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NTT技術ジャーナル 2017.8 54 トヨタ自動車㈱とNTTグループは,トヨタが保有す る「自動車に関する技術」とNTTグループ各社が保有 する「ICTに関する技術」を組み合わせて,コネクティッ ドカー分野での技術開発 ・ 技術検証およびそれらの標準 化を目的に協業を行うことに合意しました. ■協業のねらい トヨタとNTTグループは,各社が持つ技術やノウハウ を共有し,クルマから得られるビッグデータを活用する ことによって,事故や渋滞といった社会が直面している さまざまな課題の解決や,お客さまへの新たなモビリティ サービスの提供に必要となる技術の研究開発にともに取 り組むことで,将来の持続可能なスマートモビリティ社 会の実現をグローバルな視点を持ってめざしていきます. ■対象分野 (1) データ収集 ・ 蓄積 ・ 分析基盤 多数のクルマから大量に受信する車両情報等の収集 ・ 蓄積や大容量データの配信,収集した大量データのリア ルタイムな分析処理を実現する基盤を構築 ・ 運用するた めの技術の創出. (2) IoTネットワーク ・ データセンター クルマのユースケースを想定した大容量データを確実 かつ安全に集配信するための,グローバルインフラの ネットワークトポロジやデータセンターの最適配置など の検討. (3) 次世代通信技術(5G,エッジコンピューティング) クルマのユースケースにおける最適な移動通信システ ムのあり方の検討や接続検証を通じた,5Gの自動車向 け標準化の推進,エッジコンピューティング技術の適用 性の検証. (4) エージェント AI(人工知能)を活用した車内外の環境理解による 運転アドバイスや音声インタラクション技術等の組合せ による,ドライバーに快適なサービスを提供するための 技術の開発. ■各社の役割 (1) トヨタ 自動車のユースケースにおける知見と,車両側のデー タの要件に基づき,モビリティサービスの価値創造をめ ざしたコネクティッドカー向けのICT基盤の研究開発. (2) NTTデータ 社会インフラ構築実績と設計力,技術力と戦略的に強 化中のグローバル対応力,また,30年にわたる大規模デー タの高度数理分析 ・ 解析の研究と経験を活かし,データ 収集 ・ 蓄積 ・ 分析基盤に関する技術を創出. (3) NTTコミュニケーションズ グローバルに展開するICTサービス(Tier1 IPバック ボーン,VPNやデータセンター)を活用し,IoTに最適 な次世代グローバルインフラを創出. (4) NTTドコモ 次世代の移動通信システム「5G」の標準化牽引なら びに高度な研究 ・ 技術開発の実績を活用し,5Gの自動 車向けの標準化を推進するとともに,5G移動通信シス テムの実証実験を先導. (5) NTT エッジコンピューティング技術の研究開発,国際標準 化活動の推進.NTTグループのAI技術「corevo ® 」の知 見を活かした運転アドバイスや音声インタラクション技 術等の研究開発. ◆問い合わせ先 NTT研究企画部門 プロデュース担当 TEL 03-6838-5651 URL http://www.ntt.co.jp/news2017/1703/170327a.html トヨタとNTT,「コネクティッドカー」向けICT基盤の研究開発に関する協業に合意

トヨタとNTT,「コネクティッドカー」向けICT基 …54 NTT技術ジャーナル 2017.8 トヨタ自動車 とNTTグループは,トヨタが保有す る「自動車に関する技術」とNTTグループ各社が保有

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Page 1: トヨタとNTT,「コネクティッドカー」向けICT基 …54 NTT技術ジャーナル 2017.8 トヨタ自動車 とNTTグループは,トヨタが保有す る「自動車に関する技術」とNTTグループ各社が保有

NTT技術ジャーナル 2017.854

トヨタ自動車㈱とNTTグループは,トヨタが保有する「自動車に関する技術」とNTTグループ各社が保有する「ICTに関する技術」を組み合わせて,コネクティッドカー分野での技術開発 ・ 技術検証およびそれらの標準化を目的に協業を行うことに合意しました.

