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Title 介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの 関係-過程における両者の機能に着目して- Author(s) 玉木, 千賀子 Citation 沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of Humanities and Social Sciences(7): 107-119 Issue Date 2006-03-31 URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/6141 Rights 沖縄大学人文学部

Issue Date - University of the Ryukyusokinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12001/...Title 介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの 関係-過程における両者の機能に着目して-

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Title 介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係-過程における両者の機能に着目して-

Author(s) 玉木, 千賀子

Citation 沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty ofHumanities and Social Sciences(7): 107-119

Issue Date 2006-03-31

URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/6141

Rights 沖縄大学人文学部

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沖縄大学人文学部紀要第7号2006

介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係一過程における両者の機能に着目して-

玉木千賀子

要約

本研究は,介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの各段階における類

似点および相違点を整理することにより,両者の関係を明らかにすることを目的とした。

その対象として,介護保険制度の「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する

基準」に示されるケアマネジメント過程と,太田・秋山らがまとめたジェネラル・ソー

シャルワークの過程を「開始」,「アセスメント」,「計画」,「実施」,「モニタリング」,

「終結」の各段階に分けてケアマネジメントとソーシャルワークの機能に着目して比較

検討した。その結果,モニタリングについてはソーシャルワークとケアマネジメントの

機能は一致しているが,その他においては両者の機能に相違点が認められた。

介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの機能には比較的類似点が多い

と思われたが,両者の機能には一部共通する部分はあるものの,相違点が多く認められ

ることが明らかになった。

キーワード:ケアマネジメント,ジェネラル・ソーシャルワーク,プロセス,機能

はじめに

ケアマネジメントは,1970年代のアメリカの精神医療領域における脱施設化や高齢者の在宅

ケアに用いられたのがその始まりとされている!)。

1970年代後半のソーシャルワーク方法論の統合化が図られる過程においては,3方法論を統

合したソーシャルワーク実践の機能がケアマネジメントの内容と概ね一致することから,ケアマ

ネジメントをソーシャルワークの中核ととらえた2)。その一方では,ケアマネジメントは利用者

の現実的な生活維持の対応や介護技術に焦点をあてているとしてケアマネジメントをソーシャル

ワークの境界領域とする意見3)もある。その他にもケアマネジメントはケースワークの一部を強

化したものであるとする意見,情報提供や送致サービスを強化させたもの,インテーク部分を独

立強化させたもの4)など,ケアマネジメントとソーシャルワークの関係についてはさまざまな見

解がある。

日本においては,最初に在宅介護支援センターでケアマネジメントが用いられ,その後,介護

保険制度に導入された。しかし,上述のようにもともとのケアマネジメントとソーシャルワーク

の関係が明確ではないため,介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係も暖昧

な状況が生じている5)。

本研究では,介護保険制度に規定されているケアマネジメントとソーシャルワークの関係を明

らかにするために,両者の過程の各段階における機能の類似点および相違点について比較検討し

た。その方法として,「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」の「指定居宅

介護支援の基本的取扱方針」と「指定居宅介護支援の具体的取扱方針」(以下,取扱方針とする)

