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KIAA1199 遺伝子が司る新規ヒアルロン酸分解機構の解析 研究分野:生化学 紹介教授:野水 基義 学位申請者:吉田 浩之

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KIAA1199 遺伝子が司る新規ヒアルロン酸分解機構の解析

研究分野:生化学

紹介教授:野水 基義

学位申請者:吉田 浩之

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目次 頁 緒論 1 第1章 正常ヒト皮膚線維芽細胞の HA 分解機構を担う KIAA1199 の発見 第 1 節:序論 3 第2節:実験材料および実験方法 1-2-1 細胞培養 3 1-2-2 [3H]標識高分子 HA の調製 3 1-2-3 培養系 [3H]HA 分解活性の評価法 4 1-2-4 マイクロアレイ遺伝子発現解析 4 1-2-5 培養系 HA 分解活性の反応速度の算出 4 1-2-6 抗体 4 1-2-7 培養系 HA 分解系の基質特異性 5 1-2-8 ウェスタンブロット解析法 5 1-2-9 RT-PCR 法およびリアルタイム PCR 法 5 1-2-10 RNA 干渉法 6 1-2-11 遺伝子発現プラスミドの構築と細胞への導入法 7 1-2-12 ヒト皮膚試料の調製 8 1-2-13 免疫組織染色法 8 1-2-14 in situ ハイブリダイゼーション法 8 1-2-15 統計処理 8 第3節:実験結果 1-3-1 培養皮膚線維芽細胞を用いた CD44,HYAL1 および 8

HYAL2 依存的な HA 分解仮説モデルの検証 1-3-2 培養皮膚線維芽細胞の HA 分解に関わる KIAA1199 遺伝子の発見 10 1-3-3 KIAA1199 cDNA を導入した細胞の HA 分解能 12 1-3-4 正常ヒト皮膚の線維芽細胞における KIAA1199 の発現 13 第4節:考察 13 第2章 KIAA1199 が司る HA 分解機構の特性解析

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第 1 節:序論 15 第2節:実験材料および実験方法 2-2-1 細胞培養 15 2-2-2 KIAA1199-V5 および KIAA1199(∆30aa)-V5 遺伝子発現 15

プラスミドの構築 2-2-3 マウス Kiaa1199 ホモログ遺伝子(mKiaa1199) 16

発現プラスミドの構築 2-2-4 KIAA1199 遺伝子安定発現細胞(KIAA1199/HEK293 細胞) 16

および mKiaa1199 遺伝子安定発現細胞(mKiaa1199/HEK293 細胞) の樹立

2-2-5 抗体 16 2-2-6 KIAA1199/HEK293 細胞の培養系 HA 分解系の基質特異性 16 2-2-7 ウェスタンブロット解析法 16 2-2-8 KIAA1199 の GAG 結合活性評価-1 16 2-2-9 KIAA1199 の GAG 結合活性評価-2 17 2-2-10 HA 分解産物の非還元末端糖と還元末端糖の同定 17 2-2-11 RNA 干渉法 18 2-2-12 免疫細胞染色法 18 2-2-13 免疫沈降法 19 2-2-14 各種阻害剤の培養系[3H]HA 分解への影響 19 2-2-15 外因性 HA の細胞内局在解析-1 19 2-2-16 外因性 HA の細胞内局在解析-2 19 2-2-17 N 末端アミノ酸配列解析 20 2-2-18 脱糖鎖修飾 20 2-2-19 mKiaa1199/HEK293 細胞および KIAA1199/HEK293 細胞 20

による HA 分解産物の分子量評価 第3節:実験結果 2-3-1 KIAA1199 分子の機能解析 20 2-3-2 KIAA1199 安定発現細胞の HA 分解様式 21 2-3-3 HA のエンドサイトーシス経路および分解の場の同定 23 2-3-4 KIAA1199 の細胞内局在制御における N 末端 30 アミノ酸の役割 25 2-3-5 マウス Kiaa1199 ホモログ遺伝子(mKiaa1199)の機能解析 27 第4節:考察 31

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第3章 KIAA1199 の疾病への関わり 第 1 節:序論 34 第2節:実験材料および実験方法 3-2-1 細胞培養 34 3-2-2 培養系 [3H]HA 分解活性の評価法 34 3-2-3 抗体 34 3-2-4 RNA 干渉法およびウェスタン解析法 35 3-2-5 関節滑膜試料 35 3-2-6 免疫組織染色法 35 3-2-7 in situ ハイブリダイゼーション法 35 3-2-8 ミスセンス突然変異型 KIAA1199 遺伝子発現プラスミドの構築 35 3-2-9 統計処理 35 第3節:実験結果 3-3-1 OA および RA 患者由来の滑膜細胞と滑膜組織における 35

KIAA1199 の発現亢進 3-3-2 難聴患者で見出された KIAA1199 のミスセンス突然変異が 37

HA 分解活性に与える影響 第4節:考察 37 総括 39 謝辞 41 掲載論文 42 引用文献 43

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略語一覧 BSA:bovine serum albumin CBB:Coomassie Brilliant Blue CHC:clathrin heavy chain CPC:cetylpyridinium chloride CS:chondroitin sulfate DMEM:Dulbecco's modified Eagle's medium DS:dermatan sulfate DTT:dithiothreitol EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid EGF:epidermal growth factor Endo H:endo-β-N-acetylglucosaminidase H FA:fluoresceinamine FBS:fetal bovine serum GAG:glycosaminoglycan GAPDH:glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase GlcNAc:N-acetylglucosaimne GM130:golgi matrix protein of 130 kDa HA:hyaluronan HARE:hyaluronan receptor for endocytosis HAS:hyaluronan synthase HEK:human embryonic kidney Hep:heparin HGF:hepatocyte growth factor HPLC:high performance liquid chromatography HRP:horseradish peroxidase HS:heparan sulfate HYAL:hyaluronidase IFN:interferon IL:interleukin LDS:lithium dodecyl sulfate MEM:minimum essential medium OA:osteoarthritis ORF:open reading frame PA:pyridylaminated

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PBS:phosphate-buffered saline PBS-T:PBS containing 0.05%(v/v)Tween 20 PCR:polymerase chain reaction PDI:protein disulfide isomerase PVDF:polyvinylidene difluoride membranes RA:rheumatoid arthritis RHAMM:receptor for hyaluronan-mediated motility RT:reverse transcription SDS:sodium dodecyl sulfate siRNA:short interfering RNA TGF:transforming growth factor TNF:tumor necrosis factor

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緒論 ヒアルロン酸(HA)は D-グルクロン酸と N-アセチル-D-グルコサミンがβ結合で繰り返

し連結された陰イオン性直鎖状グリコサミノグリカン(GAG)であり,その分子量は数百

万にもおよぶ生体で最大の高分子ポリマーである.HA は脊椎動物組織の細胞外マトリック

スの主要な構成成分として広く存在し,組織マトリックス全体の構造化や安定性だけでな

く,増殖や分化といった様々な細胞機能にも寄与している.皮膚には全身に存在する約 50%の HA が存在し,皮膚真皮や関節の滑膜など多くの組織で HA は高濃度に保たれている 1).

HA の代謝は非常にダイナミックであり,毎日全身の約 3 分の 1 の HA が置き換わってい

る 2).また,組織における HA の代謝は非常に速く,皮膚での代謝半減期は 1-1.5 日と言わ

れており,分子量 1,000 kD 以上の高分子 HA が 10-100 kDa の HA 断片に分解される 2).

一方,関節炎やガンなどの病態においては HA 分解の亢進により,低分子化した HA の存

在が認められている 3-5).変形性関節炎(osteoarthritis:OA)や関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者由来の滑液では HA の平均分子量が 200 kDa 程度にまで低下し,それ

が関節の潤滑性の低下や滑膜の炎症度と関連することが報告されている 6).また,20 kDa以下の低分子 HA は血管新生を誘導し,腫瘍細胞の運動能や浸潤能を高めることが知られ

ている 5, 7, 8).

ヒトには 6 つの HA 分解酵素(様)遺伝子が見出され,それらは染色体 3p21.3(HYAL1,HYAL2,HYAL3)と染色体 7q31.3(HYAL4,HYALP1,SPAM1)上にクラスター化して

存在している 9).そのうち,HYALP1 は偽遺伝子であり,SPAM1 は精巣など限られた臓器

にしか発現していないことが報告されている 9).また,HYAL3 および HYAL4 もそれぞれ

精巣や胎盤など,一部の限られた臓器にしか発現しておらず 9),HA 分解活性も十分に確認

されていない 10).そのため,HYALP1,SPAM1,HYAL3 および HYAL4 は全身の構成的

な HA 分解に関与している可能性は低く,より幅広い臓器で発現する HYAL1 と HYAL2 が

主要な役割を担っていると考えられている.現在までに提唱されている HA 分解仮説モデ

ルとして,CD44(HA 受容体)と 2 種類の HA 分解酵素(HYAL1 および HYAL2)が共同

的 に 働 く と い う 説 が 有 力 で あ る

(Scheme 1).本モデルでは,カベオラ

リッチなラフトに集積した CD44 が,高

分子 HA を細胞内に取り込んだ後,

HYAL2 が Na+-H+ exchanger により酸

性化した細胞内の微小環境にて,高分子

HA を中間サイズの HA に分解し,最終

的にHYAL1がリソソームにてオリゴ糖

にまで分解すると考えられている 11, 12).

しかしながら,このモデルは,生体内の

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ダイナミックな HA 代謝を説明するには必ずしも十分ではないと考えられる.第一の理由

として,HA を多く含む脳には HYAL1 と HYAL2 の発現が認められず 9, 13),少なくとも脳

には HYAL 以外の分子が HA の分解に関与している可能性がある.第二に,HYAL1 は細

胞内で HA を 0.8 kDa までのオリゴ糖に分解するため 10, 12),組織の HA 分解産物の分子量

(10-100 kDa)とは一致しない 2).また,HYAL2 による HA 分解産物の分子量は~20 kDaであり,組織の HA 分解産物の分子量とよく一致するが,HYAL2 は HA 分解活性を保持し

ない,あるいは保持したとしても非常に弱いという報告がある 14).第三に,HYAL1 あるい

は HYAL2 のノックアウトマウスは,組織での顕著な HA の蓄積が認められない 15, 16).最

後に,本HA分解仮説モデルは,乳ガン細胞MDA-MB231株やCD44,HYAL1およびHYAL2の強制発現細胞で得られた知見に基づいており 11, 12),線維芽細胞など正常細胞の HA 分解

にこれらの分子が関与することを示す直接的なエビデンスは乏しい状況である.以上の理

由により,HA 分解機構については未だ不明な点が多く,CD44 および HYAL が関与しな

い新規な HA 分解機構の存在も考えられる. 本論文では,生理的状態あるいは病態における組織の HA 分解機構を明らかにすること

を目的とした.第 1 章では,正常ヒト皮膚線維芽細胞の培養系 HA 分解への CD44,HYAL1および HYAL2 の関与を検証し,皮膚線維芽細胞にはこれらの分子が関与しない,新規な

HA 分解機構が存在することを示した.そして,皮膚真皮の生理的な HA 分解において重要

な役割を担うと考えられる KIAA1199 遺伝子を発見した.第 2 章では,KIAA1199 の機能

およびKIAA1199が司る新規なHA分解機構の特性について詳細に検討した.第 3章では,

KIAA1199 の疾病への関与を調べるため,OA および RA 患者由来滑膜における HA 分解へ

の関与を検討した.また,非症候群性難聴患者で見出された KIAA1199 のミスセンス突然

変異が HA 分解活性に与える影響についても検討した.

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第1章 正常ヒト皮膚線維芽細胞の HA 分解機構を担う KIAA1199 遺伝子の発見 第1節:序論 組織における HA の代謝は非常に速く,皮膚での代謝半減期は 1-1.5 日であり 2),強力な

HA 分解機構が存在することが予想される.これまでに,中村らは培養ヒト皮膚線維芽細胞

が外的に添加した HA を低分子化することを報告した 17).また,申請者らも正常ヒト皮膚

線維芽細胞 Detroit 551 株が培養系で旺盛に HA を分解することを見出した(Fig. 1-1A).

