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1 生物化学II 7.電子伝達と酸化的リン酸化 (18章) 2016/11/21)

生物化学II...ATP、ADP、ピルビン酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、 Ca2+、P i などはトランスポーターで通過 その他の物質移動は制限され、

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生物化学II

7.電子伝達と酸化的リン酸化 (18章)  (2016/11/21)

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グルコースの完全酸化   C6H12O6 + O2 → 6CO2 + 6H2O 細胞内では2分割して実施する 1.解糖とクエン酸サイクルで   C6H12O6 + 6H2O → 6CO2 + 24H

+ + 24e-

2.電子伝達系で   6O2 + 24H

+ + 24e- → 12H2O

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解糖とクエン酸サイクルで生じた 電子(24e-)とプロトン(24H+)は NAD+とFADを還元して10NADH、2FADH2となり ミトコンドリア内膜の電子伝達系に移動 電子伝達では 1.NADHとFADH2から電子を移動   (NAD+とFADに再酸化) 2.酵素複合体を通して   O2をH2Oに還元 3.プロトンの移動による   化学勾配を用いて   酸化的リン酸化でATPを合成

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真核細胞内のエネルギー産生機関 外膜で細胞質から仕切られ、 内膜でマトリクスと膜間部に区切られる 内膜はクリステを形成し表面積を増やしている

18.1 ミトコンドリア

外膜

内膜

膜間部

マトリクス

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A.内膜 マトリクス  ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、  クエン酸サイクル酵素などを含む  ミトコンドリア独自のDNA、RNA、リボソームも含む 内膜  電子伝達系複合体、F1FO-ATPアーゼなどを持つ  マトリクスと膜間部のイオン拡散を制限して  プロトン濃度勾配を作る

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B.ミトコンドリア膜のトランスポーター 外膜  ポリンが存在し10kDa以下の分子は自由拡散する  膜間部の代謝産物などは細胞質と同じ 内膜  O2、CO2、H2Oのみが自由に透過  ATP、ADP、ピルビン酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、  Ca2+、Piなどはトランスポーターで通過  その他の物質移動は制限され、  内膜両側にはイオン濃度勾配が生じる

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NADH用のシャトル系 NADHのトランスポーターはない 解糖系でできたNADHは 電子のみをオキサロ酢酸を介した リンゴ酸-アスパラギン酸 シャトルで還元当量として移動 その他に グリセロリン酸シャトルもある

内膜 マトリクス 膜間部

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ATP/ADPトランスロケーター ATPをマトリクスから膜間へ ADPを膜間からマトリクスへ 交換輸送する H+濃度勾配で駆動される リン酸キャリア(Piトランスポーター) H+濃度で駆動されるシンポート

マトリクス

膜間部

ATP(4-)

ADP(3-)

内膜

H+濃度高い

コンフォメー ション変化

マトリクス

膜間部 Pi(-)

内膜

H+濃度高い

H(+)

-電荷を排出

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18.2 電子伝達 NADHをO2で酸化する場合  1/2O2 + NADH + H

+ → H2O + NAD+

NAD+ + H+ + 2e- → NADH E˚ = -0.315 V 1/2O2 + 2H

+ + 2e- →H2O E˚ = 0.815 V 1/2O2 + NADH + H

+ → H2O + NAD+ E˚ = 1.130 V

自由エネルギー変化は ΔG˚ = -218 kJ mol-1 NADH 1molあたり およそ2.5molのATPを合成する(76.3 kJ)ので 効率はおよそ35%

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電子伝達は ミトコンドリア内膜での 4複合体の反応 (複合体IIはクエン酸回路) NADHからH2Oまでの ΔE˚=1.13Vを 段階的に反応させる

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電子の移動 複合体I  NADHからCoQH2 複合体II  コハク酸(FADH2)からCoQH2 複合体III  CoQH2からCytc(Fe2+) 複合体IV  Cytc(Fe2+)からH2O

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C.複合体I(NADH-補酵素Qオキシドレダクターゼ) フラビンモノヌクレオチド (FMN)、 8〜9個の鉄硫黄クラスターを持ち 結合した補酵素Q(CoQ)を 還元しCoQH2にする

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1.NADHの電子をFMNに移動してFMNH2に還元 2.鉄硫黄クラスターに電子が移動   (Fe3+→Fe2+)還元 3.CoQに移動してCoQH2に還元 NADH + H+ + CoQ → NAD+ + CoQH2 H+を4個膜間に汲み出す

FMN→FMNH2

CoQ→CoQH2

鉄硫黄 クラスター

NADH

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B.複合体II(コハク酸-補酵素Qオキシドレダクターゼ) コハク酸デヒドロゲナーゼ(クエン酸サイクル酵素)、 FAD、鉄硫黄クラスター、シトクロムb-560を持ち、 CoQへ電子を受け渡す シトクロムはヘム(ポルフィリン誘導体)を持ち 中心のFeの酸化還元(Fe2+/Fe3+)で 電子を授受する

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1.コハク酸の電子をFADに   移動してFADH2に還元 2.鉄硫黄クラスターに移動   (Fe3+→Fe2+)還元 3.CoQに移動してCoQH2に還元 コハク酸 + CoQ → フマル酸 + CoQH2 (FADH2 + CoQ → FAD + CoQH2) 複合体IIはH+の汲み出しには関与しない 複合体I及びII由来のCoQH2は 膜内を拡散して 電子を複合体IIIに移動する

FAD→FADH2

CoQ→CoQH2

鉄硫黄 クラスター

コハク酸

Cytb

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C.複合体III (補酵素Q-シトクロムcオキシドレダクターゼ) シトクロムb、 鉄硫黄クラスター、 シトクロムc1を持ち CoQH2からシトクロムcへ 電子を受け渡す CoQH2の電子は Cyt bとCyt c1へ 二分されて流れ Qサイクルを形成する