に示されているケアマネジメント過程と,太田・秋山らによってまとめられたジェネラル・ソー

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沖縄大学人文学部紀要第7号2006

シャルワークの過程6)を用いて比較を行った。

ジェネラル・ソーシャルワークは,1970年代のソーシャルワーク統合化の流れのなかで発展

してきたジェネラリスト・アプローチに基づいて構成されたものである。ジェネラリスト・アプ

ローチは全体的視点から問題をとらえて,既存のさまざまな介入方法を取り入れて実践を展開す

るという姿勢に基づくものであり,その視点や発想に特性がある。太田らは,それらの特性を実

践概念として整理することの重要性を指摘し,援助過程の展開方法の具体化を試みている。

なお,日本においては1994年「高齢者介護・自立支援システム研究会」が介護保険制度の創

設を提唱し,その先駆けとして在宅介護支援センター事業の実践方法にケアマネジメントを導入

した頃から「ケースマネジメント」にかわって「ケアマネジメント」という呼び方が用いられる

ようになった8)。それ以前には,アメリカで用いられてきた「ケースマネジメント」という呼び

方を一般的に用いてきた。本研究では,アメリカの状況や1994年以前の日本について論じる場

合にも「ケアマネジメント」の用語で統一をした。また,介護保険制度のケアマネジメントとは,

居宅および施設ケアマネジメントの両方を含むものであるが,本研究においては居宅ケアマネジ

メントに限定して用いている。

1.ケアマネジメントの展開

(1)アメリカにおけるケアマネジメントの展開

アメリカでは1970年代の中期からケアマネジメントが急速に普及した。1960年代,社会福祉

サービスの諸施策が増加しつつあったアメリカでは,領域ごとに諸サービスが分断された状態で

提供されていた。それによって,次第にサービスのネットワークが複雑化し,サービスの重複や

疎漏などの弊害が生じた。そのような状況への対応策として,1960年代後期から精神保健領域

や高齢者領域でケアマネジメントが議論されるようになった9)。

精神保健領域では,地域支援プログラムが実施され,精神障害者が保健医療サービスやリハビ

リテーション等の公的サービスを利用する場合には,ケアマネジメントを実施することが義務づ

けられた。ケアマネジメントが導入された初期には,サービスのコーディネートを目的としたブ

ローカーモデルが主に用いられたが,のちには当事者の強さを支援することによって問題解決を

図る強さ活用モデル,個人のニーズに焦点をあてて生活支援を行なうリハビリテーションモデル

等も登場してきた。

高齢者領域におけるケアマネジメントは,長期ケアを必要とする高齢者を対象として全米10地

域で行われた全米長期ケアチャンネル実験プロジェクトやサンフランシスコのチャイナタウンに

住む高齢者を対象としたオンロックプロジェクト等の高齢者長期ケア実験プロジェクトに取り入

れられて試験的に実施されてきた。高齢者領域におけるケアマネジメントは精神保健領域のブロ

ーカーモデルに相当するシステム中心モデルと対象者のニーズの充足を優先させるクライエント

中心モデルに大きく分けられたが,高齢者領域においても精神保健領域と同様,ブローカーモデ

ルが多くを占める傾向があった。精神障害者,高齢者領域ともにサービスのコーディネートのみ

に焦点をあてたブローカーモデルまたはシステム中心モデルのみでは,利用者のニーズに応える

ことが困難になってきたため,それらのモデルに強さ活用モデルやリハビリテーションモデル,

クライエント中心モデルを組み合わせて用いられるようになる。そして1980年代後半になると,

ケアマネジメントの方法は知的障害者,アルコール依存者,児童等の問題を取り扱う福祉機関お

よび保健医療機関で用いられるようになり,精神障害者の領域と同様に公的機関のサービスを利

用する場合には,ケアマネジメントの実施が義務づけられるようになった10)。

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玉木:介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係

(2)日本におけるケアマネジメントの導入

アメリカで用いられていたケアマネジメントの方法を日本で最初に取り入れたのは,1990年

から施行されている在宅介護支援センター事業である。1989年,「介護対策検討会報告」におい

て,「要介護状態にあっても可能な限り自立して,社会とのつながりを維持して生活を継続でき

るようにすべきである」と,地域における在宅サービスの充実とその利用を促進するための拠点

整備の必要性を指摘した。そして同年発表された「高齢者保健福祉10カ年戦略(ゴールドプラン)」

によってホームヘルプ,ショートステイ,デイサービスなどの在宅福祉サービスの整備目標値と

あわせて,在宅介護支援センターの創設が提示された。

在宅介護支援センター実施要綱においては,「高齢者やその家族の在宅介護に関する総合的な

相談に応じ,在宅のニーズに対応した各種の保健,医療サービスが総合的に受けられるように市

町村等関係行政機関,サービス実施機関等との連絡調整等の便宜を供与する」ことを事業目的と

して挙げ,在宅高齢者に対する相談や福祉サービスの利用に伴う相談援助をその主な業務とした。

そして,1994年の在宅介護支援センター実施要綱改正において在宅高齢者に対する相談や福祉

サービスの申請代行,ケアマネジメントの実施が業務内容として位置づけられた。副田は,アメ

リカの高齢者分野におけるケアマネジメントの多くが,医療費や施設入所費に要する費用高騰を

抑制するための,費用効率の良いサービス提供システムをめざした「システム指向モデル」であ

るのに対して,在宅介護支援センターにおけるケアマネジメントは,利用者や家族のニーズアセ

スメントに基づいたサービスの調整や仲介,助言などをとおして利用者および家族の生活支援を

めざす「利用者指向モデル」であると指摘しているu)。つまり,在宅介護支援センターのケアマ

ネジメントは,措置に基づく福祉サービスの利用や公的機関における機能の縦割り,あるいは資

源の不足などによって利用者やその家族に生じる不利益を,利用者を主体としたケアマネジメン

トの実施によって克服することを目的に導入され,その強化が図られた゜

このように,在宅高齢者の生活支援のための中心的な機能として在宅介護支援センター事業に

位置づけられたケアマネジメントの方法は,2000年から施行されている介護保険制度に導入さ

れ,要介護者等が介護保険サービスを利用する場合において中心的な役割を担うことになった。

2.介護保険のケアマネジメントおよびソーシャルワークにおける過程

(1)ケアマネジメント過程

介護保険制度におけるサービス利用の手続きは,要介護認定過程とケアマネジメント過程に大

きく分けられる'2)。要介護認定では,身体的および精神的機能の調査に基づいて,介護を必要と

する程度について評価を行ない,その程度に応じた介護度を決定する。この要介護認定において

要介護または要支援の認定を受けた場合に介護保険サービスの利用資格が得られるとともに

利用可能なサービス内容および量についても決定される'3)。

ケアマネジメント過程は,介護サービス計画作成依頼,課題分析,サービス担当者会議,介護

サービス計画作成,サービス利用,モニタリング,再課題分析,の手続きに沿って進められる。

介護サービス計画書(ケアプラン,以下ケアプランとする)の作成は,介護保険サービスを利用

する場合には義務づけられており,その作成はサービスを利用する要介護者等や家族,ケアマネ

ジヤーが行うことが定められている。しかし現実には,ケアプラン作成に伴う手続きが繁雑であ

るため,そのほとんどが要介護者等や家族から依頼を受けたケアマネジャーによって作成されている。

課題分析(アセスメント)では,要介護者等や家族との面接や関係者からの情報収集によって,

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沖縄大学人文学部紀要第7号2006

要介護者等の健康状態,ADL,家族の状態などについて把握を行い,問題と課題を明確化する。

そしてその結果に基づいてケアプランの原案を作成する。要介護者等の課題分析に際しては,個人の主観や方法に左右されない客観的な方法を用いなければならないとされ,職能団体や研究者によって多くのアセスメントツールが作成されている'4)。