しかしながら,その活性は繊細であり,細胞溶出液では消失することが大きな障壁となり,

これまで皮膚の HA 分解研究の進展を阻んでいた.一方,組織の HA 分解仮説モデルとし

て,CD44(HA 受容体)と 2 種類の HA 分解酵素(HYAL1 および HYAL2)が共同的に働

くという説が有力であった 12).しかし,本モデルが組織の HA 分解に関わることを示す直

接的なエビデンスは乏しく,未だ HA 分解機構については不明な点が多いのが現状である.

そこで本研究では,生理的な皮膚の HA 分解機構を明らかにすることを目的とし,まずは

正常皮膚線維芽細胞を用いて HA 分解仮説モデルの検証を行った.その結果,皮膚線維芽

細胞には CD44,HYAL1 および HYAL2 が関与しない,新規な HA 分解機構が存在すると

考えられたため,HA 分解に関わる未知の分子の同定を目的とし,線維芽細胞の培養系 HA分解活性を指標に,その活性と発現の挙動が一致する遺伝子を包括的に探索した. 第2節:実験材料および実験方法 1-2-1 細胞培養 胎児由来正常ヒト皮膚線維芽細胞 Detroit 551 株(American Type Culture Collection 社

製),HS27 株(American Type Culture Collection 社製)および NHDF-Ad 株(Takara Bio社製)は 10%(v/v)FBS(JRH Biosciences 社製)を含有する MEM 培地を用いて培養し

た.HEK293 細胞(DS Pharma Biomedical 社製)および COS-7(DS Pharma Biomedical社製)は 10%(v/v)非働化 FBS,100 units/ml ペニシリンおよび 100 mg/ml ストレプト

マイシンを含有する DMEM 培地を用いて培養した.

1-2-2 [3H]標識高分子 HA の調製 分子量 1,000 kDa 以上の[3H]標識高分子 HA([3H]HA)は Underhill らの方法に従い調

製 し た 18) . コ ン フ ル エ ン ト の Detroit 551 線 維 芽 細 胞 に 10 mCi/ml の

D-[1,6-3H(N)]glucosamine hydrochloride (American Radiolabeled Chemicals 社製)を添加

し,72 時間後の培養上清を回収した.得られた培養上清を 0.3 mg/ml プロナーゼ(Merck社製)で処理後,エタノール沈殿を行った.得られた沈殿画分をミリポア水に懸濁後,0.03 M NaCl を含む 1.5%(w/v)cetylpyridinium chloride(CPC)溶液で再度沈殿させた.得

られた沈殿画分を 0.4 M NaCl を含む 0.1%(w/v)CPC 溶液に溶解し,再びエタノール沈

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殿を行った.最終的に得られた沈殿画分を,Sepharose CL-2B ゲル濾過カラム (1 x 60 cm)に供与し,得られた Vo 画分(> 1,000 kDa)を精製高分子[3H]HA とした.[3H]HA の放射

比活性は 1.3-2.7 x 105 dpm/mg(2.2-4.5 kBq/mg)であり,Streptomyces hyaluronidase(Seikagaku Corporation 社製)にて消化されることを確認した(結果省略). 1-2-3 培養系 [3H]HA 分解活性の評価法 コンフルエントの細胞に 40,000 dpm/ml の[3H]HA を添加し,一定期間培養後に得られ

た培養上清を Sepharose CL-2B ゲル濾過カラム(1 x 60 cm)に供与した.流速は 0.65 ml/min とし,2.5 ml/フラクションで分取後,シンチレーションカウンター(Aloka LSC-6100)にて各フラクションの放射活性を測定し,[3H]HA 分解物の分子量を評価した.

カラムのキャリブレーションにはフルオレセインアミン蛍光標識(FA-)HA(FA-HA H1(1,760 kDa),M1(907 kDa), L1(197 kDa), S1(56 kDa),T1(28 kDa),U1(9.8 kDa))(PG Research 社製)を用い,検出は励起波長:490 nm,蛍光波長:525 nm によ

り行った. 1-2-4 マイクロアレイ遺伝子発現解析 ヒスタミン(10 mM)あるいは transforming growth factor (TGF)-β1(10 ng/ml)で刺

激した Detroit 551 線維芽細胞から,8 時間および 24 時間後に total RNA を抽出し,Agilent 44K4 chips(Agilent Technologies 社製)を用いて遺伝子発現を調べた.結果は,各遺伝子

の無刺激区と刺激区との発現比(倍)にて示した. 1-2-5 培養系 HA 分解活性の反応速度の算出

[3H]HA と混合した 100,300,600 および 1,250 mg/ml の非標識ヒト臍帯高分子 HA(分

子量 800~1,200 kDa)(Seikagaku Corporation社製)をDetroit 551線維芽細胞に添加後,

10 mM ヒスタミン存在下あるいは非存在下で 72 時間培養した.得られた培養上清を

Sepharose CL-2B ゲル濾過カラムに供し,高分子 HA 画分の放射活性を測定した.[3H]HA分解活性は高分子 HA の減少量とし,次の式にて算出した.培養系[3H]HA 分解活性(mg/105 cells/72 h)=細胞に添加した HA 量(mg)x(培養前の高分子 HA 画分の放射活性―72 時

間培養後の高分子HA画分の放射活性)/細胞に添加した全放射活性/細胞数(x 105 cells). 1-2-6 抗体 ラット抗 KIAA1199 モノクローナル抗体は,KIAA1199 の Ala762 から Glu777(GenBank

accession No. NM_018689)に相当する合成ペプチド CA762RYSPHQDADPLKPRE777を抗

原として作製した.得られたハイブリドーマのうち,抗体を産生するクローンは,HEK293細胞で発現したリコンビナント KIAA1199 タンパク質への反応性により選抜した.ラビッ

ト抗HYAL2ポリクローナル抗体は合成ペプチドCF78YRDRLGLYPRFDSAGRSV96 10)を抗

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原とし,同ペプチドを用いてアフィニティー精製した.抗 CD44 および抗 glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)抗体は Santa Cruz Biotechnology 社から購入した.

コントロールラット IgG2aκは SouthernBiotech 社より購入した. 1-2-7 培養系 HA 分解系の基質特異性

Detroit 551 線維芽細胞を 10 mg/ml FA-GAG(FA-HAs(H1,M1,L1,S1,T1 および

U1),FA-コンドロイチン硫酸 A,C,D(FA-CSA,FA-CSC,FA-CSD),FA-デルマタン

硫酸(FA-DS),FA-ヘパリン(FA-Hep),FA-ヘパラン硫酸(FA-HS))(PG Research 社

製)を含む培地で 72 時間培養後,得られた培養上清を Sepharose CL-6B ゲル濾過カラム

(1 x 35 cm)に供与した.流速は 0.4 ml/min とし,1.6 ml/フラクションで分取後,各フ

ラクションの蛍光強度(励起波長:490 nm,蛍光波長:525 nm)を測定して GAG の分解

を評価した.

1-2-8 ウェスタンブロット解析法 細胞溶出液を NuPAGE 4-12% Bis-Tris gels(Invitrogen 社製)に供与し,電気泳動後,

分離したタンパク質をPVDF膜に転写した.転写後の PVDF膜は抗KIAA1199,抗CD44,抗 HYAL2 あるいは抗 GAPDH 抗体と反応させた.抗 KIAA1199 抗体の検出には HRP 標

識抗ラット IgG 抗体(Jackson ImmunoResearch 社製),抗 CD44,抗 HYAL2 および抗

GAPDH 抗体の検出には HRP 標識抗ラビット IgG 抗体(DAKO 社製)を用いた.バンド

の検出には SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate system (Thermo Scientific 社製)を用いた. 1-2-9 RT-PCR 法およびリアルタイム PCR 法

Total RNAの抽出はRNeasy(Qiagen社製)を用い,逆転写反応にはHigh Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems 社製)を用いた.HYAL1(GenBank accession No, U_96078),HYAL2(U_09577),CD44(NM_000610)および GAPDH(NM_002046)(内部標準遺伝子)mRNA の検出には以下の PCR プライマーを用いた. HYAL1 sense, 5’-CAGGCGTGAGCTGGATGGAGA-3’; HYAL1 anti-sense, 5’-GTATGTGCAACACCGTGTGGC-3’; HYAL2 sense, 5’-GAGTTCGCAGCACAGCAGTTC-3’; HYAL2 anti-sense, 5’-CACCCCAGAGGATGACACCAG-3’; CD44 sense, 5’-TCCCAGTATGACACATATTGC-3’; CD44 anti-sense, 5’-CACCTTCTTCGACTGTTGAC-3’; GAPDH sense, 5’-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3’; GAPDH anti-sense, 5’-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3’.

PCR サイクルは 30 サイクルとし,増幅した cDNA のプロダクトサイズは,それぞれ

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HYAL1: 440 bp,HYAL2:446 bp,CD44:549 bp,GAPDH:452 bp だった.塩基配列

は Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer(Life Technologies 社製)を用いて解析し,

目的とする cDNA プロダクトが得られたことを確認した(結果省略).リアルタイム PCRは TaqMan real-time PCR assay(ABI Prism 7700 Sequence Detection System; Applied Biosystems 社製)のプロトコルに従い実施し,内部標準遺伝子には GAPDH を用いた. 1-2-10 RNA 干渉法

HA 分解に関与すると考えられた 25 の候補遺伝子(Table 1-1)に対し,2 種類の異なる

配列を持つ siRNA を Invitrogen より購入した. KIAA1199-1, 5’-AAACAUUGAAAUAUUCGCCAUGCUC-3’; KIAA1199-2, 5’-UUGACAAGGAGGCCAAGACAGUGGU-3’; KIAA1706-1, 5’-AUUGAUACCAUCCAUCCUCACUAGG-3’; KIAA1706-2, 5’-AACCGGUGGCCAUCACUGUGAUUCU-3’; GUCY1A3-1, 5’-AUAUUCAACAUAGUCAUGAUCCCGC-3’; GUCY1A3-2, 5’-AAUGUAGAUCAUUUGGCCUUUGAGG-3’; CD36-1, 5’-UUGUCUUCUGGAUAAGCAGGUCUCC-3’; CD36-2, 5’-AAGGUUCGAAGAUGGCACCAUUGGG-3’; PRKAR2B-1, 5’-UAAUCCUGGACUCUGCAUCAUCUUC-3’; PRKAR2B-2, 5’-UAUCAUAGUUACCAACACAUCUUCC-3’; TCF21-1, 5’-CAUUCUCGCAGUUGGAGCUCUCCUC-3’; TCF21-2, 5’-UUGAAGGUCCUCCACAUCGCUGAGG-3’; SIX1-1, 5’-AAGUCCACCAGACUGGAGGUGAGGG-3’; SIX1-2, 5’-UAAAGCCAAACGACGGCAGCAUCGA-3’; KBTBD10-1, 5’-UAACAAUGCUGGAAUGAUUUCUGGG-3’; KBTBD10-2, 5’-AUAUCUUGCACAUUUCCGUCAUUGA-3’; FGL2-1, 5’-UUUGGACUUCUUUGAACACCUCCUC-3’; FGL2-2, 5’-AACAACAGUCCGUUUCUGCCUGGGU-3’; C10orf10-1, 5’-UUGUCCAGCACAGAGGUGGGCUGUG-3’; C10orf10-2, 5’-UAGGUCAGAGCUCUGCUGCCCAUCC-3’; PARD6A-1, 5’-UUAUUGCGCUGGUUGGCGGGCUUGA-3’; PARD6A-2, 5’-AGGUCUUCCCGGCUACUUCAAUGCC-3’; FAM20A-1, 5’-AAGAUGGCCAUGUCGAUGACAUUGA-3’; FAM20A-2, 5’-UUAUCAUGCAGCACUGGGAGAGAGG-3’; ARMC4-1, 5’-AAACUUGGCAACAUUCGCGAUAGUC-3’; ARMC4-2, 5’-UUCGUAUGACUCUUACUGCAGCUCC-3’; FGD4-1, 5’-AUUAGUCUCCUUCAUCUCAUGGUGC-3’;

