上がるごとに追加され,レベル6ではすべての

手法が使用可能となり,対象者はより多くの手法によっ

て洪水対策をすることが可能となる.選択肢が増えたこ

とによって,対象者は試行錯誤の基礎を学ぶことができ

る.すなわち,このゲームの目的は,洪水対策について

学ぶだけではなく,生徒の学習意欲が刺激される事にあ

る.

4. 実験(評価の仕方,定義,結果)

本研究は,予備テスト・実地調査・事後分析の 3 段

階に分けることができる.予備テストの段階では,専門

家のグループディスカッションや専門家へのパーソナル

インタビューによって,設計したゲームが防災教育の内

容として適切か精査した.ゲーム実施前には対象者へ,

洪水に関する講義や訓練に参加した経験の有無を問うア

ンケート調査も行った.本研究における対象者は,台湾

南部に位置するフウェイ高校の生徒 33 人であり,内訳

を男女別で見ると,男子 7人,女子 26人で,学年別で

図-3 本研究の流れ

Page 31: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

見ると,1 年生 25 人,2 年生 6 人,3 年生 2 人となって

いる.事前アンケート調査の結果によると,全 33 人の

うち,24 人は水資源・洪水に関連した講義を受けた事

はなく,31 人は洪水対策訓練等に参加したことがな

かった.実地調査では意欲・能力・災害話題への関心を

分析するために,対象者の表情や発言,コンピュータの

画面,マウスの動きを記録した.その後,それらの記録

を基にして,MORAE(既存ソフトウェア)を用いて,

ゲームのレベル毎に分類し,対象者の反応にマーカーを

付ける処理を行った.その処理後,学習意欲を向上させ

たかどうか,行動変化を起こさせたかどうかについて事

後分析を行った.

(1) 対象者の学習意欲

期待・喜びの指標を観測する下位の指標として,

Discussion・Question・ Laugher・Screamingを導入した.

表-1 各レベルにおける各数値(回数)

ゲーム前は,生徒間での災害関連の会話はほとんどな

く静かな状態であったが,ゲーム開始後は洪水関連の会

話・質問が増加していた.ゲームを拒むことなくプレイ

していることから,対象者の社会的受容が高いと判断で

きる.また,会話の内容を分類したところ生徒の会話は,

表-1のように分類する事ができた.ゲーム開始前の会話

や特徴的な表情はほとんどなかった.そのため,特徴的

な表情が見られなかった状態と,表-1の値と比較すると,

全ての指標において,何らかの反応が出ていると見る事

ができる.したがって,期待の指標であるDiscussion・

Question が向上し,喜びの指標である Laughter ・

Screamingも向上していると判断できる.これらより,

全ての視点を満たしていると判断できる.

(2) 対象者のゲーム運用能力

ゲーム運用能力について,コンピュータの画面やマウ

スの動きの記録から分類した.このとき対象者の能力を

4段階に分類する.ゲームレベル1~3のときは,能力の

段階がKnownであるとき,ゲームレベル4~6のときは

Fluentであるときに,対象者の能力が高いと判断する.

また,多くの対象者がこの条件を満たしたとき,対象者

全体の能力が高いと判断する.

本研究では,各レベルにおける成功・失敗は考慮せず,

ゲーム運用能力に着目すると,79%の対象者の能力段階

が,Knownであった.このことから,対象者のゲーム運

用能力は高いと判断する事ができる.

1) Explore:それぞれのゲームの始めに,自分の興味の

あるものを探すのにマウスを動かす.

2) Aware:土のう,ポンプ,堤防,調整池,屋上緑化,

街路緑化の工学的手法に対応する新しいアイコンに

気付き,新たな手法を用いようとクリックする.

3) Fluent:すらすらと工学的手法を用いる事ができる.

4) Known:ためらいなく,基礎となっている概念を理

解し,工学的手法を用いる事ができる.

図-4 ゲームを行っている様子

(回)

平均 合計 偏差 中央値

レベル1 7.09 78 1.64 8.0

レベル2 8.64 95 3.83 8.0

レベル3 9.18 101 2.14 9.0

レベル4 8.82 97 2.79 8.0

レベル5 8.27 91 3.64 9.0

レベル6 8.55 94 1.29 9.0

合計 50.5 556 7.66 50

平均 8.42 93 1.28 8.3

レベル1 3.73 41 2.57 4.0

レベル2 2.27 25 1.62 2.0

レベル3 2.27 25 1.10 2.0

レベル4 2.27 25 1.49 2.0

レベル5 2.00 22 2.14 1.0

レベル6 2.36 26 1.43 3.0

合計 14.9 164 3.81 15

平均 2.48 27 0.63 2.5

レベル1 3.00 33 2.61 2.0

レベル2 3.91 43 2.77 4.0

レベル3 5.27 58 2.76 5.0

レベル4 4.91 54 1.76 5.0

レベル5 5.55 61 2.54 6.0

レベル6 5.00 55 4.00 4.0

合計 27.6 304 14.7 26

平均 4.61 51 2.45 4.3

レベル1 3.00 33 1.48 3.0

レベル2 3.55 39 1.69 4.0

レベル3 3.27 36 2.05 2.0

レベル4 2.45 27 1.57 3.0

レベル5 2.45 27 1.37 3.0

レベル6 2.73 30 1.27 3.0

合計 17.5 192 7.33 20

平均 2.91 32 1.22 3.3

Discussion

Question

Laughter

Screaming

Page 32: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

(3) 対象者の災害話題への関心

災害話題への関心は,質問・議論の内容をQuestions・

Findings・Strategies・Othersの大きく4種に分類した.そ

の際に回収できたデータが多いことは,会話や議論が多

いと判断でき,加えてその内容が洪水と深く関係してい

るならば,対象者の災害話題への関心は向上し,学習意

欲が刺激されたと判断される.

