30
コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen Gel Matrix Culture) の実際とその応用例について マウス乳癌細胞のコラーゲン・ゲル内における増殖(2週間培養)

コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル

コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法(Collagen Gel Matrix Culture)の実際とその応用例について

マウス乳癌細胞のコラーゲン・ゲル内における増殖(2週間培養)

Page 2: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

I 細胞培養について ··································································· 1

I-1 はじめに

I-2 細胞培養の基礎

I-3 コラーゲンを用いる細胞培養

I-4 細胞の基質としてのコラーゲンの役割

II コラーゲンについて ································································· 5

II-1 コラーゲンの分子構造と諸性質

II-2 コラーゲンの分類

II-3 コラーゲンの機能

II-4 コラーゲンの利用

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)について ······························ 11

III-1 Cellmatrixの特徴と種類

III-2 Cellmatrix TypeIの物理化学的性質

IV コラーゲン・ゲル培養法 ·························································· 17

IV-1 コラーゲン・ゲルマトリックスの調整法

IV-2 コラーゲン・ゲル上培養法

IV-3 コラーゲン・ゲル包埋培養法

IV-4 ゲル内細胞の採取法、継代法およびコロニーの選択法

IV-5 細胞増殖度の測定法

IV-6 培養細胞サンプルの保存法

V コラーゲン・フィルム上培養法 ·················································· 24

VI まとめ・文献 ········································································· 25

資料に関するお願い ···································································· 26

目 次

Page 3: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

I 細胞培養についてI-1 はじめに近年の培養技術の進歩により、体内で異なった機能を営んでいる様々な器官、組織、あるいは細胞を体外に取り出して生育させることが可能になってきた。生体より切り出した器官や組織片をそのまま培養器具の中で生育させることをそれぞれ、器官培養(Organ Culture)、組織培養(Tissue Culture) という。これに対し、器官・組織を蛋白分解酵素などで処理し、単離された細胞を培養することを細胞培養(Cell Culture)と呼んでいる。細胞培養法を用いることにより、細胞を個々の独立した単位として扱えることも可能になり、この方法はますます多くの分野で利用されるようになってきている。細胞培養を行う目的の一つに、[生体内で起きている現象を培養器内に再現する]ということがあげられる。細胞培養法には、細胞の物理的・化学的環境を任意に変化させ得ること等をはじめとして、数々の実験上の利点があるため、生命現象を再現できる細胞培養系を確立することは、重要な意義を持っている。このために、これまで数多くの細胞培養法が工夫・考案されており、最適な培養系を求めて、今なお努力が続けられている。 I-2 細胞培養の基礎細胞培養を行うには、まず組織から細胞を単離しなければならない。このために、主として蛋白分解酵素が用いられる。概して、繊維性組織にはコラーゲンを分解するコラゲナーゼが、また、細胞同士の接着を分離するには、トリプシン、プロナーゼなどが用いられている。また、EDTA などのカルシウム・キレート剤も細胞分離には有効である。このようにして単離された細胞を、直接に培養器へ移したものを初代培養(Primary Cul7ture)という。そして、培養器内の細胞を次の培養器へ移すことを継代(Passage)と呼び、継代された細胞を第二代細胞、第三代細胞というように呼んでいく。細胞は、培養液または培地(Culture Medium)と呼ばれる栄養分を含んだ溶液中で培養される。この培養液は、動物の体液に相等するものであり、その組成は、塩化ナトリウムを主とする無機塩類、各種アミノ酸、糖類、ビタミン類を基本としている。細胞を生育させるためにはこういった基本培地のみでは不十分で、通常、動物の血清(Serum)がさらに添加される。血清には、ホルモン、細胞増殖因子細胞接着因子をはじめとする多数の必須因子が含まれているからである。細胞培養法は、細胞の物理的支持基質により、3種類に大別される。即ち、単層培養(Monolayer Culture)、浮遊培養(Suspension Culture)および包埋培養(Embedded Culture)である。単離された細胞を培養皿上に播くと、細胞は培養皿の表面に接着し、伸展して、単層を形成する。このような培養法が単層培養法である。例えば、単層培養法により、上皮細胞(Epithelial Cell)を培養すると、敷石状の単層が形成される。これに対し線維芽細胞(Fibroblast)を単層培養すると繊維状の細長い形態をとる。細胞を播いた後、培養液を撹拌し続けると、細胞の培養器面のへの接着は妨げられ、浮遊状態となる。この培養法が浮遊培養法である。単層培養と浮遊培養の中間に位置するものにマイクロキャリアー培養(Microcarrier Culture)と呼ばれる方法がある。これは、小さなビーズの上に細胞を単層に生育させ、ビーズをフラスコ内で撹拌し、

浮遊培養を行うものである。この方法によると、培養面積を極めて増大させることが可能になるため、細胞の大量培養に応用されている。最後に、包埋培養と呼ばれるものは、浮遊培養の一種であるが、固形あるいは半流動形の基質の中に細胞を埋め、固定させて培養する方法である。細胞の支持基質としては、軟寒天(Soft Agar)、メチルセルロース、コラーゲン・ゲルなどが用いられる。一般に細胞は、ガラス・プラスチック・コラーゲンなどの基質に接着してはじめて、増殖することができる。これを接着依存性増殖(Anchorage-Dependent Growth)という。基質への接着を全く必要としないで増殖できる細胞もある。血球系細胞や癌細胞の多くのものはこれに属する。このような細胞は浮遊培養によっても、また、細胞の接着を許さない軟寒天、メチルセルロースの中でも増殖できる。これを接着非依存性増殖(Anchorage-Independent Growth)という。ほとんどの細胞が接着依存性であり、培養器への接着が必須であるところから初代培養細胞による細胞分化、細胞増殖等の研究は、これまで主として単層培養法によって行われてきた。ところが、ある種の細胞、特に上皮細胞の中には、この培養法によっては分化機能・細胞増殖機能を発現できないものもかなり存在している。そこで、接着依存性細胞を培養でき、しかも、これまでの単層培養法の欠点を補う新しい方法の開発が望まれていた。コラーゲン・ゲル培養法はそういった方法の一つである。 I-3 コラーゲンを用いる細胞培養コラーゲンは、動物界に最も広く存在するタンパク質で、動物の体の全タンパク質の1/3 以上を占め、動物の皮膚・腱・骨などの結合組織を構成している。動物の体は多数の細胞から構成されているが、コラーゲンは、これらの細胞と細胞の間のマトリックスとして、重要な役割を果たしている。コラーゲンの生体における役割は、動物の体の構造を支えることだけと考えられていた。しかし、最近になってコラーゲンは、細胞の発生、分化、形態形成等において、細胞間マトリックスとして、細胞に生物学的な影響を及ぼしていることが明らかになった。1, 2)

こういったことから、コラーゲンを細胞培養に利用することは、有益であろうと考えられる。実際に、プラスチックまたはガラス製培養皿上での単層培養では、不可能であった細胞増殖、長期培養、継代培養、形態形成、細胞分化の誘導等2, 3)がコラーゲンを基質として細胞培養を行うことにより、可能になってきており、コラーゲンの有用性が証明されつつある。 I-4 細胞の基質としてのコラーゲンの役割コラーゲン基質の利用は、ガラス、プラスチック基質よりも細胞の接着、増殖、分化などを促進するという実験が数多く報告されている(表1)2)。コラーゲン上とガラス上での各種細胞の成長を比較したのは、EhrmannとGeyが最初である4)。1953年Grobsteinは、コラーゲン基質が細胞増殖と形態形成に関して重要な役割を果たしていると報告した5)。また、角膜内皮細胞6)、乳腺上皮細胞7)、表皮細胞8)、肝実質細胞9)、線維芽細胞10)は、プラスチック、または、ガラス製培養皿上よりも、コラーゲン基質上で長期間生存することも報告されている。

- 1- - 2-

Page 4: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

I 細胞培養についてI-1 はじめに近年の培養技術の進歩により、体内で異なった機能を営んでいる様々な器官、組織、あるいは細胞を体外に取り出して生育させることが可能になってきた。生体より切り出した器官や組織片をそのまま培養器具の中で生育させることをそれぞれ、器官培養(Organ Culture)、組織培養(Tissue Culture) という。これに対し、器官・組織を蛋白分解酵素などで処理し、単離された細胞を培養することを細胞培養(Cell Culture)と呼んでいる。細胞培養法を用いることにより、細胞を個々の独立した単位として扱えることも可能になり、この方法はますます多くの分野で利用されるようになってきている。細胞培養を行う目的の一つに、[生体内で起きている現象を培養器内に再現する]ということがあげられる。細胞培養法には、細胞の物理的・化学的環境を任意に変化させ得ること等をはじめとして、数々の実験上の利点があるため、生命現象を再現できる細胞培養系を確立することは、重要な意義を持っている。このために、これまで数多くの細胞培養法が工夫・考案されており、最適な培養系を求めて、今なお努力が続けられている。 I-2 細胞培養の基礎細胞培養を行うには、まず組織から細胞を単離しなければならない。このために、主として蛋白分解酵素が用いられる。概して、繊維性組織にはコラーゲンを分解するコラゲナーゼが、また、細胞同士の接着を分離するには、トリプシン、プロナーゼなどが用いられている。また、EDTA などのカルシウム・キレート剤も細胞分離には有効である。このようにして単離された細胞を、直接に培養器へ移したものを初代培養(Primary Cul7ture)という。そして、培養器内の細胞を次の培養器へ移すことを継代(Passage)と呼び、継代された細胞を第二代細胞、第三代細胞というように呼んでいく。細胞は、培養液または培地(Culture Medium)と呼ばれる栄養分を含んだ溶液中で培養される。この培養液は、動物の体液に相等するものであり、その組成は、塩化ナトリウムを主とする無機塩類、各種アミノ酸、糖類、ビタミン類を基本としている。細胞を生育させるためにはこういった基本培地のみでは不十分で、通常、動物の血清(Serum)がさらに添加される。血清には、ホルモン、細胞増殖因子細胞接着因子をはじめとする多数の必須因子が含まれているからである。細胞培養法は、細胞の物理的支持基質により、3種類に大別される。即ち、単層培養(Monolayer Culture)、浮遊培養(Suspension Culture)および包埋培養(Embedded Culture)である。単離された細胞を培養皿上に播くと、細胞は培養皿の表面に接着し、伸展して、単層を形成する。このような培養法が単層培養法である。例えば、単層培養法により、上皮細胞(Epithelial Cell)を培養すると、敷石状の単層が形成される。これに対し線維芽細胞(Fibroblast)を単層培養すると繊維状の細長い形態をとる。細胞を播いた後、培養液を撹拌し続けると、細胞の培養器面のへの接着は妨げられ、浮遊状態となる。この培養法が浮遊培養法である。単層培養と浮遊培養の中間に位置するものにマイクロキャリアー培養(Microcarrier Culture)と呼ばれる方法がある。これは、小さなビーズの上に細胞を単層に生育させ、ビーズをフラスコ内で撹拌し、

浮遊培養を行うものである。この方法によると、培養面積を極めて増大させることが可能になるため、細胞の大量培養に応用されている。最後に、包埋培養と呼ばれるものは、浮遊培養の一種であるが、固形あるいは半流動形の基質の中に細胞を埋め、固定させて培養する方法である。細胞の支持基質としては、軟寒天(Soft Agar)、メチルセルロース、コラーゲン・ゲルなどが用いられる。一般に細胞は、ガラス・プラスチック・コラーゲンなどの基質に接着してはじめて、増殖することができる。これを接着依存性増殖(Anchorage-Dependent Growth)という。基質への接着を全く必要としないで増殖できる細胞もある。血球系細胞や癌細胞の多くのものはこれに属する。このような細胞は浮遊培養によっても、また、細胞の接着を許さない軟寒天、メチルセルロースの中でも増殖できる。これを接着非依存性増殖(Anchorage-Independent Growth)という。ほとんどの細胞が接着依存性であり、培養器への接着が必須であるところから初代培養細胞による細胞分化、細胞増殖等の研究は、これまで主として単層培養法によって行われてきた。ところが、ある種の細胞、特に上皮細胞の中には、この培養法によっては分化機能・細胞増殖機能を発現できないものもかなり存在している。そこで、接着依存性細胞を培養でき、しかも、これまでの単層培養法の欠点を補う新しい方法の開発が望まれていた。コラーゲン・ゲル培養法はそういった方法の一つである。 I-3 コラーゲンを用いる細胞培養コラーゲンは、動物界に最も広く存在するタンパク質で、動物の体の全タンパク質の1/3 以上を占め、動物の皮膚・腱・骨などの結合組織を構成している。動物の体は多数の細胞から構成されているが、コラーゲンは、これらの細胞と細胞の間のマトリックスとして、重要な役割を果たしている。コラーゲンの生体における役割は、動物の体の構造を支えることだけと考えられていた。しかし、最近になってコラーゲンは、細胞の発生、分化、形態形成等において、細胞間マトリックスとして、細胞に生物学的な影響を及ぼしていることが明らかになった。1, 2)

こういったことから、コラーゲンを細胞培養に利用することは、有益であろうと考えられる。実際に、プラスチックまたはガラス製培養皿上での単層培養では、不可能であった細胞増殖、長期培養、継代培養、形態形成、細胞分化の誘導等2, 3)がコラーゲンを基質として細胞培養を行うことにより、可能になってきており、コラーゲンの有用性が証明されつつある。 I-4 細胞の基質としてのコラーゲンの役割コラーゲン基質の利用は、ガラス、プラスチック基質よりも細胞の接着、増殖、分化などを促進するという実験が数多く報告されている(表1)2)。コラーゲン上とガラス上での各種細胞の成長を比較したのは、EhrmannとGeyが最初である4)。1953年Grobsteinは、コラーゲン基質が細胞増殖と形態形成に関して重要な役割を果たしていると報告した5)。また、角膜内皮細胞6)、乳腺上皮細胞7)、表皮細胞8)、肝実質細胞9)、線維芽細胞10)は、プラスチック、または、ガラス製培養皿上よりも、コラーゲン基質上で長期間生存することも報告されている。

- 1- - 2-

Page 5: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

表1 コラーゲン基質で培養された細胞

Cell types Type of collagen Reference Cell lines BHK cells Addition of collagen to medium Sanders and Smith (1970) Hela, BHK cells Gel Schor (1980) Cell lines including Hela Gel Cleator and Beswick (1972) Hamster fibrohemangiosarcoma, L. cells Hela, cells Gel Cuprar and Lever (1974) Diploid fibroblasts (WI-38) Film McKeehan and Ham (1976) Melanoma cells, Synan hamster Gel Schor et al. (1982) Rama 25 cells derived from rat mammary tumor Gel Bennett (1980) Human breast tumor cells Gel Leung and Shiu (1982) MCF-7 Collagen-coated cellulose sponge Russo et al. (1976,1977) Walker tumor 256 Collagen-coated cellulose sponge Leighton et al. (1967) Several transplantable tumors Collagen-coated cellulose sponge Leighton et al. (1968) Neurons Cerebal and sympathetic neurons, chick embryo Film Iverson et al. (1981) Sympathetic neurons, chick embryo Film McCarty and Partlow (1976); Hanson and Partlow (1978) Optic lobe neurons, chick embryo Film Adler et al. (1979) Sympathetic neurons, rat Film and gel Hawrot (1980) Sensory neurons, fetal rat Film Bunge and Bunge (1978) Tumors Mammary tumor, mouse Gel Yang et al. (1979, 1980) Colon carcinoma cells, human Film Murakami and Masui (1980) Renal tumor cells, hamster Gel Talley et al. (1982) Bladder cancer, human Collagen-coated cellulose sponge Leighton et al. (1980) Liver cells Liver, human embryo Film Hillis and Bang (1962) Liver, human embryo Film Festenstein (1963) Liver, human embryo Film Zuckerman et al. (1967) Liver, human fetus and rat Gel Cleator and Beswick (1972) Liver, rat Film Alexander and Gnsham (1970) Liver, bullfrog Film Stanchfield and Yager (1978) Liver, rat Gel Michalopoulos and Pitot (1975) Liver, rat Gel Sattler et al. (1978) Mammary cells Mammary epithelial cells, mouse Gel Yang et al. (1980) Mammary epithelial cells, rat Film Salomon et al. (1981) Mammary epithelial cells, human Gel J. Yang et al. (1981) Mammary epithelial cells, human Gel N.S. Yang et al. (1981) Other epithelial cells Skin epithelial cells, human, rabbit, mouse Gel Karasek and Charlton (1971); Liu and Larasek (1978) Corneal epithelial cells, bovine Gel Gospodarowicz et al. (1978) Transitional epithelial cells, rat Collagen-coated nylon-mesh disks Chlapowski and Haynes (1979) Thyroid epithelial cells, porcine Gel Chambard et al. (1981) Submandibular epithelial cells, mouse Gel Yang et al. (1982) Pancreatic endocrine cells Gel Montesano et al. (1983)

Cell type Type of collagen Reference Miscellaneous Brain capillary endothelial cells, rat Film Bowman et al. (1981) Capillary endothelial cells, bovine Gel Schor et al. (1979) Preimplantation embryo, rabbit Film Cole et al. (1966) Granulocyte / macrophage progenitor cells,mouse Gel Lanotte et al. (1981) Chondrocytes, chick Gel Yasui et al. (1982) Muscle and fibroblasts Muscle, chick embryo Film Hauschka and Konigsberg (1966) Muscle, chick embryo Gel Gey et al. (1974) Fibroblasts, chick embryo Gel Dunn and Ebendal (1978) Foreskin fibroblasts, human Gel Schor et al. (1981, 1982) Kidney fibroblasts, rabbit Film Rucker et al. (1972) Mesenchymal cells Gel Greenburg and Hay (1982)

※ Yang J. and Nandi S. Int. Rev. Cytol., 81,249-286 (1983)より一部引用

コラーゲンは、細胞分化に大きな役割を果たしている。例えば、肝細胞を分化、機能を維持したまま培養するのは困難であるが、コラーゲン・ゲル上で培養すると20日間19)、また、肝組織から取り出したマトリックスを用いると5ヶ月以上も分化を維持したま生存させることができる。筋原細胞がコラーゲンをコートした培養皿上で細胞融合を起こし、筋線維に分化することはよく知られている20)。また、コラーゲン・ゲル浮遊培養法によりマウス乳腺上皮細胞を培養し、ホルモンの存在下で、乳汁蛋白の一種カゼインの合成を誘導できるという報告もある15,16)。細胞分化に及ぼすこれらの効果の他、角膜上皮細胞による角膜基質の生成21)、表皮細胞の多層構造の生成22)など細胞分化において、コラーゲンは重要な役割を果たしている。コラーゲンは、細胞増殖にも大きな役割を果たしている。J.Yang, J.Enami, S.Nandiらは、コラーゲン・ゲルを用いて、乳腺上皮細胞、乳ガン細胞の初代培養を行い、長期培養に成功している2,12,13,14,15,16,17,33)。乳腺上皮細胞はコラーゲン・ゲルを用いると、無血清条件下で培養でき、各種ホルモン、成長因子などの影響をin vitroでテストすることが可能であり、細胞増殖、細胞の形態形成、分化、発ガン機構、クローニングなどをin vivoに近い系で研究することができる2,18)。コラーゲンにより、細胞分化、細胞増殖が促進されるのは、コラーゲンに次の2つの作用があるためと推定される。その一つは、細胞をコラーゲン・ゲル上、あるいは、コラーゲン・ゲル内で培養した際に、細胞に基底膜を作らせる能力があることである。コラーゲン基質を用いて培養されたマウス乳腺細胞では、基底膜の形成が電子顕微鏡によって観察されたが、プラスチック上での培養では見られなかった11)。もう一つのコラーゲン基質の作用は、細胞をプラスチック製培養皿に移したときに起こる細胞の扁平化、伸展による体積の増大を阻止し、細胞に元の形、体積を保たせることである2)。以上述べてきたように、細胞基質にコラーゲンを用いる新しい培養法は、単層培養では限界のあった研究に対して新たな可能性を見出したといえる。

- 3- - 4-

Page 6: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

表1 コラーゲン基質で培養された細胞

Cell types Type of collagen Reference Cell lines BHK cells Addition of collagen to medium Sanders and Smith (1970) Hela, BHK cells Gel Schor (1980) Cell lines including Hela Gel Cleator and Beswick (1972) Hamster fibrohemangiosarcoma, L. cells Hela, cells Gel Cuprar and Lever (1974) Diploid fibroblasts (WI-38) Film McKeehan and Ham (1976) Melanoma cells, Synan hamster Gel Schor et al. (1982) Rama 25 cells derived from rat mammary tumor Gel Bennett (1980) Human breast tumor cells Gel Leung and Shiu (1982) MCF-7 Collagen-coated cellulose sponge Russo et al. (1976,1977) Walker tumor 256 Collagen-coated cellulose sponge Leighton et al. (1967) Several transplantable tumors Collagen-coated cellulose sponge Leighton et al. (1968) Neurons Cerebal and sympathetic neurons, chick embryo Film Iverson et al. (1981) Sympathetic neurons, chick embryo Film McCarty and Partlow (1976); Hanson and Partlow (1978) Optic lobe neurons, chick embryo Film Adler et al. (1979) Sympathetic neurons, rat Film and gel Hawrot (1980) Sensory neurons, fetal rat Film Bunge and Bunge (1978) Tumors Mammary tumor, mouse Gel Yang et al. (1979, 1980) Colon carcinoma cells, human Film Murakami and Masui (1980) Renal tumor cells, hamster Gel Talley et al. (1982) Bladder cancer, human Collagen-coated cellulose sponge Leighton et al. (1980) Liver cells Liver, human embryo Film Hillis and Bang (1962) Liver, human embryo Film Festenstein (1963) Liver, human embryo Film Zuckerman et al. (1967) Liver, human fetus and rat Gel Cleator and Beswick (1972) Liver, rat Film Alexander and Gnsham (1970) Liver, bullfrog Film Stanchfield and Yager (1978) Liver, rat Gel Michalopoulos and Pitot (1975) Liver, rat Gel Sattler et al. (1978) Mammary cells Mammary epithelial cells, mouse Gel Yang et al. (1980) Mammary epithelial cells, rat Film Salomon et al. (1981) Mammary epithelial cells, human Gel J. Yang et al. (1981) Mammary epithelial cells, human Gel N.S. Yang et al. (1981) Other epithelial cells Skin epithelial cells, human, rabbit, mouse Gel Karasek and Charlton (1971); Liu and Larasek (1978) Corneal epithelial cells, bovine Gel Gospodarowicz et al. (1978) Transitional epithelial cells, rat Collagen-coated nylon-mesh disks Chlapowski and Haynes (1979) Thyroid epithelial cells, porcine Gel Chambard et al. (1981) Submandibular epithelial cells, mouse Gel Yang et al. (1982) Pancreatic endocrine cells Gel Montesano et al. (1983)

Cell type Type of collagen Reference Miscellaneous Brain capillary endothelial cells, rat Film Bowman et al. (1981) Capillary endothelial cells, bovine Gel Schor et al. (1979) Preimplantation embryo, rabbit Film Cole et al. (1966) Granulocyte / macrophage progenitor cells,mouse Gel Lanotte et al. (1981) Chondrocytes, chick Gel Yasui et al. (1982) Muscle and fibroblasts Muscle, chick embryo Film Hauschka and Konigsberg (1966) Muscle, chick embryo Gel Gey et al. (1974) Fibroblasts, chick embryo Gel Dunn and Ebendal (1978) Foreskin fibroblasts, human Gel Schor et al. (1981, 1982) Kidney fibroblasts, rabbit Film Rucker et al. (1972) Mesenchymal cells Gel Greenburg and Hay (1982)

※ Yang J. and Nandi S. Int. Rev. Cytol., 81,249-286 (1983)より一部引用

コラーゲンは、細胞分化に大きな役割を果たしている。例えば、肝細胞を分化、機能を維持したまま培養するのは困難であるが、コラーゲン・ゲル上で培養すると20日間19)、また、肝組織から取り出したマトリックスを用いると5ヶ月以上も分化を維持したま生存させることができる。筋原細胞がコラーゲンをコートした培養皿上で細胞融合を起こし、筋線維に分化することはよく知られている20)。また、コラーゲン・ゲル浮遊培養法によりマウス乳腺上皮細胞を培養し、ホルモンの存在下で、乳汁蛋白の一種カゼインの合成を誘導できるという報告もある15,16)。細胞分化に及ぼすこれらの効果の他、角膜上皮細胞による角膜基質の生成21)、表皮細胞の多層構造の生成22)など細胞分化において、コラーゲンは重要な役割を果たしている。コラーゲンは、細胞増殖にも大きな役割を果たしている。J.Yang, J.Enami, S.Nandiらは、コラーゲン・ゲルを用いて、乳腺上皮細胞、乳ガン細胞の初代培養を行い、長期培養に成功している2,12,13,14,15,16,17,33)。乳腺上皮細胞はコラーゲン・ゲルを用いると、無血清条件下で培養でき、各種ホルモン、成長因子などの影響をin vitroでテストすることが可能であり、細胞増殖、細胞の形態形成、分化、発ガン機構、クローニングなどをin vivoに近い系で研究することができる2,18)。コラーゲンにより、細胞分化、細胞増殖が促進されるのは、コラーゲンに次の2つの作用があるためと推定される。その一つは、細胞をコラーゲン・ゲル上、あるいは、コラーゲン・ゲル内で培養した際に、細胞に基底膜を作らせる能力があることである。コラーゲン基質を用いて培養されたマウス乳腺細胞では、基底膜の形成が電子顕微鏡によって観察されたが、プラスチック上での培養では見られなかった11)。もう一つのコラーゲン基質の作用は、細胞をプラスチック製培養皿に移したときに起こる細胞の扁平化、伸展による体積の増大を阻止し、細胞に元の形、体積を保たせることである2)。以上述べてきたように、細胞基質にコラーゲンを用いる新しい培養法は、単層培養では限界のあった研究に対して新たな可能性を見出したといえる。

