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水道から汲みたての水を沸騰 させる イギリス人の多くが電気式の ケトルを使っています。このとき 肝心なのは、沸かし直しのお湯を 使ったりしないこと(この際、マ グを温めておけば理想的ですが、 ほとんどのイギリス人は温めませ ん)。 マグにティーバッグをひとつ 入れ、沸かしたてのお湯を注 いだら、約2分間待つ ティーバッグの種類によっては 抽出時間が変わってくるので、自 分の購入した紅茶の箱などに書い てある指示に従いましょう。 スプーンでティーバ ッグをマグの端にた ぐり寄せ、2秒間ほ どしぼる 一度かき混ぜ、再度ティーバッ グを絞り、ティーバッグをマグか ら引き上げる 日本で紹介されている多くの「おい しい紅茶のいれ方」では「余計な雑 味が出るのを防ぐため、決してティー バッグを絞るなかれ」という注意が 多く見られますが、イギリスではほと んどの人がこのようにしています。中 にはティーバッグをマグに入れてから 数秒で絞り、再びバッグをお湯に沈ま せ、また絞り…を数回繰り返す人も! ミルクを注ぐ 日本では、イギリス人はみんなとてもおいしい紅茶を飲んでいる、と信じていますよね。でも、イギリスに 来てみたら、ほとんどの人がマグカップを使ってティーバッグの紅茶を飲んでいて、何だかがっかりした…とい う方も多いのではないでしょうか。一方で、疲れた時、悩み事がある時に、優しく「まあ、お茶でも飲みなさ い」と差し出されたそのマグカップ入り紅茶で、心から癒されたという方もいるでしょう。とにかく、1日の 国内紅茶消費量が1億 6500 杯(!)というイギリスでは、人々の暮らしと紅茶はやはり切っても切れない関係。 そして、マグで入れる紅茶でさえ、イギリス人なら誰もが「自分のいれ方が一番正しい」というこだわりを持 っているといいます。そんな、イギリス庶民の日常の紅茶の楽しみ方、ちょっとのぞいてみませんか。 Text&Photos:Mami McGuinness フツーのイギリス人が 普段飲んでいる紅茶って どんなもの? 英国に住んでいるからこそ知っておきたい 英国庶民流 マグを使った紅茶のいれ方 大手紅茶メーカー「Tetley」の Tea expert が推奨する“Perfect cuppa a a のいれ方を ベースに、実際のイギリス人たちにリサーチした結果を加味した方法をご紹介します。 Mug 使 使 使 使 使 PG Tips Sainsbury's 96 貿 Thomas Sullivan 使 Tetley 便 10 24 22 MAR 2006 Vol.45 www.ukjack.com/pub/ 1 2 3 4 5

フツーのイギリス人が 普段飲んでいる紅茶って ど …mamimcguinness.com/wp-content/articles/tea.pdf場 合 に は 、 ミ ル ク を 後 に 入 れ る 、 と

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Page 1: フツーのイギリス人が 普段飲んでいる紅茶って ど …mamimcguinness.com/wp-content/articles/tea.pdf場 合 に は 、 ミ ル ク を 後 に 入 れ る 、 と

水道から汲みたての水を沸騰させる

※ イギリス人の多くが電気式のケトルを使っています。このとき肝心なのは、沸かし直しのお湯を使ったりしないこと(この際、マグを温めておけば理想的ですが、ほとんどのイギリス人は温めません)。

マグにティーバッグをひとつ入れ、沸かしたてのお湯を注いだら、約2分間待つ

※ ティーバッグの種類によっては抽出時間が変わってくるので、自分の購入した紅茶の箱などに書いてある指示に従いましょう。

スプーンでティーバッグをマグの端にたぐり寄せ、2秒間ほどしぼる

一度かき混ぜ、再度ティーバッグを絞り、ティーバッグをマグから引き上げる

※ 日本で紹介されている多くの「おいしい紅茶のいれ方」では「余計な雑味が出るのを防ぐため、決してティーバッグを絞るなかれ」という注意が多く見られますが、イギリスではほとんどの人がこのようにしています。中にはティーバッグをマグに入れてから数秒で絞り、再びバッグをお湯に沈ませ、また絞り…を数回繰り返す人も!

ミルクを注ぐ

 日本では、イギリス人はみんなとてもおいしい紅茶を飲んでいる、と信じていますよね。でも、イギリスに来てみたら、ほとんどの人がマグカップを使ってティーバッグの紅茶を飲んでいて、何だかがっかりした…という方も多いのではないでしょうか。一方で、疲れた時、悩み事がある時に、優しく「まあ、お茶でも飲みなさい」と差し出されたそのマグカップ入り紅茶で、心から癒されたという方もいるでしょう。とにかく、1日の国内紅茶消費量が1億6500杯(!)というイギリスでは、人々 の暮らしと紅茶はやはり切っても切れない関係。そして、マグで入れる紅茶でさえ、イギリス人なら誰もが「自分のいれ方が一番正しい」というこだわりを持っているといいます。そんな、イギリス庶民の日常の紅茶の楽しみ方、ちょっとのぞいてみませんか。

Text&Photos:Mami McGuinness

フツーのイギリス人が普段飲んでいる紅茶ってどんなもの?

