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札幌太田病院 内部研修 27年1月21日
介護老人保健施設 セージュ山の手
高齢者部門統括顧問 吉岡康子
コンプライアンス(法令遵守)
~認知症の人の権利擁護~
• 高知県いの町で姑の手足をしばり、死亡させた介護士逮捕される• 午後11時おむつ介助をしようとして暴れたため、手足を粘着テープで縛り翌朝職場にそのままでかけ、その夜息子に発見され死亡を確認す
る
おむつ替え、
暴れた姑を縛る
家庭内の虐待(平成24年度厚労省調査結果)
・相談・通報総数 1,750市町村 23,843件
※前年度比1,793件(7.0%)減
・虐待を受けた(思われる)件数 15,202件
※前年度比1,397件(8.4%)減
・虐待による死亡 27人
(ネグレクト10人、ネグレクト以外4人、殺人及び心中11人、その他2人)
・息子、夫が全体の6割
・身体的虐待が6割強で経済的虐待が増加傾向
施設内の虐待
• 兵庫県 有料老人ホーム
• 介護福祉士3名を暴行容疑で逮捕
• 入所者の家族が居室にビデオカメラを設置、隠し取りをして実態があきらかに
• 女性の顔を平手打ち、「殺すぞ」
• 携帯しながら洋服を片手で着せる
• ベッドから落として骨折
平成24年2月14日 読売新聞より
施設内の虐待(平成24年度厚労省調査結果)
「全国」
・相談・通報総数 736件 155件(事実)
※前年度比49件(7.1%)増
「全道」
・相談・通報総数 44件 5件(事実)
※前年度比3件(7.3%)増
施設内の虐待(平成24年度厚労省調査結果)
・通報者は施設職員、ケアマネ、家族
・特養、グループホーム、老健の順
・女性で認知症高齢者(80以上)への虐待
・身体的虐待 5割 心理的虐待 4割
・性的虐待が急増
・介護職員が7割
・施設長、管理者、開設者が急増
本日学んでほしいこと
・人権擁護の観点から虐待、拘束、成年
後見制度の内容とその対応を理解する
高齢者の3大事故
転 倒
誤 嚥転 落
9割が認知症
感染
行方不明
誤薬
交通事故
火傷外傷
認知症のひとのリスク
中核症状や、周辺症状によりリスクを回避
できないことによりおこる危険性
行動の制限や身体拘束、虐待の危険性
身体的リスク・・・身体機能低下
精神的リスク・・・不安やストレスによるBPSD
社会的リスク・・・無理解や偏見による権利侵害
認知症のひとは、さまざまなリスク(身体的、精神
的、社会的)を背負っているために権利の侵害を受
けやすく、利用者に関わっている全てのひとが、尊
厳を守るために、その権利を擁護していく方法を学
び実践していくこと
認知症の人の権利擁護
介護側の
パターナリズム
(父権的温情主義)
利用者の
自己決定権の尊重
(本人の意思)
もしもあなたが認知症になり太田病院を利用することになったな
ら
• 私らしい生活ができますか?• あなたの権利が守られますか?
・嫌われたくないので何も言えない
・介護される立場なので我慢する
・自分の思いが伝えられない
・してほしいことがわかってくれない
・イライラして逃げ出したくなる権利とは
あなたにとって権利とは?