ケアプランの原案が作成されると,その内容について要介護者等や家族の了解を得てサービス

担当者会議を開催する。そこで適否が検討された原案をもとにサービス計画書を作成し,要介護者等や家族の同意を経てケアプランの実施が決定する。ケアプランに基づいてサービスが実施されると,計画に応じたサービスの実施がなされているかをモニタリングする。モニタリングの結果,ケアプランの内容に見直しが必要な場合や要介護者等の状態に変化が生じた場合には再度課題分析に戻るという循環のなかでケアマネジメントが展開される。

(2)ソーシャルワークにおける過程

ソーシャルワークの過程については,中村がその歴史的推移を3期に分けて説明している151そ

れによると,第1期(1910~1940年代)は,診断主義学派と機能主義学派が台頭していた時期であり,援助内容の基本的枠組みや前提として過程をとらえるという考え方に基づくものであっ

た。第2期(1950~1970年代)は,援助関係を築くために必要不可欠なものとして過程をとらえるようになる。援助関係と過程は一体となって機能するものであり,両者を区別することはで

きないとバイステックは双方の関係の重要性について指摘している'6)。第3期(1970年代~)になると,この時期から導入されたエコシステムに基づく視点によって,利用者の自助能力の促進や,環境整備などに対して,多様な方法や技術を駆使してゴールに向かうための機能として過程を位置づけるようになる。太田は,このエコシステムに基づく過程を,「利用者とソーシャルワーカーが協働して,目標に向かう援助行為の積み上げからなる実践活動である」’7)と定義している。つまり,ソーシャルワーカーが主導して援助を進めるのではなく,共に問題解決に向けて臨むことに価値を置いている。初期にはソーシャルワークのひとつの要素としてとらえられていた過程は,ソーシャルワーク理論の発展とともにそのとらえ方も推移し,ソーシャルワークに必要不可欠な要素として認識されるようになってきた。過程の段階区分については統一はされておらず,初期,中期,終結期という3段階によるもの,受理(インテーク),情報収集とアセスメント計画(プランニング),介入(インターペンション),終結と評価という7段階など,その形態は異なるが,基本的には開始,受理,事前評価(アセスメント),目標設定,手段プログラム設定,実行,経過観察(モニタリング),事後評価(エバリューション)などを含んでいる'8)。

ジェネラル・ソーシャルワークの場合には,エンゲージメントアセスメント,計画策定,インターペンション,評価,終結という6段階で過程が構成されている。

3.ジェネラル・ソーシャルワークにおける目標

ジェネラル・ソーシャルワークを一言で言うと,個人の抱える問題に対して個人的要因と社会的要因の両方を視野に入れて援助実践を行うことである。ジェネラル・ソーシャルワークが指す「問題」とは,人間の主観的・客観的生活状況のなかで発生した障害や困難への対処が阻害されて有効に機能できない状況を指し,その問題に対して広角的な視点から環境や状況のダイナミズムを捉えて,解決の道筋を探る'9)のがジェネラル・ソーシャルワークに基づく援助実践であるとされている。以下,ジェネラル・ソーシャルワークの実践における目標20)について簡単に説明する。①利用者の自立・自助:利用者の自立・自助を目的として,行うべき援助を見極めたうえで

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玉木:介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係