英国に住んでいるからこそ知っておきたい

英国庶民流

マグを使った紅茶のいれ方大手紅茶メーカー「Tetley」のTea expertが推奨する“Perfect cuppa”大手紅茶メーカー「Tetley」のTea expertが推奨する“Perfect cuppa”大手紅茶メーカー「Tetley」のTea expertが推奨する“Perfect cuppa のいれ方をベースに、実際のイギリス人たちにリサーチした結果を加味した方法をご紹介します。

紅茶を飲むのはティーカップより、

ばらばらのマグ(M

ug

)が基本?

 

イギリス人の家に招かれて紅茶をごちそうに

なるとき、普段使いのマグにティーバッグの紅

茶をいれてもらって、驚いた…というのは、渡

英後間もなく、誰もがする経験だと思います。

そう、イギリス人はお客様に対しても(よほど

のことでもない限り)自分たちが日頃使ってい

るマグに紅茶を入れてもてなします。

 

昔は、結婚するときにひと通りのティーセッ

ト(お揃いのティーポットにカップ&ソーサー、

シュガーボウル、ミルクジャグ)を購入する、

というのが習慣だったらしく、そういったティ

ーセットを備えている家庭もたくさんあります

が、それでも彼らはだいたいにおいて「マグ」

を使います。

 

ちなみに「ティーカップ」と「マグ」の最も

顕著な相違点は、ソーサーがあるかないかとい

う点。また、通常マグはティーカップに比べて

大きめ。円筒形(もしくはそれに近い形)で把

手のついているものと理解してよいでしょう。

 

さて、何ごとにおいても「自分らしさ」を重

要視するイギリス人。当然、マグにこだわりの

ある人も多く、来客にマグコレクションを自慢

したり、縁がちょっと欠けてしまっているご愛

用のマグを何年も使い続けている人もたくさん

います。

ご愛用はもっぱらティーバッグ!

 「イギリス=アフタヌーンティー」というイ

メージもあってか、イギリスではさぞや良いテ

ィーリーフを使ってい

るのでは? 

と思って

いた方も多いと思いま

すが、ご存知のよう

に、イギリス人のほと

んどは、ティーバッグ

の紅茶を愛用していま

す。高級紅茶専門店を

はじめ、PG

Tips

といったメーカーのものから、

Sainsbury's

などのスーパー独自のブランドま

で、たくさんの種類のティーバッグがあります

が、「長年、愛飲しているから…」という理由で、

同じ種類のティーバッグしか買わない、という

人が多いのもイギリスらしいところ。

 

現在では、イギリスの紅茶市場の96%を占め

ると言われるティーバッグ。元々は1908年

(1904年という説もあり)に、ニューヨー

クの貿易商、Thom

as Sullivan

なる人物が、顧

客に対して紅茶のサンプルを送る際、本来なら

缶に入れるのを、絹の布袋に入れて送り、それ

を受け取った客がそのままポットに入れて使っ

たことがその起源だと言われています。その後、

絹の変わりにガーゼが用いられるようになった

ティーバッグは、1920年代のアメリカにお

いて、大変ポピュラーになりました。

 

イギリスにおいては、第2次世界大戦時から

続いていた紅茶の配給制度が終わった1953

年に、Te

tley

社がティーバッグの販売を開始。

その便利さがうけ、その後10年のうちに、それ

までのポットに茶葉を入れる方法から、カップ

に直接ティーバッグを入れる方法へと、イギリ

ス庶民の紅茶の飲み方は大きく変化していき

ます。

2422 MAR 2006 Vol.45 www.ukjack.com/pub/

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Page 2: フツーのイギリス人が 普段飲んでいる紅茶って ど …mamimcguinness.com/wp-content/articles/tea.pdf場 合 に は 、 ミ ル ク を 後 に 入 れ る 、 と

場合には、ミルクを後に入れる、と紹介してい

ます。とはいえ、自分なりの紅茶のいれ方にこ

だわりをもつイギリス人の多くは、自分が「ミ

ルクが先」を主張する以上、その方法を断固と

して変えない、という人ももちろんいますが…。

To dunk? Or N

ot to

dunk?

