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IPCC5次評価報告書と地球 温暖化による高潮被害予測とそ の対応の方向性 H26.7.23 国土技術政策総合研究所 沿岸海洋・防災研究部 鈴木武

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IPCC第5次評価報告書と地球

温暖化による高潮被害予測とその対応の方向性

H26.7.23国土技術政策総合研究所

沿岸海洋・防災研究部 鈴木武

IPCCの役割• 設立

– Intergovernmental Panel on Climate Change– 気候変動に関する政府間パネル

– 1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立.

• 報告書の目的– 学術文献をレビューして知見を取りまとめる.

– 政策に関連する情報の提供を求められているが,政策提言を行ってはならない.

– しかし,SPMは極めて政治的.

先進国と途上国の対立

• 共通だが差異のある責任

• 途上国は先進国の責任を追及し,補助金や技術移転等を引き出そうとする.

• 先進国はすべての国の参加による削減に持って行きたい.

• ただし欧州は,すべての国の参加よりも排出権取引制度を温存するための強制力のある排出削減目標を必要としている.

• 中進国の排出が急増している.なかでも中国の排出量が突出.中国は途上国として排出削減義務を背負いたくない.

AR5の2℃目標• 21c末の大気中のGHGの濃度が約450ppm(RCP2.6に

対応)であれば,産業革命前に比べて気温上昇を2℃未満に抑えられる可能性が高い.

• これをもって,「2℃未満が目標になった」という報道もある.

• 同濃度に達するには,2050年のGHG排出量を10年と比べて40~70%削減し,21c末にはほぼゼロまたはマイナスにする必要がある.

• そのためには,再生可能エネルギーや原子力エネルギーなど低酸素エネルギーの供給比率が2050年までに10年の3倍から4倍近くになっている必要がある.

• 植林をして,木材で発電.発生したCO2を地中に埋めることを大規模に行うことが想定されている.BECCSと呼ばれる.

• コスト,安全保障,国際競争,環境影響を考慮すると,極めて難しいし,実行可能性はあまり議論されていない.という意見もある.

RCPの時間経路

研究の背景・目的

2013年9月,IPCCは第5次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約(AR5 WG1 SPM)を公表した.

AR5は,世界平均海面水位が26cm~82cm上昇し,高潮は「極端な高い潮位の発生や高さの増加」が21c初期で「可能性が高い」,21世紀末で「可能性が非常に高い」とした.

海面水位の上昇と高潮偏差の増大は,日本の沿岸域における高潮による浸水リスクの増大をもたらす.

AR5に採用された気候モデルで予測された海面の上昇量をもとに,高潮浸水被害予測モデルを使い,日本の高潮浸水による被害リスクがGHGの代表的濃度経路(RCP)ごとに全国でどれだけ変化するかを予測した.

高潮の温暖化影響を予測するためのモデル構成

気候モデル

GCM

GHG排出シナリオ

RCM

高潮モデル

浸水モデル

被害モデル

風・気圧分布

台風コース 越波・越流

浸水・遡上

経済指標

被害機構風波

高潮浸水被害予測の体系

海面上昇,台風大型化の条件

人口・経済指標の空間データ

地形・防潮壁の空間データ

高潮による浸水計算

浸水地域における被害指標

の計算•浸水エリア•浸水人口•浸水被害額

越流・湛水モデル

Qin海域 陸域

堤防

D4 D5D3D2D1

12212

1211

32,)(291.0

32,235.0

hhhhghQ

hhghhQ

セルを設定した地域

一体的に浸水すると考えられるT.P.15m以下地

域を一つの計算領域(セル)とし,計算領域を設定した.

