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研究項目 A02受容体・細胞応答機構公募研究紹介
細胞膜受容体の小胞体品質管理を介した花粉成熟過程のストレス耐性機構の解析
研究代表者 西川 周一(新潟大学自然科学系・教授)
シロイヌナズナの機械刺激受容体の構造と機能研究代表者 飯田 秀利(東京学芸大学教育学部・教授)連携研究者 三浦 謙治(筑波大学生命環境科学研究科・准教授)
小胞体は分泌経路の入口となるオルガネラであり、分泌タンパク質などの合成の場となっている。分泌タンパク質は小胞体内で高次構造を形成した後に、ゴルジ体など、小胞体から先のオルガネラへ輸送される。タンパク質の高次構造形成は環境の影響を受け、細胞へのさまざまな環境ストレスによって高次構造形成に失敗した異常タンパク質が生じる。細胞にはタンパク質の高次構造形成を監視し、生じる異常タンパク質を処理する品質管理の機構が備わっている。小胞体の品質管理機構は、小胞体で生じた異常タンパク質を認識・除去することで、細胞や個体の恒常性維持に重要な役割をはたしている。 われわれは、小胞体品質管理において異常タンパク質の選別過程で機能する分子シャペロンシステムである Hsp70
(BiP)やカルネキシン/カルレティキュリンの機能を欠損した変異株の中に、高温ストレス条件下で栽培すると不稔となるものがあること、これは花粉表層のポレンコート形成などの花粉成熟過程が異常となり、葯から花粉が放出されなくな
接触、重力、浸透圧などの機械刺激は、植物の生長と形態形成に大きな影響を及ぼす。それらの機械刺激の受容体の中核をなす分子の 1 つは Ca2+ 透過性機械受容チャネルである。本研究は、その活性をもつシロイヌナズナの MCA1 とMCA2 を集中的に研究することを通して、植物の機械刺激受容体の解明、およびその活性化によって発生する Ca2+ シグナル伝達経路を明らかにすることを目的としている。 MCA1 と MCA2 は本研究代表者らが 2007 年に最初に発表した植物に固有の Ca2+ 透過性機械受容チャネル活性をもつ膜タンパク質であり、接触や浸透圧刺激に応じて Ca2+を細胞内に取り込む。両者はアミノ酸配列上 73% 同一であり、全長にわって既知のイオンチャネルと相同性のない新規のタンパク質分子である。本研究では以下の項目に焦点を絞り、研究を推進する。(1) MCA1 と MCA2 を中核とした機械刺激受容体の構造の解明、(2) MCA1 と MCA2 の構造-機能相関の解明、(3) 低温センサーとしてのMCA1とMCA2の役割、
(4) 分子モデルおよびシグナル伝達経路モデルの構築、を実施する。 平成 25 年度において、MCA1 と MCA2 の電気生理学的研
るためであることを見いだした。これまでの解析の結果、花粉成熟過程で機能する細胞膜の受容体様キナーゼの細胞膜への輸送欠損が、この異常の原因となっていることを示唆する結果を得た。 受容体様キナーゼは、様々な過程で細胞間の情報伝達に機能しており、シロイヌナズナゲノムには数百の受容体様キナーゼ遺伝子が存在する。一方で、小胞体品質管理装置の変異株が花粉成熟過程特異的な温度感受性欠損を示すことから、小胞体品質管理装置による受容体キナーゼの機能発現機構には特異性があることが示唆される。 植物の生殖成長は、栄養成長に比べて様々な環境ストレスに対する感受性が高い過程であるが、その中でも最もストレス感受性が高いのが花粉形成の過程である。本研究では受容体キナーゼの細胞膜輸送と小胞体品質管理因子による受容体キナーゼ認識の特異性に着目した解析で、小胞体品質管理装置の花粉成熟過程における役割を明らかにするとともに、花粉成熟過程のストレス耐性のメカニズムの解明を目指す。
究の論文、および MCA2 の低温電子顕微鏡像を基にした単粒子解析による立体構造についての論文を発表した。これらの論文の研究により、チャネル活性と立体構造のデータに基づいた研究の新たな展開が期待できる。一方、低温センサーとしての MCA1 と MCA2 に関しては、現時点で MCA2 が低温誘導性の少なくとも一種の転写因子の発現を正に制御していることが示唆された。また、当初の計画にはなかったが、最近、MCA2 が根において機械刺激の受容に重要な役割をしていることが示された。本研究では、これらの知見に基づき、分子生物学的および生理学的に研究を推進する。 本研究が実施されることによって次の成果が期待される。すなわち、これまで現象論としては良く分っていたものの、そのメカニズムが解明されていなかった機械刺激の受容と伝達の分子機構が明らかになる。既に発見されている植物に固有の Ca2+ 透過性機械受容チャネルは MCA1 と MCA2 のみなので、本研究の成果は極めて独剏性が高い。また、これまでの研究成果を基にして、本研究領域の他分野の研究者と共同研究を推進したい。
