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はじめに
最新の5G規格では厳しい性能目標を達成する必要があるため、ほぼ確実に、ミリ波周波数、超広帯域幅、大規模空間多重化(MIMO)の手法が組み合わせられることが予想されます。これらの各手法によってさまざまな問題がトランスミッターやレシーバーのデザインに生じますが、ユーザー機器(UE)と基地局(BS)の間の無線チャネルで生じる問題はほとんどわかっていません。このようなチャネルを完全に特性評価するには、チャネル性能の数学モデルを作成し、それを使用して5G向けの新しい無線規格を定義する必要があります。
ミリ波システムを適切に配備するには、チャネル条件を十分に理解する必要があります。現在、6 GHz未満の領域ではスペクトラム密度が高くなっているため、6 GHzよりも高いさまざまな搬送周波数での無線伝搬に注目が集まっています。信頼性の高い5G無線システムをデザインするには、チャネル伝搬の詳細な特性評価が不可欠です。チャネルサウンディングと呼ばれる手法に従って解析を進めればチャネルを理解でき、5Gで想定されるデータレート、スペクトラムの柔軟性、超広帯域幅を実現できます。
さまざまな測定手法を使用することができますが、それぞれに長所と短所があります。キーサイト・テクノロジーは手始めに今までの研究を活用して、新たな投資を行い、「最高の」性能を発揮できる測定システムを実装しました。キーサイトが提案する測定ソリューションは市販のハードウェア製品/ソフトウェア製品がベースですが、リアルタイムのデータ処理が行えるオンボードFPGAを用いて5G測定を高速化できるように調整されたソフトウェアが追加されています。さらに、キーサイトは、確実にシステムを同期/校正するツールも提供しています。これらは、厳密で再現性の高い結果を得るのに不可欠です。
この測定システムにより、チャネル性能を特性評価して新しいチャネルモデルを開発することができます。新しいモデルを定義する際に、Keysight SystemVueエレクトロニック・システム・レベル(ESL)ソフトウェアでシミュレートが行えます。これにより、熟練した研究者は、カスタマイズ済みのシステムを迅速に実装して優れた結果が得られます。
03 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
5Gの概要:予測と展望
5G市場の展望には、積極的な見込みが多少含まれています。具体的には、モバイルデータの需要の大幅な伸び、無線アプリケーションと接続端末台数の激増です。さらに、現在のトレンドが継続すれば、エンドユーザーが期待するネットワーク全体の性能とクオリティ・オブ・サービス(QoS)
は劇的に変化すると思われます。
この将来のシナリオによって保証されるものは、極めて高速な接続、信頼性の高いインタフェース、確実かつ優秀なQoSであり、これらはクラウドでも実現され、モバイルユーザーにも大きな利点になります。つまり、いつでも、どこでも、最高のユーザーエクスペリエンスを得ることができます。
現在の4Gシステムと比較すると、5G関連の技術要件の中には非常に厳しい項目があります。
– 100倍のデータレート
– 1000倍のネットワーク容量
– 100倍のネットワーク密度
– 100倍のエネルギー効率
– 1 msの遅延
– 100 %に近い信頼性(99.999 %)
この中でも、特に困難なのが100倍のデータレートを実現することです。これは、現状の混雑したRFスペクトラム環境では実現不可能だからです。これにより、ミリ波周波数を研究する必要性に迫られますが、このスペクトラム領域における無線伝搬は十分に知られていないため、チャネルの検討、モデリング、理解を徹底的に行う必要性があります。
以上より、開発プロセスに対応するために必要なハードウェア/ソフトウェアを更新する必要のあるフェーズは少なくとも3つあります。デザイン、シミュレーション/エミュレーション、校正/検証です。
04 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
汎用ソリューションの概要
あらゆる無線通信アーキテクチャーで、システム性能に対する無線チャネルの影響は非常に大きなものです。これは、ミリ波周波数の5Gに特に当てはまります。ミリ波は波長が非常に短いため、大気中を伝搬中に急速に吸収されます。減衰が特に大きくなるのは、酸素、水、二酸化炭素の分子の共鳴周波数です。