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FGD4-2, 5’-AUGUGAUGCUGCAAAGUUAAGCUCC-3’; TMTC1-1, 5’-UAAUACAGUGCUCCCAAAGGUGACA-3’; TMTC1-2, 5’-UUUGGUUUCAGCUGGAGAGCCUUGU-3’; RASL11A-1, 5’-UAGACCAGCCGUGAAUACAGCUUGC-3’; RASL11A-2, 5’-AUUUGGACAGGGAAUCGACGACCUG-3’; C6orf32-1, 5’-AUACCAGGUGAUUUCCAGGUUCAGU-3’; C6orf32-2, 5’-UUUCAAGGCCCUGUAGACUUCUUCC-3’; AK024243-1, 5’-UACUCUUGGUCCCUGAUCAAAGUCC-3’; AK024243-2, 5’-AUCAGUCUGAGUUAAAGGCCAGCUC-3’; FLJ35700-1, 5’-UUUCCAAGGGCAGAGCCAGCAUUUG-3’; FLJ35700-2, 5’-UGAGAAGUCUGUUCUCGUCACUCUG-3’; FLJ36644-1, 5’-UUAACUGGGACCACAUCGCCAUUUG-3’; FLJ36644-2, 5’-UUUAUUAUGACCUUCCUCCCGCUGC-3’; KLHL23-1, 5’-AAACAUGUAACACCAUAGCUCUCCC-3’; KLHL23-2, 5’-UAUAGAUCCACACUGUGUCAAGAGC-3’; BX350256-1, 5’-UAGGCCUGCAUAAUACAGUCCUAUG-3’; BX350256-2, 5’-UAAUGUGGGAUCCUUAUCAGCAUGC-3’; ENST00000372493-1, 5’-AAUAUAGGCUACGCAGUUGUGGAGG-3’; ENST00000372493-2, 5’-UGAUCCUCCCAGUUUCUUCUUGCUC-3’; THC2404909-1, 5’-UCAUCUUUCACUGGAGCCCGGAAGC-3’; THC2404909-2, 5’-UUUCCAAGGAGUCACGUGGUCGCUC-3’; A_32_P171043-1, 5’-AGAUGUCGGGCAUUAACUCAGAAGG-3’; A_32_P171043-2, 5’-UUUACUUGUUGGGCUAUGAUACUCC-3’.

HYAL2 および CD44 に対する 2 種類の siRNA(Invitrogen 社製)は以下を用いた. HYAL2-1, 5’-AAUCUUUGAGGUACUGGCAGGUCUC-3’; HYAL2-2, 5’-AUAUUGUGCCUGUUUGACUAUGCGG-3’; CD44-1, 5’-AUUCAAAUCGAUCUGCGCCAGGCUC-3’; CD44-2, 5’-AAAUGCACCAUUUCCUGAGACUUGC-3’; これらの siRNA はLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen 社製)を用いて細胞に導入した. 1-2-11 遺伝子発現プラスミドの構築と細胞への導入法 全長の KIAA1199 cDNA は Takara Bio にて化学合成し,Applied Biosystems 3730xl

DNA Analyzer(Life Technologies 社製)により塩基配列を確認した.KIAA1199,HYAL1および HYAL2 の遺伝子発現プラスミドは,KIAA1199, HYAL1 および HYAL2 の全長

cDNA をそれぞれ pcDNA3.1(-)プラスミド(Invitrogen 社製)に挿入して構築した.一過

的な遺伝子強制発現には,Lipofectamine LTX(Invitrogen 社製)を用い,プラスミド導入

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後48時間の細胞を用いた.組換えDNA実験は㈱カネボウ化粧品の倫理審査で承認された. 1-2-12 ヒト皮膚試料の調製 正常ヒト皮膚試料は,Stephens & Associates, Inc.(Dallas, Colorado, USA)にて,3 名

のボランティア(女性:61-65 歳)の顔面目尻より,バイオプシーパンチにより採取した.

皮膚の採取は Stephens & Associates, Inc.および㈱カネボウ化粧品の倫理審査で承認され,

インフォームドコンセントは手術前にボランティアより得た. 1-2-13 免疫組織染色法 免疫組織染色はホルマリン固定したヒト皮膚組織のパラフィン切片を用いて実施した.

抗原賦活には,切片試料を再水和後,1 mM EDTA(pH 8.0)において,95°C で 15 分処理

した.内因性のペルオキシダーゼ活性は,3%(v/v)H2O2を含む PBS で 15 分処理して失

活させた.ブロッキングには,10%(v/v)donkey serum を含む BSA/PBS-T(1%(w/v)BSA を含む PBS-T)を用い,4 mg/ml の抗 KIAA1199 抗体もしくはコントロールラット

IgG2aκと 4°C で 18 時間反応させた.PBS で洗浄後,BSA/PBS-T で 500 倍希釈した HRP標識抗ラット IgG 抗体 (Jackson ImmunoResearch 社製) と室温で 1 時間反応させ,発色

は Vector® VIP kit(紫色; Vector Laboratories 社製)で行った. 1-2-14 in situ ハイブリダイゼーション法

Digoxigenin 標識した KIAA1199 アンチセンスおよびセンスプローブ(GenBank accession No. NM_018689,nucleotides 5729-6352)を合成し,in situ ハイブリダイゼー

ションはホルマリン固定した正常ヒト皮膚組織のパラフィン切片を用いて実施した 19). 1-2-15 統計処理 統計解析は SAS システムにより実施した.Dunnett’s multiple comparison test でコン

トロールとの有意性を解析した.P 値 0.05 未満を統計的に有意とした. 第3節:実験結果 1-3-1 培養皮膚線維芽細胞を用いた CD44,HYAL1 および HYAL2 依存的な HA 分

解仮説モデルの検証 正常ヒト皮膚線維芽細胞 Detroit 551 株は,外的に添加した分子量 1,000 kDa 以上の[3H]

標識高分子 HA([3H]HA)を 10 kDa-100 kDa の中間サイズの断片に分解し,HA 分解産

物を細胞外に蓄積させた(Fig. 1-1A).また,この細胞は,1,760 kDa の FA-HA を分解し

たが,他の FA-GAG(FA-CSA,FA-CSC,FA-CSD,FA-DS,FA-Hep,FA-HS)は分解

しなかったことから(Fig. 1-2),線維芽細胞は HA 特異的な分解能を有すると考えられた.

このHA分解機構にCD44,HYAL1およびHYAL2が関与するか調べるため,まずはDetroit

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551 線維芽細胞おけるこれらの分子の発現を RT-PCR で調べたところ,CD44 および

HYAL2 は発現していたが,HYAL1 の発現は認められなかった(Fig. 1-1B).次に,発現

Fig. 1-1. HA degradation by cultured normal human skin fibroblasts independent of CD44,HYAL1 and HYAL2. (A) Detroit 551 skin fibroblasts were cultured with [3H]HA for 48 h and HAfragments in the culture medium were examined by size exclusion chromatography. (B) Expressionof CD44, HYAL2 and HYAL1 by RT-PCR. GAPDH, a loading control. (C and D) CD44 andHYAL2 were knocked down by treating cells with siRNAs to CD44 or HYAL2. For controls, thecells were transfected with control non-silencing siRNA (Control siRNA). Cells with siRNA werecultured with [3H]HA for 48 h, and degraded HA was examined by size exclusion chromatography.Knockdown efficiency for CD44 and HYAL2 was evaluated by immunoblotting (Insets). GAPDH,a loading control. Representative data for two siRNAs are shown.

Fig. 1-2. Endogenous HA-specific depolymerization by Detroit 551 fibroblasts inculture. The cells were cultured with FA-GAGs: FA-HA H1, FA-CSA, FA-CSC, FA-CSD,FA-DS, FA-Hep and FA-HS for 72 h. FA-GAGs in the conditioned media were fractionatedon a Sepharose CL-2B column. Dotted lines indicate FA-GAGs without incubation.

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が認められた CD44 および HYAL2 について siRNA を用いて発現抑制した結果,いずれの

発現抑制においても HA 分解には全く影響が認められなかった(Fig. 1-1C, D).これらの

ことから,皮膚線維芽細胞には CD44,HYAL1 および HYAL2 が関与しない,新規な HA分解機構が存在すると考えられた. 1-3-2 培養皮膚線維芽細胞の HA 分解に関わる KIAA1199 遺伝子の発見 線維芽細胞の HA 分解を担う新規な分子の同定を目的とし,皮膚線維芽細胞の培養系 HA

分解活性と発現の挙動が一致する遺伝子の探索を試みた.まずは interleukin (IL)-1α,IL-1β,TGF-α,TGF-β1,epidermal growth factor (EGF),hepatocyte growth factor (HGF),interferon (IFN)-γ,tumor necrosis factor (TNF)-αおよびヒスタミンで Detroit 551 線維芽

細胞を刺激したところ,培養系 HA 分解活性はヒスタミンにより顕著に亢進し,TGF-β1 に

Fig. 1-3. HA degradation mediated by KIAA1199 and regulation of KIAA1199 expressionby histamine and TGF-β1. (A) Effect of histamine and TGF-β1 on HA depolymerization.Cells were treated with or without histamine (10 mM) or TGF-β1 (10 ng/ml) and cultured with[3H]HA for 48 h. The HA degrading activity was analyzed by chromatography. Control,untreated cells. (B) Abrogation of HA degrading activity by knockdown of KIAA1199 with twodifferent siRNAs specific for KIAA1199. The cells were cultured with [3H]HA for 48 h, andHA degradation was determined. Inset, immunoblotting for KIAA1199 and GAPDH (a loadingcontrol). (C) Kinetic study of HA degradation by cells treated with or without histamine for 72h. Control and Histamine, cells treated with vehicle alone and histamine, respectively. (D andE) The expression levels of KIAA1199 mRNA and protein in cells treated with histamine,TGF-β1 or vehicle alone (Cont) for 24 h. Levels of mRNA and protein expression weremeasured by real-time PCR and immunoblotting, respectively. Values (relative mRNAexpression, fold KIAA1199 to GAPDH) represent mean ± SD (n=3). The Dunnett test was usedfor statistical analysis. The protein expression levels (ratio of KIAA1199 to GAPDH) wereestimated by using densitometric scanning Multi Gauge Ver. 2.1 (FUJI FILM). A representativefinding of three different experiments is shown.

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より顕著に抑制されることを見出した(Fig. 1-3A).次に,マイクロアレイ遺伝子発現解析

により,ヒスタミンで発現が亢進し,かつ TGF-β1 により発現が抑制される遺伝子を包括

的に探索した.その結果,25 の遺伝子が同定された(Table 1-1).それらの遺伝子につい

て,それぞれ 2 種類の配列の異なる siRNA で発現抑制を行ったところ,これまでに機能不

明の難聴遺伝子として報告されていた KIAA1199 の発現抑制により,Detroit 551 線維芽細

胞の HA 分解が顕著に抑制されることを見出した(Fig. 1-3B).同様の結果が,ヒト皮膚線

維芽細胞 HS27 株(新生児由来)と NHDF-Ad 株(成人由来)でも認められた(結果省略).