権利とは
権利の尊重
• 意思に反して干渉されない権利• 見て欲しくないことを見られない権利• 知って欲しくないことを知られない権利• 羞恥心を刺激する態度、言動を受けない権利
生きることの権利
どのような状態になっても
それぞれの尊厳が保たれ
「自分らしく生きる」ことができること
利用者理解のアセスメント
権利擁護の視点①
• 21世紀は「人権の世紀」 1)基本的人権の尊重
・ノーマライゼーションと生活の継続性
・残存能力の活用
・自己決定権の尊重
2)安全の確保
リスクマネジメントの必要性
3)人間らしい生き方の尊重
・人間関係におけるパートナーシップ
共有し対等な関係
・自由の権利の保障とプライバシーの保護
・アドボガシー(代弁者)
利用者主体の権利擁護
・自己実現、自立支援にむけた環境づくり
・個人の生き方の尊重
権利擁護の視点②
権利擁護の概念
個人の尊厳と自己決定が尊重された生存権の保障
憲法13条(幸福追求権)憲法第25条(生存権)
法律では
ケアの現場では
その人が、その人らしく生きることができるように生活の継続を支援すること
権利を擁護するいくつかの制度
権利擁護
日本国
憲法
身体拘束
禁止
安全配慮
義務
高齢者
虐待防止法
日常生活自立
支援事業
成年後
見制度
情報開示
オンブズマン
苦情解決
精神上の障害によって判断能力が十分でない方
について家庭裁判所に申し立てを行い、本人を
援助する成年後見人等を選任して、法的な権限
を与えて、本人の代わりに法律行為を行うことが
できるようにする制度
理 念
1 自己決定の尊重
2 残存機能の活用
3 ノーマライゼーション
成年後見制度
成年後見制度の種類
★法定後見(判断能力がない、不十分)
類 型 判断能力の程度
後 見 日常的な買い物もできない
日常的な事柄がわからない
植物状態にあるなどHDS 10点以下
輔 佐 日常的な買い物は自分でできるが重要な財産行為は自分でできない 11~
15点
補 助 重要な財産行為について自分でできるかもしれないが、できるかどうか危惧
される 16点以上
★任意後見(将来判断能力が低下した時に備えて)
後見人の業務内容
• 同意権・取消権・代理権• 財産管理と身上監護
財産、支払い等全ての金銭管理
施設の入退所、処遇の監視、異議申し立て
介護・生活維持・教育・リハビリなど
◎本人の意思の尊重と本人の身上への配慮義務
日常生活自立支援事業
• 対象者⇒
判断能力が不十分で必要なサービスを利用するため
の情報の入手、理解、判断、意思表示を適切に行う
事が困難であること
利用契約を締結する能力を有すること
・支援の内容⇒
福祉サービスの利用援助
日常的金銭管理・書類等の預かりサービス
身体拘束禁止(1999年3月)
「指定介護老人福祉施設は当該入所者または他の入所者等の生命または身体を
保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束その他入所者の行動を
制限する行為を行ってはならない」
指定介護老人福祉施設サービスの取扱方針第12条第4項
1.切迫性(本人や他の入所者等の生命・身体
が危険にさらされる危険性が著しく高い)
2.非代替性(身体拘束その他の行動制限を行
う以外に代わりになる介護方法がない)
3.一時性(身体拘束その他の行動制限が一時
的なものである)
緊急やむを得ない場合とは
例外3原則
身体的拘束(4つのロック)
• スピーチロック →だめ、待って等の言葉
• フィジカルロック →縛る、柵、鍵
• ドラッグロック →薬物で制限 過剰投与
• タイムロック →管理的な関わりで制限
強制的なプログラム
規則がらみ
慎重な手続きを踏むこと
1.例外3原則の確認等の手続きを「身体拘束廃止
委員会」等のチームで行い記録する
2.本人や家族に、目的・理由・時間(帯)・期間等を
出来る限り詳しく説明し十分な理解を得る
3.状況をよく観察・検討し、要件に該当しなくな
った場合はすみやかに身体拘束を解除する
身体拘束等を行う場合はその態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに
緊急やむを得ない理由を記録しなければならない(基準)
緊急やむを得ない場合以外の身体拘束は
原則すべて高齢者虐待に該当する
慎重な手続きを踏むこと
高齢者虐待防止・養護者支援法
• 高齢者虐待の定義
高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命・健
康・生活が損なわれるような状態におかれること
• 施設や事業所の職員による虐待も対象
• 市町村が虐待防止の主たる担い手
• 通報の義務化
• 守秘義務
• 不利益取り扱いの禁止
• 養護者(介護者)支援の視点
高 齢 者 虐 待 の 定 義
身体的虐待 身体に外傷が生じ又は生じるおそれのある暴力を加えること
ネグレクト
衰弱させるような著しい減食、長時間の放置/(養護者)同居人の虐待行
為の放置等養護を著しく怠る/(従事者)職務上の義務を著しく怠る
心理的虐待
著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他著しい心理的外傷を与える
こと
性的虐待
わいせつな行為をすること又は高齢者にわいせつな行為をさせること