無線チャネルを理解するには、チャネルを測定し、主要な特性を抽出し、エミュレーション/シミュレーションに使用できる信頼性の高いモデルを開発する必要があります。チャネルサウンディングは、あらゆる無線通信システムの動作を模擬する測定手法です。図1で、送信された信号は大気中を伝搬し、チャネル条件による影響を受け、その後、レシーバーに到着します。測定システムは、レシーバーで信号処理をして、目的の周波数の無線チャネルの特性を抽出します。
必要な数学モデルを作成するには、さまざまなチャネルパラメータを予測する必要があります。最初にチャネルのインパルス応答(CIR)を求めます。これにはチャネルのあらゆる特性が含まれています。重要なパラメータには、到来角(AoA)、発射角(AoD)、ドップラーシフト、電力遅延プロファイル(PDP)などがあり、PDPには絶対経路遅延が含まれ、経路損失を予測できます。重要な統計パラメータとモデリング要素も含まれています。具体的には、AoA/AoDの角度拡散(AS)、電力角度スペクトラム(PAS)、ドップラースペクトラム、相関行列、Rician K係数(フェージング関連)です。MIMOチャネルでは空間情報と相関情報が追加されるため、AoA、AoD、AS、PASのチャネルパラメータの予測がさらに困難になります。
Rxy(t) = E[x*(t)y(t-t)] = h(t-t) W Rx(t) = h(t-t) W d(t) = h(t)
y(t) = h(t) W x(t)y(t)x(t)
RxTx
チャネルh(t)
図1. 行列演算を使用してh(t)を求めることにより、RF無線チャネルの近似的な数学モデルが得られます。
05 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
5Gのチャネルサウンディング
新しい5Gのミリ波エア・インタフェース・デザインの技術的な選択によって、測定システムの要件のベースラインが決まります。
– 10~ 90 GHzまたはそれ以上の搬送周波数に対応可能
– 500 MHz/1 GHz/2 GHzまたはそれ以上の帯域幅に対応可能
– 大規模なMIMOアンテナ構成に対応可能
これらの要件によって、1つの包括的な課題の下に5つの技術的な課題が生じます(図2参照)。
図の一番上の包括的な課題は、チャネル・サウンディング・システムに最も効果的な手法/アーキテクチャーを選択することです。次に、下の三角形について左から右に向かって、解決しなければならない技術的な課題について説明します。
– ミリ波のアップコンバート(信号生成)/ダウンコンバート(信号解析)と組み合わせて使用した場合に、十分な性能を発揮できるRF/マイクロ波テスト機器の選定。
– 信号の生成/収集/解析に必要な帯域幅の実現。これは、ADコンバーター (ADC)とDAコンバーター (DAC)で必要なクロックレートとビット深度(例:ダイナミックレンジ、分解能など)に影響を与えます。1
– 高サンプリングレート、多チャネル、長時間のサウンディング測定を保存できるストレージを用いた大量のデータの収集/管理。2
– MIMO予測に必要な経路遅延分解能と角度分解能に対応できる非常に正確なパラメータ予測アルゴリズム。
– 正確で再現性の高い結果を保証する、すべてのハードウェアの正確な同期/校正。
サウンディング手法/アーキテクチャー
ミリ波周波数バンド
信号の生成/収集
データのストリーミング/ストレージ
パラメータの予測
同期/校正
図2. 5つの技術的な課題は、チャネルサウンディング測定システムに最も効果的な手法/アーキテクチャーを定義する総合的な要件に影響を与えます。
1. システム性能には予想される5Gのドップラー周波数に対応する機能も不可欠です。これは、同様の3G/4Gシナリオで見られる周波数よりも高くなります。
2. 必要な総容量は、全測定時間、サンプリングレート、チャネル数の積になります。
06 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
さまざまなサウンディング手法の比較