Detroit 551 線維芽細胞の培養系 HA 分解活性の反応速度論的解析を行ったところ,無刺激

の条件下では見かけの Vmax 値と Km 値がそれぞれ 370 mg/105 cells/72 h と 1,480 mg/mlであったのに対し,ヒスタミン刺激下では Vmax 値が 1,370 mg/105 cells/72 h,Km 値が

1,500 mg/ml と,Vmax 値のみ約 3.8 倍に上昇した(Fig. 1-3C).また,リアルタイム PCRおよびウェスタンブロット解析法により,KIAA1199 の mRNA およびタンパク発現は,ヒ

スタミン刺激により,それぞれ約 3.7 倍と約 4.2 倍に上昇し,Vmax 値の上昇幅とよく一致

した.一方,TGF-β1 刺激では,これらの発現はほとんど検出できないレベルまで低下した

(Fig. 1-3D, E).以上の結果から,KIAA1199 は皮膚線維芽細胞の HA 分解に必要な因子

であり,HA 分解速度は KIAA1199 の発現量により決定されると考えられた.

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1-3-3 KIAA1199 cDNA を導入した細胞の HA 分解能

HA 分解における KIAA1199 の機能を調べるため,培養系で HA を分解しない HEK293細胞と COS-7 細胞に KIAA1199 の

全長 cDNA を導入した.その結果,

KIAA1199 cDNA を一過的に導入

した細胞は,[3H]HA を 10-100 kDaの中間サイズの HA 断片に分解し

たのに対し,コントロールのプラス

ミドを導入した細胞は HA 分解活

性を示さなかった.これらの結果か

ら,KIAA1199 遺伝子を導入した細

胞は,皮膚線維芽細胞と同様の HA分解能を新たに獲得したことが分

かった(Fig. 1-4A, B).以上より,

Table 1-1. Genes up-regulated by histamine and down-regulated by TGF-β1 in Detroit 551skin fibroblasts.

Detroit 551 cells were cultured in the presence and absence of 10 mM histamine or 10ng/ml TGF-β1. At 8 h and 24 h after the treatment, total RNAs were isolated and subjectedto microarray gene expression analysis. Values (fold induction) represent the ratio ofexpression levels in the stimulated cells compared with the un-treated control cells.

Fig. 1-4. HA depolymerization by KIAA1199transfectants. (A and B) HEK293 and COS-7 cells weretransiently transfected with empty vector (Mock) or vectorcontaining KIAA1199 cDNA, and then incubated with[3H]HA for 24 h. HA depolymerization was examined bysize exclusion chromatography. Expression of KIAA1199protein in Mock and KIAA1199 transfectants wasassessed by immunoblotting (Insets).

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先述の皮膚線維芽細胞における KIAA1199 発現抑制実験の結果(Fig. 1-3B)と合わせ,

KIAA1199 は HA 分解に必須な因子と考えられた.

1-3-4 正常ヒト皮膚の線維芽細胞における KIAA1199 の発現 in situ ハイブリダイゼーション法(Fig. 1-5A)および免疫組織染色法(Fig. 1-5B)によ

り,KIAA1199 は主に正常ヒト皮膚真皮の線維芽細胞で発現していることを見出した.一

方,表皮細胞において,KIAA1199 mRNA の発現は認められたが(Fig. 1-5A),KIAA1199タンパク質の発現は認められず(Fig. 1-5B),KIAA1199 は表皮細胞において機能していな

い可能性が考えられた.

第 4 節:考察 これまで,CD44,HYAL1 および HYAL2 が HA 分解における主要な役割を担う因子と

考えられてきた.しかし,今回の研究により HYALs や CD44 が関与しない,KIAA1199依存的な新規 HA 分解機構が存在することが明らかとなった.全身の HA のターンオーバ

ーにおいて,末梢の組織で合成された分子量 1,000 kDa 以上の高分子 HA は,まずは組織

において 10-100 kDa の中間サイズの HA に分解され,その大部分がリンパ管に入り,リン

パ節にて HYAL1 により更なる分解を受ける 2).リンパ管で分解されなかった HA(~10 kDa)は血管に運ばれ,最終的には HYAL1 や HYAL2 が高発現している肝臓,腎臓および

脾臓において 9, 13),HARE を介したクラスリン経路で細胞内に取り込まれ,リソソームに

て完全に消化されると考えられている 2).これまでに,HYAL1 欠損によって引き起こされ

る IX 型ムコ多糖症患者や,HYAL2 ノックアウトマウスの血清においては HA レベルが上

昇することが報告されている 13, 16).さらに,IX 型ムコ多糖症患者のマクロファージや線維

芽細胞 13),また HYAL1 ノックアウトマウスの軟骨細胞のリソソームにおいては HA が蓄

積することが報告されている 15).これらのことから,HYAL1 や HYAL2 はリンパ節,肝臓,

腎臓および脾臓などの臓器や,マクロファージ,線維芽細胞および軟骨細胞などにおいて,

Fig. 1-5. Expression of KIAA1199by dermal fibroblasts in normalhu man skin. (A ) The mRNAexpress ion of KIAA1199 wasexamined by in situ hybridizationusing anti-sense (left) and sense(right) RNA probes. (B) KIAA1199protein expression was analyzed byimmunohistochemistry with anti-KIAA1199 antibody (Ab) (left) andcontrol rat IgG2aκ (right). Insets showhigh-power views of the boxed areas.Arrows, KIAA1199-positive cells.Scale bars, 50 mm. Representativedata from three subjects are shown.

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HARE あるいは CD44 と協調的に HA 分解に関与している可能性が考えられる.一方,

HYAL1およびHYAL2は脳で発現が認められないことから 9, 13),少なくとも脳には,HYAL1や HYAL2 が関与しない HA 分解機構が必要である.本研究にて見出した KIAA1199 は,

脳,肺,膵臓,精巣,卵巣を含む臓器で幅広く発現しているが,HYAL1 や HYAL2 が高発

現している肝臓,腎臓,脾臓ではほとんど発現が認められない 20).このことから,KIAA1199は脳のような HYAL1 および HYAL2 が同時に発現していない臓器の HA 分解において,重

要な役割を担っている可能性が考えられる.また,今回の研究において,正常ヒト皮膚線

維芽細胞の HA 分解に HYALs や CD44 が関与しないことを示したが,他の組織の HA 分

解における KIAA1199 や CD44/HYALs の役割については,今後明らかにしていく必要があ

る. KIAA1199 の発現はヒスタミンにより亢進し,TGF-β1 により抑制されることを見出した.

紫外線で障害を受けた皮膚では HA 量が低下しており 21),また紫外線照射後の皮膚におい

ては,肥満細胞より局所的にヒスタミンが放出されることが知られている 22).そのため,

ヒスタミンによる線維芽細胞での KIAA1199 の発現亢進が,紫外線障害を受けた皮膚の過

剰な HA 分解に寄与している可能性が考えられた.一方,TGF-β1 は創傷治癒などの組織修

復の過程において,HA を含む細胞外マトリックス成分の産生促進に重要な役割を担ってい

ることが知られている 23).これまでに,TGF-β1は,皮膚線維芽細胞のHAS1遺伝子とHAS2遺伝子の発現誘導を介し,HA 合成を促進することが見出されているが 19),本研究の結果

より,TGF-β1 は HA 合成系の促進だけでなく,KIAA1199 遺伝子の発現低下を介した HA分解系の抑制により,創傷部位に HA を蓄積させている可能性が考えられた. 本章では,正常ヒト皮膚線維芽細胞のHA分解機構を担うKIAA1199遺伝子を発見した.

KIAA1199 は正常ヒト皮膚真皮の線維芽細胞でも発現していたことから,皮膚の生理的な

HA 分解に寄与する可能性が示された.

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第2章 KIAA1199 が司る HA 分解機構の特性解析 第1節:序論

KIAA1199 遺伝子は,1,361 のアミノ酸からなる分子量 153 kDa のタンパク質をコード

する 4,083 bp の open reading frame(ORF)を含んでいる 24).KIAA1199 のアミノ酸配

列は HYAL を含む他のタンパク質と相同性を示さず 9, 12),また複数の HA 結合タンパク質

で共通に認められる HA-リンクモジュール 25)や B(X7)B HA-結合モチーフ 26)も認められな

い.一方,KIAA1199 には,細胞外リガンドとの結合が推測されている G8 ドメイン 27),

高分子多糖の加水分解への関与が示唆されている PbH1 ドメイン 28),および機能が不明の

GG ドメイン 29)が存在することが報告されている(Fig. 2-1).また,KIAA1199 は 7 つの

推定 N 型糖鎖修飾部位を有し,N 末端 30 アミノ酸は疎水性の高いアミノ酸で構成されてい

ることから,シグナル配列と予想されている 28).しかし,これまでに KIAA1199 分子の機

能については明らかにされていない.

そこで本研究では,新たに樹立した

KIAA1199安定発現HEK293細胞を用

い,KIAA1199 の機能および培養系で

の HA 分解の様式,さらに KIAA1199タンパク質の成熟化と細胞内局在制御

について詳細に検討した. また,マウスにはヒト KIAA1199 と

DNA 配列で 86.8%,アミノ酸配列で

91%の相同性を示すホモログ遺伝子

(mKiaa1199)が存在する 24).ヒト

KIAA1199 と 同 様 , こ れ ま で

mKiaa1199の機能は明らかにされてい

ないため,本研究では,mKiaa1199 の

機能についても検討した. 第2節:実験材料および実験方法 2-2-1 細胞培養

HEK293 細胞は第1章で記載した方法に従い培養した. 2-2-2 KIAA1199-V5 および KIAA1199(∆30aa)-V5 遺伝子発現プラスミドの構築

C 末端に V5 タグを有する KIAA1199(KIAA1199-V5)の発現プラスミドは,KIAA1199の全長 cDNA を pcDNA3.1/V5-His プラスミド(Invitrogen 社製)に挿入して構築した.N

Fig. 2-1. The schematic representation of thestructure of full-length KIAA1199. Functionaldomains of KIAA1199 are indicated as follows:SS, predicted N-terminal signal sequence; PbH1,PbH1 domain; GG, GG domain; G8, G8 domain.The predicted N-glycosylation sites are shown byarrows. Numbers indicate the positions of theresidues relative to the N-terminus of the fulllength KIAA1199.

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末端 30 アミノ酸を欠失した KIAA1199-V5(KIAA1199(∆30aa)-V5)の遺伝子発現プラス

ミドは,1番目のメチオニン残基から 30 番目のセリン残基を ATG 開始コドンで置換して

作製した.組換え DNA 実験は㈱カネボウ化粧品の倫理審査で承認された. 2-2-3 マウス Kiaa1199 ホモログ遺伝子(mKiaa1199)発現プラスミドの構築

mKiaa1199 cDNA(GenBank accession No. AB_103331)は,マウス脳由来 cDNA(Takara Bio 社製)を鋳型として RT-PCR により増幅し,塩基配列は Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer(Life Technologies 社製)を用いて確認した.mKiaa1199 発現プラ

スミドは,mKiaa1199 cDNA を pcDNA3.1(-)プラスミド(Invitrogen 社製)に挿入して構

築した.組換え DNA 実験は㈱カネボウ化粧品の倫理審査で承認された. 2-2-4 KIAA1199 遺伝子安定発現細胞(KIAA1199/HEK293 細胞)および

mKiaa1199 遺伝子安定発現細胞(mKiaa1199/HEK293 細胞)の樹立 KIAA1199あるいはmKiaa1199発現プラスミドをHEK293細胞に導入し,800 mg/ml の

G418(Sigma 社製)を含有する培地にて,プラスミドが導入されたクローンを選抜した.

さらにその中から,ウェスタンブロット法により KIAA1199(mKiaa1199)タンパク質を

発現し,かつ培養系 HA 分解活性を有する細胞を取得した. 2-2-5 抗体

mKiaa1199 は,抗 KIAA1199 抗体の抗原ペプチド配列 CA762RYSPHQDADPLKPRE777

と同じ配列を含むため,ラット抗 KIAA1199 モノクローナル抗体は,mKiaa1199 も特異的

に認識した.抗 V5 抗体は Invitrogen から,抗クラスリン重鎖(CHC),抗カベオリン-1,抗α-アダプチンおよび抗 protein disulfide isomerase(PDI)抗体は Santa Cruz Biotechnology 社から,抗 GM130 抗体は BD Biosciences 社から購入した. 2-2-6 KIAA1199/HEK293 細胞の培養系 HA 分解系の基質特異性 第1章で記載した方法に準じて実施した.