経済的虐待
財産を不当に処分することその他高齢者から不当に財産上の利益を得
ること
身体的虐待
①暴力的行為
・平手打ちする、つねる、殴る、ける
・ぶつかって転ばす
・刃物や器物で外傷を与える
・入浴時熱い湯やシャワーをかけてや
けどさせる
・本人にむけて物を投げつける
身体的虐待
②強制行為、乱暴に扱う行為
・ケアプランに位置づけられていず、身体的苦痛や病状悪化を招く行為を要求する
・介護しやすいように職員の都合でベッド等へ押さえつける
・車椅子やベッド等から移動させる際に必要以上に身体を高く持ち上げる
・食事の際に職員の都合で本人が拒否しているのに口に入れて食べさせるなど
①威嚇的な発言、態度
・怒鳴る、おどす
・「ここにいられなくしてやる」「追い出すぞ」等といい脅す
②侮辱的な発言、態度
・排泄の失敗や食べこぼしなど老化現象や其れに伴う言動などを嘲笑する
・日常的にからかったり「死ね」など侮蔑的なことを言う
・排泄介助の際臭い、汚いなどという
・子ども扱いするような呼称で呼ぶ
心理的虐待
③高齢者や家族の存在や行為を否定、無視する発言、態度
・「意味もなくコールを押さないで」「なんでこんなことができないの」などという
・他の利用者に高齢者や家族の悪口を言う
・話しかけ、ナースコールを無視する
・大切にしているものを乱暴に扱う、壊す、捨てる
・高齢者がしたくてもできないことを当てつけにやってみせる
心理的虐待
心理的虐待
④高齢者の意欲や自立心を低下させる行為
・トイレを使用できるのに職員の都合でオムツを使う
・自分で食事が出来るのに職員の都合で全介助する
⑤心理的に高齢者を不当に孤立させる行為
・家族に伝えて欲しいことも理由無く伝えない
・理由無く住所録を取り上げるなど外部との連絡を遮断する
・面会者が訪れても面会させない
⑥その他
・車椅子での移動の際に速いスピードで恐怖感を与える
・自分の信仰している宗教に加入するよう強制する
・入所者の顔に落書きをして、それをカメラで撮影し他の職員に見せる
・本人の意思に反した異性介助を繰り返す
・浴室脱衣所で異性の利用者を一緒に着替えさせたりする
心理的虐待
性的虐待
●本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為またはその強要
・性器などに接触したり、キス、性的行為を強要する
・性的な話を強要する
・猥褻な映像や写真を見せる
・本人を裸にする、または猥褻な行為をさせ、映像や写真に撮る、撮影したものを他人に見
せる
・排泄や介助がしやすいという目的で下半身を裸にしたり、下着のままで放置する
・人前で排泄をさせたりオムツ交換する
経済的虐待
●本人の合意無しに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由無く制限する
こと
・事業所に金銭を寄付・贈与するよう強要する
・金銭、財産などの着服、窃盗
・立場を利用してお金を借りる
・日常的に使用するお金を不当に制限する
入所費用を滞納する
ネグレクト
①生活環境、身体や精神状態を悪化させる行為
・入浴させない、髪、ひげ、爪が伸び放題、汚れた洋服を着せ不衛生な状態
・褥瘡ができるなど体位の調整や栄養管理を怠る
・水分や栄養補給を怠る
・暑すぎる、寒すぎる、ゴミの放置、ねずみやゴキブリがいるなど劣悪な環境に放置
②治療や介護を怠ったり、医学的診断を無視した行為
・医療が必要な状況にも関わらず受診させない、あるいは救急対応をおこなわ
ない
・処方どおりの服薬をさせない、副作用が生じていても放置、治療食を食べさ
せない
ネグレクト
ネグレクト
③必要な用具の使用を限定し、要望や行動を制限する
・ナースコールを使用させない、手の届かないところへ置く
・必要な眼鏡、義歯、補聴器などがあっても
使用させない
④その他
・他の利用者に暴力を振るう高齢者に対して、なんら予防的手立てをしていない
施設内での高齢者虐待の視点
★気付かれていない虐待
・意図的虐待
意図的に行われた高齢者虐待に当たる行為
であるが表面化していない
・非意図的虐待
介護者にそのつもりはなくても結果的に虐
待を行ってしまっている
施設内での高齢者虐待の視点
★グレーゾーンの存在
明確に「虐待である」と判断できる
ような行為の周辺には判断に迷うよ
うなグレーゾーンが存在する
不適切なケア
高齢者虐待は「不適切なケア」の段階で発見し、将来の虐待の
芽を摘む取り組みが求められる
高 齢 者 虐 待 の 考 え 方
顕在化した虐待
非意図的虐待
意図的虐待
身体拘束
(緊急やむを得ない場合を除
く)
グレイゾーン
不適切なケア
高齢者虐待は「不適切なケア」の段階で発見し、将来の虐待の
芽を摘む取り組みが求められる
高齢者虐待を考える 養介護施設従事者等による高齢者虐待防止のための事例集より引用
抑制検討委員会アンケート実施
◎内容
・当施設全職員にアンケート実施
・抑制、虐待とまではいかなくても不適
切なケアを見たり、聞いたり、実際にした
ことを自由記述
・無記名 回収率100%
コミュニケ―ション
• ちょっと待ってて、座ってて
• こっちだよ、おいで
• またかい さっきも行ったでしょ
• 来ないでっていったでしょ
• ダメ !!動かないで、立たないで
• うるさい!