■協業のねらいトヨタとNTTグループは,各社が持つ技術やノウハウ

を共有し,クルマから得られるビッグデータを活用することによって,事故や渋滞といった社会が直面しているさまざまな課題の解決や,お客さまへの新たなモビリティサービスの提供に必要となる技術の研究開発にともに取り組むことで,将来の持続可能なスマートモビリティ社会の実現をグローバルな視点を持ってめざしていきます.■対象分野

(1) データ収集 ・ 蓄積 ・ 分析基盤多数のクルマから大量に受信する車両情報等の収集 ・

蓄積や大容量データの配信,収集した大量データのリアルタイムな分析処理を実現する基盤を構築 ・ 運用するための技術の創出.

(2) IoTネットワーク ・ データセンタークルマのユースケースを想定した大容量データを確実

かつ安全に集配信するための,グローバルインフラのネットワークトポロジやデータセンターの最適配置などの検討.

(3) 次世代通信技術(5G,エッジコンピューティング)クルマのユースケースにおける最適な移動通信システ

ムのあり方の検討や接続検証を通じた,5Gの自動車向け標準化の推進,エッジコンピューティング技術の適用性の検証.

(4) エージェントAI(人工知能)を活用した車内外の環境理解による

運転アドバイスや音声インタラクション技術等の組合せによる,ドライバーに快適なサービスを提供するための技術の開発.■各社の役割

(1) トヨタ自動車のユースケースにおける知見と,車両側のデー

タの要件に基づき,モビリティサービスの価値創造をめざしたコネクティッドカー向けのICT基盤の研究開発.

(2) NTTデータ社会インフラ構築実績と設計力,技術力と戦略的に強

化中のグローバル対応力,また,30年にわたる大規模データの高度数理分析 ・ 解析の研究と経験を活かし,データ収集 ・ 蓄積 ・ 分析基盤に関する技術を創出.

(3) NTTコミュニケーションズグローバルに展開するICTサービス(Tier1 IPバック

ボーン,VPNやデータセンター)を活用し,IoTに最適な次世代グローバルインフラを創出.

(4) NTTドコモ次世代の移動通信システム「5G」の標準化牽引なら

びに高度な研究 ・ 技術開発の実績を活用し,5Gの自動車向けの標準化を推進するとともに,5G移動通信システムの実証実験を先導.

(5) NTTエッジコンピューティング技術の研究開発,国際標準

化活動の推進.NTTグループのAI技術「corevo®」の知見を活かした運転アドバイスや音声インタラクション技術等の研究開発.

◆問い合わせ先NTT研究企画部門 プロデュース担当TEL 03-6838-5651URL http://www.ntt.co.jp/news2017/1703/170327a.html

トヨタとNTT,「コネクティッドカー」向けICT基盤の研究開発に関する協業に合意

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NTT技術ジャーナル 2017.8 55

コネクティッドカー時代のICTシステムでは,NTTデータが手掛けてきた社会インフラに求められる信頼性に加え,数千台から数十万台のサーバ設備規模をうかがう「大規模」,数千万台以上の車両を24時間接続できる「高性能」,ペタバイトからエクサバイト級の「大容量」を同時に実現しなければなりません.

NTTデータは大規模社会インフラでの設計・構築ノウハウに長けており,大規模分散分析システムなどの最新技術の適用経験も豊富です.これらのノウハウと技術を基に,コネクティッドカー時代のICT基盤の技術開発を推進し,実運用に耐えるデータ収集・蓄積・分析基盤を実現すべく取り組んでいます.

トヨタ自動車様とともに何年も先を見越した要件をベースに将来の技術課題の洗い出しを行っています.これらに対して,NTTソフトウェアイノベーションセンタと連携しつつ,Hadoop/Sparkコミッターとともに企業・国の枠を超えたグローバル研究開発をリードしながら,課題解決に向けた技術創出を進めています.今回の協業では,データ収集・蓄積・分析にかかる実証検証を推進し,検証に活用した製品に関する課題を国際会議で問題提起するなど,ICTの進化に貢献しています.さらにAI等の先進技術にも意欲的に取り組みを進め,NTTデータグループは,グローバルなコネクティッドカー時代の実現を支え続けます.

