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FUJITSU. 65, 5, p. 74-80 09, 201474 あらまし 昨今の速いビジネス環境の変化に対応するため,お客様のニーズをより早く,より正 確にキャッチし,的確なタイミングでお客様に商品を提供する必要がある。そのためには, ICTを活用し,単なる効率化・コスト削減のためだけでなく,お客様システムのリアルタ イム性,双方向性,運用保守の容易性と革新の両立を追求し,お客様の企業競争力を強 化する必要がある。更に,お客様の企業競争力強化への活用(イノベーション)が求めら れている。既にこれらの先進的な取組みを実施しているお客様事例も出てきている。そ の中で,基幹システムの根幹を担う主流ERP Enterprise Resource Planning:企業資源 計画)であるSAPを取り上げる。SAPは従来の業務アプリケーションによるERPから,イ ンメモリによる高速化・ユーザーエクスペリエンス向上・クラウド提供など,大きく枠 組みを広げている。また,導入後10年以上経過したシステムも数多く存在し,運用保守 を含めたシステム運用基盤全体を見直す時期にきている。 本稿では,SAPの新ソリューションと富士通の新ソリューションを活用し,ビジネス イノベーションに向けた富士通の考えるERPモダナイゼーション全体像を適用シーン, 実践などをピックアップしながら紹介する。 Abstract In order to keep up with rapid changes in the recent business environment, enterprises must identify customersneeds more quickly and accurately to offer products to them at appropriate timings. To that end, they must use information and communications technology (ICT) not merely to improve efficiency and reduce costs, but also to ensure that customer systems can work in real time, be interactive, and be easy to operate and maintain, along with achieving innovation, so as to increase customerscorporate competitiveness. Furthermore, what is required is to innovatively apply ICT to the strengthening of customerscorporate competitiveness. There are already some examples of customers implementing these advanced approaches. Among them, we take up SAP, the mainstream enterprise resource planning (ERP) software that provides the core of mission-critical systems. SAP is significantly expanding its framework from the conventional business-application-based ERP to acceleration by in-memory technology, improvement of user experience and provision of a cloud. In addition, there are many systems that have been in place for over 10 years and it is time for the owners to revise the entire system operation platform including its operation and maintenance. This paper describes Fujitsus general idea about ERP modernization that takes advantage of SAPs and Fujitsus new solutions for business innovation by presenting some scenes of application and practice. 大石理絵   尾上 豊   木村高士   多東正人   畠山敦史 富士通の考える ERP モダナイゼーション Fujitsu’s Idea of ERP Modernization

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FUJITSU. 65, 5, p. 74-80 (09, 2014)74

あ ら ま し

昨今の速いビジネス環境の変化に対応するため,お客様のニーズをより早く,より正

確にキャッチし,的確なタイミングでお客様に商品を提供する必要がある。そのためには,

ICTを活用し,単なる効率化・コスト削減のためだけでなく,お客様システムのリアルタイム性,双方向性,運用保守の容易性と革新の両立を追求し,お客様の企業競争力を強

化する必要がある。更に,お客様の企業競争力強化への活用(イノベーション)が求めら

れている。既にこれらの先進的な取組みを実施しているお客様事例も出てきている。そ

の中で,基幹システムの根幹を担う主流ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)であるSAPを取り上げる。SAPは従来の業務アプリケーションによるERPから,インメモリによる高速化・ユーザーエクスペリエンス向上・クラウド提供など,大きく枠

組みを広げている。また,導入後10年以上経過したシステムも数多く存在し,運用保守を含めたシステム運用基盤全体を見直す時期にきている。

本稿では,SAPの新ソリューションと富士通の新ソリューションを活用し,ビジネスイノベーションに向けた富士通の考えるERPモダナイゼーション全体像を適用シーン,実践などをピックアップしながら紹介する。

AbstractIn order to keep up with rapid changes in the recent business environment,

enterprises must identify customers’ needs more quickly and accurately to offer products to them at appropriate timings. To that end, they must use information and communications technology (ICT) not merely to improve efficiency and reduce costs, but also to ensure that customer systems can work in real time, be interactive, and be easy to operate and maintain, along with achieving innovation, so as to increase customers’ corporate competitiveness. Furthermore, what is required is to innovatively apply ICT to the strengthening of customers’ corporate competitiveness. There are already some examples of customers implementing these advanced approaches. Among them, we take up SAP, the mainstream enterprise resource planning (ERP) software that provides the core of mission-critical systems. SAP is significantly expanding its framework from the conventional business-application-based ERP to acceleration by in-memory technology, improvement of user experience and provision of a cloud. In addition, there are many systems that have been in place for over 10 years and it is time for the owners to revise the entire system operation platform including its operation and maintenance. This paper describes Fujitsu’s general idea about ERP modernization that takes advantage of SAP’s and Fujitsu’s new solutions for business innovation by presenting some scenes of application and practice.

