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17 石油技術協会誌 第 85 巻 第 1 (令和 2 1 月)17 26 Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology Vol. 85, No. 1Jan., 2020pp. 1726 講   演 Lecture Copyright © 2020JAPT 1. 国際石油開発帝石株式会社(以下,当社)は,日本企業 初の大型 LNG プロジェクトの操業主体(オペレーター) として,西豪州 Broome 北方の沖合約 470 km に海上生産 施設が位置する Ichthys LNG プロジェクトを推進してい る。同プロジェクトでは,2018 10 月からコンデンセー トと LNG の出荷を始めており,2019 年第 1 四半期の平均 日量生産量は,天然ガスで約 1,100 百万立方フィート,上 流コンデンセートで約 4 万バレルとなっている。今後,計 画生産・出荷量(LNG 年間約 890 万トン,コンデンセー ト日量約 10 万バレル(ピーク時))に向けてランプアップ を進めていく予定である(図 1)。Ichthys ガスコンデンセー Ichthys ガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱 LNG の長期安定供給に向けて- 林  義幸 **,† ・野口 清志 ** Received September 17, 2019accepted November 12, 2019Exploration activity around the Ichthys Gas-Condensate Field; Toward the stable long-term LNG supply Yoshiyuki Hayashi and Kiyoshi Noguchi AbstractThe Ichthys LNG Project is a large-scale LNG project operated by INPEX Corporation, the first Japanese operator of a world class LNG project. The project commenced production of gas from the wellhead in July 2018. The gas and condensate production rates in the first quarter of 2019 were about 1,100 MMcf/day and 40,000 bbl/day, respectively. Production is expected to reach a plateau. The Ichthys gas-condensate field Ichthys fieldthat supplies gas and condensate to the LNG project, is located in the Browse Basin, on the Northwest Shelf of Australia. Gas bearing sandstone reservoirs of the Ichthys field extend over about 600 km 2 . The upper reservoir of the Ichthys field is the Brewster Member, which consists of submarine channel and lobe complex sandstones. The lower reservoir is the Plover Formation, which consists of fluvial and deltaic sandstones. These reser voirs have been main target for petroleum exploration in the Browse Basin. To make effective use of the Ichthys project facilities, which were designed to produce LNG for 40 years, it is necessary to discover new gas fields surrounding the Ichthys field, to maintain a stable production plateau for the long term. Since exploration for large, conventional structural traps has reached a mature phase in the Browse Basin, it is necessar y to focus on more challenging new exploration plays in the basin, such as stratigraphic plays and deep structural plays. KeywordsIchthys gas-condensate field, LNG project, Browse Basin, exploration activity 令和元年 6 12 日,令和元年度石油技術協会春季講演会 地質・探 鉱部門シンポジウム「天然ガス探鉱・開発の現状と課題-低炭素 社会に向けて」にて講演 This paper was presented at the 2019 JAPT Geology and Exploration Symposium entitled Natural Gas Exploration & Development - Current State & Challenges Toward Low Carbon Societyheld in Tokyo, Japan, June 12, 2019. ** 国際石油開発帝石株式会社 INPEX Corporation Corresponding authorE-Mail[email protected] 1 Ichthys LNG プロジェクトの概要

Ichthys ガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱 · 2020. 2. 10.  · 年に生産井の掘削を開始し,2019 年7 月現在16 坑の掘削 作業・仕上げ作業を終えている。なお,Ichthys

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    石油技術協会誌 第 85巻 第 1号 (令和 2年 1月)17~ 26頁Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology

    Vol. 85, No. 1(Jan., 2020)pp. 17~26

    講   演Lecture

    Copyright © 2020, JAPT

    1. は じ め に

    国際石油開発帝石株式会社(以下,当社)は,日本企業

    初の大型 LNGプロジェクトの操業主体(オペレーター)として,西豪州 Broome北方の沖合約 470 kmに海上生産施設が位置する Ichthys LNGプロジェクトを推進している。同プロジェクトでは,2018年 10月からコンデンセートと LNGの出荷を始めており,2019年第 1四半期の平均日量生産量は,天然ガスで約 1,100百万立方フィート,上流コンデンセートで約 4万バレルとなっている。今後,計

    画生産・出荷量(LNG年間約 890万トン,コンデンセート日量約 10万バレル(ピーク時))に向けてランプアップを進めていく予定である(図 1)。Ichthysガスコンデンセー

    Ichthysガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱- LNGの長期安定供給に向けて-*

    林  義幸**,†・野口 清志

    **

    (Received September 17, 2019;accepted November 12, 2019)

    Exploration activity around the Ichthys Gas-Condensate Field; Toward the stable long-term LNG supply

    Yoshiyuki Hayashi and Kiyoshi Noguchi

    Abstract: The Ichthys LNG Project is a large-scale LNG project operated by INPEX Corporation, the first Japanese operator of a world class LNG project. The project commenced production of gas from the wellhead in July 2018. The gas and condensate production rates in the �rst quarter of 2019 were about 1,100 MMcf/day and 40,000 bbl/day, respectively. Production is expected to reach a plateau. The Ichthys gas-condensate �eld (Ichthys �eld) that supplies gas and condensate to the LNG project, is located in the Browse Basin, on the Northwest Shelf of Australia. Gas bearing sandstone reservoirs of the Ichthys �eld extend over about 600 km2. The upper reservoir of the Ichthys �eld is the Brewster Member, which consists of submarine channel and lobe complex sandstones. The lower reservoir is the Plover Formation, which consists of �uvial and deltaic sandstones. These reservoirs have been main target for petroleum exploration in the Browse Basin. To make effective use of the Ichthys project facilities, which were designed to produce LNG for 40 years, it is necessary to discover new gas �elds surrounding the Ichthys �eld, to maintain a stable production plateau for the long term. Since exploration for large, conventional structural traps has reached a mature phase in the Browse Basin, it is necessary to focus on more challenging new exploration plays in the basin, such as stratigraphic plays and deep structural plays.

    Keywords: Ichthys gas-condensate �eld, LNG project, Browse Basin, exploration activity

    * 令和元年 6月 12日,令和元年度石油技術協会春季講演会 地質・探鉱部門シンポジウム「天然ガス探鉱・開発の現状と課題-低炭素社会に向けて」にて講演 This paper was presented at the 2019 JAPT Geology and Exploration Symposium entitled “Natural Gas Exploration & Development - Current State & Challenges Toward Low Carbon Society” held in Tokyo, Japan, June 12, 2019.

    ** 国際石油開発帝石株式会社 INPEX Corporation † Corresponding author:E-Mail:[email protected] 図 1 Ichthys LNGプロジェクトの概要

  • Ichthysガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱- LNGの長期安定供給に向けて-18

    石油技術協会誌 85巻 1号(2020)

    トフィールド(以下,Ichthysガス田)の周辺探鉱は,将来の生産プラトーの維持および生産施設の長期有効活用の

    観点から重要である。

    本稿では,Ichthysガス田が位置する Browse Basinの概要を説明した後,LNGの長期安定供給の鍵となる同ガス田周辺の探鉱活動について紹介する。

    2. 当社の豪州事業と Ichthys LNG  プロジェクトの概要

    2.1 豪州における当社の探鉱・生産事業インドネシアを中心に探鉱・生産事業を展開していた当

    社は,事業拡大の 1つとして,1986年から豪州の探鉱プロジェクトへの参入を開始した。1988年には当社にとって豪州初の試掘井となるMontara-1を Bonaparte Basinで掘削し,油層を確認した。1990年には North Carnarvon Basinで Griffin油田群を発見し,1994年に生産を開始し,インドネシア以外での初めての生産プロジェクトとなっ

    た。Timor海共同石油開発地域(現在の東ティモール民主共和国領海域)では,1994年に Elang油田,1995年に Bayu-Undanガスコンデンセート田を発見し,それぞれ 1998年と 2004 年に生産に移行している。当社は,これまでに豪州沖合および Timor海域にて試探掘井を 90坑掘削しており,前述の油ガス田の他に Van Gogh油田,Coniston油田,Kitan油田などを発見し生産に移行している(図 2)。

    2.2 Ichthys LNGプロジェクトの経緯と概要ノンオペレーターのプロジェクトを通じ豪州の探鉱・生

    産事業のノウハウを獲得した当社は,同国でのオペレー

    タープロジェクトの獲得を目指し,1997年豪州公開鉱区の入札に単独応札した結果,1998年にWA-285-P鉱区を取得した(図 3の左図)。2000年に実施した第一次掘削 キャンペーンでDinichthys-1,Gorgonichthys-1,Titanichthys-1の 3坑を試掘し,何れの坑井でもガスコンデンセートの胚胎を確認した。その後,2003年の第二次キャンペーンで3坑,2007年の第三次キャンペーンで 2坑の試探掘井を掘削し,同ガス田のガスコンデンセート層の広がりを確認し

