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みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号 中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化 収益力改善に向けて中堅・中小企業は何をすべきか [要 旨] 1. 大企業の収益力が改善する一方で、中堅・中小企業の収益力改善ペースは極めて緩慢 なものにとどまっている。その結果、大企業と中堅・中小企業の収益力格差は足元で 既往最高の水準まで拡大した。しかし個別企業に目を向けると、大企業を凌ぐ収益力 を確保している中堅・中小企業も一定割合存在する。近年の中堅・中小企業研究では、 こうした「発展性のある企業(=先進的な企業)」を対象とした研究が活発になって いる。とりわけグローバル化の進展を受けて従来の系列取引が揺らぐ中、「標準化・ モジュール化」を通じて取引構造の再構築に成功した企業への関心が高まっている。 2. 本稿は、中堅・中小企業における収益力低迷の背景に価格交渉力の弱さがあるとの認 識のもと、それをどのようにして高めるべきか、「標準化・モジュール化」を切り口 に分析したものである。分析にあたっては、京都大学経営管理大学院(末松千尋教授) と共同で実施した「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」の結果を用いた。 3. 具体的には、価格交渉力の優劣が企業業績に影響を及ぼしていることを確認したうえ で、標準化の取り組みが価格交渉力を高めるのに有効か否かを検証した。分析結果に よると、製造・情報・価格に関する標準化の取り組みが有意にプラスとなっており、 標準化の取り組みに積極的な企業ほど価格交渉力が高まる傾向にあることが示された。 4. ただし、両者の関係だけをみても、標準化の取り組みがなぜ価格交渉力にプラスの影 響を与えるのかが明確ではない。一般的に価格交渉力の優劣は製品の差別化状況に負 うところが大きいと考えられる。そこで、標準化の取り組みが製品差別化にどの程度 影響を及ぼすのかについて検証した。その結果、品質や新製品開発力を高めることが 価格交渉力に結びついていること、また両者を高めるには製造ならびに組織の標準化 が有効であることが明らかになった。 5. 標準化の取り組みが価格交渉力の向上、ひいては収益力の改善に結びつくかは経営者 の意識も重要な要素と考えられる。実際、標準化への取り組みと近代経営に対する意 識との関係についてみたところ、両者の間には強い相関が認められた。特に組織に関 する標準化は近代経営に対する意識の差による影響が大きく、経営者の経営改善に取 り組む姿勢が重要であることが示唆された。 経済調査部 シニアエコノミスト 太田 智之 * 研究開発部 主任研究員 辻 隆司 Tel * 03-3591-1242 E-Mail[email protected] [email protected] 1

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化影響を及ぼすのかについて検証した。その結果、品質や新製品開発力を高めることが

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みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化 ~ 収益力改善に向けて中堅・中小企業は何をすべきか ~

[要 旨]

1. 大企業の収益力が改善する一方で、中堅・中小企業の収益力改善ペースは極めて緩慢

なものにとどまっている。その結果、大企業と中堅・中小企業の収益力格差は足元で

既往最高の水準まで拡大した。しかし個別企業に目を向けると、大企業を凌ぐ収益力

を確保している中堅・中小企業も一定割合存在する。近年の中堅・中小企業研究では、

こうした「発展性のある企業(=先進的な企業)」を対象とした研究が活発になって

いる。とりわけグローバル化の進展を受けて従来の系列取引が揺らぐ中、「標準化・

モジュール化」を通じて取引構造の再構築に成功した企業への関心が高まっている。 2. 本稿は、中堅・中小企業における収益力低迷の背景に価格交渉力の弱さがあるとの認

識のもと、それをどのようにして高めるべきか、「標準化・モジュール化」を切り口

に分析したものである。分析にあたっては、京都大学経営管理大学院(末松千尋教授)

と共同で実施した「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」の結果を用いた。 3. 具体的には、価格交渉力の優劣が企業業績に影響を及ぼしていることを確認したうえ

で、標準化の取り組みが価格交渉力を高めるのに有効か否かを検証した。分析結果に

よると、製造・情報・価格に関する標準化の取り組みが有意にプラスとなっており、

標準化の取り組みに積極的な企業ほど価格交渉力が高まる傾向にあることが示された。 4. ただし、両者の関係だけをみても、標準化の取り組みがなぜ価格交渉力にプラスの影

響を与えるのかが明確ではない。一般的に価格交渉力の優劣は製品の差別化状況に負

うところが大きいと考えられる。そこで、標準化の取り組みが製品差別化にどの程度

影響を及ぼすのかについて検証した。その結果、品質や新製品開発力を高めることが

価格交渉力に結びついていること、また両者を高めるには製造ならびに組織の標準化

が有効であることが明らかになった。 5. 標準化の取り組みが価格交渉力の向上、ひいては収益力の改善に結びつくかは経営者

の意識も重要な要素と考えられる。実際、標準化への取り組みと近代経営に対する意

識との関係についてみたところ、両者の間には強い相関が認められた。特に組織に関

する標準化は近代経営に対する意識の差による影響が大きく、経営者の経営改善に取

り組む姿勢が重要であることが示唆された。

経済調査部 シニアエコノミスト 太田 智之*

研究開発部 主任研究員 辻 隆司 Tel*:03-3591-1242

E-Mail:[email protected] [email protected]

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中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

[目 次]

1. はじめに ···································································································· 3

2. 中堅・中小企業を巡る論点の整理 ··································································· 5 (1) 中堅・中小企業の経営課題と中小企業政策の変遷 ··········································· 5 (2) 中堅・中小企業に関する先行研究 ································································ 7 (3) 中堅・中小企業における標準化・モジュール化の意義 ····································· 9 (4) 本調査研究の問題意識と分析のフレームワーク ·············································12

3. 中堅・中小企業の取引実態と標準化等への取り組み ········································· 13 (1) アンケート調査の概要 ··············································································13 (2) 中堅・中小企業の取引実態 ··········································································14 (3) 中堅・中小企業における標準化の取り組み状況 ·············································17 (4) 中堅・中小企業の価格交渉力と企業業績 ······················································20

4. 標準化を通じた経営改善プロセスの検証 ························································ 25

(1) 利用する変数···························································································25 (2) 価格交渉力と企業業績 ··············································································28 (3) 標準化の取り組みと価格交渉力 ··································································29 (4) 標準化の取り組みと製品差別化 ··································································32

5. おわりに ·································································································· 35

2

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

1. はじめに 今回の景気拡大局面は 2008 年 1 月で丸 6 年が経過した。世界経済の減速や資源価格高騰

などから日本経済は 2007 年末に後退局面入りしたとの見方もあるが、いずれにしても「い

ざなぎ(57 カ月)」を超える戦後最長の景気拡大であることに変わりはない。長期にわた

る景気拡大の原動力となってきたのは、いうまでもなく好調な企業業績である。財務省「法

人企業統計季報」によると、2006 年度の企業業績は 5 期連続の増収増益を記録し、経常利

益額は 59.5 兆円とバブル絶頂期である 1989 年度の約 1.5 倍まで拡大した。2007 年度は 6期ぶりの減益となったものの、歴史的にみれば依然として高い利益水準を維持している。 このように企業業績全体が堅調に推移してきた一方で、大企業と中堅・中小企業の収益

力格差はむしろ拡大した。本業の収益力を示す売上高営業利益率(以下、利益率)をみる

と、大企業がバブル期のピークを上回り高度経済成長期の 1970 年代前半に迫る水準まで改

善したのに対して、中堅・中小企業はバブル崩壊直後の水準にようやくたどり着いたとい

うのが現状である(図表 1)。その結果、足元の利益率格差は 2.3%ポイントと 1970 年以

降で最大を記録した。 図表 1:売上高営業利益率と規模間格差の推移

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

70 74 78 82 86 90 94 98 02 06

大企業

中堅・中小企業

収益力格差

(注)後方4四半期移動平均値。 (資料)財務省「法人企業統計季報」

中堅・中小企業の収益力回復が遅れている(大企業との差が拡大している)一因として、

価格交渉力の弱さが指摘されている。中堅・中小企業は、販売先との価格交渉において影

響力が弱く、大企業に比べて原材料コストや人件費の上昇をカバーするだけの売上増を確

保することができないというものだ。 こうした中堅・中小企業における価格交渉力の弱さは損益分岐点比率の変化から確認で

きる。損益分岐点比率とは、利益がゼロとなる売上高の水準が現在の売上高の何%かを示

す指標であり、この比率が低いほど収益構造が強固であることを意味する。過去 3 年間に

おける損益分岐点比率の変化をみると、大企業が 4.4%ポイント改善(コスト要因:+8.0%

3

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

ポイント、増収要因:▲12.4%ポイント)したのに対して、中堅・中小企業の改善幅は 0.5%ポイントにとどまった(コスト要因:+10.8%ポイント、増収要因:▲11.2%ポイント)。

大企業に比べてコスト上昇に見合った増収効果を得られなかったことがその理由であり、

中堅・中小企業における価格交渉力の弱さを示唆する結果といえるだろう。 ただし個別企業に目を向けると、収益環境が厳しさを増す中で高いマージン率を維持し

ている中堅・中小企業も少なくない。実際、2006 年度決算が入手可能な企業(約 7.5 万社)

を対象に売上高営業利益率の分布状況をみたところ、二桁の利益率を確保した中堅・中小

企業が全体の約 6%を占めた(図表 2)。高収益企業の存在は、中堅・中小企業内で収益力

格差が生じていることを示すと同時に、やり様によっては中堅・中小企業でも高いマージ

ン率を確保できる可能性があることを示唆している。 図表 2:規模別にみた売上高営業利益率の分布状況

6.1%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

▲ 3

%

▲ 2

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▲ 1

%

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3%

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10%

中堅・中小企業 63457社 中位値1.18%

大企業 12207社 中位値3.83%

ェア

売上高営業利益率 (注)1.大企業は資本金10億円以上の企業。

2.2006年度決算が入手可能な企業(約7.5万社)を対象。 (資料)ビューロ・バン・ダイク社「ORBIS」

こうした状況を踏まえ、中堅・中小企業が収益力を高めるために何をすべきか、主要販

売先に対する価格交渉力強化という観点からその方策を検討することが本稿の目的である。

分析にあたっては 2007 年 8 月に京都大学経営管理大学院(末松千尋教授)と共同で実施し

た「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」の結果を用いた。同アンケート調査は、

主要販売先との取引関係や自社主要製品の差別化状況、企業業績の動向に加え、標準化へ

の取り組み状況について尋ねている。標準化1というと設計や部品・部材の規格化を想像す

る人も多いが、真の標準化はそれだけにとどまるものではない。企画・製造・販売の各工

程における作業手順の見直し、取引履歴を含む顧客情報の有効活用、またそれらに対応し

た組織作りや社員の意識改革などその対象は多岐にわたる。その中には巨額の費用をかけ

1 「標準化」については末松(2002)、具(2002)などが詳しい。

4

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

ずとも経営者の創意工夫で対応できることも多く、様々な資源制約に直面する中堅・中小

企業にとって現実的な対応策の一つといえる。本稿では、図表 3 に示すとおり、標準化の

取り組み状況に着目し、価格交渉力強化、ひいては企業業績向上への効果を検証した。 本稿の構成は以下の通りである。まず第 2 節では、中堅・中小企業を巡る諸問題の歴史