2-2-7 ウェスタンブロット解析法 第1章で記載した方法に準じて実施し,抗カベオリン-1 および抗 GAPDH 抗体の検出に

は HRP 標識抗ラビット IgG 抗体(DAKO 社製),抗α-アダプチンおよび抗 V5 抗体の検出

には HRP 標識抗マウス IgG 抗体(DAKO 社製),抗 CHC 抗体の検出には HRP 標識抗ゴ

ート IgG 抗体(DAKO 社製)を用いた. 2-2-8 KIAA1199 の GAG 結合活性評価-1

KIAA1199/HEK293 細胞あるいは mKiaa1199/HEK293 細胞を,プロテアーゼインヒビ

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ター(Roche Diagnostics 社製)を含む 50 mM リン酸バッファー(pH 6.0)中で破砕し,

細胞溶出液を調製した.得られた細胞溶出液を,非標識 GAG(CSA,CSC,CSD,DS,Hep,HS),あるいは非標識 HA(HA-H2 (1,452 kDa),HA-M2(1,039 kDa),HA-L2(219 kDa),HA-S2(52 kDa),HA-T2(28 kDa))(PG Research 社製)と 37°C で 1 時

間インキュベートし,GAG と結合タンパク質との複合体を形成させた.ネガティブコント

ロールには超純水を用いた.GAG-タンパク質複合体を沈殿させるために最終濃度が 1%(w/v)になるよう CPC を加え,更に 37°C で 1 時間インキュベートした.遠心して回収し

た沈殿画分を,1%(w/v)CPC を含む 30 mM NaCl 溶液で 3 回洗浄後,NuPAGE LDS サ

ンプルバッファー(Invitrogen 社製)に溶解した.得られた試料を NuPAGE 4-12% Bis-Tris gels(Invitrogen 社製)に供し,沈殿画分の KIAA1199(mKiaa1199)を,抗 KIAA1199抗体を用いたウェスタンブロット法により検出した. 2-2-9 KIAA1199 の GAG 結合活性評価-2

HA-Sepharose は,EAH Sepharose 4B beads(GE Healthcare 社製)と 12 mg/ml のヒ

ト 臍 帯 HA ( Seikagaku Corporation 社 製 ) 溶 液 を 混 合 後 , 0.28 g の

1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiiamide hydrochloride(Thermo Scientific 社製)

を加え,pH4.5-5.0 の条件下で一晩インキュベートして調製した 30).その後,ビーズを 1 M NaCl,0.1 M Tris/HCl バッファー(pH8.1),0.05 M ギ酸バッファー(pH3.1)の順で洗

浄し,0.1%(v/v)Triton X-100 を含む 50 mM リン酸バッファー(pH 6.0)で平衡化した.

KIAA1199/HEK293 細胞は,プロテアーゼインヒビター(Roche Diagnostics 社製)およ

び 0.1%(v/v)Triton X-100 を含む 50 mM リン酸バッファー(pH 6.0)中で破砕し,細胞

溶出液を調製した.得られた細胞溶出液を,HA-Sepharose ビーズあるいはコントロールビ

ーズと 37°C で 1 時間インキュベート後,ビーズに吸着したタンパク質を NuPAGE LDS サ

ンプルバッファー(Invitrogen 社製)で溶出した.得られた試料は,NuPAGE 4-12% Bis-Tris gels(Invitrogen 社製)に供し,抗 KIAA1199 抗体を用いたウェスタンブロット法の解析

により,KIAA1199 タンパク質を検出した.KIAA1199 の HA-Sepharose への特異的な吸

着は,予め細胞溶出液をフリーの GAG(HA-H2,CSA,CSC,CSD,DS,Hep,HS)(0.5 mg/ml)と混合して確認した. 2-2-10 HA 分解産物の非還元末端糖と還元末端糖の同定 非還元末端糖の同定のため,KIAA1199/HEK293 細胞あるいは mKiaa1199/HEK293 細

胞を 1,000,000 dpm/ml の[3H]HA を含む培地で 72 時間培養し,得られた培養上清に含ま

れる[3H]HA 分解産物を,Sepharose CL-2B ゲル濾過カラムにより回収した. 得られた

[3H]HA 分解産物はβ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Sigma 社製)単独,もしくは β-グルクロニダーゼ(Sigma 社製)とβ-N-アセチルグルコサミニダーゼの組み合わせにより消

化し,非還元末端からの[3H]N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の遊離の有無を,Sephadex

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G-25 ゲル濾過カラム(1 x 107 cm)(GE Healthcare 社製)に供して評価した.GlcNAcの溶出位置は既存の方法 31)に従い決定した. 還元末端糖の同定には,KIAA1199/HEK293 細胞を 100 mg/ml の非標識ヒト臍帯 HA を

含む培地で 72時間培養し,得られた培養上清に含まれるHA 分解産物を,Sepharose CL-2B ゲル濾過カラムを用いて回収した.HA 分解産物の還元末端糖は,2-アミノピリミジンによ

りピリジルアミノ化(PA)し 32),得られた PA-HA は 4 N HCl により単糖にまで加水分解

した.その際,N-アセチル基の脱離により生じたグルコサミンは,再度 5%(v/v)無水酢

酸にて N-アセチル化した 33).得られた PA-GlcNAc は,TSK-gel Sugar AXI (内径 4.6 mm x 15 cm; Tosoh Corporation 社製)を用いた逆相 HPLC にて分離し,励起波長:310 nm,蛍

光波長:380 nm で検出した. 2-2-11 RNA 干渉法

CHC(GenBank accession No, NM_007098),カベオリン-1(NM_001753)およびα-アダプチン(NM_012305)に対する 2 種類の siRNA(Invitrogen 社製)は以下のものを

用いた. CHC-1, 5’-UGAAGUAUUGACAUCAAAUUUCCGG-3’; CHC-2, 5’-AAAUUCUUCUAACUCUGCAAGGCGG-3’; Caveolin-1-1, 5’-AUUUCUUUCUGCAAGUUGAUGCGGA-3’; Caveolin-1-2, 5’-UUUCCCAACAGCUUCAAAGAGUGGG-3’; α-adaptin-1, 5’-UAUUCAGCAACUCAUCGGCUUCCGG-3’; α-adaptin-2, 5’-UGAACAGGUAACCUAUUUGCUUCUC-3’.

KIAA1199 siRNA については,第1章で記載したものを用いた. 2-2-12 免疫細胞染色法

KIAA1199/HEK293 細胞あるいは mKiaa1199/HEK293 細胞は,マルチチャンバースラ

イド(BD Biosciences 社製)で 70-80 %コンフルエントまで培養した.KIAA1199(mKiaa1199)と CHC の二重染色には,細胞を 4%(w/v)パラホルムアルデヒドで固定

後,Alexa-Flour 488 標識した抗 KIAA1199 抗体と Alexa-Flour 555 標識した抗 CHC 抗体

を反応させた.抗体への Alexa-Flour の標識は Alexa-Fluor antibody labeling kit(Invitrogen 社製)を用いた.KIAA1199-V5 あるいは KIAA1199(∆30aa)-V5 と,ゴルジ

マーカー(GM130)あるいは小胞体マーカー(PDI)の二重染色には,KIAA1199-V5 ある

いは KIAA1199(∆30aa)-V5 を発現している HEK293 細胞を,4%(w/v)パラホルムアルデ

ヒドで固定後,Alexa-Flour 488 標識した抗 KIAA1199 抗体と,Alexa-Flour 555 標識した

抗 GM130 あるいは抗 PDI 抗体を反応させた.コントロールには Alexa-Flour 標識した

non-immune IgG を用いた.試料を vectashield で包埋後,シグナルは Zeiss LSM 510 共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて観察した.

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2-2-13 免疫沈降法

KIAA1199/HEK293 細胞を,1%(v/v)Nonidet P-40 およびプロテアーゼインヒビター

(Roche Diagnostics 社製)を含む 50 mM Tris-HCl バッファー(pH 8.0)中で破砕し,細

胞溶出液を調製した.得られた細胞溶出液中の KIAA1199 は,抗 KIAA1199 抗体を結合さ

せた Dynal magnetic beads protein G(Invitrogen 社製)を用いて免疫沈降した.ネガテ

ィブコントロールにはラット IgG2aκを用いた.ビーズに結合したタンパク質は,NuPAGE LDS サンプルバッファー(Invitrogen 社製)で回収し,NuPAGE 4-12% Bis-Tris gels(Invitrogen 社製)で電気泳動後,抗 KIAA1199 および抗 CHC 抗体を用いたウェスタン

法による解析にて評価した. 2-2-14 各種阻害剤の培養系[3H]HA 分解への影響

KIAA1199/HEK293 細胞を 5 mM モネンシン(MP Biomedicals 社製),10 mM NH4Cl(Wako 社製),1 nM バフィロマイシン A1(Calbiochem 社製),60 mM Dynasore(Merck社製)あるいは 0.3 mM ノコダゾール(Calbiochem 社製)を含む培地で 3 時間培養後,

[3H]HA を添加し,さらに 6 時間培養した.得られた培養上清を Sepharose CL-2B ゲル濾

過カラム(1 x 60 cm)に供与し,HA 分解活性を評価した. 2-2-15 外因性 HA の細胞内局在解析-1 マルチチャンバースライドで培養した KIAA1199/HEK293 細胞を,0.1 mg/ml のビオチ

ン標識高分子 HA(PG research 社製)を含む培地で 1 時間インキュベートした.コントロ

ールとして,予め Streptomyces hyaluronidase(Seikagaku Corporation 社製)で消化し

たビオチン標識高分子 HA を用いた.細胞を 4%(w/v)パラホルムアルデヒドを含む PBSで固定後,ストレプトアビジン標識 Alexa-Fluor 488(Invitrogen 社製)でビオチン標識

HAを標識した.TO-PRO-3にて核を染色後,試料をvectashieldにて包埋し,Zeiss LSM 510 共焦点顕微鏡を用いて観察した. 2-2-16 外的に添加した HA の細胞内局在-2

KIAA1199/HEK293 細胞およびコントロール HEK293 細胞を,それぞれ [3H]HA(400,000 dpm/ml)を含む培地で 1,6,24 時間培養した.培養後,回収した培養上清を

「細胞外 HA 画分」とした.同時に,細胞をプレートから 1 mM EDTA を含む 0.25%(w/v)トリプシン(Sigma 社製)で剥離し,遠心後,得られた上清画分を「細胞表面 HA 画分」

とした.沈殿した細胞は 400 mg/ml proteinase K(Invitrogen 社製)を含む 50 mM Tris/HClバッファー(pH7.4)で消化し,得られた細胞溶出液を「細胞内 HA 画分」とした.各画分

の放射活性はシンチレーションカウンター(Aloka LSC-6100)にて測定した

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2-2-17 N 末端アミノ酸配列解析 KIAA1199-V5 発現細胞を,1%(v/v)Nonidet P-40 およびプロテアーゼインヒビター

(Roche Diagnostics 社製)を含む 50 mM Tris-HCl バッファー(pH 8.0)中で破砕し,細

胞溶出液を調製した.細胞溶出液に含まれる KIAA1199-V5 は,抗 KIAA1199 抗体を結合

させた Dynal magnetic beads protein G(Invitrogen 社製)により,濃縮・精製した.ビ

ーズに結合した KIAA1199-V5 は,NuPAGE LDS サンプルバッファー(Invitrogen 社製)

で回収し,NuPAGE 4-12% Bis-Tris gels(Invitrogen 社製)で電気泳動後,PVDF 膜に転

写した.PVDF 膜を CBB 染色後,KIAA1199-V5 に相当するバンドを切出し,N 末端から

10 番目のアミノ酸までを,エドマン分解法により決定した. 2-2-18 脱糖鎖修飾

KIAA1199-V5 あるいは KIAA1199(∆30aa)-V5 発現細胞を,プロテアーゼインヒビター

(Roche Diagnostics 社製)を含む 50 mM リン酸バッファー(pH 7.0)中で破砕し,細胞

溶出液を調製した.N-グリカナーゼによる脱糖鎖処理には,細胞溶出液を 0.1%(w/v)SDSおよび 50 mM β-メルカプトエタノール存在下で 5 分間ボイル後,0.1 U/ml の N-グリカナ

ーゼ(Glyco 社製)により,37°C で 20 時間インキュベートした.Endo H 処理による脱糖

鎖処理には,細胞溶出液を 0.5%(w/v)SDS および 40 mM DTT 存在下で 10 分間ボイル

後,25,000 U/ml の Endo H(New England BioLabs 社製)により,37°C で 20 時間イン

キュベートした.得られた試料を NuPAGE 6% Tris-glysine gels(Invitrogen 社製)に供

し,抗 KIAA1199 抗体を用いたウェスタンブロット法により KIAA1199 タンパク質を検出

した. 2-2-19 mKiaa1199/HEK293 細胞および KIAA1199/HEK293 細胞による HA 分解

産物の分子量評価 mKiaa1199/HEK293 細胞および KIAA1199/HEK293 細胞を,FA-HA H1(10 mg/ml)

を含む培地で 72 時間培養後,得られた培養上清を,0.8 M NaNO3を含む 0.05M CAPS バ

ッファー(pH10.0)で平衡化した TSK-GEL G5000PW(7.5 mm x 30 cm; Tosoh Corporation 社製)に供与した.流速は 0.5 ml/min とし,蛍光強度にて HA を検出した.