チャネルサウンディングを実行するために、主に3種類のベースバンド処理手法が広く使用されています。スライディング相関器、周波数掃引、広帯域相関です。この中でも最も実装が簡単なのは、スライディング相関器と周波数掃引の手法です。これらは伝搬損失を測定するのに効果的ですが、両者とも測定速度が遅いため、時間変動するチャネルの測定には向きません。さらに、スライディング相関器手法では振幅情報しか得られません。
これに対して広帯域相関は複雑ですが高速な手法です。全帯域幅を測定しながら、同時に、CIR
データに高速にアクセスできるからです。さらに、広帯域相関手法には位相情報も含まれ、これは、ベクトル測定/解析に不可欠な情報です。以上のことから、広帯域相関は他の2つの手法とは位置付けが大きく異なります。
MIMOサウンディング手法の評価
多くのサウンディングシステムは、シングル入力シングル出力(SISO)測定を組み合せています。MIMOは5Gの主要なテクノロジーなのでチャネル特性評価に含める必要があります。MIMO測定に特有なのは、対象の信号を送信/受信する一般的な方法が3種類あることです。送信側と受信側の両方でスイッチングを使用する方法(スイッチング送信/スイッチング受信)、同時に送信/受信する方法(同時送信/同時受信)、送信ではスイッチングを使用し受信は同時に行う方法(スイッチング送信/同時受信)があります(図3参照)1。
同時送信/同時受信を行えば高速測定が可能ですが、複数の送信チャネル間で干渉が生じ、サウンディング測定の性能が低下する可能性があります。この問題は、スイッチング送信/同時受信やスイッチング送信/スイッチング受信の場合は生じません。
この2つの手法を比較すると、スイッチング送信/同時受信は、スイッチング送信/スイッチング受信よりも、かなり高速です。高速という利点がありチャネル間の干渉も排除できるので、スイッチング送信/同時受信の手法が最良の選択として採用が増えています。
図3. 3種類の手法によってMIMO測定が可能です。スイッチング送信/スイッチング受信(上)、同時送信/同時受信(中)、スイッチング送信/同時受信(下)です。
1. 4番目の選択肢として同時送信/スイッチング受信も考えられますが、受信側でスイッチング時に多くの情報を失うので効果的ではありません。
トランスミッター
トランスミッター
トランスミッター
レシーバー
レシーバー
レシーバー
1MN
1M
1MN
07 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
専用ソリューションの提案
前述の比較を元にキーサイトが選択したアプローチでは、ベースバンドサウンディング手法として広帯域相関を使用し、MIMOデータの捕捉の検証にはスイッチング送信/同時受信を使用しています。これにより、3つの重要な技術上の利点が得られます。高速な測定速度、MIMOサウンディング機能、優れた測定性能(最小のクロスチャネル干渉)です。
図4は基本的なアーキテクチャーを示しています。左側は送信側で、1チャネルの広帯域信号発生器とミリ波スイッチで構成されています。右側は受信側で、広帯域マルチチャネルレシーバーで同時に信号を収集しています。これは、高性能デジタイザまたは広帯域ベクトル信号アナライザを用いて実装することができます。
図5は、チャネル・サウンディング・システムの1つ下のレベルを示しています。広帯域信号発生器は、広帯域任意波形発生器(AWG)とミリ波ベクトル信号発生器(VSG).で構成されています。AWGがI/Q信号を出力し、この信号によってVSGの出力が変調されます。ミリ波スイッチが、VSG出力を送信アンテナに順番にルーティングします。レシーバー側では、マルチチャネルダウンコンバーターによって受信信号がマルチチャネルデジタイザのIF帯域幅に変換されます。
図4. このブロック図は、スイッチング送信/同時受信アーキテクチャーの基本実装を示しています。
広帯域信号発生器
トランスミッター
広帯域マルチチャネルレシーバー
レシーバー
ミリ波スイッチ
図5. コストの管理、稼働率の最大化、確実なサポートを実現するために、このソリューションではCOTS測定システムを使用して アーキテクチャーを実装しています。
広帯域信号発生器
トランスミッター レシーバー
ミリ波スイッチ
ミリ波ベクトル信号発生器
広帯域任意波形発生器
広帯域I/Q信号
広帯域マルチチャネルレシーバー
ミリ波マルチチャネルダウンコンバーター
IF信号広帯域マルチチャネルデジタイザ