    た(図 4)。この結果に基づき,2009年から基本設計作業(FEED)を始め,同ガス田の開発移行に向けた作業を開始した。2012年 3月,豪州政府当局より Ichthysガス田の生産ライセンスを取得し,同ガス田をカバーするブロック

    図 3 WA-285-P鉱区落札当時(左)と現在(右)の油ガス田および当社が権益を保有する鉱区の位置図

    図 2 豪州北西大陸棚周辺の堆積盆および当社が権益を保有する主要油ガス田(過去保有していたも

    のを含む)の位置

  • 林  義幸・野口 清志 19

    J. Japanese Assoc. Petrol. Technol. Vol. 85, No. 1(2020)

    はWA-50-L/WA-51-L鉱区として登録された(図 3の右図)。2012年 1月に最終投資決定(FID)を行い Ichthysガス田の開発に着手し,同年に豪州北部準州の首府であ

    る Darwinでガス液化プラントを起工した。2013年にはIchthysガス田の脇に係留する沖合生産処理施設(Central Processing Facility,以下 CPF)と浮体式生産貯蔵積出設備(Floating Production, Storage and Offloading,以下 FPSO)の建造を起工し,2014年には CPFとガス液化プラントをつなぐ約 890 kmの海底ガス輸送パイプライン(Gas Export Pipeline, 以下 GEP)の敷設を始めた(図 5)。2015年に生産井の掘削を開始し,2019年 7月現在 16坑の掘削作業・仕上げ作業を終えている。なお,Ichthysガス田の開発作業では約 50坑の生産井を掘削する予定であり,掘削作業は現在も継続中である。2018年 7月までに CPF,

    FPSOおよび GEPといった生産施設の設置・敷設ならびに生産開始に必要な試運転作業を終え,生産井からのガス

    コンデンセート生産を開始した。

    Ichthysガス田の海底仕上げされた生産井から生産されるガスと流体の混合物は,海底に敷設されたフローライン

    およびライザーを経由して CPFに送られ,ガスと流体に分離される。流体は CPFから約 3.5 km離れた FPSOにて処理され,コンデンセートは貯蔵される。CPFで分離されたガスは,GEPを通じて Darwinのガス液化プラントに送り,そこで LNG,LPGおよびコンデンセートに分離し出荷される(図 6)。

    3. Ichthysガス田の石油地質

    3.1 Browse Basinと Caswell Sub-basin Ichthysガス田が含まれる Browse Basinは豪州北西大陸棚のほぼ中央に位置し,北東で Bonaparte Basin,南西で Offshore Canning Basinと接する(図 2)。同 Basinは現在の海岸線と並行する方向に約 500 km,直行する方向に約 600 kmの広がりがあり,図 7に示すとおり石炭系から現世の堆積物が 15 kmを超える厚さで堆積する(Blevin et al., 1997, Struckmeyer et al., 1998)。Browse Basin で は,Ichthysガス田の他にも複数の油ガス田が発見されており,当該ベーズンの既発見埋蔵量は原油換算で 80億バレルを超える。Browse Basinで発見されている油ガス田の多くはCaswell Sub-basin内またはその縁辺に位置している(図 8および図 9)。古生代の北西大陸棚周辺はゴンドワナ大陸の一部で,後

    期石炭紀から白亜紀まで大陸地塊の分裂が断続的に発生

    した結果,その周辺ではリフト型の堆積盆が発達した。

    Browse Basinも石炭系に形成を開始したリフト堆積盆で,河川・デルタ成から海成堆積物で充填されており,特にジュ

    図 4 当社が Ichthysガス田およびその周辺で実施した探鉱作業

    図 5 Ichthys LNGプロジェクト(洋上,パイプラ イン,陸上の 3大施設)のイメージ図

  • Ichthysガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱- LNGの長期安定供給に向けて-20

    石油技術協会誌 85巻 1号(2020)

    ラ紀のテーチス海に発達した良好な根源岩が Browse Basinを含む北西大陸棚全域に分布する。Browse Basin周辺ではジュラ紀後期までに大陸地塊の分裂が終了し,同 Basinはサグ型の堆積盆に移行し,白亜紀には open marineの環境下で浅海成から深海成の堆積物が堆積した。始新世後期に

