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第1回 海のフィールドワーク・平安座島(4月19日実施) サングヮチャー 三月三日は、浜下りとヨモギ餅をつくる風習を伴っていた平安座の最大の行事である。 いわゆる上巳の節句(じょうし)である。 上巳とは、五節句のひとつ。陰暦3月初めの巳(み)の日、後に3月3日に 主に女児の祝う節句で、雛(ひな)祭りをする。宮中では、この日、曲水の宴を張った。 桃の節句、雛の節句、三月節句、重三(ちょうさん)ともいう。 五節句とは、正月7日(人日)、3月3日(上巳)、5月5日 (端午)、7月7日(七夕)、9月9日(重陽)、の5節句のこと。 浜下り、とくに女子は、浜下りをして禊(みそぎ)をするという観念である。 浜下りには、次のような言い伝えがある。 昔、ある家の娘のところに夜な夜な美少年がかよってくるので、不審に思った家族が後を追ってみると、なんとこの美少年は、アカマターと呼ばれる蛇の化身で あった。 アカマターは、巣にもどると、とりこにしている娘の自慢をなかまにしたあげく、娘が浜の白砂をふむと胎内に宿した子は、流れ出してしまうと話す。 これを聞きつけた娘の家族は、大急ぎで娘を浜に 連れ出し、見事けがれのない元の身体にもどすというものである。 この伝説には、浜の白砂をふむことにより、けがれを清めるという民間信仰がふくまれている。海辺の白砂は、清浄なものであり、けがれを落とすものだという信仰は、祭りの広場によく白砂をしいたりする ことでも知ることができる。 浜下りの慣行は、この日のみならず、家庭内になんらかの不吉な知らせがあれば浜下りをすることによって、息災を保つという習俗である。 旧暦3月3日から5日までの三日間行われる三月行事は、平安座の最大の行事である。 この期間、麦粉の平焼き三月ポーポーが食卓をにぎわす、よそに見られぬ平安座の名産である。 サングヮチャー初日神人たちが野呂殿内の火の神の前で杯を交わしながら次のように歌い、今日から三月節句であることを告げる。 くとぅし さんぐゎちや はちばちどぅ やゆる やいぬ さんぐゎちや ちゃわんうさき (今年の三月節句はほどほどに 来年の三月節句は華やかに過ごしましょう) 部落としては、自治会役職員を中心に区民が酒肴携帯(酒肴を持ち寄り)で、俗称ンマラシ浜通りで祝宴を張ったが、昭和58年から今の自治会館に場所を替えた。 一方、女性達は、神人達を中心に2,3 0人の女性達がミーサチ商店前路上に集結して太鼓を打ち鳴らしサングヮチアシビを楽しんだが、今は、男女ひとつになった。 ドーグマチー旧暦3月3日(初日)の朝、ドーグマチーがある。 ドーグマチーとは、龍宮祭りであるとの伝承があることから「リュウグウマツリ」「ドウ―グウーマチー」「ドーグマチー」と訛ったものだろうと思う。こ の祭りは、海難事故で死亡した身内の者のための慰霊祭で33年忌が済んでも永代につづけられる。それぞれが島の海岸で海難の方角へ向かって行う。供え物は、菓子、魚を入れた重箱一対とお茶、酒、 白紙二枚、ウッチカビであり、カビアンジの行事である。この一年以内に新仏を出した家へは、親戚から一皿のご馳走が供えられる。

海のフィールドワーク・平安座島(4月19日実施) · 三月三日は、浜下りとヨモギ餅をつくる風習を伴っていた平安座の最大の行事である。

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Page 1: 海のフィールドワーク・平安座島(4月19日実施) · 三月三日は、浜下りとヨモギ餅をつくる風習を伴っていた平安座の最大の行事である。

第1回 海のフィールドワーク・平安座島(4月19日実施)

サングヮチャー

三月三日は、浜下りとヨモギ餅をつくる風習を伴っていた平安座の最大の行事である。 いわゆる上巳の節句(じょうし)である。 上巳とは、五節句のひとつ。陰暦3月初めの巳(み)の日、後に3月3日に

主に女児の祝う節句で、雛(ひな)祭りをする。宮中では、この日、曲水の宴を張った。 桃の節句、雛の節句、三月節句、重三(ちょうさん)ともいう。 五節句とは、正月7日(人日)、3月3日(上巳)、5月5日

(端午)、7月7日(七夕)、9月9日(重陽)、の5節句のこと。 浜下り、とくに女子は、浜下りをして禊(みそぎ)をするという観念である。

浜下りには、次のような言い伝えがある。 昔、ある家の娘のところに夜な夜な美少年がかよってくるので、不審に思った家族が後を追ってみると、なんとこの美少年は、アカマターと呼ばれる蛇の化身で

あった。 アカマターは、巣にもどると、とりこにしている娘の自慢をなかまにしたあげく、娘が浜の白砂をふむと胎内に宿した子は、流れ出してしまうと話す。 これを聞きつけた娘の家族は、大急ぎで娘を浜に