08 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
ハードウェア機器の概要
図6は、推奨される測定ハードウェア機器です。一貫したタイムベースを保証するために、各サブシステムは10 MHzのルビジウム周波数基準(例:TaiFuTe HJ5418Bルビジウムクロック)に接続されています。
表1に、トランスミッターとレシーバーの主要なハードウェア機器の機能を示します。これらは最初に不可欠な機器で、特定の要件に合うようにニーズに応じてチャネル数、搬送周波数、解析帯域幅などを変更してテストプラットフォームを修正できます。1 データストレージとストリーミングに関する詳細な情報については右側の説明をご覧ください。
表1. トランスミッター/レシーバーのサブシステムはCOTSハードウェアを用いてチャネル・サウンディング・システムを実装しています。
図6. 左側がトランスミッターサブシステム、右側がレシーバーサブシステムです。
E8267D PSG44 GHz /2 GHz BW
IQ入力
M8190A AWG2 GHz BW
10 MHz GPS基準クロック
M9703A 1 GHz BWインタリーブ
M9362A-D01 ダウンコンバーター(40 GHzまたは50 GHz、最大8チャネル)
N5183B 40 GHzLO
10 MHz GPS基準クロック
33511B AWG同期トリガ
1×4または
1×8スイッチ
1×4または
1×8
MIM
O
チャネル
機器 機能
トランスミッター サブシステム
ベクトル信号発生器 差動I/Q入力により、最大44 GHz、+23 dBm(~ 20 GHz)または+13 dBm(40 GHz)の出力パワーの広帯域信号を出力。外部差動I/Q入力により最大2 GHzの変調帯域幅をサポート。アップコンバーターを使用すれば44 GHz以上の周波数に変換可能。
任意波形発生器 2チャネルAWGは、最大2 GHzの帯域幅のベースバンドI/Q変調信号によってベクトル信号発生器の変調入力をドライブ。
半導体スイッチ 各送信アンテナを切り替えてシーケンシャルに出力
レシーバー サブシステム
PXIeクワッドダウンコンバーター レシーバーアンテナに接続。位相コヒーレントなミリ波信号(最大50 GHz)をデジタイザのベースバンドに変換。
PXIハイブリッド増幅器/ アッテネータ
4チャネルのIFシグナルコンディショニング。
AXIe 12ビット高速デジタイザ/ 広帯域デジタルレシーバー
1モジュール当たり8チャネルで、高速、高分解能、位相コヒーレントな測定を実行。オンモジュールFPGAでオンザフライのCIR演算を実行。
AXIe 2/5/14スロットシャーシ トランスミッターシャーシにAWGモジュールを、レシーバーシャーシに高速デジタイザを収容。最大16/40/104個のレシーバー・チャネル・システムとして使用可能。
PXIe 18スロットシャーシ ダウンコンバーターモジュール、シグナル・コンディショニング・モジュール、組み込みコントローラーを収容。4つのクワッド・ダウンコンバーター・モジュールと4つの増幅器モジュールをサポートできる十分な電力を供給。
PXIe高性能組込みコントローラー PXIeシャーシの端に収容。RxサブシステムのPXIe/AXIeシャーシを制御。
MXG Xシリーズ マイクロ波 アナログ標準信号発生器
ダウンコンバーターに位相雑音の低いLO信号を供給して、位相コヒーレントの保証。出力パワーが高いので、1台のMXGでスプリッターを用いて複数のダウンコンバーターに信号を供給可能。
任意波形機能を備えた波形発生器 同期トリガの出力。
1. モデル番号、必要なオプションの詳細な情報については、『5G空間電波伝搬特性測定リファレンスソリューション』のブローシャ(カタログ番号:5992-0983JAJP)をご覧ください。
必要なデータストレージと ストリーミングの計算サウンディング測定は持続時間が非常に長くなる可能性があるので、データの圧縮、データストレージ、生のI/QまたはCIRのデータストリーミングが必要な場合があります。以下の式を使用して必要なデータ容量を計算することができます。
Ncap=Ts×Fs×NRx
– Ts:サウンディング測定にかかる時間 – Fs:サンプリングレート – NRx:同時受信信号のチャネル数 – Ncap:全捕捉データサイズ (サンプル数)