    入るとオーストラリア大陸が北方に向かってドリフトを開

    始し,Browse Basinでは炭酸塩岩が卓越する堆積物が堆積する。中新世後期から鮮新世にはさらにオーストラリア

    大陸のドリフトが進み,パプアニューギニア褶曲帯(PGN Fold Belt)の形成やオーストラリアプレートとバンダアークの衝突が起こる(図 7)。北西大陸棚上の油ガス田の一部では,この中新世後期から鮮新世のテクトニックイベン

    トに起因するトラップやシールの崩壊が起こり,炭化水素

    の再移動やリークが発生したと考えられている(Longley et al., 2002)。

    Browse Basin の北部に位置する Caswell Sub-basin で

    も,石炭系以降の堆積物が厚く堆積する。ジュラ系 Plover Formationおよび Lower Vulcan Formationの頁岩および下部白亜系 Echuca Shoals Formationで根源岩ポテンシャルを有する頁岩が確認されている(図 10)。この頁岩はCaswell Sub-basinほぼ全域で熟成しており,この頁岩から炭化水素の生成・排出が起こっていると考えられる(Palu et al., 2017)。貯留岩としては三畳系から暁新統で貯留岩ポテンシャルを有する砂岩を確認しているが,Caswell Sub-basinで炭化水素が確認されている主要層準はジュラ系のPlover Formationと下部白亜系 Upper Vulcan FormationのBrewster Memberの砂岩である。

    3.2 Ichthysガス田Ichthys ガス田は,Caswell Sub-basin 西部の Brewster

    Platform上に位置し,集ガス面積は約 600 km2である。深度 4,000 m付近の Brewster Memberの砂岩と 4,500 m付近の Plover Formationの砂岩においてガスコンデンセート

    図 6 Ichthys LNGプロジェクトの開発コンセプト生産井(計 50坑):Brewster Memberと Plover Formationを対象として計 50坑を掘削予定。コンデンセート分の多い Brewster Memberを先行して開発する。海底生産施設(SPS):地下からの生産流体を制御する坑口装置類。アンビリカル /ライザー /フローライン(URF):海底施設と CPFをつなぐ。生産流体用のフローライン /ライザーと坑口装置制御信号などを流すアンビリカルラインなどから構成される。

    沖合生産処理施設(CPF):生産流体を液分とガスに分離する。液分は FPSOへ,ガスは GEPを経由してダーウィンの液化プ ラントに送られる。

    浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO):CPFから送られてくる液分からコンデンセートを分離し,貯蔵・出荷する。海底ガス輸送パイプライン(GEP):分離したガスを CPFから陸上 LNGプラントまで輸送する。全長 890 km。陸上 LNGプラント:GEPを経て送られてきたガスから,二酸化炭素などの不純物を取り除き,LNG・コンデンセート・LPGを製造・貯蔵・出荷する。

  • 林  義幸・野口 清志 21

    J. Japanese Assoc. Petrol. Technol. Vol. 85, No. 1(2020)

    図 7 Browse Basinの層序および石油システム

    図 8 Caswell Sub-basinのジュラ紀中期深度構造図(Near Top Plover Formation)図中の Seismic lineは図 9の広域震探セクションの位置を示す。

  • Ichthysガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱- LNGの長期安定供給に向けて-22

    石油技術協会誌 85巻 1号(2020)

    図 9 Caswell Sub-basinを北西-南東方向に通る広域震探セクション震探セクションの位置は図 8に示す。図中の Fmは Formation,MbrはMemberを示す。

    図 10 Browse Basinの根源岩ポテンシャルPalu et al.(2017)を引用。

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    J. Japanese Assoc. Petrol. Technol. Vol. 85, No. 1(2020)

    図 11 Ichthysガス田の概要

    図 12 Ichthysガス田内で掘削された井戸の対比図各井戸のガンマ線検層のデータを示す。

  • Ichthysガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱- LNGの長期安定供給に向けて-24

    石油技術協会誌 85巻 1号(2020)

    を確認している(Ban and Pitt, 2006)。Brewster Memberのトラップは,構造内に落差が小さい小規模な断層が発

    達するものの,大局的には Brewster Platformをドレープする 4-way closureとみることができる。一方,Plover Formationのトラップは,中生代の synrift期に形成・発達した北東-南西トレンドの正断層で,Ichthysガス田の東西が規制されるホルストブロック状の構造トラップである