カラムのキャリブレーションには FA-HA(FA-HA H1(1,760 kDa),M1(907 kDa), L1(197 kDa),S1(56 kDa),T1(28 kDa),U1(9.8 kDa),3K(2.6 kDa))(PG Research社製)を用いた. 第3節:実験結果 2-3-1 KIAA1199 分子の機能解析

KIAA1199 分子の機能を調べため,KIAA1199 の GAG への結合活性を次の二種類の方法

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で評価した.第一に,KIAA1199/HEK293 細胞の溶出液と GAG をインキュベートし,生

じた GAG-タンパク質複合体を CPC で沈殿させ,KIAA1199 と GAG との共沈を抗

KIAA1199 抗体を用いたウェスタンブロット法により評価した.その結果,高分子 HA-H2 (1,452 kDa),CSA,CSC,CSD,DS,Hep,HS のうち,KIAA1199 は HA-H2 とのみ

共沈し,他の GAG とは共沈しなかった(Fig. 2-2A,上のパネル).また,KIAA1199 は

HA-H2 だけでなく,それより低分子の HA(HA-M2(1,039 kDa),HA-L2(219 kDa),HA-S2(52 kDa),HA-T2(28 kDa))とも共沈した(Fig. 2-2A,下のパネル).次に,

HA-Sepharose ビーズを用いて,KIAA1199 の HA への結合活性を評価した.Fig. 2-2B(上

のパネル)に示した通り,KIAA1199 はコントロールのビーズには吸着せず,HA-Sepharoseビーズに吸着した.また,この吸着は KIAA1199 を前もってフリーの HA とインキュベー

トすることで競合的に阻害されたが,他の GAG では阻害されなかった(Fig. 2-2B,下の

パネル).以上の結果より,KIAA1199 は種々の分子量の HA と特異的に結合する性質を有

すると考えられた.

2-3-2 KIAA1199 安定発現細胞の HA 分解様式

KIAA1199 安定発現細胞(KIAA1199/HEK293 細胞)を用い,KIAA1199 を介した HA分解機構の基質特異性を調べた.KIAA1199/HEK293 細胞と種々の GAG をインキュベー

トした結果,KIAA1199/HEK293 細胞は FA-HA H1(1,760 kDa)を選択的に分解したが,

他の FA-GAG(FA-CSA,FA-CSC,FA-CSD,FA-DS,FA-Hep,FA-HS)は全く分解し

なかった(Fig. 2-3).また,KIAA1199/HEK293 細胞は FA-HA H1 だけでなく,それより

低分子の FA-HA(M1(907 kDa),L1(197 kDa),S1(56 kDa),T1(28 kDa),U1(9.8 kDa))も分解した(Fig. 2-3).また,KIAA1199/HEK293 細胞により分解された HA の還

元末端糖および非還元末端糖は,それぞれ N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)(Fig. 2-4A)

Fig. 2-2. HA-specific binding of KIAA1199 in KIAA1199/HEK293 cells. (A) GAG-binding assayfor KIAA1199 protein. Cell lysates of KIAA1199/HEK293 cells were incubated with H2O (negativecontrol) or unlabeled HA (HA-H2), chondroitin sulfate A, C and D (CSA, CSC and CSD), dermatansulfate (DS), heparin (Hep) and heparan sulfate (HS) (upper panel); or HA-H2, HA-M2, HA-L2, HA-S2 or HA-T2 (lower panel). The samples were precipitated with cetylpyridium chloride and analyzedby NuPAGE and immunoblotting with anti-KIAA1199 antibody. (B) KIAA1199 binding to HA-Sepharose. Cell lysates were incubated with control or HA-coupled Sepharose 4B beads (upper panel),and were pre-incubated with H2O (control) or GAGs prior to application to HA-Sepharose (lowerpanel). Bound materials to the beads were eluted with NuPAGE LDS sample-loading buffer, andanalyzed by immunoblotting with anti-KIAA1199 antibody.

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とグルクロン酸(Fig. 2-4B)だったことから,HA の切断部位はβ-エンド-N-アセチルグル

コサミン結合であることが示された.以上の結果より,KIAA1199 が司る HA 分解機構は,

HA 特異的なエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ様式であり,高分子だけでなく低分

子量の HA も分解し得ると考えられた.

Fig. 2-3. HA-specific depolymerization by KIAA1199/HEK293 cells. Control HEK293 (opencircles) and KIAA1199/HEK293 cells (closed circles) were cultured for 72 h with FA-labeled GAGs:chondroitin sulfate A (FA-CSA), chondroitin sulfate C (FA-CSC), chondroitin sulfate D (FA-CSD),dermatan sulfate (FA-DS), heparin (FA-Hep) and heparan sulfate (FA-HS), and HA species withdifferent molecular weights (FA-HA H1, M1, L1, S1, T1 or U1) (10 mg/ml each). Depolymerizationof these GAGs in the media was determined by chromatography on a Sepharose CL-6B column.Dotted lines indicate GAG without incubation.

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2-3-3 HA のエンドサイトーシス経路および分解の場の同定 これまでに,HARE(HA receptor for endocytosis)依存的 HA 分解機構と CD44 依存的

HA 分解機構は,それぞれクラスリン被覆ピットとカベオラを介していることが報告されて

いる 2, 11).そこで,KIAA1199 依存的 HA 分解機構への,クラスリン経路およびカベオラ

経路の関与を調べた.まずは,クラスリン重鎖(CHC)およびクラスリンのアダプタータ

ンパク質であるα-アダプチン複合体のサブユニットの一つ AP-2 の発現を siRNA により発

現抑制したところ,KIAA1199/HEK293 細胞の培養系 HA 分解は顕著に低下した(Fig. 2-5A, B).一方,カベオラの構成因子の一つであるカベオリン-1 の siRNA 依存的発現抑制は HA分解に影響を与えなかった(Fig. 2-5C).これらのことから,KIAA1199 依存的 HA 分解に

はクラスリン経路が関与していることが示唆された. 次に,HA 分解の場の同定を目的とし,各種阻害剤が KIAA1199/HEK293 細胞の HA 分

Fig. 2-4. Determination of HA cleavage sites. (A and B) Determination of the reducing andnon-reducing terminal sugars of depolymerized HA. HPLC pattern of pyridylaminated N-acetylglucosamine (PA-GlcNAc) was obtained from HA depolymerized byKIAA1199/HEK293 cells (A). Sephadex G-25 column chromatogram of depolymerized[3H]HA after digestion with β-N-acetylglucosaminidase (open circles) or sequential digestionwith β-glucuronidase digestion and then β-N-acetylglucosaminidase (closed circles) (B).

Fig. 2-5. Clathrin-specific HA depolymerization in KIAA1199/HEK293 cells. (A-C) Clathrinheavy chain (CHC) (A), α-adaptin (B) and caveolin-1 (C) were knocked down by siRNAs to eachgene in KIAA1199/HEK293 cells. For controls, cells were transfected with control non-silencingsiRNA. The cells were incubated with [3H]HA for 6 h, and HA fragments in the media wereanalyzed by size exclusion chromatography. Efficiency of the knockdown was evaluated byimmunoblotting (Insets). Representative data from two siRNAs are shown. Note that knockdown ofCHC and α-adaptin but not caveolin-1 decreased HA depolymerization.

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Fig. 2-6. Cellular localization of KIAA1199 and exogenously added HA inKIAA1199/HEK293 cells. (A) Effects of inhibitors on HA depolymerization. KIAA1199/HEK293cells were incubated for 3 h in the absence or presence of monensin, NH4Cl, bafilomycin A1,dynasore or nocodazol, followed by additional incubation for 6 h with [3H]HA. HAdepolymerization was determined by chromatography. (B) Co-immunoprecipitation of CHC withKIAA1199. Cell lysates were immunoprecipitated with control IgG2aκ or anti-KIAA1199antibody, followed by immunoblotting (IMB) for KIAA1199 and CHC. Input is shown in the upperpanel. IP, immunoprecipitation. (C and D) Double immunostaining of KIAA1199 (green) andCHC (red) with anti-KIAA1199 and anti-CHC antibodies (C) or non-immune IgG (D) inKIAA1199/HEK293 cells. Inset shows high-power view of the boxed area. The plasma andnuclear membranes are shown by dotted lines. Arrows, KIAA1199 positive signals; N, nucleus.Scale bars, 5 mm. (E) KIAA1199/HEK293 cells after incubation with biotin-labeled HA, followedby reaction with streptavidin conjugated to Alexa-Fluor 488. Arrows, HA-positive structures; N,nucleus. Scale bars, 5 mm. (F) HA localization in KIAA1199/HEK293 cells incubated with biotin-labeled HA that had been digested with Streptomyces hyaluronidase. N, nucleus. Scale bar, 5 mm.

解に与える影響を調べた.モネンシン(受容体リサイクリングの阻害剤),NH4Cl(エンド

ソーム-リソソーム内のアルカリ化剤),バフィロマイシン A1(液胞型プロトン ATPase の

阻害剤),Dynasore(エンドサイトーシスおよびベシクル形成に関わる GTP 結合タンパク

質ダイナミンの阻害剤)は KIAA1199/HEK293 細胞の HA 分解を低下させたが,ノコダゾ

ール(微小管重合阻害と初期エンドソームから後期エンドソームへの輸送阻害剤)はその

分解を低下させなかった(Fig. 2-6A,Scheme 2).これらの結果から,HA はエンドソーム

とリソソームの融合前の酸性区画,すなわちクラスリン被覆小胞もしくは初期エンドソー

ムで分解され,リサイクリング経路により細胞外に放出されると考えられた.さらに,抗

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KIAA1199 抗体による免疫沈降実験では,CHC は KIAA1199 と共沈し(Fig. 2-6B),

KIAA1199/HEK293 細胞を用いた KIAA1199 と CHC の二重染色では,両分子のシグナル

は原形質膜付近のベシクルに観察され,いくつかのベシクルで KIAA1199 と CHC が近接

していることを見出した(Fig. 2-6C, D).また,KIAA1199/HEK293 細胞に添加したビオ

チン標識高分子 HA は,共焦点顕微鏡観察により,原形質膜付近のベシクルに認められ,

そのシグナルは HA を Streptomyces hyaluronidase で前もって消化した場合には認められ

なかった(Fig. 2-6E, F).一方,KIAA1199/HEK293 細胞に添加した外因性[3H]HA は,そ

の大部分が培養上清に検出され,細胞内および細胞表面への蓄積は認めらなかった(Table 2-1 ). 加 え て , [3H]HA は

KIAA1199/HEK293 細胞の培養

上清とインキュベートしても分解

されなかった(結果省略).これら

の結果から,KIAA1199 を介した

HA 分解は,素早いベシクルエン

ドサイトーシスとリサイクリング

経路を介し,HA 分解産物の細胞

内の蓄積や,リソソームにおける

分解は関与しないと考えられた.