5Gのチャネルサウンディングでは、超広帯域信号を捕捉するためにFsが高くなり、大規模なMIMO構成を使用するのでNRxが大きくなります。関連な例として、サンプリングレートが1 GHz、レシーバーチャネルが8個の場合を検討します。1秒の測定に必要な容量は8 Gサンプル(1秒×1 GHz×8チャネル)です。1サンプル当たり4バイト(IデータとQデータで2バイトずつ)の場合、32 GBのストレージ容量が必要です。
09 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
必要なソフトウェアの概要
図7は、新しいチャネルを特性評価するときのデータ解析手順の代表的なフローダイアグラムです。主要なツール間の関係とデータフローが示されていて、モデリングには各ブロックが実行する重要な機能のいくつかが整理されています。
図7左上のチャネルサウンディング専用に、リファレンスソリューションはキーサイトのクイック・スタート・ツールキットを使用しています。設定/校正用のツールが付属し、複雑なチャネルサウンディング解析プロセスを簡素化し加速します。
重要なデータ収集に関しては、M9703Aデジタイザに内蔵されているFPGAが、CIRデータをオンザフライで比較/計算するために必要なリアルタイムデータ処理を実現しています(図7の左上)。このようにシステム内のデータが圧縮されるので、データのストリーミングとストレージが管理しやすくなります。ストリーミングの要件は、MIMOアレイのサイズ、サンプリングレート、CIRデータ量によって決まります。
測定結果を後処理して他のチャネルパラメータを予測することもできます。収集信号を後処理でより詳細に解析するために、SystemVueプラットフォームのさまざまなモデルを用いてチャネルパラメータを抽出できます(図7の右上)。Keysight 89600 VSAソフトウェアも、信号復調やベクトル信号解析に使用できます。これらのツールを使用すれば、今日の非常に複雑な信号のあらゆる面を仮想的に調査でき、最終的に、理解した内容を利用して優れたチャネルモデルを作成できます。
SystemVueを構成して3つの重要な機能を実現できます。信号の作成、パラメータの抽出、チャネルシミュレーションです。例えば、チャネルサウンディング信号自体が、システムで最も重要な側面です。既存のチャネル出力信号がある場合でも新しい信号で実験をしたい場合でも、SystemVueが提供するツールを用いて、I/Q信号を作成して、AWGに信号をダウンロードできます。1
SystemVueはSAGE(space-alternative generalized expectation-maximization)アルゴリズムを用いたカスタム・チャネル・パラメータの抽出も行えます(オプション)。最近の革新的な更新により、SAGE手法がMIMOシステムに適用しやすくなりました。
チャネルモデリングが完了した後、SystemVue 5Gベースバンド検証ライブラリ(W1906EP)を使用して、MIMOチャネルの構成規模を含む新しいチャネルモデルのリンク・レベル・シミュレーションを実行できます(図7の右下)。統合されたシミュレーション環境でハードウェア・イン・ザ・ループを用いてシステムの動作を検討/実装/検証し、FPGAを用いたリアルタイムの協調検証によりアルゴリズムを検証/加速できます。
図7. ソフトウェアは、チャネルサウンディング、パラメータ予測、統計/モデリング、シミュレーションにおける重要な演算と機能を提供する鍵です。
t
基準送信信号
チャネルH[z] ∑ CIR
相関
チャネルのインパルス応答
チャネルサウンディング
予測アルゴリズム
チャネルパラメータ
- PDP(経路遅延、経路損失)- AOA、AOD- ドップラーシフト
パラメータ予測
- シナリオの選択- ネットワークレイアウト- アンテナパラメータ
大規模/小規模パラメータの
作成
フェージング係数の生成
- AS AoA /AoD - PAS- ドップラースペクトラム- 相関- Rician K係数
統計/モデリング
¤入力信号 フェージング信号
SystemVue シミュレーション
[k]z[k]
x[k] y[k]
1. チャネルサウンディング信号を作成したりダウンロードしたりするために、N7608B カスタム変調用またはM9099 Waveform Creator用のKeysight Signal Studioも使用できます。