連れ出し、見事けがれのない元の身体にもどすというものである。

この伝説には、浜の白砂をふむことにより、けがれを清めるという民間信仰がふくまれている。海辺の白砂は、清浄なものであり、けがれを落とすものだという信仰は、祭りの広場によく白砂をしいたりする

ことでも知ることができる。 浜下りの慣行は、この日のみならず、家庭内になんらかの不吉な知らせがあれば浜下りをすることによって、息災を保つという習俗である。

旧暦3月3日から5日までの三日間行われる三月行事は、平安座の最大の行事である。 この期間、麦粉の平焼き三月ポーポーが食卓をにぎわす、よそに見られぬ平安座の名産である。

サングヮチャー初日神人たちが野呂殿内の火の神の前で杯を交わしながら次のように歌い、今日から三月節句であることを告げる。

くとぅし さんぐゎちや はちばちどぅ やゆる やいぬ さんぐゎちや ちゃわんうさき

(今年の三月節句はほどほどに 来年の三月節句は華やかに過ごしましょう)

部落としては、自治会役職員を中心に区民が酒肴携帯(酒肴を持ち寄り)で、俗称ンマラシ浜通りで祝宴を張ったが、昭和58年から今の自治会館に場所を替えた。 一方、女性達は、神人達を中心に2,3

0人の女性達がミーサチ商店前路上に集結して太鼓を打ち鳴らしサングヮチアシビを楽しんだが、今は、男女ひとつになった。 ドーグマチー旧暦3月3日(初日)の朝、ドーグマチーがある。 ドーグマチーとは、龍宮祭りであるとの伝承があることから「リュウグウマツリ」「ドウ―グウーマチー」「ドーグマチー」と訛ったものだろうと思う。こ

の祭りは、海難事故で死亡した身内の者のための慰霊祭で33年忌が済んでも永代につづけられる。それぞれが島の海岸で海難の方角へ向かって行う。供え物は、菓子、魚を入れた重箱一対とお茶、酒、

白紙二枚、ウッチカビであり、カビアンジの行事である。この一年以内に新仏を出した家へは、親戚から一皿のご馳走が供えられる。

Page 2: 海のフィールドワーク・平安座島(4月19日実施) · 三月三日は、浜下りとヨモギ餅をつくる風習を伴っていた平安座の最大の行事である。

トゥダヌイューとナンザ拝み

いじゆきや なじゆきや にらやぐむい かなやぐむい まくぶいゆや しいなふゆい

たまみいゆや すぃまちゅい しらーちなや うちへりわ ゆしてぃくうわ うふあみし

うちうすてぃ うふとぅだし ちちんきわあ ぬちんきわあ まがさーしや ぬしがにどぅ

ながさしや ぬるがにどぅ

(ニライ海 カナイの海 マクブ魚は砂を掘って隠れる タマン魚は 渦を巻くように群れを成す白網を大きく張れ 一心にひけ 取り込み網ですくいあげよ 大銛を打ち込んで

突き捕獲せよ 大型のマクブは ノロ様にさしあげよう 美味なるタマンは ノロ様にさしあげよう)

トゥダヌイュー

旧暦3月4日(二日目)トゥダヌイューとナンザ拝みが行われる。浜下り、ドーグマチーは、3月3日のみで終わり、

部落は4日、5日と行事は続く。 特に、女性神人たちの女性グループでは、4日、魚を銛(もり)で突き刺す儀式が

ある。 この行事のことをトゥダヌイューと称している。 漁業者がかねて準備してある魚をまな板の上にのせて行

う。他の婦人たちは、太鼓、手 拍子を歌にあわせてはやしたてる。歌は次のように歌う。

トゥダヌイユーがすむと「ナンザ拝み」がある。かっては隔年毎に行われていた「ナンザ拝み」だったが、いまは、毎

年実施されている。 自治会関係諸団体が揃い、島の東にある「ナンザ」と称する岩礁に行き、「太平洋に棲む魚群に

向かい、平安座に押し寄せてくれと、大漁豊漁の祈願をして帰る。 「ナンザ拝み」から帰るころになると、神人と村人

が浜に下り、三味線、太鼓、を打ち鳴らし、三月旗をあげて歌い踊り「ナンザ帰り」を迎える。 手ぬぐいや仮面、それ

ぞれの仮装をこらし部落内を練り歩く。魚みこし、土人、シーシーパクパクと盛り上がり、夜の宴も遅くまで続く。

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ナンザ拝み

チナアギモーイ

旧暦3月5日(三日目)綱あぎ舞い(チナアギモーイ) 三日目には、漁民の綱あぎ舞いがある。東西の漁業団体が、それぞれ東から西から、三味線、太鼓にあ

わせて歌いながら進行してくるのを、区民が浜に下りて迎える。 綱あぎとは、網あぎのことだろう。東西の漁民と出迎えの区民が俗称ンマラシバマ で合流しンマ

ラシバマ通りで祝宴を張る。最近は、簡素化され初日同様、自治会館で祝宴がもたれている。3日から5日の一連の行事をサングヮチャーと総称され平安座最大の

行事で、それは海国にふさわしい。(文:下條義明)

(平安座自治会の HPより)

自治会への依頼文(2018.4.13.)