的経緯を押さえた上で、中堅・中小企業に関する先行研究の論点を整理し、本稿の位置づ

けや意義を明確にする。第 3 節では、本稿で用いるアンケート調査の概要を述べ、第 4 節

ではアンケート結果をもとに価格交渉力の優劣が企業業績にどのような影響を与えたかを

検証する。また、標準化の取り組みと価格交渉力の関係についても分析を行い、第 5 節で

これらの分析結果をまとめる。 図表 3:本稿が想定する経営改善プロセス

標 準 化 の取 り 組 み

開発・生産・営業の各プロセスにおける

業務の見直し

柔軟な組織の運営

情報・ノウハウを共有するインフラ整備

取 引 構 造

製品差別化

販路拡大

交渉力強化

企 業 業 績

売上増加

営業利益増加

マージン率改善

(資料)みずほ総合研究所作成

2. 中堅・中小企業を巡る論点の整理 (1) 中堅・中小企業の経営課題と中小企業政策の変遷 中堅・中小企業を巡る諸問題やその対応策としての中小企業政策は、これまで時代とと

もに変化してきた。とりわけ 1999 年に実施された「中小企業基本法」の改正は従来の中小

企業政策の大転換を図るものであった。中小企業は「弱者」であるとの認識を捨て、これ

までの保護・育成を中心とした施策展開から、中小企業のイノベーションを支援する競争

政策的なスタンスに大きく舵を切ったのである。実際、基本法改正を契機に、経営革新や

創業支援、産学連携等ネットワーク化の支援など、これまでとは異なる意図を持った施策

が多数打ち出されるようになった。 本節の目的は、中堅・中小企業の経営問題に関する論点整理を行い、本稿の位置づけを

明確にすることだが、それに先立って中小企業政策が転換するに至った経緯や背景を把握

することは論点を整理する上で非常に有益と考えられる。そこで以下では、近年の中小企

業政策の方向性を基礎付けた 1999 年の「中小企業基本法」の改正に至る歴史的経緯につい

て概観することとしたい。

5

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

わが国において、本格的に中小企業政策が展開されたのは、第二次世界大戦後の復興期

である。この頃における中堅・中小企業を取り巻く環境は厳しく、傾斜生産方式などの大

企業優先の産業政策が展開される中、インフレによる原材料調達難や信用力不足による資

金調達難に陥る企業が多かった。こうした中、中小企業を政策対象とした中小企業庁が

1948 年に設置され、中小企業を支援する施策が展開された。この頃の諸施策は、金融対策

としての信用保証制度が整備されるとともに、大企業と中小企業の取引関係の改善を目的

とした「下請代金法」が 1956 年に制定されるなど、中小企業保護を政策目的としたものが

主であった。 1960 年代に入ると、わが国は、設備投資主導型の経済成長により高度成長期を迎える。

この頃のわが国の産業構造は、重化学工業化の進展が鮮明になる中、大企業と中小企業の

取引関係が強化され、階層的な下請分業構造が形成(下請支配の強化)され始めた。産業

構造が高度化する中で、中小企業の近代化の遅れが懸念されるとともに、中小企業の過小

規模性や脆弱性が問題視されるようになった。こうした状況のもと、中小企業の近代化促

進を目的とした「中小企業近代化促進法」が 1963 年に制定され、中堅企業の育成を目的と

した中小企業の適正規模化政策も展開された。加えて、中小企業政策の基本理念を取りま

とめた「中小企業基本法(旧基本法)」が 1963 年に創設されるなど、この時期は、中小企

業の保護・育成を目指した施策が個別に展開されるとともに、その体系や目指すべき方向

性も明確にされた。 1970 年代に入ると、二度にわたる石油危機を契機にわが国経済は安定成長期へと移行し

始めたが、産業構造も重化学工業から知識集約型産業へとその重心が移り始めた。この頃、

時代の流れに乗り遅れたいわゆる「構造不況業種」に属する中小企業の経営問題が注目さ

れ、この問題に対応する諸施策が展開された。例えば、業態転換を促進する法律である「中

小企業事業転換対策臨時措置法(事業転換法)」が制定された。また、知識集約型産業へ

の転換を支えるべく、中小企業地域情報センターによる情報提供事業などの情報化促進策

も講じられた。 円高の進展により急速なグローバル化が進んだ 1980 年代後半に入ると、アジア諸国との

競争が激化し始めるとともに、親企業の海外進出等を背景に下請分業構造が流動化し始め、

中小企業を取り巻く環境は大きく変化した。この変化に耐えられない中小企業が苦しい状

況に追い込まれたが、これらの企業をサポートするべく、円高不況対策として「特定中小

企業者事業転換対策臨時措置法(新事業転換法)」が制定されたことに加え、海外進出促

進を目的した海外投資アドバイザー事業が展開された。このほか、中堅・中小企業のさら

なる知識集約化策として、「中小企業技術開発促進臨時措置法」や中小企業技術基盤強化

税制などが創設された。この頃の中小企業政策は、中堅・中小企業の国際競争力向上や海

外進出をサポートする施策など、事業環境の変化に合わせた産業調整政策が主流であった。 バブル経済が崩壊し長期の景気低迷が続いた 1990 年代以降は、取引の多様化(メッシュ

化)が進展し、日本型企業システムの特徴の一つであった従来の下請分業構造(系列取引)

6

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

が本格的に変化し始めた時代であるとされる。安定取引先を失った企業が経営難に陥り、

企業倒産が多発するなど、中小企業の多くは深刻な状況に陥った。しかし、一部では業績

好調な中小企業が現れるなど、業種・業態間、企業間において、二極化が鮮明になりつつ

あった。こうした傾向は、景気回復し始めた 2002 年以降においても続いており、近年にお

いても企業間格差の拡大が顕著となっているのは先述のとおりである。 この様な時代背景のもと、わが国の中小企業政策は保護育成的なスタンスから、競争政

策的なスタンスへと変化し始めることとなる。中小企業政策への競争政策的理念が初めて

登場したのは、1990 年 6 月に中小企業政策審議会企画小委員会が取りまとめた「90 年代

中小企業政策のあり方(90 年代中小企業政策ビジョン)」である。それから 9 年の長き月

日を経て、「中小企業基本法」改正という形で中小企業政策の新しい基本理念が具現化さ

れた。旧基本法においては、中小企業は低生産性、低賃金に陥っている問題を抱えた企業

であるとの認識に立っていたが、改正基本法では中小企業の位置づけが抜本的に変わり、

「新産業創出の担い手」、「就業機会増大の担い手」、「市場競争の担い手」、「地域経

済活性化の担い手」として期待されるようになった。すなわち、中小企業政策の理念が、

多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展の促進へと大きく転換し、中小企業は、わ

が国経済の発展において、積極的役割を果たしうる存在と位置づけられることになったの

である。ただし、改正基本法施行後も景気が低迷し、セーフティーネットの一環として中

堅・中小企業保護を求める声が強まったことから、新基本法の理念が具体的な施策に反映

されるのはさらに遅れ、2005 年の「中小企業新事業活動促進法」制定まで待つこととなる。

同法制定後に実施された諸施策は名実ともに競争的な色合いが強くなり、創業・新規事業

支援策や新規開拓促進策が積極的に展開される一方で、競争制限的不利是正策は姿を消す

ようになった。 以上のように、わが国の中小企業政策は、保護・育成中心の政策から、競争的政策へと

その重心が移り、現在では中小企業の多面性に着目し、きめ細かい対策を講じることで、

中小企業が経済の担い手となることを目指すものとなったのである(図表 4)。 (2) 中堅・中小企業に関する先行研究 わが国の中堅・中小企業に関する諸問題や政策の動向について概観したが、こうした動

きと連動するように、中堅・中小企業に関する先行研究の中心的なテーマも時代と共に変

化してきた。ここでは本稿の位置づけを明確にするため、わが国の中堅・中小企業に関す

る先行研究の体系を簡単に整理する。 わが国の中小企業研究は、世界的にみても古く、明治期から行われている。第二次世界

大戦前においては、二重構造論を代表とする中小企業の「問題性2」の解明が中心的なテー

マであり、存立条件論や存立形態論、下請工業論などの諸説が展開された。戦後において

は、中小企業の位置づけに関して議論された国民経済構造論や、そもそも中小企業とは何

2 ここでいう「問題性」とは、経営問題、金融問題、下請問題、輸出問題、転失業問題、その他社会・労

働問題等の諸問題を含むなど、幅広い分野を対象としていた。

7

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

かについてその定義を議論する中小企業認識論が展開される中で、末松(1961)や瀧澤

(1963)などにおいて、「問題性」を持たない中小企業の動向も注目され始めた。こうし

た研究が発展する中で、中小企業の多様性に着目した研究も現れ始めた。例えば、中村

(1968)によって、中小企業の枠を超えた「中堅企業」の概念が整理され、清成(1970)によって、企業のライフサイクルの創業時に着目した「ベンチャービジネス論」が展開さ

れた。 図表 4:中堅・中小企業を巡る諸問題及び政策動向等の歴史的経緯

時代区分 中堅・中小企業を 取り巻く環境等

中堅・中小企業の 主な問題・課題

主な政策動向

1945~1960年頃 (戦後復興期)

・ 大企業優先の産業政策(傾斜生産方式、集中生産方式)

・ 軽工業から重工業中心へ

・ 問屋制工業から下請制工業中心へ

・ 中小企業の企業系列化

・ 資金調達難の悪化 ・ インフレによる原材

料調達難 ・ 過当競争による経営

難 ・ 過剰労働力問題 ・ 二重構造問題の残存

【基盤的政策】 ・ 専門政策機関設置:中小企業庁設置 ・ 経営支援策:企業合理化促進法(中小企

業診断制度) ・ 金融対策:専門金融機関設置、信用保証

制度 ・ 競争保護策:中小企業安定法(不況カル

テルの容認) ・ 取引構造改善策:下請代金法

1960~1970年頃 (高度成長期)

・ 設備投資主導型の経済成長

・ 重化学工業化の進展 ・ 大企業と中小企業の

取引関係の強化

・ 中小企業の近代化の遅れ

・ 若年労働力不足 ・ 中小企業の過小規模

性 ・ 階層的な下請分業構

造の形成(下請支配の強化)

【産業育成政策】 ・ 基本理念の創設:中小企業基本法 ・ 中堅企業育成:中小企業の適正規模化

政策 ・ 近代化促進:中小企業近代化促進法 ・ 競争保護策:中小企業団体法(競争排除

カルテルの容認)

1970~1980年頃 (安定成長期)