コネクティッドカー基盤の技術開発の推進で協業をリード

古賀  篤 /横堀  涼 /古和田 誠一 /西村 友昭 /柿沼 基樹 /竹内 一弓 / 三浦 広志 /笠原 辰仁 /梅森 直人 /葛西 亮生 /萩原 悠二 /池田 真洋 / 中川 晃一NTTデータ

担当者紹介担当者紹介

コネクティッド技術により,従来できなかったことができるようになり,クルマの可能性を拡げ,より安心・安全・便利なモビリティライフを提供できると考えられています.

トヨタは今後,日米で販売するほぼすべてのクルマに通信機器を装備することを計画しています.これら車両から収集する大量のデータを,生産・販売のデータなどと組み合わせていくことでさまざまな価値を創出したいと考えています.活用例は「市場不具合の早期発見,早期対応の促進」「個々のクルマの故障や整備に必要性を予知し,販売店への入庫を促進」「車載カメラ画像を収集し,車線ごとの混雑状況や障害物の有無を把握したダイナミックマップを生成」「ドライバーを十分に理解して安全で快適なドライブをサポート」などです.

今回,ICT分野で世界トップクラスの技術開発力を有するNTTグループ様の協力を得たことで,コネクティッドカーによる新価値創造のための基盤づくりを加速させていきます.

コネクティッド技術で創るクルマの未来

村田 賢一 /前田 篤彦 /岩崎 喜一 /加藤  整 /吉津 沙耶香 /畠山  宏 / 北村 竜義 /尾首 亮太 /高橋 克徳トヨタ自動車株式会社

パートナ紹介パートナ紹介

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NTT技術ジャーナル 2017.856

コネクティッドカーの高度化やスマートモビリティ社会が実現される段階では,次の3つの課題①カメラ画像やセンサデータ,車両の制御データなど,車両から送受信されるトラフィック量が膨大になる点,②これらの大容量かつ複雑なデータを処理するプラットフォームは地域的かつ階層的に分散される点,③移動する車両に追従するため広域的なセッション維持が必要になる点,を踏まえると,セキュアかつグローバルなプラットフォームにおいて,車両との間で送受信される通信トラフィックを柔軟に制御していくことが求められます.

NTTコミュニケーションズグループは,グローバルに展開する通信ケーブル(容量8.9 Tbit/s),Tier1 IPバックボーンやデータセンター(140拠点以上・面積39.4万㎡)などのグローバルフットプリントに強みを持ち,昨今では,「SDx+M」コンセプトの下,Software Defined技術などを活用したネットワークサービスや,一元的なマネジメントサービスなどを組み合わせたICTソリューションを提供中です.

トヨタ自動車様との協業においては,これらのグローバルフットプリントやICTソリューション提供の知見を活かして,前述の課題に取り組むとともに,今後,モバイルネットワークとの相互接続やエッジコンピューティング技術の活用などを見据え,グローバルICTプロバイダとして,車両とICTで創る新しいスマートモビリティ社会の実現に貢献していきます.

安心 ・ 安全なスマートモビリティ社会をグローバルで支える パートナーをめざして

貞田 洋明 /野地 亮介 /奥澤 慎哉 /佐藤 晃一 /阿部 隆一 /塚本 広樹 / 丸塚 淳史 /西川  渉NTTコミュニケーションズ

担当者紹介担当者紹介

次世代の移動通信システム「5G」を新たなモビリティ社会で活用いただくためにトヨタ自動車様が描く未来の自動車社会に必要となる要求条件等について議論を交わし将来課題の解決に貢献するインフラ構築を推進しています.

今後グローバルに展開される「5G」の標準化牽引ならびに高度な研究・技術開発の実績を活用することでまだ見ぬ未来の自動車社会へ全く新しい体験を提供すべく取り組んでおり,2020年以降,多くの自動車がネットワークにつながる社会において必要となる「高速大容量」「低遅延・高信頼性」「超多数端末の同時接続」「省電力化」等の課題解決を図り,今後はトヨタ自動車様との公開実証実験の実施,およびさらなるパートナー様との連携を軸に2020年の商用開始を目標に取り組みを加速していきます.

また,今後ネットワークに常時接続していくデバイスを想定すると自動車ほどモバイルネットワークに対する要求条件が厳しいIoTデバイスはほかに存在しません.高速で移動する自動車に対して大容量のデータ送受信,低遅延,多接続を同時実現していくことは技術的ハードルが非常に高いものですが,「5G」により今まで以上に安心・安全で楽しく豊かな車内空間が創出された未来を見据え数々の課題を解決し,またすべてのユーザの皆様に対し今まで以上に高信頼性かつ安心・快適にご利用いただけるモバイルネットワークの提供に向け取り組んでいきます.