- 3- - 4-

Page 7: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

α1( I)

α1( I)α2

アミノ末端テロペプチド(16残基)

カルボキシル末端テロペプチド(25残基)

コラーゲンへリックス(Gly-X-Y)337

II コラーゲンについてII-1 コラーゲンの分子構造と諸性質II-1-1 アミノ酸組成とアミノ酸配列コラーゲンのアミノ酸組成および配列は、他のタンパク質に比べてきわめて特異的であり、このことは、後で述べるコラーゲン分子のヘリックス構造と密接な関係がある。 (a)アミノ酸組成 23)

グリシンが全アミノ酸残基の約1/3、イミノ酸(プロリンとヒドロキシプロリン)が約2/9を占め、疎水性アミノ酸残基が非常に少ない。なかでもトリプトファンは存在しないし、チロシンもテロペプチド(非ヘリックス部分)中に若干存在するだけである。(表2)

表2 ウシコラーゲンα鎖のアミノ酸組成

アミノ酸

1000 残基当たりの残基数 α1(I)a) α2 b) α1(II)c) α1(III)d)

3-ヒドロキシプロリン 1 - 2 - 4-ヒドロキシプロリン 85 85 91 127 アスパラギン酸 45 47 43 48 トレオニン 16 17 22 14 セリン 34 24 26 44 グルタミン酸 77 71 87 71 プロリン 135 120 129 106 グリシン 327 328 333 366 アラニン 120 101 102 82 システイン - - - 2 バリン 18 34 17 12 メチオニン 7 4 11 7 イソロイシン 9 17 9 11 ロイシン 21 34 26 15 チロシン 44 3 1 3 フェニルアラニン 12 16 14 9 ヒドロキシリジン 55 11 23 7 リジン 32 21 15 25 ヒスチジン 3 8 2 8 アルギニン 50 57 51 44 a) Rauterbeg, J., and Kuhn, K., Eur J. Biochem., 19, 398 (1971). b) Fietzek, P. P., Munch, M., Breitkreutz, D., and Kuhn, K., FEBS Lett., 9, 229 (1970). c) Miller, E. J., and Lunde, L. G., Biochemistry, 12, 3153 (1973). d) Butler, W. T., Birkedal-Hansen, H., Beegle, W. F., Taylor, R. E., and Chung, E., J. Biol. Chem., 250, 8907 (1975). [Bornstein, P. and Traud, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R. L. ed.) vol. 4, p. 453. Academic Press (1979) より引用]

(b)アミノ酸配列 23,24)

1次構造の特徴は、Gly-X-Yの繰り返しになっている点である。3残基ごとにグリシンが存在するのは、コラーゲンがヘリックスを形成する上で必要な条件である。X、Yは任意のアミノ酸であるが、その種類によりX、Yを占める頻度は異なっている(表3)。

ここで重要な点は、プロリンはXの位置に、ヒドロキシプロリンはYの位置に存在していることである。しかし、テロペプチド部分にはこのような規則的配列はみられない。

表3 Gly-X-Y 配列中の各アミノ酸残基の分布

アミノ酸 α1(Ⅰ)鎖 X/Y α2 鎖 X/Y a) プロリン 16 / 4 90 / 3 ヒドロキシプロリン 11 / 112 b) 0 / 83 フェニルアラニン 12 / 0 10 / 0 ロイシン 18 / 1 25 / 5 アルギニン 9 / 42 9 / 35 リジン 12 / 20 8 / 10 グルタミン 7 / 19 7 / 17 アスパラギン酸 6 / 5 13 / 7 グルタミン酸 42 / 6 31 / 3 トレオニン 3 / 12 4 / 9 セリン 18 / 17 12 / 12 アスパラギン酸 17 / 15 7 / 11 アラニン 59 / 63 39 / 46 バリン 9 / 8 9 / 20 イソロイシン 3 / 4 8 / 8 メチオニン 2 / 5 0 / 4 ヒスチジン 2 / 0 5 / 1 ヒドロキシリジン 0 / 4 0 / 7 チロシン 0 / 0 1 / 0 グリシン 1 / 0 0 / 0 a) Rauterbeg, J., and Kuhn, K., Eur J. Biochem., 19, 398 (1971). b) Fietzek, P. P., Munch, M., Breitkreutz, D., and Kuhn, K., FEBS Lett., 9, 229 (1970). [Bornstein, P. and Traud, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R. L. ed.) vol. 4, p. 453. Academic Press (1979) より引用]

II-1-2 コラーゲンの立体構造 23,25,26)

コラーゲン分子は、Gly-X-Yの繰り返しからなるアミノ酸約1,000残基(分子量約10万)のポリペプチド鎖(α鎖)が3本より合わさってできている(図1)。中央部は、ヘリックスを形成しており、両末端部はほぐれている。ヘリックス部分は、3 本のポリペプチド鎖がそれぞれ約3.3残基で1 回転する左巻きヘリックスを作っている。三本鎖のヘリックスは全体として中心軸に対し右巻きに30~45残基で1回転するヘリックスを形成している。このようなコラーゲンのヘリックス構造をcoiled-coil構造あるいは、超ヘリックス構造と呼ぶことがある。超ヘリックス構造は壊れやすく変性しゼラチン化すると、ポリペプチド鎖が1本のα鎖、2本のβ鎖、3本のγ鎖に分かれる。コラーゲンのヘリックス部分は全体としてみると円筒状あるいは棒状になる。約1,000残基のポリペプチド鎖3本からなるコラーゲン分子の大きさは、長さ約3,000オングストローム、太さ約15オングストロームの円筒とみなすことができる。円筒の中心軸の側にはグリシンのみがあり、他の残基はすべて外側を向いている。これは、グリシン以外の残基では側鎖が大きいために立体障害が生じるからである。また、他のタンパク質と違い疎水性アミノ酸の残基の量が少なくても、これらは円筒の外側に露出している割合が高くなる。このことは、コラーゲンの溶解性が悪いことと関係がある。コラーゲン構造の変性温度は、動物の種類により異なり、細胞の環境温度と関係がある。例えば、ヒト

- 5- - 6- - 7-

のコラーゲンの変性温度は40℃であるが27)、南極の海に生息している魚のコラーゲンではその変性温度が5℃ぐらいである23)。また、同じ動物のコラーゲンでも組織により変性温度は異なっている。このようなコラーゲン分子の熱安定性には、ヒドロキシプロリンが重要な働きをしている。これは、プロリンにOH基が導入されることにより分子内での水素結合、またはH2Oを介しての水素結合が形成されやすくなるためであると考えられている。したがって、ヒドロキシプロリン含量の多いものは変性温度が高い。

図1 I型コラーゲンの構造

II-1-3 コラーゲン線維と架橋構造コラーゲンは生体内で線維を形成している。試験管内でもこのような線維を再生することができ、コラーゲンの酸性溶液にアルカリを添加するなどして中性にすると白濁してくる。イオン強度0.05以下に下げると4℃位の低温でも白濁し、それ以上のイオン強度では温度を少し高くすると白濁する。この濁りはコラーゲンの線維形成によるもので、これは生体内で見られるコラーゲン線維と同じ670オングストロームの周期性を示す線維である。適度なイオン強度のコラーゲン溶液を中性付近のpHで加温すると溶液は徐々にゲル化し、数分~数十分後に全体が均一に白濁したゲルを形成する。後述のコラーゲン・ゲル培養法(IV項参照)は、このコラーゲンの線維形成によるゲル化の特性を利用して生体内条件の食塩濃度0.14M、pH=7.4、温度=37℃で行っている。生体内での線維の構造は組織により異なり、組織の役割に応じた機能を発揮しやすいようになっている。例えば、腱ではコラーゲン分子が規則正しく配列し線維が束のようになっている。皮膚では、コラーゲン線維が入り組んだ配向をとっている。コラーゲン線維の微細構造や線維形成の機構について多くの研究がなされているが、まだ不明の点が多く残されている28)。コラーゲン分子が生体内で線維を形成すると、その線維を安定化させるためにコラーゲン分子内や分子間に架橋結合が導入され最後には不溶化される。この架橋結合導入は次のような機構により行われる。第一段階では、テロペプチド中のリジンやヒドロキシリジンのε-アミノ酸がリジルオキシダーゼにより酸化を受け、アルデヒドに変わる。これらは、それぞれアリシン、ヒドロキシアリシンと呼ばれている。次にこのアリシン、ヒドロキシアリシンは同一分子あるいは他分子中のある決まった位置のリジンやヒドロキシリジンなどとアルドール縮合したり、シッフ塩基を形成することなどにより架橋結合を形成する。これが主たる架橋構造であるが、他にも複雑な架橋結合が見つけられており、コラーゲンの生理的役割や物性との関連で研究が進められている29)。

Page 8: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

α1( I)

α1( I)α2

アミノ末端テロペプチド(16残基)

カルボキシル末端テロペプチド(25残基)

コラーゲンへリックス(Gly-X-Y)337

II コラーゲンについてII-1 コラーゲンの分子構造と諸性質II-1-1 アミノ酸組成とアミノ酸配列コラーゲンのアミノ酸組成および配列は、他のタンパク質に比べてきわめて特異的であり、このことは、後で述べるコラーゲン分子のヘリックス構造と密接な関係がある。 (a)アミノ酸組成 23)

グリシンが全アミノ酸残基の約1/3、イミノ酸(プロリンとヒドロキシプロリン)が約2/9を占め、疎水性アミノ酸残基が非常に少ない。なかでもトリプトファンは存在しないし、チロシンもテロペプチド(非ヘリックス部分)中に若干存在するだけである。(表2)

表2 ウシコラーゲンα鎖のアミノ酸組成

アミノ酸

1000 残基当たりの残基数 α1(I)a) α2 b) α1(II)c) α1(III)d)

3-ヒドロキシプロリン 1 - 2 - 4-ヒドロキシプロリン 85 85 91 127 アスパラギン酸 45 47 43 48 トレオニン 16 17 22 14 セリン 34 24 26 44 グルタミン酸 77 71 87 71 プロリン 135 120 129 106 グリシン 327 328 333 366 アラニン 120 101 102 82 システイン - - - 2 バリン 18 34 17 12 メチオニン 7 4 11 7 イソロイシン 9 17 9 11 ロイシン 21 34 26 15 チロシン 44 3 1 3 フェニルアラニン 12 16 14 9 ヒドロキシリジン 55 11 23 7 リジン 32 21 15 25 ヒスチジン 3 8 2 8 アルギニン 50 57 51 44 a) Rauterbeg, J., and Kuhn, K., Eur J. Biochem., 19, 398 (1971). b) Fietzek, P. P., Munch, M., Breitkreutz, D., and Kuhn, K., FEBS Lett., 9, 229 (1970). c) Miller, E. J., and Lunde, L. G., Biochemistry, 12, 3153 (1973). d) Butler, W. T., Birkedal-Hansen, H., Beegle, W. F., Taylor, R. E., and Chung, E., J. Biol. Chem., 250, 8907 (1975). [Bornstein, P. and Traud, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R. L. ed.) vol. 4, p. 453. Academic Press (1979) より引用]

(b)アミノ酸配列 23,24)

1次構造の特徴は、Gly-X-Yの繰り返しになっている点である。3残基ごとにグリシンが存在するのは、コラーゲンがヘリックスを形成する上で必要な条件である。X、Yは任意のアミノ酸であるが、その種類によりX、Yを占める頻度は異なっている(表3)。

ここで重要な点は、プロリンはXの位置に、ヒドロキシプロリンはYの位置に存在していることである。しかし、テロペプチド部分にはこのような規則的配列はみられない。

表3 Gly-X-Y 配列中の各アミノ酸残基の分布

アミノ酸 α1(Ⅰ)鎖 X/Y α2 鎖 X/Y a) プロリン 16 / 4 90 / 3 ヒドロキシプロリン 11 / 112 b) 0 / 83 フェニルアラニン 12 / 0 10 / 0 ロイシン 18 / 1 25 / 5 アルギニン 9 / 42 9 / 35 リジン 12 / 20 8 / 10 グルタミン 7 / 19 7 / 17 アスパラギン酸 6 / 5 13 / 7 グルタミン酸 42 / 6 31 / 3 トレオニン 3 / 12 4 / 9 セリン 18 / 17 12 / 12 アスパラギン酸 17 / 15 7 / 11 アラニン 59 / 63 39 / 46 バリン 9 / 8 9 / 20 イソロイシン 3 / 4 8 / 8 メチオニン 2 / 5 0 / 4 ヒスチジン 2 / 0 5 / 1 ヒドロキシリジン 0 / 4 0 / 7 チロシン 0 / 0 1 / 0 グリシン 1 / 0 0 / 0 a) Rauterbeg, J., and Kuhn, K., Eur J. Biochem., 19, 398 (1971). b) Fietzek, P. P., Munch, M., Breitkreutz, D., and Kuhn, K., FEBS Lett., 9, 229 (1970). [Bornstein, P. and Traud, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R. L. ed.) vol. 4, p. 453. Academic Press (1979) より引用]

II-1-2 コラーゲンの立体構造 23,25,26)

コラーゲン分子は、Gly-X-Yの繰り返しからなるアミノ酸約1,000残基(分子量約10万)のポリペプチド鎖(α鎖)が3本より合わさってできている(図1)。中央部は、ヘリックスを形成しており、両末端部はほぐれている。ヘリックス部分は、3 本のポリペプチド鎖がそれぞれ約3.3残基で1 回転する左巻きヘリックスを作っている。三本鎖のヘリックスは全体として中心軸に対し右巻きに30~45残基で1回転するヘリックスを形成している。このようなコラーゲンのヘリックス構造をcoiled-coil構造あるいは、超ヘリックス構造と呼ぶことがある。超ヘリックス構造は壊れやすく変性しゼラチン化すると、ポリペプチド鎖が1本のα鎖、2本のβ鎖、3本のγ鎖に分かれる。コラーゲンのヘリックス部分は全体としてみると円筒状あるいは棒状になる。約1,000残基のポリペプチド鎖3本からなるコラーゲン分子の大きさは、長さ約3,000オングストローム、太さ約15オングストロームの円筒とみなすことができる。円筒の中心軸の側にはグリシンのみがあり、他の残基はすべて外側を向いている。これは、グリシン以外の残基では側鎖が大きいために立体障害が生じるからである。また、他のタンパク質と違い疎水性アミノ酸の残基の量が少なくても、これらは円筒の外側に露出している割合が高くなる。このことは、コラーゲンの溶解性が悪いことと関係がある。コラーゲン構造の変性温度は、動物の種類により異なり、細胞の環境温度と関係がある。例えば、ヒト

- 5- - 6- - 7-

のコラーゲンの変性温度は40℃であるが27)、南極の海に生息している魚のコラーゲンではその変性温度が5℃ぐらいである23)。また、同じ動物のコラーゲンでも組織により変性温度は異なっている。このようなコラーゲン分子の熱安定性には、ヒドロキシプロリンが重要な働きをしている。これは、プロリンにOH基が導入されることにより分子内での水素結合、またはH2Oを介しての水素結合が形成されやすくなるためであると考えられている。したがって、ヒドロキシプロリン含量の多いものは変性温度が高い。

図1 I型コラーゲンの構造

II-1-3 コラーゲン線維と架橋構造コラーゲンは生体内で線維を形成している。試験管内でもこのような線維を再生することができ、コラーゲンの酸性溶液にアルカリを添加するなどして中性にすると白濁してくる。イオン強度0.05以下に下げると4℃位の低温でも白濁し、それ以上のイオン強度では温度を少し高くすると白濁する。この濁りはコラーゲンの線維形成によるもので、これは生体内で見られるコラーゲン線維と同じ670オングストロームの周期性を示す線維である。適度なイオン強度のコラーゲン溶液を中性付近のpHで加温すると溶液は徐々にゲル化し、数分~数十分後に全体が均一に白濁したゲルを形成する。後述のコラーゲン・ゲル培養法(IV項参照)は、このコラーゲンの線維形成によるゲル化の特性を利用して生体内条件の食塩濃度0.14M、pH=7.4、温度=37℃で行っている。生体内での線維の構造は組織により異なり、組織の役割に応じた機能を発揮しやすいようになっている。例えば、腱ではコラーゲン分子が規則正しく配列し線維が束のようになっている。皮膚では、コラーゲン線維が入り組んだ配向をとっている。コラーゲン線維の微細構造や線維形成の機構について多くの研究がなされているが、まだ不明の点が多く残されている28)。コラーゲン分子が生体内で線維を形成すると、その線維を安定化させるためにコラーゲン分子内や分子間に架橋結合が導入され最後には不溶化される。この架橋結合導入は次のような機構により行われる。第一段階では、テロペプチド中のリジンやヒドロキシリジンのε-アミノ酸がリジルオキシダーゼにより酸化を受け、アルデヒドに変わる。これらは、それぞれアリシン、ヒドロキシアリシンと呼ばれている。次にこのアリシン、ヒドロキシアリシンは同一分子あるいは他分子中のある決まった位置のリジンやヒドロキシリジンなどとアルドール縮合したり、シッフ塩基を形成することなどにより架橋結合を形成する。これが主たる架橋構造であるが、他にも複雑な架橋結合が見つけられており、コラーゲンの生理的役割や物性との関連で研究が進められている29)。

Page 9: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

α1( I)

α1( I)α2

アミノ末端テロペプチド(16残基)

カルボキシル末端テロペプチド(25残基)

コラーゲンへリックス(Gly-X-Y)337

II コラーゲンについてII-1 コラーゲンの分子構造と諸性質II-1-1 アミノ酸組成とアミノ酸配列コラーゲンのアミノ酸組成および配列は、他のタンパク質に比べてきわめて特異的であり、このことは、後で述べるコラーゲン分子のヘリックス構造と密接な関係がある。 (a)アミノ酸組成 23)

グリシンが全アミノ酸残基の約1/3、イミノ酸(プロリンとヒドロキシプロリン)が約2/9を占め、疎水性アミノ酸残基が非常に少ない。なかでもトリプトファンは存在しないし、チロシンもテロペプチド(非ヘリックス部分)中に若干存在するだけである。(表2)

表2 ウシコラーゲンα鎖のアミノ酸組成

アミノ酸

1000 残基当たりの残基数 α1(I)a) α2 b) α1(II)c) α1(III)d)

3-ヒドロキシプロリン 1 - 2 - 4-ヒドロキシプロリン 85 85 91 127 アスパラギン酸 45 47 43 48 トレオニン 16 17 22 14 セリン 34 24 26 44 グルタミン酸 77 71 87 71 プロリン 135 120 129 106 グリシン 327 328 333 366 アラニン 120 101 102 82 システイン - - - 2 バリン 18 34 17 12 メチオニン 7 4 11 7 イソロイシン 9 17 9 11 ロイシン 21 34 26 15 チロシン 44 3 1 3 フェニルアラニン 12 16 14 9 ヒドロキシリジン 55 11 23 7 リジン 32 21 15 25 ヒスチジン 3 8 2 8 アルギニン 50 57 51 44 a) Rauterbeg, J., and Kuhn, K., Eur J. Biochem., 19, 398 (1971). b) Fietzek, P. P., Munch, M., Breitkreutz, D., and Kuhn, K., FEBS Lett., 9, 229 (1970). c) Miller, E. J., and Lunde, L. G., Biochemistry, 12, 3153 (1973). d) Butler, W. T., Birkedal-Hansen, H., Beegle, W. F., Taylor, R. E., and Chung, E., J. Biol. Chem., 250, 8907 (1975). [Bornstein, P. and Traud, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R. L. ed.) vol. 4, p. 453. Academic Press (1979) より引用]

(b)アミノ酸配列 23,24)

1次構造の特徴は、Gly-X-Yの繰り返しになっている点である。3残基ごとにグリシンが存在するのは、コラーゲンがヘリックスを形成する上で必要な条件である。X、Yは任意のアミノ酸であるが、その種類によりX、Yを占める頻度は異なっている(表3)。

ここで重要な点は、プロリンはXの位置に、ヒドロキシプロリンはYの位置に存在していることである。しかし、テロペプチド部分にはこのような規則的配列はみられない。

表3 Gly-X-Y 配列中の各アミノ酸残基の分布

アミノ酸 α1(Ⅰ)鎖 X/Y α2 鎖 X/Y a) プロリン 16 / 4 90 / 3 ヒドロキシプロリン 11 / 112 b) 0 / 83 フェニルアラニン 12 / 0 10 / 0 ロイシン 18 / 1 25 / 5 アルギニン 9 / 42 9 / 35 リジン 12 / 20 8 / 10 グルタミン 7 / 19 7 / 17 アスパラギン酸 6 / 5 13 / 7 グルタミン酸 42 / 6 31 / 3 トレオニン 3 / 12 4 / 9 セリン 18 / 17 12 / 12 アスパラギン酸 17 / 15 7 / 11 アラニン 59 / 63 39 / 46 バリン 9 / 8 9 / 20 イソロイシン 3 / 4 8 / 8 メチオニン 2 / 5 0 / 4 ヒスチジン 2 / 0 5 / 1 ヒドロキシリジン 0 / 4 0 / 7 チロシン 0 / 0 1 / 0 グリシン 1 / 0 0 / 0 a) Rauterbeg, J., and Kuhn, K., Eur J. Biochem., 19, 398 (1971). b) Fietzek, P. P., Munch, M., Breitkreutz, D., and Kuhn, K., FEBS Lett., 9, 229 (1970). [Bornstein, P. and Traud, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R. L. ed.) vol. 4, p. 453. Academic Press (1979) より引用]

II-1-2 コラーゲンの立体構造 23,25,26)

コラーゲン分子は、Gly-X-Yの繰り返しからなるアミノ酸約1,000残基(分子量約10万)のポリペプチド鎖(α鎖)が3本より合わさってできている(図1)。中央部は、ヘリックスを形成しており、両末端部はほぐれている。ヘリックス部分は、3 本のポリペプチド鎖がそれぞれ約3.3残基で1 回転する左巻きヘリックスを作っている。三本鎖のヘリックスは全体として中心軸に対し右巻きに30~45残基で1回転するヘリックスを形成している。このようなコラーゲンのヘリックス構造をcoiled-coil構造あるいは、超ヘリックス構造と呼ぶことがある。超ヘリックス構造は壊れやすく変性しゼラチン化すると、ポリペプチド鎖が1本のα鎖、2本のβ鎖、3本のγ鎖に分かれる。コラーゲンのヘリックス部分は全体としてみると円筒状あるいは棒状になる。約1,000残基のポリペプチド鎖3本からなるコラーゲン分子の大きさは、長さ約3,000オングストローム、太さ約15オングストロームの円筒とみなすことができる。円筒の中心軸の側にはグリシンのみがあり、他の残基はすべて外側を向いている。これは、グリシン以外の残基では側鎖が大きいために立体障害が生じるからである。また、他のタンパク質と違い疎水性アミノ酸の残基の量が少なくても、これらは円筒の外側に露出している割合が高くなる。このことは、コラーゲンの溶解性が悪いことと関係がある。コラーゲン構造の変性温度は、動物の種類により異なり、細胞の環境温度と関係がある。例えば、ヒト

- 5- - 6- - 7-

のコラーゲンの変性温度は40℃であるが27)、南極の海に生息している魚のコラーゲンではその変性温度が5℃ぐらいである23)。また、同じ動物のコラーゲンでも組織により変性温度は異なっている。このようなコラーゲン分子の熱安定性には、ヒドロキシプロリンが重要な働きをしている。これは、プロリンにOH基が導入されることにより分子内での水素結合、またはH2Oを介しての水素結合が形成されやすくなるためであると考えられている。したがって、ヒドロキシプロリン含量の多いものは変性温度が高い。