・ 二度にわたる石油危機

・ 企業の国際化の進展 ・ 重化学工業から知識

集約型産業へ ・ 第一次ベンチャービ

ジネスブーム

・ 構造不況業種の発生 ・ 輸出関連中小企業の

経営悪化

【産業構造政策】 ・ 業態転換促進:中小企業事業転換対策

臨時措置法、特定中小企業者事業転換対策臨時措置法

・ 情報化促進:中小企業地域情報センターによる情報提供事業

1980~1990年頃 (円高、グローバル化)

・ 日本型企業システムの確立

・ 急激な円高、内需主導型産業構造への転換

・ バブル経済の発生 ・ 第二次ベンチャービ

ジネスブーム

・ グローバル化の進展 ・ 親企業関連下請企業

の海外進出 ・ 国内下請構造の流動

化 ・ アジア諸国との競争

激化 ・ 系列取引問題の発生 ・ 企業間経営力格差、情

報力格差の発生

【産業調整政策】 ・ 海外進出促進策:海外投資アドバイザ

ー事業 ・ 知識集約化策:中小企業技術開発促進

臨時措置法、中小企業技術基盤強化税制の創設

・ 円高不況対策:新事業転換法 ・ 金融対策:中小企業投資育成株式会社

1990~現在 (景気低迷期)

・ バブル経済の崩壊 ・ キャッチアップ型経

済の終焉、日本型企業システムの崩壊

・ 企業倒産の多発 ・ 第三次ベンチャービ

ジ ネ ス ブ ー ム 、「SOHO」「マイクロビジネス」の出現

・ 設備投資低迷 ・ 開業率の低下、中小企

業の倒産増加、開廃業率逆転

・ 資金繰りの悪化 ・ 下請分業構造の変化

(国内下請取引の縮小)

・ 企業間格差の拡大

【競争政策】 ・ 競争政策理念の付与:中小企業基本法

改正 ・ 新規開拓促進策:新分野進出円滑化法 ・ 経営革新促進策:中小企業経営革新支

援法 ・ 創業・新規事業支援策:中小企業創造

活動促進法、新事業創出促進法(創業段階支援)

・ 金融対策:投資事業有限責任組合制度、新興企業向け株式市場の創設

競争的政策中心

保護・育成的政策中心

(資料)松井(2004)、黒瀬(2006)をもとにみずほ総合研究所作成

8

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

近年では大企業との格差問題などを受けて、中堅・中小企業の「問題性」を追及する研

究が深化する一方、「問題性」を持たない「発展性」のある中小企業(=先進的かつ優良

な中堅・中小企業)を対象とした研究が活発になっている。同時に、そうした「問題性」

や「発展性」の原因を中堅・中小企業それぞれの行動や意思決定過程に求める「内的要因3」

に着目した研究も増え始めた。中小企業の抱える問題や役割の解明の糸口を、中小企業の

経営内部に求めた研究としては清成(1997)が代表的である。また、瀧澤(1996)では、

今後の研究課題として、中小企業の発展性を阻害する内的要因の分析が重要であると指摘

している。中小企業庁が取りまとめた平成 18 年度中小企業白書においても、販売先との取

引関係に着目した分析が行われるなど、内的要因の重要性に対する認識が益々高まりつつ

あるのが昨今の潮流といえよう。 (3) 中堅・中小企業における標準化・モジュール化の意義 加えて、こうした内的要因を分析する切り口として、近年「標準化・モジュール化」が

注目を集めている。資源制約の多い中堅・中小企業が競争力を高めるためには、外部との

ネットワークを通じて自社に不足する経営資源をいかに補うかが重要となるが、そのため

の必要条件として「標準化・モジュール化」の導入が不可欠との考えが背景にある。製造

業において「標準化・モジュール化」という言葉自体に目新しさはないが、近年の議論で

は従来にない役割が期待されているようである。そこでまず「標準化・モジュール化」の

考え方についてあらためて整理することにしたい。 「標準化・モジュール化」の原初的概念としては、アダムスミスの古典的分業論から始

まるとされる。生産工程を細かく区分(=モジュール化)し、特定の作業に特化すること

で生産性を高めるというものである。それぞれの工程(=モジュール)は、製品仕様や設

計、取引方法など様々な取り決めを定めた連結ルール(=標準化されたルール)で結ばれ、

全体として機能する。 しかし、青木・安藤(2002)によると、近年では、①与えられた連結ルールの範囲内で

モジュール自体が高度化・複雑化するケースや、②モジュール間の決め事である連結ルー

ルも進化的に発展するケース、また、③これらのモジュールが革新競争を繰り広げること

で下位工程に位置するモジュールの地位が相対的に上昇するケースなども散見されるよう

になってきたという。こうした進化に合わせて青木・安藤(2002)、Aoki(2001)では、

「標準化・モジュール化」の概念として次の三つの基本類型を提示した。これを本稿の議

論に即して解釈すると、以下のとおりとなる(図表 5)。 一つが従来の下請け構造に比較的近い「ヒエラルキー的分割」である。これは、IBM/

360 の開発の折に採用された方式で、この場合、様々な取り決めを定めた連結ルールは、

上位工程がトップダウンで決定する。全体の生産ラインにおいて下位工程を担うモジュー

ルは、与えられた連結ルールのもと、業務、ノウハウ等を高度化・複雑化させる。

3 「内的要因」に対して、当該企業が属する市場環境やマクロの景気動向など個別企業が影響を及ぼしえ

ない(経営に際して与件となる)要因を「外的要因」という。

9

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 4:モジュール化の3つの基本型

① ヒエラルキー的分割(IBM/360 型)

下位工程1 〈モジュール1〉

上位工程

下位工程2 〈モジュール2〉

システム情報

個別情報 個別情報

連結ルールは、上位工程がト

ップダウンで決定

連結ルールのもと、

各下位工程(モジュ

ール)は、業務を高

度化・複雑化させる

≪連結ルール≫

② 情報同化型連結(トヨタ型)

③ 情報異化型・進化的連結(シリコンバレー型)

(注)システム情報、個別情報の定義の詳細は、Aoki(2001)を参照。

下位工程1 〈モジュール1〉

上位工程

下位工程2 〈モジュール2〉

システム情報

個別情報 個別情報

連結ルールは、上位工程の指示のも

と、下位工程(モジュール)との間

で情報交換され、常にファインチュ

ーニングされる

連結ルールのもと、各

下位工程(モジュー

ル)は、業務を高度

化・複雑化させる

≪連結ルール≫

フィードバック

個別情報 個別情報

モジュール2 モジュール2

マネージャー マネージャー 上位工程

システム情報

各工程(モジュール)は、同時並

行的に複数存在し、独立に活動す

る。各工程(モジュール)は、常

に最適なモジュール結合を模索す

る。

連結ルールのもと、各

下位工程(モジュー

ル)は、業務を高度

化・複雑化させる

≪連結ルール≫

フィードバック・ノウハウの共有

下位工程2 〈モジュール2〉 モジュール2

モジュール2 下位工程1

〈モジュール1〉

個別情報 個別情報

個別情報 個別情報

(資料)青木・安藤(2002)を参考にみずほ総合研究所作成

10

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

また、上位工程からの指示のもと連結ルールが一旦形成されるが、開発・生産途中にお

いて、上位工程と下位工程との間で情報交換が行われ、連結ルールが見直されるのが、二

つ目に示された「情報同化型連結」である。これはトヨタの開発方式として知られている。 そして三つ目がシリコンバレー型モデルと称される「情報異化型・進化的連結」である。

この類型では、上位工程あるいは下位工程を担うモジュールが、同時並行的に複数存在し、

それぞれ独立に活動する。こうした環境の中で、各モジュールは、常に最適な取引相手(=

モジュール結合)を模索し、目的に応じた生産形態が形成される。この場合、下位工程に

位置していたモジュールは、複数の相手と取引することも可能になるため、下請的な従属

関係から開放され、相対的な地位が上昇する。この結果、各工程間の上下関係が希薄化す

ることになる。 以上が基本的な類型であるが、そこで想定されているモジュールや連結ルールは、企業

間に限らず、企業内の組織などにもあてはまる広い概念である。すなわち、標準化・モジ

ュール化を適用できる範囲は非常に幅広いことを意味する。実際、標準化・モジュール化

が、適用可能な工程や範囲は、設計や部品・部材の規格化だけにとどまらない。末松(2002)(2005)4では、企画・製造・販売の各工程における作業手順や取引履歴を含む顧客情報の

