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イソチオシアネート化合物 誌名 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN ISSN 03695247 巻/号 巻/号 935 掲載ページ 掲載ページ p. 389-395 発行年月 発行年月 2018年5月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

イソチオシアネート化合物イソチオシアネート化合物 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN 03695247 巻/号 935 掲載ページ p. 389-395

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イソチオシアネート化合物

誌名誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture

ISSNISSN 03695247

巻/号巻/号 935

掲載ページ掲載ページ p. 389-395

発行年月発行年月 2018年5月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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389

イソチオシアネート化合物

ーアブラナ科野菜に含まれる機能性食品成分ー

柴田貴広*・内田浩二**

〔キーワード〕:アブラナ科野菜イソチオシアネー

ト,ミロシナーゼ,解毒酵素抗炎

はじめに

キャベッ,ブロッコリー,ダイコン,ハクサイ,

カブ,ワサビ,チンゲンサイ,クレソンなど,私た

ちが日常的に食している野菜類は,アブラナ科

(Brassicaceae)に属しているものが多い.アプラナ

科植物は, 4枚の花弁が十字架のように開くという

点から,かつてはジュウジバナ科 (Cruciferae) と呼

ばれていた北半球の温帯を中心とした広い範囲に

分布しており,世界には 375属ほど存在している.

アプラナ科植物には,イソチオシアネートと呼ばれ

る化学物質を多く含んでいることが知られている.

この化合物は,アブラナ科植物に特徴的な刺激性の

強い香味成分であり,昆虫などに対しては忌避物質

として作用していると考えられている一方,ヒトに

おいては,様々な機能性が期待される食品成分のひ

とつとして,近年大きな注目を集めている.本稿で

は,アブラナ科野菜に特徴的な機能性食品成分であ

るイソチオシアネート化合物に関して,その化学的

な性質とともにユニークな機能性に関して紹介し

たし'・

イソチオシアネート化合物の生成と化学的性質

ほとんどのアプラナ科植物にはミロシン細胞と呼

OH

ばれる特殊な細胞が存在し,その液胞中に仕グルコ

シダーゼの一種であるミロシナーゼ (myrosinase)を

含有している.昆虫などによる食害によって組織が

損傷を受けると,ミロシナーゼが柔細胞に含まれる

辛子油配糖体 (glucosinolate) を分解し,イソチオ

シアネート化合物 (isothiocyanate)が産生される(図

1). このイソチオシアネート化合物が忌避物質とし

て作用することにより,植物体の防御に関わってい

ると考えられている.イソチオシアネート化合物は,

いずれもイソチオシアネート基 (-N=C=S) という

特徴的な官能基を有する化合物であり,様々な化学

構造を有するイソチオシアネート化合物が 100種類

以上も報告されている 1)_ 例えば,キャベッやクレ

ソンなどに含まれるベンジルイソチオシアネート

やフェネチルイソチオシアネート,ブロッコリーに

含まれるスルフォラファン (sulforaphane), ワサビ

に含まれるアリルイソチオシアネートや 6—メチル

スルフィニルヘキシルイソチオシアネート

(6-HITC)などが著名なイソチオシアネート化合物

として知られている.(図 2)

イソチオシアネート化合物は,図 3のような共鳴

構造をとることから,イソチオシアネート基の炭素

原子は高い親電子性を有している.この化学的な特

性から水やアミンなどの求核性分子による反応を

受けやすい.イソチオシアネート化合物は,水の付

加により生成されるチオカルバミン酸を経てアミ

ンに分解され,再度イソチオシアネートと反応して

HO~ 三 SYN'oso,-ミロシナーゼ -s'(N'oso3ーー→ R/N~ ら

R

辛子油配糖体

~--......___• 比0 グルコース

R's

イソチオシアネート

図 l ミロシナーゼによるイソチオシアネートの生成

*名古屋大学大学院生命農学研究科 (TakahiroShibata)

**東京大学大学院農学生命科学研究科 (KojiUchida) 0369-5247 /18/¥500/1論文/JCOPY

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390 農業および園芸第 93巻第 5号 (2018年)