本研究で観測者による自由記述や,ビデオによる記録

から回収された全256個の質問・意見のうち,73%は洪

水関連であった.また,街路緑化・屋上緑化・遊水地は

対象者にあまりなじみがなく,興味を示して使用してい

た.そのため,対象者の関心は向上し,学習意欲が刺激

されたと判断できる.

表-2 対象者の議論・意見を分類したもの

5. 考察・結論

現行の防災教育カリキュラムでは,教科書が面白くな

く,やりがいも感じられない.加えて広範囲に渡る暗記

や,それに伴った課題が出されている.これらのことに

よって,教育の対象者は意欲が低い状態にあった.しか

し,本研究によって開発された新たな教育手法としての

GILは,以下の3視点の結果から,ゲームをすることか

ら得られた喜びの結果として,対象者の学習意欲が向上

していると判断できる.

1) 対象者の学習意欲:観測者の自由記述・ビ

デオの記録から,ゲーム開始前は静かだっ

た対象者が,ゲーム開始後には活発に会

話・議論をしていた.それは,表-1 の観測

の結果からも読み取る事ができ,4 種の指

標から,対象者の意欲を定義した際の 3 視

点,期待・喜び・社会的受容性が観測でき

たため,対象者の意欲は向上したと結論付

けられる.

2) 対象者のゲーム運用能力:ゲームの各レベ

ルにおいて,開始後すぐに新しいアイコン

を見付け,使用することができていた.ま

た,79%の生徒が Known の段階に位置し,

多くの生徒はゲームの使い方を理解し,進

めることができていた.したがって,対象

者のゲーム運用能力が高いと結論付けられ

る.

3) 対象者の関心:観測の結果から,全 256 個

の対象者の会話・議論の内容は,災害話題,

今回は特に洪水についてのものが多く観測

できた.

これらの結果より,本研究において開発されたコン

ピュータゲームが「活気を与える刺激」として有効に働

いたと考えられる.したがって,GILは防災教育を学ぶ

手法として,有効である可能性がある.

参考文献

1) Sarah Chen Lin, Meng-Han Tsai, Yu-Lien Chang and Shih-Chung

Kang: Game-Initiated Learning A Case Study For Disaster

Education Research In Taiwan, Papers from the 2013 AAAI Spring

Symposium, pp.67-71.

2) BJ Fogg: A Behavior Model for Persuasive Design, Proceeding

Persuasive '09 Proceedings of the 4th International Conference on

Persuasive Technology Article No. 40.

分類 数 内容 洪水 ゲーム

11なぜ,私たちはお金がないの?/

なぜ,私たちはお金を稼ぐのをやめなきゃいけないの?○

11 お金のつくりかたは? ○ ○

11 アイコンの記号はなんですか? ○

10 私たちはどこに土のうをおけばいいですか? ○ ○

10 なぜ,ポンプや土のうはなくなったんですか? ○ ○

9 なぜ,洪水は起こったんですか? ○

8 どこのエリアがよりお金をかせげますか? ○ ○

8 青い円で囲まれたところはなんですか?洪水エリアですか? ○

7 公園の目的はなんですか?遊水地? ○

5 屋上緑化の目的はなんですか? ○

4 街路緑化の目的はなんですか? ○

4 街路緑化はどこに置いたらいいですか? ○

4 私たちは堤防を動かしたり,売ったりできるんですか? ○ ○

2 なぜ,このゲームは中国語じゃなく,英語なんですか? ○

1 この街は台湾ですか? ○ ○

9 土のうはしばらくの間使っていると,消える. ○ ○

8 堤防は永久洪水対策構造物である. ○

8 青い円は洪水エリアである. ○

7 指標が幸せな指標である.それはとても大切な事のようだ. ○

7 あまり洪水の起こっていない地域は,よりお金を稼いでいる. ○ ○

7 それを正しい場所に配置したとき,洪水は軽減した. ○

6 商業区域はとても早くお金を稼いでいた. ○

6 幸せの指標が消えたとき,ゲームは失敗する. ○

5 ポンプはとてもパワフルだ. ○ ○

5 遊水地は高価だが,大変効果的である. ○

5 私たちは,初めにお金を稼がなくてはならない. ○

5 特別地域は,特別な手法でで守るべきである. ○

4 街路緑化は高価だが,大変効果的である. ○

2 土のうはとても使い勝手が良い. ○

7 私たちは,よりお金を稼ぐ地域を救わなければならない. ○

6 建設開始前に,もっとお金を稼ごう. ○

6 新しい洪水緩和手法を使ってみよう. ○

5 全域でポンプを使ってみよう. ○

4 河川の全流域が洪水緩和手法が必要だ. ○

4 私たちは最大の洪水地域を緩和すべきだ. ○

4 川の曲がっているところに,堤防を置く. ○

3 私たちは洪水円の近くにポンプを置くべきだ. ○

2 私たちは土のうを間隔をもって配置すべきだ. ○

2 川の曲がっているところに,ポンプを置く. ○

1 川の曲がっているところに,土のうを置く. ○

1 私たちは,ポンプと土のうを間隔をもって配置すべきである. ○

5 私たちは,多様な手法を用いるべきである. ○

6 一つのマウスでは,足りない. ○

6 ゲームがオンラインでできればなぁ. ○

4 タッチ画面で,みんな一緒にやりたいなぁ. ○

1 スポンジ堤防を発明したい. ○

Question

Findings

Strategies

Others

Page 33: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

1

洪水被害額推定における

浸水深,土地利用データ,ダメージモデルの

不確実性の影響

Effect of uncertainty in land use, damage models and inundation depth

on flood damage estimates

中口幸太1

Kota Nakaguchi

1東北大学工学部建築・社会環境工学科 水環境システム学研究室

著者:H. de Moel • J. C. J. H. Aerts

出典:Nstural Hazards, vol58, pp. 407-425, 2011.

オランダの堤防リングと呼ばれる土地を対象として,洪水被害額推定で用いられる3つの要素

(浸水深,土地利用データ,ダメージモデル)に含まれる不確実性の影響を評価した.不確実性を求

めたい要素以外の値を固定して各要素がもつ不確実性の大きさをそれぞれ算出し,推定額における

総合的な不確実性の大きさを導いた.