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公募研究紹介研究項目 A02受容体・細胞応答機構
植物細胞の環境応答におけるミトコンドリアの動態と生理機能のイメージング解析
研究代表者 山岡 尚平(京都大学大学院生命科学研究科・助教)連携研究者 有村 慎一(東京大学大学院農学生命科学研究科・准教授)
葉緑体運動を仲介する CHUP1 タンパク質の動態制御機構の解析
研究代表者 和田 正三
ミトコンドリアは、その形態や運動性を頻繁に変化させる極めてダイナミックなオルガネラである。この動態は、植物細胞内外の環境変化に対応していると長く考えられてきた。たとえば、個体の発生や外環境の変動に伴って、植物細胞内ではエネルギーや代謝産物の局所的な需要が生じると考えられるが、ミトコンドリアはそれらに応じて形態や運動を変化させ、また葉緑体やペルオキシソームなど他のオルガネラとの相互作用を行う、とされてきた。しかし、その実証例は現在までほぼ皆無である。その理由として、植物ミトコンドリアの動態制御の分子メカニズムそのものがほとんど明らかでないことが挙げられる。哺乳動物や酵母では多くの制御因子が同定されているが、植物のゲノムにはその相同遺伝子がほとんど存在しない。またもうひとつの理由として、植物細胞内の生理環境の局所的で微細な変化を捉えるための実用的な顕微技術が、いまだほとんど開発されていないことが挙げられる。 私たちはこれまで、植物ミトコンドリアの動態制御のメカニズムの解明に取り組んできた。その中で、dynamin と Miro
光条件に応じて葉緑体が細胞内を移動する、いわゆる葉緑体光定位運動は、植物の生存と光合成の効率化に取って欠くべからざる、重要な生理現象である。我々は過去 28 年間に亘ってその重要性の証明とメカニズムの解析を行なってきた。その結果、光受容体の解明、移動に働く新規アクチン繊維(chloroplast actin filaments、以下 cp-actin と略す)構造の発見、運動速度の調節に関わる重要因子の同定などにより世界を先導してきた。 葉緑体は、葉緑体周縁部と細胞膜の接点に存在するCHUP1(複合体)から伸びる cp-actin を使って移動する。CHUP1 は N 末端で葉緑体の外包膜に、また coiled-coil ドメインで細胞膜に結合しており、青色光受容体 phot2 の制御によって、均一分布、粒状、大きな顆粒状、さらにオルガネラ状 (CHUP1 body)と、葉緑体上でダイナミックに離合集散する。強光によって葉緑体逃避運動を誘導すると、粒状のCHUP1 は葉緑体移動開始直前に一旦消失し、直後に葉緑体移動方向先端部に出現する。その後 cp-actin の重合が起こる。
という進化的に保存された 2 つの GTPase が、そのメカニズムの中核を担う分子であることを明らかにした。さらに、Miro が胚発生や花粉管伸張に必要であり、ミトコンドリアの動態が植物の生存に必要不可欠であることを示した。 本研究では、ミトコンドリア動態変異体の作成と解析により、植物の個体発生・環境応答におけるミトコンドリア動態の生理的意義の解明を目指す。特に、シロイヌナズナのMiro 相同遺伝子である MIRO1 に注目し、その遺伝子発現を抑制することにより、細胞内のミトコンドリアの形態・細胞内分布を変化させた植物を作成する。これを用いて、ミトコンドリアおよび他のオルガネラの機能の変化と、個体発生・環境応答への影響を解析する。また、植物細胞内のレドックス状態・カルシウム濃度などの変化を可視化するイメージング解析系の開発を試みる。レドックス可視化には、京都大学農学研究科の阪井康能教授らにより開発された新規 FRET
プローブ Redoxfluor などを用いる予定である。さらにこれらの実験系を用いて、ミトコンドリア動態と植物細胞内の生理状態の関係を明らかにしたい。