R ~N~

/s~ N-....._ HO二『,,-,.__,_N-:::, C-:::, S

c~s 'c -:::::-s

アリルイソチオシアネート スルフォラファン p七ドロキシベンジルイソチオシアネート

R N , /s~

N , 口\/ ヽc, 's

'c ~s

ケパリン 6ーメチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート

ベンジルイソチオシアネート

R 『/s'---./へ'--../"N洸 /s~ へ、

N~ □ N"'c-::-s -:::::-s

c~ s

イベリン スルフォラフェン フェネチルイソチオシアネート

図 2 様々なイソチオシアネート化合物

/N'----、 NR "-c ← +R/~c+ • → R/N"-

ヽc+

s "-s- 、S

図 3 イソチオシアネート化合物の共鳴構造

R o s

,,---s~ ヘ"~c~s + Hs--{こ三)~/~~、訂じ's---E三う固 4 タンパク質中のシステイン残基に対するイソチオシアネート化合物の反応

チオ尿素を生成する.また,二分子のイソチオシア

ネート化合物の分子間縮合により ,ジチオカルバ

メートが生成することも知られている .一方で,イ

ソチオシアネート 化合物はグルタチオンやタンパ

ク質中のシステイン残基といった求核性チオール

基とも容易に反応することが知られており ,その反

応性がイソチオシアネート化合物の機能性発現機

構に関与しているものと考えられている(図 4).

イソチオシアネート化合物の機能性

我々人間は,アブラナ科野菜の様々な機能性を経

験的に利用してきた日本人の食生活においては,

例えばワサビを刺身や寿司,また蕎麦の薬味として

利用するなど,日常生活においても馴染み深いもの

であるが,そこにはイソチオシアネート化合物をう

まく利用した先人の知恵が詰まっている.すなわち,

ワサビに含まれるアリルイソチオシアネートによ

る味覚刺激,唾液分泌作用,殺菌作用や消臭作用な

どの機能性を経験的に利用しているといえる.この

ような活性に加えて,近年では,イソチオシアネー

ト化合物ががん予防活性や神経突起伸長活性など

のユニークな作用を有することも明らかにされつ

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柴田・内田:イソチオシアネート化合物 391

つある.イソチオシアネート化合物の有する代表的

な機能性について以下に概説する.

イソチオシアネート化合物による抗菌作用

ワサビによる抗菌活性は古くから知られており,

それを生活の知恵として利用してきた.ワサビの抗

菌活性は,その辛味成分であるアリルイソチオシア

ネートを主としたイソチオシアネート化合物に

よって発現している.アリルイソチオシアネートは,

幅広い抗菌スペクトルを有しており,カビや酵母だ

けでなく,腸炎ビブリオ菌や腸管出血性大腸菌

0-175, ピロリ菌などに対しても効果を示すことが

期待されている 2). アリルイソチオシアネートは,

溶液よりも気体状態の方がより細菌生育阻害活性

が高いことが知られており,実際に弁当の中に入れ

る抗菌シートなどにもこのイソチオシアネート化

合物が利用されている.

イソチオシアネート化合物によるがん予防効果

我が国における死亡率のトップは言うまでもな

くがんである.その原因として,食生活を含む生活

習慣が大きな影響を与えていることが明らかにさ

れており,食生活の改善ががん予防において重要で

あると考えられている.これまでに食品中に含まれ

る様々な成分の中にがん予防活性を有するものが

見出されており,これらの積極的な摂取が,がん予

防における重要な戦略になりうると考えられてい

る.これまでの数多くの動物実験や疫学的調査など

から,イソチオシアネート化合物は最もがん予防効

果の期待される食品成分のひとつとされている.イ

ソチオシアネート化合物は,解毒酵素の発現誘導に

よる発がん物質の無毒化・排出の促進,あるいはが

ん細胞に対するアポトーシスの話導によって,がん

予防効果を発揮しているものと考えられている.

①イソチオシアネート化合物による解毒酵素の発

現誘導

異物代謝酵素は,生体内に侵入した異物に対し水

溶性を増大させ,体外への排出を促進する.この異

物代謝機構は二段階に分けることができ,それぞれ

第一相解粛酵素群,および第二相解毒酵素群が担っ

ている.第一相では,シトクロム P450と呼ばれる

酵素群により,異物を酸化・還元あるいは加水分解

し,水溶性化させる.第二相では,グルタチオン,

硫酸グルクロン酸などの転移酵素による抱合反応

や,アルデヒド脱水素酵素, NAD(P)H:キノン酸化

還元酵素などによる還元反応を受ける.ある種の外

因性異物は,第一相反応により活性化されて発がん

物質に変換された後,第二相反応によりそれが無毒

化されることが示唆されている.このことから,毒

性を有する外因性異物の無毒化を担う第二相解毒

酵素の選択的な活性化は,発がん性物質を積極的に

体外へ排出することにつながり,がんの予防に効果

的であると考えられている立

第二相解毒酵素群は,塩基性領域ーロイシンジッ

パー型転写因子である N心によって発現が制御さ

れている(図 5). 活性化した Nrl2は,核内におい

て小 Maf因子とヘテロダイマーを形成し,抗酸化剤

応答配列 (ARE) と呼ばれる領域に結合して解毒酵

素や抗酸化酵素の発現を誘導する.この Nrl2の活

性化を制御している分子として知られているのが

Keaplである. Keaplは,活性酸素種や親電子性化

合物をセンシングすることにより, N心の活性化を

調節していると考えられている 4).