2-3-4 KIAA1199 の細胞内局在制御における N 末端 30 アミノ酸の役割

KIAA1199 の N 末端 30 アミノ酸はシグナル配列と予想されている(Fig. 2-1)28).

KIAA1199 の細胞内局在制御における N 末端 30 アミノ酸の機能を調べるため,C 末端に

V5 タグを有する全長 KIAA1199(KIAA1199-V5)と,その N 末端 30 アミノ酸を欠失した

KIAA1199-V5(KIAA1199(∆30aa)-V5)を,それぞれ HEK293 細胞で発現させた(Fig. 2-7A).

抗 KIAA1199 抗体を用いたウェスタンブロット法の解析により,KIAA1199-V5 は 160 kDa付近に検出されたのに対し,KIAA1199(∆30aa)-V5 はそれより 10 kDa 程度小さい位置に検

出された(Fig. 2-7B).同様の結果が,抗 V5 抗体を用いたウェスタンブロット法でも得ら

れたことから,KIAA1199 の C 末端はその成熟過程でプロセシングを受けないと考えられ

Table 2-1. Distribution of [3H]HA in extracellular, cell surface-associated and intracellularcompartments after addition to KIAA1199/HEK293 and control HEK293 cells.

[3H]HA was incubated with KIAA1199/HEK293 and control HEK293 cells for 1, 6 or 24 h, andradioactivity in the extracellular, cell surface-associated and intracellular fractions was counted.Recovery is expressed as a percentage of the total radioactivity. Values represent mean ± SD (n=3).

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た(Fig. 2-7B).次に,KIAA1199-V5 および KIAA1199(∆30aa)-V5 発現細胞の HA 分解能

を調べたところ,KIAA1199-V5 発現細胞は HA を分解したのに対し,KIAA1199(∆30aa)-V5発現細胞は HA を全く分解しなかった(Fig. 2-7C).また,KIAA1199-V5 発現細胞より単

離した KIAA1199-V5 の N 末端アミノ酸配列は T31VAAGCPDQS であり,成熟した

KIAA1199 は,N 末端の 30 番目のセリンと 31 番目のスレオニンの間で切断されることが

示された(Fig. 2-7D).これらの結果から,HA 分解活性には全長 KIAA1199 cDNA の発現

が必要であり,KIAA1199 タンパク質の成熟の過程において N 末端 30 アミノ酸は切断され

ると考えられた.

また,KIAA1199 は N 型糖鎖修飾されることが予想されているため,N-グリカナーゼお

よび Endo H を用いて,KIAA1199-V5 および KIAA1199(∆30aa)-V5 が糖鎖修飾を受けて

いるか検討した.脱糖鎖処理後の KIAA1199 の分子量変化を,抗 KIAA199 抗体を用いた

ウェスタンブロット法により解析したところ,KIAA1199-V5 は分子量が低下したことから,

糖鎖修飾を受けていると考えられた.一方,KIAA1199(∆30aa)-V5 は分子量に変化が認め

られず,糖鎖修飾を受けないと考えられた(Fig. 2-8A).次に免疫細胞染色にて,

Fig. 2-7. HA depolymerization by HEK293 cells expressing KIAA1199-V5 andKIAA1199(∆30aa)-V5. (A) A schematic diagram showing constructs of KIAA1199-V5 andKIAA1199(∆30aa)-V5 used for transfection. V5, C-terminal V5-epitope tag. Molecular weights ofSS and V5 tag are about 3.2 kDa and 3 kDa, respectively. (B) HEK293 cells were transientlytransfected with either an empty vector (Mock) or a vector containing KIAA1199-V5 orKIAA1199(∆30aa)-V5 cDNA. The expression of KIAA1199-V5 and KIAA1199(∆30aa)-V5proteins was assessed by immunoblotting using anti-KIAA1199 and V5 monoclonal antibodies.GAPDH, a loading control. (C) Mock, KIAA1199-V5 and KIAA1199(∆30aa)-V5 transfectantswere incubated with [3H]HA for 24 h, and HA depolymerization was then examined bychromatography on a Sepharose CL-2B column. Dotted lines indicate [3H]HA without incubation.(D) N-terminal amino acid sequence of KIAA1199. The signal sequence cleavage site is shown byan arrow, and the actual N-terminal protein sequence obtained is underlined.

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KIAA1199-V5 および KIAA1199(∆30aa)-V5 の細胞内局在を調べたところ,KIAA1199-V5は原形質膜付近のベシクル以外に,PDI(小胞体マーカー)(Fig. 2-8B)や GM130(ゴル

ジマーカー)(Fig. 2-8C)と一部共局在していたのに対し,KIAA1199(∆30aa)-V5 はどちら

のオルガネラマーカーとも共局在は認められず,サイトゾルに検出された(Fig.2-8B, C).

2-3-5 マウス Kiaa1199 ホモログ遺伝子(mKiaa1199)の機能解析

mKiaa1199 はヒト KIAA1199 とアミノ酸配列で 91%の相同性を示し,高分子多糖の加

水分解に関与すると考えられている 4 つの PbH1 ドメインは両者で完全に保存されている

Fig. 2-8. Deglycosylation and cellular localization of KIAA1199-V5 andKIAA1199(∆30aa)-V5. (A) Deglycosylation of KIAA1199. The lysates of KIAA1199-V5and KIAA1199(∆30aa)-V5 transfectants were treated with N-glycanase or Endo H, and thensubjected to immunoblotting with anti-KIAA1199 antibody. (B-C) Double immunostainingof KIAA1199-V5 or KIAA1199(∆30aa)-V5 (green) and ER (B) or Golgi (C) markers (red)with anti-KIAA1199 and anti-PDI or anti-GM130 antibodies in HEK293 cells expressingKIAA1199-V5 or KIAA1199(∆30aa)-V5. N: nucleus; Scale bar: 5 mm.

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(Fig. 2-9)27, 28).mKiaa1199 の全長 cDNA を HEK293 細胞に導入した結果,ウェスタン

ブロット法では mKiaa1199 は KIAA1199 と同じ位置にバンドが認められ,mKiaa1199 発

mouse 1 : MRASGRHDVS LKIVLATGCL LLANFSGASS AVATECPDQS PELQPWSPGH NRDYQVHIGH human 1 : MGAAGRQDFL FKAMLTISWL TLTCFPGATS TVAAGCPDQS PELQPWNPGH DQDHHVHIGQ mouse 61 : GRKLLLTSSA TVHSITISGG GKLVIKDHHE HIVLRTRYIL IDDGGELHAG SALCPFEGNF human 61 : GKTLLLTSSA TVYSIHISEG GKLVIKDHDE PIVLRTRHIL IDNGGELHAG SALCPFQGNF mouse 121 : SIVLYGRADE NILPDPYYGL KYIGVDKGGT LELHGQKKLS WTFLNKTLHP GGMQEGGYFF human 121 : TIILYGRADE GIQPDPYYGL KYIGVGKGGA LELHGQKKLS WTFLNKTLHP GGMAEGGYFF mouse 181 : ERSWGHRGVI VHVIDAKLGT VVHSDRFDTY RSKKESERLV QYLNAVPDGR ILSVAVNDEG human 181 : ERSWGHRGVI VHVIDPKSGT VIHSDRFDTY RSKKESERLV QYLNAVPDGR ILSVAVNDEG mouse 241 : SRNLDDTARK AMTKLGSKHF LHLGFRHPWS FITVKGNPSS SVEDHIEYHG HKGSAAARVF human 241 : SRNLDDMARK AMTKLGSKHF LHLGFRHPWS FLTVKGNPSS SVEDHIEYHG HRGSAAARVF mouse 301 : KLFQTEHGEH FNVSSSSEWV QDVEWTEWFD HDKVPQSKGG EKISDLRAAY PGKICNRPID human 301 : KLFQTEHGEY FNVSLSSEWV QDVEWTEWFD HDKVSQTKGG EKISDLWKAH PGKICNRPID mouse 361 : IQATTMDGVA LSTEVVYKNG QDYRFACYTR GRACRSYRVR FLCGKPVRPK LTVSIDTNVN human 361 : IQATTMDGVN LSTEVVYKKG QDYRFACYDR GRACRSYRVR FLCGKPVRPK LTVTIDTNVN mouse 421 : STILSLVDNV RSWRPGDTLV VASTDYSMYQ AEEFRVLPCK ACTSTQVKVA GKPQYLHIGE human 421 : STILNLEDNV QSWKPGDTLV IASTDYSMYQ AEEFQVLPCR SCAPNQVKVA GKPMYLHIGE mouse 481 : EIDGVDMRAE VGLLTRNIVV MGEMEDRCYP YTNHICDFFD FDTFGGHIKF ALGFKAAHLE human 481 : EIDGVDMRAE VGLLSRNIIV MGEMEDKCYP YRNHICNFFD FDTFGGHIKF ALGFKAAHLE mouse 541 : GVELKYMGQQ LVGQYPIHFH LAGDLDEQGG YDPPTYIRDL SIHHTFSRCV TVHGSNGLLI human 541 : GTELKHMGQQ LVGQYPIHFH LAGDVDERGG YDPPTYIRDL SIHHTFSRCV TVHGSNGLLI mouse 601 : KDVVGYNSLG HCFFTEDGPE ERNTFDHCLG LLVKSGTLLP SDRDSRMCKV ITEDSYPGYI human 601 : KDVVGYNSLG HCFFTEDGPE ERNTFDHCLG LLVKSGTLLP SDRDSKMCKM ITEDSYPGYI mouse 661 : PKPRQDCNAV STFWMANPNN NLINCAAAGS EETGFWFIFH HVPTGPSVGM YSPGYSEHIP human 661 : PKPRQDCNAV STFWMANPNN NLINCAAAGS EETGFWFIFH HVPTGPSVGM YSPGYSEHIP mouse 721 : LGKFYNNRAH SNYRAGMIID NGVKTTEASA KDKRPFLSII SARYSPHQDA DPLKPREPAI human 721 : LGKFYNNRAH SNYRAGMIID NGVKTTEASA KDKRPFLSII SARYSPHQDA DPLKPREPAI mouse 781 : IRHFTAYKNQ DHGAWLRGGD VWLDSCRFAD NGIGLTLASG GTFPYDDGSK QEIKNSLFVG human 781 : IRHFIAYKNQ DHGAWLRGGD VWLDSCRFAD NGIGLTLASG GTFPYDDGSK QEIKNSLFVG mouse 841 : ESGNVGTEMM DNRIWGPGGL DHSGRTLPIG QNFPIRGIQF YDGPINIQNC TFRKFAALEG human 841 : ESGNVGTEMM DNRIWGPGGL DHSGRTLPIG QNFPIRGIQL YDGPINIQNC TFRKFVALEG mouse 901 : RHTSALAFRL NNAWQSCPHN NVTNIAFEDV PITSRVFFGE PGPWFNQLDM DGDKTSVFHD human 901 : RHTSALAFRL NNAWQSCPHN NVTGIAFEDV PITSRVFFGE PGPWFNQLDM DGDKTSVFHD mouse 961 : LDGSVSEYPG SYLTKDDNWL VRHPDCINVP DWRGAICSGR YAQMYIQAYK SSNLRMKIIK human 961 : VDGSVSEYPG SYLTKNDNWL VRHPDCINVP DWRGAICSGC YAQMYIQAYK TSNLRMKIIK mouse 1021 : NDFPSHPLYL EGALTRSTHY QQYQPVITLQ KGYTIHWDQT APAELAIWLI NFNKGDWIRV human 1021 : NDFPSHPLYL EGALTRSTHY QQYQPVVTLQ KGYTIHWDQT APAELAIWLI NFNKGDWIRV mouse 1081 : GLCYPRGTTF SILSDVHNRL LKQTSKTGTF VRTLQMDKVE QSYPGRSHYY WDEDSGLLFL human 1081 : GLCYPRGTTF SILSDVHNRL LKQTSKTGVF VRTLQMDKVE QSYPGRSHYY WDEDSGLLFL mouse 1141 : KLKAQNEREK FAFCSMKGCE RIKIKALLPR NAGISDCTAT AYPRFTERAI VDVPMPRKLF human 1141 : KLKAQNEREK FAFCSMKGCE RIKIKALIPK NAGVSDCTAT AYPKFTERAV VDVPMPKKLF mouse 1201 : GAQLKTKDHF LEVKMESSRQ HFFHLRNDFA YIEVDGRRYP CSEDGIQIVV IDGSRGHVVS human 1201 : GSQLKTKDHF LEVKMESSKQ HFFHLWNDFA YIEVDGKKYP SSEDGIQVVV IDGNQGRVVS mouse 1261 : HGSFRNAILQ GIPWQLFNYV AAIPDNSIVL MASKGRYITR GPWTRVLEKL GADKGLKLKE human 1261 : HTSFRNSILQ GIPWQLFNYV ATIPDNSIVL MASKGRYVSR GPWTRVLEKL GADRGLKLKE mouse 1321 : KMAFVGFKGS FRPIWVTLET EDHKAKIFQV VPIPVVRKKK L human 1321 : QMAFVGFKGS FRPIWVTLDT EDHKAKIFQV VPIPVVKKKK L

