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~Metzler Weekly Market Update~ 欧州経済市場の見通し 2020 6 15 1 Werbeinformation der Metzler Asset Management GmbH FRB に期待しすぎ? 噂が信じられるとしたら、「FRB(米連邦準備理事会)は 10 日(水)の FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表 の場で YCC(イールドカーブコントロール)を発表するか、あるいは 将来の YCC 導入期待を否定しないだろう」と一部の市場参加 者は予想しています。しかし、米国国債利回りはまだ低く、国債 市場は乱高下していないことから、この予想はやや大風呂敷の感 は否めず、期待はずれとなる可能性があります。一方で、米国の 中小企業楽観度指数(9 日)や日本の景気ウオッチャー調査 8 日)が示すように、経済指標は着実に改善しています。この ような背景から「米 10 年国債利回りが 1%を超えて再び上昇 傾向となるリスク」はあります。「経済は日本化する」との構造的 なシナリオを持っていますが、米国の国債利回りは数ヶ月間に渡 って上昇する可能性があるとも見ています(その場合でも上昇幅 は限定的でしょうが)。中国と米国のインフレ指標(いずれも 10 日)は、コロナ危機は主に需要ショックであり、したがってインフレ リスクはかなり低いことを示唆していると思われます。 合意なしのブレグジットとなる可能性が高い 英国と EU の間の自由貿易協定の交渉が膠着しています。ブレ グジット(英国の EU 離脱)支持者は、英国を EU の規則や 規制から完全に独立した国にしたいと考えているため、英国が大 きな譲歩をする気がないことは明らかです。また、英国はアイルラ ンドとの国境を開放するという約束を守りたいとは思っていないよ うです。ボリス・ジョンソン政権下の英国政府が、コロナのパンデミ ックに対し誤った対応を見せたように、ブレグジットについてもまず い対応を取るのではないかと危惧されています。そのため、2021 1 月に、英国経済はまた大きな負の衝撃を受ける可能性が あります。 もともと英国が離脱交渉で有利な立場にあったのは、「ハード・ブ レグジット(強硬離脱)」となれば、非常に脆弱な状況(EU ベルでの財政支援の合意には数ヶ月を要することが予想されたた め)で欧州経済を直撃すると見られていたからです。しかし、現 在では、欧州の財政の水門は大きく開かれており、EU はブレグ ジット・ショックに迅速に対応できるようになっています。さらに、ま ずい対応の「ハード・ブレグジット」は、アイルランド国境の閉鎖につ ながる可能性があります。しかし、留意すべきは、米民主党が米 間の自由貿易協定(FTA)に同意するのはアイルランドの国境 が開いている場合にのみだということです。 株式市場のバリュエーション 現在、株式市場のバリュエーションが再びメディアで議論の的とな っています。理論的には、バリュエーションはとても簡単に計算でき ます。株価が企業利益の何倍かを計算するだけだからです。しか し、私の経験では、すべての株式ストラテジストは独自のバリュエー ション基準を用いています。そのため、株式市場の魅力度合いに ついて全く矛盾した意見が出てくる場合があります。ちょうど今が そうした時です。こうした違いは、一方では企業収益の異なる尺 度(EPSEBITDA、キャッシュフローなど)が用いられていること や、他方では予想データや公表済みの収益データが用いられてい ることに起因します。 6 月初旬には、アナリストによる今後 1 年間の一株当たり利益 EPS)予想に基づく欧州株のバリュエーションは 2003 年以来 の高水準に上昇しました。MSCI 欧州株指数の株価収益率 PER)は 1988 年以降の長期平均が 14.0 倍であるのに 対して、6 2 日には 16.8 倍となりました。 一見割高に見える欧州株のバリュエーション I/B/E/S の今後 12 ヶ月間の利益予想に基づく PER 出典:トムソン・ロイター・データストリーム、メッツラー;2020 6 2 日現在 また、公表されている企業のキャッシュフローを株式市場のバリュエ ーションに利用することも考えられます。我々の分析によると、キャ ッシュフローはお金の実際の動きに基づくので恣意的な操作がし づらく、一株当たり利益よりもマクロ経済の動向との相関性が高 いことが示されています。さらに、好況時に企業利益が一時的に 高くなるだけで、「見かけ上は低いバリュエーション」という誤ったシ

FRB に期待しすぎ? - Metzler Asset Management Japan...2020/06/15  · FRBに期待しすぎ? 噂が信じられるとしたら、「FRB(米連邦準備理事会)は10

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  • ~Metzler Weekly Market Update~

    欧州経済市場の見通し 2020年 6月 15日

    1

    Werbeinformation der Metzler Asset Management GmbH

    FRBに期待しすぎ?