結果として以下のことが得られた.(1)3つの要素のうち,ダメージモデルの不確実性が洪水被害

推定額に最も影響を与えること.(2)浸水深の変化量を0.25mとした場合の洪水被害推定額は最小値

と最大値で5~6倍もの差があること.

Key Words : 基準浸水深 土地利用クラス 浸水深―ダメージ曲線 潜在的被害額 損傷係数

1.序論

洪水被害はヨーロッパ地方において自然災害による経

済的損失の約3分の1に相当し,暴風に並んで最も頻繁に

発生する自然災害である1).加えて,将来的な気候変動

により洪水の頻度や規模が増加し,さらに洪水被害が増

加すると予測されている2).これらの変化に伴い,ヨー

ロッパでの洪水被害対策は,従来よりもリスクベース的

な視点,すなわち効率的な対策が必要とされている3).

Meyer and Messner4)は洪水被害推定の手法を評価し,

すべての手法において次の3つの要素が含まれているこ

とを示した①浸水深を主とする水文学的要素②土地利用

に関する情報③ダメージモデル.これら3つの要素に含

まれる不確実性は,推定結果に大きな影響をもたらす5).

しかし,洪水被害額推定に関する既存の研究において,

不確実性の評価は1つの要素にしか焦点を当てていない6),

7).例えば,FLORIS study6)では浸水シナリオのみを変化

させて洪水被害額を評価した.また,土地利用データに

含まれる不確実性について言及した研究はない.

本研究の主な目的は, 3つの要素(浸水深,土地利用

データ,ダメージモデル)に含まれる不確実性を同時に

評価することと,洪水被害推定額に含まれる総不確実性

を評価することである.

2.対象地域:オランダ

オランダはヨーロッパ北西部に位置し,国の大部分は

海や川よりも標高が低い.これらの低地は堤防や砂丘に

よって守られており,堤防リングと呼ばれる.

本研究ではオランダの南部に位置するLand van

Page 34: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2

Heusden/Maaskant(堤防リング36)を対象地域とした(図-1).

面積は約740km2,堤防の安全水準は1/1250 (1/年)である.

3.手法

図-2に示すような手順を踏み,3つの要素を用いて洪

水被害額を推定し,不確実性を評価した.ダメージモデ

ルに含まれる浸水深―ダメージ曲線に浸水深と土地利用

データを当てはめることで損傷係数を求め(3.(3)参照),

これを潜在的被害額にかけ合わせ洪水被害推定額を算出

した.不確実性を求めたい要素以外の値を固定し,最大

推定額を最小推定額で除することでその要素の不確実性

を求めた.総不確実性は,3つの要素の不確実性をかけ

合わせて算出した.

(1)要素1:浸水深

洪水の範囲や浸水深,流速,期間など,さまざまな水

文学的要素が洪水被害の大きさに影響を与えるが8),洪

水被害においては浸水深が最も重要なパラメータとされ

ている9).したがって,本研究では水文学的要素につい

ては浸水深のみを考慮した.

対象地域における堤防は,非常に長い再現期間で安全

水準が設定されているため,堤防の越流よりも堤防の決

壊に関連する洪水に注目した.Bouwer et al.10)により作成

された42の決壊シナリオを使用し,各セルでの最大浸水

深を集約して基準浸水深とし,基準浸水深から5cm間隔

で,-1.5mまで各セルの浸水深を減少させた(図-3).本研

究では決壊シナリオではなく,浸水深に含まれる不確実

性の評価を目的としているため,集約したマップから浸

水深を減少させた.したがって,氾濫の確率に関連する

不確実性は考慮しない.

図-1 対象地域

表-1 使用した土地利用データ

Rhine Atlas(DM1) 土地利用クラス 潜在的被害額(€/m²)

居住地 311

産業地 349

インフラ 268

農業地 7

森林 1

その他 0

表-2 潜在的被害額(DM1)

図-3 基準浸水深マップ

図-2 洪水被害額推定の手順

図-4 浸水深―ダメージ曲線(DM1)

土地利用データ名 作成年 解像度

CORINE(CLC) 2000 44 100×100m²

LGN4 1999/2000 40 25×25m²

CBS 2000 38 1:10,000

Top10 2003 100以上 1:10,000

LandUseScanner(LUS) 2000 15 100×100m²

分類する

 クラス数

Page 35: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

3

(2)要素2:土地利用データ

土地利用データを使用し,対象地域をセルごとで各土

地利用クラス(居住地,産業地,森など)に分類する.本

研究では解像度や土地利用クラスの分類数が異なる5つ

の土地利用データを使用した(表-1).

(3)要素3:ダメージモデル

ダメージモデル(DM)は,浸水深―ダメージ曲線と潜

在的被害額で構成されており,グリッドセルごとに浸水

深と土地利用データから洪水被害額を導出するモデルで

ある.浸水深―ダメージ曲線は,浸水深データ・土地利

用データから損傷係数を求める関数であり,潜在的被害

額は浸水時に起こりうる最大の被害額のことである(表-

2, 図-4).また,損傷係数とは潜在的被害額に対する被

害推定額の比率を表す係数である.本研究では浸水深―

ダメージ曲線の形状及び潜在的被害額の大きさの異なる

以下の3つのモデルを使用した.

・(DM1) Rhine Atlas11)

・(DM2) Flemish Method12)

・(DM3) The Netherlands Later13)

4.結果と考察

浸水深の変化量を0m,-0,5m,-1,5mとし,浸水深,土

地利用,ダメージモデルすべての組み合わせから求めた

被害額の推定結果を表-3に示す.

(1)浸水深

浸水深が-0.5m変化すると浸水深の不確実性は1.35

~1.44,-1.5m変化すると不確実性は2.90~3.57と算出され

た.これより,浸水深の変化量が大きくなるほど浸水深

の不確実性も大きくなると推定された.また,現実的な

値として浸水深の変化量を-0.25mと仮定すると,浸水深

の不確実性は約1.2と算出された.