共有化はもとより、それらを効率的に運営し活用するための組織体制やビジョン、戦略等

までを含めて包括的に議論することが可能であると主張している。また、具(2002)によ

ると、製品のモジュール化を行うためには、既存組織の内部あるいは外部に分散された知

識の統合化が必要であると指摘している。さらに、古川(2005)は、情報技術を活用して

進める場合においても、組織のモジュール化が必要不可欠であるとしている。すなわち、

最近の標準化・モジュール化の議論は、製品・部品だけでなく、組織や意思決定プロセス

等も標準化・モジュール化することが重要であるとの認識がコンセンサスとなっている。 こうした視点は、大企業に限った話ではない。その対象は、中堅・中小企業にも広がっ

ている。太田(2006)によると、企業取引の標準化・モジュール化の進展により、中堅・

中小企業も既に他社との取引や自社の事業運営等において様々な影響を受けつつある。例

えば、製造業間の取引においては、完成メーカーサイドでは、部品の標準化に伴い調達先

の絞込みが進んでいるとのことである。また、サプライヤーサイドでは、こうした環境の

中で長期取引先を安定確保するために、自社の経営資源について標準化やモジュール化を

進めることで、QCD5のレベルアップ(品質向上、コスト削減、短納期)を図っている。一

方で、製品・部品の標準化を進め、取引先を増やすことで特定取引先への依存体質を改善

しようとする企業も増えているようである。 このように、わが国の中堅・中小企業においても、標準化・モジュール化への対応、と

4末松(2002)では、企業間取引全体の中で自社をモジュールの一つとして位置づけることの重要性を指摘

するとともに、標準化・モジュール化の効果(=ネットワークの外部性効果)を最大限引き出すために

は自社内のあらゆる経営資源(部品や設計図にとどまらず生産ノウハウや組織、人員に至るまで)をモ

ジュール化する必要があるとしている。 5QCDとは、「Quality:品質」、「Cost:コスト」、「Delivery:納期」を略したもの。

11

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

りわけ組織や意思決定プロセス等への適用が、競争力を高める上で重みを増しているとい

えるだろう。 (4) 本調査研究の問題意識と分析のフレームワーク これまでみてきたとおり、わが国の中堅・中小企業を対象とした研究においては、企業

の成長を捉えた「発展性」や、企業の行動を規定する「内的要因」を解明する重要性が高

まりつつある。また同時に、グローバル化が進展し従来の系列取引が揺らぐ中で、標準化

やモジュール化を通じた取引構造の再構築に関心が集まっている。本稿は、中堅・中小企

業の収益力を高めるための方策を検討するにあたって、中堅・中小企業の取引構造等と「標

準化・モジュール化」の導入状況を関連付けて分析するものであり、その点において時宜

を得た取り組みといえるだろう。また、筆者の知る限りにおいて、両者の関係を定量的に

把握しようとする試みも既存研究では見当たらない。 次節以降、企業成長の源泉である「価格交渉力」と経営内部面における「標準化への取

り組み状況」の関係に着目しながら、中堅・中小企業の収益力が低迷している「内的要因」

の分析を進めていく。こうした分析を行う背景には、前掲図表 3 で示した経営改善プロセ

ス(標準化→取引構造→企業業績という波及パス)が機能しているかどうか、機能してい

ないとすれば何が阻害要因となっているのかを、経営者の取り組み姿勢も含めて検証した

いとの問題意識がある。 実際、これらの波及パスを個々に確認することで、中堅・中小企業が標準化・モジュー

ル化を進める上で、課題がどこにあるのかが明確になると期待される。例えば、経営者の

取り組み姿勢にそもそも問題がある(近代経営に対する意識が希薄な)場合は、標準化に

取り組む以前の問題として、経営近代化の意義を理解するところから始める必要がある。

また、意識は高いが、標準化への取り組み度合いが低い場合は、標準化に対する理解不足

(標準化の意味やその効果など)が原因と考えられる。また、標準化への取り組みは積極

的であるにも関わらず、価格交渉力の向上等の取引構造に結びついていない場合は、標準

化の手段や手順(ノウハウ)に問題があることになる。そして、価格交渉力などの取引構

造が改善しているにも関わらず、企業業績に結びついていない場合は、市場環境が悪化し

ているなどの外的制約要因が収益低迷の一因となっている可能性が高い。 最後に、本稿で「標準化・モジュール化」を取り上げるもう一つの理由に、経営改善策

としての汎用性の高さを指摘しておきたい。わが国の中堅・中小企業研究、とりわけ製造

業の研究においては、当該企業独自の技術や専門性の高さに注目するものが多い。しかし、

そうした技術や専門性は全ての中堅・中小企業が持ちうるものではなく、わが国全体でみ

た効果は自ずと限られてしまう。その点、「標準化・モジュール化」という経営手法につ

いては、技術の有無に関係なく、経営者の意識次第でその裾野は広がる可能性がある。 高い技術力を有しグローバル企業の仲間入りを果たした中堅・中小企業(グローバル

SME's:Small and Medium Enterprises)の中には、こうした経営手法をいち早く取り入

れた企業も少なくない。その点において、本稿における分析結果は、世界に通用する技術

12

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

のシーズを有しながらも上手く業績に結び付けられないグローバルSME's予備軍はもとよ

り、その域にまで達していない企業の底上げにも有益な情報になると思われる(図表 6)。 図表 6:本稿分析が対象とする中堅・中小企業のイメージ

グローバルSME's

グローバルSME's予備軍(高い技術力)

想定するターゲット

(資料)みずほ総合研究所作成

3. 中堅・中小企業の取引実態と標準化等への取り組み (1) アンケート調査の概要 実証分析に先立って、本節では、中堅・中小企業の取引実態や標準化の取り組み状況に

ついて概観する。 本稿の分析で用いるのは、みずほ総合研究所が京都大学経営管理大学院(末松千尋教授)

と共同で 2007 年 8 月に実施した「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」(以下、

「みずほ・京大アンケート調査」)と、東京商工リサーチの企業情報データベースである。

みずほ・京大アンケート調査では、主要販売先との取引関係や自社主要製品の差別化状況、

標準化の取り組みや経営者の近代経営に対する考え方などを把握することを目的に、全国

の中堅・中小製造業 6,903 社(全国 5904 社、京都 996 社(無作為抽出))に調査票を郵

送し、1,283 社から有効回答を得た。 分析に際しては、製造過程における企業間取引に対象を絞るため、製品分野が完成品と

回答した企業はサンプルから除外した。また、製品分野が部品や素原材料であっても、主

要販売先が製造業以外(大多数が卸売・小売)のサンプルについては、価格交渉力を正当

に評価することが難しいため分析対象から外している。その結果、今回の分析対象は 636社となった(図表 7)。

13

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 7:本稿におけるアンケート調査の分析対象

<有効回答企業>1283社

<製品分野>部品・素原材料

748社

<主要販売先>製造業

636社

今回の分析対象

(資料)みずほ総合研究所作成

636 社の基本属性をみると、業種では金属製品製造業が全体の 21.4%を占めている。次

いで、電気機械器具製造業(12.4%)、輸送用機械器具製造業(11.7%)、プラスチック

製品製造業(10.7%)の順となっている。資本金では、1,000 万円超 5,000 万円以下の企業

が、48.4%と約半数を占めた。300 万円超 1,000 万円以下が 20.6%で続き、5,000 万円超 1億円以下の企業が16.2%とこれら3区分で全体の8割超を占める。従業員数規模をみると、

60人未満の企業が 51.1%と過半数を占めており、全体の 7割超が 100人未満となっている。 (2) 中堅・中小企業の取引実態 まず、中堅・中小企業の取引実態についてみてみよう。図表 8 は、販売先、調達先、外

注先のそれぞれの取引先数の増減について、10 年前と比べたときの傾向について聞いたも

のである。これをみると、販売先数は、「増加」、「やや増加」を合わせると、全体の 58.7%を占め、6 割近くの企業が取引先数を増やしていることがわかる。調達先数では、「変化

なし」とする回答企業が 44.4%を占め最も多くなっているものの、「増加」、「やや増加」

を合わせた割合は、全体の 47.2%を占めており、多くの企業において調達先も増加してい

ることがわかる。また、外注先数においても「変化なし」とする回答企業が 43.0%と最も

多く占めているが、「増加」、「やや増加」を合わせた割合は、全体の 36.5%を占めてお

り、「減少」、「やや減少」を合わせた割合が、全体の 20.5%にとどまっていることを勘

案すると、外注先も増加している企業が比較的多いことがわかる。 これは、1990 年代以降の長期にわたる景気低迷やグローバル化の進展を受けて、わが国

産業構造の特徴のひとつであった日本型企業システムが崩壊し、系列企業間の取引が希薄

化した、いわゆる「メッシュ化」の進展を示唆する結果といえる。

14

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

図表 8:販売先・調達先・外注先の変化(10 年前比)

14.9%

27.8%

44.4%

43.0%

41.7%

37.2%

28.3%

17.0%

10.0%

8.2%

5.9%

10.3%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

販売先

調達先

外注先

減少 やや減少 変化なし やや増加 増加

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

しかし、売上高に占める主要販売先の割合を尋ねたところ、10 年前と比較して「増加傾

向」もしくは「やや増加傾向」と回答した企業が過半(51.7%)を占めており、むしろ主

要販売先への依存度は高まっている(図表 9)。販売先の多様化は徐々に進みつつあるも

のの、それが主要販売先への依存度低下(下請け脱却)まではつながっていないのが現状

といえる。 図表 9:主要販売先への依存度の変化(10 年前比)

減少

4.1%やや減少

14.9%

増加

21.5%

横ばい

29.3%やや増加

30.2%

n=610

n=632

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

15

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 10 は、販売価格や納入期日、納入回数、支払い条件などの取引条件決定において、

主要販売先と自社のどちらに決定権があるかを示したものである。この結果をみると、販

売価格の決定方法については約 6 割の企業が双方の合意によるものと回答しており、主要

販売先が決定していると回答した企業は全体の 3 割程度にとどまった。しかし、これが主

要販売先に対する真の価格交渉力を示していると判断するのは早計だろう。実際、納期期

日や納期回数、支払期日や支払条件に関しては、6 割超の企業が主要販売先主導で決定さ

れると回答している。また、設計書の所有権については 5 割の企業が主要販売先の意思に

委ねているのが現状であり、製品販売に関しても 8 割超の企業が主要販売先以外に販売す

ることができないと回答するなど、依然として主要販売先が強い交渉力を維持している様

子がうかがえる(図表 11)。 図表 10:主要販売先との取引関係

61.2%

61.5%

69.4%

62.0%

33.1%

36.7%

36.2%

35.2%

58.8%

23.1%

2.8%

1.5%

1.8%4.6%

2.8%

6.8%

0.7%

0.5%

1.3%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

取引条件の決定方法

④支払条件

取引条件の決定方法

③支払期日

取引条件の決定方法

②納期回数

取引条件の決定方法

①納期期日

販売価格の決定方法

主要販売先が決定 双方の合意 自社が決定 その他

主要販売先の交渉力が依然強い・・・・・

n=605

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

16

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

図表 11:製品を他社に販売する権利

双方が保有・他社販売可

3.4%

自社が保有・他社販売可

9.9%

主要販売先が保有・他社販

売可4.9%

主要販売先が保有・他社販

売不可72.0%

その他2.1%

双方が保有・他社販売不可

3.3%

不明確4.4%

他社への販売が可能なのは2割弱・・・

n=605

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

(3) 中堅・中小企業における標準化の取り組み状況 次に、近代経営に対する意識と標準化への取り組み状況について確認してみよう。近年、

高収益・高成長を実現した企業に共通してみられる経営スタイルの特徴をまとめると、①

自社が保有する技術や経営ノウハウを標準化・モジュール化し、②組織内(従業員間)で

情報やノウハウを共有するとともに、③これらを製品開発や販売活動に活かすなど、独自

の取り組みを通じて、従来型の取引構造(下請け)の転換(=オープンな取引関係の構築)

を図っている点にあるとされる。また、こうした企業では、職務においてデータや論理が

重視されるとともに、社員に対する職務内容が明確化されるなど、近代的な経営スタイル

を有していることが多い。以下では、みずほ・京大アンケート調査結果を用いて、その実

態を明らかにする。 図表 12 は、近代経営に関する意識を尋ねた結果である。これをみると、「データや論理

を重視」、「多面的に広く取引すべき」、「会社関係は相互に自立すべき」、「最大限権

限を委譲する」の各項目については、「積極的である」、「やや積極的である」とする回

答企業を合わせると、全体の 5 割程度となっている。「積極的である」に限ってみれば、

いずれも 3 割以下の水準にとどまっている。

17

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 12:近代経営に関する意識

44.5%

28.0%

26.3%

35.4%

39.9%

19.3%

41.5%

45.1%

41.0%

11.9%

29.9%

27.7%

16.2%

27.2%

3.3%

25.9%

22.2%

19.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

最大限権限を委譲する

会社関係は相互に自立すべき

多面的に広く取引すべき

データや論理を重視

知識や技術、ノウハウをマニュアル化

個性的な社員を評価

合理的な管理指導を徹底

社員に対する職務内容を明確化

標準化優先の業務処理

やや積極的 積極的

56.4%

57.9%

53.9%

51.6%

67.1%

22.6%

67.5%

67.3%

60.2%

n=636

(注)1.アンケート調査票の問 16①~⑨での各回答のうち、“5”を“積極的”、“4”を“やや 積極的”として集計。

2.図表中の太字斜体数値は、“やや積極的”“積極的”の割合を合計した数値を示す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

