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1 ロシア:米とEUによる対露経済 制裁とその影響 2014年8月21日 本村 眞澄 2 1.米政府による対露追加経済制裁 2.EUによる対露追加経済制裁 3.日本、ロシア、ウクライナによる制裁 4.メジャーズの対応 5.ロシア企業の対応 6.今後の見通し

ロシア:米とEUによる対露経済 制裁とその影響...5 EUによる対露追加制裁 • 7月16日;非公式首脳会議で追加制裁決定→及び腰 – 欧州投資銀行(EIB):露での新規融資停止

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Page 1: ロシア:米とEUによる対露経済 制裁とその影響...5 EUによる対露追加制裁 • 7月16日;非公式首脳会議で追加制裁決定→及び腰 – 欧州投資銀行(EIB):露での新規融資停止

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ロシア:米とEUによる対露経済制裁とその影響

2014年8月21日

本村 眞澄

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目 次

1.米政府による対露追加経済制裁

2.EUによる対露追加経済制裁

3.日本、ロシア、ウクライナによる制裁

4.メジャーズの対応

5.ロシア企業の対応

6.今後の見通し

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米財務省が対露経済制裁

• 7月16日、米財務省は対露制裁対象追加

– 金融機関2社(Vnesheconombank, Gazprombank)

– エネルギー企業2社(Rosneft,  Novatek)

• 90日超の資金調達で米債券・株式市場へのアクセス禁止

– 米企業・市民による4社と通常の取引は認める

• 7月17日、マレーシア航空機MH17撃墜事件

• 7月29日、米追加制裁を決定

– 米商務省:大水深、北極海、シェール用機材禁輸

– 米財務省:モスクワ銀行、農業銀行、VTBの米金融市場へのアクセスの禁止

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米商務省の追加制裁の内容

• 8月1日発表、8月6日発動

– 以下の輸出禁止:掘削リグ、水平掘削のパーツ、掘削・坑井仕上げ用資機材、海底仕上げ用資機材、北極海用の資機材、ワイヤライン、ダウンホールモーター、掘削用パイプ・ケーシング、水圧破砕用ソフトウェア、高圧ポンプ、地震探査用資機材、遠隔操作用車両、コンプレッサー、管広げ、バルブ、ライザーetc

• 米油田技術会社の対露事業は世界の5%

– Halliburton, Schlumbergerはかなりを失うことに

• 露は資金調達で困難に、アジアで調達か

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EUによる対露追加制裁

• 7月16日;非公式首脳会議で追加制裁決定→及び腰

– 欧州投資銀行(EIB):露での新規融資停止

– 欧州復興開発銀行(EBRD):露での新規融資停止

– EU内での資産凍結、渡航禁止措置の拡大

• 7月17日、マレーシア航空機撃墜事件→大きく変化

• 7月24日、15個人、18企業資産凍結渡航禁止

• 7月30日、8個人、3企業の資産凍結

– 当初及び腰であったものが、米の主張に近くなる

• 7月31日、新規武器取引禁止、石油分野での技術供与の制限(許可制)、金融取引制限

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EUによる石油分野での技術供与の制限

• 分野:大水深、北極、シェールオイル

– 天然ガス・LNG分野は含めず。石油のみ対象。

– 制裁対象(事前認可が必要):シームレス・パイプ、掘削用パイプ、ケーシングおよびチュービング、掘削・坑井用資機材、可動式掘削リグ、探鉱・生産用の浮動式・半潜水プラットフォーム、軽量船舶、消防船、掘削櫓、その他緊急用船舶、浚渫用船舶、漁船・軍艦

– 制裁の実行は個々のEU加盟国に委ねる

– 2014年8月1日以前に締結された「契約または合意」によるものであれば、当局は認可を与える

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EU制裁に関する分析

• Reuters通信(8月5日)

– 石油のみが対象でガス・在来型油田は含まれず

– 8月1日以前合意の既往案件が対象とならず

– プロジェクトの大半が対象外で「寛大」な制裁

– 短期、長期に大きな影響はない

– むしろ「政治的受容可能性」のシグナル

• IEA(8月12日、Oil Market Report)

– 制裁項目が選択的、既往契約除外

– 短期、中期に影響ない(産業界の一致した見方)

– ロシアの石油生産の伸びに影響はない

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ユコス裁判の結果

• 7月28日、ハーグにある「常設仲裁裁判所」は、ロシ

アの元石油大手ユコスの経営破綻をめぐり、ロシア政府に対し約500億ドル(約5兆円)の元株主への支払いを命じる判決→ロシア政府は上訴の方針

– エネルギー憲章条約はエネルギー分野への投資を保護し、投資の国有化と没収を禁じている

• 7月31日、ロシアの石油会社「ユコス」の破綻を巡り、

欧州人権裁判所(仏ストラスブール)は、ロシア政府に19億ユーロ(約2,622億円)の元株主への損害賠償の支払いを命じる判決

• BP「これはロシア政府に対する判決であり、ロスネフチやBPに対するものではない」

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ロシア石油機関の変遷

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日本による対露制裁

• 7月28日:菅官房長官発表、8月5日発動

• ロシアによるクリミア併合やウクライナ東部の不安定化に関与している40個人や2団体の日本国内の資産を凍結する

– Chernomorneftegaz(ガス生産会社)も対象

– クリミア産品の輸入も制限

– リストも公開、但しローキーな対応

• 4月29日の第1回制裁では23名を対象

– この時はリストは公開せず

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ロシアによる対米・EU対抗制裁(8/5)