10 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
測定確度の保証
厳密な結果を得るために、システムの同期と校正が必要です。チャネル・サウンディング・システムには、システム自体の位相/振幅の不平衡を測定して特性評価する機能が必要で、以下の問題を補正する必要があります。
– チャネル間の位相誤差 – アンテナの振幅/位相誤差 – I/Q不整合誤差 – スペクトラムフラットネス誤差
リファレンスソリューションには、以下の測定に対応する校正機能が含まれています。
– システムインパルス応答 – I/Q不平衡 – マルチチャネルの振幅/位相スキュー – パワーレベル – ユーザーまたはアンテナメーカーから提供されるアンテナ・パターン・データを用いるアンテナ校正
トランスミッターサブシステムとレシーバーサブシステムを適切に同期すれば、絶対遅延などの重要なパラメータを測定する際に正確な結果が保証されます。このために、推奨構成には10 MHz
のルビジウムクロックとトリガソース(例:33511B波形発生器)が含まれています。同時に、これらはトランスミッター側の信号生成を初期化し、レシーバー側の信号収集を開始します。I/O管理用に付属しているソフトウェアツールは、必要なタイミング/同期を実現するのに必要な測定器の制御を簡素化します。
チャネルパラメータ予測
チャネルパラメータ予測アルゴリズムは以下の3種類に分類できます。
– ビームフォーミングベース – 部分空間ベース – 最尤ベースのアルゴリズム
ビームフォーミング・ベースのアルゴリズムは簡単な方法ですが予測性能が劣っています。部分空間ベースのアルゴリズムの性能は良好ですが、アルゴリズムで予測可能な経路の最大数が受信アンテナ数よりも少ないため、チャネルシナリオが非常に複雑な場合には適切に機能しません。
MLベースのアルゴリズム(例:SAGE)は定評があり、予測精度が高く、複数チャネルの結合パラメータを予測できるため、広く使用されています。さらに、予測経路の最大数がアンテナアレイ素子の数より少なくなることもありません。
11 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
代表的なシステムの測定例
図8は4×4MIMOのチャネルサウンディング機能を備えたシステムの実装例です。左側のラックはトランスミッターサブシステムで、右側のラックはレシーバーサブシステムです。
M9703Aデジタイザの内蔵FPGAにリアルタイムの比較処理を実装してデータ圧縮を行い、オンボードメモリへの保存が可能です。捕捉されたCIR信号はPCIeバス経由でリアルタイムに伝送できます。
図9は、SystemVue 5G検証ライブラリの画面例で、CIRデータの捕捉とチャネルパラメータ予測の後処理用に測定器設定を指定するために使用されるものです。図10は、これらのツールと写真のシステムによって生成されたチャネルパラメータ予測の結果です。
実際の測定セットアップのブロック図1
測定結果の後処理前の設定オプション‐CIR/AoA/AoD/ドップラー周波数/経路遅延/経路損失
3
測定パラメータ
2
図9. SystemVueのチャネルパラメータ予測によって、経路損失、経路遅延プロファイル、AoD、AoAなどの重要パラメータを抽出できます。
図10. 測定には、マルチパス・チャネルのインパルス応答とチャネルの抽出結果が表示されています。
最後になりますが、この代表的なシステムは、ミリ波のアップコンバーター/ダウンコンバーター(例:Virginia Diodes, IncのN9029AV15:50~ 75 GHz)を使用すれば、より高い周波数に拡張できます。1
1. アプリケーションによっては、別の周波数バンドも利用できます。
図8. この実装例は、搬送周波数28 GHz、解析帯域幅1 GHzの4×4MIMO測定です。最大44 GHz、1 GHz帯域幅の8×8MIMOに拡張できます。
12 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
まとめ