必要な部分にのみ側面的に援助を行う。②利用者の主体的視点の尊重:利用者の望むニーズの充

足や課題解決のしかたを見極めて自己実現を支援する。③利用者の対処能力の向上:利用者の問

題を社会生活機能の低下・機能不全と捉えて,環境の変化やストレスへの対処能力を高める。④

社会資源の改善と向上:利用者にとって問題や不備が認められる社会資源の改善・向上を行う。

⑤利用者と資源の相互作用の促進:利用者と利用者の問題解決に最適な資源を結んで,相互作用

を促進するための支援を行う。⑥社会福祉政策・制度の作成への参画:援助実践から得た知見に

基づいて政策・制度の作成や提言を行う。⑦実践方法や実践行動システムの検討による専門性の

向上:援助過程のなかで行う実践行動が利用者との関係のなかでどのように作用するのかを見極

めて最も効果的な実践方法を検討し,それをとおして専門性を高める。

人と環境との相互作用を促進して人びとの生活の質を改善するというジェネラル・ソーシャル

ワークの目的を果たすためにこれらの具体的な目標に基づいて援助実践が展開される。

4.介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークの援助過程についての比

ここでは,介護保険制度の「取扱方針」に示されているケアマネジメント過程と,太田・秋山

らによるジェネラル・ソーシャルワークの過程を①開始,②アセスメント③計画,④実施,⑤

モニタリング,⑥終結の6つの段階に分けて,各段階における介護保険制度のケアマネジメント

とジェネラル・ソーシャルワークの機能に着目して比較検討し,両者の類似点および相違点につ

いて検討を行う。なお,機能の整理には,斉藤・谷口211によるソーシャルワークの機能を参考に

した。

(1)開始

介護保険制度のケアマネジメントにおいて,開始の段階の手続きとして位置づけられているの

は「介護サービス計画(ケアプラン)作成依頼」である。「取扱方針」では,ケアプランの作成

を担当するケアマネジャーは,利用者に対してサービスの提供方法を解りやすく説明することを

定めている。つまり,ケアマネジャーは,サービスの利用に伴って実施される複雑なケアマネジ

メントの仕組みを利用者が理解したうえでサービスの利用を行うことができるように制度の説明

やサービスについての情報提供を行う。これは,利用者に対する指導・教育機能ととらえること

ができる。

ジェネラル・ソーシャルワークにおいては,開始に相当する段階を「エンゲージメント」とし

て位置づけている。「エンゲージメント」は,従来のソーシャルワークの過程において理解され

てきた「インテーク」とは異なる機能としてとらえている。その違いは「インテーク」の場合は,

利用者の相談理由から問題を把握して,その問題が当該機関で取り扱えるか否かを判断すること

が主な目的であるのに対して,「エンゲージメント」は,利用者が自分の問題や感情を表出する

ことによってそれらを意識化し,取り組む目標を明確にすること,その過程をとおして利用者と

ソーシャルワーカーが対等な援助関係を結ぶことを目的としている。その場合のジェネラル・ソ

ーシャルワークの機能は,利用者の訴えを傾聴してその感情に共感し,問題の意識化を促すため

の相談援助機能,利用者の表出する内容に分析的な視点をもって臨み,利用者の問題の整理や目

標設定を支援する促進機能,その過程をとおして利用者の強さを引き出す支援機能ととらえるこ

とができる。

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(2)アセスメント

介護保険制度の「取扱方針」では,「利用者の有する能力,既に提供を受けている指定居宅サービス等のその置かれている環境等の評価を通じて,利用者が抱えている問題を明らかし,利用者が自立した日常生活を営むことができるように支援するうえで解決すべき課題を明らかにする」とアセスメントの方法とその目的について説明している。つまり,アセスメント時におけるケアマネジヤーには,利用者の心身の状態や日常生活の支援に関係している人的および社会的資源などの評価を行うという機能を発揮することが求められる。

ジェネラル・ソーシャルワークにおけるアセスメントは,問題とそれに関係している人や実際に活用されている資源および潜在的な資源等に関する情報収集と問題認識を目的として行う。その目的を達成するためにソーシャルワーカーは,情報収集,情報認識,情報確認と計画.介入への方向づけという順序でアセスメントを行う。

’情報収集においては,問題の発生に至った利用者とそれを取り巻く環境との関係,つまり利用者と環境との間で生じている不適合状況について理解するとともに利用者の潜在的対処能力を把握する。」情報認識では,ソーシャルワーカーと利用者が協働して情報収集で把握した内容を確認し,その認識の強化を図つたうえで解決可能な範囲や緊急性の判断を行う。,情報確認と計画.介入への方向づけでは,計画に向けて利用者とソーシャルワーカーが共に情報を再確認してニーズの明確化を図り,導入するサービスの選択を行う。これらアセスメントの段階においてソーシャルワーカーは,利用者の問題や対処能力の評価を行う役割,取り組む範囲や緊急I性等の判断に際して利用者が対等に意見を表明できるように支援する役割,利用者が資源とその活用方法について理解を深めるための役割をもつ。これらをまとめるとアセスメント段階のソーシャルワークの機能は評価機能,相談援助機能,支援機能,促進機能ととらえることができる。

(3)計画

介護保険制度のケアマネジメントにおいて計画の段階の手続きとして位置づけられるのは,ケアプラン原案の作成,サービス担当者会議の開催,ケアプラン作成,ケアプランに対する利用者の同意と交付である。

「取扱方針」では,ケアプラン作成の目的として「アセスメントによって把握された課題に対応するための最も適切なサービスの組み合わせを行う」ことをあげている。また,作成上留意すべき点として,継続的かつ計画的に指定居宅サービス等の利用が行われるようにすることや,介護保険サービス以外の保健医療および福祉サービス,地域住民による自発的な活動によるサービスも含めて計画上に位置づけること,利用者の選択が可能なように当該地域の介護保険サービスの内容や料金等に関する情報を利用者やその家族に提供することなどを示している。ケアプランの原案については,その内容を利用者や家族に説明して了解を得たうえでサービス担当者会議を実施する。それに続くサービス担当者会議では,ケアプランの原案に位置づけたサービス事業者を招集し,専門的な見地から意見を求めてケアプランの内容を決定する。ケアプランが決定すると利用者や家族に対してその内容を説明し,交付する。ケアマネジヤーは,これらケアプラン作成の一連の過程において,サービス事業者間の連携を促進するためのネットワーク機能,個々のサービスを効率的・効果的に提供するためのケースマネジメント機能,利用者にサービスについての説明を行う指導・教育機能,利用者とサービス事業者との関係をとりもつ仲介機能を果たすととらえることができる。