● 大石理絵   ● 尾上 豊   ● 木村高士   ● 多東正人   ● 畠山敦史

富士通の考えるERPモダナイゼーション

Fujitsu’s Idea of ERP Modernization

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富士通の考えるERPモダナイゼーション

(1) ICTインフラにおける課題SAPシステム環境では,開発,検証,本番という複数の環境が推奨されており,サーバ・ストレージといったインフラ環境を複数保持する必要があった。この環境の保守切れ対応で,一時費用や非互換対応という,本来の業務運用では不要な部分にコストが発生することが課題であった。

SAPの複数ランドスケープで本番機のデータを利用したテストを実施したいという要望があった場合を仮定してみる。オンプレミス環境の場合,たとえそれが短期間であっても,サーバ,ストレージなどの環境を購入し保有することが必要である。このための費用対効果を考えて,実際のテストは本番機より少ないリソース環境で我慢しているお客様も多い。(2) クラウド化による解決前記の課題は,クラウドやNetAppストレージの

FlexClone機能(1)を活用することで解決できる。クラウドでは,必要な期間のみ必要なリソースの契約ができるため,本番機データを使って検証したい期間のみサーバとストレ-ジの契約をすれば良く,過剰なコストの削減が可能となる。このように,一時的に必要となるリソースを利用したい期間だけ契約できるという点が,クラウドの利点である。(3) ストレージ機能による検証環境作成

NetAppストレージのFlexClone機能は,利用領

ま え が き

SAP(注)システムを導入されるお客様の多くは,以下に示す様々な悩みを抱えている。(1) 既存SAPシステムの運用コストが高い。(2) 拠点ごとに異なるバージョン,インスタンス,テンプレートが乱立している。

(3) M&Aなどの業務,業容の変化に迅速に対応できない。これらの解決に向けて,大きく以下の四つの利用シーンを想定している(図-1)。・ レガシー ICT資産の最適化・ 革新的技術の適用と新たな価値創出・ 俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用・ グローバル共通基盤の導入本稿では,富士通の考えるERPモダナイゼーション全体像の適用シーン,実践例などを述べる。

レガシー ICT資産の最適化

本章では,ICTインフラの仮想化,クラウドを活用したDR(Disaster Recovery)システムについて述べる。

ま え が き

(注) ERP市場最大手のソフトウェアメーカー。SAPの主力製品は「SAP CRM」「SAP ERP」「SAP PLM」「SAP SCM」などで構成される「SAP Business Suite」である。自社ソフトウェアを中心に各種サービスを提供するソリューションベンダーでもある。

レガシー ICT資産の最適化

図-1 SAPモダナイゼーションの実践パターン

レガシーICT資産の最適化1

・アプリ/インフラ/運用の見える化,スリム化,最適化高額な

維持運営費用からの脱却

俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用3

・共通基盤(SOA)・BPM,BRMS

変化を阻害する非効率な保守

からの脱却

・ICTインフラの仮想化, ERPクラウド

・SAPトータル診断サービス

・業務プロセス改善コンサルティング

・アドオン資産最適化分析・改善

グローバル共通基盤の導入4

・グローバルERP統合・グローバルコミュニケー

ション基盤部門や拠点の個別最適な

サイロ型の解決多層化するERP

・SAPグローバルロールアウト・Multi-Tier ERPロールアウト

・SAPグローバル運用保守サービス(GEMS)

革新的技術の適用と新たな価値創出2

・ビッグデータ技術 ・モバイル技術

画一的な現場のシステム

からの変革・SAP® BW powered by SAP HANA®

・SAP® Business Suitepowered by SAP HANA®

・フロント統合(BPM/SOA)