    (図 11)。Ichthys ガ ス 田 で 約 200 m の 層 厚 が あ る Brewster

    Memberは, net sand-to-gross thickness比が非常に高いクリーンな砂岩で構成されており,コア分析などより,陸

    棚からスロープ上で形成された重力流堆積物と解釈され

    ている。また,地震探鉱記録の解釈に基づけば,Brewster Memberは Ichthysガス田の東に位置する Yampi Shelfの方向から堆積物が供給された広大な海底ローブコンプレッ

    クスで,西または北西に向かってピンチアウトする。

    Brewster Memberの砂岩の平均孔隙率は 10%程度あり,浸透率は下部より上部の方が良好である。なお,上部と

    下部で孔隙率や堆積相に大きな違いがないことから,浸

    透率の違いは堆積後の続成作用によるものと考えている

    (Nakanishi et al., 2014;市澤ほか,2016)。Ichthysガス田内の Plover Formationは河川成砂岩(fluvialまたは crevasse splay channel sandstoneなど)で,下部は石炭が狭在する上部デルタプレイン付近の堆積物と解釈さ

    れ,中部から上部では潮汐の影響を受けた砂岩が堆積する。

    また,Ichthysガス田内の坑井で,Plover Formation内において玄武岩(coherent(non-tuffaceous)basalt, grading to alkali basalt)のコアを回収し,地震探鉱記録上では,ダイクやシルと解釈される形態が確認されており,ジュラ紀の

    火成活動を示唆する(図 12)。

    4. Ichthys ガス田周辺の探鉱

    4.1 Browse Basinの探鉱Browse Basinでは,1970年より試掘作業が始まり,

    1971年にWoodside社が Caswel Sub-basin北西縁辺部のホルスト系列で掘削した Scott Reef-1でガス層を確認し,同Basinで初のガス田(現在のガス田名は Torosaガス田)発見となる。Brewster Platformでは,1980年にWoodside社が Brewster-1を掘削し,Brewster Memberでガスの胚胎を確認した。これが後に Ichthysガス田の発見につながるものとなるが,1987年に Brewster-1掘削位置周辺は部分放棄されている。放棄理由は確認できないが,同井で生産に

    耐えうるだけの良好な貯留岩が十分に確認できなかったこ

    とと,部分放棄された時期は北西大陸棚において LNG生産が始まっていなかったことから,リモート地の Browse Basinでのガス田開発は困難と判断したことが,ガス層の広がりを確認する探掘井や評価井の掘削に至らなかったと

    推察される。

    Browse Basinにおける発見埋蔵量の変遷(図 13)が示すとおり,試掘が始まった 1970年代に Torosaガス田やBrecknockガス田が発見されたことで,発見埋蔵量は順調

    に伸びているが,1980年から約 20年にわたり発見量の伸びは低調である。これは,1970年代の試掘で,ガス田より開発が容易な油田の発見ができず,油探鉱の観点から同

    Basinの価値が低下し,探鉱が進まなかったと考えられる。なお,1990年代後半に,三次元地震探査の導入や地震探鉱データの処理技術の向上により,当時の新規プレイの探

    鉱が実施され,Browse Basinでは Shell社が中心となって陸側の Yampi Shelf上(図 8)で主に浅層背斜構造の探鉱を実施したものの,Cornea油田など小規模油田の発見に終わっている(山中,2000)。当社が 1998年に WA-285-P鉱区を取得し,2000年に

    Brewster Platformで実施した試掘井 3坑で以下の確認ができたことで,当該ガス田を Ichthys ガス田と命名し,これ以降ガス田開発に向けた評価作業を実施している。

    ・ Plover Formationでのガス層の発見・ Brewster Memberで比較的性状の良好な貯留岩の発見・ 両層準での広域なガス層の広がり・ 経済性の向上が見込める高い condensate-gas ratio(CGR)の確認この Ichthysガス田の発見で,2000年以降 Browse Basin

