7
63 法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34 2019原稿受付 2019 3 29 発行 2019 7 18 Ni/ZrO 2 系傾斜機能材料の熱-構造連成によるクリープ挙動解析 Creep Characteristics of Ni/ZrO 2 Functionally Graded Materials Investigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 1) 塚本 英明 1) Kyoko Kameya, Syota Ando, and Hideaki Tsukamoto 1) 法政大学理工学部機械工学科 Functionally graded materials (FGMs) are a new kind of composite materials which have been expected to effectively relax thermal stress. In order to fully utilize the advantages of FGMs, it is important to better understand the details of heat conduction, thermal stress and creep strain proceeding in FGMs. In this study, a numerical analysis of creep characteristics of FGMs is presented. Finite element analysis which deals with thermal shock testing of the metal- ceramic FGMs is addressed. Furthermore, heat resistance, thermal stress and creep behaviors of FGMs are discussed by comparing FGMs with conventional materials. As a result, it is revealed that FGMs are effective to suppress thermal deformation and avoid thermal stress fracture. Keywords : Functional gradient materials, Finite element method, Creep strain 1. はじめに 傾斜機能材料(FGMs)とは、単一の素材のみで は困難である特性を両立させるため、組成及び組織 が異なる物質を、異なるスケールおよび空間的次元 で連続的・段階的に傾斜(変化)させつつ一体化さ せた不均質材料の概念である [1]金属とセラミックスを単純に接合した複合材料で は、材料間の熱膨張係数の差から、温度が上がるに つれて大きな熱応力を発生する。しかし傾斜機能材 料の場合は、組成が傾斜していることにより、特定 の接合界面が存在せず、特性も連続的に変化するた め、熱応力が軽減される。すなわち構造物に生じる 熱応力の緩和を最大にすることが可能であり、超高 温における接合界面での破壊を防ぐことに寄与す る。そのため、宇宙往還機の機体などでも接合界面 の破壊を防ぐことが可能となった [1, 2]一方で近年、数値計算法の発展により、有限要素 法解析において流体、伝熱、構造および動特性等、 それぞれの支配方程式で表される物理現象を両立さ せたマルチフィジックス解析が注目されている [3]Copyright © 2019 Hosei University また引張り試験や強度試験結果、流体力や粘度の測 定データ等、実験値および数値計算結果のデータを、 そのまま解析プログラムへ導入するシステムも発達 してきており、複数の外乱を考慮した高精度な解析 が可能となっている [4]。そのため、複雑な変形挙 動を示す傾斜機能材料の解析に関しても、有限要素 法を用いた解析が多く行われるようになってきた [5]。しかしながら、傾斜機能材料の目的である「材 料の熱応力緩和効果」を最大にするため、熱変形、 特にクリープ変形挙動に焦点をおいた解析が少ない のが現状である。さらに近年、効率性・コストの観 点から、部品の長時間における使用、また使用環境 の高温化により、構造材料に耐熱性が求められるよ うになってきた。以上のことから傾斜機能材料の熱 応力緩和効果の検討は、今後も必要とされる研究で あり、さらに傾斜パターンを最適設計することで、 緩和効果を最大にすることが可能である。 本報では、その手始めとして、セラミックスの中 でも耐熱性に優れているジルコニア(ZrO 2 )と、セ ラミックスの弱点である展延性を持ち合わせたニッ ケル(Ni)を傾斜機能材料化した解析モデルを作成

Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

63

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34 (2019)

原稿受付 2019年 3月 29日発行 2019年 7月 18日

Ni/ZrO2 系傾斜機能材料の熱-構造連成によるクリープ挙動解析

Creep Characteristics of Ni/ZrO2 Functionally Graded Materials

Investigated by Coupled Thermal-Structural Analysis

亀谷 恭子1) 安藤 彰太1) 塚本 英明1)

Kyoko Kameya, Syota Ando, and Hideaki Tsukamoto

1)法政大学理工学部機械工学科

Functionally graded materials (FGMs) are a new kind of composite materials which have been expected to effectively relax thermal stress. In order to fully utilize the advantages of FGMs, it is important to better understand the details of heat conduction, thermal stress and creep strain proceeding in FGMs. In this study, a numerical analysis of creep characteristics of FGMs is presented. Finite element analysis which deals with thermal shock testing of the metal-ceramic FGMs is addressed. Furthermore, heat resistance, thermal stress and creep behaviors of FGMs are discussed by comparing FGMs with conventional materials. As a result, it is revealed that FGMs are effective to suppress thermal deformation and avoid thermal stress fracture.