CoQH2

Cyt c1

Cyt b

鉄硫黄 クラスター

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Qサイクル サイクル1  CoQH2(2e-キャリア)から  1e-はCyt c1へ(Fe3+→Fe2+)  1e-はCoQに戻る(CoQ-·) サイクル2  CoQH2(2e-キャリア)から  1e-はCyt c1へ(Fe3+→Fe2+)  1e-はCoQ-·に戻りCoQH2を再生 合計でCoQH2を2分子使用して  Cyt c12分子を生成し  CoQH21分子を再生し  4個のH+を膜間に汲み出す CoQH2 + 2Cyt c1(Fe

3+) + 2H+(マトリクス)

 → CoQ + 2Cyt c1(Fe2+) + 4H+(膜間)

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D.複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ) シトクロムa、a3、銅原子2箇所を持ち シトクロムcの電子をO2に受け渡す

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4 Cyt c(Fe2+) + 4H+ + O2 → 4 Cyt c(Fe3+) + 2 H2O 複合体内ではFe-Cu二核錯体と近隣のTyrが酸化還元に関与 この過程でさらに4個のH+を (NADH1個あたり2個のH+) 膜間に汲み出す

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電子伝達系まとめ NADH1個から複合体I、III、IVを通過すると  複合体I  NADH + H+ + CoQ → NAD+ + CoQH2 (4H+膜間へ)  複合体III CoQH2 + 2Cyt C(Fe

3+) + 2H+(マトリクス)

        → CoQ + 2Cyt C(Fe2+) + 4H+(膜間)

 複合体IV  2 Cyt c(Fe2+) + 2H+ + 1/2O2         → 2 Cyt C(Fe3+) + H2O (2H+膜間へ)  合計    NADH + H+ + 1/2O2 → NAD+ + H2O(10H+膜間へ) コハク酸(FADH2)1個から複合体II、III、IVを通過すると  複合体II コハク酸 + CoQ → フマル酸 + CoQH2  合計   コハク酸 + 1/2O2 → フマル酸 + H2O(6H+膜間へ)

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A.化学浸透説 電子伝達系の自由エネルギーを利用して膜間にH+に汲み出し 膜を挟んでH+濃度勾配を作成する(電気化学ポテンシャル) 電気化学ポテンシャルを利用してATPを合成する

18.3 酸化的リン酸化

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B.F1FO-ATPアーゼ(ATPシンターゼ)

F1成分とFO成分から構成されるATP合成酵素

F1成分 サブユニットα3β3γδε  から構成され擬3回対称を持つ  ATP合成、分解する FO成分  サブユニットab2c12(大腸菌)  から構成された膜貫通ユニット  H+を輸送する

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F1成分でのATPの合成 3組のαβは異なる3コンフォメーションを持つ  O(オープン) リガンド親和性が弱い  L(ルーズ)  リガンドと緩やかに結合  T(タイト)   リガンドと強く結合し、触媒活性を持つ 1)L部位に ADPと無機リン酸が結合 2)FO成分の回転由来のエネルギーが(γεを介して)入り   L→T、T→Oにコンフォメーション変化 3)T部位で酵素反応してATPができ、水がとれる   O部位のATPは外れる

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H+通過によるFO成分の回転 1)H+が膜間からaサブユニットに入り  cサブユニットに結合 2)cサブユニットがコンフォメーション変化して   aサブユニットを押して回転 3)120度分ひずみがたまると   γεが回転してエネルギーを伝える 4)H+が一周するとaサブユニットから   マトリクス側へH+を放出

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酸化的リン酸化によるATP合成数 1個のATP合成にはおよそ4個のH+が必要   NADH (10H+)から約2.5個ATP   FADH2 (6H+)から約1.5個ATP

アセチルCoA1個でクエン酸サイクルから   NADH (3分子)から約7.5個ATP   FADH2 (1分子)から約1.5個ATP   GTP(1分子)=1個ATP  合計 約10個ATP グルコース1個からでは   解糖  NADH (2分子)から約5個ATP、2個ATP   アセチルCoA合成 (2分子)  NADH (2分子)から約5個ATP   クエン酸回路  約10個ATP×2=約20個ATP   合計  約32個ATP

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A.ATPとNADH濃度による制御 電子伝達系はNADH→Cyt c(複合体I〜III)はほぼ平衡で シトクロムcオキシダーゼ(複合体IV)不可逆 シトクロムcオキシダーゼが制御点  Cyt C濃度で制御  = [NADH]/[NAD+]比、[ATP]/[ADP]比が関与

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18.4 酸化的代謝の制御

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解糖とクエン酸サイクルの制御 ATP/ADPやNADH/NAD+比で制御 クエン酸によるPFKの制御  ミトコンドリア内の余剰なクエン酸は  細胞質に輸送されてPFKを阻害する

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B.好気代謝と嫌気代謝 嫌気代謝  C6H12O6 + 2ADP + 2Pi → 2乳酸 + 2H+ + 2H2O + 2ATP 好気代謝  C6H12O6 + 32ADP + 32Pi + 6O2→ 6CO2 + 38H2O + 32ATP 好気代謝は嫌気代謝よりも16倍効率が良い しかし、好気代謝の場合 シトクロムcオキシダーゼでのO2還元が不十分だと 活性酸素種(ROS、O2

-•など)ができ、 他の生体分子が酸化され細胞機能が障害される スーパーオキシドディスムターゼとカタラーゼで 除去する機構がある