また、「標準化優先の業務処理」、「社員に対する職務内容を明確化」、「合理的な管

理指導を徹底」、「知識や技術、ノウハウをマニュアル化」については、「積極的である」、

「やや積極的である」とする回答企業を合わせると 6 割を超える水準に達しているが、「積

極的である」に限ってみれば、やはり、いずれも 3 割以下の水準にとどまっている。「個

性的な社員を評価」に至っては、「積極的である」、「やや積極的である」を合わせても

22.6%となっており、他の項目に比べると大幅に低くなっている。以上のように、わが国の

中堅・中小企業における近代経営に関する意識は、多くの項目について一定の水準に達し

ているものの、現状以上に意識を高める余地はありそうである。 なお、ここでの分析では、主に下請企業を対象にするべく、部品・素原材料を生産し、

主要販売先が製造業である企業(636 社)に絞り込んでいるが、今回のアンケート調査で

得られた有効回答企業全体(1,283 社)を対象に同じ分析を行った結果では、いずれの項目

についても図表 12 の結果を上回っていた。すなわち、製造業全体に比べると、下請業務に

従事している割合が高いと思われる当サンプルの方が、近代経営に関する意識は相対的に

低いといえる。この結果からも今回の分析対象企業群については、近代経営に関する意識

を高める余地は大きいと考えられる。

18

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

また、標準化への取り組み状況について確認すると、まず、「アフターサービスメニュ

ー及び価格の表示」、「初期費用に関するサービスメニュー及び価格の表示」に関する取

り組み状況は、「積極的である」、「やや積極的である」とする回答企業を合わせても 3割を下回っている(図表 13)。その他の項目については、概ね 5 割を超えているが、「積

極的である」とする回答企業に限ってみれば、概ね 2 割を下回る水準であり、標準化への

取り組み度合いは高くない。 図表 13:標準化の取組み状況

43.7%

42.0%

40.6%

45.9%

48.3%

41.4%

23.4%

24.2%

58.0%

48.3%

20.0%

14.8%

11.3%

20.0%

18.7%

7.9%

4.2%

3.3%

23.9%

19.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%

基本設計の標準化

部品の規格化・モジュール化

規格化・モジュール化に

対応した生産ライン設置

顧客情報や取引履歴の

データベース化

標準化した技術やノウハウを

共有するインフラ整備

標準価格の設定とオプション価格の表示

初期費用に関するサービスメニュー及び価格の表示

アフターサービスメニュー

及び価格の表示

業務改善・標準化に対する

社員の意識改革

所属を超えた柔軟な組織運営

ある程度取り組んでいる 積極的に取り組んでいる

67.3%

81.9%

27.7%

49.2%

27.5%

67.0%

65.9%

51.9%

56.8%

63.7%

n=636

(注)図表中の太字斜体数値は、“やや積極的”“積極的”の割合を合計した数値を示す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

この結果を踏まえると、わが国の中堅・中小企業における標準化への取り組み状況は、

製造プロセスの標準化についてはある程度導入が進んでいるが十分な水準に達していない

といえそうだ。販売・サービス面の標準化に至っては、ほとんど進んでいないのが現状の

ようである。このため、先述の近代経営に関する意識と同様に、中堅・中小企業における

標準化への取り組みは、依然として導入余地が大きいと推察される。 次に、近代経営に対する意識と、標準化への取り組み状況との関係について分析した。

ここでは、分析結果を簡潔にするために、9 項目に区分されている近代経営に関する意識

について、総合得点を算出することで総合指標化した。今回のアンケートでは、近代経営

に対する意識について各項目別に「消極的である」から「積極的である」までの 5 段階(1~5)の回答を得ており、積極性が高い企業ほど得点が高くなっている。対象の 9 項目につ

19

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

いて、それぞれの回答結果を回答企業ごとに合計し、総合得点を算出することで近代経営

に関する意識を総合指標化した。 また、10 項目に区分されている標準化への取り組み状況については、全ての項目との関

係について分析すると煩雑になるため、主要なものを抽出した。ここでは「基本設計の標

準化」、「部品の規格化・モジュール化」、「顧客情報の DB 化」の 3 つの取り組みを取

り上げる。 図表 14 はクロス集計の結果である。これをみると、「基本設計の標準化」、「部品の規

格化・モジュール化」、「顧客情報の DB 化」のいずれも、近代経営への意識が高い企業

ほど、標準化の導入について積極的に取り組んでいる傾向がみられた。特に、「基本設計

の標準化」と近代経営の意識レベル、「部品の規格化・モジュール化」と近代経営の意識

レベルとの間で顕著な正の相関がみられ、取り組みに際して近代経営に対する意識の相違

が影響していることがみてとれる。 (4) 中堅・中小企業の価格交渉力と企業業績 それでは、標準化への取り組みとその効果についてはどうだろうか。ここでは価格交渉

力強化という点からその効果についてみることにしたい。 既にみたとおり、中堅・中小企業の主要販売先に対する交渉力は総じて低い。価格決定

方法については、6 割弱の企業が双方合意と回答しているが、他の取引条件の過半を主要

販売先が決定している状況に鑑みると、実際の価格交渉力は回答結果以上に低いと考えら

れる。そこで本稿では、標準化への取り組みとの関係をみるにあたって、価格交渉力を価

格決定方法だけでなく、他の取引条件の決定方法も勘案して総合的に評価した。具体的に

は、価格や納入期日、支払い方法など各項目の決定方法を自社の決定権に応じて 5 段階で

評価し(自社の決定権が強いほど点数が高い)、価格決定方式のウェイトが全体の半分を

占めるように重み付けをして総合得点を計算した。総合得点化については、前掲図表 10 の

5 項目を対象に算出した。 このようにして求めた価格交渉力(得点が高いほど価格交渉力が高い)をもとに、サン

プルを 4 分割し、標準化への取り組み状況をみたのが図表 15 である。これをみると、「基

本設計の標準化」、「部品の規格化・モジュール化」、「顧客情報等のデータベース化」

のいずれも取り組みを積極的に行っている企業ほど、価格交渉力が高くなっていることが

確認できる。

20

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

図表 14:近代経営への経営者の意識と標準化への取組み状況との関係

《基本設計の標準化との関係》

近代経営への経営者の意識

(総合得点)

42.4%

31.1%

24.8%

22.0%

49.6%

49.7%

51.8%

39.8%

7.9%

19.2%

23.4%

38.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

低い

やや低い

やや高い

高い

取り組んでいない ある程度取り組んでいる

積極的に取り組んでいる

n=561

《部品の規格化・モジュール化との関係》

47.1%

38.0%

34.3%

27.8%

47.8%

49.4%

47.8%

41.7%

5.1%

12.7%

17.9%

30.4%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

低い

やや低い

やや高い

高い

取り組んでいない ある程度取り組んでいる

積極的に取り組んでいる

近代経営への経営者の意識

(総合得点)

n=553

《顧客情報等のデータベース化との関係》

40.4%

31.8%

20.3%

17.6%

51.1%

47.6%

51.4%

50.4%

8.5%

20.6%

28.3%

31.9%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

低い

やや低い

やや高い

高い

取り組んでいない ある程度取り組んでいる

積極的に取り組んでいる

近代経営への経営者の意識

(総合得点)

n=568

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

21

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 15:標準化への取組みと価格交渉力との関係

《基本設計の標準化との関係》

36.8%

31.1%

20.4%

10.9%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

積極的

やや積極的

やや消極的

消極的

標準

化へ

の取

り組

低い やや低い やや高い 高い

n=530 《部品の規格化・モジュール化との関係》

44.2%

28.5%

22.2%

13.6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

積極的

やや積極的

やや消極的

消極的

標準

化へ

の取

り組

低い やや低い やや高い 高い

n=520 《顧客情報等のデータベース化との関係》

50.7%

26.7%

23.4%

16.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

積極的

やや積極的

やや消極的

消極的

標準

化へ

の取

り組

低い やや低い やや高い 高い

n=517 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

22

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

次に、価格交渉力と企業業績の関係についてみてみよう。先述のとおり、価格交渉力が

高まれば、企業業績も相対的に良好と想定されるが、今回のアンケート結果では次のとお

りとなった。 図表 16 は、価格交渉力と企業業績の推移との関係について分析したものである。まず、

上段の売上高の推移との関係をみると、価格交渉力が高い企業ほど、売上高が増加する傾

向がみられるものの顕著な結果は得られなかった。また、下段の営業利益の推移との関係

をみても売上高の推移との関係と同様に、価格交渉力が高い企業ほど、営業利益が増加す

る傾向がみられるが、緩やかな関係にとどまっている。価格交渉力と売上高の推移との関

係にしても、営業利益の推移との関係にしても、価格交渉力の第 1 分位から第 3 分位に限

れば、正の相関関係がみられるが、第 4 分位については、その傾向に反する結果となって

いる。このように、価格交渉力と企業業績の推移の関係は、概ね正の相関を持っているよ

うに見受けられるが、その関係は緩やかといえるだろう。この理由として、4 節でも詳述

するが、今回のアンケートの調査時点(2007 年 9 月)と企業業績の推移の比較期間(10年前との比較)の景況感の差が影響している可能性が考えられる。10 年前の 1997 年は消

費税率の引き上げ、大手金融機関の破綻、アジア通貨危機など中堅・中小企業を取り巻く

環境は大変厳しかった。当時に比べ現在の業績回復感は著しいものがあり、価格交渉力の

差による影響部分が、打ち消されてしまった可能性が高い。 さらに価格交渉力とある一時点の企業業績(利益率)との関係についてみたのが図表 17

である。これをみると、価格交渉力が高い企業ほど、当期利益率の平均値、中位値ともに

顕著に高くなっている傾向が確認できる。利益率ベースでは、価格交渉力と企業業績の間

に正の相関関係があるといえそうである。 以上のように、ここでは①標準化への取り組みと価格交渉力、②価格交渉力と企業業績

の関係をそれぞれ検証した。この結果、標準化への取り組みを積極的に行っている企業ほ

ど、価格交渉力は高まる傾向があり、また、条件付きではあるが、価格交渉力の高まりを

通じて、収益力が上昇する傾向が確認された。ただし、これらの検証は、簡単なクロス集

計分析の結果に基づくため、様々な影響要因がコントロールされていない。そのため結果

には他の要因(ノイズ)が影響している可能性もあり、これをもとに標準化の取り組みに

対する効果を判断するのは正しくないかもしれない。そこで次節において、これらのノイ

ズを考慮したうえで、改めて標準化の効果を検証することにした。

23

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 16:価格交渉力と企業業績(売上高・営業利益)の推移との関係

《価格交渉力と売上高の推移(10 年前比)》

33.7%

38.7%

33.8%

37.1%

32.5%

31.5%

28.9%

29.4%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

第1分位(上位25%)