図1 I型コラーゲンの構造

II-1-3 コラーゲン線維と架橋構造コラーゲンは生体内で線維を形成している。試験管内でもこのような線維を再生することができ、コラーゲンの酸性溶液にアルカリを添加するなどして中性にすると白濁してくる。イオン強度0.05以下に下げると4℃位の低温でも白濁し、それ以上のイオン強度では温度を少し高くすると白濁する。この濁りはコラーゲンの線維形成によるもので、これは生体内で見られるコラーゲン線維と同じ670オングストロームの周期性を示す線維である。適度なイオン強度のコラーゲン溶液を中性付近のpHで加温すると溶液は徐々にゲル化し、数分~数十分後に全体が均一に白濁したゲルを形成する。後述のコラーゲン・ゲル培養法(IV項参照)は、このコラーゲンの線維形成によるゲル化の特性を利用して生体内条件の食塩濃度0.14M、pH=7.4、温度=37℃で行っている。生体内での線維の構造は組織により異なり、組織の役割に応じた機能を発揮しやすいようになっている。例えば、腱ではコラーゲン分子が規則正しく配列し線維が束のようになっている。皮膚では、コラーゲン線維が入り組んだ配向をとっている。コラーゲン線維の微細構造や線維形成の機構について多くの研究がなされているが、まだ不明の点が多く残されている28)。コラーゲン分子が生体内で線維を形成すると、その線維を安定化させるためにコラーゲン分子内や分子間に架橋結合が導入され最後には不溶化される。この架橋結合導入は次のような機構により行われる。第一段階では、テロペプチド中のリジンやヒドロキシリジンのε-アミノ酸がリジルオキシダーゼにより酸化を受け、アルデヒドに変わる。これらは、それぞれアリシン、ヒドロキシアリシンと呼ばれている。次にこのアリシン、ヒドロキシアリシンは同一分子あるいは他分子中のある決まった位置のリジンやヒドロキシリジンなどとアルドール縮合したり、シッフ塩基を形成することなどにより架橋結合を形成する。これが主たる架橋構造であるが、他にも複雑な架橋結合が見つけられており、コラーゲンの生理的役割や物性との関連で研究が進められている29)。

Page 10: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

分子量(鎖組成)[α1(Ⅰ)]2α2

[α1(Ⅰ)]3

[α1(Ⅱ)]3

[α1(Ⅲ)]3

B2A、B3、A2Bが存在する可能性あり

コラーゲンペプチド鎖α1(Ⅰ)α2 α1(Ⅰ)α2 α1(Ⅱ)

α1(Ⅲ)

CD

AB

名 称 Ⅰ型

Ⅰ型トリマー

Ⅱ型

Ⅲ型

基底膜コラーゲン(Ⅳ型)

AB(またはⅤ型)コラーゲン

組織分布 真皮、骨、象牙質、腱、動脈壁、子宮壁、椎間板繊維輪、その他細胞間間質種々細胞培養系、鶏胚、腱、頭蓋骨、ラチロゲン摂取後ラット象牙質、正常ヒト皮膚硝子軟骨、硝子体(眼)、脊椎、椎間板髄核 真皮、動脈壁、子宮壁、消化管壁(Ⅰ型と共に分布するが、骨、腱では微量) 基底膜

種々の細胞表層

構成アミノ酸糖 2種類の鎖の混合体である。リジン残基の水酸化率が15%程度である。糖含量が低い。

リジン残基の水酸化率が50%程度である。水酸化されたリジン残基すべてに糖が結合している。 システイン残基を含んでいる。プロリン残基よりヒドロキシプロリン残基の方が多い。リジン残基の水酸化率はⅠ型と同程度。3-ヒドロキシプロリン残基の量が1%程度と多い。リジン残基の大部分は水酸化されている。また、水酸化されたリジン残基すべてに糖が結合している。

可溶化の方法0.15~0.5M NaCl in 0.05MTris-HCl、pH7.50.5M 酢酸或いは0.1~0.3Mクエン酸緩衝液 pH3.5~3.7ペプシン、プロナーゼなどのタンパク質分解酵素 酸性pH

種 類中性塩可溶性コラーゲン酸可溶性コラーゲン酵素可溶性コラーゲン不溶性コラーゲン

特 徴新しく生合成されたコラーゲンが多い。α 鎖、β 鎖の部分が多いⅠ型コラーゲンが主である。中性塩可溶性コラーゲンに比べγ 鎖や、より高分子量の会合体が多い。Ⅰ型コラーゲンが主である。テロペプチド(非ヘリックス部分)がプロテアーゼにより除去されている。繊維の形成速度が遅く、繊維の安定性も低い。Ⅰ型以外にⅡ型、Ⅲ型も可溶化される一般には、中性塩可溶性、酸可溶性コラーゲンを抽出した後の残渣をいう。架橋結合により強固に安定化されていると考えられる。

コラーゲン全体の1/3 がグリシン、イミノ酸含量高い、トリプトファンがない、疎水性アミノ酸が少ない、ヒドロキシプロリン・ヒドロキシリジンがある9.0~9.2

可溶化されるがコラーゲンヘリックスの部分(Ⅰ型では95%)はそのまま残る分解される 3/4と1/4断片を生ずる 220nm付近に正の吸収を示す高いある、中性pH、適当なイオン強度で温度を上げる(25~37℃)(繊維形成)中性塩に溶けるが濃いNaClで塩析される約30万

よく溶けるがNaCl添加により沈殿

測定法アミノ酸測定法

等イオン点 ペプシンなどプロテアーゼによる処理細菌コラゲナーゼによる処理動物コラゲナーゼの特異的分解円二色性スペクトル粘性ゲル化能 塩析(溶解度)分子量

酸性中の溶解度

ゼラチンほとんど同じであるが、アルカリ処理法ゼラチンでは若干差が見られる 4.8~5.2(アルカリ処理法ゼラチン)6.5~9.0(酸処理法ゼラチン)分解される 同じ 小さいペプチドに切断されるか、全く切断されない負になる著しく低くなるある、ほとんどのpH 領域、温度を下げる(25℃以下)(水素結合による)溶けている10万(α)、20万(β)、30万(γ)、また30万以上の高分子量成分や、逆に10万以下の低分子量成分も存在するよく溶ける

形状 用途溶液 血漿増補液、コーティングゲル 代用硝子体、創傷カバー材粉末 止血剤、Drug Delivery紡糸繊維 縫合糸、人工血管、人工皮膚、人工腱フィルム 角膜、Drug Delivery膜 血液透析膜、人工硬膜、人工鼓膜、癒着防止膜チューブ 人工血管、人工胆管、チューブ状器官中空糸 血液透析膜、人工肺膜スポンジ 創傷カバー材、止血剤

II-2 コラーゲンの分類II-2-1 分子種による分類 23,30)

コラーゲン構造をとっている分子種には少なくとも6種類(I~V型とI型トリマー)ある。またコラーゲン分子を構成しているポリペプチド鎖は8種類[α1(Ⅰ)~α1(Ⅲ)、α2、C、D、A、B]が見つけられている(表4)。このうちで量的にもっとも多いものはI型コラーゲンであり、全コラーゲンの80~90%の量に達する。また、利用の面でもこのコラーゲンが最も重要である。

表4 コラーゲンの種類と特徴

※ 藤原作平、コラーゲン代謝と疾患(永井裕、藤本大三郎編), p.112, 講談社 (1982), Bornstein, P. and Truub, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R.L.,ed) Vol.4, p.419,Academic Press (1979)より引用

II-2-2 溶解性に基づく分類コラーゲンの溶解性は、これを利用する際に重要になってくる。可溶化の方法により、得られるコラーゲンの性質に差が生じる。例えば、中性塩可溶性のコラーゲンでは合成されて間もない新しいコラーゲン分子が多く、酸可溶性のコラーゲンでは会合体(分子量60万以上)が多いなどの特徴がある。また、中性塩や酸により可溶化できるコラーゲンはI型が主であり、他のタイプはほとんど可溶化することができない(表5)。

表5 溶解性に基づくコラーゲンの分類

II-3 コラーゲンの機能コラーゲンの機能は従来、生体の形態維持や保護各臓器間の結合など、主に物理的機能を担っていると考えられてきた。しかし最近になり、重要な生物学的役割も果たしていることが明らかになってきた。血小板凝集の誘発、血小板からの顆粒の放出、各種細胞の基質、細胞の分化(筋原細胞の筋繊維への分化など)、骨や歯の石灰化、創傷の治癒促進、光や物質の透過性を維持するなどがその代表的な例である(これらの機能のうち各種の細胞に対してコラーゲンが基質として細胞の増殖形態や分化機能の維持にどのような役割を担うかについてはI-2項で述べた通りである)。したがって、今後コラーゲンを利用する場合これらの点に着目した用途の開発が重要となるのである。参考までに、コラーゲンの化学的および生化学的特徴をまとめ、その変性物であり、一般的によく知られるゼラチンと比較したのが表6である。

表6 コラーゲンの化学的・生化学的特徴及びゼラチンとの比較

II-4 コラーゲンの利用コラーゲンを利用する場合、原料、コラーゲンのタイプ、可溶化の方法などを考慮して、利用目的にあったコラーゲンを選ぶことが最も重要である。例えば、腱のコラーゲンは皮のコラーゲンに比べ、プロテアーゼの作用を受けにくいし、酸可溶性コラーゲンは酵素可溶性コラーゲンより線維の形成速度が速く、またゲルの強度も高いなどの差がある。現在の用途及び、今後期待される用途についてまとめてみる。 II-4-1 化粧品コラーゲンの化粧品への利用は世界各国に広がっており、日本においてもコラーゲンを利用した製品が各社から販売されている。化粧品用として利用されるコラーゲンには、酸可溶性あるいは酵素可溶性コラーゲンと、これらを分子量1,000~10,000程度までのペプチドに加水分解したものの2種類が

- 8- - 9- - 10 -

ある。前者は主にスキンクリームや軟膏に用いられており、皮膚の水分を保持し、弾力を与え滑らかにするなどの効果が期待されている。コラーゲンペプチドは、ヘヤーシャンプー、リンス、コンディショナーやマニキュア液などに用いられている。その効果として、湿潤性を与える、保護皮膜を形成するなどがうたわれている。 II-4-2 医用材料 31,32)

コラーゲンの医用材料への応用は、最近になり非常に注目されている。使用されるコラーゲンの形状はその用途により様々であるが組織構造を壊さないでそのまま利用する場合と、可溶性コラーゲンを利用する場合とに大別できる。組織構造をそのまま利用する例としては、人工血管としてのウシの頚動脈の利用や火傷の治療用としてのブタ皮がある。可溶性コラーゲンを利用する場合、その多くは用途に適した形に加工される(表7)。コラーゲンが医用材料に適している理由として次のことが考えられる。まず、抗原性が他のタンパク質に比べて非常に低いことがあげられる。コラーゲンの抗原決定部位は主にテロペプチド中に存在するが、酵素可溶性コラーゲンではこのテロペプチドが除去されているために、抗原性がほとんど問題にならない。また、酸可溶性コラーゲンでも繊維や膜などの加工時にグルタルアルデヒドやγ線で架橋結合を導入すると、その抗原性が著しく減少することが知られている。また、コラーゲンは各種細胞の基質の役割を果たしているので、医用材料として生体に応用した際、組織との親和性がよく、細胞の生長の足場となる。したがって、合成高分子に比べて生体とのなじみが非常によい。さらに、化学修飾することによりコラーゲンの性質が調節できることも利点としてあげられる。例えば、架橋結合の導入により生体内でのコラーゲンの消化分解速度を遅くする。コラーゲンをメチル化し血栓性にする。あるいは、スクシニル化し抗血栓性にするなどである。

表7 コラーゲンの形状とその応用

※ 宮田輝夫、A. L. Rubin, K. H. Stenzel., 人工臓器資料集成(越川昭三、桜井靖久、中林宣男), p.90, ライフ・サイエンス・センター (1976)より引用

Page 11: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

分子量(鎖組成)[α1(Ⅰ)]2α2

[α1(Ⅰ)]3

[α1(Ⅱ)]3

[α1(Ⅲ)]3

B2A、B3、A2Bが存在する可能性あり

コラーゲンペプチド鎖α1(Ⅰ)α2 α1(Ⅰ)α2 α1(Ⅱ)

α1(Ⅲ)

CD

AB

名 称 Ⅰ型

Ⅰ型トリマー

Ⅱ型

Ⅲ型

基底膜コラーゲン(Ⅳ型)

AB(またはⅤ型)コラーゲン

組織分布 真皮、骨、象牙質、腱、動脈壁、子宮壁、椎間板繊維輪、その他細胞間間質種々細胞培養系、鶏胚、腱、頭蓋骨、ラチロゲン摂取後ラット象牙質、正常ヒト皮膚硝子軟骨、硝子体(眼)、脊椎、椎間板髄核 真皮、動脈壁、子宮壁、消化管壁(Ⅰ型と共に分布するが、骨、腱では微量) 基底膜

種々の細胞表層

構成アミノ酸糖 2種類の鎖の混合体である。リジン残基の水酸化率が15%程度である。糖含量が低い。

リジン残基の水酸化率が50%程度である。水酸化されたリジン残基すべてに糖が結合している。 システイン残基を含んでいる。プロリン残基よりヒドロキシプロリン残基の方が多い。リジン残基の水酸化率はⅠ型と同程度。3-ヒドロキシプロリン残基の量が1%程度と多い。リジン残基の大部分は水酸化されている。また、水酸化されたリジン残基すべてに糖が結合している。

可溶化の方法0.15~0.5M NaCl in 0.05MTris-HCl、pH7.50.5M 酢酸或いは0.1~0.3Mクエン酸緩衝液 pH3.5~3.7ペプシン、プロナーゼなどのタンパク質分解酵素 酸性pH

種 類中性塩可溶性コラーゲン酸可溶性コラーゲン酵素可溶性コラーゲン不溶性コラーゲン

特 徴新しく生合成されたコラーゲンが多い。α 鎖、β 鎖の部分が多いⅠ型コラーゲンが主である。中性塩可溶性コラーゲンに比べγ 鎖や、より高分子量の会合体が多い。Ⅰ型コラーゲンが主である。テロペプチド(非ヘリックス部分)がプロテアーゼにより除去されている。繊維の形成速度が遅く、繊維の安定性も低い。Ⅰ型以外にⅡ型、Ⅲ型も可溶化される一般には、中性塩可溶性、酸可溶性コラーゲンを抽出した後の残渣をいう。架橋結合により強固に安定化されていると考えられる。

コラーゲン全体の1/3 がグリシン、イミノ酸含量高い、トリプトファンがない、疎水性アミノ酸が少ない、ヒドロキシプロリン・ヒドロキシリジンがある9.0~9.2

可溶化されるがコラーゲンヘリックスの部分(Ⅰ型では95%)はそのまま残る分解される 3/4と1/4断片を生ずる 220nm付近に正の吸収を示す高いある、中性pH、適当なイオン強度で温度を上げる(25~37℃)(繊維形成)中性塩に溶けるが濃いNaClで塩析される約30万

よく溶けるがNaCl添加により沈殿

測定法アミノ酸測定法

等イオン点 ペプシンなどプロテアーゼによる処理細菌コラゲナーゼによる処理動物コラゲナーゼの特異的分解円二色性スペクトル粘性ゲル化能 塩析(溶解度)分子量

酸性中の溶解度

ゼラチンほとんど同じであるが、アルカリ処理法ゼラチンでは若干差が見られる 4.8~5.2(アルカリ処理法ゼラチン)6.5~9.0(酸処理法ゼラチン)分解される 同じ 小さいペプチドに切断されるか、全く切断されない負になる著しく低くなるある、ほとんどのpH 領域、温度を下げる(25℃以下)(水素結合による)溶けている10万(α)、20万(β)、30万(γ)、また30万以上の高分子量成分や、逆に10万以下の低分子量成分も存在するよく溶ける

形状 用途溶液 血漿増補液、コーティングゲル 代用硝子体、創傷カバー材粉末 止血剤、Drug Delivery紡糸繊維 縫合糸、人工血管、人工皮膚、人工腱フィルム 角膜、Drug Delivery膜 血液透析膜、人工硬膜、人工鼓膜、癒着防止膜チューブ 人工血管、人工胆管、チューブ状器官中空糸 血液透析膜、人工肺膜スポンジ 創傷カバー材、止血剤

II-2 コラーゲンの分類II-2-1 分子種による分類 23,30)

コラーゲン構造をとっている分子種には少なくとも6種類(I~V型とI型トリマー)ある。またコラーゲン分子を構成しているポリペプチド鎖は8種類[α1(Ⅰ)~α1(Ⅲ)、α2、C、D、A、B]が見つけられている(表4)。このうちで量的にもっとも多いものはI型コラーゲンであり、全コラーゲンの80~90%の量に達する。また、利用の面でもこのコラーゲンが最も重要である。

表4 コラーゲンの種類と特徴

※ 藤原作平、コラーゲン代謝と疾患(永井裕、藤本大三郎編), p.112, 講談社 (1982), Bornstein, P. and Truub, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R.L.,ed) Vol.4, p.419,Academic Press (1979)より引用

II-2-2 溶解性に基づく分類コラーゲンの溶解性は、これを利用する際に重要になってくる。可溶化の方法により、得られるコラーゲンの性質に差が生じる。例えば、中性塩可溶性のコラーゲンでは合成されて間もない新しいコラーゲン分子が多く、酸可溶性のコラーゲンでは会合体(分子量60万以上)が多いなどの特徴がある。また、中性塩や酸により可溶化できるコラーゲンはI型が主であり、他のタイプはほとんど可溶化することができない(表5)。

表5 溶解性に基づくコラーゲンの分類

II-3 コラーゲンの機能コラーゲンの機能は従来、生体の形態維持や保護各臓器間の結合など、主に物理的機能を担っていると考えられてきた。しかし最近になり、重要な生物学的役割も果たしていることが明らかになってきた。血小板凝集の誘発、血小板からの顆粒の放出、各種細胞の基質、細胞の分化(筋原細胞の筋繊維への分化など)、骨や歯の石灰化、創傷の治癒促進、光や物質の透過性を維持するなどがその代表的な例である(これらの機能のうち各種の細胞に対してコラーゲンが基質として細胞の増殖形態や分化機能の維持にどのような役割を担うかについてはI-2項で述べた通りである)。したがって、今後コラーゲンを利用する場合これらの点に着目した用途の開発が重要となるのである。参考までに、コラーゲンの化学的および生化学的特徴をまとめ、その変性物であり、一般的によく知られるゼラチンと比較したのが表6である。

表6 コラーゲンの化学的・生化学的特徴及びゼラチンとの比較

II-4 コラーゲンの利用コラーゲンを利用する場合、原料、コラーゲンのタイプ、可溶化の方法などを考慮して、利用目的にあったコラーゲンを選ぶことが最も重要である。例えば、腱のコラーゲンは皮のコラーゲンに比べ、プロテアーゼの作用を受けにくいし、酸可溶性コラーゲンは酵素可溶性コラーゲンより線維の形成速度が速く、またゲルの強度も高いなどの差がある。現在の用途及び、今後期待される用途についてまとめてみる。 II-4-1 化粧品コラーゲンの化粧品への利用は世界各国に広がっており、日本においてもコラーゲンを利用した製品が各社から販売されている。化粧品用として利用されるコラーゲンには、酸可溶性あるいは酵素可溶性コラーゲンと、これらを分子量1,000~10,000程度までのペプチドに加水分解したものの2種類が

- 8- - 9- - 10 -

ある。前者は主にスキンクリームや軟膏に用いられており、皮膚の水分を保持し、弾力を与え滑らかにするなどの効果が期待されている。コラーゲンペプチドは、ヘヤーシャンプー、リンス、コンディショナーやマニキュア液などに用いられている。その効果として、湿潤性を与える、保護皮膜を形成するなどがうたわれている。 II-4-2 医用材料 31,32)

コラーゲンの医用材料への応用は、最近になり非常に注目されている。使用されるコラーゲンの形状はその用途により様々であるが組織構造を壊さないでそのまま利用する場合と、可溶性コラーゲンを利用する場合とに大別できる。組織構造をそのまま利用する例としては、人工血管としてのウシの頚動脈の利用や火傷の治療用としてのブタ皮がある。可溶性コラーゲンを利用する場合、その多くは用途に適した形に加工される(表7)。コラーゲンが医用材料に適している理由として次のことが考えられる。まず、抗原性が他のタンパク質に比べて非常に低いことがあげられる。コラーゲンの抗原決定部位は主にテロペプチド中に存在するが、酵素可溶性コラーゲンではこのテロペプチドが除去されているために、抗原性がほとんど問題にならない。また、酸可溶性コラーゲンでも繊維や膜などの加工時にグルタルアルデヒドやγ線で架橋結合を導入すると、その抗原性が著しく減少することが知られている。また、コラーゲンは各種細胞の基質の役割を果たしているので、医用材料として生体に応用した際、組織との親和性がよく、細胞の生長の足場となる。したがって、合成高分子に比べて生体とのなじみが非常によい。さらに、化学修飾することによりコラーゲンの性質が調節できることも利点としてあげられる。例えば、架橋結合の導入により生体内でのコラーゲンの消化分解速度を遅くする。コラーゲンをメチル化し血栓性にする。あるいは、スクシニル化し抗血栓性にするなどである。

表7 コラーゲンの形状とその応用

※ 宮田輝夫、A. L. Rubin, K. H. Stenzel., 人工臓器資料集成(越川昭三、桜井靖久、中林宣男), p.90, ライフ・サイエンス・センター (1976)より引用

Page 12: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

分子量(鎖組成)[α1(Ⅰ)]2α2

[α1(Ⅰ)]3

[α1(Ⅱ)]3

[α1(Ⅲ)]3

B2A、B3、A2Bが存在する可能性あり

コラーゲンペプチド鎖α1(Ⅰ)α2 α1(Ⅰ)α2 α1(Ⅱ)

α1(Ⅲ)

CD

AB

名 称 Ⅰ型

Ⅰ型トリマー

Ⅱ型

Ⅲ型

基底膜コラーゲン(Ⅳ型)

AB(またはⅤ型)コラーゲン

組織分布 真皮、骨、象牙質、腱、動脈壁、子宮壁、椎間板繊維輪、その他細胞間間質種々細胞培養系、鶏胚、腱、頭蓋骨、ラチロゲン摂取後ラット象牙質、正常ヒト皮膚硝子軟骨、硝子体(眼)、脊椎、椎間板髄核 真皮、動脈壁、子宮壁、消化管壁(Ⅰ型と共に分布するが、骨、腱では微量) 基底膜

種々の細胞表層

構成アミノ酸糖 2種類の鎖の混合体である。リジン残基の水酸化率が15%程度である。糖含量が低い。

リジン残基の水酸化率が50%程度である。水酸化されたリジン残基すべてに糖が結合している。 システイン残基を含んでいる。プロリン残基よりヒドロキシプロリン残基の方が多い。リジン残基の水酸化率はⅠ型と同程度。3-ヒドロキシプロリン残基の量が1%程度と多い。リジン残基の大部分は水酸化されている。また、水酸化されたリジン残基すべてに糖が結合している。

可溶化の方法0.15~0.5M NaCl in 0.05MTris-HCl、pH7.50.5M 酢酸或いは0.1~0.3Mクエン酸緩衝液 pH3.5~3.7ペプシン、プロナーゼなどのタンパク質分解酵素 酸性pH

種 類中性塩可溶性コラーゲン酸可溶性コラーゲン酵素可溶性コラーゲン不溶性コラーゲン

特 徴新しく生合成されたコラーゲンが多い。α 鎖、β 鎖の部分が多いⅠ型コラーゲンが主である。中性塩可溶性コラーゲンに比べγ 鎖や、より高分子量の会合体が多い。Ⅰ型コラーゲンが主である。テロペプチド(非ヘリックス部分)がプロテアーゼにより除去されている。繊維の形成速度が遅く、繊維の安定性も低い。Ⅰ型以外にⅡ型、Ⅲ型も可溶化される一般には、中性塩可溶性、酸可溶性コラーゲンを抽出した後の残渣をいう。架橋結合により強固に安定化されていると考えられる。

コラーゲン全体の1/3 がグリシン、イミノ酸含量高い、トリプトファンがない、疎水性アミノ酸が少ない、ヒドロキシプロリン・ヒドロキシリジンがある9.0~9.2

可溶化されるがコラーゲンヘリックスの部分(Ⅰ型では95%)はそのまま残る分解される 3/4と1/4断片を生ずる 220nm付近に正の吸収を示す高いある、中性pH、適当なイオン強度で温度を上げる(25~37℃)(繊維形成)中性塩に溶けるが濃いNaClで塩析される約30万