Keywords : Functional gradient materials, Finite element method, Creep strain

1. はじめに傾斜機能材料(FGMs)とは、単一の素材のみで

は困難である特性を両立させるため、組成及び組織が異なる物質を、異なるスケールおよび空間的次元で連続的・段階的に傾斜(変化)させつつ一体化させた不均質材料の概念である [1]。金属とセラミックスを単純に接合した複合材料では、材料間の熱膨張係数の差から、温度が上がるにつれて大きな熱応力を発生する。しかし傾斜機能材料の場合は、組成が傾斜していることにより、特定の接合界面が存在せず、特性も連続的に変化するため、熱応力が軽減される。すなわち構造物に生じる熱応力の緩和を最大にすることが可能であり、超高温における接合界面での破壊を防ぐことに寄与する。そのため、宇宙往還機の機体などでも接合界面の破壊を防ぐことが可能となった [1, 2]。一方で近年、数値計算法の発展により、有限要素法解析において流体、伝熱、構造および動特性等、それぞれの支配方程式で表される物理現象を両立させたマルチフィジックス解析が注目されている [3]。

Copyright © 2019 Hosei University

また引張り試験や強度試験結果、流体力や粘度の測定データ等、実験値および数値計算結果のデータを、そのまま解析プログラムへ導入するシステムも発達してきており、複数の外乱を考慮した高精度な解析が可能となっている [4]。そのため、複雑な変形挙動を示す傾斜機能材料の解析に関しても、有限要素法を用いた解析が多く行われるようになってきた[5]。しかしながら、傾斜機能材料の目的である「材料の熱応力緩和効果」を最大にするため、熱変形、特にクリープ変形挙動に焦点をおいた解析が少ないのが現状である。さらに近年、効率性・コストの観点から、部品の長時間における使用、また使用環境の高温化により、構造材料に耐熱性が求められるようになってきた。以上のことから傾斜機能材料の熱応力緩和効果の検討は、今後も必要とされる研究であり、さらに傾斜パターンを最適設計することで、緩和効果を最大にすることが可能である。本報では、その手始めとして、セラミックスの中でも耐熱性に優れているジルコニア(ZrO2)と、セラミックスの弱点である展延性を持ち合わせたニッケル(Ni)を傾斜機能材料化した解析モデルを作成

Page 2: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

64

し、両材料を単に合わせたモデルとの比較を行う。特に構造体に熱衝撃が加わった場合を想定し、解析の境界条件により、試料モデルに高温燃焼ガスによる繰り返し入熱を与えることでクリープ挙動・熱変形挙動の比較を行う。

2. 傾斜機能材料の解析モデル2.1 計算手法の概要図1に本報で扱う解析対象の構造を示す。材料は

Ni-ZrO2系材料を想定し、図中のFGMsモデルは、片側をNi-100%、反対側をZrO2-100%として、その中間の4層を表1に示す体積率で材料を徐々に変化させた全6層からなるモデルである。また比較のために、両材料を配合させず、単なる2層で合わせたモデル(2-layers model)を作成した。解析コードは、有限要素法を用いた汎用構造解析プログラムであるMSC Nastran 2018を使用し、非定常伝熱-構造連成解析を行うため、陰解法で連成解析に適したソルバー(SOL400)を使用した[6, 7]。使用プログラムでは、強連成に近いCoupled Physicsと弱連成に近いChained Physicsがあるが、本解析では、構造解析と熱伝導解析結果の相互作用を考慮することが可能なCoupled Analysisを採用した[6]。

2.2 材料物性および境界条件解析モデルの概要および加熱方法を図2に示す。解析コストを考慮すれば、軸対称モデルや1/4カットモデルが望ましいが、将来的には外部からの熱衝撃を、不均一な熱分布を与えることによりモデル化する計画があるため、フルモデルとした。試料中心の節点では、各軸の並進移動と回転移動の拘束を行い、その周辺4か所を、y軸方向並進移動のみ拘束した。周囲温度は室温(296K)から1300K以下に設定し、外気から試料への入熱は、試料のZrO2側に熱伝達率を与えることにより行った。なお空気と試料表面間の平均熱伝達係数は、レイノルズ数およびヌセルト数より計算を行い、33W/(m·K)で与えた[8]。各時間の高温燃焼ガスによる周囲温度履歴を図3に示す。熱衝撃試験を1回行った場合(図3(a))と、周期的に行った場合(図3(b)、8cycle)を想定し、両者とも1273K程度の熱を30秒間与えた後、室温まで下げ、その後室温を50秒以上保つ設定である。表2にNiおよびZrO2の材料物性値を示す。2層目~