従って cp-actin は CHUP1 によって重合されると考えられ、CHUP1 の出現位置の制御は葉緑体の移動方向、cp-actin の重合・脱重合及びその位置の決定にとって重要な意味を持つ。 本研究では、CHUP1 がどのような機構によって葉緑体外包膜上を移動し、cp-actin を重合する場所に定着するかを明らかにする。CHUP1 が細胞膜へ接着するためには、CHUP1
の coiled-coil 部分と結合する蛋白質が細胞膜上に存在すると考えられる。そこで、CHUP1 が細胞膜に結合するために必須な CHIP、KAC などの CHUP1 複合体の構成因子の相互作用、生理機能、及び細胞膜上での分布を調べ、CHUP1 の細胞膜結合機構を明らかにする。さらに、リン酸化 /脱リン酸化による CHUP1 分布の変化が認められるので、CHUP1 複合体の青色光依存的リン酸化による制御機構を明らかにする。CHUP1 の葉緑体外包膜上の移動機構については、温度変化や脂質組成の違いによる膜の流動性変化、細胞骨格の阻害剤処理による影響等から推測する。
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研究項目 A02受容体・細胞応答機構公募研究紹介
植物環境応答におけるオルガネラ Ca2+ シグナリングの役割と分子機作
研究代表者 椎名 隆(京都府立大学大学院生命環境科学研究科・教授)連携研究者 佐野 智(京都府立大学大学院生命環境科学研究科・講師)、古市 卓也(岐阜女子大学家政学部・准教授) 野村 裕也(岐阜女子大学家政学部・助手)、熊崎 茂一(京都大学大学院理学研究科・准教授)
1 細胞ホルモン分析による植物環境応答の細胞レベルでの解析研究代表者 小柴 共一(首都大学東京理工学研究科・教授)連携研究者 升島 努(理研 QBiC・チームリーダー) 瀬尾 光範(理研 CSRS・ユニットリーダー)
カルシウムイオン(Ca2+)は、植物細胞で中心的に働くセカンドメッセンジャーである。細胞質 Ca2+ は、環境応答、植物-病原体相互作用、ホルモン応答などで重要な役割を果たしている。動物細胞や酵母では、ミトコンドリアや核などのオルガネラでも特異的な Ca2+ シグナルが生じ、アポトーシス制御や転写因子の活性化に関わることが知られている。しかし、葉緑体を初めとする植物オルガネラの Ca2+ 動態やその生理的役割についてほとんど分かっていない。そこで本研究では、葉緑体とミトコンドリアに焦点をあて、植物細胞におけるオルガネラ Ca2+ 動態の実体解明をすすめるとともに、オルガネラ Ca2+ シグナルの発生機構、生理的役割の解明を目指す。 これまでに、葉緑体ストロマの Ca2+ 濃度を測定する系を作成し、静止状態のストロマ Ca2+ 濃度が細胞質と同様に非常に低いレベル(100-200 nM)に維持されていること、浸透圧や低温、塩ストレスや明暗遷移などによって葉緑体に特異的な Ca2+ シグナルが生じることを見いだした。さらに、葉緑体はフラジェリンやキチンなどの病原体関連分子パターン(PAMP)にも応答し、十数分続くながい Ca2+ 濃度上昇
植物ホルモンは、発生、分化、成長、環境応答など、生活環のあらゆる場面において、重要な生理作用を示す低分子化合物(群)である。これまでに、ホルモンの代謝(生合成および分解・不活性化)に関連した酵素・遺伝子の発現解析や、ホルモン応答性遺伝子の発現解析から、組織や細胞レベルでの非常に局所的なホルモン量の変化によって多くの生理作用が制御されていると予想される。しかしながら、植物体内にごく低濃度(μM 以下)に存在するホルモンの蓄積量を組織や細胞レベルで明らかにすることは、従来の質量分析法では困難であった。そこで我々は、顕微鏡下でナノスプレーチップと呼ばれる微細なキャピラリを用いて分取した細胞内容物の直接的な質量分析により、ホルモンを 1 細胞から定量する技術の確立を目指している。 アブシシン酸(ABA)は、植物が乾燥ストレスに曝された際に、気孔の閉鎖を誘導するのに必要な植物ホルモンである。ABA は比較的内生量が高く、特に乾燥ストレス応答時の内生量はストレス前の数倍から数十倍に上昇するため、他のホルモンに比べて検出・同定、および内生量の変化と生理応答の相関の検証が比較的容易であると予想される。また、オー
を起こす。また、チラコイド膜の Ca2+ 結合タンパク質 CAS
が植物免疫応答の制御に重要な役割を果たしていることも明らかにしている。葉緑体に代表される植物オルガネラがCa2+ シグナルを使った「オルガネラ環境感覚」を持ち、環境情報の受容や統合に関わっている可能性が考えられる。本研究では、植物細胞におけるオルガネラ Ca2+ シグナルの実体と生理機能を追求していきたい。 葉緑体については、CAS に注目し、葉緑体や細胞質 Ca2+
