1
©日本証券アナリスト協会 2013 87 1.はじめに ベンチャー・キャピタル(以下、VC)が行う 投資手法のつに、シンジケート投資とよばれる ものがある。シンジケート投資とは、VCなどの 投資家がベンチャー企業に投資する際、単独では なく複数で協同して投資する手法のことを指す。 VCによる企業への投資は、新規株式公開(以下、 IPO)までの間、複数回行われるのが一般的であ るため、VCが投資を行うたび(=ラウンドと称 する)にシンジケーションが組成されることにな る。学術的な観点からは、VCのシンジケート投 資が投資先企業の育成やIPO時のパフォーマンス にどのような影響を及ぼすのか、また、シンジケ ーションそのものがどのような目的の元に組成さ れるのかといった点をめぐって欧米を中心に複数 の研究が存在している。 例えば、Lerner 1994]は、最初に投資する VC(リードVC)とその案件に参加しようとして いる他のVCによる投資先企業の二重チェックの 重要性について、米国のVC投資データで検証を 行った。実証分析の結果、VCによるシンジケー ションが組成される理由は、リードVCが投資先 企業を選択する際、他のVCにセカンドオピニオ 本稿では、ベンチャー・キャピタル(VC)のシンジケーション組成理由を実証的に明らかにする。具体的には、 日本のIPO企業へのVC投資データから、シンジケーション組成の有無ならびに投資時のVC数が投資リターン に与える影響を検証する。実証分析の結果、わが国におけるVCのシンジケーション組成理由は、投資案件のセ レクションの過程で、第三者の立場から他のVCにセカンドオピニオンを求める点にあることが明らかとなった。 .はじめに .仮説の設定と推計モデル .サンプルと基本統計量 .分析結果 .結論と課題 論 文 ベンチャー・キャピタル(VC)の シンジケーション組成理由についての実証分析 圭一朗 幸田 圭一朗(こうだ けいいちろう) 2009年立命館大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。修士(経営学)。同年より立命館大学大学院経営学研究科博士課程後期課程在学中。京都学園大学経営学部非常 勤講師。NPO法人Japan Venture Research理事。

ベンチャー・キャピタル(VC)の シンジケーショ …©日本証券アナリスト協会 2013 87 1.はじめに ベンチャー・キャピタル(以下、VC)が行う

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ベンチャー・キャピタル(VC)の シンジケーショ …©日本証券アナリスト協会 2013 87 1.はじめに ベンチャー・キャピタル(以下、VC)が行う

©日本証券アナリスト協会 2013� 87

1. はじめに

 ベンチャー・キャピタル(以下、VC)が行う

投資手法の1つに、シンジケート投資とよばれる

ものがある。シンジケート投資とは、VCなどの

投資家がベンチャー企業に投資する際、単独では

なく複数で協同して投資する手法のことを指す。

VCによる企業への投資は、新規株式公開(以下、

IPO)までの間、複数回行われるのが一般的であ

るため、VCが投資を行うたび(=ラウンドと称

する)にシンジケーションが組成されることにな

る。学術的な観点からは、VCのシンジケート投

資が投資先企業の育成やIPO時のパフォーマンス

にどのような影響を及ぼすのか、また、シンジケ

ーションそのものがどのような目的の元に組成さ

れるのかといった点をめぐって欧米を中心に複数

の研究が存在している。

 例えば、Lerner [1994]は、最初に投資する

VC(リードVC)とその案件に参加しようとして

いる他のVCによる投資先企業の二重チェックの

重要性について、米国のVC投資データで検証を

行った。実証分析の結果、VCによるシンジケー

ションが組成される理由は、リードVCが投資先

企業を選択する際、他のVCにセカンドオピニオ

 本稿では、ベンチャー・キャピタル(VC)のシンジケーション組成理由を実証的に明らかにする。具体的には、

日本のIPO企業へのVC投資データから、シンジケーション組成の有無ならびに投資時のVC数が投資リターン

に与える影響を検証する。実証分析の結果、わが国におけるVCのシンジケーション組成理由は、投資案件のセ

レクションの過程で、第三者の立場から他のVCにセカンドオピニオンを求める点にあることが明らかとなった。

1.はじめに

2.仮説の設定と推計モデル

3.サンプルと基本統計量

4.分析結果

5.結論と課題

目 次

論 文

論 文

ベンチャー・キャピタル(VC)のシンジケーション組成理由についての実証分析

幸 田 圭一朗

幸田 圭一朗(こうだ けいいちろう)

2009年立命館大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。修士(経営学)。同年4月

より立命館大学大学院経営学研究科博士課程後期課程在学中。京都学園大学経営学部非常

勤講師。NPO法人Japan Venture Research理事。