よく溶けるがNaCl添加により沈殿

測定法アミノ酸測定法

等イオン点 ペプシンなどプロテアーゼによる処理細菌コラゲナーゼによる処理動物コラゲナーゼの特異的分解円二色性スペクトル粘性ゲル化能 塩析(溶解度)分子量

酸性中の溶解度

ゼラチンほとんど同じであるが、アルカリ処理法ゼラチンでは若干差が見られる 4.8~5.2(アルカリ処理法ゼラチン)6.5~9.0(酸処理法ゼラチン)分解される 同じ 小さいペプチドに切断されるか、全く切断されない負になる著しく低くなるある、ほとんどのpH 領域、温度を下げる(25℃以下)(水素結合による)溶けている10万(α)、20万(β)、30万(γ)、また30万以上の高分子量成分や、逆に10万以下の低分子量成分も存在するよく溶ける

形状 用途溶液 血漿増補液、コーティングゲル 代用硝子体、創傷カバー材粉末 止血剤、Drug Delivery紡糸繊維 縫合糸、人工血管、人工皮膚、人工腱フィルム 角膜、Drug Delivery膜 血液透析膜、人工硬膜、人工鼓膜、癒着防止膜チューブ 人工血管、人工胆管、チューブ状器官中空糸 血液透析膜、人工肺膜スポンジ 創傷カバー材、止血剤

II-2 コラーゲンの分類II-2-1 分子種による分類 23,30)

コラーゲン構造をとっている分子種には少なくとも6種類(I~V型とI型トリマー)ある。またコラーゲン分子を構成しているポリペプチド鎖は8種類[α1(Ⅰ)~α1(Ⅲ)、α2、C、D、A、B]が見つけられている(表4)。このうちで量的にもっとも多いものはI型コラーゲンであり、全コラーゲンの80~90%の量に達する。また、利用の面でもこのコラーゲンが最も重要である。

表4 コラーゲンの種類と特徴

※ 藤原作平、コラーゲン代謝と疾患(永井裕、藤本大三郎編), p.112, 講談社 (1982), Bornstein, P. and Truub, W., The Proteins (Neurath, H., and Hill, R.L.,ed) Vol.4, p.419,Academic Press (1979)より引用

II-2-2 溶解性に基づく分類コラーゲンの溶解性は、これを利用する際に重要になってくる。可溶化の方法により、得られるコラーゲンの性質に差が生じる。例えば、中性塩可溶性のコラーゲンでは合成されて間もない新しいコラーゲン分子が多く、酸可溶性のコラーゲンでは会合体(分子量60万以上)が多いなどの特徴がある。また、中性塩や酸により可溶化できるコラーゲンはI型が主であり、他のタイプはほとんど可溶化することができない(表5)。

表5 溶解性に基づくコラーゲンの分類

II-3 コラーゲンの機能コラーゲンの機能は従来、生体の形態維持や保護各臓器間の結合など、主に物理的機能を担っていると考えられてきた。しかし最近になり、重要な生物学的役割も果たしていることが明らかになってきた。血小板凝集の誘発、血小板からの顆粒の放出、各種細胞の基質、細胞の分化(筋原細胞の筋繊維への分化など)、骨や歯の石灰化、創傷の治癒促進、光や物質の透過性を維持するなどがその代表的な例である(これらの機能のうち各種の細胞に対してコラーゲンが基質として細胞の増殖形態や分化機能の維持にどのような役割を担うかについてはI-2項で述べた通りである)。したがって、今後コラーゲンを利用する場合これらの点に着目した用途の開発が重要となるのである。参考までに、コラーゲンの化学的および生化学的特徴をまとめ、その変性物であり、一般的によく知られるゼラチンと比較したのが表6である。

表6 コラーゲンの化学的・生化学的特徴及びゼラチンとの比較

II-4 コラーゲンの利用コラーゲンを利用する場合、原料、コラーゲンのタイプ、可溶化の方法などを考慮して、利用目的にあったコラーゲンを選ぶことが最も重要である。例えば、腱のコラーゲンは皮のコラーゲンに比べ、プロテアーゼの作用を受けにくいし、酸可溶性コラーゲンは酵素可溶性コラーゲンより線維の形成速度が速く、またゲルの強度も高いなどの差がある。現在の用途及び、今後期待される用途についてまとめてみる。 II-4-1 化粧品コラーゲンの化粧品への利用は世界各国に広がっており、日本においてもコラーゲンを利用した製品が各社から販売されている。化粧品用として利用されるコラーゲンには、酸可溶性あるいは酵素可溶性コラーゲンと、これらを分子量1,000~10,000程度までのペプチドに加水分解したものの2種類が

- 8- - 9- - 10 -

ある。前者は主にスキンクリームや軟膏に用いられており、皮膚の水分を保持し、弾力を与え滑らかにするなどの効果が期待されている。コラーゲンペプチドは、ヘヤーシャンプー、リンス、コンディショナーやマニキュア液などに用いられている。その効果として、湿潤性を与える、保護皮膜を形成するなどがうたわれている。 II-4-2 医用材料 31,32)

コラーゲンの医用材料への応用は、最近になり非常に注目されている。使用されるコラーゲンの形状はその用途により様々であるが組織構造を壊さないでそのまま利用する場合と、可溶性コラーゲンを利用する場合とに大別できる。組織構造をそのまま利用する例としては、人工血管としてのウシの頚動脈の利用や火傷の治療用としてのブタ皮がある。可溶性コラーゲンを利用する場合、その多くは用途に適した形に加工される(表7)。コラーゲンが医用材料に適している理由として次のことが考えられる。まず、抗原性が他のタンパク質に比べて非常に低いことがあげられる。コラーゲンの抗原決定部位は主にテロペプチド中に存在するが、酵素可溶性コラーゲンではこのテロペプチドが除去されているために、抗原性がほとんど問題にならない。また、酸可溶性コラーゲンでも繊維や膜などの加工時にグルタルアルデヒドやγ線で架橋結合を導入すると、その抗原性が著しく減少することが知られている。また、コラーゲンは各種細胞の基質の役割を果たしているので、医用材料として生体に応用した際、組織との親和性がよく、細胞の生長の足場となる。したがって、合成高分子に比べて生体とのなじみが非常によい。さらに、化学修飾することによりコラーゲンの性質が調節できることも利点としてあげられる。例えば、架橋結合の導入により生体内でのコラーゲンの消化分解速度を遅くする。コラーゲンをメチル化し血栓性にする。あるいは、スクシニル化し抗血栓性にするなどである。

表7 コラーゲンの形状とその応用

※ 宮田輝夫、A. L. Rubin, K. H. Stenzel., 人工臓器資料集成(越川昭三、桜井靖久、中林宣男), p.90, ライフ・サイエンス・センター (1976)より引用

Page 13: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

Cellmatrix Type I -A

α1

α2

β

γ

migration

A550

Cellmatrix Type I - P

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I - C

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I -ACellmatrix Type I - PCellmatrix Type I - C

Elution Volume (ml)

A230

50 100 150 200

0.15

0.10

0.05

0.00

Temperature (°C)

-[α] D

400

300

200

350

250

15010 30 50 600 4020

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 25°C

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 37°C

Concentration of Collagen (mg/ml)

300

100

200

01 3 50 42

Cellmatrix Type I - PCellmatrix Type I -A

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

pH

500

300

100

400

200

08 9 106 7

Gel Strength (g)

Ionic Strength

300

100

400

200

00.2 0.3 0.40.0 0.1

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)についてIII-1 Cellmatrix の特徴と種類Cellmatrix Type I-Aを使用することによりコラーゲンを用いる新しい培養法、例えば浮遊コラーゲン・ゲル培養法、コラーゲン・ゲル包埋培養法を容易に行うことができるようになった。

その結果

● 従来の単層培養法では不可能であった初代培養細胞(特に上皮細胞)の増殖維持、形態形成の促進などが観察されるようになった。

● 従来の単層培養法では困難であった細胞分化機能を誘導維持できるようになった。

等が多数報告され、コラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野に利用されるようになってきている。また、Cellmatrixを用いて従来のコラーゲン・コート法も行うことができる。 Cellmatrix Type I-A

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来の酸可溶性 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ネズミ尾由来のコラーゲン・ゲルより硬くてバラツキのないゲルをより速く再構成する。

● 細胞はゲル上だけでなく、ゲル内においても成育し、常に再現性ある培養結果が得られる。

● ゲルで培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。 Cellmatrix Type I-P

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ゲル強度は Cellmatrix Type I-Aより低いのであまりゲル強度を必要としない場合に使える。

● 安価なので、大量培養の際にコストダウンができる。● Cellmatrix Type I-Aまたは、Type I-Pは組織培養皿にコーティングしコラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに有効である。

Cellmatrix Type I-C

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚皮由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● 培養皿にコーティングして、コラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに適している。

Cellmatrix Type III● 豚皮をペプシン処理し、塩分別沈殿法により分離精製したTypeⅢコラーゲンで、純度は90%以上(TypeⅠコラーゲンの混在は10%以下)。

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製されています。● ゲル化能が弱い。通常コーティング法で用いられるが、Cellmatrix Type I-Aと混合してゲルマトリックスとして使用することもできる。

III-2 Cellmatrix Type I の物理化学的性質III-2-1 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動Cellmatrix Type I-A、Type I-P、Type I-Cを0.2%濃度SDSを含むリン酸緩衝液と等量混合し、45℃で30分加熱変性後アクリルアミド5%濃度のゲルを用い、WaberとObsornの方法により電気泳動を行った(図2)。Type I-CはType I-AおよびType I-Pに比べ巨大なアグリゲートがほとんど存在しないことがわかる。

図2 Cellmatrix Type I のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動

III-2-2 分子量分布Cellmatrix Type I-A、 Type I-PおよびType I-Cを45℃、30 分加熱変性後、TOYOPEARL HW-60Sを用いてゲル濾過を行い、分子量分布を測定した(図3)。電気泳動の結果と同様、Type I-Aは、 Type I-PおよびType I-Cに比べ高分子量部分の比率が高くなっている。

- 11 - - 12 -

図3 Cellmatrix Type I のTOYOPEARL HW-60Sによるゲル濾過クロマトグラフィー

III-2-3 変性温度Cellmatrix Type I-A、Type I-Pの各温度に対する旋光度変化を測定し、変性温度を調べた(図4)。 Type I-Aの変性温度39.5℃に対し、Type I-Pの変性温度は39℃でType I-Aの方が変性温度が高いことがわかる。

図4 Cellmatrix Type I の旋光度変化

III-2-4 アミノ酸組成Cellmatrix Type I-A、Type I-PおよびType I-Cを6N塩酸中、真空下で110℃、24時間加水分解しアミノ酸分析を行った(表8)。Type I-Aに比べ、Type I-Pはチロシンが少なく、さらにType I-Cは極めてチロシン量が少なく、コラーゲンのテロペプチド部分が消失していることがわかる。

表8 Cellmatrix Type I のアミノ酸組成(残基/1,000残基)

Cellmatrix Type I-A Type I-P Type I-C ヒドロキシプロリン 97.0 100.4 99.1 アスパラギン酸 43.5 44.1 44.5 トレオニン 17.2 16.5 16.5 セリン 33.2 31.3 34.5 グルタミン酸 73.0 70.8 71.0 プロリン 117.6 113.5 112.0 グリシン 324.5 329.2 332.4 アラニン 113.8 112.9 111.0 バリン 22.7 24.3 24.0 メチオニン 6.7 5.5 5.0 イソロイシン 12.2 14.6 14.5 ロイシン 30.2 30.8 30.1 チロシン 5.0 2.5 1.2 フェニルアラニン 12.5 13.5 14.0 ヒドロキシリジン 9.2 9.0 8.0 リジン 23.1 22.6 22.7 ヒスチジン 5.2 4.9 4.8 アルギニン 53.8 53.8 53.1

III-2-5 ゲル化速度Cellmatrix Type I は生理的条件下で線維を形成しゲル化する。Cellmatrix 8部と10倍濃度リン酸緩衝食塩水 1部、NaOH 1部を4℃で混ぜ、pH7.4に調製し、25℃と37℃に加温し400nmにおける吸光度の変化を測定した(図5)。Type I-Aのゲル化速度が非常に速いことがわかる。また、Type I-A はType I-Pに比べゲル化速度に対する温度の影響が少ない。

図5 Cellmatrix Type I のゲル加速度

- 13 - - 14 -

III-2-6 ゲル強度【ゲル強度に対する濃度の影響】種々の濃度のCellmatrix Type I-A、Type I-Pを用いてゲル化速度と同様に調製し、37℃で1時間放置後、レオメーターでゲルの強度を測定した(図6)。Type I-AはType I-Pに比べ非常に高いゲル強度を示す。また、濃度依存性も高い。

図6 Cellmatrix Type I のゲル強度の対する濃度の影響

【ゲル強度に対するpHの影響】Cellmatrix Type I にリン酸緩衝食塩水を加え、NaOHでpHを6~10に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、pHの影響を調べた(図7)。Type I-AはType I-Pに比べ、ゲル強度のpH依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図7 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するpHの影響

- 15 - - 16 -

【ゲル強度に対するイオン強度の影響】Cellmatrix Type I に食塩濃度の異なるリン酸緩衝液を加えNaOHでpH を7.4 に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、イオン強度の影響を調べた(図8)。Type I-AはType I-Pに比べゲル強度のイオン強度依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図8 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するイオン強度の影響

Page 14: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

Cellmatrix Type I -A

α1

α2

β

γ

migration

A550

Cellmatrix Type I - P

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I - C

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I -ACellmatrix Type I - PCellmatrix Type I - C

Elution Volume (ml)

A230

50 100 150 200

0.15

0.10

0.05

0.00

Temperature (°C)

-[α] D

400

300

200

350

250

15010 30 50 600 4020

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 25°C

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 37°C

Concentration of Collagen (mg/ml)

300

100

200

01 3 50 42

Cellmatrix Type I - PCellmatrix Type I -A

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

pH

500

300

100

400

200

08 9 106 7

Gel Strength (g)

Ionic Strength

300

100

400

200

00.2 0.3 0.40.0 0.1

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)についてIII-1 Cellmatrix の特徴と種類Cellmatrix Type I-Aを使用することによりコラーゲンを用いる新しい培養法、例えば浮遊コラーゲン・ゲル培養法、コラーゲン・ゲル包埋培養法を容易に行うことができるようになった。

その結果

● 従来の単層培養法では不可能であった初代培養細胞(特に上皮細胞)の増殖維持、形態形成の促進などが観察されるようになった。

● 従来の単層培養法では困難であった細胞分化機能を誘導維持できるようになった。

等が多数報告され、コラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野に利用されるようになってきている。また、Cellmatrixを用いて従来のコラーゲン・コート法も行うことができる。 Cellmatrix Type I-A

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来の酸可溶性 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ネズミ尾由来のコラーゲン・ゲルより硬くてバラツキのないゲルをより速く再構成する。

● 細胞はゲル上だけでなく、ゲル内においても成育し、常に再現性ある培養結果が得られる。

● ゲルで培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。 Cellmatrix Type I-P

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ゲル強度は Cellmatrix Type I-Aより低いのであまりゲル強度を必要としない場合に使える。

● 安価なので、大量培養の際にコストダウンができる。● Cellmatrix Type I-Aまたは、Type I-Pは組織培養皿にコーティングしコラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに有効である。

Cellmatrix Type I-C

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚皮由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● 培養皿にコーティングして、コラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに適している。

Cellmatrix Type III● 豚皮をペプシン処理し、塩分別沈殿法により分離精製したTypeⅢコラーゲンで、純度は90%以上(TypeⅠコラーゲンの混在は10%以下)。

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製されています。● ゲル化能が弱い。通常コーティング法で用いられるが、Cellmatrix Type I-Aと混合してゲルマトリックスとして使用することもできる。

III-2 Cellmatrix Type I の物理化学的性質III-2-1 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動Cellmatrix Type I-A、Type I-P、Type I-Cを0.2%濃度SDSを含むリン酸緩衝液と等量混合し、45℃で30分加熱変性後アクリルアミド5%濃度のゲルを用い、WaberとObsornの方法により電気泳動を行った(図2)。Type I-CはType I-AおよびType I-Pに比べ巨大なアグリゲートがほとんど存在しないことがわかる。

図2 Cellmatrix Type I のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動

III-2-2 分子量分布Cellmatrix Type I-A、 Type I-PおよびType I-Cを45℃、30 分加熱変性後、TOYOPEARL HW-60Sを用いてゲル濾過を行い、分子量分布を測定した(図3)。電気泳動の結果と同様、Type I-Aは、 Type I-PおよびType I-Cに比べ高分子量部分の比率が高くなっている。

- 11 - - 12 -

図3 Cellmatrix Type I のTOYOPEARL HW-60Sによるゲル濾過クロマトグラフィー

III-2-3 変性温度Cellmatrix Type I-A、Type I-Pの各温度に対する旋光度変化を測定し、変性温度を調べた(図4)。 Type I-Aの変性温度39.5℃に対し、Type I-Pの変性温度は39℃でType I-Aの方が変性温度が高いことがわかる。

図4 Cellmatrix Type I の旋光度変化

III-2-4 アミノ酸組成Cellmatrix Type I-A、Type I-PおよびType I-Cを6N塩酸中、真空下で110℃、24時間加水分解しアミノ酸分析を行った(表8)。Type I-Aに比べ、Type I-Pはチロシンが少なく、さらにType I-Cは極めてチロシン量が少なく、コラーゲンのテロペプチド部分が消失していることがわかる。

表8 Cellmatrix Type I のアミノ酸組成(残基/1,000残基)

Cellmatrix Type I-A Type I-P Type I-C ヒドロキシプロリン 97.0 100.4 99.1 アスパラギン酸 43.5 44.1 44.5 トレオニン 17.2 16.5 16.5 セリン 33.2 31.3 34.5 グルタミン酸 73.0 70.8 71.0 プロリン 117.6 113.5 112.0 グリシン 324.5 329.2 332.4 アラニン 113.8 112.9 111.0 バリン 22.7 24.3 24.0 メチオニン 6.7 5.5 5.0 イソロイシン 12.2 14.6 14.5 ロイシン 30.2 30.8 30.1 チロシン 5.0 2.5 1.2 フェニルアラニン 12.5 13.5 14.0 ヒドロキシリジン 9.2 9.0 8.0 リジン 23.1 22.6 22.7 ヒスチジン 5.2 4.9 4.8 アルギニン 53.8 53.8 53.1

III-2-5 ゲル化速度Cellmatrix Type I は生理的条件下で線維を形成しゲル化する。Cellmatrix 8部と10倍濃度リン酸緩衝食塩水 1部、NaOH 1部を4℃で混ぜ、pH7.4に調製し、25℃と37℃に加温し400nmにおける吸光度の変化を測定した(図5)。Type I-Aのゲル化速度が非常に速いことがわかる。また、Type I-A はType I-Pに比べゲル化速度に対する温度の影響が少ない。

図5 Cellmatrix Type I のゲル加速度

- 13 - - 14 -

III-2-6 ゲル強度【ゲル強度に対する濃度の影響】種々の濃度のCellmatrix Type I-A、Type I-Pを用いてゲル化速度と同様に調製し、37℃で1時間放置後、レオメーターでゲルの強度を測定した(図6)。Type I-AはType I-Pに比べ非常に高いゲル強度を示す。また、濃度依存性も高い。

図6 Cellmatrix Type I のゲル強度の対する濃度の影響

【ゲル強度に対するpHの影響】Cellmatrix Type I にリン酸緩衝食塩水を加え、NaOHでpHを6~10に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、pHの影響を調べた(図7)。Type I-AはType I-Pに比べ、ゲル強度のpH依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図7 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するpHの影響

- 15 - - 16 -

【ゲル強度に対するイオン強度の影響】Cellmatrix Type I に食塩濃度の異なるリン酸緩衝液を加えNaOHでpH を7.4 に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、イオン強度の影響を調べた(図8)。Type I-AはType I-Pに比べゲル強度のイオン強度依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図8 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するイオン強度の影響

Page 15: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

Cellmatrix Type I -A

α1

α2

β

γ

migration

A550

Cellmatrix Type I - P

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I - C

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I -ACellmatrix Type I - PCellmatrix Type I - C

Elution Volume (ml)

A230

50 100 150 200

0.15

0.10

0.05

0.00

Temperature (°C)

-[α] D

400

300

200

350

250

15010 30 50 600 4020

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 25°C

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 37°C

Concentration of Collagen (mg/ml)

300

100

200

01 3 50 42

Cellmatrix Type I - PCellmatrix Type I -A

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

pH

500

300

100

400

200

08 9 106 7

Gel Strength (g)

Ionic Strength

300

100

400

200

00.2 0.3 0.40.0 0.1

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)についてIII-1 Cellmatrix の特徴と種類Cellmatrix Type I-Aを使用することによりコラーゲンを用いる新しい培養法、例えば浮遊コラーゲン・ゲル培養法、コラーゲン・ゲル包埋培養法を容易に行うことができるようになった。

その結果

● 従来の単層培養法では不可能であった初代培養細胞(特に上皮細胞)の増殖維持、形態形成の促進などが観察されるようになった。

● 従来の単層培養法では困難であった細胞分化機能を誘導維持できるようになった。

等が多数報告され、コラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野に利用されるようになってきている。また、Cellmatrixを用いて従来のコラーゲン・コート法も行うことができる。 Cellmatrix Type I-A

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来の酸可溶性 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ネズミ尾由来のコラーゲン・ゲルより硬くてバラツキのないゲルをより速く再構成する。

● 細胞はゲル上だけでなく、ゲル内においても成育し、常に再現性ある培養結果が得られる。

● ゲルで培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。 Cellmatrix Type I-P

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ゲル強度は Cellmatrix Type I-Aより低いのであまりゲル強度を必要としない場合に使える。

● 安価なので、大量培養の際にコストダウンができる。● Cellmatrix Type I-Aまたは、Type I-Pは組織培養皿にコーティングしコラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに有効である。

Cellmatrix Type I-C

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚皮由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● 培養皿にコーティングして、コラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに適している。

Cellmatrix Type III● 豚皮をペプシン処理し、塩分別沈殿法により分離精製したTypeⅢコラーゲンで、純度は90%以上(TypeⅠコラーゲンの混在は10%以下)。

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製されています。● ゲル化能が弱い。通常コーティング法で用いられるが、Cellmatrix Type I-Aと混合してゲルマトリックスとして使用することもできる。

III-2 Cellmatrix Type I の物理化学的性質III-2-1 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動Cellmatrix Type I-A、Type I-P、Type I-Cを0.2%濃度SDSを含むリン酸緩衝液と等量混合し、45℃で30分加熱変性後アクリルアミド5%濃度のゲルを用い、WaberとObsornの方法により電気泳動を行った(図2)。Type I-CはType I-AおよびType I-Pに比べ巨大なアグリゲートがほとんど存在しないことがわかる。

図2 Cellmatrix Type I のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動

III-2-2 分子量分布Cellmatrix Type I-A、 Type I-PおよびType I-Cを45℃、30 分加熱変性後、TOYOPEARL HW-60Sを用いてゲル濾過を行い、分子量分布を測定した(図3)。電気泳動の結果と同様、Type I-Aは、 Type I-PおよびType I-Cに比べ高分子量部分の比率が高くなっている。

- 11 - - 12 -

図3 Cellmatrix Type I のTOYOPEARL HW-60Sによるゲル濾過クロマトグラフィー

III-2-3 変性温度Cellmatrix Type I-A、Type I-Pの各温度に対する旋光度変化を測定し、変性温度を調べた(図4)。 Type I-Aの変性温度39.5℃に対し、Type I-Pの変性温度は39℃でType I-Aの方が変性温度が高いことがわかる。

図4 Cellmatrix Type I の旋光度変化

III-2-4 アミノ酸組成Cellmatrix Type I-A、Type I-PおよびType I-Cを6N塩酸中、真空下で110℃、24時間加水分解しアミノ酸分析を行った(表8)。Type I-Aに比べ、Type I-Pはチロシンが少なく、さらにType I-Cは極めてチロシン量が少なく、コラーゲンのテロペプチド部分が消失していることがわかる。

表8 Cellmatrix Type I のアミノ酸組成(残基/1,000残基)

Cellmatrix Type I-A Type I-P Type I-C ヒドロキシプロリン 97.0 100.4 99.1 アスパラギン酸 43.5 44.1 44.5 トレオニン 17.2 16.5 16.5 セリン 33.2 31.3 34.5 グルタミン酸 73.0 70.8 71.0 プロリン 117.6 113.5 112.0 グリシン 324.5 329.2 332.4 アラニン 113.8 112.9 111.0 バリン 22.7 24.3 24.0 メチオニン 6.7 5.5 5.0 イソロイシン 12.2 14.6 14.5 ロイシン 30.2 30.8 30.1 チロシン 5.0 2.5 1.2 フェニルアラニン 12.5 13.5 14.0 ヒドロキシリジン 9.2 9.0 8.0 リジン 23.1 22.6 22.7 ヒスチジン 5.2 4.9 4.8 アルギニン 53.8 53.8 53.1