これまた意見の分かれる問題なのが、紅茶と

一緒に食べるビスケット。イギリスでは男性で

も、紅茶を飲む時に一緒にビスケットをほおば

る人も多いのですが、その際、ビスケットを紅

茶に浸してから食べる、というのも彼らの習慣

のひとつ。それが、チョコレートのかかったビ

スケットであっても、「To d

unk

スケットであっても、「To d

unk

スケットであっても、「

」派であれば、

To dunk

」派であれば、

To dunk

やっぱり紅茶に浸してから食べています。「N

ot

to dunk

」派は、「よれよれしたビスケットなん

to dunk

」派は、「よれよれしたビスケットなん

to dunk

て食べられない」と顔をしかめますが、さて、

あなたはどちら派でしょう?

 

ちなみに数あるビスケットの中でも、もっと

もよく知られているもののひとつが「Rich Tea

Biscuits

」。つるんとした表面と丸い形、その素

Biscuits

」。つるんとした表面と丸い形、その素

Biscuits

っ気ないほどのシンプルさと素朴さが、長年愛

されてきている理由でしょうか。「R

ich tea

」と

Rich tea

」と

Rich tea

名前にTe

a

が入っているのも、まさに紅茶とと

どれがお好みですか?

定番ティーバッグ飲み比べ人によって好みはさまざまなれど、イギリスの人々 に長く愛飲され続けているティーバッグを、色、味、香りについて比較。UKジャックが独断評価してみました。

もに楽しむためにつくられたビスケット、とい

うのにふさわしい存在です。

 

もちろん、それ以外にもビスケット類はた

くさんあって、D

igestives

タイプ、Oats

タイ

プ、チョコレートがけタイプなどなど、スーパ

ーには、試してみたくなるものがずらりと並ん

でいます。でも、たくさん種類がありすぎて、

どれを選んだらいいかわからない、という方に

は、2004年に出版され話題になった左の本

を一読することをおすすめします。紅茶に合う

40種以上ものビスケットやケーキを紹介した本

書を読めば、それぞれの特徴がよくわかるはず。

Dunk

するにしろ、しないにしろ、皆さんも、

ぜひご自分のお気に入りを見つけてみてはいか

がでしょう?

ミルクファーストor

ラスト?

 

英国ティーカウンシル(w

ww.tea.co.uk

 

英国ティーカウンシル(w

ww.tea.co.uk

 

英国ティーカウンシル(

のデータによると、イギリス人の98%が紅茶に

はミルクを入れるのだそうです。ところで右頁

の『紅茶のいれ方』のところで「ミルクを注ぐ」

のは一番最後になっていますが、周知のように

「ミルクが先か、後か」というのは、イギリス

人の間では延々と繰り返されている論争のひと

つ。ただし、ティーポットでいれた紅茶でなく、

マグに直接ティーバッグを入れる場合、ミルク

を後に入れる方が良いよう。というのも、ポッ

トを使って茶葉から紅茶をいれていた時代には

ミルクを先にカップに入れる、というのが一般

的でしたが、マグにティーバッグを入れる場合、

ミルクを先に入れてしまうと、お湯をマグに入

れた時の温度が下がってしまい、紅茶をいれる

際に最も重要な味や香りを抽出するための最適

温度を保つことができなくなってしまうから、

というのがその理由(Te

tley

というのがその理由(Te

tley

というのがその理由(

社)。英国ティー

カウンシルでも、ティーポットを使用する際は

ミルクを先、マグにティーバッグを直接入れる

国際フェアトレード組織連合による定義では経済的に弱い立場にある途上国の人々 に対し、安い労働力や商品を搾取するのではなく、公正な価格や賃金の支払い、技術的な援助、継続的な発注を通して、貧困からの脱出と自立を促す「公正な貿易」のことです。また農薬や化学肥料に頼らない自然農法や、生産地で採れる自然素材と伝統技術を生かして生産された製品を扱うのも特長。

日本でもよく知られている、英国王室御用達デパートのティーブランドの中でも定番の一つ、アッサムとセンロンのブレンドティーは1902年、エドワード7世の国王即位を祝って発売が開始されました。ティーバッグはもちろん個別包装されており、その一つひとつの袋に、紅茶のいれ方が記されています。くせがなく、多くの人に受け入れられるタイプといえるでしょう。

Royal Blend(Fortnum&Mason)

色 ……★★★やや薄め

香り … ★ほとんどナシ

味 ……★★★★若干甘みを

帯びている

Tetleyテトリー

www.tetley.co.uk

PG Tipsピージー ティップス

www.pgmoment.com

Ty・phooタイフー

www.typhoo.com

Teadirectティーダイレクト

www.tetley.co.uk

色 ……★★★★濃いめ

香り … ★★★干し草のよう?