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保守サービスを充実させたクラウドサービス。・ ニフティクラウド

VMwareベースのパブリッククラウドサービス。お客様のNetAppストレージとのリモート接続によるディスクコピー(SnapMirror機能)に対応している。富士通では,クラウドサービス上でのSAP動作の実機検証など安心してクラウド上で業務を稼働させられるようノウハウを蓄積している。

革新的技術の適用と新たな価値創出

本章ではマイグレーションターゲットとなる,SAP® BW Powered by SAP HANA®,SAP® Business Suite powered by SAP HANA® の2製品に対する取組み状況について述べる。(1) 富士通が提供するSAP HANAアプライアンス

SAP HANA® とは,大量データの高速分析をするために開発されたインメモリデータベースであり,高速化を実現するための技術(インメモリデータストア,インメモリ演算,カラムストア型データベース,超圧縮など)が結集した製品である。本製品はアプライアンス製品で,富士通はそのアプライアンスベンダーに指定されている。富士通のSAP HANAアプライアンス製品は,シングルノード,マルチノードの2種類に大きく分類できる。シングルノードは,IAサーバのFUJITSU Server PRIMERGY RX4770 M1と,予備システムボード搭載可能で信頼性を確保した高信頼IAサーバFUJITSU Server PRIMEQUEST 2000シリー

革新的技術の適用と新たな価値創出

域の更新可能なスナップショットを作成する機能である。これにより,本番データを活用し,重複を排除することで容量を抑えた検証環境を利用することが可能となる(図-2)。(4) クラウド活用によるDRシステム構築

SAPでのクラウド利用のもう一つのトレンドが,災害対策用システム(DRシステム)の構築である。DRシステムは緊急事態にのみ必要となるため,コストを最低限にしたいという要望がある。クラウドを活用することで,通常時はストレージ間のデータコピーのみ稼働させてサーバは停止させる。災害時にサーバを起動するという運用で,通常時のサーバ課金を最小化することが可能となる。(5) 富士通の提供するSAPクラウド(2)

富士通では,SAPを稼働させるためにお客様に最適な環境を選択できるよう,以下の4種類のクラウドプラットフォームを用意している。4種類のクラウドサービスとも,SAP認定ハードウェア,もしくは認定サービスで構築され,SAP動作保証が得られる構成となっている。・ FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted LCP

VMwareベースのクラウドサービス。・ FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted A5+ for

Windows ServerHyper-Vベースのリソース共用型クラウドサービス。・ FUJITSU Cloud A5 for Microsoft Azure

SAP認定サービスであるマイクロソフト社の「Windows Azure Iaas環境」に富士通独自の運用

図-2 FlexCloneイメージ

本番サーバ

フレックスクローンボリューム

フレックスクローンボリューム

差分ボリューム A

本番業務ボリューム

System Rename・後処理

品証サーバ

フレックスクローンボリューム

FlexClone System Rename・後処理開発サーバ

業務チームC用の仮環境

業務チームA

業務チームB

業務チームC

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実システム構築で重要となる機能について順次検証を実施し,ノウハウを蓄積している。また,既存環境のマイグレーションだけでなく,新規導入においても活用できるよう導入手法の確立を図っている。(3) 今後の課題と対応

SAP® Business Suite powered by SAP HANA® 化に当たっては,データベースマイグレーションだけでなく,実運用で必要となる監視,ジョブ,帳票といったSAPシステムの周辺環境の移行に対する考慮が重要である。富士通では,蓄積された数々のマイグレーションノウハウを活用し,この課題に対応している。

俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用

本章では,フロント統合の事例を紹介する。(1) SAP導入企業が抱える課題グローバル化をはじめ,市場やビジネスモデルの変革,多様なステークホルダーへの対応が企業に求められている。システム部門は,企業内外の業務システムやクラウドサービスを効率的に連携させ,安く・早く変化に強いICT基盤の構築に迫られている。ユーザーインターフェースを一元化するとともに,複数システムをシームレスに利用可能とする,フロント統合が一つの解決策となる。本事例企業における問題点を以下に挙げる。