    内の探鉱が活性化し,新たな発見埋蔵量が追加されている。

    ただし,1970年代に比較的規模の大きい構造は試掘され,近年の探鉱の主流が中-小規模の構造プレイになっている

    ため,発見埋蔵量の伸びは年々緩やかになっている(図

    13)。単純な構造プレイのプロスペクト数は減少していることから,今後の探鉱プレイは海底扇状地堆積物に関係す

    る層位封鎖プレイや三畳系やペルム系などの深部構造プレ

    イなど,複雑なプレイに挑戦する必要がある(図 14)。4.2 当社の事業展開当社は,1998年にWA-285-P鉱区を取得して以来,2000年代前半までは Ichthysガス田のガス層の広がりや貯留岩の発達状況の確認に集中してきた。一方,Ichthysプロジェ

    図 13 Browse Basinの埋蔵量発見推移(creaming curve)

  • 林  義幸・野口 清志 25

    J. Japanese Assoc. Petrol. Technol. Vol. 85, No. 1(2020)

    クトの生産施設を有効に活用し,LNGを安定的に供給するためには,将来のガス供給源となる新たなガス田の発見

    が必要と判断していた。そのため,当社は,Ichthysガス田周辺を優先探鉱エリア・コアエリアに設定し,当該エリ

    アにおける追加埋蔵量の確保にむけ,2006年より周辺鉱

    区の新規探鉱権の取得や既存探鉱鉱区へのファームインを

    積極的に実施し,2008年から試掘を開始している(図 4)。これまでのところ,Ichthysガス田周辺で 5坑の試掘を

    実施し,いずれの井戸でもガスの胚胎を確認している(図

    15)。特に Lasseter-1や Corwn-1では開発移行が期待でき

    図 15 Ichthysガス田周辺で当社が掘削した試探掘井の位置図

    図 14 Browse Basinのプレイコンセプト図Rollet et al. (2018)を一部修正して引用。既発見プレイである Plover Formationや Brewster Memberのプレイ(①)の探鉱を引き続き進めていくほかに,海底扇状地堆積物に関係する層位封鎖プレイ(④)や Plover Formationより下位の三畳系やペルム系などを対象とした構造プレイ(⑥)にも挑戦していきたい。

  • Ichthysガスコンデンセートフィールド周辺の探鉱- LNGの長期安定供給に向けて-26

    石油技術協会誌 85巻 1号(2020)

    る資源量を確認しており,予察的な開発検討を進めている。

    2019年 8月現在,18鉱区(開発待機鉱区を含む)で探鉱活動を実施しており,プロスペクトの摘出および評価を実

    施中である。2020年には,Ichthysガス田北方で,試掘を行う予定であり,現在,試掘準備作業を行っている。

    5 ま と め

    当社が北西大陸棚でオペレーターを務める Ichthys LNGプロジェクトでは,2018年 7月のガス生産を開始して以来,大きなトラブルもなくランプアップを進めている。計画生

    産・出荷量(LNG年間約 890万トン,コンデンセート日量約 10万バレル(ピーク時))の達成に向けて,今後も安定操業を継続することが必要である。

    また,40年間の生産に対応できる設計となっているIchthysプロジェクトの生産施設を有効に活用し,LNGを安定的に供給するためには,将来のガス供給源となる新た

    なガス田の発見が必須となっている。ただ,Ichthysガス田周辺では 1970年代から探鉱が始まっており,同 Basinの主要プレイである Plover Formationや Brewster Memberの砂岩を貯留岩とするホルスト構造またはそれをドレープ

    する 4-way closureの探鉱はすでに成熟期に達しつつある。今後は同プレイの残存ポテンシャルの精査と併せて,より

    複雑なプレイや新規プレイに挑戦していく必要があると考

    える。

    謝 辞

    2019年度春季講演会地質・探鉱部門シンポジウムにおいて,本内容を報告する機会を頂いた石油技術協会に厚く

    御礼申し上げる。また国際石油開発帝石株式会社の鈴木郁

    雄氏と小林博文氏には本文執筆においてご助言いただい

    た。この場を借りて御礼申し上げる。

    SI単位系換算

    bbl × 1.589874 E- 01 = m3

    cft × 2.831685 E- 02 = m3

    引 用 文 献

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    Longley, I., Buessenschuett, C., Clydsdale, L., Cubitt, C., Davis, R., Johnson, M., Marshall, N., Murray, A., Somerville, R., Spry, T., 2002:The North West Shelf of Australia–a Woodside perspective. The Sedimentary Basins of Western Australia 3: Proceedings of the Petroleum Exploration Society

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