• 対象国:米、EU、加、豪、ノルウェー

– 肉類、魚介類、青果物、乳製品の輸入禁止

– 8月7日から1年間

– 日本は含まれず

– 「売らない」制裁より「買わない」制裁は即効

– スロバキア・フィツォ首相:制裁は無意味

– ハンガリー・オルバン首相:強硬姿勢の再考を

– フィンランド・ストゥッブ首相:対露制裁を導入せず。農業は補助。露との関係は善隣・互恵的

• ウクライナにロシア上空通過の禁止

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ウクライナによる制裁

• ヤツェニュク首相、資産凍結措置(8月8日)

– クリミア併合への支持やウクライナの領土的一体性侵害に係った172人、65法人、Gazpromも

• 「あらゆるリソースの通過の禁止の可能性」

– 露ガスの欧州への供給の一時停止を含む

– Naftogaz:ガスは供給し続ける(反対の立場表明)

– エネルギー憲章条約第7条「通過の自由の原則」(不合理な制限の禁止)に抵触の恐れ

• ウクライナ領内の通過パイプラインと貯蔵設備を欧米企業が49%を保有できる法案可決

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ウクライナを通過するガスパイプライン網

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ウクライナを通過するガスパイプラインと貯蔵設備

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メジャーズの対応(1)

• ExxonMobilは8月9日、東Prinovozemlesky‐1鉱区にてUniversitetskaya‐1号井試掘開始

• 作業期間:8月上旬~10月末

• リグはRosneftがノルウェーのSeadrill社と7月30日に契約、2022年まで6基のリグ使用可

• 既往契約であり、EU制裁の問題なし。

• ・探鉱段階の事業費は外資持

• ち、資金調達の問題なし

• ・米政府は黙認(事前合意?)

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バレンツ海が北極海ガス開発の最前線

EPNZ鉱区にはExxonが参加

8月18日Statoil とRosneftはバレンツ海中央部の7319/12鉱区のPingvin構造で試掘が開始

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2013年1月の鉱区付与の状況

2013年2月ExxonMobilはRosneftの持つ北極海鉱区に参加で合意

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メジャーズの対応(2)

• 制裁内容の精査、影響の分析に注力

• R/D Shell: ロシアでの上下流ビジネスを継続

– Bazhenov層開発をGazpromNeftと推進中

– 制裁の影響については一定の懸念

• BP: Rosneft株19.75%は維持

– BP全体の石油生産310万boe/dの32%が露から

• Total: Novatekの株式の買い進めを中止。Yamal LNG方針は8月末にパートナーと判断

– Novatek株18%を保有。19.4%まで買う権利あり

– NovatekとのYamal LNGは今年は$80億が必要

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ExxonMobil R/D Shell Statoil Total Eni BP国 米 英蘭 ノルウェー 仏 伊 英

主要な事業

・ Rosneftと 2011年協力で合意。Bazhenovシェールオ

イル、北極海・黒海開発、極東での LNG事業

・Gazpromと2010年

協力協定。北極海開,S‐2 LNGGazpromNeftBazhenov開発

・Rosneftと2012年協力,Barents海、オホー

ツク海探鉱、重質油シェールオイル開発

・ Novatek とYamal LNGを推

進、ハリヤガ油田のPS契約

・Rosneftと2012年協力協定。

バレンツ海と黒海で探鉱。South Streamで協力

・ BP 株 式19.75%をTNK‐BPを売却して取得

石油メジャーとロシアの関わり

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ロスネフチの対応

• 政府に$416億(1兆5,000億Rb)支援要請

• 2013年、TNK‐BPを$550億で買収

• 本年$120億、来年$170億の返済期限

• CNPCから前払い金$600億の内、この春$200億入金、あと$400億入金予定

• 資金調達でRosneftは基本的に安泰

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ロシアのLNG事業への影響

• サハリン2第3トレーン:LNG方式はShellのMCR(独Linde)で米APCI社の技術ではない

• Baltic LNG:Shell主導で問題ない

• サハリンLNG(Rosneft+ExxonMobil):LNG方式等はこれから決定。制裁の影響は不明

• ウラジオストックLNG:同様の状況

• Yamal LNG:2013年末FID、進捗度高い。2014年必要資金$80億。全体で$269億。中or印から調達か?株式9%を売却か?

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ロシアにおけるLNG事業

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更なる制裁はあるか?

• ウクライナ東部の展開如何によっては有り

• 米下院のマッコール国土安全保障委員長(共和党):ロシアには制裁の衝撃を吸収する力があるとし、米欧の制裁は「効果的ではない」と指摘。効果のある施策としてロシアの原油輸出を制裁対象にすべき。

– 現在のイランに対する制裁のような形態

• 特にEUからは経済的な影響が強すぎることから、同意は得られていない

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欧米以外の国々の対応

BRICS諸国や第3世界の国々がロシアのウク

ライナ政府への対抗を支持することはないが、これらの国々は、ロシアの行動が西側からの未曾有の圧力拡大に対する対応であったことを理解しており、「ロシア非難組」には参加していない。

中国は、ロシアのウクライナを巡る戦いが地域的な紛争ではなく、未来の世界のヒエラルキーの形成を巡る戦いであると考えている。

フョードル・ルキヤノフ(ロシアNow,2014/7/30)