・ 業務プロセスが複雑で,基幹システム(SAP ERP)と周辺の多数システムの使い分けが煩雑

・ ビジネス領域の拡張にシステム改修が追従できない

・ 複雑化するシステムの保守工数が増大(2) 問題解決に向けた施策

SOA(Service Oriented Architecture)基盤を確立して,以下の改善を図る。・ SAP GUI画面からWebブラウザへの変更で柔軟なユーザーインターフェースを実現(SAP ERPはクライアント/サーバ方式が標準。通常クライアント端末側にSAP GUIと呼ばれるプログラムのインストールが必要。)・ Webサービス化することで,再利用性の向上と,機能の変更や追加を容易にする。

・ 複数システムを集約するポータルサイトを構築し事務処理の一元化を図る。

俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用

ズの2種類の構成を用意している。PRIMEQUEST 2000シリーズのHANAアプライアンスは最大8CPU,6 Tバイト(SAP® Business Suite powered by SAP HANA® 専用)をサポートしている。マルチノード構成は,PRIMERGYのサーバノード配下にNetAppストレージを配置した構成であり,スケールアウトとN+1の冗長化が可能となっている。

SAP® BW powered by SAP HANA®,SAP® Business Suite powered by SAP HANA® は,SAP BW,ERP,CRMといったSAP製品を利用する際,今まで使用していたデータベース部分をSAP HANAに置き換えた環境となる。これにより,データベースがインメモリ化され高速処理が可能となる。(2) 富 士 通 の SAP® Business Suite powered by

SAP HANA® 対応(3)-(5)

SAP® Business Suite powered by SAP HANA® においては,標準機能の一部とアドオンプログラムの処理をSAP HANA側で実行可能とするPush Down処理がある。このPush Down処理を利用することで,データベースのインメモリ化に加え,更に処理速度の向上が見込める。現在通常のBusiness Suite製品をお使いのお客様が,SAP® Business Suite powered by SAP HANA® 環境を利用するには,Business Suite製品をEHP7までアップグレードし,マイグレーションを行う必要がある(図-3)。富士通では,この作業手順やPushDownによる処理の高速化,またSAP HANA Replication,SAP HANAとSolution Manager間連携作業といった

図-3 Suite on HANAマイグレーション

SAP ERP 6.0 EHP6WIN/

SQL Database

SAP ERP 6.0EHP7WIN/

SQL Database

SAP ERP 6.0 EHP7WIN/

App. Server.

SAP HANA Database1.0 SPS07

現環境 中間機 ERP(AP)

マイグレーション・アップグレード

DBマイグレーション

ERP(DB)

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(4) 導入効果・ 画面とビジネスロジックを分離したことで,改修や機能追加が効率化

・ 当該機能のユーザー利用(アクセス数)が4倍となり,契約漏れや遅延件数が12%以上改善

・ 利用部門の工数削減と契約漏れ防止により,年間5千万円の削減効果事例企業では,継続して適用範囲を拡大している。(5) 課題と今後の改善初期導入時において,フロント(Java)とサービスバス(SAP PI),Webサービス(ABAP)の3層開発での品質確保とコスト低減が重要である。フロント開発とサービス開発の同期を取ったスケジュール管理を誤ると開発者のアイドリングが発生する。これらによって,3層の各開発状況の可視化を強化したプロジェクト管理が必要となる。標準化とテスト計画は,ステークホルダー間の共有を徹底する。今後は,フロント(ユーザーインターフェース)ビジネスプロセス管理,サービス連携などの機能をオールインワンで提供するミドルウェア製 品(FUJITSU Software Interstage Business Operations Platform)を利用し,フロントからサービスまでが効率的に構築可能なソリューションモデルを提供する。

グローバル共通基盤の導入

本章では,グローバルERP統合について述べる。(1) SAPグローバル展開の課題近年,日系企業の海外展開は加速度を増している。IT部門では,こうした状況に対応するため,グローバルで利用できるERPパッケージを選定する傾向にある。しかし,計画から稼働開始までの期間は大幅に短く,低コストを求められ難易度が非常に高くなっている。一方,海外ではSAP ERPの標準機能にビジネスプロセスを合わせていくケースが多数を占めている。その場合,事前設定済みのビジネスプロセス,およびビジネスシナリオが盛り込まれたSAP社提供の無償テンプレート「SAP Best Practices」を活用するケースが多く,SAPのノウハウに基づいて短期間で円滑なグロー