5層目の物性値については、線形混合則およびNiとZrO2の材料物性値を用いて計算した値を導入し、真応力-真ひずみ曲線に関しても、線形混合則を用い

た計算値を適用した。

2.3 粒界拡散(Coble)クリープの導入熱衝撃試験下では、試料が一定時間、高温にさらされるため、材料にクリープひずみが生じることが想定される。高温下でのクリープひずみ速度は、応力と温度に依存し、特に結晶性材料の場合、転位の運動だけでなく粒界すべりや拡散自体も材料の塑性変形に寄与する[9]。拡散クリープに関して、温度により粒界拡散(Coble)クリープが支配的になる

図1 解析モデルFigure1 Analysis model for metal-ceramic FGMs

[%] [%]

表1 Niおよび ZrO2の体積率Table1 Volume ratio of Ni and ZrO2

図2 FGMs モデルの境界条件Figure2 Schematic representation for FGMs model

Page 3: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

65

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

領域と、格子拡散(Nabarro-Herring)クリープが支配的になる領域があるが、本解析では1300K以下の温度を扱う点、さらに各材料の融点およびクリープ変形機構領域図[9, 10]から、実際には粒界拡散クリープ(以下Cobleクリープとする)が支配的であると推察し、解析に導入することを考えた。結晶粒界におけるCobleクリープの構成方程式は以下で示される[11]。

(1)

ただし、ε4 cobleはCobleクリープにより生じるひずみ速度、Cは16程度の定数、ωgbは粒界幅、Ωは空孔の体積、dは最小粒子径、Tは温度、kB はボルツマン定数、σeqは等価応力、Dgbは以下の式で示される粒界拡散係数である。

(2)

ここでDgb0は温度が無限大の場合における粒界拡散係数、Rは気体定数、Qは活性化エネルギーを示している。表3にCobleクリープに関する各パラメータを示す[11, 12]。FGMsモデルの2~5層(中間層)は、材料物性値と同様、線形混合則を適用し、両材料のCobleクリープパラメータを用いて、クリープひずみ速度の値を計算した。

3. 解析結果および考察3.1 傾斜機能材料モデル

FGMsモデルの解析結果を図4に示す。横軸は経過時間、縦軸はそれぞれ各位置(Point)での温度、ミーゼス応力、塑性ひずみおよびクリープひずみを示している。温度に関して、ZrO2側表面(Point 7)では、図4(a)より熱を与え始めてから最高温度に達するまで30秒程度経過しているが、最高温度が1158Kと周囲温度と同程度の値を示した。一方、ZrO2側表面以外の位置では、極端に温度が低くなっており、Point 6でも453Kしか上がっていな

い。これはZrO2の熱伝導率が低いため、試料内部に熱が伝わりにくかったことが原因であり、ZrO2材料の断熱効果の影響と推測する。またミーゼス応力

表2 Niおよび ZrO2の材料物性値Table2 Material properties of Ni and ZrO2

図3 加熱温度(周囲温度)の設定(a) 1cycle パターン (b) 周期的加熱パターンFigure3 Ambient temperature transient

図4 FGMs モデルにおける各位置の解析結果(a)温度 (b)フォンミーゼス応力

(c)塑性ひずみ (d)クリープひずみFigure4 Analysis results of FGMs model at each point

QD

表3 CobleクリープパラメータTable3 Coble creep parameter

Page 4: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

66

に関して、図4(b)よりZrO2側層の応力値がかなり高いことがわかる。しかしZrO2の降伏応力が表2より1000MPaと大きいため、ZrO2の体積比率が高い層では、図4(c)から塑性ひずみが生じていない。一方、Niの体積率が高い層では、Niの降伏応力は表2より58MPaと低いため、ミーゼス応力が高いにも関わらず塑性ひずみが生じている。さらにクリープひずみに関しては、図4(d)よりZrO2側表面に若干のひずみが生じてはいるが、値が10-17程度とかなり小さな値を示している。本解析の場合、加熱時間が最高でも240秒と短かったため、クリープひずみが小さかったのではないかと推測する。以上のことから、本報の解析結果ではZrO2の断熱性を確認することができたが、たとえZrO2側から入熱を行っても、Ni側では低温領域で塑性変形が生じてしまうことがわかった。

3.2 材料モデル間の比較FGMsモデル(FGMs)の解析結果と 2層モデル

(2 layers)の結果を図 5に示す。ZrO2側表面上のPoint 7を対象に、それぞれ表面温度、ミーゼス応力、面内方向の応力、クリープひずみ、塑性ひずみおよび面内方向の変位を示している。図 5(a)より温度に関してはどちらのモデルも同じ挙動を示しているが、ミーゼス応力、変位およびクリープひずみ