III-2-5 ゲル化速度Cellmatrix Type I は生理的条件下で線維を形成しゲル化する。Cellmatrix 8部と10倍濃度リン酸緩衝食塩水 1部、NaOH 1部を4℃で混ぜ、pH7.4に調製し、25℃と37℃に加温し400nmにおける吸光度の変化を測定した(図5)。Type I-Aのゲル化速度が非常に速いことがわかる。また、Type I-A はType I-Pに比べゲル化速度に対する温度の影響が少ない。

図5 Cellmatrix Type I のゲル加速度

- 13 - - 14 -

III-2-6 ゲル強度【ゲル強度に対する濃度の影響】種々の濃度のCellmatrix Type I-A、Type I-Pを用いてゲル化速度と同様に調製し、37℃で1時間放置後、レオメーターでゲルの強度を測定した(図6)。Type I-AはType I-Pに比べ非常に高いゲル強度を示す。また、濃度依存性も高い。

図6 Cellmatrix Type I のゲル強度の対する濃度の影響

【ゲル強度に対するpHの影響】Cellmatrix Type I にリン酸緩衝食塩水を加え、NaOHでpHを6~10に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、pHの影響を調べた(図7)。Type I-AはType I-Pに比べ、ゲル強度のpH依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図7 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するpHの影響

- 15 - - 16 -

【ゲル強度に対するイオン強度の影響】Cellmatrix Type I に食塩濃度の異なるリン酸緩衝液を加えNaOHでpH を7.4 に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、イオン強度の影響を調べた(図8)。Type I-AはType I-Pに比べゲル強度のイオン強度依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図8 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するイオン強度の影響

Page 16: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

Cellmatrix Type I -A

α1

α2

β

γ

migration

A550

Cellmatrix Type I - P

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I - C

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I -ACellmatrix Type I - PCellmatrix Type I - C

Elution Volume (ml)

A230

50 100 150 200

0.15

0.10

0.05

0.00

Temperature (°C)

-[α] D

400

300

200

350

250

15010 30 50 600 4020

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 25°C

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 37°C

Concentration of Collagen (mg/ml)

300

100

200

01 3 50 42

Cellmatrix Type I - PCellmatrix Type I -A

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

pH

500

300

100

400

200

08 9 106 7

Gel Strength (g)

Ionic Strength

300

100

400

200

00.2 0.3 0.40.0 0.1

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)についてIII-1 Cellmatrix の特徴と種類Cellmatrix Type I-Aを使用することによりコラーゲンを用いる新しい培養法、例えば浮遊コラーゲン・ゲル培養法、コラーゲン・ゲル包埋培養法を容易に行うことができるようになった。

その結果

● 従来の単層培養法では不可能であった初代培養細胞(特に上皮細胞)の増殖維持、形態形成の促進などが観察されるようになった。

● 従来の単層培養法では困難であった細胞分化機能を誘導維持できるようになった。

等が多数報告され、コラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野に利用されるようになってきている。また、Cellmatrixを用いて従来のコラーゲン・コート法も行うことができる。 Cellmatrix Type I-A

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来の酸可溶性 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ネズミ尾由来のコラーゲン・ゲルより硬くてバラツキのないゲルをより速く再構成する。

● 細胞はゲル上だけでなく、ゲル内においても成育し、常に再現性ある培養結果が得られる。

● ゲルで培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。 Cellmatrix Type I-P

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ゲル強度は Cellmatrix Type I-Aより低いのであまりゲル強度を必要としない場合に使える。

● 安価なので、大量培養の際にコストダウンができる。● Cellmatrix Type I-Aまたは、Type I-Pは組織培養皿にコーティングしコラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに有効である。

Cellmatrix Type I-C

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚皮由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● 培養皿にコーティングして、コラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに適している。

Cellmatrix Type III● 豚皮をペプシン処理し、塩分別沈殿法により分離精製したTypeⅢコラーゲンで、純度は90%以上(TypeⅠコラーゲンの混在は10%以下)。

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製されています。● ゲル化能が弱い。通常コーティング法で用いられるが、Cellmatrix Type I-Aと混合してゲルマトリックスとして使用することもできる。

III-2 Cellmatrix Type I の物理化学的性質III-2-1 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動Cellmatrix Type I-A、Type I-P、Type I-Cを0.2%濃度SDSを含むリン酸緩衝液と等量混合し、45℃で30分加熱変性後アクリルアミド5%濃度のゲルを用い、WaberとObsornの方法により電気泳動を行った(図2)。Type I-CはType I-AおよびType I-Pに比べ巨大なアグリゲートがほとんど存在しないことがわかる。

図2 Cellmatrix Type I のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動

III-2-2 分子量分布Cellmatrix Type I-A、 Type I-PおよびType I-Cを45℃、30 分加熱変性後、TOYOPEARL HW-60Sを用いてゲル濾過を行い、分子量分布を測定した(図3)。電気泳動の結果と同様、Type I-Aは、 Type I-PおよびType I-Cに比べ高分子量部分の比率が高くなっている。

- 11 - - 12 -

図3 Cellmatrix Type I のTOYOPEARL HW-60Sによるゲル濾過クロマトグラフィー

III-2-3 変性温度Cellmatrix Type I-A、Type I-Pの各温度に対する旋光度変化を測定し、変性温度を調べた(図4)。 Type I-Aの変性温度39.5℃に対し、Type I-Pの変性温度は39℃でType I-Aの方が変性温度が高いことがわかる。

図4 Cellmatrix Type I の旋光度変化

III-2-4 アミノ酸組成Cellmatrix Type I-A、Type I-PおよびType I-Cを6N塩酸中、真空下で110℃、24時間加水分解しアミノ酸分析を行った(表8)。Type I-Aに比べ、Type I-Pはチロシンが少なく、さらにType I-Cは極めてチロシン量が少なく、コラーゲンのテロペプチド部分が消失していることがわかる。

表8 Cellmatrix Type I のアミノ酸組成(残基/1,000残基)

Cellmatrix Type I-A Type I-P Type I-C ヒドロキシプロリン 97.0 100.4 99.1 アスパラギン酸 43.5 44.1 44.5 トレオニン 17.2 16.5 16.5 セリン 33.2 31.3 34.5 グルタミン酸 73.0 70.8 71.0 プロリン 117.6 113.5 112.0 グリシン 324.5 329.2 332.4 アラニン 113.8 112.9 111.0 バリン 22.7 24.3 24.0 メチオニン 6.7 5.5 5.0 イソロイシン 12.2 14.6 14.5 ロイシン 30.2 30.8 30.1 チロシン 5.0 2.5 1.2 フェニルアラニン 12.5 13.5 14.0 ヒドロキシリジン 9.2 9.0 8.0 リジン 23.1 22.6 22.7 ヒスチジン 5.2 4.9 4.8 アルギニン 53.8 53.8 53.1

III-2-5 ゲル化速度Cellmatrix Type I は生理的条件下で線維を形成しゲル化する。Cellmatrix 8部と10倍濃度リン酸緩衝食塩水 1部、NaOH 1部を4℃で混ぜ、pH7.4に調製し、25℃と37℃に加温し400nmにおける吸光度の変化を測定した(図5)。Type I-Aのゲル化速度が非常に速いことがわかる。また、Type I-A はType I-Pに比べゲル化速度に対する温度の影響が少ない。

図5 Cellmatrix Type I のゲル加速度

- 13 - - 14 -

III-2-6 ゲル強度【ゲル強度に対する濃度の影響】種々の濃度のCellmatrix Type I-A、Type I-Pを用いてゲル化速度と同様に調製し、37℃で1時間放置後、レオメーターでゲルの強度を測定した(図6)。Type I-AはType I-Pに比べ非常に高いゲル強度を示す。また、濃度依存性も高い。

図6 Cellmatrix Type I のゲル強度の対する濃度の影響

【ゲル強度に対するpHの影響】Cellmatrix Type I にリン酸緩衝食塩水を加え、NaOHでpHを6~10に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、pHの影響を調べた(図7)。Type I-AはType I-Pに比べ、ゲル強度のpH依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図7 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するpHの影響

- 15 - - 16 -

【ゲル強度に対するイオン強度の影響】Cellmatrix Type I に食塩濃度の異なるリン酸緩衝液を加えNaOHでpH を7.4 に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、イオン強度の影響を調べた(図8)。Type I-AはType I-Pに比べゲル強度のイオン強度依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図8 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するイオン強度の影響

Page 17: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

Cellmatrix Type I -A

α1

α2

β

γ

migration

A550

Cellmatrix Type I - P

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I - C

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I -ACellmatrix Type I - PCellmatrix Type I - C

Elution Volume (ml)

A230

50 100 150 200

0.15

0.10

0.05

0.00

Temperature (°C)

-[α] D

400

300

200

350

250

15010 30 50 600 4020

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 25°C

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 37°C

Concentration of Collagen (mg/ml)

300

100

200

01 3 50 42

Cellmatrix Type I - PCellmatrix Type I -A

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

pH

500

300

100

400

200

08 9 106 7

Gel Strength (g)

Ionic Strength

300

100

400

200

00.2 0.3 0.40.0 0.1

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)についてIII-1 Cellmatrix の特徴と種類Cellmatrix Type I-Aを使用することによりコラーゲンを用いる新しい培養法、例えば浮遊コラーゲン・ゲル培養法、コラーゲン・ゲル包埋培養法を容易に行うことができるようになった。

その結果

● 従来の単層培養法では不可能であった初代培養細胞(特に上皮細胞)の増殖維持、形態形成の促進などが観察されるようになった。

● 従来の単層培養法では困難であった細胞分化機能を誘導維持できるようになった。

等が多数報告され、コラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野に利用されるようになってきている。また、Cellmatrixを用いて従来のコラーゲン・コート法も行うことができる。 Cellmatrix Type I-A

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来の酸可溶性 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ネズミ尾由来のコラーゲン・ゲルより硬くてバラツキのないゲルをより速く再構成する。

● 細胞はゲル上だけでなく、ゲル内においても成育し、常に再現性ある培養結果が得られる。

● ゲルで培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。 Cellmatrix Type I-P

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ゲル強度は Cellmatrix Type I-Aより低いのであまりゲル強度を必要としない場合に使える。

● 安価なので、大量培養の際にコストダウンができる。● Cellmatrix Type I-Aまたは、Type I-Pは組織培養皿にコーティングしコラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに有効である。

Cellmatrix Type I-C

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚皮由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● 培養皿にコーティングして、コラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに適している。

Cellmatrix Type III● 豚皮をペプシン処理し、塩分別沈殿法により分離精製したTypeⅢコラーゲンで、純度は90%以上(TypeⅠコラーゲンの混在は10%以下)。

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製されています。● ゲル化能が弱い。通常コーティング法で用いられるが、Cellmatrix Type I-Aと混合してゲルマトリックスとして使用することもできる。

III-2 Cellmatrix Type I の物理化学的性質III-2-1 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動Cellmatrix Type I-A、Type I-P、Type I-Cを0.2%濃度SDSを含むリン酸緩衝液と等量混合し、45℃で30分加熱変性後アクリルアミド5%濃度のゲルを用い、WaberとObsornの方法により電気泳動を行った(図2)。Type I-CはType I-AおよびType I-Pに比べ巨大なアグリゲートがほとんど存在しないことがわかる。

図2 Cellmatrix Type I のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動

III-2-2 分子量分布Cellmatrix Type I-A、 Type I-PおよびType I-Cを45℃、30 分加熱変性後、TOYOPEARL HW-60Sを用いてゲル濾過を行い、分子量分布を測定した(図3)。電気泳動の結果と同様、Type I-Aは、 Type I-PおよびType I-Cに比べ高分子量部分の比率が高くなっている。

- 11 - - 12 -

図3 Cellmatrix Type I のTOYOPEARL HW-60Sによるゲル濾過クロマトグラフィー

III-2-3 変性温度Cellmatrix Type I-A、Type I-Pの各温度に対する旋光度変化を測定し、変性温度を調べた(図4)。 Type I-Aの変性温度39.5℃に対し、Type I-Pの変性温度は39℃でType I-Aの方が変性温度が高いことがわかる。

図4 Cellmatrix Type I の旋光度変化

III-2-4 アミノ酸組成Cellmatrix Type I-A、Type I-PおよびType I-Cを6N塩酸中、真空下で110℃、24時間加水分解しアミノ酸分析を行った(表8)。Type I-Aに比べ、Type I-Pはチロシンが少なく、さらにType I-Cは極めてチロシン量が少なく、コラーゲンのテロペプチド部分が消失していることがわかる。

表8 Cellmatrix Type I のアミノ酸組成(残基/1,000残基)

Cellmatrix Type I-A Type I-P Type I-C ヒドロキシプロリン 97.0 100.4 99.1 アスパラギン酸 43.5 44.1 44.5 トレオニン 17.2 16.5 16.5 セリン 33.2 31.3 34.5 グルタミン酸 73.0 70.8 71.0 プロリン 117.6 113.5 112.0 グリシン 324.5 329.2 332.4 アラニン 113.8 112.9 111.0 バリン 22.7 24.3 24.0 メチオニン 6.7 5.5 5.0 イソロイシン 12.2 14.6 14.5 ロイシン 30.2 30.8 30.1 チロシン 5.0 2.5 1.2 フェニルアラニン 12.5 13.5 14.0 ヒドロキシリジン 9.2 9.0 8.0 リジン 23.1 22.6 22.7 ヒスチジン 5.2 4.9 4.8 アルギニン 53.8 53.8 53.1

III-2-5 ゲル化速度Cellmatrix Type I は生理的条件下で線維を形成しゲル化する。Cellmatrix 8部と10倍濃度リン酸緩衝食塩水 1部、NaOH 1部を4℃で混ぜ、pH7.4に調製し、25℃と37℃に加温し400nmにおける吸光度の変化を測定した(図5)。Type I-Aのゲル化速度が非常に速いことがわかる。また、Type I-A はType I-Pに比べゲル化速度に対する温度の影響が少ない。

図5 Cellmatrix Type I のゲル加速度

- 13 - - 14 -

III-2-6 ゲル強度【ゲル強度に対する濃度の影響】種々の濃度のCellmatrix Type I-A、Type I-Pを用いてゲル化速度と同様に調製し、37℃で1時間放置後、レオメーターでゲルの強度を測定した(図6)。Type I-AはType I-Pに比べ非常に高いゲル強度を示す。また、濃度依存性も高い。

図6 Cellmatrix Type I のゲル強度の対する濃度の影響

【ゲル強度に対するpHの影響】Cellmatrix Type I にリン酸緩衝食塩水を加え、NaOHでpHを6~10に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、pHの影響を調べた(図7)。Type I-AはType I-Pに比べ、ゲル強度のpH依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図7 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するpHの影響

- 15 - - 16 -

【ゲル強度に対するイオン強度の影響】Cellmatrix Type I に食塩濃度の異なるリン酸緩衝液を加えNaOHでpH を7.4 に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、イオン強度の影響を調べた(図8)。Type I-AはType I-Pに比べゲル強度のイオン強度依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図8 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するイオン強度の影響

Page 18: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

Cellmatrix Type I -A

α1

α2

β

γ

migration

A550

Cellmatrix Type I - P

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I - C

migration

α1

α2

β

γ

A550

Cellmatrix Type I -ACellmatrix Type I - PCellmatrix Type I - C

Elution Volume (ml)

A230

50 100 150 200

0.15

0.10

0.05

0.00

Temperature (°C)

-[α] D

400

300

200

350

250

15010 30 50 600 4020

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 25°C

100 20Time (min)

1.0

2.0

0.0

A400

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

at 37°C

Concentration of Collagen (mg/ml)

300

100

200

01 3 50 42

Cellmatrix Type I - PCellmatrix Type I -A

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

pH

500

300

100

400

200

08 9 106 7

Gel Strength (g)

Ionic Strength

300

100

400

200

00.2 0.3 0.40.0 0.1

Gel Strength (g)

Cellmatrix Type I - P

Cellmatrix Type I -A

III Cellmatrix(細胞培養用コラーゲン)についてIII-1 Cellmatrix の特徴と種類Cellmatrix Type I-Aを使用することによりコラーゲンを用いる新しい培養法、例えば浮遊コラーゲン・ゲル培養法、コラーゲン・ゲル包埋培養法を容易に行うことができるようになった。

その結果

● 従来の単層培養法では不可能であった初代培養細胞(特に上皮細胞)の増殖維持、形態形成の促進などが観察されるようになった。

● 従来の単層培養法では困難であった細胞分化機能を誘導維持できるようになった。

等が多数報告され、コラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野に利用されるようになってきている。また、Cellmatrixを用いて従来のコラーゲン・コート法も行うことができる。 Cellmatrix Type I-A

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来の酸可溶性 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ネズミ尾由来のコラーゲン・ゲルより硬くてバラツキのないゲルをより速く再構成する。

● 細胞はゲル上だけでなく、ゲル内においても成育し、常に再現性ある培養結果が得られる。

● ゲルで培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。 Cellmatrix Type I-P

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚腱由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● ゲル強度は Cellmatrix Type I-Aより低いのであまりゲル強度を必要としない場合に使える。

● 安価なので、大量培養の際にコストダウンができる。● Cellmatrix Type I-Aまたは、Type I-Pは組織培養皿にコーティングしコラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに有効である。

Cellmatrix Type I-C

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製された豚皮由来のペプシン可溶化 TypeⅠコラーゲン溶液。

● 培養皿にコーティングして、コラーゲンフィルム上で細胞培養を行うのに適している。

Cellmatrix Type III● 豚皮をペプシン処理し、塩分別沈殿法により分離精製したTypeⅢコラーゲンで、純度は90%以上(TypeⅠコラーゲンの混在は10%以下)。

● 濃度3.0mg/ml、pH3.0に調製されています。● ゲル化能が弱い。通常コーティング法で用いられるが、Cellmatrix Type I-Aと混合してゲルマトリックスとして使用することもできる。

III-2 Cellmatrix Type I の物理化学的性質III-2-1 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動Cellmatrix Type I-A、Type I-P、Type I-Cを0.2%濃度SDSを含むリン酸緩衝液と等量混合し、45℃で30分加熱変性後アクリルアミド5%濃度のゲルを用い、WaberとObsornの方法により電気泳動を行った(図2)。Type I-CはType I-AおよびType I-Pに比べ巨大なアグリゲートがほとんど存在しないことがわかる。

図2 Cellmatrix Type I のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動

III-2-2 分子量分布Cellmatrix Type I-A、 Type I-PおよびType I-Cを45℃、30 分加熱変性後、TOYOPEARL HW-60Sを用いてゲル濾過を行い、分子量分布を測定した(図3)。電気泳動の結果と同様、Type I-Aは、 Type I-PおよびType I-Cに比べ高分子量部分の比率が高くなっている。

- 11 - - 12 -

図3 Cellmatrix Type I のTOYOPEARL HW-60Sによるゲル濾過クロマトグラフィー

III-2-3 変性温度Cellmatrix Type I-A、Type I-Pの各温度に対する旋光度変化を測定し、変性温度を調べた(図4)。 Type I-Aの変性温度39.5℃に対し、Type I-Pの変性温度は39℃でType I-Aの方が変性温度が高いことがわかる。

図4 Cellmatrix Type I の旋光度変化

III-2-4 アミノ酸組成Cellmatrix Type I-A、Type I-PおよびType I-Cを6N塩酸中、真空下で110℃、24時間加水分解しアミノ酸分析を行った(表8)。Type I-Aに比べ、Type I-Pはチロシンが少なく、さらにType I-Cは極めてチロシン量が少なく、コラーゲンのテロペプチド部分が消失していることがわかる。

表8 Cellmatrix Type I のアミノ酸組成(残基/1,000残基)

Cellmatrix Type I-A Type I-P Type I-C ヒドロキシプロリン 97.0 100.4 99.1 アスパラギン酸 43.5 44.1 44.5 トレオニン 17.2 16.5 16.5 セリン 33.2 31.3 34.5 グルタミン酸 73.0 70.8 71.0 プロリン 117.6 113.5 112.0 グリシン 324.5 329.2 332.4 アラニン 113.8 112.9 111.0 バリン 22.7 24.3 24.0 メチオニン 6.7 5.5 5.0 イソロイシン 12.2 14.6 14.5 ロイシン 30.2 30.8 30.1 チロシン 5.0 2.5 1.2 フェニルアラニン 12.5 13.5 14.0 ヒドロキシリジン 9.2 9.0 8.0 リジン 23.1 22.6 22.7 ヒスチジン 5.2 4.9 4.8 アルギニン 53.8 53.8 53.1

III-2-5 ゲル化速度Cellmatrix Type I は生理的条件下で線維を形成しゲル化する。Cellmatrix 8部と10倍濃度リン酸緩衝食塩水 1部、NaOH 1部を4℃で混ぜ、pH7.4に調製し、25℃と37℃に加温し400nmにおける吸光度の変化を測定した(図5)。Type I-Aのゲル化速度が非常に速いことがわかる。また、Type I-A はType I-Pに比べゲル化速度に対する温度の影響が少ない。

図5 Cellmatrix Type I のゲル加速度

- 13 - - 14 -

III-2-6 ゲル強度【ゲル強度に対する濃度の影響】種々の濃度のCellmatrix Type I-A、Type I-Pを用いてゲル化速度と同様に調製し、37℃で1時間放置後、レオメーターでゲルの強度を測定した(図6)。Type I-AはType I-Pに比べ非常に高いゲル強度を示す。また、濃度依存性も高い。

図6 Cellmatrix Type I のゲル強度の対する濃度の影響

【ゲル強度に対するpHの影響】Cellmatrix Type I にリン酸緩衝食塩水を加え、NaOHでpHを6~10に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、pHの影響を調べた(図7)。Type I-AはType I-Pに比べ、ゲル強度のpH依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図7 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するpHの影響

- 15 - - 16 -

【ゲル強度に対するイオン強度の影響】Cellmatrix Type I に食塩濃度の異なるリン酸緩衝液を加えNaOHでpH を7.4 に調製し、37℃で1時間放置後ゲル強度を測定し、イオン強度の影響を調べた(図8)。Type I-AはType I-Pに比べゲル強度のイオン強度依存性が高く、またゲル強度の値も非常に高い。

図8 Cellmatrix Type I のゲル強度の対するイオン強度の影響

Page 19: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

まず、A液とB液をよく混合する

均一になるようにゆっくり混ぜる(薄黄色になる)

その後にC液を加えよく混ぜる

均一になるようにゆっくり混ぜる

(薄ピンク色になる)

A液

B液C液

IV コラーゲン・ゲル培養法IV-1 コラーゲン・ゲル・マトリックスの調整法IV-1-1 準 備以下のA、B、Cの溶液を用意し氷中で冷却しておく。 A液:0.3% Cellmatrix Type I-A またはType I-P B液:10倍濃度もしくは5倍濃度の濃縮培地ご自身で調整することもできます。以下を参照してください。濃縮培地市販粉末培地に重炭酸ナトリウムを加えないで、通常用いる際の10倍濃度の液を作り濾過滅菌する。また、10倍濃度の培地の中には抗生物質も通常使用する量の10倍量を加える。ただし、DME のように10倍濃度の液が難溶性の場合は5倍濃度の液を作る。

 C液:再構成用緩衝液0.05N 水酸化ナトリウム溶液100mlに対し、重炭酸ナトリウム 2.2g、HEPES 4.77gを溶かし、濾過滅菌したもの。再構成後のHEPESの濃度は20mMとなる。

  注意1 再構成用緩衝液は大量に貯蔵しておくと、重炭酸ナトリウムからCO2が抜けてくるので10ml

ずつ試験管に分注し密栓しておく。または、重炭酸ナトリウムを入れない次のような再構成用緩衝液を作る(0.08N 水酸化ナトリウム溶液100mlに対し、HEPES 4.77g を溶かし濾過滅菌したもの)。

IV-1-2 コラーゲン混合溶液の調製冷却しながらA、B、C液を8:1:1の割合で混合する(B液が5倍濃度培地の場合は7:2:1の割合で混合する。氷中においた場合、コラーゲンはゲル化しない)。

以下、このA,B,C混合溶液をコラーゲン混合溶液と称する。血清、血清アルブミン、成長因子、または細胞(コラーゲン・ゲル内培養の項を参照)などを、コラーゲン・ゲルの中に入れたい場合は、低温でA、B、Cの混合液を作成後に加える。 

注意2 A、B、C液を混合したとき、冷却の仕方が悪いとゲル化する事があるので充分に冷却しなければならない(4℃位が適温)。

 

注意3 コラーゲンに使用するピペットはコラーゲンの粘度が高いため通常のピペットは使用しにくい。市販の使い捨てプラスチック製ピペット(例えば、Falcon、Corningの培養用5ml、10mlピペット)は先端が太く便利である。

 

注意4 A、B、C液を混合する容器は、試験管のような細い容器ではコラーゲンの高粘性のため混合しにくい。そこで、遠心管(例えば50ml培養用プラスチック製遠心管など)や三角フラスコのような太い容器を用いると便利である。

