キルギス共和国・カザフスタン訪問レポート

産業技術大学院大学 (AIIT) 中央アジアミッション参加報告(2017年9月―10月）

2017年1０月２１日

東京大学ホームカミングデー 国際機関銀杏会公開ワークショップ

産業技術大学院大学ERISE付置ユーラシア産業技術研究所 所長東京大学校友会国際機関銀杏会 共同代表

国際開発研究者協会（SRID）キャリア開発事業 担当幹事

中沢賢治

中央アジア・コーカサス地域における

産業人材育成に向けた新たな取り組み

産業技術大学院大学（AIIT)ミッションキルギス・カザク訪問

• 2015年10月の日本国総理大臣の中央アジア歴訪に当たり

各訪問国で発表された共同声明。日本型の工学教育による高度産業人材育成について日本の新たなイニシャティブを歓迎し、地元中小企業振興に向けて協力していくことを確認。

• 2016年に中央アジア諸国関係者が日本を訪問し、APEN事務総長であるAIITの前田充弘教授との協議がスタート。

• 2017年9月から10月にかけて前田教授を団長とするAIIT 調査団がキルギス共和国、カザクスタン両国を訪問。

• バランスのとれた経済構造実現のための地元中小企業の振興、輸出振興、日本企業の誘致に向けた協力について関係機関と協議。

APEN事務局の所在地である産業技術大学院大学

APENとは何か？

• 21世紀のアジア開発途上国の発展の鍵となるのは、主として製造業部門における優れた質の産業人材開発（i－HRD）。

• 大学（大学院）教育における産業人材開発方法としてPBL（Project Based Learning）型教育を発展させ、アジアに普及することを目的として2011年6月にAPENが設立された。

• 当初の加盟国は、日本（産業技術大学院大学）、中国（上海交通大学）、韓国（浦項工科大学校）及びベトナム（ベトナム国家大学）の4か国。2011年末までにカンボジア（カンボジア工科大学）、インドネシア（バンドン工科大学）、タイ（タマサート大学）、マレーシア（マレーシア工科大学）、ラオス（ラオス国立大学）、2012年にフィリピン（デラサール大学）、2013年にブルネイ（ブルネイ・ダルサラーム大学）、ミャンマー（ヤンゴン工科大学）、2014年にインド（グジャラート工科大学）が加盟。2017年4月の加盟国は13か国、加盟団体は上記13理事大学を含め33団体。

• 事務総長は日本の産業技術大学院大学国際交流室長前田充浩教授。

APENとキルギス投資委員会の提携を発表

ユーラシア産業技術研究所（EIIT）の設立

• EIITはAPENがASEAN諸国で展開している産業人材育成のアプローチを中央アジア・コーカサス地域に展開する。

• 中央アジア・コーカサス諸国、ASEAN諸国、日本の関係機関・

団体・企業をつないで高度産業人材育成、中小企業振興の分野での国際協力促進を目指す。

• 国際連合工業開発機関(UNIDO)、欧州復興開発銀行(EBRD)

で地元中小企業向けファイナンスと技術協力プログラムの責任者として積み重ねた経験を、EIITの活動のために役立てる。

ローザ・オトゥンヴァエバ元大統領との意見交換

産業人材育成について意見交換 JICAキルギス事務所

日本の技術協力ではバイオガス技術、道路維持管理、ＩＴ人材育成などが現地で高く評価されている。キルギス日本センター、青年海外協力隊員の活動も盛ん。日本・キルギス双方の関係機関と民間企業の交流を強化し、貿易・投資振興を図るために2009年８月に日本キルギス投資環境整備ネットワークが設立された。