に関しては、図 5(b)、(f)、(d)より両モデルで違いが見られた。特にクリープひずみは、式 (1)より温度だけでなく応力も関係するため、図 4(b)より初期のミーゼス応力値が高い FGMsモデルのほうが若干高くなったと推測する。ミーゼス応力に関しては、周辺温度を下げた後、すなわち 50秒後は 2層モデルのほうが高くなっている。ミーゼス応力は引張り・圧縮を正負で表現できないが、50秒以降は冷却を行っているため、両モデルとも圧縮挙動をしていると考える。なお、どちらも ZrO2の降伏応力を超えていないため、図 5(e)で示すとおり ZrO2表面層で塑性ひずみは生じなかった。他にも図 5(f)より面内変位に若干の違いが確認された。これは後述するミーゼス応力分布(図 10)の通り、2層モデルでは中間層において材料物性値の極端な違いから層間に段差が生じるため、面内方向で変位が高くなったのではないかと推察する。

3.3 熱衝撃回数の影響熱衝撃試験を繰り返し行った場合を想定し、 周期的な入熱(図 3(b))を行った場合の解析結果を図 6および図 7に示す。Ni側表面上の Point 1(図 2参照)、試料の中間層に位置する Point 4および ZrO2

側表面上の Point 7を対象に、クリープひずみおよび温度履歴の比較を行った。図 6より、入熱を行っ

図5 FGMsモデルと 2層モデル(point 7)(a)温度履歴 (b)ミーゼス応力 (c)面内応力 (d)クリープひずみ (e)塑性ひずみ (f) 面内変位

Figure5 Comparison between FGMs model and 2 layers model at point 7

Page 5: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

67

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

た ZrO2側表面層では、温度履歴と同期してクリープひずみが増加していることがわかる。中間層である Point 4では、2層モデルのほうが時間の経過とともに増加している一方、Ni側表面に位置するPoint 1に関しては、FGMsモデルのほうが増加している。この理由として、クリープひずみ速度ε4 coble

が温度と等価応力に依存していることが原因と考えられる。特に式 (2)より、ε4 cobleは温度の増加とともに指数関数的に増加を続けるため、温度が上がるにつれて増加量が急激に増す。加えて図 7 におけるPoint 1の温度履歴を見ると、FGMsモデルのほうが若干高いため、先にクリープひずみ速度が高い領域に達し、結果 FGMsモデルのクリープひずみが急激に増加したと推測する。一方 Point 4では逆に 2層モデルのクリープひずみが高くなっているが、これは 1cycle結果(図 4)でも示した通り、ZrO2側層のほうでミーゼス応力値が高かったことが原因と考える。しかしながらいずれも値はかなり小さかったことから、今回の加熱時間ではクリープの影響が小さいと推測する。しかしながら入熱を 8cycleだけでなく、数百回行う、あるいは長時間連続して熱を与える等の環境下では、クリープひずみの影響が大きくなると推測する。同様に周期的な入熱を行った場合における、各位置での塑性ひずみを図 8に示す。また FGMsモデルのミーゼス応力コンター図を図 9に、2層モデルのコンター図を図 10に示す。0MPaから 250MPaまでを色分けし、凡例として図右に示す。また同図にはモデルの変形も示している。図 8より、Ni側表面(Point 1)では、塑性ひずみの差が見られなかったが、中間層の位置(Point 3および Point 4)では、2層モデルの塑性ひずみが高いことがわかる。この違いは、図 9および図 10の変形図でも見られており、FGMsモデルでは中間層での不連続な変形、すなわち試料の段差が見えず滑らかな輪郭を示している一方、2層モデルの場合は、図 10より熱荷重サイクルが繰り返されるにつれて、ZrO2-Ni境界層で試料の形状が不連続になっている。これは金属とセラミックスの熱膨張率の違いにより生じたと考えられ、さらに熱衝撃回数を 8回だけでなく数十回繰り返すことにより、顕著に見られることが予想される。さらにコンター図を見ると、FGMsモデルのほうが2層モデルよりミーゼス応力が全体的に低く、熱応力の緩和効果が出ていることがわかる。以上のように FGMsモデルは変形の連続性が保たれており、塑性ひずみも小さい一方、2層モデルでは組成が不連続な層間で変形に不連続が生じていることから、

図6 クリープひずみ(周期的加熱パターン)Figure6 Creep strain at each point (8 cycle)