 

【コラーゲン混合溶液のpH、イオン強度】A、B、C液を8:1:1の割合で加えると、pH 7.4、イオン強度はNaClで0.14Mになる。混合液のpHは、フェノールレッドの色で確認する。もし、pHが7.4にならない場合は、1N-HClまたは1N-NaOHを加えてみる。または、C液の量を加減して作りなおす。コラーゲン・ゲルのpHはCO2インキュベーターに入れてもすぐには調節されにくいので、コラーゲン・ゲルを作る際に充分注意する。 IV-1-3 コラーゲン・ゲルの調製冷却したコラーゲン混合溶液を培養皿に分注する。このときピペットの先で2、3回培養皿をかき混ぜ均一な厚さのコラーゲン層を作る(コラーゲンを多量に用いて厚い層を作る際には、この操作は不要)。コラーゲン混合溶液は、加温と共にゲル化しはじめ、0.3%のCellmatrix Type I-Aを用いた場合には25℃では10~20分、37℃のインキュベーター中では5~10分で最終的にゲル化が完了する(III-2 物理化学的性質の項参照)。 

注意5 コラーゲン混合溶液を培養皿に移し、ゲル化させている途中に振動を与えないこと、例えばCO2インキュベーターなどに運ぶ時も充分に注意し、できるだけ揺らさないようにする。コラーゲン混合溶液は、ゲル化する途中に振動を与えられるとゲル化しないことがある。

 

注意6 用いるピペットは使い捨てのプラスチック製のもの(例えば、1ml以下の場合はCLAY ADAMSのセレクタペット等)を用いれば、洗浄の必要がないので便利である。

 

【ガラス器具洗浄法】フラスコなどコラーゲンの付着した器具は、50~60℃の湯に30分位つけて、コラーゲンを変性させた後洗剤で洗う。ピペットの場合はオートクレーブ(120℃、15分)するか、または沸湯浴中につけてコラーゲンを溶かす。強酸(2N以上のHCl)に数日漬けておいてもよい。

- 17 - - 18 -

Page 20: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

まず、A液とB液をよく混合する

均一になるようにゆっくり混ぜる(薄黄色になる)

その後にC液を加えよく混ぜる

均一になるようにゆっくり混ぜる

(薄ピンク色になる)

A液

B液C液

IV コラーゲン・ゲル培養法IV-1 コラーゲン・ゲル・マトリックスの調整法IV-1-1 準 備以下のA、B、Cの溶液を用意し氷中で冷却しておく。 A液:0.3% Cellmatrix Type I-A またはType I-P B液:10倍濃度もしくは5倍濃度の濃縮培地ご自身で調整することもできます。以下を参照してください。濃縮培地市販粉末培地に重炭酸ナトリウムを加えないで、通常用いる際の10倍濃度の液を作り濾過滅菌する。また、10倍濃度の培地の中には抗生物質も通常使用する量の10倍量を加える。ただし、DME のように10倍濃度の液が難溶性の場合は5倍濃度の液を作る。

 C液:再構成用緩衝液0.05N 水酸化ナトリウム溶液100mlに対し、重炭酸ナトリウム 2.2g、HEPES 4.77gを溶かし、濾過滅菌したもの。再構成後のHEPESの濃度は20mMとなる。

  注意1 再構成用緩衝液は大量に貯蔵しておくと、重炭酸ナトリウムからCO2が抜けてくるので10ml

ずつ試験管に分注し密栓しておく。または、重炭酸ナトリウムを入れない次のような再構成用緩衝液を作る(0.08N 水酸化ナトリウム溶液100mlに対し、HEPES 4.77g を溶かし濾過滅菌したもの)。

IV-1-2 コラーゲン混合溶液の調製冷却しながらA、B、C液を8:1:1の割合で混合する(B液が5倍濃度培地の場合は7:2:1の割合で混合する。氷中においた場合、コラーゲンはゲル化しない)。

以下、このA,B,C混合溶液をコラーゲン混合溶液と称する。血清、血清アルブミン、成長因子、または細胞(コラーゲン・ゲル内培養の項を参照)などを、コラーゲン・ゲルの中に入れたい場合は、低温でA、B、Cの混合液を作成後に加える。 

注意2 A、B、C液を混合したとき、冷却の仕方が悪いとゲル化する事があるので充分に冷却しなければならない(4℃位が適温)。

 

注意3 コラーゲンに使用するピペットはコラーゲンの粘度が高いため通常のピペットは使用しにくい。市販の使い捨てプラスチック製ピペット(例えば、Falcon、Corningの培養用5ml、10mlピペット)は先端が太く便利である。

 

注意4 A、B、C液を混合する容器は、試験管のような細い容器ではコラーゲンの高粘性のため混合しにくい。そこで、遠心管(例えば50ml培養用プラスチック製遠心管など)や三角フラスコのような太い容器を用いると便利である。

 

【コラーゲン混合溶液のpH、イオン強度】A、B、C液を8:1:1の割合で加えると、pH 7.4、イオン強度はNaClで0.14Mになる。混合液のpHは、フェノールレッドの色で確認する。もし、pHが7.4にならない場合は、1N-HClまたは1N-NaOHを加えてみる。または、C液の量を加減して作りなおす。コラーゲン・ゲルのpHはCO2インキュベーターに入れてもすぐには調節されにくいので、コラーゲン・ゲルを作る際に充分注意する。 IV-1-3 コラーゲン・ゲルの調製冷却したコラーゲン混合溶液を培養皿に分注する。このときピペットの先で2、3回培養皿をかき混ぜ均一な厚さのコラーゲン層を作る(コラーゲンを多量に用いて厚い層を作る際には、この操作は不要)。コラーゲン混合溶液は、加温と共にゲル化しはじめ、0.3%のCellmatrix Type I-Aを用いた場合には25℃では10~20分、37℃のインキュベーター中では5~10分で最終的にゲル化が完了する(III-2 物理化学的性質の項参照)。 

注意5 コラーゲン混合溶液を培養皿に移し、ゲル化させている途中に振動を与えないこと、例えばCO2インキュベーターなどに運ぶ時も充分に注意し、できるだけ揺らさないようにする。コラーゲン混合溶液は、ゲル化する途中に振動を与えられるとゲル化しないことがある。

 

注意6 用いるピペットは使い捨てのプラスチック製のもの(例えば、1ml以下の場合はCLAY ADAMSのセレクタペット等)を用いれば、洗浄の必要がないので便利である。

 

【ガラス器具洗浄法】フラスコなどコラーゲンの付着した器具は、50~60℃の湯に30分位つけて、コラーゲンを変性させた後洗剤で洗う。ピペットの場合はオートクレーブ(120℃、15分)するか、または沸湯浴中につけてコラーゲンを溶かす。強酸(2N以上のHCl)に数日漬けておいてもよい。

- 17 - - 18 -

Page 21: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

培養液

細胞

ゲル

培養液

細胞

ゲル(収縮する)

培養液

細胞

ゲル

培養液

Top(Cell) Layer

Base Layer

ゲルをはがす

IV-2 コラーゲン・ゲル上培養法IV-2-1 付着コラーゲン・ゲル培養法(Attached Collagen Gel Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス上に単層に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. IV-1の方法に基づいて、コラーゲン・ゲルを培養皿に作成する。2. Cell Suspensionをゲル上に播き細胞がゲルに接着した後、通常の単層培養法と同様に培養を行う。3. ゲル内に、血清、その他の生理活性物質を入れる場合には、混合液を作った際に混ぜておく(培養液は急速にコラーゲン・ゲル中に浸入していくので、ゲル中に血清などを入れることは必ずしも必要ではない)。(図10)

図10 付着コラーゲン・ゲル培養法

IV-2-2 浮遊コラーゲン・ゲル培養法(Floating Collagen Gel Culture Method)上記コラーゲン・ゲル上培養法(IV-2-1)で培養して、細胞がコラーゲン・ゲルに接着し単層を形成した後に、ゲルを培養皿よりはがし、培養液中に細胞の接着したまま浮遊させる方法である。こうすることにより、細胞は長期にわたって分化機能を維持し続けることができる(図11)。ゲルをはがす際には、注射針またはピンセットを用いて培養皿にそって一周回した後に、周辺から中央に向かって針を押すようにすればゲルは培養液中に浮遊する。培養液の交換の際には、ゲルがピペット内に吸い込まれやすいので、充分注意しながら行う。

図11 浮遊コラーゲン・ゲル培養法

IV-3 コラーゲン・ゲル包埋培養法(Collagen Gel Embedded Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス内に細胞を埋めて、三次元的に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. まず、培養皿にコラーゲン・ゲルの層を作り、これをBase Layerとする。2. 次に細胞を少量の血清、培養液などに分散させたものをコラーゲン混合溶液中にいれよく振り混ぜる。このとき、ピペッティングにより混ぜるとコラーゲンが泡立つので、できるだけ容器を振とうすることにより撹拌を行う。

3. 上記の細胞とコラーゲン混合溶液をBase Layer上に分注し、直ちに37℃でゲル化させ、Top Layer(またはCell Layer)とする。4. Top Layer の硬化した後に、培養液を重層する(Overlay Medium)。(図12)

図12 コラーゲン・ゲル包埋培養法

注意7 Base Layerを作るのは、細胞の入ったCell Layerを作る際に一部の細胞はゲル化以前に培養

皿面に接着し、単層を形成することがあるためこれを防ぐ目的で行っている。 

【各種培養皿に対するコラーゲンと培養液の使用量】各種培養皿を用いたときのコラーゲン・ゲルおよび培養液の望ましい使用量を表9にあげる。

表9 各種培養皿使用時のコラーゲン・ゲルおよび培養液使用量

培養皿の種類 Base Layer Top Layer Overlay Medium 16 mm (マルチウェル) 0.5 ml 0.5 ml 1 ml

35 mm 1 ml 2 ml 2 ml

60 mm 2 ml 5 ml 5 ml

100 mm 5 ml 10 ml 12~15 ml 

注意8 Cell Layerの重層後は直ちに37℃のインキュベーターに入れてゲル化させる。(細胞塊などは重いので沈んでしまい均一な分布とならないことがあるため)

 

【培養液の交換】コラーゲン中の細胞数に応じて培養液の交換の頻度を決定する。コラーゲン・ゲル内において細胞は三次元的に増殖するために、単層培養に比べて非常に細胞数が多くなるので、細胞数が増加してきたら頻繁に培養液を交換しなければならない。あまり、細胞が増えすぎて栄養欠乏のため壊れていくようなものがでてきたら、後述するような方法で直ちに継代しなければならない。 

- 19 - - 20 -

【コラーゲン溶液の種類・濃度の培養細胞に及ぼす影響】使用する細胞の種類(特に上皮細胞)によっては、コラーゲンの濃度、すなわちコラーゲンのゲル強度が細胞の形態、機能、増殖に影響することが我々の実験によって確かめられた。そこで、コラーゲンの使用に当たっては細胞種による最適のコラーゲンの濃度を確かめられるべきであろう。初めての細胞をコラーゲンを用いて培養する場合、0.3%コラーゲン溶液を滅菌した希塩酸(pH3.0)で0.2%、 0.1%、0.05%に薄めて使用し、その結果を見て、その細胞に最適のコラーゲンの濃度で培養を行う。例えば、我々は細胞の形態、機能を調べるときは、0.3%コラーゲン溶液を使用し、細胞の増殖を早め、細胞を大量に得たい時には0.15%コラーゲンを用いる。 

注意9 0.3%コラーゲン溶液を、希塩酸(pH3.0)で薄める方法:0.3%コラーゲン溶液は高粘度のために希塩酸を加えても均一な溶液になりにくいので希塩酸を加えた後充分に容器を振とうすることによって撹拌を行うか、マグネチックスターラーを用いて充分に撹拌する。マグネチックスターラーを用いて4℃で4~8時間撹拌するのが望ましい。その時、あまり撹拌スピードが速いと泡立つので注意を要する。

 

【Cellmatrix Type I-AとType I-Pの差異】Cellmatrix Type I-Aはネイティブな酸可溶性コラーゲンであり、Type I-Pはペプシンで可溶化した酸可溶化コラーゲンで、二種類のコラーゲンを線維化(ゲル化)させたとき、再構成される線維は異なるといわれている。また、これらは同じ濃度でもゲル強度が異なるという物理化学的な差がある。そのために、細胞の種類によっては、Cellmatrix Type I-AとType I-Pでは細胞の増殖と形態が異なることがある。我々の使用している細胞の場合(上皮細胞、上皮性の癌細胞)は、Type I-Pの方が増殖が早く、Type I-Aの方が、生体内での形態に近い三次元構造をとる。また、Type I-Aの方がコラーゲン・ゲルの透明度がよいので、顕微鏡観察が容易である。

IV-4 コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の採取法、継代法 およびコロニーの選択法IV-4-1 細胞の採取法細胞を生きたまま採取するためには、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解させなければならない。そのためには、次の操作手順で行う。 

【操作手順】1. 重層してある培養液を除いた後、培養皿の中のコラーゲン・ゲルをハサミで3mm角くらいに切り、コラゲナーゼ(Type S-1等)の濃度が、最終濃度0.02%になるように加え、振とう機(例えば、rotary shakerで100rpm)で、振とうして溶解させる。(例えば、1mlのゲルに20µlの1%コラゲナーゼを加える)その時の温度は37℃とする。1mlのゲルの場合、通常30分から1時間でゲルの溶解は完了する。ただし、コラーゲン・ゲル内の細胞種によってはゲルに影響を及ぼし、溶解性が悪くなることがある。

2. 培養皿の細胞を遠心管に移し、低速の遠心分離器で細胞を集める。3. 細胞をハンクス液、その他に分散させ、洗浄し再び低速遠心する。4. この後、DNA 測定、継代等に用いる。

- 21 - - 22 -

IV-4-2 継代法【操作手順】1. 上述のごとく、コラゲナーゼでゲルを溶解し、細胞を採取する。(以下、全ての段階を無菌的に行う必要がある)

2. 細胞を2~3回洗浄し、コラゲナーゼを完全に除く。3. 細胞を少量の培養液に分散させ、冷却したコラーゲン混合溶液に混ぜ、常法に従って培養皿に移し、ゲル化させる。

4. コラゲナーゼ処理のみでは、細胞の塊として培養されるので、単一細胞の培養を行いたい場合にはコラゲナーゼ処理の後、さらにプロナーゼあるいはトリプシン、トリプシン+EDTA等で細胞塊を分散させる。

5. 細胞を充分に洗浄した後、上記のようにコラーゲン混合溶液に混ぜゲル内で培養する。6. 簡単な継代法としては、細胞の入ったコラーゲン・ゲルをハサミで細かく切り、その一部を冷却したコラーゲン混合溶液に分散させ、新しい培養皿に移してゲル化させてもよい。

IV-4-3 コロニーの選択法コラーゲン・ゲル内で培養することにより、軟寒天培養の場合と同様に三次元的に増殖したコロニーを取り出すことができる。 

【操作手順】1. 少数の細胞(102~104cells/60mm dish)をコラーゲン・ゲル内において培養し、コロニーが適当な大きさになるまで待つ(直径0.5~1mm)。

2. 解剖顕微鏡のもとで、眼科用のハサミを用いてコロニーを切り取る(コロニーの回りには、コラーゲン・ゲルが付着したままでよい)。

3. コラーゲン・ゲルの付着したコロニーをコラーゲン混合溶液に混ぜ、そのまま新しい培養皿に分注し、ゲル化させ培養を行う。

4. コロニーをさらに小さくするためには、a. ハサミでコロニーを細かく切る。b. コラゲナーゼで処理する。c. コラゲナーゼの後、プロナーゼまたはトリプシン、トリプシン+EDTA等を用いてコロニーを細かくするなどの方法を用いることができる。

5. 酵素を用いて単離された細胞は、充分に洗浄した後、コラーゲン混合溶液に分散させコラーゲン・ゲル内にて培養を続ける。

IV-5 細胞増殖度の測定法コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の数を決定するには、DNA量を測定するか、または核数を数えて細胞数の推定を行う。

IV-5-1 DNA量の測定(Hinegardnerの方法)34)蛍光法を用いることにより、0.1μg のDNA(~1.7×104cellsに相当)でも測定が可能である。 

【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼで溶解し、遠心(Microcentrifuge、回転数が8,000rpmに達した後、直ちにOFF にする)で細胞を集める。

2. 細胞をPBS(Phosphate-Buffered Saline)で洗浄し、再び遠心する。3. エタノールで細胞を固定する。4. 5~10分後に遠心し、エタノールを吸引除去後、乾燥させる。5. 塩酸ジアミノ安息香酸溶液(Diaminobenzoin Acid 0.4gを1mlの蒸留水に溶かす)を入れ(1.5ml の遠心管を用いた場合には0.2mlの安息香酸を用いる)60℃で45 分加温する。

6. 反応終了後、1N-HClを1.5ml加え、蛍光強度 (Ex 415nm、Em 505nm)を測定する。

IV-5-2 核数の測定法(Sanfordetslの方法)35)【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解する。2. 遠心により細胞を集める。3. 細胞を0.1M クエン酸/0.1%クリスタルバイオレット溶液中に分散させ、ミキサーを用いて激しく撹拌し、細胞を破壊する。

4. 染色された核を血球計算板で数える。

IV-6 培養細胞サンプルの保存法【操作手順】1. 細胞を保存するためには、まず固定しなければならない。固定にはコラーゲン・ゲルをPBS で洗浄した後、10%ホルマリン(ハンクス液)中に一晩漬け、ゲルおよび細胞を固定する。固定後に流水中でホルマリンをよく洗い流す。

2. 固定後、0.02%のNaN3(アザイド)の入った蒸留水中に浸しておけば、Wet Sampleとしても保存できる。このとき、培養皿の中へこの液を入れてもよいし、ゲルを培養皿より取り出して別の容器に入れて保存してもよい。培養皿で保存する際には、周りにビニールテープを貼るなどして蒸発を防ぐようにしなければならない。また、組織標本の作成法に従って、70%アルコール、100%アルコール、キシレンの順に各々数時間浸し、キシレン中に保存することもできる。顕微鏡切片にするには、この後、パラフィン包埋すればよい。

3. 固定後、自然乾燥するか、50℃以下の乾燥機の中で乾燥すればDry Sampleを作ることができる。4. 染色には、固定後、ギムザ液(メルク社など)を加え、数時間放置した後、流水中で洗浄し余分な色素を除く。

5. この後、上述のように、Wet Sample またはDry Sample として保存することができる。

- 23 -

Page 22: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

培養液

細胞

ゲル

培養液

細胞

ゲル(収縮する)

培養液

細胞

ゲル

培養液

Top(Cell) Layer

Base Layer

ゲルをはがす

IV-2 コラーゲン・ゲル上培養法IV-2-1 付着コラーゲン・ゲル培養法(Attached Collagen Gel Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス上に単層に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. IV-1の方法に基づいて、コラーゲン・ゲルを培養皿に作成する。2. Cell Suspensionをゲル上に播き細胞がゲルに接着した後、通常の単層培養法と同様に培養を行う。3. ゲル内に、血清、その他の生理活性物質を入れる場合には、混合液を作った際に混ぜておく(培養液は急速にコラーゲン・ゲル中に浸入していくので、ゲル中に血清などを入れることは必ずしも必要ではない)。(図10)

図10 付着コラーゲン・ゲル培養法

IV-2-2 浮遊コラーゲン・ゲル培養法(Floating Collagen Gel Culture Method)上記コラーゲン・ゲル上培養法(IV-2-1)で培養して、細胞がコラーゲン・ゲルに接着し単層を形成した後に、ゲルを培養皿よりはがし、培養液中に細胞の接着したまま浮遊させる方法である。こうすることにより、細胞は長期にわたって分化機能を維持し続けることができる(図11)。ゲルをはがす際には、注射針またはピンセットを用いて培養皿にそって一周回した後に、周辺から中央に向かって針を押すようにすればゲルは培養液中に浮遊する。培養液の交換の際には、ゲルがピペット内に吸い込まれやすいので、充分注意しながら行う。

図11 浮遊コラーゲン・ゲル培養法

IV-3 コラーゲン・ゲル包埋培養法(Collagen Gel Embedded Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス内に細胞を埋めて、三次元的に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. まず、培養皿にコラーゲン・ゲルの層を作り、これをBase Layerとする。2. 次に細胞を少量の血清、培養液などに分散させたものをコラーゲン混合溶液中にいれよく振り混ぜる。このとき、ピペッティングにより混ぜるとコラーゲンが泡立つので、できるだけ容器を振とうすることにより撹拌を行う。

3. 上記の細胞とコラーゲン混合溶液をBase Layer上に分注し、直ちに37℃でゲル化させ、Top Layer(またはCell Layer)とする。4. Top Layer の硬化した後に、培養液を重層する(Overlay Medium)。(図12)

図12 コラーゲン・ゲル包埋培養法

注意7 Base Layerを作るのは、細胞の入ったCell Layerを作る際に一部の細胞はゲル化以前に培養

皿面に接着し、単層を形成することがあるためこれを防ぐ目的で行っている。 

【各種培養皿に対するコラーゲンと培養液の使用量】各種培養皿を用いたときのコラーゲン・ゲルおよび培養液の望ましい使用量を表9にあげる。

表9 各種培養皿使用時のコラーゲン・ゲルおよび培養液使用量

培養皿の種類 Base Layer Top Layer Overlay Medium 16 mm (マルチウェル) 0.5 ml 0.5 ml 1 ml

35 mm 1 ml 2 ml 2 ml

60 mm 2 ml 5 ml 5 ml

100 mm 5 ml 10 ml 12~15 ml 

注意8 Cell Layerの重層後は直ちに37℃のインキュベーターに入れてゲル化させる。(細胞塊などは重いので沈んでしまい均一な分布とならないことがあるため)

 

【培養液の交換】コラーゲン中の細胞数に応じて培養液の交換の頻度を決定する。コラーゲン・ゲル内において細胞は三次元的に増殖するために、単層培養に比べて非常に細胞数が多くなるので、細胞数が増加してきたら頻繁に培養液を交換しなければならない。あまり、細胞が増えすぎて栄養欠乏のため壊れていくようなものがでてきたら、後述するような方法で直ちに継代しなければならない。 

- 19 - - 20 -

【コラーゲン溶液の種類・濃度の培養細胞に及ぼす影響】使用する細胞の種類(特に上皮細胞)によっては、コラーゲンの濃度、すなわちコラーゲンのゲル強度が細胞の形態、機能、増殖に影響することが我々の実験によって確かめられた。そこで、コラーゲンの使用に当たっては細胞種による最適のコラーゲンの濃度を確かめられるべきであろう。初めての細胞をコラーゲンを用いて培養する場合、0.3%コラーゲン溶液を滅菌した希塩酸(pH3.0)で0.2%、 0.1%、0.05%に薄めて使用し、その結果を見て、その細胞に最適のコラーゲンの濃度で培養を行う。例えば、我々は細胞の形態、機能を調べるときは、0.3%コラーゲン溶液を使用し、細胞の増殖を早め、細胞を大量に得たい時には0.15%コラーゲンを用いる。 

注意9 0.3%コラーゲン溶液を、希塩酸(pH3.0)で薄める方法:0.3%コラーゲン溶液は高粘度のために希塩酸を加えても均一な溶液になりにくいので希塩酸を加えた後充分に容器を振とうすることによって撹拌を行うか、マグネチックスターラーを用いて充分に撹拌する。マグネチックスターラーを用いて4℃で4~8時間撹拌するのが望ましい。その時、あまり撹拌スピードが速いと泡立つので注意を要する。

 

【Cellmatrix Type I-AとType I-Pの差異】Cellmatrix Type I-Aはネイティブな酸可溶性コラーゲンであり、Type I-Pはペプシンで可溶化した酸可溶化コラーゲンで、二種類のコラーゲンを線維化(ゲル化)させたとき、再構成される線維は異なるといわれている。また、これらは同じ濃度でもゲル強度が異なるという物理化学的な差がある。そのために、細胞の種類によっては、Cellmatrix Type I-AとType I-Pでは細胞の増殖と形態が異なることがある。我々の使用している細胞の場合(上皮細胞、上皮性の癌細胞)は、Type I-Pの方が増殖が早く、Type I-Aの方が、生体内での形態に近い三次元構造をとる。また、Type I-Aの方がコラーゲン・ゲルの透明度がよいので、顕微鏡観察が容易である。

IV-4 コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の採取法、継代法 およびコロニーの選択法IV-4-1 細胞の採取法細胞を生きたまま採取するためには、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解させなければならない。そのためには、次の操作手順で行う。 