ジェネラル・ソーシャルワークにおける計画は,アセスメントをもとに問題解決のための目標設定と具体的な手順を決定する段階として位置づけられている。そこでは,問題解決に結びつく

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玉木:介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係

ゴールを定めるとともに,その目標達成に必要なターゲットを設定することを主要な目的として

いる。ジェネラル・ソーシャルワークにおけるゴールとは,長期的結果を見据えた達成目的,タ

ーゲットとはゴールを目ざす具体的・短期的目標を指し,それらを利用者とソーシャルワーカー

が協働で設定する。ゴールとターゲットが設定されると,ソーシャルワーカーは計画の作成に先

立って,利用者の置かれている問題状況,利用者とソーシャルワーカーの役割,制度や資源シス

テムの意味について利用者に説明を行う。そしてそれらの内容についての利用者の同意を得る。

これらの手続きは,計画に組み込む情報についての利用者の認識を強化することにつながり,計

画への積極的な参加を促すという効果をもたらすことになる。そのうえで,計画の実施に必要な

要素について両者で確認し,同意・契約を行う。これら計画の段階におけるジェネラル・ソーシ

ャルワークの機能は,ゴールとターゲット,計画に導入する要素を利用者とともに決定する相談

援助機能,利用者に問題や資源システムについて説明を行う指導・教育機能ととらえることがで

きる。

(4)実施

介護保険制度の「取扱方針」では,実施に関する内容については特に示されていない。それは

介護保険制度のケアマネジメントにおける実施とは,ケアマネジヤーによって行われるのではな

く,ケアプランに位置づけた指定居宅サービス事業者によるサービスの提供を指すためであると

考えられる。

ジェネラル・ソーシャルワークにおける実施とは,計画で設定したゴールとターゲットに向け

て具体的に活動する段階として位置づけられている。その具体的活動は,利用者に対する直接的

介入と,周囲の環境に働きかける間接的介入に分けることができる。直接的介入としては,利用

者との信頼関係の発展・強化,利用者が問題を外在化して捉えるようにするための支援,資源の

理解や活用の促進,利用者の対処能力向上の支援,利用者とそれを取り巻く環境との調整,利用

者に対する正確な」情報の提供,利用者の潜在的強さや能力の発見,利用者の社会的機能の支援な

どを行う。間接的介入としては,問題解決のために動員した制度・サービスの組み合わせ,資源

同士の結びつきの強化,既存の資源では対応しきれない問題に対する資源の改善や開発を要求す

る。これらをまとめると,実施の段階においてソーシャルワークは,支援機能,促進機能,指

導・教育機能,相談援助機能,ケースマネジメント機能,リンケージ機能,弁護機能を果たすと

とらえることができる。

(5)モニタリング

介護保険制度におけるモニタリングは,サービスの計画性や利用者の課題解決に対する有効性

を検証することを目的としている。「取扱方針」では,ケアマネジヤーが利用者や各サービス事

業者への訪問や連絡を通して実施することを示しており,最低月に1度,ケアマネジャーが利用

者を訪問して面接によって行うことを義務づけている。これは,サービスの実施状況だけでなく,

利用者の状態についてのアセスメントを行うことをモニタリングの内容に含んでいるためであ

る。これらの内容から、ケアマネジメントにおけるモニタリングは,実施されているサービスや

利用者の状態に対する評価機能を果たすととらえることができる。

ジェネラル・ソーシャルワークにおけるモニタリングは,援助計画の実施状況,設定した課題

の達成度,利用者のニーズ充足度などの確認を行う。つまり計画したゴールとターゲットの達成

状況を確認することである。この段階では、ジェネラル・ソーシャルワークにも介護保険制度の

ケアマネジメントと同様に評価機能が認められる。

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沖縄大学人文学部紀要第7号2006

(6)終結

介護保険制度の「取扱方針」では,保険医療および福祉サービスが適切に提供されたにもかか

わらず,利用者の居宅での生活維持が困難な場合には,ケアマネジャーは利用者の状態に適した

介護保険施設の紹介,施設との連絡調整などの便宜を図ることが定められている。この内容によ

ると,居宅にかわる生活または療養の場への利用者の送致を,介護保険制度のケアマネジメント

における終結時の機能ととらえることができる。

ジェネラル・ソーシャルワークにおいては,援助目標が達成された場合と機関が提供できる援

助の範囲内で目標が達成できない場合のふたつの終結のパターンがある。どちらの場合において

も、利用者とソーシャルワーカーがともに援助過程をふり返り,過程のなかで利用者が獲得した

力や,維持および発展させていく内容について確認する。また,ソーシャルワーカーは利用者と

の援助関係をとおして得られた知識や技術を自らが所属する機関で共有し,機関としての援助方

針の確立や力量形成に役立てる。これら終結の段階で特に重要視されるのは,利用者とソーシャ

ルワーカーの交互作用のふり返りを通して利用者の対処力の向上を図るという点である。これら

をまとめると,終結におけるジェネラル・ソーシャルワークの機能は,相談援助機能,支援機能,

ソーシャルワーク・アドミニストレーション機能ととらえることができる。

5.結果

介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークの各段階における両者の機

能を比較することによって,「モニタリング」については介護保険制度のケアマネジメントとジ

ェネラル・ソーシャルワークの機能は類似していたが,その他の段階においては両者の機能に相

違が認められた。介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークの内容と機