グローバル共通基盤の導入

(3) 適用例期間契約における,契約期限の監視やアラーム通知を実装し,更新や解約,関連帳票を出力する。仕入先との契約関係の同期化を考慮した自動化を行う。業務ポータルにアクセスすれば,システムが事務処理を誘導してミス防止や処理を効率する(図-4)。①フロント構築・ FUJITSU Software INTARFRM(設計基盤)・ FUJITSU Software Interstage Application

Server V9.2(実行基盤)②サービスバス・ SAP Process Integration(SAP PI)・ RFC,IDOCといった,SAP独自規格と,SOAPやJDBC,FTPといった業界標準規格に対応③Webサービス・ 事例企業には,Add-Onプログラムが多数あることから,SAP社の標準Webサービス(Enterprise Service)を使用せず,インターフェースから設計・開発

・ 現状システム構成や業務特性を踏まえ,Webサービスの粒度と独立性を考慮

・ Webサービスの粒度は,業務処理上,独立した実行単位で作成。粒度が細かいと呼出回数が増えて,性能悪化となり,逆に粗いと再利用性が悪化

・ Webサービスの独立性は,1回の呼出しでトランザクションが完結し,Webサービス間で非依存関係

図-4 SOAアーキテクチャー概要

Webブラウザ

Internet Explorer

Webアプリケーション

Interstage AP Server(JavaEE/JDK6)

サービスバス

SAP PI 7.1 EHP1

バックエンドシステム

SAP ERP(ECC6.0)

ユーザーインターフェースINTARFRM(Java Web)

サービスインターフェースEnterprise Service Repository※

(WSDL1.1)

実行環境 設計環境(リポジトリ)

※SAP PIの一部

HTTP over SSL

HTTP1.1/SOAP1.1

HTTP1.0/XI3.0

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バル展開の支援を実現している。(2) 問題解決に向けた施策富士通はSAP Best Practicesの有効性に着目し,富士通グループの豊富な実績をベースに,日本企業が求めるきめ細かいドキュメントや導入・展開手法などを融合した「SAPグローバルテンプレート」をリリースした。これを用いることで,加速する多拠点展開にスピーディーかつ低コストに対応できると同時にSAPのノウハウに基づいて短期間で円滑なグローバル展開が実現可能である。①複数国対応への実現

SAPグローバルテンプレートは複数国への対応が可能である。通常,SAP Best Practicesは複数国向けに個別にリリースしているが,1か国のみの対応であるため,多国展開対応に必要な業務プロセスや現地法制度対応機能などは,新規に構築する必要があった。そこで,各プロセスを構成する部品間の関係性を整理するなど,富士通独自の工夫を施し,各パッケージを統合したテンプレートを提供することによって迅速なグローバル展開が可能となる。②富士通業種業務ノウハウによる業種機能の実現これまでの経験と豊富な業種ノウハウを体系化したアドオンライブラリーを適用することで,お客様の業種プロセスや機能拡張を強化している。これまでの豊富な部品群を組み合わせることにより,お客様の業種機能要件を満たすことが可能である。これにより,特に海外現地法人は,生産工場,販社など業務・業態が異なるお客様の要件に対応可能となる。③グローバルナレッジデータベース基幹システム展開,および多数のお客様でのプロジェクト経験などからノウハウを体系的に収集・蓄積したグローバルナレッジデータベースを整備している。システム展開に当たっては,各国のローカル要件への対応も重要となる。特に初めての国で導入する場合,税制・法制度・商慣習に関する調査に大きく時間を要し,ローカル要件への対応作業が肥大化してしまうケースがある。その際,グローバルナレッジデータベースを適用し,国別の税制・法制度・商慣習に対応する各国要件を盛り込むことによって,SAP標準機能では対応できない法定帳票などの法制度対応が可能

