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特発性血小板減少性紫斑病(ITP) Idiopathic thrombocytopenic purpura 4世良真悠子

特発性血小板減少性紫斑病(ITP) - p.kanazawa-u.ac.jpdruginfo/ITP.pdf · シナリオ `小児科から静注ヒト免疫グロブリン(hnig)の処方箋を受 け取った。

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特発性血小板減少性紫斑病(ITP)Idiopathic thrombocytopenic purpura

4年 世良真悠子

シナリオ

小児科から静注ヒト免疫グロブリン(HNIG)の処方箋を受け取った。

患者は5歳の男児で、打撲している。

歯医者で歯肉出血し、原因がわからず来院した。

足に紫斑がみられた。

HNIG(i.v.)15gの単回投与により、調子は良い。

患者背景

[患者] Master OB 5歳 男性 110cm 19kg[症状] 打撲・歯肉出血・紫斑(足)

[検査値]血小板数:12万/μL

他の血球数は正常値

[薬歴]HNIG(i.v.)15gの単回投与

→体の調子が良くなった。

Problem list#1 特発性血小板減少性紫斑病

#1 紫斑

S:O:血小板数は12万/μL

(基準値は15~40万/μL)

他の血球数は正常値

HNIG(i.v.)15g(単回投与)が処方され、調子良好

#1 紫斑

A:症状、検査値、患者の年齢から、急性型の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と考えられる。

血小板数減少がみられるが、治療を要するほどではないと思われる。

#1 紫斑

P:出血症状がみられた場合を除き、無治療経過観察とする。出血症状にはγ-グロブリン大量静注療法(HNIG)を行う。

急性型のITPは6カ月以内に自然寛解するため、経過観察で大丈夫であると伝える。

打撲や怪我を避けるため、十分に注意して生活するよう伝える。活動量を制限する。

Q1.What is idiopathic thrombocytopenic purpura(ITP)?後天性の血小板減少症で、点状出血・紫斑などの皮膚粘膜出血を伴う。

*6か月以内に自然寛解→急性型

*これ以後も血小板減少が持続→慢性型

急性型ITP

6か月以内に自然寛解2~6歳の小児に好発

小児ではウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い

→中でも風疹に引き続いた発症が多数

出血症状の強い発症時を除くと、原則的に長期の治療を必要としない

慢性型ITP6か月の経過以後も血小板減少が持続

成人に好発

*発症時には急性・慢性を鑑別する確実な方法がないため、病型に関わらず、末梢血の血小板数及び出血症状の程度によって治療の適応を決定する。

原因

[急性型]

ウイルス感染などをきっかけに抗体が産生

→抗原と結合してできた免疫複合体が血小板を結合

→血小板減少

[慢性型]血小板(特に表面膜蛋白)に対する自己抗体産生

→血小板表面に結合した抗体を網内型が認識・処理

→血小板減少

(抗体の産生機序は不明)

Q2.What are the signs and symptoms of ITP?

*血小板数5万/μL以上では無症状2~3万/μL 程度まで低下すると、

皮膚、特に四肢の点状出血

鼻出血

歯肉出血

月経過多

*粘膜出血(口腔粘膜や尿路出血)は重症

*胃腸などの消化管や頭蓋内での出血で生命が危険になる場合もある。

Q3.What laboratory findings confirm a diagnosis of ITP?最初に偽性血小板減少症を除外する

[所見]

赤血球・白血球が数・形態ともに正常

血小板減少、出血時間延長

骨髄像検査で巨核球数が正常~増加

巨核球は幼弱型が増加

骨髄所見で低形成が認められない

血小板減少をきたす他の基礎疾患

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

白血病

再生不良性貧血

全身性エリテマトーデス

溶血性尿毒症症候群

脾機能亢進症

Wiskott-Aldrich症候群感染症(敗血症)

骨髄線維症

Q4a.How is ITP treated?血小板数5~10万/μL以上

→原則無治療経過観察

2~5万/μL →明らかな出血症状で治療2万/μL未満

→出血症状なしでも当初から治療開始

*慢性型は出血傾向の改善を目的とする。

出血傾向がなければ血小板数が3万/μL未満でも目標達成とみなす。

Q4a.How is ITP treated?1)副腎皮質ホルモン(プレドニゾロン)

血小板増加作用、血管強化による止血効果

*中止後も出血傾向が高い場合を除き、くり返して投与せず血小板数が自然に正常化するのを待つ

2)免疫グロブリン大量療法

一時的に、急速に血小板を増加させる。

外科的手術・分娩前や劇症例、1)の使用が適当でないときに用いられる

Q4a.How is ITP treated?3)Helicobacter pylori除菌療法

ピロリ菌の有無を検索し、陽性であれば除菌

4)免疫抑制薬

シクロホスファミド、アザチオプリンなど

投与中は白血球減少と肝機能障害に注意

1)や脾臓摘出で効果のない場合に、1)と併用

Q4a.How is ITP treated?5)摘脾

1)では治療困難な患者の場合に考慮。急性型では無用な手術であるため、1年以上にわたって血小板が減少し、出血傾向のあるものに行う。

Q4b.What is human normal immunoglobulin?ヒト血液中の血漿を原料とし、多くの抗体を含む血液製剤。

主成分はIgG抗体で、抗体活性を持ち、外来抗原に対する防御因子となることから、感染症治療に用いられる。

ヒト血液を原料としていることに由来する感染症伝播の危険性を、完全に排除しているわけではないことを患者に伝える必要がある。

Q4c.What other aspects of HNIG administration should be considered?疾患によって投与時の濃度が異なり、特に今回のITPやギラン・バレー症候群などの際に選択される「免疫グロブリン大量療法」では、通常時の5倍程度に濃度が高まることに注意する。

ショックなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、初日の投与開始から30分間は0.01~0.02mL/kg/minで投与し、異常所見が認められなければ、速度を徐々に上げてもよい。急速に注射すると血圧降下を起こす恐れがある。

Q5.What advice should be given about the use of HNIG?

HNIGの投与により、投与前・投与後の生ワクチン接種の効果が得られない可能性がある。

→HNIGに含まれる抗体により生ワクチンの効果が減弱するおそれ

HNIGの副作用

→発熱・悪寒・倦怠感から、重篤な場合にはショック・アナフィラキシー様症状・肝機能障害なども

Q6.How might ITP affect lifestyle?活動量の制限

打撲や怪我などに十分注意した生活を送る必要がある。

血小板6万/μL以下の慢性患者は、抜歯・出産・大手術時に特別の配慮が必要

参考文献

木内祐二ら編 「病態・薬物治療概論」

丸善出版(2009)山口徹ら編 「2009 今日の治療指針」

医学書院(2009)富野康日己ら編「疾患と薬物治療」

医歯薬出版株式会社(2008)冨山佳昭 「1.血液凝固因子製剤(免疫グロブリン)(血液製剤輸血の適応と使用法) 」

血栓止血誌 20 p.275-277(2009)