能については表に示した。以下,各段階の介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソー

シャルワークの内容と機能に若干の解釈を加えて検討する。

「開始」の段階では,両者の機能には相違があり,介護保険制度のケアマネジメントでは指

導・教育機能が認められた。これは,ケアマネジメントの目的やシステムを利用者に説明するこ

とによって,自己決定権を保証するという利用者主体の制度の主旨を具現化したものと捉えるこ

とができる。しかし,それは視点を変えてみると,ケアマネジメントを抜きにしてのサービス利

用は認められず,好むと好まざるに関わらずその諸手続きを踏まえなければならない,というこ

とであり,それについての利用の了承を得るという援助者主導であると考えられる。他方,ジェ

ネラル・ソーシャルワークには相談援助機能,支援機能,促進機能など,利用者に対して問題と

感,清の整理をおこない,その言語化を促すための機能があった。それらの過程をとおして利用者

は問題を客観的にとらえ,ソーシャルワーカーとの対等な関係に基づいて問題解決を図ることが

できるようになる。

「アセスメント」の段階においては両者の機能に類似点と相違点が認められた。評価機能は両

者に認められたが,介護保険制度のケアマネジメントの評価とは利用者の問題・課題に対する評

価であるのに対して,ジェネラル・ソーシャルワークにおける評価の対象は,利用者の対処力で

あった。それは,利用者を主体とした問題・課題の明確化を図るために用いる,援助方法の検討

を目的としたものである。つまり,その性格は異なると考えることができる。そして,ジェネラ

ル・ソーシャルワークには介護保険制度のケアマネジメントにはない相談援助機能,支援機能,

促進機能が認められた。これらの機能は,利用者との対等な関係に基づいて,取り組む範囲や優

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玉木:介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係

介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークの各段階における機能

先`性の判断,課題の明確化,課題の達成に必要とされる情報の補足などのために用いられる。

「計画」の段階においては,指導・教育機能が両者に認められた。これらの機能は,計画|計画」の段階においては,指導・教育機能が両者に認められた。これらの機能は,計画作成

に先立っておこなう利用可能な資源の説明と,作成された計画内容の決定に際して用いられてい

る。両者に共通するこれらの機能を,計画に対する利用者の自己決定権の尊重という観点からと

らえなおすと,介護保険制度のケアマネジメントの場合は利用者に対して事前の情報提供は行う

が,その後の過程においては専門家が発案した計画を利用者が追認するというものであり,その

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介護保険制度のケアマネジメント ジェネラル・ソーシャルワーク

開始

内容

・利用者に対するケア

マネジメントの説明

機能

指導・教育

内容

・利用者の問題や感,盾

の明確化

・対等な関係の構築

機能

相談援助

促進

支援

アセスメント

・利用者の状態と日常

生活の支援に関係し

ている資源の評価

問題および課題の明

確化

評価 ● 問題および利用者の

対処能力の把握

.取り組む範囲と緊急

性の判断

・課題の明確化

・利用者に対する活用

する資源についての

利用

評価

相談援助

支援

促進

計画

・利用者に対する介護

保険サービスの'情報

提供

・諸サービスの計画へ

の位置づけ

・サービス担当者会議

の実施

・利用者に対する計画

書の内容説明と同意

指導・教育機能

ケースマネジメ

ント

ネットワーク

仲介

● ゴールとターゲット

の設定

・利用者に対する問題,役割資源等につい

ての説明

相談援助

指導・教育

実施

・利用者との信頼関係

の強化

問題の外在化につい

ての支援

資源に対する理解お

よび活用の促進

・利用者の社会的機能

の向上

制度,サービスの調

・資源間の結びつきの

強化

・資源の開発や改善

支援

促進

指導・教育

相談援助

ケースマネジメ

ン卜

リンケージ

アドボカシー

モニタリング

・利用者の状態把握と

サービス実施状況の

点検

評価 ● ゴールとターゲット

の達成状況の確認

評価

終結

・利用者の状態に適し

た施設の紹介と連絡

調整

送致 ・利用者との援助過程

のふり返り

維持,発展させる内容の確認

・組織内における知識,技術の共有

相談援助

支援

ソーシャルワー

ク・アドミニストレ

/や- ション

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沖縄大学人文学部紀要第7号2006

自己決定は不十分なものであると考えられる。他方,ジェネラル・ソーシャルワークの場合は,計画作成の前段階における利用者への情報保証を徹底して,その後の過程においても利用者自身が計画作成を行うように支援する。自己決定権の尊重に対する一貫』性という点において介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークには違いが認められた。両者にそれぞれ認められる機能として介護保険制度のケアマネジメントにはマネージメント機能,ネットワーク機能,仲介機能,ジェネラル・ソーシャルワークには相談援助機能があった。介護保険制度のケアマネジメントに認められた機能は利用者とサービス,そしてサービス同士を結ぶために発揮される機能であり,ジェネラル・ソーシャルワークに認められた相談援助機能は,計画内容を規定する要素の決定に際して利用者が主体的に関わることを意図した機能と考えられた。これらの内容から,計画の段階には介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワーク両者の特徴が現れていると考えられた。