5Gで切り拓く新たなモビリティ社会への貢献

中村 武宏 /岩科  滋 /工藤 理一 /永田  聡 /安川 真平 /西川 信広 / 佐波  武 /池田 周平NTTドコモ

担当者紹介担当者紹介

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NTT技術ジャーナル 2017.8 57

未来のクルマを支えるエッジコンピューティングの実現に向けて

都市交通 ・ 移動最適化のためのIoTデータ価値化技術の実現に向けて

森  航哉 /吉田 雅裕 /高橋 紀之NTT未来ねっと研究所

吉田  学 /水谷 后宏 /秦  崇洋 /社家 一平NTT未来ねっと研究所

研究者紹介研究者紹介

研究者紹介研究者紹介

持続可能なスマートモビリティ社会の実現に向けて

樋口 浩子 /山本 浩一郎NTT研究企画部門

担当者紹介担当者紹介

多数かつ多様なデバイスがネットワークにつながり,それらからのデータを迅速に処理し的確に組み合わせて多彩なアプリケーションサービスによる新たな価値を生み出すIoTの時代が訪れようとしています.IoTを支える通信と情報処理の新たな基盤として,NTT未来ねっと研究所では,データの発生源に近い場所に計算資源を配置してデータの処理とアプリケーションの実行を行うエッジコンピューティング技術の研究開発を進めています.

今回のトヨタ自動車様との協業では,コネクティッドカーが生み出す大規模なデータ流を効率良く扱いながら自動運転支援等で必要となる低遅延処理も実現するために,エッジコンピューティング技術の適用を行います.コネクティッドカーでは,各車両がそれぞれ移動しつつ各部の状態や周辺環境の情報を発信し,情報処理基盤がそれらのデータを組み合わせて処理したうえで,各車が必要とする目的地への経路や周辺他車の状況をリアルタイム・確実に配信する必要があります.従来のクラウド技術のみでは不十分で,エッジコンピューティングの真価を発揮できる領域であり,培った技術は他のIoT分野にも広く活用可能となると考えています.

このたびの協業が目標とする,安全・便利・快適で,夢のある未来のクルマとIoT社会の実現をめざして,研究開発に取り組んでいきたいと思います.

快適なドライブをサポートするためには,自動車の走行データに対して深層学習を適用し,ドライバーへ適切な走行速度をフィードバックすることで「快適・エコ」な運転支援する方法が考えられます.NTT未来ねっと研究所で,長年培ってきたIoTデータ処理に関する知見やネットワーク領域で取り組んでいるAIの技術を適用し,自動車(エージェント)が複雑な周辺環境を理解しつつ適切な走行速度(行動)を選択していくモデルを深層強化学習により構築することができます.

今回のトヨタ自動車様との協業では,ドライバーに負担を押しつけることなく交通全体を最適化する運転支援の例として,運転中の4割をも占める信号待ち時間を削減すること,「エコ」な運転支援としてあるエリアに存在する複数の自動車の全体の消費燃費量をできるだけ抑えること,これらを同時に満たすことが可能かについてシミュレーションにより評価・検証を行いました.引き続き,「快適・エコ」な運転支援技術の実現と,より豊かな世の中の実現に貢献すべく,IoTデータ価値化技術の実現に邁進して参ります.

コネクティッドカーは,「クルマにかかわる大量のデータを扱う」「リアルタイム性を要求されるシーンがある」「クルマは移動しながらデータを送受信する必要がある」等のサービス要件が厳しい特徴があり,さまざまな技術課題があります.今回,自動車業界のリーディングカンパニーであるトヨタ自動車様と共同での技術開発・検証によってクルマに関する技術や知見を得ることにより,クルマ特有のユースケースやIoT分野における技術要件の抽出が可能となるため,高度なIoT基盤を早期に実現していきたいと考えています.

トヨタ自動車様とNTTグループの協業を通して,これからの社会が直面するさまざまな課題をともに解決し,将来の持続可能なスマートモビリティ社会の実現をめざします.