となる。特に,帳票はSAPでは対応していないものが多い。こうした場合,国別の税制・法制度・商慣習に対応する各国要件を盛り込むことで,効率的な海外展開が可能となる。④導入・展開手法の標準化複数国,地域にグローバル展開の作業標準化と品質の向上が可能である。各国,地域での展開手法を統合することで,プロジェクト遂行における共通の考え方や言葉を持ち,国や会社などが異なるメンバーであっても,円滑なコミュニケーションを取ることが可能となる。また,プロジェクトの進捗管理や品質のフレームワークが統一され,マネジメントの質が向上する。更に,導入手法と合わせ,グローバルテンプレートを海外拠点へ展開する手順やドキュメントなどのノウハウを体系化し,適用する。こうすることにより,海外展開におけるリスクを事前に確認できるため,早い段階での対策検討と作業品質向上が可能である。(3) 今後の展開近年,グローバルERP統合に向けた効果的な導入手法として,2層ERPモデル(2 Tier ERP)が増加している。2層ERPモデルとは,2000年代後半から米ガートナー社によって提唱されてきた考え方である。本社に導入した大企業向け「コアERP」(1層目のERP)を保持したまま,それとは別のある業務分野に特化した,あるいは中堅・中小企業向けのERPを「2層目のERP」として海外拠点などに短期間で導入する方法である。

2層ERPモデルが注目されている背景には,クラウドサービスの急速な進化・発展も挙げられる。クラウドサービスは,メールやスケジュール共有などの情報共有系ソリューションが先行して発展を遂げてきた。近年は,クラウドサービスのパフォーマンスや信頼性が向上したことで,基幹系業務への活用も増加傾向である。富士通は,2層ERPを発展させた多層ERPモデル(Multi-Tier ERP)を提唱している。これは,お客様の特性に合わせて複数のERPを柔軟に組み合わせる導入手法である。本社のコアERPには,SAP ERPなどの大規模ERPをお客様のビジネスプロセスに合わせて各種テンプレートやアドオン開発を伴いながら導入する。一方,海外拠点などの2層目以降のERPとしては,SAP Best Practices

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やMicrosoft Dynamics AXの標準機能を活用して短期間・ローコストで導入していく。更に,スモールオフィスなどの業務については,FUJITSU Enterprise Application GLOVIA OMなどのSaaSも活用していく。このように,経営環境の変化やビジネスの不確実性の高い海外拠点などで導入するシステムとしてはスケーラブルなパフォーマンス増強に柔軟に対応可能なクラウド(IaaS/SaaS)を活用することが,最適な選択肢と考えられる。富士通は,SAP ERPやMicrosoft Dynamics AXについてもIaaS対応のみならずERPクラウドとして提供していく方針である。

む  す  び

富士通のERPモダナイゼーションは,ITインフラ最適化から業務アプリケーション,フロント統合まで次世代アーキテクチャーを適用したサービスを提供するものである。富士通は,「ERPモダナイゼーション」サービス群をお客様の課題,ニー

む  す  び

ズに合わせて組合せ提供することで,システム運用の最適化やコスト削減と,変化に強い柔軟なシステムを実現し,お客様のビジネスイノベーションに貢献していく。

参 考 文 献

(1) NetApp社:Back to Basics:FlexClone. http://www.netapp.com/jp/communities/tech-ontap/

tot-btb-fl exclone-1104-ja.aspx(2) 富士通:クラウド・コンピューティング ソリューションラインナップ.

http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/lineup/(3) 富士通:SAP HANA Powered by Fujitsu. http://jp.fujitsu.com/solutions/sap/services/hana/(4) SAP社:SAP Business Suite powered by SAP

HANA. http://global.sap.com/japan/campaigns/2013_soh/

index.epx(5) SAP社:SAP HANA Academy. http://www.saphana.com/community/hana-academy

大石理絵(おおいし りえ)

産業・流通システム事業本部ERPビジネスセンター 所属現在,ERPソリューション企画,開発に従事。

著 者 紹 介

多東正人(たとう まさひと)

(株)富士通システムズ・イースト業務ソリューション本部ERP事業部 所属現在,SAPアプリケーション領域におけるデリバリーに従事。

尾上 豊(おのうえ ゆたか)

(株)富士通システムズ・イースト業務ソリューション本部ERP事業部 所属現在,SAPインフラ・BASIS領域におけるデリバリーに従事。

木村高士(きむら たかし)

産業・流通システム事業本部ERPビジネスセンター 所属現在,ERPソリューション企画,開発に従事。

畠山敦史(はたけやま あつし)

産業・流通システム事業本部エンタープライズビジネス推進統括部 所属現在,産業・流通ソリューション拡販,開発に従事。