那覇にある珊瑚舎スコーレの校長をしている星野人史と申します。

旧暦3月3日~5日に行われる「さんぐゎちゃー」の見学についてお尋ねいたします。珊瑚舎スコーレ(主に夜間中学校)は東京大学教育学部付属中等学校と20

11年から交流を続けています。去年は宮古島市立池間小中学校も参加して3校が提携し、海洋教育プロジェクトである「海のパイオニア プログラム・デザイン」

というカリキュラムと教材作りのプロジェクトを完成させました。今年度は東大付属中等学校と2校でさらに充実した内容作りを目指し、「祈りと豊饒の海」をテー

マにしたプロジェクトに取り組みます。そのためのフィールドワークの一つとして平安座の「サングヮチャー」の見学を企画しました。4日に行われる「トゥダヌ

イュー」と「ナンザモーイ」を見学させて頂きたいと思っています。皆様お忙しいのは重々承知しておりますが、終了後短い時間で結構ですので、公民館などで平

安座のお年寄りから「サングヮチャー」についてお話を伺う機会を作ってはいただけないでしょうか。珊瑚舎スコーレからは夜間中学校の生徒と昼間の生徒(小中高

生)や講師など35名前後が参加する予定です。お忙しいところ不躾なお願いで心苦しいのですが、ご検討頂ければありがたいです。どうぞ、よろしくお願いいたし

ます。

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第2回 海のフィールドワーク・塩谷のウンジャミ(9月4日実施)

海のフィールドワーク、4月の平安座島の「サングヮチヤー」見学に続く第二弾として、大宜味村塩屋のウンジャミ(海神祭)の見学に出かけ

ました。初等部・中等部・高等部と夜間中学校の生徒合同でバスに乗って行きました。

ウンジャミは旧暦七月の盆前後に沖縄本島北部を中心に行われる行事で、国の重要無形文化財に指定されています。ニライカナイから豊饒や幸

福をもたらす来訪神を迎えて、以後一年間の豊饒と幸福・健康を祈願し感謝するという儀礼です。

神アサギでの儀礼。衣装をまとったカミンチュ。(ノロはアサギの中にいます。)上にはクムという藁で編んだ日よけ。各部落で割り当てて製

作するそうです。芭蕉の葉が敷かれ、神人がそれぞれ決まった席に座ります。シマンホー(神人の護衛)が神人に米と酒・杯を供えて回ります。

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ハーリー。塩屋・屋古・田港の集落ごとに三艘が同時に出発し、塩屋の浜までの約 800mを競います。ゴールとなる塩屋の浜では各集落の婦人たちが、ハーリーの到着を海に入り、太鼓を打ち鳴らして歌い、踊りながら声援を送り、神様の到着を待ちます。

スタートした 3艘のうち 2艘は浸水で沈んでしまいました。浜では女性たちが声援を送っています。 この祭りはどんなに天気が悪くでも行われてきたそうです(台風が直撃した年も、ハーリーのみ中止して祭祀は執り行われました)。だからこそ 4~500年前からの古い形式を守りながら今日まで続いている、とのことでした。講師の竹茂さんが言うように、昔に思いを馳せながらウンジャミを見学できました。

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・慰霊の日 特別授業 2018

毎年、6月23日の慰霊の日は特設授業を行っています。今年度は、初等部・中等部・高等部と夜間中学校と合同で本島南部にフィールドワークに出かけました。

魂魄の塔 参拝する方々

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魂魄の塔では高等部の生徒2名がガイドしました。昨年、読谷の戦跡

ガイドに挑戦した彼らは、より沖縄戦の実態が伝わるようにと調べた

内容をもとに自作の紙芝居をつくりました。

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その後、夜間中学校の方に戦中戦後・そして

現在の沖縄について、お話を聞きました。

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・子どもの頃はどんな遊びをしていましたか?

疎開先ではどんな生活でしたか?

・食料が十分にない時によく食べていたのは?

・歯磨きはどうしていたのですか?

・基地がありヘリ墜落など事件の続くいまの沖縄

をどう見てますか?

・最近うれしかったことは何ですか? など

生徒は事前に夜間中学校生徒の聞き書きを読んで 20 ほどの質問を準備しました。

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昼間の生徒の感想を一つ紹介します。

ガイド役の高等部の生徒の話を聞きながら涙を拭っていた夜間中学

校の方は、笑いながら子どもの頃の遊びや食べ物の話を昼間の生徒

に伝えていました。最後の質問には異口同音に「学校に通うことが

うれしい」と話していました。その意味をより重く・鮮明に受け止

める一日となりました。

いろんな歴史から逃げないで、または通り過ぎないで、向き合って、

考えて、また来年の慰霊の日を迎えたいと思う。戦争も体験してい

ない。その後のつらい時代のこともわからない。でも思いをはせる

ことならできると思う。そのために学びたい、考えたいと強く思っ

た。

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具志頭の浜を散策しました。

海ノート

戦禍で一木一草もない、との証言が残る丘は色濃

い緑に覆われていました。