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アイデックス ラボラトリーズ株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 1-22-19 0120-71-4921 FAX:0120-71-3922 www.idexx.co.jp IDEXX Diagnostic Tips のバックナンバーは、 「IDEXX お客様専用サイト*(www.idexxjp.com)」で閲覧いただけます。 * 公式アドレスとは別アドレスとなります。 * 閲覧にはユーザー登録が必要です。アイデックスラボラトリーズの院内検査機器、 院内検査キット、または外注検査サービスのいずれか1つ以上の製品またはサービスを 現在ご利用の方のみ、ご登録可能となっております。 アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)と アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST) 平田 雅彦 先生 (IDEXX診断医) 犬猫の肝臓の評価を行う際に、種々の血液化学検査 の項目が挙げられるが、特に肝細胞傷害の指標となるの が ALTとAST である。肝酵素を評価する上で重要なこと は、その酵素が上昇する機序、臓器特異性及び半減期 である。ALPやGGTは胆管に胆汁がうっ滞することに よって合成が亢進することから合成酵素や誘導酵素と呼 ばれるのに対し、ALTやASTは膜の透過性の亢進、変 性および壊死などを起こした肝細胞から漏出することから 逸脱酵素と呼ばれている。臓器特異性に関しては、ALT や ASTとも肝臓、心筋、骨格筋、赤血球など様々な臓器 に存在している。ただしその活性の程度が異なっており、 その臓器の障害により血中濃度に影響を与える場合と与 えない場合がある。ALTは肝臓で最も活性が高く、心 筋、骨格筋および赤血球では活性は低い。ASTは肝臓 以外の心筋、骨格筋および赤血球でも活性が比較的高 く、筋組織の損傷や溶血によっても血中濃度が上昇する ことがある。細胞内分布としては、ALT は細胞質内に多く 含まれ、AST は細胞質のみではなく、ミトコンドリア内に も多く存在している。人医療では細胞質内 AST(sAST)と ミトコンドリア内 AST(mAST)を区別して測定し、mAST の上昇のみられる症例に関しては、より重篤な肝細胞傷 害が存在すると考えられている。またこれらの酵素は犬と 猫で半減期が異なっており、報告によって異なるが犬で はALTが40 ~ 60時間、ASTが12時間であるのに対 し、猫では ALT が 3.5 時 間、AST が 1.5 時 間と、いずれ の報告でも猫の半減期は犬の1/5 ~ 1/10と短いとされ ている。すなわち犬の ALT・ASTより猫の方が血中より 5 ~ 10 倍のスピードで減少していくということであり、犬 と猫の肝酵素を同じ土俵の上で評価をしてはいけない。 また猫では重篤な肝細胞傷害がみられた場合、肝酵素 の合成の低下により肝酵素が上昇しないことがあり、逸 脱酵素の上昇の程度と肝細胞傷害の程度が必ずしも相 関しない。また半減期は治療効果をモニターするのにも 覚えておく必要がある。例えば交通事故などによる肝細 胞膜の一過性の透過性の亢進では、肝酵素の著しい上 昇がみられることがある。重篤な肝疾患がなければ、それ 以降の肝酵素の逸脱はみられないはずであり、半減期に 従い犬では2 ~ 3日以内、猫では1日程度で肝酵素が 半分以下に減少するはずである。また肝酵素の減少がみ られないようであれば、それ以降も肝酵素が逸脱し続け ているということであり、何らかの肝細胞傷害が存在する と考えるべきである。またALTとASTでも半減期が異 なっており、犬の肝臓はALTとASTの活性が同程度で あるため、肝疾患で半減期の短いASTがALTの値を上 回ることはなく、逆転がみられる場合は溶血や筋疾患を 考える必要がある。猫の肝臓では AST の活性が高いとも 報告されており、肝リピドーシス、重篤な炎症性肝疾患 および造血器腫瘍などの急性の肝細胞障害がみられる 症例では、ALTとAST の逆転がみられることがある。人 では肝疾患の腫瘤により、ALTとAST の割合が異なるこ とが知られているが、犬猫ではあまり詳しくわかっていな い。ステロイド性肝障害では細胞質内にグリコーゲンの 貯留による膜の透過性の亢進により、ALT のみが上昇す ることが多く、重篤な肝細胞傷害を伴う場合、AST の上 昇がみられるようになる。一方、肝リピドーシスでは初期 からALTとAST の両者が高値を示すことが多い。 肝臓が悪いかどうかのスクリーニング検査として行う場 合は、ALT のみの測定で十分であるが、肝臓の病態を把 握するためには、両者を測定する必要がある。このように 逸脱の半減期や細胞内分布などを考慮することにより、 単なる高い低いという以上に臨床的に重要な情報が手に 入る可能性があると考えられる。 IDEXX Diagnostic Tips アイデックス お役立ち情報 2014年発行 No.25