【操作手順】1. 重層してある培養液を除いた後、培養皿の中のコラーゲン・ゲルをハサミで3mm角くらいに切り、コラゲナーゼ(Type S-1等)の濃度が、最終濃度0.02%になるように加え、振とう機(例えば、rotary shakerで100rpm)で、振とうして溶解させる。(例えば、1mlのゲルに20µlの1%コラゲナーゼを加える)その時の温度は37℃とする。1mlのゲルの場合、通常30分から1時間でゲルの溶解は完了する。ただし、コラーゲン・ゲル内の細胞種によってはゲルに影響を及ぼし、溶解性が悪くなることがある。

2. 培養皿の細胞を遠心管に移し、低速の遠心分離器で細胞を集める。3. 細胞をハンクス液、その他に分散させ、洗浄し再び低速遠心する。4. この後、DNA 測定、継代等に用いる。

- 21 - - 22 -

IV-4-2 継代法【操作手順】1. 上述のごとく、コラゲナーゼでゲルを溶解し、細胞を採取する。(以下、全ての段階を無菌的に行う必要がある)

2. 細胞を2~3回洗浄し、コラゲナーゼを完全に除く。3. 細胞を少量の培養液に分散させ、冷却したコラーゲン混合溶液に混ぜ、常法に従って培養皿に移し、ゲル化させる。

4. コラゲナーゼ処理のみでは、細胞の塊として培養されるので、単一細胞の培養を行いたい場合にはコラゲナーゼ処理の後、さらにプロナーゼあるいはトリプシン、トリプシン+EDTA等で細胞塊を分散させる。

5. 細胞を充分に洗浄した後、上記のようにコラーゲン混合溶液に混ぜゲル内で培養する。6. 簡単な継代法としては、細胞の入ったコラーゲン・ゲルをハサミで細かく切り、その一部を冷却したコラーゲン混合溶液に分散させ、新しい培養皿に移してゲル化させてもよい。

IV-4-3 コロニーの選択法コラーゲン・ゲル内で培養することにより、軟寒天培養の場合と同様に三次元的に増殖したコロニーを取り出すことができる。 

【操作手順】1. 少数の細胞(102~104cells/60mm dish)をコラーゲン・ゲル内において培養し、コロニーが適当な大きさになるまで待つ(直径0.5~1mm)。

2. 解剖顕微鏡のもとで、眼科用のハサミを用いてコロニーを切り取る(コロニーの回りには、コラーゲン・ゲルが付着したままでよい)。

3. コラーゲン・ゲルの付着したコロニーをコラーゲン混合溶液に混ぜ、そのまま新しい培養皿に分注し、ゲル化させ培養を行う。

4. コロニーをさらに小さくするためには、a. ハサミでコロニーを細かく切る。b. コラゲナーゼで処理する。c. コラゲナーゼの後、プロナーゼまたはトリプシン、トリプシン+EDTA等を用いてコロニーを細かくするなどの方法を用いることができる。

5. 酵素を用いて単離された細胞は、充分に洗浄した後、コラーゲン混合溶液に分散させコラーゲン・ゲル内にて培養を続ける。

IV-5 細胞増殖度の測定法コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の数を決定するには、DNA量を測定するか、または核数を数えて細胞数の推定を行う。

IV-5-1 DNA量の測定(Hinegardnerの方法)34)蛍光法を用いることにより、0.1μg のDNA(~1.7×104cellsに相当)でも測定が可能である。 

【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼで溶解し、遠心(Microcentrifuge、回転数が8,000rpmに達した後、直ちにOFF にする)で細胞を集める。

2. 細胞をPBS(Phosphate-Buffered Saline)で洗浄し、再び遠心する。3. エタノールで細胞を固定する。4. 5~10分後に遠心し、エタノールを吸引除去後、乾燥させる。5. 塩酸ジアミノ安息香酸溶液(Diaminobenzoin Acid 0.4gを1mlの蒸留水に溶かす)を入れ(1.5ml の遠心管を用いた場合には0.2mlの安息香酸を用いる)60℃で45 分加温する。

6. 反応終了後、1N-HClを1.5ml加え、蛍光強度 (Ex 415nm、Em 505nm)を測定する。

IV-5-2 核数の測定法(Sanfordetslの方法)35)【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解する。2. 遠心により細胞を集める。3. 細胞を0.1M クエン酸/0.1%クリスタルバイオレット溶液中に分散させ、ミキサーを用いて激しく撹拌し、細胞を破壊する。

4. 染色された核を血球計算板で数える。

IV-6 培養細胞サンプルの保存法【操作手順】1. 細胞を保存するためには、まず固定しなければならない。固定にはコラーゲン・ゲルをPBS で洗浄した後、10%ホルマリン(ハンクス液)中に一晩漬け、ゲルおよび細胞を固定する。固定後に流水中でホルマリンをよく洗い流す。

2. 固定後、0.02%のNaN3(アザイド)の入った蒸留水中に浸しておけば、Wet Sampleとしても保存できる。このとき、培養皿の中へこの液を入れてもよいし、ゲルを培養皿より取り出して別の容器に入れて保存してもよい。培養皿で保存する際には、周りにビニールテープを貼るなどして蒸発を防ぐようにしなければならない。また、組織標本の作成法に従って、70%アルコール、100%アルコール、キシレンの順に各々数時間浸し、キシレン中に保存することもできる。顕微鏡切片にするには、この後、パラフィン包埋すればよい。

3. 固定後、自然乾燥するか、50℃以下の乾燥機の中で乾燥すればDry Sampleを作ることができる。4. 染色には、固定後、ギムザ液(メルク社など)を加え、数時間放置した後、流水中で洗浄し余分な色素を除く。

5. この後、上述のように、Wet Sample またはDry Sample として保存することができる。

- 23 -

Page 23: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

培養液

細胞

ゲル

培養液

細胞

ゲル(収縮する)

培養液

細胞

ゲル

培養液

Top(Cell) Layer

Base Layer

ゲルをはがす

IV-2 コラーゲン・ゲル上培養法IV-2-1 付着コラーゲン・ゲル培養法(Attached Collagen Gel Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス上に単層に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. IV-1の方法に基づいて、コラーゲン・ゲルを培養皿に作成する。2. Cell Suspensionをゲル上に播き細胞がゲルに接着した後、通常の単層培養法と同様に培養を行う。3. ゲル内に、血清、その他の生理活性物質を入れる場合には、混合液を作った際に混ぜておく(培養液は急速にコラーゲン・ゲル中に浸入していくので、ゲル中に血清などを入れることは必ずしも必要ではない)。(図10)

図10 付着コラーゲン・ゲル培養法

IV-2-2 浮遊コラーゲン・ゲル培養法(Floating Collagen Gel Culture Method)上記コラーゲン・ゲル上培養法(IV-2-1)で培養して、細胞がコラーゲン・ゲルに接着し単層を形成した後に、ゲルを培養皿よりはがし、培養液中に細胞の接着したまま浮遊させる方法である。こうすることにより、細胞は長期にわたって分化機能を維持し続けることができる(図11)。ゲルをはがす際には、注射針またはピンセットを用いて培養皿にそって一周回した後に、周辺から中央に向かって針を押すようにすればゲルは培養液中に浮遊する。培養液の交換の際には、ゲルがピペット内に吸い込まれやすいので、充分注意しながら行う。

図11 浮遊コラーゲン・ゲル培養法

IV-3 コラーゲン・ゲル包埋培養法(Collagen Gel Embedded Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス内に細胞を埋めて、三次元的に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. まず、培養皿にコラーゲン・ゲルの層を作り、これをBase Layerとする。2. 次に細胞を少量の血清、培養液などに分散させたものをコラーゲン混合溶液中にいれよく振り混ぜる。このとき、ピペッティングにより混ぜるとコラーゲンが泡立つので、できるだけ容器を振とうすることにより撹拌を行う。

3. 上記の細胞とコラーゲン混合溶液をBase Layer上に分注し、直ちに37℃でゲル化させ、Top Layer(またはCell Layer)とする。4. Top Layer の硬化した後に、培養液を重層する(Overlay Medium)。(図12)

図12 コラーゲン・ゲル包埋培養法

注意7 Base Layerを作るのは、細胞の入ったCell Layerを作る際に一部の細胞はゲル化以前に培養

皿面に接着し、単層を形成することがあるためこれを防ぐ目的で行っている。 

【各種培養皿に対するコラーゲンと培養液の使用量】各種培養皿を用いたときのコラーゲン・ゲルおよび培養液の望ましい使用量を表9にあげる。

表9 各種培養皿使用時のコラーゲン・ゲルおよび培養液使用量

培養皿の種類 Base Layer Top Layer Overlay Medium 16 mm (マルチウェル) 0.5 ml 0.5 ml 1 ml

35 mm 1 ml 2 ml 2 ml

60 mm 2 ml 5 ml 5 ml

100 mm 5 ml 10 ml 12~15 ml 

注意8 Cell Layerの重層後は直ちに37℃のインキュベーターに入れてゲル化させる。(細胞塊などは重いので沈んでしまい均一な分布とならないことがあるため)

 

【培養液の交換】コラーゲン中の細胞数に応じて培養液の交換の頻度を決定する。コラーゲン・ゲル内において細胞は三次元的に増殖するために、単層培養に比べて非常に細胞数が多くなるので、細胞数が増加してきたら頻繁に培養液を交換しなければならない。あまり、細胞が増えすぎて栄養欠乏のため壊れていくようなものがでてきたら、後述するような方法で直ちに継代しなければならない。 

- 19 - - 20 -

【コラーゲン溶液の種類・濃度の培養細胞に及ぼす影響】使用する細胞の種類(特に上皮細胞)によっては、コラーゲンの濃度、すなわちコラーゲンのゲル強度が細胞の形態、機能、増殖に影響することが我々の実験によって確かめられた。そこで、コラーゲンの使用に当たっては細胞種による最適のコラーゲンの濃度を確かめられるべきであろう。初めての細胞をコラーゲンを用いて培養する場合、0.3%コラーゲン溶液を滅菌した希塩酸(pH3.0)で0.2%、 0.1%、0.05%に薄めて使用し、その結果を見て、その細胞に最適のコラーゲンの濃度で培養を行う。例えば、我々は細胞の形態、機能を調べるときは、0.3%コラーゲン溶液を使用し、細胞の増殖を早め、細胞を大量に得たい時には0.15%コラーゲンを用いる。 

注意9 0.3%コラーゲン溶液を、希塩酸(pH3.0)で薄める方法:0.3%コラーゲン溶液は高粘度のために希塩酸を加えても均一な溶液になりにくいので希塩酸を加えた後充分に容器を振とうすることによって撹拌を行うか、マグネチックスターラーを用いて充分に撹拌する。マグネチックスターラーを用いて4℃で4~8時間撹拌するのが望ましい。その時、あまり撹拌スピードが速いと泡立つので注意を要する。

 

【Cellmatrix Type I-AとType I-Pの差異】Cellmatrix Type I-Aはネイティブな酸可溶性コラーゲンであり、Type I-Pはペプシンで可溶化した酸可溶化コラーゲンで、二種類のコラーゲンを線維化(ゲル化)させたとき、再構成される線維は異なるといわれている。また、これらは同じ濃度でもゲル強度が異なるという物理化学的な差がある。そのために、細胞の種類によっては、Cellmatrix Type I-AとType I-Pでは細胞の増殖と形態が異なることがある。我々の使用している細胞の場合(上皮細胞、上皮性の癌細胞)は、Type I-Pの方が増殖が早く、Type I-Aの方が、生体内での形態に近い三次元構造をとる。また、Type I-Aの方がコラーゲン・ゲルの透明度がよいので、顕微鏡観察が容易である。

IV-4 コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の採取法、継代法 およびコロニーの選択法IV-4-1 細胞の採取法細胞を生きたまま採取するためには、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解させなければならない。そのためには、次の操作手順で行う。 

【操作手順】1. 重層してある培養液を除いた後、培養皿の中のコラーゲン・ゲルをハサミで3mm角くらいに切り、コラゲナーゼ(Type S-1等)の濃度が、最終濃度0.02%になるように加え、振とう機(例えば、rotary shakerで100rpm)で、振とうして溶解させる。(例えば、1mlのゲルに20µlの1%コラゲナーゼを加える)その時の温度は37℃とする。1mlのゲルの場合、通常30分から1時間でゲルの溶解は完了する。ただし、コラーゲン・ゲル内の細胞種によってはゲルに影響を及ぼし、溶解性が悪くなることがある。

2. 培養皿の細胞を遠心管に移し、低速の遠心分離器で細胞を集める。3. 細胞をハンクス液、その他に分散させ、洗浄し再び低速遠心する。4. この後、DNA 測定、継代等に用いる。

- 21 - - 22 -

IV-4-2 継代法【操作手順】1. 上述のごとく、コラゲナーゼでゲルを溶解し、細胞を採取する。(以下、全ての段階を無菌的に行う必要がある)

2. 細胞を2~3回洗浄し、コラゲナーゼを完全に除く。3. 細胞を少量の培養液に分散させ、冷却したコラーゲン混合溶液に混ぜ、常法に従って培養皿に移し、ゲル化させる。

4. コラゲナーゼ処理のみでは、細胞の塊として培養されるので、単一細胞の培養を行いたい場合にはコラゲナーゼ処理の後、さらにプロナーゼあるいはトリプシン、トリプシン+EDTA等で細胞塊を分散させる。

5. 細胞を充分に洗浄した後、上記のようにコラーゲン混合溶液に混ぜゲル内で培養する。6. 簡単な継代法としては、細胞の入ったコラーゲン・ゲルをハサミで細かく切り、その一部を冷却したコラーゲン混合溶液に分散させ、新しい培養皿に移してゲル化させてもよい。

IV-4-3 コロニーの選択法コラーゲン・ゲル内で培養することにより、軟寒天培養の場合と同様に三次元的に増殖したコロニーを取り出すことができる。 

【操作手順】1. 少数の細胞(102~104cells/60mm dish)をコラーゲン・ゲル内において培養し、コロニーが適当な大きさになるまで待つ(直径0.5~1mm)。

2. 解剖顕微鏡のもとで、眼科用のハサミを用いてコロニーを切り取る(コロニーの回りには、コラーゲン・ゲルが付着したままでよい)。

3. コラーゲン・ゲルの付着したコロニーをコラーゲン混合溶液に混ぜ、そのまま新しい培養皿に分注し、ゲル化させ培養を行う。

4. コロニーをさらに小さくするためには、a. ハサミでコロニーを細かく切る。b. コラゲナーゼで処理する。c. コラゲナーゼの後、プロナーゼまたはトリプシン、トリプシン+EDTA等を用いてコロニーを細かくするなどの方法を用いることができる。

5. 酵素を用いて単離された細胞は、充分に洗浄した後、コラーゲン混合溶液に分散させコラーゲン・ゲル内にて培養を続ける。

IV-5 細胞増殖度の測定法コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の数を決定するには、DNA量を測定するか、または核数を数えて細胞数の推定を行う。

IV-5-1 DNA量の測定(Hinegardnerの方法)34)蛍光法を用いることにより、0.1μg のDNA(~1.7×104cellsに相当)でも測定が可能である。 

【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼで溶解し、遠心(Microcentrifuge、回転数が8,000rpmに達した後、直ちにOFF にする)で細胞を集める。

2. 細胞をPBS(Phosphate-Buffered Saline)で洗浄し、再び遠心する。3. エタノールで細胞を固定する。4. 5~10分後に遠心し、エタノールを吸引除去後、乾燥させる。5. 塩酸ジアミノ安息香酸溶液(Diaminobenzoin Acid 0.4gを1mlの蒸留水に溶かす)を入れ(1.5ml の遠心管を用いた場合には0.2mlの安息香酸を用いる)60℃で45 分加温する。

6. 反応終了後、1N-HClを1.5ml加え、蛍光強度 (Ex 415nm、Em 505nm)を測定する。

IV-5-2 核数の測定法(Sanfordetslの方法)35)【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解する。2. 遠心により細胞を集める。3. 細胞を0.1M クエン酸/0.1%クリスタルバイオレット溶液中に分散させ、ミキサーを用いて激しく撹拌し、細胞を破壊する。

4. 染色された核を血球計算板で数える。

IV-6 培養細胞サンプルの保存法【操作手順】1. 細胞を保存するためには、まず固定しなければならない。固定にはコラーゲン・ゲルをPBS で洗浄した後、10%ホルマリン(ハンクス液)中に一晩漬け、ゲルおよび細胞を固定する。固定後に流水中でホルマリンをよく洗い流す。

2. 固定後、0.02%のNaN3(アザイド)の入った蒸留水中に浸しておけば、Wet Sampleとしても保存できる。このとき、培養皿の中へこの液を入れてもよいし、ゲルを培養皿より取り出して別の容器に入れて保存してもよい。培養皿で保存する際には、周りにビニールテープを貼るなどして蒸発を防ぐようにしなければならない。また、組織標本の作成法に従って、70%アルコール、100%アルコール、キシレンの順に各々数時間浸し、キシレン中に保存することもできる。顕微鏡切片にするには、この後、パラフィン包埋すればよい。

3. 固定後、自然乾燥するか、50℃以下の乾燥機の中で乾燥すればDry Sampleを作ることができる。4. 染色には、固定後、ギムザ液(メルク社など)を加え、数時間放置した後、流水中で洗浄し余分な色素を除く。

5. この後、上述のように、Wet Sample またはDry Sample として保存することができる。

- 23 -

Page 24: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

培養液

細胞

ゲル

培養液

細胞

ゲル(収縮する)

培養液

細胞

ゲル

培養液

Top(Cell) Layer

Base Layer

ゲルをはがす

IV-2 コラーゲン・ゲル上培養法IV-2-1 付着コラーゲン・ゲル培養法(Attached Collagen Gel Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス上に単層に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. IV-1の方法に基づいて、コラーゲン・ゲルを培養皿に作成する。2. Cell Suspensionをゲル上に播き細胞がゲルに接着した後、通常の単層培養法と同様に培養を行う。3. ゲル内に、血清、その他の生理活性物質を入れる場合には、混合液を作った際に混ぜておく(培養液は急速にコラーゲン・ゲル中に浸入していくので、ゲル中に血清などを入れることは必ずしも必要ではない)。(図10)

図10 付着コラーゲン・ゲル培養法

IV-2-2 浮遊コラーゲン・ゲル培養法(Floating Collagen Gel Culture Method)上記コラーゲン・ゲル上培養法(IV-2-1)で培養して、細胞がコラーゲン・ゲルに接着し単層を形成した後に、ゲルを培養皿よりはがし、培養液中に細胞の接着したまま浮遊させる方法である。こうすることにより、細胞は長期にわたって分化機能を維持し続けることができる(図11)。ゲルをはがす際には、注射針またはピンセットを用いて培養皿にそって一周回した後に、周辺から中央に向かって針を押すようにすればゲルは培養液中に浮遊する。培養液の交換の際には、ゲルがピペット内に吸い込まれやすいので、充分注意しながら行う。

図11 浮遊コラーゲン・ゲル培養法

IV-3 コラーゲン・ゲル包埋培養法(Collagen Gel Embedded Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス内に細胞を埋めて、三次元的に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. まず、培養皿にコラーゲン・ゲルの層を作り、これをBase Layerとする。2. 次に細胞を少量の血清、培養液などに分散させたものをコラーゲン混合溶液中にいれよく振り混ぜる。このとき、ピペッティングにより混ぜるとコラーゲンが泡立つので、できるだけ容器を振とうすることにより撹拌を行う。

3. 上記の細胞とコラーゲン混合溶液をBase Layer上に分注し、直ちに37℃でゲル化させ、Top Layer(またはCell Layer)とする。4. Top Layer の硬化した後に、培養液を重層する(Overlay Medium)。(図12)

図12 コラーゲン・ゲル包埋培養法

注意7 Base Layerを作るのは、細胞の入ったCell Layerを作る際に一部の細胞はゲル化以前に培養

皿面に接着し、単層を形成することがあるためこれを防ぐ目的で行っている。 

【各種培養皿に対するコラーゲンと培養液の使用量】各種培養皿を用いたときのコラーゲン・ゲルおよび培養液の望ましい使用量を表9にあげる。

表9 各種培養皿使用時のコラーゲン・ゲルおよび培養液使用量

培養皿の種類 Base Layer Top Layer Overlay Medium 16 mm (マルチウェル) 0.5 ml 0.5 ml 1 ml

35 mm 1 ml 2 ml 2 ml

60 mm 2 ml 5 ml 5 ml

100 mm 5 ml 10 ml 12~15 ml 

注意8 Cell Layerの重層後は直ちに37℃のインキュベーターに入れてゲル化させる。(細胞塊などは重いので沈んでしまい均一な分布とならないことがあるため)

 

【培養液の交換】コラーゲン中の細胞数に応じて培養液の交換の頻度を決定する。コラーゲン・ゲル内において細胞は三次元的に増殖するために、単層培養に比べて非常に細胞数が多くなるので、細胞数が増加してきたら頻繁に培養液を交換しなければならない。あまり、細胞が増えすぎて栄養欠乏のため壊れていくようなものがでてきたら、後述するような方法で直ちに継代しなければならない。 

- 19 - - 20 -

【コラーゲン溶液の種類・濃度の培養細胞に及ぼす影響】使用する細胞の種類(特に上皮細胞)によっては、コラーゲンの濃度、すなわちコラーゲンのゲル強度が細胞の形態、機能、増殖に影響することが我々の実験によって確かめられた。そこで、コラーゲンの使用に当たっては細胞種による最適のコラーゲンの濃度を確かめられるべきであろう。初めての細胞をコラーゲンを用いて培養する場合、0.3%コラーゲン溶液を滅菌した希塩酸(pH3.0)で0.2%、 0.1%、0.05%に薄めて使用し、その結果を見て、その細胞に最適のコラーゲンの濃度で培養を行う。例えば、我々は細胞の形態、機能を調べるときは、0.3%コラーゲン溶液を使用し、細胞の増殖を早め、細胞を大量に得たい時には0.15%コラーゲンを用いる。 

注意9 0.3%コラーゲン溶液を、希塩酸(pH3.0)で薄める方法:0.3%コラーゲン溶液は高粘度のために希塩酸を加えても均一な溶液になりにくいので希塩酸を加えた後充分に容器を振とうすることによって撹拌を行うか、マグネチックスターラーを用いて充分に撹拌する。マグネチックスターラーを用いて4℃で4~8時間撹拌するのが望ましい。その時、あまり撹拌スピードが速いと泡立つので注意を要する。

 

【Cellmatrix Type I-AとType I-Pの差異】Cellmatrix Type I-Aはネイティブな酸可溶性コラーゲンであり、Type I-Pはペプシンで可溶化した酸可溶化コラーゲンで、二種類のコラーゲンを線維化(ゲル化)させたとき、再構成される線維は異なるといわれている。また、これらは同じ濃度でもゲル強度が異なるという物理化学的な差がある。そのために、細胞の種類によっては、Cellmatrix Type I-AとType I-Pでは細胞の増殖と形態が異なることがある。我々の使用している細胞の場合(上皮細胞、上皮性の癌細胞)は、Type I-Pの方が増殖が早く、Type I-Aの方が、生体内での形態に近い三次元構造をとる。また、Type I-Aの方がコラーゲン・ゲルの透明度がよいので、顕微鏡観察が容易である。

IV-4 コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の採取法、継代法 およびコロニーの選択法IV-4-1 細胞の採取法細胞を生きたまま採取するためには、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解させなければならない。そのためには、次の操作手順で行う。 

【操作手順】1. 重層してある培養液を除いた後、培養皿の中のコラーゲン・ゲルをハサミで3mm角くらいに切り、コラゲナーゼ(Type S-1等)の濃度が、最終濃度0.02%になるように加え、振とう機(例えば、rotary shakerで100rpm)で、振とうして溶解させる。(例えば、1mlのゲルに20µlの1%コラゲナーゼを加える)その時の温度は37℃とする。1mlのゲルの場合、通常30分から1時間でゲルの溶解は完了する。ただし、コラーゲン・ゲル内の細胞種によってはゲルに影響を及ぼし、溶解性が悪くなることがある。

2. 培養皿の細胞を遠心管に移し、低速の遠心分離器で細胞を集める。3. 細胞をハンクス液、その他に分散させ、洗浄し再び低速遠心する。4. この後、DNA 測定、継代等に用いる。

- 21 - - 22 -

IV-4-2 継代法【操作手順】1. 上述のごとく、コラゲナーゼでゲルを溶解し、細胞を採取する。(以下、全ての段階を無菌的に行う必要がある)

2. 細胞を2~3回洗浄し、コラゲナーゼを完全に除く。3. 細胞を少量の培養液に分散させ、冷却したコラーゲン混合溶液に混ぜ、常法に従って培養皿に移し、ゲル化させる。

4. コラゲナーゼ処理のみでは、細胞の塊として培養されるので、単一細胞の培養を行いたい場合にはコラゲナーゼ処理の後、さらにプロナーゼあるいはトリプシン、トリプシン+EDTA等で細胞塊を分散させる。