第2分位

第3分位

第4分位(下位25%)

減少 横ばい やや増加 増加

n=572

交渉力

高い

低い

《価格交渉力と営業利益の推移(10 年前比)》

28.2%

34.7%

34.0%

35.7%

25.2%

21.0%

14.9%

21.7%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

第1分位(上位25%)

第2分位

第3分位

第4分位(下位25%)

減少 横ばい やや増加 増加

n=572

交渉力

高い

低い

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

24

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

図表 17:価格交渉力と当期利益率との関係

2.632.54

2.29

1.992.07

1.571.48

1.25

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

第1分位(上位25%)

第2分位 第3分位 第4分位(下位25%)

当期

利益

平均 中位値(%)

交渉力高い 低い

(資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

4. 標準化を通じた経営改善プロセスの検証 前節のクロス集計では、近代経営に対する意識が高い企業ほど標準化に積極的で、標準

化に積極的な企業は相対的に価格交渉力が高く、また企業業績も概ね良好であることが示

された。この結果をみる限り、未だ改善の余地があるとはいえ、前掲図表 3 で示した経営

改善のプロセスが機能している公算が大きいといえそうである。そこで本節では、企業業

績に影響しうる要素(主要製品分野や製造技術、規模など)を考慮した上で、改めてそれ

ぞれの波及経路を検証する。具体的には①価格交渉力と企業業績、②標準化の取り組みと

価格交渉力、③近代経営に対する意識と標準化の取り組みについて分析を行っている。 (1) 利用する変数 実証分析で利用する変数は、①企業業績、②価格交渉力、③標準化の取り組み状況、④

製品の差別化状況、⑤経営者の近代経営に対する意識、⑥企業属性に関する指標の6つに

分類される。 ①企業業績の変数としては、アンケート調査より売上高ならびに営業利益の増減に関す

るそれぞれのインデックス変数(「増加」を 5、「減少」を 1 とするインデックス)を採

用した。その他、サンプルはやや減少するが東京商工リサーチの財務データベースより当

期ならびに前期の売上高利益率6も利用している。なお、売上高利益率については当該年度

特有の要因によって大きくぶれることも考えられるため、当期、前期ならびに両者の平均

の三つについてみている。

6 ここで用いている利益は税引き後当期利益。

25

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

②価格交渉力は第 3 節と同様、価格決定方法だけでなく他の取引条件を勘案し総合得点

化した変数を採用した。ただし、総合得点の多寡で 4 分割したクロス集計とは異なり、実

証分析では総合得点自体を変数として利用している。 ③標準化の取り組み状況は、基本設計の標準化から部品の規格化・モジュール化、顧客

情報や取引履歴のデータベース化など 10 項目全てについて、取り組み度合いによるインデ

ックス変数(「積極的に取り組んだ」を 4、「全く取り組んでいない」を 1 とするインデ

ックス)を作成しそれを利用した。 ④製品の差別化状況については、品質、ブランド力、価格競争力、新製品開発力などで

自社製品が他社製品と比べ特性を有しているか否かを評価してもらい、その評価結果をイ

ンデックス変数(「特性がある」を 5、「特性がない」を 1 とするインデックス)として

採用している。 ⑤近代経営に対する意識も第 3 節と同じく、意思決定のあり方や理想とする会社間関係

など 9 項目について経営者の価値観を 5 段階評価で尋ね、その結果を総合得点化(単純加

算)したものを利用した。いずれの項目についても近代経営に前向きと思われる選択肢ほ

ど得点が高くなるように調整している(例:意思決定のあり方(権限委譲の程度)につい

ては「最大限委譲する」を 5、「最小限にとどめる」を 1)。 最後に⑥企業属性に関する変数では、規模をコントロールするために資本金、売上高、

従業者数の三つを用いた。また主要販売先との資本関係がある企業とない企業では、主要

販売先に対する価格交渉力のあり方も異なると考えられるため、主要販売先との資本関係

の有無によるダミー変数を加えることにした。その他では、市場や商品の特性を考慮する

ため、業種や主要製品分野、製造技術に関するダミー変数を採用している。ただし、サン

プル数が限られる状況では、自由度を確保するためにもダミー変数は極力少ない方が望ま

しい。そこで業種ダミーについては素材業種(化学、鉄鋼、プラスチック等)を 1、その

他の業種を 0 とするダミー系列のみとし、製品分野、製造技術のダミーについても中小企

業白書(2007)で特に価格交渉の激化が著しいと指摘された 3 分野(白物家電、AV 等そ

の他家電、IT 機器)、5 技術(プラスチック成型、研磨、電子組立・実装、検査・測定、

金型製作)に限定した。 図表 18 は主要変数の記述統計量で、図表 19 は相対的に価格交渉力が高い企業7と低い企

業の平均値を比較したものである。図表 19 をみると、価格交渉力の高い企業は相対的に規

模の大きい企業といえる。また価格交渉力の高い企業は、近代経営に対する意識の総合得

点が高く、標準化の取り組みに関するインデックスも大きい傾向にあることがわかる。差

別化状況(製品特性)については、品質やブランド力、新製品開発力で統計上有意に高い

との結果が得られた。企業業績は、統計的に有意ではないものの、総じて価格交渉力の高

い企業ほど売上高、営業利益とも増加傾向にあるとする企業が多く、売上高利益率も相対

7 総合得点の上位 50%を価格交渉力が高い企業とした。

26

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

的に高いことが示された。なお、売上高ならびに営業利益の増減について統計上有意とな

らなかった背景には、先述のとおり調査時点(2007 年 9 月)と比較対象時点(10 年前)

の景況感の差が影響したと考えられる。繰り返しになるが、比較対象の 1997 年は未だバブ

ル崩壊の余韻を引きずる中、金融危機が発生し中堅・中小企業の経営は軒並み厳しくなっ

た時期である。景況感の悪化に伴いデフレも深刻化した。この年と比べれば回復力が弱い

とはいえ戦後最長の景気拡大局面にあった調査時点で売上高・営業利益とも「増加した」

と回答した企業が多くなるのは想像に難くない。実際、記述統計量をみると、売上高、営

業利益のインデックスの平均値はともに 3(=変化なし)を上回り、中位値は 4(=やや増

加傾向)とサンプルが「増加」に偏っていることがわかる。 図表 18:主要変数の記述統計量

サンプル 平均 中位値 標準偏差 最大 最小N Mean Median SD Max Min

573 19.26 20.00 4.59 40.00 8.00資本金 612 10.34 10.17 1.29 16.12 7.31売上高 612 14.02 13.83 1.28 19.54 10.31従業員数 634 4.23 4.07 1.26 11.51 1.10品質 625 4.03 4.00 0.78 5.00 1.00ブランド力 612 3.23 3.00 0.96 5.00 1.00価格競争力 622 3.28 3.00 0.85 5.00 1.00新製品開発力 607 2.98 3.00 1.06 5.00 1.00仕様への対応力 622 3.87 4.00 0.77 5.00 1.00納期への対応力 628 3.92 4.00 0.81 5.00 1.00売上高の増減 635 3.75 4.00 1.17 5.00 1.00営業利益の増減 634 3.47 4.00 1.17 5.00 1.00当期利益率(%) 611 2.39 1.52 4.70 32.94 -45.45前期利益率(%) 601 2.39 1.50 4.85 37.82 -33.08平均利益率(%) 600 2.41 1.64 4.01 28.29 -21.36①基本設計の標準化 585 2.78 3.00 0.93 4.00 1.00②部品の規格化・モジュール化 575 2.66 3.00 0.91 4.00 1.00③規格化・モジュール化に対応した生産ライン設置 572 2.57 3.00 0.87 4.00 1.00④顧客情報や取引履歴のデータベース化 590 2.85 3.00 0.85 4.00 1.00⑤標準化した技術やノウハウを共有するインフラ整備 589 2.86 3.00 0.82 4.00 1.00⑥標準価格の設定とオプション価格の表示 572 2.50 3.00 0.84 4.00 1.00⑦初期費用に関するサービスメニュー及び価格の表示 547 2.11 2.00 0.85 4.00 1.00⑧アフターサービスメニュー及び価格の表示 545 2.09 2.00 0.84 4.00 1.00⑨業務改善・標準化に対する社員の意識改革 601 3.09 3.00 0.67 4.00 1.00⑩所属を超えた柔軟な組織運営 587 2.88 3.00 0.80 4.00 1.00

605 32.71 33.00 4.71 45.00 13.00

標準化の取り組み

近代経営に対する意識

交渉力(5項目の総合得点)

規模

製品特性

企業業績

(注)規模はいずれも対数値。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

27

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 19:主要変数の記述統計量(価格交渉力別にみた平均値)

交渉力が低い企業

交渉力が高い企業

(a) (b)

資本金 10.16 10.53 0.38 ***売上高 13.92 14.13 0.21 **従業員数 4.14 4.38 0.23 **品質 3.94 4.12 0.17 ***ブランド力 3.13 3.33 0.20 ***価格競争力 3.26 3.32 0.06新製品開発力 2.83 3.17 0.34 ***仕様への対応力 3.86 3.87 0.01納期への対応力 3.95 3.88 -0.07売上高の増減 3.72 3.80 0.08営業利益の増減 3.42 3.53 0.11当期利益率(%) 2.13 2.61 0.48前期利益率(%) 2.22 2.46 0.23平均利益率(%) 2.21 2.54 0.34①基本設計の標準化 2.64 2.95 0.31 ***②部品の規格化・モジュール化 2.48 2.86 0.38 ***③規格化・モジュール化に対応した生産ライン設置 2.40 2.79 0.38 ***④顧客情報や取引履歴のデータベース化 2.73 2.98 0.25 ***⑤標準化した技術やノウハウを共有するインフラ整備 2.72 2.99 0.26 ***⑥標準価格の設定とオプション価格の表示 2.38 2.63 0.25 ***⑦初期費用に関するサービスメニュー及び価格の表示 1.97 2.29 0.32 ***⑧アフターサービスメニュー及び価格の表示 1.96 2.25 0.30 ***⑨業務改善・標準化に対する社員の意識改革 3.00 3.18 0.18 ***⑩所属を超えた柔軟な組織運営 2.78 2.98 0.20 ***

32.22 33.29 1.07 ***

Mean-Difference(b)-(a)

標準化の取り組み

近代経営に対する意識

規模

製品特性

企業業績

(注)1.規模はいずれも対数値。 2.( )は標準誤差。***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意であることを表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

このように異時点比較のインデックスについては調査時点によるバイアスに留意する必

要があるものの、平均値の比較をみる限り価格交渉力と標準化の取り組みや企業業績(利

益率)については概ね正の相関があるといえそうである。そこで次に、①価格交渉力と企

業業績、②標準化の取り組みと価格交渉力、③近代経営に対する意識と標準化の取り組み

について、個別に各々の関係をみてみることにしよう。 (2) 価格交渉力と企業業績 初めに価格交渉力と企業業績の関係である。図表 20 は企業業績を被説明変数、総合得点