厳しい性能目標を達成する必要があるため、最新の5G規格では非常に高度なさまざまなテクノロジーを組み合わせることになります。これらにより、トランスミッター/レシーバーをデザインする際に問題が生じますが、ミリ波搬送波の無線チャネルで生じる問題はほとんどわかっていません。このような未知の問題を完全に特性評価して理解するには、数学モデルを作成し、それを使用して新しい無線規格を定義する必要があります。
キーサイトのリファンレンスソリューションでは、ベースバンドサウンディング手法として広帯域相関を使用し、MIMOデータの捕捉にはスイッチング送信/同時受信を使用しています。これにより、3つの重要な利点(高速測定、MIMOサウンディング機能、優れた測定性能)が得られます。
リファレンスソリューションでは、市販のハードウェア/ソフトウェアにアプリケーション専用ツールが追加されているので、チャネル性能を高速かつ正確に特性評価して新しいチャネルモデルを開発できます。作成後は、これらの新しいモデルをSystemVueでシミュレーションしてアルゴリズムのハードウェア・イン・ザ・ループを用いて検証できます。これにより、短時間で詳細な解析を行ってチャネルを十分に理解することができ、最終的には、最高のユーザーエクスペリエンスが得られる5Gシステムを実現できます。
関連情報
– Brochure:『5G空間電波伝搬特性測定リファレンスソリューション』、カタログ番号5992-0983JAJP
– Brochure:『SystemVueエレクトロニック・システム・レベル(ESL)デザインソフトウェア』、カタログ番号5992-0106JAJP
– Data Sheet:『W1906BEL 5Gベースバンド解析ライブラリ』、カタログ番号5992-0218JAJP
– Brochure:『89600 VSAソフトウェア』、カタログ番号5990-6553JAJP
– Brochure:『Signal Studioソフトウェアによる信号作成の簡素化』、カタログ番号5989-6448JAJP
– Technical Overview『M9099 Waveform Creatorアプリケーションソフトウェア』、カタログ番号5991-3153JAJP
– Data Sheet:『E8267D PSGベクトル信号発生器』、カタログ番号5989-0697JA
– Data Sheet:『MXG X-Series Signal Generator』、カタログ番号5991-3131EN
– Data Sheet:『33500Bシリーズ 波形発生器』、カタログ番号5991-0692JAJP
– Data Sheet:『Keysight M8190A 任意波形発生器』、カタログ番号5990-7516JAJP
– Technical Overview『85331B/85332B Solid State Switches』、カタログ番号5989-4960EN
– Data Sheet:『M9362A-D01 PXIeクワッド・ダウンコンバータ』、カタログ番号5990-6624JAJP
– Data Sheet:『M9352A PXI Hybrid Amplifier/Attenuator』、カタログ番号5990-9964EN
– Data Sheet:『M9703A AXIe高速デジタイザ/広帯域デジタルレシーバー』、カタログ番号5990-8507JAJP
– Data Sheet:『M9502A and M9505A AXIe Chassis』、カタログ番号5990-6584EN
– Data Sheet:『M9514A and M9521A AXIe 14-Slot Chassis and System Module』、カタログ番号5991-3908EN
– Data Sheet:『M9037A PXIe組込みコントローラ』、カタログ番号5991-3661JAJP
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13 | Keysight | 5G空間電波伝搬特性(チャネルサウンディング)の測定手法 - Application Note
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1939 未来
© Keysight Technologies, 2015Published in Japan, November 11, 20155992-1064JAJP0000-00DEPwww.keysight.co.jp