Nrl2/Keapl システムを介した第二相解毒酵素の

活性化は,がんの化学予防における重要なターゲッ

トであると認識されており 5,6), 様々な食品成分に

よる Nrl2の活性化が研究されてきているが,その

中でも特にイソチオシアネート化合物が最も研究

が進展しているといえる.ジョンズホプキンス大学

のポール・タラレー博士らの研究グループは,解毒

酵素であるキノン還元酵素の発現誘導を指標とし

たスクリーニング系を用いて抗がん活性を有する

成分の探索を行い,ブロッコリーに含まれる活性成

分として,イソチオシアネート化合物であるスル

フォラファンを同定した 7). 彼らは,スルフォラ

ファンによる第二相解毒酵素の発現誘導機構につ

いて詳細な解析を行い,スルフォラファンが Keapl

タンパク質中のシステイン残基に共有結合するこ

とにより N心の活性化を誘導していることを示し

た 8). ブロッコリーの中でも特に発芽 3日目の新芽

(スプラウト)にスルフォラファンが豊富に含まれ

ていることが明らかにされており 9)' スルフォラ

ファンを高濃度で含有するブロッコリースプラウ

トが商品化されるなど,スルフォラファンの機能性

は社会にも広く浸透し,一般に認知されつつあると

いえる.

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392 農業および園芸第 93巻第 5号 (2018年)

/ 酸化ストレス親電子性化合物

SH SH

図 5 Nrf2-Keapl経路

解毒酵素/抗酸化酵素の発現誘導

Keaplタンパク質のシステイン残基が活性酸素種や親電子性化合物に

より酸化されると, Nrf2が核内へ移行し,抗酸化剤応答配列に結合す

ることにより,解毒酵素や抗酸化酵素などの発現を上昇させる.

また森光らは,ラッ ト由来正常肝細胞 RL34を用

いて,解毒酵素であるグルタチオン&転移酵素

(GST)誘導活性の高感度アッセイ系を構築 した.

この評価系を用いて様々な食品成分の評価を行っ

たところ,ワサビに含まれる解毒酵素誘導物質とし

て 6— メチルスルフィニルヘキシルイソチオシア

ネート (6-HITC) を同定した 10)_ このイ ソチオシ

アネート化合物をマウスに投与すると,肝臓におけ

る解毒酵素の発現が上昇する.一方で Nrf2ノック

アウトマウスではこのような発現上昇がみられな

かったことから, 6-HITCもNrf2を介して解毒酵素

の発現誘導を引き起こしているものと考えられる.

それ以外にも,様々なイソチオシアネー ト化合物に

よる報告がされていることからも 11,12),解毒酵素の

誘導は広くイソチオシアネート化合物に備わって

いる重要な機能性であるこ とが示唆される.

②イソチオシアネート化合物によるがん細胞のア

ポトーシス誘導

もうひとつのがん予防戦略として重要であると

考えられているのが,がん細胞を選択的に死滅させ

るということである特に,炎症反応などを伴わな

い細胞死であるアポトーシスによるがん細胞死が

有用であると考えられている発がん過程における

アポトーシスの重要性に関しては,主に化学物質に

よる発がんモデル実験で解析がなされている.化学

発がんにおいては,細胞の増殖や分化に関与してい

る遺伝子の変異が積み重なることに よって誘導さ

れるという概念が提案されており,イニシエーショ

ン,プロモーション,プログレッションの 3つのス

テップととらえることができる.このうち,イニシ

エーションおよびプロモーションの過程にある細

胞に対してアポトーシスを誘導することが,がん予

防に有効であると考えられる.

これまでに,様々な組織に由来するがん細胞や発

がんモデル動物に対して,イ ソチオシアネート化合

物がアポトーシスを誘導することが報告されてい

る.例えば,大腸がん由来細胞に対して,ベンジル

イソチオシアネートやフェネチルイソチオシア

ネートなどがアポトーシスを誘導する ことが示さ

れている 13). また,ホルボールエステルにより誘導

されるマウス上皮細胞のがん化に対して,フェネチ

Jレイソチオシアネート がアポ トーシスを誘導する

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柴田 ・内田:イソチオシアネート化合物 393

ことにより,抑制的に作用することも報告されてい

る 14).