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アイデックス ラボラトリーズ株式会社〒168-0063 東京都杉並区和泉1-22-19

0120-71-4921 FAX:0120-71-3922 www.idexx.co.jp

IDEXX Diagnostic Tips のバックナンバーは、「IDEXX お客様専用サイト*(www.idexxjp.com)」で閲覧いただけます。*公式アドレスとは別アドレスとなります。*閲覧にはユーザー登録が必要です。アイデックスラボラトリーズの院内検査機器、 院内検査キット、または外注検査サービスのいずれか1つ以上の製品またはサービスを 現在ご利用の方のみ、ご登録可能となっております。

アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)平田 雅彦 先生 (IDEXX診断医)

 犬猫の肝臓の評価を行う際に、種々の血液化学検査

の項目が挙げられるが、特に肝細胞傷害の指標となるの

がALTとASTである。肝酵素を評価する上で重要なこと

は、その酵素が上昇する機序、臓器特異性及び半減期

である。ALPやGGTは胆管に胆汁がうっ滞することに

よって合成が亢進することから合成酵素や誘導酵素と呼

ばれるのに対し、ALTやASTは膜の透過性の亢進、変

性および壊死などを起こした肝細胞から漏出することから

逸脱酵素と呼ばれている。臓器特異性に関しては、ALT

やASTとも肝臓、心筋、骨格筋、赤血球など様々な臓器

に存在している。ただしその活性の程度が異なっており、

その臓器の障害により血中濃度に影響を与える場合と与

えない場合がある。ALTは肝臓で最も活性が高く、心

筋、骨格筋および赤血球では活性は低い。ASTは肝臓

以外の心筋、骨格筋および赤血球でも活性が比較的高

く、筋組織の損傷や溶血によっても血中濃度が上昇する

ことがある。細胞内分布としては、ALTは細胞質内に多く

含まれ、ASTは細胞質のみではなく、ミトコンドリア内に

も多く存在している。人医療では細胞質内AST(sAST)と

ミトコンドリア内AST(mAST)を区別して測定し、mAST

の上昇のみられる症例に関しては、より重篤な肝細胞傷

害が存在すると考えられている。またこれらの酵素は犬と

猫で半減期が異なっており、報告によって異なるが犬で

はALTが40 ~ 60時間、ASTが12時間であるのに対

し、猫ではALTが3.5時間、ASTが1.5時間と、いずれ

の報告でも猫の半減期は犬の1/5 ~ 1/10と短いとされ

ている。すなわち犬のALT・ASTより猫の方が血中より

5~ 10倍のスピードで減少していくということであり、犬

と猫の肝酵素を同じ土俵の上で評価をしてはいけない。

また猫では重篤な肝細胞傷害がみられた場合、肝酵素

の合成の低下により肝酵素が上昇しないことがあり、逸

脱酵素の上昇の程度と肝細胞傷害の程度が必ずしも相

関しない。また半減期は治療効果をモニターするのにも

覚えておく必要がある。例えば交通事故などによる肝細

胞膜の一過性の透過性の亢進では、肝酵素の著しい上

昇がみられることがある。重篤な肝疾患がなければ、それ

以降の肝酵素の逸脱はみられないはずであり、半減期に

従い犬では2~ 3日以内、猫では1日程度で肝酵素が

半分以下に減少するはずである。また肝酵素の減少がみ

られないようであれば、それ以降も肝酵素が逸脱し続け

ているということであり、何らかの肝細胞傷害が存在する

と考えるべきである。またALTとASTでも半減期が異

なっており、犬の肝臓はALTとASTの活性が同程度で

あるため、肝疾患で半減期の短いASTがALTの値を上

回ることはなく、逆転がみられる場合は溶血や筋疾患を

考える必要がある。猫の肝臓ではASTの活性が高いとも

報告されており、肝リピドーシス、重篤な炎症性肝疾患

および造血器腫瘍などの急性の肝細胞障害がみられる

症例では、ALTとASTの逆転がみられることがある。人

では肝疾患の腫瘤により、ALTとASTの割合が異なるこ

とが知られているが、犬猫ではあまり詳しくわかっていな

い。ステロイド性肝障害では細胞質内にグリコーゲンの

貯留による膜の透過性の亢進により、ALTのみが上昇す

ることが多く、重篤な肝細胞傷害を伴う場合、ASTの上

昇がみられるようになる。一方、肝リピドーシスでは初期

からALTとASTの両者が高値を示すことが多い。

 肝臓が悪いかどうかのスクリーニング検査として行う場

合は、ALTのみの測定で十分であるが、肝臓の病態を把

握するためには、両者を測定する必要がある。このように

逸脱の半減期や細胞内分布などを考慮することにより、

単なる高い低いという以上に臨床的に重要な情報が手に

入る可能性があると考えられる。

IDEXX Diagnostic Tips アイデックス お役立ち情報2014年発行

No.25