化した価格交渉力を説明変数として推計した結果である。規模をコントロールする変数に

は資本金8を採用し、その他の属性ダミーについても全て考慮した。これをみると、売上高

ならびに営業利益の増減について符号はプラスとなったものの、いずれも統計的に有意と

はならなかった。先述のとおり、売上高と営業利益のインデックスは比較時点との景況感

格差による上方バイアスが生じている可能性があり、サンプルが上方に偏った結果、価格

8 単位は千円。推計にあたっては対数変換している。

28

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

交渉力による差異が検出されなかったとみられる。 一方、売上高利益率については、当期、前期、平均とも有意にプラスとなった。価格交

渉力の優劣が利益率に影響を及ぼしていることを示している。また、売上高利益率の推計

では、資本金の係数がいずれも有意ではない。これは価格交渉力を考慮した場合、売上高

利益率に規模は影響を与えないことを意味する。第 1 節で中堅・中小企業の収益率にもバ

ラツキがみられると指摘したが、その背景には規模の相違よりもむしろ価格交渉力の差異

が影響した可能性を示唆するものといえる。属性ダミーでは、研磨技術ダミーが全てにお

いて有意に負となっており、当該企業の利益率が相対的に低いことが明らかになった。 図表 20:推計結果①価格交渉力が企業業績に与える影響

売上高増減(index)

営業利益増減(index)

当期利益率(%)

前期利益率(%)

平均利益率(%)

0.010 0.019 0.076 0.081 0.077(0.018) (0.018) (0.045)* (0.047)* (0.039)**

0.219 0.203 -0.041 0.045 0.023(0.067)*** (0.065)*** (0.166) (0.174) (0.142)

-0.060 -0.262 -0.769 -0.839 -0.814(0.2) (0.196) (0.512) (0.538) (0.439)*

0.431 0.322 0.195 0.66 0.436(0.177)** (0.174)* (0.447) (0.47) (0.383)

0.446 0.408 1.531 0.614 1.094(0.607) (0.636) (1.784) (1.862) (1.514)-0.252 0.046 0.663 1.722 0.978

(0.366) (0.352) (0.884) (0.937)* (0.762)0.320 0.295 -0.797 -0.88 -0.783

(0.207) (0.205) (0.53) (0.555) (0.452)*0.230 -0.063 1.348 1.039 1.228

(0.268) (0.264) (0.666)** (0.696) (0.566)**-0.030 -0.265 -1.647 -1.219 -1.405(0.223) (0.217) (0.559)*** (0.585)** (0.476)***

1.014 0.829 1.734 -0.044 1.015(0.297)*** (0.299)*** (0.763)** (0.805) (0.655)

-0.170 -0.521 -0.701 0.169 -0.278(0.235) (0.238)** (0.596) (0.625) (0.509)-0.023 0.191 -0.364 0.241 -0.045

(0.222) (0.219) (0.555) (0.583) (0.474)-1.795 -3.067 -2.778(5.164) (5.39) (4.389)

Observations 539 538 539 530 529R-squared 0.06 0.05 0.07

製品分野dum_IT

技術dum_成型加工

価格交渉力

資本金(千円):対数

主要販売先との資本関係

業種dum_素材

Constant

技術dum_研磨

技術dum_組立

技術dum_検査

技術dum_金型製作

製品分野dum_白物家電

製品分野dum_AV機器

(注)1. 売上高増減及び営業利益増減は順序ロジット、利益率はOLSによる推計。 2.( )は標準誤差。***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意であることを表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

29

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

(3) 標準化の取り組みと価格交渉力 先の分析では価格交渉力の優劣が売上高利益率に影響を与えることが示された。それを

受けて次に問題となるのは、どうやって価格交渉力を高めるかということである。本稿で

は、これまで説明したとおり、その有力な方法の一つとして標準化の取り組みに着目して

いる。以下では標準化の取り組みが価格交渉力の強化にどの程度寄与するのか、その効果

を検証した。 具体的には、価格交渉力を被説明変数とし、標準化の取り組み状況に関する各インデッ

クスを説明変数とする重回帰分析(最小二乗法:以下、OLS 推計)を行った。ただし、本

稿で取り上げた標準化の取り組みの中には、「基本設計の標準化」と「部品の規格化・モ

ジュール化」のようにお互いが関連していると思われる項目も少なくない。実際、標準化

で取り上げた 10 項目について相互の相関関係をみたところ、基本設計の標準化と部品の規

格化・モジュール化、規格化・モジュール化に対応した生産ラインの設置といった製造に

関する 3 項目や、顧客情報・取引履歴のデータベース化と標準化した技術やノウハウを共

有するインフラ整備の情報に関する 2 項目など、いずれも近しいと思われる項目同士が強

い相関を有していることが判明した(図表 21)。そのため推計に際しては、近しい項目を

合成(単純平均)し、製造・情報・価格・組織に関する新たな標準化のインデックスを作

成することで多重共線性の問題を回避している。 図表 21:標準化の取り組み項目間の相関係数

基本設計の標準化

部品の規格化

規格化に対応した

ライン

顧客情報のDB化

情報共有のための

インフラ

標準価格の設定

据付導入コストの明示

メンテナンスコストの明示

社員の意識改革

柔軟な組織運営

基本設計の標準化 1.0000

部品の規格化 0.7180 1.0000

規格化に対応したライン 0.5887 0.7804 1.0000

顧客情報のDB化 0.4051 0.4035 0.3806 1.0000

情報共有のためのインフラ 0.4254 0.3830 0.3775 0.6086 1.0000

標準価格の設定 0.4307 0.4402 0.3608 0.4700 0.4582 1.0000

据付・導入コストの明示 0.4301 0.4330 0.4148 0.3503 0.4127 0.6056 1.0000

メンテナンスコストの明示 0.4202 0.4618 0.4346 0.3758 0.3736 0.5904 0.8383 1.0000

社員の意識改革 0.4461 0.4495 0.4537 0.4006 0.4813 0.3488 0.2961 0.2970 1.0000

柔軟な組織運営 0.4015 0.4038 0.4088 0.3708 0.4553 0.3063 0.3020 0.2890 0.6670 1.0000

価格 組織

組織

生産 情報

製造

情報

価格

(注)網掛けは相関係数が0.5以上を表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

30

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

図表 22は新たな標準化インデックスを用いた推計結果である。これをみると製造、情報、

価格に関する標準化が有意にプラスとなっており、この種の標準化に取り組めば企業の価

格交渉力が高まることを示唆している。一方、社員の意識改革や柔軟な組織運営といった

組織に関する標準化の効果は認められなかった。 次に、製造・情報・価格・組織の各取り組みについて、近代経営に対する意識との関係

をみたところ、いずれも強い相関が認められた。ただし、組織に関する標準化の係数が相

対的に高い一方、価格に関する標準化の係数が低いなど各々に相違もみられた(図表 23)。こうした差異の背景には、標準化に対する取り組みや認識度合いの差が影響していると考

えられる(前掲図表 12、13)。 図表 22:推計結果②標準化の取り組みが価格交渉力に与える影響

被説明変数:価格交渉力(総合得点)

Coef. t-value P>t製造に関する標準化 0.756 (0.349) ** 2.17 0.031情報に関する標準化 0.700 (0.366) * 1.91 0.056価格に関する標準化 0.725 (0.352) ** 2.06 0.040組織に関する標準化 -0.407 (0.395) -1.03 0.303資本金(千円):対数 0.332 (0.168) ** 1.98 0.048主要販売先との資本関係 1.261 (0.518) ** 2.44 0.015業種dum_素材 -0.222 (0.459) -0.48 0.628製品分野dum_白物家電 0.694 (1.821) 0.38 0.703製品分野dum_AV機器 0.999 (0.875) 1.14 0.254製品分野dum_IT -0.150 (0.544) -0.28 0.783技術dum_成型加工 1.010 (0.701) 1.44 0.150技術dum_研磨 -0.847 (0.576) -1.47 0.142技術dum_組立 -1.688 (0.771) ** -2.19 0.029技術dum_検査 0.281 (0.606) 0.46 0.643技術dum_金型製作 0.106 (0.570) 0.19 0.853Constant 9.411 (5.282) * 1.78 0.075Number of obs = 456 R-squared = 0.1267Prob > F = 0.0000 Adj R-squared = 0.0969

Std.Err.

(注)1. OLSによる推計。

2.( )は標準誤差。***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意であることを表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

31

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 23:推計結果③近代経営に対する意識が標準化取り組みに与える影響 製造に関する

標準化情報に関する

標準化価格に関する

標準化組織に関する

標準化

0.101 0.114 0.054 0.153(0.017)*** (0.018)*** (0.018)*** (0.019)***

0.164 0.164 -0.001 0.13(0.060)*** (0.063)*** (0.063) (0.066)**

0.211 -0.196 -0.153 0.171(0.194) (0.200) (0.204) (0.202)

0.023 0.073 0.173 0.157(0.171) (0.173) (0.176) (0.179)

0.641 0.119 -0.92 0.38(0.697) (0.678) (0.710) (0.743)-0.002 0.193 0.448 -0.36

(0.339) (0.344) (0.366) (0.349)-0.039 0.079 0.179 -0.053

(0.206) (0.213) (0.212) (0.214)-0.218 -0.42 -0.389 -0.777

(0.253) (0.252)* (0.271) (0.260)***-0.032 -0.3 -0.253 -0.237

(0.210) (0.215) (0.214) (0.220)-0.276 -0.456 -0.514 -0.232

(0.302) (0.308) (0.303)* (0.304)0.173 0.132 0.332 0.22

(0.237) (0.241) (0.235) (0.245)-0.287 -0.138 -0.218 -0.128

(0.214) (0.215) (0.212) (0.218)Observations 518 533 500 536

技術dum_研磨

技術dum_組立

技術dum_検査

技術dum_金型製作

製品分野dum_白物家電

製品分野dum_AV機器

製品分野dum_IT

技術dum_成型加工

近代経営に対する意識

資本金(千円):対数

主要販売先との資本関係

業種dum_素材

(注)1. いずれも順序ロジットによる推計。

2.( )は標準誤差。***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意であることを表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

