3
NTT技術ジャーナル 2016.12 52 NTTとインターネットマルチフィード㈱(MF社)は,NTT がオープンソースソフトウェア(OSS)として開発する インターネットの経路制御機能を提供する「GoBGP (1) 」を MF社が提供するインターネット ・ エクスチェンジ(IX) サービスであるJPNAPへの適用に向けて連携を行い,商 用導入を実現しました.GoBGPの自動化機能を活用し, JPNAPのRouteFEEDサービス の運用の自動化を実現す ることで,RouteFEEDサービスの新規契約におけるリー ドタイムを10分の 1,既存のお客さまからの設定変更 オーダーのリードタイムを30分の 1 に短縮しました.運 用自動化により,従来の手動の設定変更でのヒューマン エラーによるトラブルを防ぐことができ,当該運用稼働 も10分の 1 程度に削減することができます.GoBGPの IX事業者向けの商用導入はJPNAPが世界初となります. ■背 景 インターネットの安定運用のために,インターネット におけるISPやコンテンツ事業者の相互接続点となる, IXサービスの重要性が高まっており,全世界で600以上 のIXが運用されています.MF社のJPNAPサービスは, アジア最大級のトラフィック量を交換するIXであり,イン ターネットのトラフィックや経路数が年々増加を続ける 中,その運用効率やコストが課題となっていました. NTTは,2012年 に オ ー プ ン ソ ー ス 化 し たRyu SDN Frameworkの開発や,OpenStackなどのOSSプロジェク トへの取り組みで得られた,ネットワークソフトウェア 技術力,OSS開発のノウハウを有しています.MF社は, 図 新旧RouteFEEDシステム JPNAPサービス データベースなどの 運用システム 旧経路交換機能 人手による運用で連携 事業者NW A 事業者NW C 事業者NW B 事業者NW D JPNAPサービス データベースなどの 運用システム 新経路交換機能 (GoBGP) API連携による自動化運用 NW:ネットワーク 事業者NW A 事業者NW C 事業者NW B 事業者NW D API 旧システム 新システム RouteFEEDサービス:MF社がJPNAP利用者向けに提供する,複数の接続先 と自動的に経路交換を行うサービス. インターネットマルチフィード×NTT コラボレーション成果 NTT発のオープンソースソフトウェアGoBGPをインターネットマルチフィード社の JPNAPサービスに導入,運用の自動化を促進し,大幅な効率化を実現

インターネットマルチフィード×NTT コラボレーション成果 NTT … · と自動的に経路交換を行うサービス. インターネットマルチフィード×ntt

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: インターネットマルチフィード×NTT コラボレーション成果 NTT … · と自動的に経路交換を行うサービス. インターネットマルチフィード×ntt

NTT技術ジャーナル 2016.1252

NTTとインターネットマルチフィード㈱(MF社)は,NTTがオープンソースソフトウェア(OSS)として開発するインターネットの経路制御機能を提供する「GoBGP(1)」をMF社が提供するインターネット ・ エクスチェンジ(IX)サービスであるJPNAPへの適用に向けて連携を行い,商用導入を実現しました.GoBGPの自動化機能を活用し,JPNAPのRouteFEEDサービス*の運用の自動化を実現することで,RouteFEEDサービスの新規契約におけるリードタイムを10分の 1 ,既存のお客さまからの設定変更オーダーのリードタイムを30分の 1 に短縮しました.運用自動化により,従来の手動の設定変更でのヒューマンエラーによるトラブルを防ぐことができ,当該運用稼働も10分の 1 程度に削減することができます.GoBGPのIX事業者向けの商用導入はJPNAPが世界初となります.

■背 景インターネットの安定運用のために,インターネット

におけるISPやコンテンツ事業者の相互接続点となる,IXサービスの重要性が高まっており,全世界で600以上のIXが運用されています.MF社のJPNAPサービスは,アジア最大級のトラフィック量を交換するIXであり,インターネットのトラフィックや経路数が年々増加を続ける中,その運用効率やコストが課題となっていました.

NTTは,2012年 に オ ー プ ン ソ ー ス 化 し たRyu SDN Frameworkの開発や,OpenStackなどのOSSプロジェクトへの取り組みで得られた,ネットワークソフトウェア技術力,OSS開発のノウハウを有しています.MF社は,

図 新旧RouteFEEDシステム

JPNAPサービス

データベースなどの運用システム

旧経路交換機能

人手による運用で連携

事業者NWA

事業者NWC

事業者NWB

事業者NWD

JPNAPサービス

データベースなどの運用システム

新経路交換機能(GoBGP)

API連携による自動化運用

NW:ネットワーク

事業者NWA

事業者NWC

事業者NWB

事業者NWD

API

旧システム 新システム

*RouteFEEDサービス:MF社がJPNAP利用者向けに提供する,複数の接続先と自動的に経路交換を行うサービス.