「実施」の段階における介護保険制度のケアマネジメントの機能については特に記されていない。これは,計画に導入したサービス担当事業者が実施の主体であるためと考えられる。この段階のジェネラル・ソーシャルワークには直接的介入としての支援機能,促進機能,指導・教育機能,相談援助機能,間接的介入としてのケースマネジメント機能,リンケージ機能,アドボカシー機能が認められる。これらの機能は,ミクロからマクロレベルヘと支援を発展させるというジェネラル・ソーシャルワークの特徴を示していると考えられた。

「モニタリング」の段階においては,両者に類似する機能が認められた。介護保険制度のケアマネジメントは計画の実施に伴う利用者の心身および生活状況の変化やサービスの実施状況に対する評価機能であり,ジェネラル・ソーシャルワークの場合はゴールとターゲットの達成状況に対する評価機能を果たしていた。これらのことから,両者における評価の実施者およびその対象は共通していると考えられ,評価機能を両者に類似する機能としてとらえることができる。「終結」の段階においては,両者の機能に相違が認められた。送致機能は,在宅生活の維持に

困難が生じた場合についての支援の継続性という観点から介護保険制度のケアマネジメントで重要視される点である。ジェネラル・ソーシャルワークの相談援助機能,支援機能は,前段階に続いて利用者の社会生活機能を発展させるために用いられる。それは,援助関係が終結した後も利用者自身が自らの対処力を用いて問題解決を図ることや,新たな援助関係がむすばれる場合にも可能な限り利用者の力を発揮させることを意図している。そして,機関との関係では,過程で蓄積されたソーシャルワークの知識,技術の共有を図るためにソーシャルワーク・アドミニストレーションの機能が認められた。

介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークの過程の各段階の機能を比較することによって,利用者の自己決定権の尊重という点に両者の違いが認められた。ジェネラル・ソーシャルワークの場合には,利用者との対等な関係に基づいて,一貫して利用者の自己決定を支援しているのに対して,介護保険制度のケアマネジメントの場合は自己決定を支援する一方で援助者主導という側面も認められた。また、ジェネラル・ソーシャルワークに認められた利用者の対処能力の向上は,介護保険制度のケアマネジメントでは認められなかった。そしてジェネラル・ソーシャルワーク過程における機能の整理は,結果としてその目標を検証したかたちとなった。

6.考察

本研究は,介護保険制度のケアマネジメントとジェネラル・ソーシャルワークの過程の各段階において,モニタリングでは共通した機能を有していたが,その他の段階では両者の機能は異な

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玉木:介護保険制度のケアマネジメントとソーシャルワークの関係

ることを明らかにした。情報提供機能および指導・教育機能は,介護保険制度のケアマネジメン

トとジェネラル・ソーシャルワーク双方に認められる機能であったが,自己決定権の尊重という

観点からとらえた場合に,両者には本質的な違いがあることが示唆された。そして介護保険制度

のケアマネジメントには,ジェネラル・ソーシャルワークでは重視されている利用者の強さの促

進を目的とした機能が認められなかった。

渡部は,自己決定権の尊重について「十分なニーズ理解やプロセスへの参加なしに,ケアマネジャーがほとんどお膳立てしておいたケアプランをクライエントが承諾することが自己決定では

ない。クライエントとケアマネジヤー間の十分なコミュニケーションがあって,最終的にクライ

エントが,このようにしていきたいと決定したこと」22)と指摘している。これは介護保険制度のケアマネジメントにおける利用者の自己決定の不十分さとソーシャルワークに基づく自己決定権

の違いを指摘したものと言えるだろう。

梅崎は,介護保険と支援費制度そして在宅介護支援センターにおけるケアマネジメントとソー

シャルワークの機能を整理し,ソーシャルワークの機能が,ケアマネジメントの機能を内包して

いることを指摘している23)。当初,介護保険のケアマネジメントに限定した場合においても梅崎

の研究と同様の結果を予想したが,実際には両者は部分的に類似するものの,相違点が多く認められるという結果に至った。

しかしその結果に反して,介護保険制度ではソーシャルワークに基づく「自己決定の尊重」を

ケアマネジメントの理念のひとつとして挙げている。これは,ケアマネジメントの理念とその具

体的実施を示す内容に矛盾する点があるということを示していると言えるだろう。渡部はケアマ

ネジヤーを対象としてソーシャルワークに基づいたケマネジメントの指導を行うたびに指導者自

身に葛藤が起こると述べて,利用者を統合的に理解し,共通認識を導き出していく方法としての

相談面接,つまり自己決定権の尊重という理念に基づいた実践をケアマネジャーが理解すればするほどジレンマを感じるのではないか,という危愼の念を示している。そして,その理由は現在

の介護保険制度がケアマネジャーに要求,または期待する役割が明確でなく,ケアマネジャーは

どのような仕事をすべきなのかという具体的なモデルが見えてこないためであると述べている

24)。実際に複数の研究結果25)26)は,ケアマネジヤーが利用者の「自己決定の尊重」に基づいて介護保険制度のケアマネジメントを実施した場合にそれを保証できないというジレンマが生じることを示している。その実施者であるケアマネジヤーが戸惑うことなくケアマネジメントを実施