図7 温度変化(周期的加熱パターン)Figure7 Temperature at each point (8 cycle)

図8 塑性ひずみ(周期的加熱パターン)Figure8 Plastic strain at each point (8 cycle)

Page 6: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

68

そこが熱応力破壊の起点となることが推測される。したがって両モデルを比較した場合、強度的にはFGMsモデルのほうが優れていると考えられ、傾斜機能材料の効果が出ていることが、解析シミュレーションにより確認できた。

4. 結論有限要素法を用いて熱衝撃試験を想定した非定常熱-構造連成解析を行い、Ni-ZrO2系傾斜機能材料モデル(FGMs model)と、異なる材料どうしを単に合わせたのみのモデル(2-layer model)とを比較した結果、以下の知見が得られた。(1) ZrO2は降伏応力も高く熱伝導率も低いため、

ZrO2側から熱衝撃を与えたとしても試料内部、すなわち中間層、Ni層側の材料に応力や熱が伝わりにくい。これは ZrO2の強度と断熱効果が発揮された結果と推測するが、反対面の Niは降伏応力が低いため、たとえ伝わる応力や温度が低くても、Ni側の層で若干の塑性ひずみが生じてしまう。

(2) クリープ挙動について、クリープひずみ速度は温度と応力に依存するため、各層における温度と応力によって値が左右される。特にZrO2側表面では FGMsモデルのほうが、初

期のミーゼス応力が比較的高く、クリープひずみも高くなった一方、Ni側表面では温度がFGMsモデルのほうが高かったため、クリープひずみが高くなったと推察される。

(3) 2層モデルと FGMsモデルを周期的な加熱を行うことにより比較した結果、FGMsモデルのほうが、試料の組成が変化する境界面での型崩れが生じにくかった。すなわち 2層モデルの場合は、材料物性値の違いから 2種類の材料境界面にて不連続な変形が生じるため、これが熱応力による破壊の起点になりうることが推測される。

参考文献[1] 上村誠一,渡辺義見,“ 図解 傾斜機能材料の基礎

と応用 ”,コロナ社,2014年 4月.[2] 塚本英明,“ 傾斜機能材料の構造解析・評価法 ”,

精密工学会誌,Vol.83, No.5, 2017.[3] “MSC Nastran 2018 Release Guide”, MSC Software,

November, 2017.[4] “MSC Nastran 2018 Quick Reference Guide”, MSC

Software, November, 2017.[5] E. Mart ínez-Pañeda, “On the Fini te Element

Implementation of Functionally Graded Materials”,

(a) 50.2s (b) 752.2s (c) 900.0s

(a) 50.2s (b) 752.2s (c) 900.0s

図10 周期的加熱における各時間のミーゼス応力分布と変形(2層モデル)Figure10 Deformation and contour of Von Mises stress (8 cycle pattern, 2-layer model)

図9 周期的加熱における各時間のミーゼス応力分布と変形(FGMs モデル)Figure9 Deformation and contour of Von Mises stress (8 cycle pattern, FGMs model)

Page 7: Investigated by Coupled Thermal-Structural AnalysisInvestigated by Coupled Thermal-Structural Analysis 亀谷 恭子 1) 安藤 彰太 塚本 英明 Kyoko Kameya, Syota Ando, and

69

法政大学情報メディア教育研究センター研究報告 Vol.34

Materials, Vol.12, No.2, p.287, 2019.[6] “MSC Nastran 2017 Nonlinear Userʼs Guide SOL 400”,

MSC Software, November, 2016.[7] “MSC Nastran 2018 Thermal Analysis Userʼs Guide”,

MSC Software, November, 2017.[8] 斎藤彬夫,岡田昌志,一宮浩市,“ 例題演習 伝熱

工学 ”,産業図書,1985年 3月.[9] 丸山公一,中島英治,“ 高温強度の材料科学 –ク

リープ理論と実用材料への適用 –”,内田老鶴圃,1997年 4月.

[10] S. D. Patel, “Creep and deformation maps for alpha and beta zirconium”, These and Dissertations, Lehigh university, paper1900, 1978.

[11] H. Tsukamoto, “Microstructure and indentation propertied of ZrO2/Ti functionally graded materials fabricated by plasma sintering”, Materials Sciense & Engineering A, Vol.640, No.29, pp.338-349, 2015.

[12] H. Tsukamoto, “Design of functionally graded thermal barrier coatings based on nonlinear micromechanical approach”, Computational Materials Science, Vol.50, No.2, pp.429-436, 2010.