中小企業支援に向けたEBRDとの協調

日本の資本参加の例キルギスコメルツ銀行との意見交換

キルギス共和国の最新事情

ジェエンベコフ新大統領

• 大統領は人気6年で再選禁止。

• 10月１５日、任期満了に伴う大統領選挙の結果、アタムバエフ大統領が後継指名したジェエンベコフ前首相（５８）が勝利。新大統領の就任式は１２月１日。

• ジェエンベコフ氏は南部オシ州知事などを経て、２０１６年４月に首相に就任（大統領選出馬のため今年８月に辞任）。アタムバエフ大統領の親露路線を引き継ぐ見通し。

街角のあちこちに大統領選のポスター

事実上の一騎打ちとなった富豪で野党候補のババノフ元首相は敗北を表明。

2度の危機を乗り越えた民主主義国

• 2005年の革命、2010年の政変と2度の大きな政治的変革を乗り越えて中央アジアの中で最も民主的な国。

• 大きな社会変動が春先に起きるのは、冬場の生活の厳しさを示す。

• 独立以来の課題である電力、道路などインフラ整備の遅れ、南の農村地帯と北の首都圏の格差拡大、不透明な行政運営により人々の不満が鬱積。

• 従前からの改革の遅れに加えて、世界経済危機の後、インフレの進行、出稼ぎ送金の減少、生活の逼迫が2010年の政変につながった。

• 出稼ぎ労働者によるロシア・カザフスタンからの送金の減少、これら2国への輸出の伸びが鈍化したことが今後の経済成長に影響を与えるものと予測される。

天山山脈の麓、湖と草原の国

国土の7割が山岳地キルギスの人口は590万人で中央アジア全体の９％。人口の７割を占めるキルギス人、14％のウズベク人、8％のロシア人の他にドゥンガン人など中国系の人もいる。日本の半分ほどのキルギスの国土の９割は標高1500メートルを越す山岳地帯。農地は国土の７％、森林は４％。

キルギス経済の課題

• 金以外の資源が限られている。中小企業の振興が課題。

• 国内市場の規模が小さい。中央アジア地域諸国との経済連携が課題。

• 小規模企業が多数を占める。競争力を強化するために経営効率の改善が必要。新規投資とアドバイスにより有力な小規模企業が中型企業へと成長することを目指す。

• 地元中小企業によるファイナンスへのアクセスを改善。とりわけ現地通貨ベースでのファイナンスの発展が鍵。

• 公益事業体の合理化と民間資本参加に向けた制度の整備も課題。これにより老朽化しつつある上下水道など自治体インフラの改善、電力設備設備の近代化が必要。

カザフスタンの最新事情

天山山脈の麓に位置するアルマーティ

カザフスタンの特色

• 130余りの多民族国家(カザフ人65％、ロシア人２０％）

• 広大な国土(世界第9位、中央アジアの7/10）

• 1800万人の人口(中央アジアの1/4)

• 豊富な化石燃料資源7500ドル/人(PPP25,000ドル/人）（購買力平価でロシアを抜き旧CIS諸国のトップ）

• 貧困率(20年間で40％から3％以下へ）

• 資源に依存した経済構造(石油輸出依存5割以上）

• 2014年の石油価格下落とルーブルの暴落で経済危機を経験

広大な国土

カザク経済発展の課題

• 農産品加工業などの中小企業への投資拡大により民間セクターの競争力の強化。公的部門の改革と国有企業の民営化も課題.

• 銀行セクターの強化と国内資本市場の発展により、民間企業のファイナンスへのアクセスの改善が鍵。

• カザクスタンと周辺諸国をつなぐ鉄道・道路網の整備。また国内における遠隔地域を活性化させるための運輸インフラ改善。

• 再生可能エネルギーの開発が重点課題。農業、エネルギー、産業の各セクターを通じて化石燃料への依存を低減することが課題(一人当たりCO2排出量世界6位）。

アスタナ空港

1997年より首都。黒川紀章氏による都市計画。2005年の空港新ターミナルも同氏のデザインによる新ターミナル。人口100万人のカザク第2位の都市。アルマーティから飛行機で1時間40分。

注目すべき点

• 政権移行の準備(大統領の高齢化 1940年7月出生）

• 国内の安定(国内経済格差の拡大からテロの動き）

• ガバナンスが課題（ 131位/176国中Transparency Internationalの指標による ）

• 資源に依存した経済構造からの脱却

アスタナ万博 未来のエネルギー

化石燃料への依存を低減することは重要な国内課題(一人当たりCO2排出量世界6位）。同時に国際社会での地位向上を目指したイベント。アフガン支援、アフリカ支援など国際協力への取り組みに熱心。

国立アルマーティエネルギー・電力技術カレッジAPENのASEAN諸国における経験について発表

今後の協力の可能性について教育科学省と協議