することができるように理念と一致した実施のありかたを検討し,それを明確に示すことが重

要ではないかと考える。

本研究では,介護保険制度のケアマネジメントの「取扱方針」とジェネラル・ソーシャルワー

クの過程の各段階における機能を比較した結果,両者の機能には異なる点が多く認められることを明らかにした。そして,その結果と介護保険のケアマネジメントの理念について考察を加えて,

介護保険制度のケアマネジメントの課題について言及した。介護保険制度のケアマネジメントの課題に関しては,過程で発揮される機能だけでなく,制度の目的や人員基準等から分析を行うことも必要であると考えられた。この点については今後の課題としたい。

1)ステファン.M、ローズ編,白澤政ポロ,渡部律子,岡田進一監訳『ケースマネジメントと社会福祉』ミネルヴァ書房,1997,pl7-38

2)白澤政和『ケースマネジメントの理論と実際』中央法規出版,1992,p43

3)太田義弘・秋山薊二編『社会福祉援助技術論ジェネラル・ソーシャルワーク」光生館,

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沖縄大学人文学部紀要第7号2006

2001,p230-231

4)白澤,前掲,plO-l2

5)副田あけみ「ソーシャルワークとケアマネジメント」『ソーシャルワーク研究』29(3),

2003,ppl86-193

6)太田・秋山,前掲,p83-115

7)秋山薊二「ジェネラル・ソーシャルワークの基本的立場と方法」『ソーシャルワーク研究』

24(1),1998,ppll-16

8)竹内孝仁・白澤政和・橋本泰子監修『ケアマネジメントの実践と展開』中央法規出版,

2000,plO8

9)橋本泰子・竹内孝仁・白澤政和監修『日本と海外のケアマネジメント」中央法規出版,

2000,p,108

10)橋本・竹内,前掲,plO9-114

11)副田あけみ『在宅介護支援センターのケアマネジメント』中央法規出版,1997,p70-94

12)介護支援専門員テキスト編集委員会『介護支援専門員基本テキスト』第1巻,社団法人長寿

社会開発センター,2003,p56

13)なお,2006年4月からは、要支援と要介護1の一部は新たに創設される新介護予防給付に

移行することになる。

14)例えば,日本社会福祉士会方式,MDS-HD(在宅ケアアセスメントマニュアル)方式,

日本介護福祉士会方式,全社協方式などがある。

15)中村沙織「ソーシャルワークの過程と展開方法」太田義弘編『ソーシャルワーク実践と支援

過程の展開」中央法規出版,1999,pp61-83

16)F、Pバイステック,尾崎新・福田敏子・原田和幸訳『ケースワークの原則〔改訂版〕』誠心

書房,1996,p29-30

17)太田義弘『ソーシャルワーク実践とエコシステム』誠心書房,1992,pl42

18)社会福祉教育方法・教材開発研究会『新社会福祉援助技術演習」中央法規,2001,p205-

209

19)秋山,前掲,pll

20)太田・秋山,前掲,p72-82

21)齋藤順子・谷口泰史「ソーシャルワークの機能と役割」太田義弘・秋山薊二編『社会福祉援

助技術論ジェネラル・ソーシャルワーク』光生館,2001,ppl55-200

22)白澤政和・橋本泰子・竹内孝仁監修『ケアマネジメント概論』中央法規出版,2000,

p246-269

23)梅崎薫「ケアマネジメントとソーシャルワーク機能」『ソーシャルワーク研究』30(3),

2004,pp39-46

24)渡部律子「ケアマネジヤーの権限・役割への問い」『ケアマネジヤー』中央法規出版,2001

(3月号),ppl7

25)山本みどり「ソーシャルワーカーからみた介護支援専門員の現状一変貌する相談援助業務一」

『社会福祉研究』79,2000,pp68-76

26)玉木千賀子「介護保険制度下の介護支援専門員に生じる倫理的葛藤についての研究一ジェネ

ラル・ソーシャルワークの理論を活用して-」『医療と福祉」38(1),2004,pp35-40

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Relation betw"een the Care Manag;eITlent of Nursing-careInsurance SysteITls ana Social Work:

Focused on the functions of both processes

Chikako TAMAKIAbstract

The objective of this study is to summarize the similar and different points

between the care management of nursing-care insurance systems and social work

at each stage, and then clarify the relation between them. The study method was to

divide the care management processes specified in "Standards on the staffing andoperation of the businesses such as nursing-care assistance at specified residences"

and the processes of general social work summarized by Ohta and Akiyama into"commencement," "assessment," "planning," "implementation," "monitoring," and"termination, '1 and then compare and discuss them by focusing on the functions of

care management and social work. As a result, it was found that the functions of

the social work and care management were similar for the monitoring stage, but as

for other stages, some different points were observed between them.

Although it had been expected that the functions of the care management ofnursing-care insurance systems and social work would be similar in many points, itturned out that there are a lot of different points in functions between them, as well

as some common points.

Key words: care management. general social work. processes. functions

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