味 ……★★★くせがないかわりに

コクもあまりない

色 ……★★★★★かなり濃い

香り … ★★★★★ライチを思わせる

フルーティな香味 ……★★★

くせがないかわりに コクもあまりない

色 ……★★★★濃いめ

香り … ★★★★やや強く、

土っぽい香り味 ……★★★

くせがないかわりに コクもあまりない

色 ……★★★★濃いめ

香り … ★★★それほど強くない

味 ……★★★★まろやかだが

コクがある 

ロイヤル・ブレンド(フォートナム&メイソン)www.fortnumandmason.co.uk(日本語サイトあり)

1837年にJosephとEdwardという2人のTetley兄弟によって創業されたブランド。1953年にはアメリカからアイデアを得たティーバッグをいち早くイギリスで販売。また、1989年には、現在、他ブランドでも多く見られるラウンド形のティーバッグを発売しました。このティーバッグが、ティーカップではなく、マグを使って紅茶をいれることをブームにしたとも言われています。 

1930 年にBrooke Bond から発売された時は‘Digestive’と呼ばれていたブレンドティーが、第2次大戦後、現在の商品名に変更。1996年には、4年間の調査・研究の成果として、ピラミッドと呼ばれる3D形のティーバッグを発表。その形のおかげで従来のティーバッグに比べ2倍の香りを抽出することができるとのことですが、確かに香りの高さが際立っています。

1903年にバーミンガムのJohn Summerによって発売されたこのブランドは、現在経営権がインドの会社に移っていますが、PG Tips、Tetleyについで国内3位のシェアを占め、毎日約640万杯が飲まれているそう。新鮮さを保つため、パッケージにフォイルを使用しています。丸形のティーバッグにはTy・phooとブランド名の透かし入りなのが特徴的です。

1991年にOxfamなどのチャリティ団体によって設立された、イギリス内でフェアトレードのホット飲料を扱う会社としては最大手の会社cafedirectのティーブランド。teadirectは1998年より販売を開始。農薬や化学肥料に頼らない栽培方法は、最近のオーガニックブームにも合致、また一般にもフェアトレードの理念が浸透してきたことも相まって、消費量を伸ばしています。

Jack Cohenによって設立されたTESCOが、1924年、初めて自社ブランド商品として販売したのがTesco Teaだったという。ちなみにTESCOという名前は、紅茶の卸業者で、彼のビジネスパートナーでもあったTE StockwellとJackの名字の頭文字を合わせたものだそう。自社ブランドといえどお徳用ティーバッグから、フェアトレード商品、茶葉別のものなど、幅広い種類を揃えています。

大手スーパーSainsbury's では、このRED LABELブランドの紅茶を1903年から販売。多種の自社ブランドティー製品を手がける同社の中でも、このRED LABELが最も売り上げの多い商品の一つになっていて、イギリス国内でも、第5位の位置を占めるまでになっています。パッケージにはミルクとともに飲むのがオススメ、とコメントが。ティーバッグの形は、はやりのラウンド(丸)。

1886年の創業以来、一貫してヨークシャーを拠点としたファミリービジネスにこだわり、そのアットホームでフレンドリーなイメージで知られるブランド。丸型主流のティーバッグ市場にあって、いまだに伝統的な四角い形にこだわるのは、その形が紅茶の風味を出すのに最適だと信じているからだそう。軟水、硬水によって、タイプの違うティーバッグを販売しているのも特徴です。

色 ……★★★★★濃いめ

香り … ★★★★やや強め

味 ……★★★★まろやか

色 ……★★★★やや濁りが

あって濃いめ香り … ★★★

それほど強くない味 ……★★★★

コクがある

色 ……★★★★濃いめ

香り … ★★★それほど強くない

味 ……★★★★まろやかだが

コクがある 

Tescoテスコ

www.tesco.com

Sainsbury'sセインズベリーズ

www.sainsburys.co.uk

Yorkshire Teaヨークシャー ティー

www.yorkshiretea.co.uk

フェアトレードとは?

イギリスで長年愛されているRich tea Biscuits。このビスケットを割らずにそのまま浸せるよう、口の大きなマグを使っている人もいる、とかいないとか?

22 MAR 2006 Vol.4525 www.ukjack.com/pub/

ミルクファーストの由来茶の習慣とともに中国陶磁器が上流階級の間で流行していた17世紀のヨーロッパ。当時、高級な中国陶磁器は大変デリケートだったため、人々は熱いお茶を陶磁器に注ぐと、器が割れてしまうのではないかと心配しました。そこで冷たいミルクを先に器に入れておくことで、熱い茶を加えてもそれが冷まされ、器が壊れてしまうのを防ぐことができると考えた、というのがミルクを先に入れるようになった理由だという説があります。

『NICEY&WIFEY’S nice cup of tea and a sit down』(Time Warner Books)