5. 細胞を充分に洗浄した後、上記のようにコラーゲン混合溶液に混ぜゲル内で培養する。6. 簡単な継代法としては、細胞の入ったコラーゲン・ゲルをハサミで細かく切り、その一部を冷却したコラーゲン混合溶液に分散させ、新しい培養皿に移してゲル化させてもよい。

IV-4-3 コロニーの選択法コラーゲン・ゲル内で培養することにより、軟寒天培養の場合と同様に三次元的に増殖したコロニーを取り出すことができる。 

【操作手順】1. 少数の細胞(102~104cells/60mm dish)をコラーゲン・ゲル内において培養し、コロニーが適当な大きさになるまで待つ(直径0.5~1mm)。

2. 解剖顕微鏡のもとで、眼科用のハサミを用いてコロニーを切り取る(コロニーの回りには、コラーゲン・ゲルが付着したままでよい)。

3. コラーゲン・ゲルの付着したコロニーをコラーゲン混合溶液に混ぜ、そのまま新しい培養皿に分注し、ゲル化させ培養を行う。

4. コロニーをさらに小さくするためには、a. ハサミでコロニーを細かく切る。b. コラゲナーゼで処理する。c. コラゲナーゼの後、プロナーゼまたはトリプシン、トリプシン+EDTA等を用いてコロニーを細かくするなどの方法を用いることができる。

5. 酵素を用いて単離された細胞は、充分に洗浄した後、コラーゲン混合溶液に分散させコラーゲン・ゲル内にて培養を続ける。

IV-5 細胞増殖度の測定法コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の数を決定するには、DNA量を測定するか、または核数を数えて細胞数の推定を行う。

IV-5-1 DNA量の測定(Hinegardnerの方法)34)蛍光法を用いることにより、0.1μg のDNA(~1.7×104cellsに相当)でも測定が可能である。 

【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼで溶解し、遠心(Microcentrifuge、回転数が8,000rpmに達した後、直ちにOFF にする)で細胞を集める。

2. 細胞をPBS(Phosphate-Buffered Saline)で洗浄し、再び遠心する。3. エタノールで細胞を固定する。4. 5~10分後に遠心し、エタノールを吸引除去後、乾燥させる。5. 塩酸ジアミノ安息香酸溶液(Diaminobenzoin Acid 0.4gを1mlの蒸留水に溶かす)を入れ(1.5ml の遠心管を用いた場合には0.2mlの安息香酸を用いる)60℃で45 分加温する。

6. 反応終了後、1N-HClを1.5ml加え、蛍光強度 (Ex 415nm、Em 505nm)を測定する。

IV-5-2 核数の測定法(Sanfordetslの方法)35)【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解する。2. 遠心により細胞を集める。3. 細胞を0.1M クエン酸/0.1%クリスタルバイオレット溶液中に分散させ、ミキサーを用いて激しく撹拌し、細胞を破壊する。

4. 染色された核を血球計算板で数える。

IV-6 培養細胞サンプルの保存法【操作手順】1. 細胞を保存するためには、まず固定しなければならない。固定にはコラーゲン・ゲルをPBS で洗浄した後、10%ホルマリン(ハンクス液)中に一晩漬け、ゲルおよび細胞を固定する。固定後に流水中でホルマリンをよく洗い流す。

2. 固定後、0.02%のNaN3(アザイド)の入った蒸留水中に浸しておけば、Wet Sampleとしても保存できる。このとき、培養皿の中へこの液を入れてもよいし、ゲルを培養皿より取り出して別の容器に入れて保存してもよい。培養皿で保存する際には、周りにビニールテープを貼るなどして蒸発を防ぐようにしなければならない。また、組織標本の作成法に従って、70%アルコール、100%アルコール、キシレンの順に各々数時間浸し、キシレン中に保存することもできる。顕微鏡切片にするには、この後、パラフィン包埋すればよい。

3. 固定後、自然乾燥するか、50℃以下の乾燥機の中で乾燥すればDry Sampleを作ることができる。4. 染色には、固定後、ギムザ液(メルク社など)を加え、数時間放置した後、流水中で洗浄し余分な色素を除く。

5. この後、上述のように、Wet Sample またはDry Sample として保存することができる。

- 23 -

Page 25: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

培養液

細胞

ゲル

培養液

細胞

ゲル(収縮する)

培養液

細胞

ゲル

培養液

Top(Cell) Layer

Base Layer

ゲルをはがす

IV-2 コラーゲン・ゲル上培養法IV-2-1 付着コラーゲン・ゲル培養法(Attached Collagen Gel Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス上に単層に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. IV-1の方法に基づいて、コラーゲン・ゲルを培養皿に作成する。2. Cell Suspensionをゲル上に播き細胞がゲルに接着した後、通常の単層培養法と同様に培養を行う。3. ゲル内に、血清、その他の生理活性物質を入れる場合には、混合液を作った際に混ぜておく(培養液は急速にコラーゲン・ゲル中に浸入していくので、ゲル中に血清などを入れることは必ずしも必要ではない)。(図10)

図10 付着コラーゲン・ゲル培養法

IV-2-2 浮遊コラーゲン・ゲル培養法(Floating Collagen Gel Culture Method)上記コラーゲン・ゲル上培養法(IV-2-1)で培養して、細胞がコラーゲン・ゲルに接着し単層を形成した後に、ゲルを培養皿よりはがし、培養液中に細胞の接着したまま浮遊させる方法である。こうすることにより、細胞は長期にわたって分化機能を維持し続けることができる(図11)。ゲルをはがす際には、注射針またはピンセットを用いて培養皿にそって一周回した後に、周辺から中央に向かって針を押すようにすればゲルは培養液中に浮遊する。培養液の交換の際には、ゲルがピペット内に吸い込まれやすいので、充分注意しながら行う。

図11 浮遊コラーゲン・ゲル培養法

IV-3 コラーゲン・ゲル包埋培養法(Collagen Gel Embedded Culture Method)これは、コラーゲン・ゲル・マトリックス内に細胞を埋めて、三次元的に細胞を培養する方法である。 

【操作手順】1. まず、培養皿にコラーゲン・ゲルの層を作り、これをBase Layerとする。2. 次に細胞を少量の血清、培養液などに分散させたものをコラーゲン混合溶液中にいれよく振り混ぜる。このとき、ピペッティングにより混ぜるとコラーゲンが泡立つので、できるだけ容器を振とうすることにより撹拌を行う。

3. 上記の細胞とコラーゲン混合溶液をBase Layer上に分注し、直ちに37℃でゲル化させ、Top Layer(またはCell Layer)とする。4. Top Layer の硬化した後に、培養液を重層する(Overlay Medium)。(図12)

図12 コラーゲン・ゲル包埋培養法

注意7 Base Layerを作るのは、細胞の入ったCell Layerを作る際に一部の細胞はゲル化以前に培養

皿面に接着し、単層を形成することがあるためこれを防ぐ目的で行っている。 

【各種培養皿に対するコラーゲンと培養液の使用量】各種培養皿を用いたときのコラーゲン・ゲルおよび培養液の望ましい使用量を表9にあげる。

表9 各種培養皿使用時のコラーゲン・ゲルおよび培養液使用量

培養皿の種類 Base Layer Top Layer Overlay Medium 16 mm (マルチウェル) 0.5 ml 0.5 ml 1 ml

35 mm 1 ml 2 ml 2 ml

60 mm 2 ml 5 ml 5 ml

100 mm 5 ml 10 ml 12~15 ml 

注意8 Cell Layerの重層後は直ちに37℃のインキュベーターに入れてゲル化させる。(細胞塊などは重いので沈んでしまい均一な分布とならないことがあるため)

 

【培養液の交換】コラーゲン中の細胞数に応じて培養液の交換の頻度を決定する。コラーゲン・ゲル内において細胞は三次元的に増殖するために、単層培養に比べて非常に細胞数が多くなるので、細胞数が増加してきたら頻繁に培養液を交換しなければならない。あまり、細胞が増えすぎて栄養欠乏のため壊れていくようなものがでてきたら、後述するような方法で直ちに継代しなければならない。 

- 19 - - 20 -

【コラーゲン溶液の種類・濃度の培養細胞に及ぼす影響】使用する細胞の種類(特に上皮細胞)によっては、コラーゲンの濃度、すなわちコラーゲンのゲル強度が細胞の形態、機能、増殖に影響することが我々の実験によって確かめられた。そこで、コラーゲンの使用に当たっては細胞種による最適のコラーゲンの濃度を確かめられるべきであろう。初めての細胞をコラーゲンを用いて培養する場合、0.3%コラーゲン溶液を滅菌した希塩酸(pH3.0)で0.2%、 0.1%、0.05%に薄めて使用し、その結果を見て、その細胞に最適のコラーゲンの濃度で培養を行う。例えば、我々は細胞の形態、機能を調べるときは、0.3%コラーゲン溶液を使用し、細胞の増殖を早め、細胞を大量に得たい時には0.15%コラーゲンを用いる。 

注意9 0.3%コラーゲン溶液を、希塩酸(pH3.0)で薄める方法:0.3%コラーゲン溶液は高粘度のために希塩酸を加えても均一な溶液になりにくいので希塩酸を加えた後充分に容器を振とうすることによって撹拌を行うか、マグネチックスターラーを用いて充分に撹拌する。マグネチックスターラーを用いて4℃で4~8時間撹拌するのが望ましい。その時、あまり撹拌スピードが速いと泡立つので注意を要する。

 

【Cellmatrix Type I-AとType I-Pの差異】Cellmatrix Type I-Aはネイティブな酸可溶性コラーゲンであり、Type I-Pはペプシンで可溶化した酸可溶化コラーゲンで、二種類のコラーゲンを線維化(ゲル化)させたとき、再構成される線維は異なるといわれている。また、これらは同じ濃度でもゲル強度が異なるという物理化学的な差がある。そのために、細胞の種類によっては、Cellmatrix Type I-AとType I-Pでは細胞の増殖と形態が異なることがある。我々の使用している細胞の場合(上皮細胞、上皮性の癌細胞)は、Type I-Pの方が増殖が早く、Type I-Aの方が、生体内での形態に近い三次元構造をとる。また、Type I-Aの方がコラーゲン・ゲルの透明度がよいので、顕微鏡観察が容易である。

IV-4 コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の採取法、継代法 およびコロニーの選択法IV-4-1 細胞の採取法細胞を生きたまま採取するためには、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解させなければならない。そのためには、次の操作手順で行う。 

【操作手順】1. 重層してある培養液を除いた後、培養皿の中のコラーゲン・ゲルをハサミで3mm角くらいに切り、コラゲナーゼ(Type S-1等)の濃度が、最終濃度0.02%になるように加え、振とう機(例えば、rotary shakerで100rpm)で、振とうして溶解させる。(例えば、1mlのゲルに20µlの1%コラゲナーゼを加える)その時の温度は37℃とする。1mlのゲルの場合、通常30分から1時間でゲルの溶解は完了する。ただし、コラーゲン・ゲル内の細胞種によってはゲルに影響を及ぼし、溶解性が悪くなることがある。

2. 培養皿の細胞を遠心管に移し、低速の遠心分離器で細胞を集める。3. 細胞をハンクス液、その他に分散させ、洗浄し再び低速遠心する。4. この後、DNA 測定、継代等に用いる。

- 21 - - 22 -

IV-4-2 継代法【操作手順】1. 上述のごとく、コラゲナーゼでゲルを溶解し、細胞を採取する。(以下、全ての段階を無菌的に行う必要がある)

2. 細胞を2~3回洗浄し、コラゲナーゼを完全に除く。3. 細胞を少量の培養液に分散させ、冷却したコラーゲン混合溶液に混ぜ、常法に従って培養皿に移し、ゲル化させる。

4. コラゲナーゼ処理のみでは、細胞の塊として培養されるので、単一細胞の培養を行いたい場合にはコラゲナーゼ処理の後、さらにプロナーゼあるいはトリプシン、トリプシン+EDTA等で細胞塊を分散させる。

5. 細胞を充分に洗浄した後、上記のようにコラーゲン混合溶液に混ぜゲル内で培養する。6. 簡単な継代法としては、細胞の入ったコラーゲン・ゲルをハサミで細かく切り、その一部を冷却したコラーゲン混合溶液に分散させ、新しい培養皿に移してゲル化させてもよい。

IV-4-3 コロニーの選択法コラーゲン・ゲル内で培養することにより、軟寒天培養の場合と同様に三次元的に増殖したコロニーを取り出すことができる。 

【操作手順】1. 少数の細胞(102~104cells/60mm dish)をコラーゲン・ゲル内において培養し、コロニーが適当な大きさになるまで待つ(直径0.5~1mm)。

2. 解剖顕微鏡のもとで、眼科用のハサミを用いてコロニーを切り取る(コロニーの回りには、コラーゲン・ゲルが付着したままでよい)。

3. コラーゲン・ゲルの付着したコロニーをコラーゲン混合溶液に混ぜ、そのまま新しい培養皿に分注し、ゲル化させ培養を行う。

4. コロニーをさらに小さくするためには、a. ハサミでコロニーを細かく切る。b. コラゲナーゼで処理する。c. コラゲナーゼの後、プロナーゼまたはトリプシン、トリプシン+EDTA等を用いてコロニーを細かくするなどの方法を用いることができる。

5. 酵素を用いて単離された細胞は、充分に洗浄した後、コラーゲン混合溶液に分散させコラーゲン・ゲル内にて培養を続ける。

IV-5 細胞増殖度の測定法コラーゲン・ゲル内で増殖した細胞の数を決定するには、DNA量を測定するか、または核数を数えて細胞数の推定を行う。

IV-5-1 DNA量の測定(Hinegardnerの方法)34)蛍光法を用いることにより、0.1μg のDNA(~1.7×104cellsに相当)でも測定が可能である。 

【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼで溶解し、遠心(Microcentrifuge、回転数が8,000rpmに達した後、直ちにOFF にする)で細胞を集める。

2. 細胞をPBS(Phosphate-Buffered Saline)で洗浄し、再び遠心する。3. エタノールで細胞を固定する。4. 5~10分後に遠心し、エタノールを吸引除去後、乾燥させる。5. 塩酸ジアミノ安息香酸溶液(Diaminobenzoin Acid 0.4gを1mlの蒸留水に溶かす)を入れ(1.5ml の遠心管を用いた場合には0.2mlの安息香酸を用いる)60℃で45 分加温する。

6. 反応終了後、1N-HClを1.5ml加え、蛍光強度 (Ex 415nm、Em 505nm)を測定する。

IV-5-2 核数の測定法(Sanfordetslの方法)35)【操作手順】1. コラーゲン・ゲルをハサミで細断した後、コラゲナーゼを用いてゲルを溶解する。2. 遠心により細胞を集める。3. 細胞を0.1M クエン酸/0.1%クリスタルバイオレット溶液中に分散させ、ミキサーを用いて激しく撹拌し、細胞を破壊する。

4. 染色された核を血球計算板で数える。

IV-6 培養細胞サンプルの保存法【操作手順】1. 細胞を保存するためには、まず固定しなければならない。固定にはコラーゲン・ゲルをPBS で洗浄した後、10%ホルマリン(ハンクス液)中に一晩漬け、ゲルおよび細胞を固定する。固定後に流水中でホルマリンをよく洗い流す。

2. 固定後、0.02%のNaN3(アザイド)の入った蒸留水中に浸しておけば、Wet Sampleとしても保存できる。このとき、培養皿の中へこの液を入れてもよいし、ゲルを培養皿より取り出して別の容器に入れて保存してもよい。培養皿で保存する際には、周りにビニールテープを貼るなどして蒸発を防ぐようにしなければならない。また、組織標本の作成法に従って、70%アルコール、100%アルコール、キシレンの順に各々数時間浸し、キシレン中に保存することもできる。顕微鏡切片にするには、この後、パラフィン包埋すればよい。

3. 固定後、自然乾燥するか、50℃以下の乾燥機の中で乾燥すればDry Sampleを作ることができる。4. 染色には、固定後、ギムザ液(メルク社など)を加え、数時間放置した後、流水中で洗浄し余分な色素を除く。

5. この後、上述のように、Wet Sample またはDry Sample として保存することができる。

- 23 -

Page 26: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

V コラーゲン・フィルム上培養法 (コラーゲンコート培養法)V-1 フィルム作成後、中和する方法【操作手順】1. 少量のコラーゲン溶液(希塩酸溶液pH3.0)を10倍以上に適当に希釈して培養皿に注ぎ、薄く引き伸ばす。この時、早く乾燥させたいときは、余分なコラーゲン溶液を吸い取る。

2. コラーゲンの変性を防ぐため、25℃以下の温度で乾燥させる(無菌の空気を培養皿に流して乾燥させるか、またはクリーンベンチの中で培養皿のふたを開けて放置しておくとよい)。

3. コラーゲン溶液が乾燥したら、UVで滅菌する(ただし、コラーゲン溶液を乾燥するとき、無菌的に行ったならば滅菌する必要はない)。滅菌条件は、UVランプ15Wでランプと培養皿の距離が20cmの場合は20分位行うとよい。

4. 滅菌後、コラーゲン・フィルムの酸を除くため、ハンクス液または培養液で充分に洗浄する。5. Cell Suspensionをコラーゲン・フィルム上に播き、細胞がコラーゲン・フィルムに接着した後、通常の単層培養法と同様に培養を行う。

V-2 中和後、フィルム作成する方法この方法は、生理的条件(pH7.4、 イオン強度NaClで0.14M)で線維形成させるので、生体内に近いCollagen Fibril を持ったフィルムを作成するのに適している。 

【操作手順】1. IV-1-2の方法に従って、冷却しながら(4℃が適温)コラーゲン混合溶液を作成する。2. 少量のコラーゲン混合溶液を培養皿に注ぎ、薄く引き伸ばす(この操作は冷却しながら、敏速に行わないとコラーゲン混合溶液がゲル化する恐れがある)。

3. 以下の操作はV-1の操作手順2~5に従う。ただし、4の操作はコラーゲン・フィルムの塩を除くために同じ操作を行う。

- 24 -

Page 27: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

VI まとめ・文献以上述べたコラーゲン・ゲル培養法について、最近日本国内でも数多くの研究発表が行われており、昭和60年3月のコラーゲン研究会ではこのテーマでシンポジウムが開催され36)、同年5月の日本組織培養学会においてはワークショップが持たれる37)などコラーゲン・ゲル培養法はますます多くの分野で利用されるようになってきている。以下に、引用文献および参考文献を掲げたが、これら以外にもCellmatrixを使用された文献が多数発表されています。 

文献 1. 永井裕、藤本大三郎編、コラーゲン代謝と疾患.講談社(1982) 2. J. Yang & S. Nandi, Int. Rev. Cytol., 81, 249-286 (1983) 3. H. K. Kleinman, R. J. Klebe & G. R. Martin, J. Cell. Biol., 88, 473 (1981) 4. R. L. Ehrmann & G. O. Gey, Natl. Cancer Inst., 16 (6), 1375-1400 (1956) 5. C. Grobstein, Exp. Zool., 124, 383-388 (1953) 6. D. Gospodarowicz, G. Greenberg & C. R. Birdwell, Cancer Res., 38, 4155 (1978) 7. M. Wicha, L. A. Liotta, S. Garbisa & W. R. Kidwell, Exp. Cell. Res., 124, 181 (1979) 8. J. C. Murray, G. Stingle, H. K. Kleinman, G. R. Martin & S. I. Katz, J. Cell Biol., 80, 197 (1978) 9. C. A. Sottler, & G. Michalopoulos, Cancer Res., 38, 1539 (1978) 10. G. O. Gey, M. Suotelis, M. Foard & F. B. Bang, Exp. Cell Res., 84, 63 (1974) 11. J. T. emerman & D. R. Pitelka, In Vitro., 13, 316-328 (1977) 12. J. Yang, J. Richards, P. Bowman, R. Guzman, J. Enami, K. McCormick, S. Hamamoto, D. R. Pitelka & S. Nandi, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 76, 3401-3405 (1979)

13. J. Yang, R. Guzman, J. Richards & S. Nandi, In Vitro., 16, 502-506 (1980) 14. J. Yang, J. Richards, R. Guzman, W. Imagawa & S. Nandi, Pro. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77, 2088-2092 (1980) 15. J. T. Emerman, J. Enami, D. R. Pitelka & S. Nandi, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 74 (10), 4460-4470 (1977) 16. J. Enami & S. Nandi, J. Dairy Sci., 61 (6), 729-732 (1978) 17. 榎並淳平ほか、組織培養、9 (10), 397-400 (1983) 18. 榎並淳平ほか、日本組織培養学会第56 回研究会発表、組織培養研究、2 (2), 48-49 (1983) 19. G. Michalopoulos & H. E. Pitot, Exp. Cell. Res., 94, 70 (1975) 20. S. D. Hauschaka & I. R. Konigsberg, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 55, 119 (1966) 21. J. W. Dodson & E. D. Hay, J. Exp. Zool., 189, 51 (1974) 22. J. C. Murray, G. Stingle, H. K. Kleinman, G. B. Martin & S. I. Katz, J. Cell Biol., 80, 197 (1978) 23. P. Bornstein and W. Traub.,in The Proteins (Neurath, H. and Hill, R., eds), Vol. IV 411-632, Academic Press (1979) 24. D. J. S. Hulmes, A. Miller, D. A. D. Rarry, K. A. Piez, and J. Woodhead-Galloway, J. Mol. Biol., 79, 137-148 (1973) 25. G. N. Ramachandran, in Treatise on Collagen (Ramachandran, G. N. ed.), Vol. 1 pp,103-184, Academic Press (1967) 26. 林利彦、現代科学. 3月号, 26-34 (1981) 27. L. Peltonen, A. Palotie, T. Hayashi, and D. J. Prockop, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77, 162-166 (1980) 28. 林利彦、コラーゲン代謝と疾患(永井裕、藤本大三郎編), 13-49, 講談社 (1982) 29. コラーゲンの架橋の構造と機能に関する討論会、東京 (1981) 30. 藤原作平、コラーゲン代謝と疾患(永井裕、藤本大三郎編), 110-133, 講談社 (1982) 31. M. Chvapil, in Fibrous Proteins: Scientific, Industrial and Medical Aspects Vol.1 (Parry, D. A. D. and Creamer, L. K., eds.), 247-269, Academic Press (1979)

32. 宮田暉男、西沢優、コラーゲン-化学・生物学・医学(野田晴彦、永井裕、藤本大三郎編), 251-282, 南江堂(1975) 33. J. Yang, J. Richards, R. Guzman, W. Imagawa & S. Nandi, Pro. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77, 2088-2092 (1980) 34. R. T. Hinegardner, Anal. Biochem., 39, 197-201 (1971) 35. K. K. Sanford, W. R. Earle, V. J. Evans. et al., J. Nat. Cancer Inst., 11, 773-795 (1951) 36. 第32回コラーゲン研究会抄録、5~ 38 (1985) 37. 組織培養研究、4 (2), 146-179 (1985)

- 25 -

Page 28: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

資料に関するお願い『コラーゲンを用いる培養法』は、下記の論文の内容と一部重複しております。従いまして、ここで述べた方法でコラーゲン培養を行い、その結果を発表される場合は、下記の論文を引用していただきますようお願いいたします。

【和文】

榎並 淳平、肥塚 正博、羽多 正隆、川村 和男、橘 陽一、草間 良恵、古閑 睦好

1) 「コラーゲン・ゲル培養法(Ⅰ)」 組織培養 13(1), 26-30, 1987

2) 「コラーゲン・ゲル培養法(Ⅱ)」 組織培養 13(2), 64-68, 1987

【英文】

3) Enami, J., Koezuka, M., Hata, M., Enami, S. and Koga, M. “ Gel Strength-Dependent Branching Morphogenesis of Mouse Mammary Tumor Cells in Collagen Gel Matrix Culture “

Dokkyo J. Med. Sci. 12, 25-30, 1985

4) Enami, J., Enami, S., Kawamura, K., Kohmoto, K., Hata, M., Koezuka, M. and Koga, M. Growth of Normal and Neoplastic Mammary Epithelial Cells of the Mouse by Mammary Fibroblast-Conditioned Medium Factor In “ Growth and Differentiation of Mammary Epithelial Cells in Culture ”

ed. J. Enami and R.G Ham, pp. 125-153 (1987). Japan Scientific Societies Press(学会出版センター), Tokyo, Japan

5) Enami, J. and Tsukada, Y. Use of Collagen Gel as Three-Dimensional Matrix for Explant Culture In “ Cell & Tissue Culture: Laboratory Procedures”

ed. J.B. Griffiths, A. Doyle and D.G. Newell, 3A, pp. 5.1-5.8 (1994). John Wiley & Sons, Chichester, UK.

- 26 -

Page 29: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法
Page 30: コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法 (Collagen …...コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル コラーゲン・ゲル・マトリックス培養法

総合研究所 バイオメディカル部〒581-0024 大阪府八尾市二俣2-22

TEL:072-949-8702

E-mail: [email protected]

2020.05