インターネットマルチフィード×NTT コラボレーション成果NTT発のオープンソースソフトウェアGoBGPをインターネットマルチフィード社のJPNAPサービスに導入,運用の自動化を促進し,大幅な効率化を実現

Page 2: インターネットマルチフィード×NTT コラボレーション成果 NTT … · と自動的に経路交換を行うサービス. インターネットマルチフィード×ntt

NTT技術ジャーナル 2016.12 53

アジア最大級のIXの運用を通じて,インターネットの経路制御技術に関する高度な知識,運用経験を有しています.この 2 社が密に連携しながらOSS開発を進めることで,本件を達成することができました.■技術の特徴

GoBGPは,マルチコアCPUなど近年のハードウェア

アーキテクチャの特徴を効率的に利用する実装により,現在のインターネットの経路数,IXサービスに求められる接続数を処理できるスケーラビリティを実現しました(図).

GoBGPは,従来の人手による運用ではなく,ソフトウェアによる制御を前提とした設計を採用し,API

インターネットマルチフィードはインターネット・エクスチェンジ(IX)サービスであるJPNAPを提供しており,その中でRouteFEEDサービスとしてBGPの経路交換を補助するルートサーバを運用しています.RouteFEEDはJPNAPの約7割のお客さまにお使いいただいており,お客さまにとって重要な通信基盤となるため,安定した運用が求められます.そのため,例えば2台あるルートサーバで動作するBGPデーモンを別種にすることで,予期しない障害に備える運用をしています.そのうちの1つのBGPデーモンには,CLIに限定された設定変更,Peer数の増加に伴う著しいパフォーマンス劣化,サポート切れといったさまざまな課題がありました.そこでNTT研究所と手を取り合い,約2年の歳月をかけてGoBGPを開発し,2016年8月に課題のあったBGPデーモンを置き換えるかたちで商用導入を果たしました.GoBGPの導入により,次のような効果が得られました.まず,GoBGPのAPI-firstな実装設計を活かし,RouteFEEDの設定変更作業を自動化し,大幅な効率化が達成されました.次に,置き換え前のBGPデーモンと比較してパフォーマンスも大きく改善し,BGPセッションの確立から経路配信完了までの所要時間が約40%短縮されました.そして高い開発力を備えたNTT研究所のチームが非常に速いスピードで機能修正や新規開発を実施してくださることも,我々運用者にとって大きな助けとなっています.今後は,現在よりさらに多くのPeer数,BGPの経路数を高速に処理できるようパフォーマンスのさらなる向上に焦点を当て,引き続き開発に協力していきたいと考えています.

世界初,商用IXにGoBGPを導入

渡辺 英一郎※/後藤 成聡/杉本 周インターネットマルチフィード株式会社技術部(※現,NTTコムエンジニアリング サービスネットワーク部)

研究者紹介研究者紹介

(左から)渡辺英一郎/後藤成聡/杉本周

Page 3: インターネットマルチフィード×NTT コラボレーション成果 NTT … · と自動的に経路交換を行うサービス. インターネットマルチフィード×ntt

NTT技術ジャーナル 2016.1254

(Application Programming Interface)の提供,設定変更などのソフトウェアによる頻繁なAPI要求を高速に処理できる設計により,容易に運用プロセスの自動化が可能です.また,それらAPIを利用することで,データ解析,イベント通知などの外部システムとも容易に連携することができます.■参考文献

(1) http://osrg.github.io/gobgp/

◆問い合わせ先NTTサービスイノベーション総合研究所 企画部広報担当 TEL 046-859-2032 E-mail randd lab.ntt.co.jp URL http://www.ntt.co.jp/news2016/1609/160930b.html

ネットワーク運用の現場では,手作業による設定を前提とするネットワーク機器が広く利用されており,自動化による運用の効率化を阻んでいました.しかし近年SDNに総称されるネットワークの制御にソフトウェアを積極的に活用するアーキテクチャにより,自動化による大幅な運用効率化が可能になってきました.GoBGPはインターネットの経路交換方式として世界中で利用されているBGPというルーティングプロトコルの運用自動化を前提に実装したソフトウェアで,OSSとしてNTTが主導し開発されています.インターネットマルチフィード(MF社)にはGoBGPの開発初期からオープンソースコミュニティの主要メンバーとして数多くのフィードバックをいただくとともに,実装された機能についてはタイムリーに試験を行っていただきました.エンジニアどうしお互いにソースコードをにらめっこしながら議論が行えたのは,社内のさまざまな運用のソフトウェアによる自動化を日頃から進められているMF社だからこそだったと思います.BGPは文字どおり世界中で利用されており,GoBGPを利用することによって運用効率を上げることができる企業,団体は無数に存在します.MF社への導入を最初の一歩として,世界中でGoBGPが利用されることをめざし,今後も開発を進めていきたいと思います.

世界中で利用されるソフトウェアをめざして

石田 渉NTTソフトウェアイノベーションセンタ分散処理基盤技術プロジェクト

研究者紹介研究者紹介