(2)土地利用データ

土地利用データの違いによる不確実性は1.14~1.21と算

出された.これは,土地利用データの解像度や土地利用

クラスの分類数の違いから生じた不確実性である.また,

居住地クラスの被害額は総被害額の60~95%となり,居

住地クラスの被害推定額が土地利用データの不確実性に

大きく関係すると推定された(図-5).

(3)ダメージモデル

表-3のDM1とDM2・DM3の推定結果を比較すると,

DM2とDM3による被害推定額はDM1による被害推定額

の4倍以上であり,ダメージモデルの不確実性は

4.19~4.67で4.0以上と算出された.これは,浸水深―ダ

メージ曲線の傾きや,潜在的被害額の値の違いから生じ

るものと推定された.

以上より,3つの要素のうち,ダメージモデルに含ま

図-5 洪水被害推定額の内訳

表-4 浸水深10cm変化あたりの被害推定額の絶対的・相対的変化

表-3 洪水被害額の推定結果(単位:十億€)

DM1 DM2 DM3 DM1 DM2 DM3

CLC 0.12 0.47 0.42 4.02 - 6.1 5.8 5.3 1.15 -

RS 0.13 0.54 0.48 4.07 - 6.1 5.8 5.3 1.14 -

LGN4 0.11 0.52 0.46 4.62 4.26 6.2 6.2 5.4 1.15 1.14

Top10 0.12 0.55 0.48 4.51 - 6.0 6.1 5.4 1.12 -

CBS 0.11 0.45 0.46 4.09 - 6.0 5.9 5.3 1.14 -

不確実性 1.18 1.22 1.16 1.04 1.06 1.03

平均 - 1.19 - - 1.04 -

土地利用データ 不確実性 平均 不確実性 平均絶対的推定額変化(€bn/10cm) 相対的推定額変化(%/10cm)

土地利用データ

浸水深の変化量 -1.5m -0.5m 0m -1.5m -0.5m 0m -1.5m -0.5m 0m -1.5m -0.5m 0m -1.5m -0.5m 0m

DM1 0.62 1.51 2.16 0.51 1.26 1.82 0.54 1.34 1.91 0.59 1.42 2.02 0.54 1.31 1.86

DM2 2.81 6.60 9.24 2.41 5.94 8.50 2.36 5.71 8.00 2.62 6.33 9.02 2.27 5.47 7.68

DM3 3.11 6.64 9.01 2.82 6.17 8.42 2.66 5.83 7.89 3.03 6.56 8.94 2.97 6.39 8.63

CBS 2000LUS 2000 LGN4 CLC 2000 Top10

Page 36: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

4

れる不確実性が最大となった.すなわち,浸水深―ダ

メージ曲線と潜在的被害額は洪水被害額推定において推

定結果に大きな影響を与える.

また,浸水深,土地利用データ,ダメージモデルの不

確実性をかけ合わせた結果,洪水被害推定額に含まれる

不確実性は5~6と算出された.

(4)絶対的・相対的変化

一般的に,洪水被害額の評価では,現在の被害額状況

と比較をして被害額の変化を考える14).これにより,洪

水被害推定額に対する土地利用の変化や気候変動の影響

を推定することができる13).表-4は浸水深が10cm当たり

変化した場合の,被害推定額の絶対的変化と相対的変化,

及びそれらの不確実性を示している.これは-0.5m~0m

の浸水深変化の範囲で,ダメージモデルと土地利用マッ

プの全ての組み合わせについて計算した.ダメージモデ

ルの違いによる絶対的・相対的推定額変化はそれぞれ

4.26,1.14と算出され,土地利用データの違いによる絶

対的・相対的推定額変化はそれぞれ1.19,1.04と算出さ

れた.これより,絶対的推定額変化に含まれる不確実性

は,相対的推定額変化に含まれる不確実性よりも大きい

ことが示された.

5.結論

洪水被害額推定で用いる3つの要素(浸水深,土地利用

データ,ダメージモデル)に含まれる不確実性を同時に

評価することと,推定結果に含まれる総不確実性を評価

することを目的として洪水被害額を推定した.結論とし

て以下のことが得られた.

・浸水深の変化量を-0.25mとすると浸水深に含まれる不

確実性は約1.2,土地利用に含まれる不確実性は

1.14~1.21,ダメージモデルに含まれる不確実性は

4.19~4.67であり,洪水被害推定額に含まれる総不確実

性は5~6である.

・ダメージモデルに含まれる不確実性が洪水被害額推定

に最も大きな影響を及ぼす.すなわち,浸水深―ダ

メージ曲線と潜在的被害額は,洪水被害額推定におい

て非常に重要である.

・絶対的推定額変化に含まれる不確実性は相対的推定額

変化に含まれる不確実性よりも大きい.

参考文献

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Page 37: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

2011年東日本大震災における

住民の避難行動と死亡率 Evacuation Behavior and Fatality Rate of Residents

during the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami

長谷川夏来1 Natsuki Hasegawa

1東北大学工学部建築・社会環境工学科津波工学研究室

著者:Nam-Yi Yun, and Masanori Hamada

出典:EARTHQUAKE SPECTRA (2015,doi: 10.1193/082013EQS234M)

2011年の東日本大震災での津波被災地を対象に株式会社ウェザーニューズが行った,生存者

と犠牲者両方の実際の避難行動についてのアンケート結果1)を分析し,津波災害における人的

被害に影響する要素を検討した.その結果,避難開始時刻,避難距離,被災者の年齢および職

業が死亡率に大きく関わることが分かった.

さらに,岩手県と宮城県の浸水域内101小地区のデータを用いて,津波高さ,津波到達時間,

避難場所までの距離,地域の高齢化率,地形といった要素が死亡率に与える影響を分析した.

これらの結果から,津波被害に遭う恐れのある地域では,人的被害軽減のために考慮すべき要

因として,避難行動,避難場所の立地,地形,高齢化率を示した.