(4) 標準化の取り組みと製品差別化 これまでの分析で、標準化の取り組みが企業の価格交渉力を高め、それが収益力改善に

結びついていること、標準化の中でも製造、情報、価格に関する取り組みが価格交渉力を

高めるのに有効であること、また近代経営に対する意識の高さが標準化の取り組み度合い

に影響を及ぼしていることが明らかになった。 一方、標準化の取り組みと価格交渉力の関係を直接推計したため、標準化の取り組みが

どのようにして価格交渉力の向上に結びついたのか、その波及経路まではわからない。そ

こで最後に製品差別化を通じた標準化の効果を検証する。 いうまでもなく製品差別化は価格交渉力を左右する重要な要素である。しかし差別化と

いっても、品質や新製品開発力、ブランド力などその内容は様々で、各々どれを強化する

かによって価格交渉力に与える影響は異なるとみられる。また、標準化の取り組みという

点でも、差別化したい内容によって製造、情報、価格、組織のいずれに取り組むべきか判

断が変わる可能性がある。昔から中堅・中小企業は新製品開発力やブランド力に劣るとい

われており、価格交渉力を高めるためにはこうした商品特性の強化に有効な取り組みを優

先すべきとの見方もでてこよう。 みずほ・京大アンケート調査では、品質、ブランド力、価格競争力、新製品開発力、仕

様変更への対応力、短納期への対応力の 6 項目について製品差別化の状況を尋ねている(5

32

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

段階評価)。価格交渉力への影響をみるにあたっては、これら 6 つのインデックス変数を

説明変数とした OLS 推計を行えばよい。しかし、標準化の取り組みと同様、差別化項目間

でお互いに相関しているものがあれば、その影響を正しく把握することができない。そこ

で推計に先立ち差別化項目間の相関関係をみた。その結果、仕様変更への対応力と短納期

への対応力との間に比較的強い相関が確認されたため、実際の推計では両者を平均したイ

ンデックス変数(仕様・納期変更への対応力)を利用することにした(図表 24)。 図表 24:差別化状況における項目間の相関係数

品質 ブランド力価格

競争力新製品開発開発力

仕様への対応力

納期への対応力

品質 1.0000

ブランド力 0.4283 1.0000

価格競争力 0.2722 0.1267 1.0000

新製品開発開発力 0.2945 0.4194 0.2010 1.0000

仕様への対応力 0.4514 0.1724 0.2755 0.3357 1.0000

納期への対応力 0.3098 0.0364 0.2748 0.1033 0.5566 1.0000

(注)網掛けは相関係数が0.5以上を表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

33

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

図表 25 は製品差別化と価格交渉力の関係をみたものである。これをみると、品質ならび

に新製品開発力が有意にプラスとなっていることがわかる。特に新製品開発力は有意水準

が高く、弾性値も大きいことから価格交渉力を高めるには有効な手段といえそうだ。一方、

ブランド力や価格競争力は符号条件こそプラスとなったものの、統計的に有意ではない。

また仕様・納期変更への対応力に至っては有意にマイナスとなっており、価格交渉力を押

し下げる要因であるとの結果が得られた。仕様変更や短納期への対応力は、他社との差別

化項目として回答率の高い上位 2 項目だが、これらは価格交渉力の改善に寄与していない

可能性が高い。 図表 25:推計結果④製品差別化が価格交渉力に与える影響

被説明変数:価格交渉力(総合得点)

Coef. t-value P>t品質 0.523 (0.317) * 1.65 0.100ブランド力 0.119 (0.259) 0.46 0.648価格競争力 0.133 (0.263) 0.51 0.613新製品開発力 0.761 (0.222) *** 3.42 0.001仕様・納期変更への対応力 -0.817 (0.325) ** -2.51 0.012資本金(千円):対数 0.289 (0.165) * 1.75 0.081主要販売先との資本関係 0.983 (0.500) ** 1.97 0.050業種dum_素材 0.006 (0.444) 0.01 0.990製品分野dum_白物家電 -0.314 (2.010) -0.16 0.876製品分野dum_AV機器 1.289 (0.847) 1.52 0.129製品分野dum_IT -0.067 (0.523) -0.13 0.899技術dum_成型加工 0.334 (0.661) 0.51 0.613技術dum_研磨 -0.635 (0.556) -1.14 0.253技術dum_組立 -1.745 (0.745) ** -2.34 0.020技術dum_検査 1.073 (0.587) * 1.83 0.068技術dum_金型製作 -0.060 (0.545) -0.11 0.912Constant 13.406 (5.625) ** 2.38 0.018Number of obs = 506 R-squared = 0.0901Prob > F = 0.0001 Adj R-squared = 0.0603

Std.Err.

(注)1. OLSによる推計。

2. ( )は標準誤差。***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意であることを表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

では品質や新製品開発力を高めるために有効な標準化の取り組みとは何か。これらイン

デックス変数を被説明変数とし、標準化の取り組みを説明変数とする順序ロジット推計を

行い、各標準化の取り組みが品質や新製品開発力に与える影響をみた。 図表 26 は順序ロジットの推計結果を示している。品質については、製造、価格、組織に

関する標準化が有意にプラスとなった。中でも、組織に関する取り組みは有意水準が高く、

係数も相対的に大きい。また新製品開発力では、生産と組織に関する標準化が有意にプラ

スとなった(ちなみにブランド力についても同様の結果が得られた)。いずれの差別化に

おいても組織に関する標準化が有意にプラスとなった点は興味深い。もちろん、組織の標

準化については留意すべき点もある。推計結果によると、組織の標準化は仕様・納期変更

への対応力を高めるのにも有効であるとの結果が得られたが、既にみたとおり仕様・納期

34

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

変更への対応力は価格交渉力に対してネガティブな影響を及ぼしており、双方の効果が相

殺しあっている可能性があるからだ。標準化と価格交渉力を直接推計した際、組織の標準

化がプラスで有意とならなかったのは、こうした事情が影響したと考えられる。ただし、

これをもって、組織の標準化に対する取り組みが有効ではないと判断するのは、早計であ

ろう。品質や新製品開発力を高めるような標準化を実施すればよいのであって、標準化の

取り組み自体は有効である。両者の違いは、経営者が何を目的に標準化に取り組むのかと

いう点だ。その意味で、経営者の経営改善(経営の近代化)に対する意識の高さが問われ

ているといえるだろう。 図表 26:推計結果⑤標準化の取り組みが製品差別化に与える影響

品質 新製品開発力【参考】

ブランド力

0.288 0.606 0.339

(0.145)** (0.143)*** (0.144)**

0.115 -0.046 0.117

(0.150) (0.150) (0.152)

0.269 0.212 -0.109

(0.148)* (0.143) (0.145)

0.509 0.488 0.304

(0.162)*** (0.162)*** (0.165)*

0.054 0.219 0.176

(0.069) (0.067)*** (0.069)**

-0.484 -0.674 -0.405

(0.219)** (0.210)*** (0.217)*

0.136 0.096 -0.416

(0.192) (0.184) (0.192)**

0.116 -0.677 1.74

(0.801) (0.781) (0.757)**

-0.079 -0.772 -0.678

(0.366) (0.362)** (0.369)*

0.002 -0.191 -0.173

(0.226) (0.227) (0.228)

-0.069 -0.053 0.659

(0.285) (0.284) (0.293)**

-0.547 0.011 -0.472

(0.235)** (0.228) (0.231)**

0.041 0.266 0.311

(0.319) (0.326) (0.328)

-0.418 -0.785 -0.154

(0.251)* (0.246)*** (0.254)

0.012 0.251 0.153

(0.232) (0.221) (0.230)

Observations 499 492 495

技術dum_研磨

技術dum_組立

技術dum_検査

技術dum_金型製作

製品分野dum_白物家電

製品分野dum_AV機器

製品分野dum_IT

技術dum_成型加工

製造に関する標準化

情報に関する標準化

価格に関する標準化

組織に関する標準化

資本金(千円):対数

主要販売先との資本関係

業種dum_素材

(注)1. いずれも順序ロジットによる推計。

2.( )は標準誤差。***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%水準で有意であることを表す。 (資料)京都大学・みずほ総合研究所「中堅・中小企業の取引構造に関する実態調査」

35

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

5. おわりに 本稿では、中堅・中小企業における収益力低迷の一因に価格交渉力の弱さがあるとの認

識のもと、それをどのようにして高めるべきか、「標準化・モジュール化」を切り口に検

討した。具体的には、①価格交渉力の優劣が企業業績に影響を及ぼしていることを確認し

た上で、②価格交渉力を高めるのに標準化の取り組みが有効か、③標準化の取り組みを推

進するにあたって経営改善に対する経営者の意識がどの程度影響しているかなどについて

検証している。本稿の分析結果をまとめると以下のとおりである。 まず、価格交渉力と企業業績の関係については、想定どおり価格交渉力が高いほど、売

上高利益率が高いという結果が得られた。当初の仮説では価格交渉力が高い企業(価格転

嫁しやすい企業)ほど、売上高や営業利益も「増加」する傾向があると考えたが、こちら

はいずれも統計的に有意とはならなかった。既に記述したとおり、採用したインデックス

変数のバイアスが影響したとみられる。売上高や営業利益への影響については、財務デー

タや販売先数の変化、主要販売先への依存度などの変数を活用して、別途検証する必要が

あろう。 次に、標準化の取り組みと価格交渉力の関係では、製造・情報・価格に関する標準化の

取り組みが価格交渉力を高めるのに有効であることが示された。もちろん、価格交渉力の

優劣は自社製品が他社に比べて差別化されているか否かに負うところが大きい。とりわけ

中堅・中小企業はブランド力や新製品開発力の向上が課題とされる。そこでブランド力や

新製品開発力と標準化の取り組みの関係をみたところ、これまで主流であった製造に関す

る標準化とともに社員の意識改革や柔軟な組織運営といった組織に関する標準化が有効で

あるとの結果が得られた。組織の標準化は、価格交渉力に対してネガティブな影響を及ぼ

す仕様・納期変更への対応力を高める面もあり、価格交渉力との推計では有意とならなか

ったが、ブランド力や新製品開発力を高める点では有効な取り組みであるといえるだろう。 標準化の取り組みが製品差別化や価格交渉力の向上、さらに収益力の改善に結びつくか

は経営者の意識(ヤル気)も重要な要素になると考えられる。実際、標準化への取り組み

と近代経営に対する意識との関係についてみたところ、いずれも強い相関があり、標準化

を導入するにあたって経営者の経営改善(経営の近代化)に取り組む姿勢が重要であるこ

とが示唆された。 以上の分析結果から、標準化を通じた経営改善プロセス(前掲図表 3)は、日本の中堅・

中小企業でも機能しているといえる。ただし、みずほ・京大アンケート調査からも明らか

になったように、標準化の取り組み実態についてはまだまだ改善の余地があるのが現状で

ある。また近代経営に対する意識も十分に高まったとは言い難い状況だ。こうした背景に

は、標準化を通じた経営改善効果に未だ懐疑的な経営者が多いことに加え、従来のやり方

を変えることに対する抵抗感が少なからず影響しているように思われる。とはいえ既成概

念にとらわれていては、現状を打破することは難しい。足元、原材料高や内需低迷で中堅・

中小企業を取り巻く環境が厳しさを増しているのは事実だが、こういう時こそ「標準化」

36

みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

という視点で従来の仕事のやり方(業務全般)を虚心坦懐に見つめ直してはどうだろうか。

今経営者に求められるのは、現状を変えることに対する「勇気(チャレンジ精神)」なの

かもしれない。

37

中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化

[参考文献]

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みずほ総研論集 2008 年Ⅲ号

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