• 先生、部長、父さん、母さん
• 頑張って食べなさい
アンケート結果
• 虐待、抑制とまではいかないが、不適切なケアを行っている
• 虐待や抑制につながると認識していない
• 認知症の人への基本的理解やアセスメント不足からくる不適切な対応がある• 認知症特有の繰り返し言動にストレスを感じ余裕のない対応となっている
• ケアに迷いがありそれをチームで検討していない
• 職員間で注意できない
身体拘束禁止の具体的行為
• 徘徊しないように椅子やベットに身体を縛る
• 転落しないようにベットに体を縛る
• ベットから降りられないように柵で囲む
• 点滴などのチューブを抜かないよう紐で縛る
• 皮膚をかきむしらないようミトン型の手袋をつける
• 車椅子からずり落ちないよう腰ベルト等をつける
• 立ち上がりを妨げるような椅子を使用する
• 脱衣やオムツ外しを制限するため、つなぎ服を着せる
• 他人への迷惑行為を防ぐためベットなどに縛る
• 行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用
• 自分の開けられない居室等に隔離する
なぜ虐待や不適切なケアがおこるの?
• その人ではなく業務・リスク対応優先
• 知識、技術、自己理解不足
• 認知症等の疾患への理解、アセスメント不足
• チームでケアの統一ができていない
• 職員間で注意できない(組織風土)
• ストレスを感じ余裕のない対応
対応策は?
• 施設運営の健全化⇒理念の共有
• ケアの質向上⇒教育(認知症ケア)
• チームアプローチの充実
• 倫理観とコンプライアンスを高める教育
• 負担やストレス、組織風土の改善
権利擁護の視点
• 個人の尊厳と自己決定が尊重されている• 日常あたりまえに行っている生活の継続ができている
認知症になっても私らしく生活したい
尊厳を支える基本的視点
権利擁護
自立支援
選 択
サービス
の質
利用者
本位対 等
地域ケア
情報開示契 約
対 等
• 利用者との間に強者と弱者の関係になっていないでしょうか
• 利用者に人格ある存在として接していますか
• 利用者との間に信頼関係はありますか
利 用 者 本 位
• 本当に自己決定を尊重してサービスを提供しているでしょうか
• 認知症の人の自律性や個別性を大切にしたケアを実践しているでしょ
うか
• 内的世界を理解した対応をしていますか
選 択
• ライフスタイルに合わせたサービス提供に努めているでしょうか
• 個別的なニーズに応じることのできる資源創出に努めているでしょうか
• 利用者の選択権を奪っていないでしょうか
ケアによる権利擁護
• 利用者の権利擁護は法律や制度だけが担っているのではありません
• むしろ、ケアの現場にいる皆さんがいかに「人間としての尊厳」や「その人がその人らしく生きる」ということを意識して、日々の実践をしているかにかかっているといえます
• 目の前にいる利用者をもう一度よく見てみましょう
いま、一度
日々の利用者に対しての関わり方が
尊厳ある支援であるのか
その人らしく生きるための支援であったのか
振り返り、見つめなおしましょう。
利用者の権利を守るのは
最後に
あなたです
情報は多く
知らないという風土は少なく
ご清聴ありがとうございました