Key Words : 東日本大震災,避難行動,死亡率

1.はじめに

津波による人的被害の想定は,これまで多くの研究2) 3)

4)がなされ,様々なモデルが構築されてきた.しかし,

既往の研究の課題として,特定の一地域のみに着目して

いること,死亡率に対する説明変数として含む要素が少

なく,十分に死亡率を表すことができないことが挙げら

れる.加えて,犠牲者のデータは収集が困難であったた

め避難行動の分析には,生存者のデータのみが使われて

きた.

2011年の東日本大震災においては,地震とそれに伴う

津波により,複数の県わたり甚大な被害が発生した.そ

のため災害発生後には,広域かつ大量のデータが収集さ

れ,死亡率に影響する複数の要素の検討が可能になった.

本研究においては,東日本大震災で得られたデータを

対象に,生存者と犠牲者両方のデータを分析し,津波高

さに加え避難行動,避難所の立地,地形,高齢化率とい

う複数の要素を考慮した,新たな人的被害算定モデルの

構築を目的とする.

2.解析データセット

本研究ではデータセット1およびデータセット2と呼ぶ,

2つのデータセットを用いて統計分析を行う.

(1) データセット1

データセット1として,株式会社ウェザーニューズ1)が

2011年5月18日から6月12日にかけて行ったアンケート結

果を使用する.アンケートは北海道,青森県,岩手県,

宮城県,福島県,茨城県,千葉県の東日本大震災におけ

る被災者を対象とし,インターネット上で回収された.

回答数は5,296件であり,そのうち3,298件は震災の生存

者自身にかかわるもの,1,998件は犠牲者の行動につい

ての目撃情報である.本研究では,全5,296件の回答の

うち,特に被害の大きかった岩手県,宮城県の被災地で

回収された1,153件(生存者522件,犠牲者631件を含む)

の回答を分析する.

アンケート項目のうち,本研究では以下の5つを扱う.

Q1:津波避難を開始するまでにかかった時間

Q2:避難を開始したきっかけ

Q3:自分が生き残った(亡くなった)理由

Q4:津波が起きる前に,行っていた災害対策

Q5:震災当時の年齢,職業,住所,性別

(2) データセット2

データセット2として,東日本大震災における犠牲者

の氏名,年齢,性別,住所,津波の最大浸水深と到達時

間,避難所と一時避難場所の情報,地域ごとの死者数と

死亡率を使用する.集計したデータ内容とその出典もと

Page 38: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

は表-1に示すとおりである.なお,本論文においての死

亡率(FR: Fatality Rate)の定義を式(1)のように定める.

死亡率 (%) = 浸水域での死者行方不明者数 (人)

2010年時の総人口 (人) (1)

対象とするのは宮城県と岩手県の沿岸13市町村であり,

Stewartら10)をもとに,地形特性により三陸海岸(宮古市,

山田町,大槌町,釜石市,大船渡市,陸前高田市,気仙

沼市,女川町)と,仙台平野(石巻市,東松島市,多賀

城市,名取市,岩沼市)を区別した.

谷9)によると,市町村合併により市町村が広域化して

いる近年では,津波被害の特徴を把握する際に市町村単

位で分析を行うと,浸水していない地域の情報も含まれ

てしまうため,被害の特徴を十分に捉えることができな

い.そこで,人的被害の特徴を十分に理解するために13

の市町村を101の小地区に区分して分析を行った.

3.分析手法

(1) データセット1

アンケート結果を,地震発生から避難開始までの時間,

年齢,職業,事前の備えについて,生存者と犠牲者別に

整理した.さらに,対象とする1,153件のうちの610件の

回答(生存者457件,犠牲者153件)を使用し,条件付ロジ

スティック回帰分析11)によりどのような個人特性が死亡

率の上昇に寄与するか分析した.

(2) データセット2

データセット1の分析結果を踏まえ,データセット2の

分析では,高齢化率,津波最大波の到達時間および避難

場所までの距離によって,津波高さと死亡率の関係を整

理し,各項目で整理した津波高さと死亡率の関係を定性

的に考察した.

また,新たなパラメータとして‛speed’を式(2)のよう

に定義し,死亡率との関係を整理した.speedは,津波

から生き延びるために必要な避難の速度の最低限度を示

すパラメータである.

speed(m s⁄ ) =避難距離 (m)

津波到達時間 (s) (2)

続いて,津波高さに加え,津波到達時間,高齢化率,

居住区から避難場所までの距離,speed,地形特性の違

いを説明変数として,重回帰分析により死亡率算定のた

めの新たな回帰モデルを構築した.

4.分析結果

(1) データセット1

データセット1を用いて条件付ロジスティック回帰

分析を行い,どのような個人特性が津波による死亡率を

上昇させるのかを分析した.それにより得られた標準回

帰係数を,表-2に示す.標準回帰係数が大きいほど,死

亡率に強く影響し,津波災害弱者となりやすい特性であ

ると示される.標準回帰係数の右肩の記号はP値の大き

さを表し,p<0.10ならば+,p<0.05ならば*,p<0.01なら

ば**と表記する.括弧内の数値は標準誤差である.

表-2中のモデルAでは,事前の備えの影響を分析して

いる.「防災訓練に参加」,「不参加だが避難ルートを

歩いた経験があった」, 「不参加だが避難ルートを知っ

ていた」, 「不参加だが避難場所を知っていた」, 「不

参加かつ避難場所とルートに関する知識なし」の5つを

比較している.モデルAから,事前準備の差は死亡率に

ほとんど影響しないと示唆された.

一方,表-2中のモデルBでは防災訓練へ参加していた

か否かの影響を確かめた.モデルBより,防災訓練への

参加についての標準回帰係数は負の値を取り,防災訓練

への参加が死亡率の低下に影響すると示唆された.