    噂が信じられるとしたら、「FRB(米連邦準備理事会)は 10

    日(水)の FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表

    の場で YCC(イールドカーブコントロール)を発表するか、あるいは

    将来の YCC 導入期待を否定しないだろう」と一部の市場参加

    者は予想しています。しかし、米国国債利回りはまだ低く、国債

    市場は乱高下していないことから、この予想はやや大風呂敷の感

    は否めず、期待はずれとなる可能性があります。一方で、米国の

    中小企業楽観度指数(9 日)や日本の景気ウオッチャー調査

    (8 日)が示すように、経済指標は着実に改善しています。この

    ような背景から「米 10 年国債利回りが 1%を超えて再び上昇

    傾向となるリスク」はあります。「経済は日本化する」との構造的

    なシナリオを持っていますが、米国の国債利回りは数ヶ月間に渡

    って上昇する可能性があるとも見ています(その場合でも上昇幅

    は限定的でしょうが)。中国と米国のインフレ指標(いずれも 10

    日)は、コロナ危機は主に需要ショックであり、したがってインフレ

    リスクはかなり低いことを示唆していると思われます。

    合意なしのブレグジットとなる可能性が高い

    英国と EU の間の自由貿易協定の交渉が膠着しています。ブレ

    グジット(英国の EU 離脱)支持者は、英国を EU の規則や

    規制から完全に独立した国にしたいと考えているため、英国が大

    きな譲歩をする気がないことは明らかです。また、英国はアイルラ

    ンドとの国境を開放するという約束を守りたいとは思っていないよ

    うです。ボリス・ジョンソン政権下の英国政府が、コロナのパンデミ

    ックに対し誤った対応を見せたように、ブレグジットについてもまず

    い対応を取るのではないかと危惧されています。そのため、2021

    年 1 月に、英国経済はまた大きな負の衝撃を受ける可能性が

    あります。

    もともと英国が離脱交渉で有利な立場にあったのは、「ハード・ブ

    レグジット(強硬離脱)」となれば、非常に脆弱な状況(EU レ

    ベルでの財政支援の合意には数ヶ月を要することが予想されたた

    め)で欧州経済を直撃すると見られていたからです。しかし、現

    在では、欧州の財政の水門は大きく開かれており、EU はブレグ

    ジット・ショックに迅速に対応できるようになっています。さらに、ま

    ずい対応の「ハード・ブレグジット」は、アイルランド国境の閉鎖につ

    ながる可能性があります。しかし、留意すべきは、米民主党が米

    間の自由貿易協定(FTA)に同意するのはアイルランドの国境

    が開いている場合にのみだということです。

    株式市場のバリュエーション

    現在、株式市場のバリュエーションが再びメディアで議論の的とな

    っています。理論的には、バリュエーションはとても簡単に計算でき

    ます。株価が企業利益の何倍かを計算するだけだからです。しか

    し、私の経験では、すべての株式ストラテジストは独自のバリュエー

    ション基準を用いています。そのため、株式市場の魅力度合いに

    ついて全く矛盾した意見が出てくる場合があります。ちょうど今が

    そうした時です。こうした違いは、一方では企業収益の異なる尺

    度(EPS、EBITDA、キャッシュフローなど)が用いられていること

    や、他方では予想データや公表済みの収益データが用いられてい

    ることに起因します。

    6 月初旬には、アナリストによる今後 1 年間の一株当たり利益

    (EPS)予想に基づく欧州株のバリュエーションは 2003 年以来

    の高水準に上昇しました。MSCI 欧州株指数の株価収益率

    (PER)は 、1988 年以降の長期平均が 14.0 倍であるのに

    対して、6 月 2 日には 16.8 倍となりました。

    一見割高に見える欧州株のバリュエーション I/B/E/Sの今後 12ヶ月間の利益予想に基づく PER

    出典:トムソン・ロイター・データストリーム、メッツラー;2020 年 6 月 2 日現在

    また、公表されている企業のキャッシュフローを株式市場のバリュエ

    ーションに利用することも考えられます。我々の分析によると、キャ

    ッシュフローはお金の実際の動きに基づくので恣意的な操作がし

    づらく、一株当たり利益よりもマクロ経済の動向との相関性が高

    いことが示されています。さらに、好況時に企業利益が一時的に

    高くなるだけで、「見かけ上は低いバリュエーション」という誤ったシ

  • 2

    ナルを発してしまう可能性があるため、キャッシュフロー動向を景気

    循環に合わせて調整することが重要であると考えられます。そのた

    め、ロバート・シラー教授は、景気循環の影響を調整するために、

    企業利益の 10 年移動平均を使用することを推奨しています。

    景気循環調整後の株価キャッシュフロー倍率は、 1980 年以降

    の長期平均が 9.8 倍 であるのに対して、5 月末時点では 9.3

    倍となっています。

    しかし、よく見るとバリュエーションは割高でもない

    10年移動平均に基づく株価キャッシュフロー倍率

    出典: トムソン・ロイター・データストリーム、メッツラー;2020 年 5 月 31 日現

    現在の欧州株のバリュエーションは、割高なのか割安なのか?こ

    の質問に対する答えは「今後の景気動向次第」です。「L 字回

    復」、すなわち長期の景気低迷が続く場合には、アナリストはすで

    に業績の落ち込みを予想に織り込んでおり、企業収益の大幅な

    回復は当面期待できないため、欧州株のバリュエーションは割高

    ということになります。2010 年の欧州ソブリン危機で経済が崩壊

    し、その後も回復していないギリシャに匹敵する状況でしょう。しか

    し、パンデミックの影響で強烈な景気後退となるけれども通常の

    景気サイクルの一環にすぎない(すなわち、いずれ景気は回復に

    転ずる)ということであれば、欧州株のバリュエーションは割安とい

    うことになります。後者がメッツラーの基本シナリオです。

    企業収益を景気サイクルに合わせて調整することの利点は、

    2007、2008 年当時のバリュエーションを見ればよくわかります。

    多くの国で人為的に信用が拡張されたことで企業収益がバブル

    化し、アナリストは業績予想の上方修正を続けていました。2005

    年 6 月から 2008 年の株式市場の暴落までの間、アナリスト予

    想に基づく株価収益率は割安であったことさえありました。一方、

    景気循環調整後のバリュエーションは、株式市場がバブル領域に

    あることをはっきりと示していました。

    エドガー・ヴァルク

    チーフエコノミスト

    メッツラー・アセット・マネジメントGmbH

  • 3

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    す。

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