がんの予防において重要なことは,がん細胞に対

してのみ選択的に細胞死を誘導するということで

ある.アリルイソチオシアネートは,ヒト前立腺が

ん由来細胞に対して有意に細胞死を誘導する一方

で,正常細胞に対しては,その毒性は少ないという

報告がなされている 15). また,ヒト T細胞性白血

病由来細胞を用いた解析から,ベンジルイソチオシ

アネートは増殖性を有するがん細胞に対し選択的

にアポトーシスを誘導する可能性が示唆されてい

る 16). 今後 invivoを含めた検討により,イソチオ

シアネート化合物によるがん予防の可能性がさら

に高まるものと期待される.

イソチオシアネート化合物による

神経突起伸長作用

イソチオシアネート化合物の新しい機能性とし

て,神経突起の伸長促進作用も報告されている .

ラット副腎髄質褐色細胞腫である PC12細胞による

評価系を用いて検討した結果,ワサビに含まれるイ

ソチオシアネート化合物である 6-HITCが神経突起

伸長促進活性を有していることが明らかとなった.

6-HITCそれ自身は神経突起伸長活性をほとんど示

さないが,神経成長因子 (NGF) との共存化では,

その作用を有意に増強することから, 6-HITCは

NGFにより誘導される細胞内シグナル伝達経路に

作用しているものと予想された詳細な解析の結果,

6-HITCはNGFシグナル伝達経路を負に制御するチ

ロシン脱リン酸化酵素 PTPlBを阻害することによ

り,そのシグナルを増強させ,神経突起伸長を促進

するものと考えられている(図 6) 17). 動物実験を

含む更なる詳細な検討が必要であるが,イソチオシ

アネート化合物が神経変性疾患などの予防にも役

立つ可能性が示唆される.

イソチオシアネート化合物による炎症抑制作用

生体は細菌やウイルスなどの生体外からの異物

に対して,炎症応答により恒常性を維持している.

一方で過度の炎症性刺激を受けた場合,炎症の増悪

化,慢性化を引き起こし,それががんや動脈硬化症

などの炎症性疾患の発症や進展に関与することが

明らかにされている.こうした観点から,炎症の慢

性化を抑制するような食品成分の探索とその作用

機序解明が広く研究されている.筆者らの研究グ

ループは,炎症応答に関与することが知られている

Toll様受容体 (TLR) に注目し, TLRシグナルを抑

制する食品成分の探索を行った. Jレシフェラーゼ

アッセイによる TLR4シグナル抑制活性を指標にス

クリーニングしたところ,様々な野菜抽出物の中で

゜0 0

゜゚神門?讐子\

TrkA

olls / N-:::;:-

c, '-s

6-HITC

神経突起伸長誘導

図6 6-HITCによる神経突起伸長増強活性神経成長因子 (NGF)が受容体である TrkAに結合すると,二量体化し自己リン酸化する.このリン酸化を脱リン酸化する酵素がPTPIBである.6-HITCは, PTPIBを阻害することにより, NGF

シグナルを増強し,結果として神経突起伸長を増強する.

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394 農業および園芸第 93巻第 5号 (2018年)

“り炎症誘導物質\

TLR4

『/S~N~

]三に三喜;;lI >

二量体化

参考文献

g

図 7 イベリンによる炎症抑制効果イベリンは, TLR4タンパク質に直接結合することによって二拭化を阻害するため,炎症応答を阻害することができる.

も特にキャベツに強い活性が認められた.さらに単

離・精製を進めたところ,イベリンと呼ばれるイソ

チオシアネート化合物が活性物質であることを突

き止めたこの化合物は炎症モデルマウスに対して

も炎症抑制活性を示すことが明 らかとなった.また,

その作用メカニズムに関する解析の結果, イベリン

は TLR4に直接結合することにより, TLR4の二量

体化を阻害し,結果として炎症誘導を阻害すること

が示唆された(図 7) 18). こうした知見は,イソチ

オシアネート化合物による炎症性疾患予防の可能

性を示すものであると考えられる.

我々が常日頃口にしている野菜の中にも,こうし

た様々な機能性を有する種々の化合物が含まれて

いる.これまで経験的に利用されてきた野菜の機能

性を,さらに積極的に利用することにより,健康寿

命の延伸に大きく貢献できる可能性を秘めている.

そのためにも,分子レベルでの詳細な作用メカニズ

ムの解明とともに,動物実験やヒト試験,疫学的解

析など多面的な解析を行い,科学的根拠に基づいた

機能性食品の創出が必要であろう.

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柴田・内田:イソチオシアネート化合物 395

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