年齢に着目すると,モデルA,モデルBいずれも標準

回帰係数が0.75となっており,年齢が死亡率に大きく影

響すると示され,高齢者が津波災害弱者となる傾向が確

認された.

最後に,避難開始までの時間に着目する.ここでは,

「すぐに避難」,「20分以内に避難」,「20分以上後に

避難」,「避難せず」を比較しており,避難開始時間の

遅れが死亡率を上昇させると示唆された.

以上より,早期避難と防災訓練への参加が死亡率を低

下させ,高齢者は津波災害弱者となりやすい傾向にある

ことが統計的に示された.

表-1 データセット2の内容とその出典もと

データ内容 出典もと

各県の犠牲者氏名

総務省消防庁 5) 各県の犠牲者年齢

各県の犠牲者性別

各県の犠牲者住所

津波最大浸水深 東北地方太平洋沖地震津波

合同調査グループ 6) 津波到達時間

航空写真 国土地理院

地図 日本地理学会津波ダメージマッピ

ングチーム 7)

避難所データ 内閣官房国民保護ポータルサイト 8)

一時避難場所 津波ハザードマップ(無い地域では

山の麓を一時避難場所と定義)

小地域ごと死者数 谷の研究9)

表2-死亡率を上昇させる個人特性

個人特性 モデルA モデルB

年齢 0.75** (0.17) 0.75** (0.17)

性別 1.15 (0.39) 0.17 (0.39)

被災場所 -0.06 (0.32) -0.05 (0.35)

避難開始までの時間 0.69** (0.12) 0.70** (0.13)

事前準備 -0.1 (0.08) - -

防災訓練参加/不参加 - - -0.87** (0.12)

職業

会社員 - - - -

主婦 0.49 (0.33) 0.45 (0.45)

小企業勤務 0.67** (0.11) 0.65** (0.65)

生徒,学生 1.92+ (1.02) 1.97* (1.97)

漁業関係者 1.78** (0.26) 1.77** (1.77)

建設業 0.48 (0.74) 0.47 (0.47)

医療関係者 0.22 (0.21) 0.17 (0.17)

消防士 1.58+ (0.84) 1.62+ (1.62)

その他 0.53** (0.11) 0.53** (0.53)

Page 39: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

(2) データセット2

(a) 津波高さと死亡率の関係

データセット2を,津波高さと死亡率で整理したもの

を図-1に示す.仙台平野においては津波が高くなるほど

死亡率も高くなるが,三陸海岸においてはそのような傾

向は見られないことから,死亡率は津波高さとの関係だ

けでは単純に決まらないと考えられる.

(b) 津波最大波の到達時間での整理

津波高さと死亡率の関係を,最大波の到達時間で整理

したものを図-2(a),(b)に示す.東日本大震災の際に,気

象庁が当初発令した津波警報の予想高さを,地震発生か

ら40分後に上方修正した.これを考慮し,津波到達時間

40分を境にデータを整理した.図-2(a)に示す津波到達時

間40分以下であった地域では,津波高さと死亡率に相関

は見られない.一方,図2-(b)に示す津波到達時間40分以

上の地域では,仙台平野と三陸海岸のいずれでも,津波

高さが大きくなると死亡率も上昇する傾向が見られる.

40分以下の地域の多くを占める三陸海岸の地域において

高い津波にもかかわらず死亡率が大きく上昇しなかった

のは,地形特性上避難場所となる高台が住宅地から比較

的近く,津波到達前に避難を完了できたためだと考えら

れる.

(c) 高齢化率での整理

津波高さと死亡率の関係を,地域の高齢化率で整理し

たものを図-3(a),(b)に示す.図-3(a)に示す高齢化率30%

以下の地域では,津波高さが大きくなるにつれ,死亡率

も上昇する傾向が見えるが,図-3(b)に示す高齢化率30%

以上の地域では,傾向が見られない.

Brittinghamら12)によると,高齢者が犠牲者となりやす

い傾向にあるのは,速く走れない,運転に支障がある,

情報収集が困難であるといった,身体的なハンディ

キャップに原因があるとされる.このことから,高齢者

という特性が死亡率を増加させるのは,避難場所までの

距離など,避難の要因が影響すると示唆される.

(d) 避難距離での整理

津波高さと死亡率の関係について,居住区と避難場所

の距離で整理したものを図-4(a),(b)に示す.ここでの避

難距離は,対象地区内を250m四方のブロックに分割し

た,その中心と最寄りの避難場所との直線距離を,地区

全体で平均した値と定義した.また,人の歩く速度を

17.3cm/sと定め13),40分間で移動できる距離 415mを境

にデータを整理した.

図-4(a)より,避難距離が415m以下の地域では津波高

さに関わらず死亡率が6%以下になっている.このこと

から,住民が安全な場所にすぐに避難することができる

環境下では,高い津波が襲来したとしても死亡率は一定

値以下になる可能性がある.

津波の犠牲者とならないためには,津波到達前に避難

場所までたどり着く必要がある.そのため,死亡率を考

慮するうえでは,避難距離と津波到達時間の両方を同時

に考慮することが望ましい.

そこで,両方の要素を同時に考慮できるパラメータと

して式(2)で提案したspeedを用いる.図-5はspeedと死亡

率との関係を整理したものである.図-5より,三陸海岸

では,speedが大きくなるにつれ死亡率も上昇する傾向

にある.一方仙台平野においては,speedと死亡率の相

関は低い.このことから,三陸海岸においては早期避難

が死亡率を低下させる傾向が見られる.

図-3 津波高さと死亡率の関係を高齢化率30%以下

の地域で整理(a)および30%以上の地域で整理(b)

図-4 津波高さと死亡率の関係を避難距離415m以下

の地域で整理(a)および415m以上の地域で整理(b)

図-5 speedと死亡率との関係

図-1 津波高さと死亡率の関係

図-2 津波高さと死亡率の関係を津波到達時間40分以下

の地域で整理(a)および40分以上の地域で整理(b)

Page 40: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

(e) 新たな被害算定モデルの構築

これまでの分析を踏まえ,重回帰分析により死亡率を

算定する新たな重回帰モデルを構築する.まず,13市町

村に対して回帰モデルを構築し,被害算定モデルに有用

な説明変数を確認する.津波高さ𝐻𝑡(𝑚)と,到達時間

𝑇𝐴(分)のみを説明変数に含むモデルとして,式(3)が得ら

れる.