制御における役割、葉緑体による植物免疫制御の分子機構を解明していく。ミトコンドリアの Ca2+ 制御に関わる候補分子として、細菌機械受容チャネル MscS や動物のミトコンドリア Ca2+ センサータンパク質 MICU1 の植物ホモログがミトコンドリアに局在することを既に明らかにしている。ミトコンドリア Ca2+ シグナルの動態を明らかにするとともに、これらのミトコンドリアタンパク質の生理機能を解析していく。連携研究者とともに電気生理学研究や顕微イメージング技術も用いて、植物環境応答におけるオルガネラ Ca2+ シグナリングの役割を明らかにしていきたい。
キシン以外の植物ホルモンに関しては、植物体内における輸送の生理的意味や制御機構が不明であったが、近年の我々の研究により、ABA は乾燥に応答して主に維管束組織周辺の細胞で合成され、孔辺細胞へと輸送されることで気孔の閉鎖が引き起こされると予想された。このことから、生合成部位
(維管束組織)と作用部位(孔辺細胞)における ABA 蓄積量の経時変化を明らかにすることにより、ABA の動態を検証することが可能であると期待できる。これまでに、比較的大きな孔辺細胞を持つソラマメを実験材料として用い、一定の確率でナノスプレーチップを標的の孔辺細胞に挿入し、内容物を取り出すことに成功している。得られた内容物にイオン化溶剤としてメタノールを加え、オービトラップ型 MS/MS
に直接導入して分析した結果、ABA 標準物質から得られる特有なフラグメントイオンと一致するピークが検出された。このことから、一つの孔辺細胞から内生の ABA を検出することが可能であると考えられた。現在は、イオン化溶剤と同時に同位体標識した ABA を一定量加え、内生 ABA 由来のフラグメントイオンピークとの相対強度の比較により、絶対的な内生量の定量を試みている。
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公募研究紹介研究項目 A02受容体・細胞応答機構
植物環境感覚システムにおけるクロマチン動態解析研究代表者 松永 幸大(東京理科大学理工学部応用生物科学科)連携研究者 坂本 卓也(東京理科大学理工学部応用生物科学科)連携研究者 金 鍾明(理化学研究所環境資源科学研究センター)
環境刺激に応答して様々な遺伝子発現変化が見られる。これは、大規模なクロマチンレベルの動態変化が、植物の細胞核内で生じている可能性を示唆している。昨年度までの本領域の細胞核ダイナミクスの研究により、環境刺激に応じてDNA 複製と細胞体積増加がリンクする二つの応答メカニズムの研究成果を挙げ、両プロセスが分離できることを示した。春化処理応答・光による可逆的なクロマチン構造変化など、環境情報を受け取る細胞核内の構造としてクロマチンの関与が示唆されている。しかし、ヒストン修飾酵素・コンデンシン・コヒーシンなどのクロマチン動態制御因子を環境刺激応答の観点から解析した例はなく、クロマチン動態制御の分子メカニズムはほとんど分かっていない。そこで、ヒストン修飾酵素や非ヒストン因子の変異体を用いて、DNA 損傷、オーキシン飢餓の刺激に加え、環境刺激に対する表現型解析も実施する。DNA 二本鎖切断(DSB)誘導剤、オーキシン極性輸送阻害剤や受容体阻害剤の添加やγ線照射によりスクリー
ニングして、根の伸長、地上部の展開状態、胚軸伸長などの異常が見いだされる変異体を同定する。また、応募者が得意とするイメージング技術を駆使して、EdU を用いた DNA 複製イメージングによる細胞周期変動解析、コメットアッセイによる DNA 損傷解析、リン酸化 H2AX 抗体染色などを実施し、時間軸を考慮した定量データを取得する。イメージングデータの量が多くなり解析に時間がかかることが予測されるが、イメージング解析の画像分類や定量解析には能動学習型ソフトウェア・CARTA を活用する。これらの解析により、植物の環境情報を受け取る新しい細胞場としてクロマチンにターゲットを絞った新たな環境感覚システムが明らかになることが期待される。恒常的に発現するクロマチン動態制御因子であっても、環境刺激に応答した時にどのような機能を果たすかを明らかにし、植物環境感覚システムにおけるクロマチン動態メカニズムの新知見を得る。研究成果はマスメディアを通じて国民・社会に発信する。