セル数:893 面積カバー率:91.4% 人口カバー率:98.0%

被害額推計の方法

世帯数

従業者数

資産単価

一般資産額

被害率

浸水深

公的施設被害額

公的施設比率被害額

田畑面積 生産単価

農業生産額

一般資産被害額

高潮浸水リスクマップ

1E3

1E2

1E1

1E0

1E-1 ha

1E4

1E3

1E2

1E1

1E0

1E4

1E3

1E2

1E1

1E0 M\

1E5

1E6

浸水面積

浸水人口 浸水被害額

RCP別の高潮被害指標の100年間の変化

2000 2050 21000

200

400

600

2000 2050 21000

200

400

600

2000 2050 21000

200

400

600

2000 2050 21000

300

600

900

1200

2000 2050 21000

300

600

900

1200

2000 2050 21000

300

600

900

1200

2000 2050 21000

10

20

30

2000 2050 21000

10

20

30

2000 2050 21000

10

20

30

浸水

面積

(km2)

浸水

面積

(km2)

浸水

面積

(km2)

RCP2.6

RCP4.5

RCP8.5

浸水

人口

(k)

浸水

人口

(k)

浸水

人口

(k)

RCP2.6

RCP4.5

RCP8.5

被害

額(T\)

RCP2.6

被害

額(T\)

RCP4.5

被害

額(T\)

RCP8.5

被害額

浸水人口

浸水面積

○:MIROC5,□:MRI-CGCM3,△:HadGEM2-ESX

まとめ

IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書(AR5)の公開を受け,AR5で採用された代表的濃度経路(RCP2.6,RCP4.5,RCP8.5)および気候モデル(MRI-CGCM3,MIROC5,HadGEM2-ESX)による2050年および2100年の海面上昇量をもとに,

高潮浸水による被害リスクを全国の低地を893に分割して推

計し,それらの結果を集約することによって,高潮浸水による被害リスクの全国の空間的な分布と2100年までの50年間隔の変化を把握した.

推計結果から,三大湾,瀬戸内海および有明・八代海地域で相対的に大きなリスクになること,2100年までの100年間

の間ではリスクが直線的に増加していくことなどが示唆された.

それらの地域では,主に港湾と漁港の海岸でリスクが高い.有明海は農地海岸でリスクが高い.

台風30号(ハイアン)の概要 H25.11.8早朝にフィリピン中部に上陸.900hPaの勢力を約1日半

維持した.フィリピン中部は60m/s以上の強風と高潮に襲われ,レ

イテ島のタクロバンを中心に甚大な被害を引き起こした.フィリピン国家災害リスク削減委員会(NDRRMC,2013年11月22日20時)によれば,死者5200人,負傷者23千人,行方不明1600人,被害額520億円である.

最低気圧:895hPa 最大風速:(気象庁)65m/s〈10分平均〉,(米海軍)87.5m/s〈1分

平均〉

平均移動速度:31.8km/時 PAGASA(フィリピンの気象庁)のデータでは,台風30号は中心の

風力と陸上での最大瞬間風速で過去にフィリピンを襲った台風の中で7番目.(The Wall Street Journal,H25.11.15)

COP19(ワルシャワ,11.11~11.22)の直前であったことが世界

の関係者・マスコミの関心を高め,スーパー台風が襲ったという報道につながった可能性がある.

2つの目標

全体的な目標

実施の目標

問題の構造が複雑 情報が少ない 不確定要素が多い

高めの目標を設定することになる.目標の精度が悪い.

目標と個別対策の関係が不明確.

内容が具体的

各種の制約を具体的に考慮できる

現実的な目標を設定することになる

全体的な目標と実施の目標 を少し切り離して

考える

Back Casting

施策と組織の自由度向上

施策

統制・横並び

自由度の高い展開・不揃いの許容

組織

既成枠組の延長

効率と実力重視のネットワーク型活用

財政の厳しい状況を考えると,組織もいたずらに多くできない.

要保全海岸・海岸保全施設の管理セクター

一般36%

港湾29%

農地11%

漁港22%

河川・

農地2%

要保全海岸延長

一般34%

港湾32%

農地13%

漁港19%

河川・

農地2%

海岸保全施設延長

※ 防護人口では,港湾海岸で約60%.三大湾等ではもっと高い.

■END■