FR = 0.50𝐻𝑡 − 0.01𝑇𝐴 (3)

(𝑁 = 13, 𝑅2 = 0.79)

さらに,説明変数として避難距離𝐷(𝑚)および高齢化率

𝐴(%)を加え,新たな回帰モデル式(4)を得た.

FR = 0.29𝐻𝑡 − 0.10𝑇𝐴 + 0.02𝐷 + 0.06𝐴 (4)

(𝑁 = 13, 𝑅2 = 0.85)

これらはいずれも F検定およびt検定を満たし有意で

あった.また,式(3)に比べ式(4)ではより良く死亡率を

表すことができた.このことから,津波高さ,津波到達

時間,避難距離,高齢化率といった説明変数が将来の津

波の人的被害算定に有用であると示唆された.

続いて,対象を13市町村から101の小地域に細分化し

新たな回帰モデルを構築する.101の小地域に対して,

津波高さのみを考慮すると,式(5)が得られる.

𝐿𝑛 𝐹𝑅 (%) = 0.58 ∗ 𝑙𝑛 𝐻𝑡 − 0.01 (5)

(𝑁 = 101, 𝑅2 = 0.23)

ここに,前述の4つの要素に加え,speedを表す変数とし

て 𝑆𝑝𝑒𝑒𝑑(𝑚/𝑠)を,地域を区別するためのダミー変数と

してR(三陸海岸R=0,仙台平野R=1)を導入し,式(6)

および式(7)を得た.

𝐿𝑛 𝐹𝑅 (%) = 0.63 ∗ ln 𝐻𝑡 + 0.54 ∗ ln 𝑆𝑝𝑒𝑒𝑑

+ 0.86 ∗ 𝑙𝑛𝐴 + 0.6 ∗ 𝑅 – 2.36 (6)

(𝑁 = 101, 𝑅2 = 0.40) 𝐿𝑛 𝐹𝑅(%) = 0.61 ∗ ln 𝐻𝑡 + 0.87 ∗ ln 𝑆𝑝𝑒𝑒𝑑

+0.86 ∗ 𝑙𝑛𝐴 − 0.25 ∗ 𝑅

– 0.57 ∗ 𝑅 ∗ 𝑙𝑛𝑆𝑝𝑒𝑒𝑑 − 1.77 (7)

(𝑁 = 101, 𝑅2 = 0.42)

式(7)の第5項より,speedの影響が地域により異なること

が説明できる.また,式(6),(7)は式(5)に比べ,決定係

数が約2倍になっており,より良く死亡率を説明するモ

デルが得られた.

5.結論

本研究では,避難行動に関するアンケートデータの分

析,および回帰分析を行った.その結果,早期避難およ

び防災訓練への参加が死亡率を低下させること,高齢者

は津波災害弱者となりやすい傾向にあることが統計的に

示された.

さらに,東日本大震災で被災した13市町村内の101小

地域についての量的なデータを用い,津波高さに加え津

波到達時間,高齢化率,避難距離,地域特性を含む多変

量の津波人的被害算定モデルを構築した.新たなモデル

が死亡率を有意に表すものであったことから,将来の津

波被害を算定する上でこれらの要因が有用であると示さ

れた.また,今後大きな津波による被害が想定される地

域では,高齢化率と避難場所までの距離を考慮し,統合

的な防災戦略をたてる必要があると示唆された.

参考文献

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Page 41: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

気候変動と地形学的不確実性による

海岸変形危険評価 Incorporating climate change and morphological uncertainty

into coastal change hazard assessments

森田 興輝 Kouki Morita

東北大学工学部建築・社会環境工学科災害ポテンシャル研究室

著者:Heathr M.Baron・Peter Ruggiero・Nathan J.Wood・Erica L.Harris・

Jonathan Allan・Paul D.Komar・Patrick Corcoran

出典:Natural Hazards (2015) 75:2081-2102

近年報告されている海面上昇とストームの性質の変化の傾向はその頻度、規模および空間的

な海岸変形の危険性を増大させる可能性があるという。我々はそうした危機への適応策を立て

るために時間的、空間的な砂浜の地形学、海岸変形に対する気候の影響および気候変動の影響

因子について理解する必要がある。

ここでは気候変動と地形的な多様性に関連する不確実性を考慮することにより、海岸変形が

危惧される地域の把握を目的としたアプローチを試みる。アメリカ、オレゴン州の海岸を対象

として海面上昇、波浪気象および大規模なエルニーニョ現象の頻度の将来予測を導入した簡単

なモデルを用いてこの手法を紹介する。

Key Words :気候変動,エルニーニョ現象,海岸変形危険エリア,海面上昇,不確実性

1. はじめに

海面上昇とストームの大規模化は生活圏の多く存在す

る沿岸域の脅威である。沿岸域の環境、文化、経済を保

護するための努力は今までもなされてきたが、海岸変形

が危倶される地域の把握の既往研究では時系列で変化す

る気候の影響までは考慮されていない。

本来、海岸は打ち寄せる波や河川から運搬されて流入

する土砂と、引き波に巻き上げられて沖の方へと流出す

る土砂の長期的な平衡作用によってその形態を維持して

いるが、突発的な波浪気象の変化やストームなどの襲来

によって平衡状態が崩れ、結果として一時的に変形して

しまうことがある。

加えて海面上昇の影響で陸地が海水に覆われて面積が

減少することが予想されており、勾配の緩やかな沿岸域

では大きな打撃は免れられないだろう。

ここではそうした脆弱性から海岸を保護する適応策を

構築するために、地形学的な多様性と気候変動の影響を

組み合わせた海岸変形危険エリアの評価の手法を確立、

紹介することを目的とする。

2. 方法

(1) 対象地域

対象とするのはアメリカ、オレゴン州ティラムック群

の海岸において岬で区切られた4つの沿岸地域

(Rockaway, Netarts, Sand Lake, Neskowin)である。(図1)

いずれの地域も少なくとも一つの河口を有するなど地形

の特性がよく似ているが、人口密度や建物の数などは地

域によって大きな差が見られる。

(2) 予測に用いた条件

海岸線後退量の将来予測に用いる条件は海面上昇、波

高の増減、エルニーニョ現象の頻度をもとに20パターン

の気候変動シナリオと100通りの海岸勾配を想定し、

2009年、2030年、2050年、2100年の各年代において2000

通りのシミュレーションを行った。(図2)

海面上昇のシナリオはIPCC SRESシナリオに基づき、

主に化石燃料の消費量によって海面上昇量が最大で1 m

ほどの差が生じる。波高分布に関しては原因が未特定の

ために2030年までの適用に止まっている。

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図1 対象地域の略図

図2 予測に用いた気候変動の条件

(3) 海岸線後退量の算定

海岸線後退量は海面上昇によって長期的に後退するも

の(CCclimate)と波浪気象の変化によって短期間で突発的

に後退するもの(CCevent)の二つに分けられる。

以下が後退量を算出する式である。

CCclimate = 𝑆

𝑡𝑎𝑛𝛽𝑠𝑓

CCevent = 𝑇𝑊𝐿𝑒𝑣𝑒𝑛𝑡−(𝐸𝑗 + 𝑆)

𝑡𝑎𝑛𝛽𝑏𝑠

S : 海面上昇量

tan𝛽𝑠𝑓(𝛽𝑏𝑠) : 前浜 (後浜)の勾配

TWLevent : 波浪気象変化時の、局所的な海水位

𝐸𝑗 : 砂丘の底部から頂上までの高さ

式中の数値はすべてレーダーによる実測値を用いて入手

できる。

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3. 波浪特性

波浪特性を変化させる理由の一つに、エルニーニョ現

象の発生が挙げられる。エルニーニョ現象とは太平洋赤

道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての

広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり、その状態

が1年程度続く現象である。エルニーニョ現象が発生し

ている時には東風が平常時よりも弱くなり、西部に溜

まっていた暖かい海水が東方へ広がるとともに東部では

冷たい水の湧き上りが弱まり、太平洋赤道域の中部から

東部では海面水温が平常時よりも高くなる。エルニー

ニョ現象発生時は積乱雲が盛んに発生する海域が平常時

より東へ移り、局所的に海水位、波高および波の進行方

向が変則的になる。(図3)

今回は発生するエルニーニョ現象の規模が100年に一

度の場合と例年通りの場合を想定することとし、この規

模の差がTWLの値を変化させ、シミュレーション結果

に影響を及ぼす。(図4)

図4においてグレーで示された帯の幅は気候変動シナ

リオによる多様性を示し、その平均を曲線で結んでいる。

図3 エルニーニョ現象発生時の略図

図4 エルニーニョ現象の規模によるTWLの差

4. 結果

シミュレーションの結果の一例を以下に示す。(図5)

図5 は2050年にNeskowin地域において100年に一度の規

模のエルニーニョ現象が起きた場合の予想海岸線後退量

を表したものであり、CCclimateが3本表示されているのは

海面上昇の程度が大、中、小の場合をそれぞれ示してい

る(実線が中程度)ためである。この結果をみると、この

条件下においては海面上昇によるものよりも波浪気象の

変化による後退量の方が大きく、合計では100 m以上も

海岸線が後退する地点もあることが分かる。

図5 2050年にNeskowin地域に100年に一度の規模のエルニー

Page 44: メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン …メッシュアダプテーションを用いた格子 ボルツマン法による気泡間相互作用の数値解析

ニョ現象が起きた際の予想海岸線後退量

このようなシミュレーション結果の統計をとってみる

と、各地で予想される海岸線後退量は正規分布曲線に従

うことがわかった。これに基づき海岸変形危険エリアを

確率ごとに区分した図を以下に示す。(図6)

図6 正規分布曲線と海岸変形危険エリア

また、これをもとに各地域において海岸変形危険エリ

アに含まれる建物の数をグラフにしたものを以下に示す。

(図7)

これによるとRockaway地域が最も海岸変形危険エリ

アに含まれる建物の数が多く、次いでNeskowin地域とい

うように優先的に対策の必要があることが分かる。

最後に、図5のときと同じ条件で海面上昇と土砂の流

出はどちらがより海岸侵食に寄与しているのかを同じ次

元で比較、評価して明らかにするために各パラメータの

予想海岸線後退量の標準偏差をとってグラフにしたもの

を以下に示す。点群は各条件の結果をプロットしたもの

であり、その平均を実線で結んでいる。(図8)

図8によると、合計後退量の標準偏差の平均と土砂の

流出による後退量の標準偏差の平均がほぼ一致している

ことから、海面上昇よりも土砂の流出による影響のほう

がより大きいと言える。

図7 海岸変形エリアに含まれる各地域の建物数

図8 パラメータごとの予想海岸線後退量の標準偏差

5.結論

今回紹介した手法は将来の気候変動が波浪気象と海岸

侵食に及ぼす影響と地形学的な不確実性を示す結果と

なった。海岸侵食が危惧される地域の広さにより関連す

るパラメータは現在では地形学的な変化、つまり突発的

な土砂の流出などであると考えられるが、海面上昇によ

る影響も将来的に占める割合は大きくなる可能性がある。

それに伴い、具体的な数値までは特定できないものの、

海岸侵食の危険性は今後も増加すると予想できる。

気候変動が沿岸域に及ぼしうる影響と海岸変形の危険

性をより正確に把握するには、海面上昇だけではなくエ

ルニーニョ現象などによって誘発される台風やストーム

の性質についてもさらに理解を深める必要がある。