Fig. 2-9. Sequence alignment of the mouse and human KIAA1199 proteins. Identical amino acidsand conserved Arg187 residue in mKiaa1199 and KIAA1199 are shaded in yellow and red,respectively. Two GG domains and one G8 domain found in KIAA1199 are underlined by solid anddashed lines, respectively. Four regions within boxes denote PbH1 domains (shaded in green). Thealignment was generated by GENETYX (ver. 9).

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現細胞は,ヒト KIAA1199 発現細胞と同様,[3H]HA を 10-100 kDa の中間サイズに分解し

た(Fig. 2-10A).また,mKiaa1199 発現細胞により分解された HA の非還元末端糖はグ

ルクロン酸(GlcA)だったことから(結果省略),HA の切断部位はβ-エンド-N-アセチルグ

ルコサミン結合であると考えられた. 次に,mKiaa1199 安定発現細胞(mKiaa1199/HEK293 細胞)を樹立し,HA 分解にお

ける mKiaa1199 の機能を調べた.まずは,mKiaa1199 タンパク質の GAG への結合活性

を調べたところ,mKiaa1199 は HA-H2(1,452 kDa),HA-M2(1,039 kDa),HA-L2(219 kDa),HA-S2(52 kDa),HA-T2(28 kDa)と結合し,他の GAG とは結合しないことが

示された(Fig. 2-10B, C).また,mKiaa1199/HEK293 細胞は培養系で,FA-HA(H1(1,760

Fig. 2-10 HA depolymerization by mKiaa1199 transfectants, HA-specific binding ofrecombinant mKiaa1199 protein, and peak size of the minimum degradates. (A) HEK293 cellswere transiently transfected with empty vector (Mock) or vector containing KIAA1199 or mKiaa1199cDNA. The expression of KIAA1199 and mKiaa1199 proteins in each transfectant was assessed byimmunoblotting using anti-KIAA1199 monoclonal antibody (Inset). Mock and mKiaa1199transfectants were incubated with [3H]HA for 48 h, and HA depolymerization was then examined bysize exclusion chromatography. GAPDH, a loading control. (B) Binding assay of mKiaa1199 proteinto different GAGs. Lysates of mKiaa1199/HEK293 cells were incubated with H2O (negative control)or unlabeled GAGs including HA (HA-H2), CSA, CSC, CSD, DS, Hep and HS. The samples wereprecipitated with CPC, and analyzed by immunoblotting with anti-KIAA1199 antibody. (C) Bindingof mKiaa1199 to HA species with different molecular sizes. The lysates were incubated with H2O(negative control) or HA with different sizes including HA-H2, HA-M2, HA-L2, HA-S2 and HA-T2,and then subjected to immunoblotting with anti-KIAA1199 antibody. (D) HPLC pattern of minimumdegradates depolymerized from FA-HA H1 by mKiaa1199/HEK293 (chain line) andKIAA1199/HEK293 (dotted line) cells. The solid line indicates FA-HA H1 without incubation. (E)Peak sizes of minimum fragments from FA-HA H1 depolymerized by mKiaa1199/HEK293 andKIAA1199/HEK293 cells. Molecular weight of the fragments was determined using the followingFA-HA species as a standard: FA-HA H1, M1, L1, S1, T1, U1 and 3K.

0

2

4

6

8

10

1 5 10 15 20Fraction

A

Moc

k

mK

iaa1

199

GAPDH

KIAA1199

MockmKiaa1199 cDNA

[3H]HA

x 10

3dp

m/m

l

KIA

A11

99

100 kDa 10 kDa

> 1,000 kDa

HA

-H2

CS

A

CS

C

CS

D

DS

H2O

Hep

HS

Lysa

te

B

HA

-H2

HA

-M2

HA

-L2

HA

-S2

HA

-T2

H2O

Lysa

te

C

D E

3

4

5

6

7

5 10 15 20 25

Log

mol

ecul

ar w

eigh

t

Elution time (min)

mKiaa1199

(M1)(H1)

(S1)(L1)

(T1)(U1)

(3K)KIAA1199

Elution time (min)1 5 10 15 20 25

Cou

nt

0.5

1

1.5

2

2.5

30

3 FA-HA H1mKiaa1199KIAA1199

100 kDa

> 1,000 kDa

10 kDa2.5 kDa

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kDa),M1(907 kDa),L1(197 kDa),S1(56 kDa),T1(28 kDa),U1(9.8 kDa))を分解したが,他の FA-GAG(FA-CSA,FA-CSC,FA-CSD,FA-DS,FA-Hep,FA-HS)は分解しなかった(結果省略).これらの結果は,ヒト KIAA1199 の結果とよく一致した.

一方,mKiaa1199/HEK293 細胞の長期培養で得られる最小 HA 分解産物は約 4.1 kDa だっ

たのに対し,ヒトKIAA1199/HEK293細胞の長期培養で得られる最小HA 分解産物は約 3.3 kDa だった(Fig. 2-10D, E).また,mKiaa1199/HEK293 細胞で得られた HA 分解産物の

分子量プロファイルには,約 4.1 kDa のメインのピークに加え,2 kDa 付近にも小さなピ

ークが認められた(Fig. 2-10E). 次に,mKiaa1199 を介した HA 分解への,クラスリンおよびカベオラ経路の関与を調べ

た.mKiaa1199/HEK293 細胞において CHC および AP-2 の発現を siRNA により抑制した

ところ,HA 分解は顕著に低下した(Fig. 2-11A, B).一方,カベオリン-1 の発現抑制は

HA 分解に影響を与えなかった(Fig. 2-11C).また,mKiaa1199/HEK293 細胞を用いた

mKiaa1199 と CHC の二重染色では,両分子のシグナルは原形質膜付近のベシクルに認め

Fig. 2-11 Clathrin-specific HA depolymerization and cellular localization of mKiaa1199 inmKiaa1199/HEK293 cells. (A-C) Changes in HA depolymerization in mKiaa1199/HEK293 cells byknockdown of CHC (A), α-adaptin (B) or caveolin-1 (C) with siRNAs. As for controls, cells weretransfected with control non-silencing siRNA. After incubation of the cells with [3H]HA for 24 h, HAfragments in the media were analyzed by size exclusion chromatography. Efficiency of the knockdownwas evaluated by immunoblotting (Insets). Representative data from two siRNAs are shown. (D) Doubleimmunostaining of mKiaa1199 (green) and CHC (red) with anti-KIAA1199 and anti-CHC antibodies inmKiaa1199/HEK293 cells. The inset shows a high-power view of the boxed area. Dotted lines show theplasma membrane. N, nucleus. Scale bar, 5 mm. (E) HA localization in mKiaa1199/HEK293 cells afterincubation with biotin-labeled HA, followed by reaction with streptavidin conjugated to Alexa-Fluor 488.Arrows, HA-positive structures; N, nucleus. Scale bar, 5 mm.

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られ,いくつかのベシクルでは mKiaa1199 と CHC が近接している様子が観察された(Fig. 2-11D).さらに,mKiaa1199/HEK293 細胞に添加したビオチン標識高分子 HA は,共焦

点顕微鏡観察により,原形質膜付近のベシクルに認められた(Fig. 2-11E).一方,このシ

グナルは HA を Streptomyces hyaluronidase で予め消化した場合には認められなかった

(結果省略).以上の結果より,mKiaa1199/HEK293 細胞は,ヒト KIAA1199/HEK293 細

胞と同様,クラスリン経路を介して細胞内に HA を取り込み,原形質膜付近のベシクルに

て HA を分解する可能性が示唆された. 第 4 節:考察 今回の研究において,KIAA1199/HEK293 細胞は,培養系で HA を特異的に分解する活

性を有しており,一旦細胞内に取り込まれた HA は,分解を受けた後,速やかに細胞外に

放出されると考えられた.また,KIAA1199 タンパク質は HA 特異的な結合活性を有して

いた.KIAA1199 のアミノ酸配列には CD44,HARE,RHAMM などの HA 結合タンパク

質に認められる HA-リンクモジュール 25)や B(X7)B HA-結合モチーフ 26)が認められないこ

とから,KIAA1199 はユニークな配列を持った新規な HA 結合タンパク質であると考えら

れた.さらに,KIAA1199/HEK293 細胞の HA 分解にはクラスリン経路が関与し,抗

KIAA1199抗体を用いた免疫沈降実験では,KIAA1199はCHCと共沈することを見出した.

これらの結果から,HA 分解における KIAA1199 の機能として,クラスリン被覆ピットに

おいて HA を選択的に取り込む受容体である可能性が推測された.しかしながら,抗

KIAA1199 抗体を用いた細胞免疫染色では,KIAA1199 は KIAA1199/HEK293 細胞の原形

質膜上ではなく,原形質膜直下のベシクルに認められたことから,KIAA1199 がクラスリ

ン被覆ピットにおいて HA の内化に直接関わる可能性はむしろ低いと考えられた.一方,

HA 分解の場の同定を目的とし,KIAA1199/HEK293 細胞を各種阻害剤で処理した結果,

HA はクラスリン被覆小胞もしくは初期エンドソームのような酸性区画にて分解されると

考えられた.KIAA1199 は高分子多糖の加水分解への関与が考えられている PbH1 ドメイ

ンを有しており 28),原形質膜直下のベシクルに認められたことから,そのベシクルにおけ

る HA 分解に直接関わる可能性が考えられた.しかし, KIAA1199/HEK293 細胞の溶出液

には HA 分解活性が検出されず,またコムギ胚芽無細胞タンパク質合成法により調製した

リコンビナント KIAA1199 にも HA 分解活性は認められなかった(結果省略).これらの結

果から,KIAA1199 を介した HA 分解活性には,細胞内の酸性でかつ動的な微小環境や,

他の分子との結合による KIAA1199 の立体構造の変化が必要であり,細胞溶出液ではこれ

らの環境が失われる可能性が考えられた.今後,これらの条件を整えることで,KIAA1199に HA 分解活性を見出せる可能性がある一方,KIAA1199 が未知のヒアルロニダーゼのア

ダプター分子である可能性も否定できない.また今回,KIAA1199 を介した HA 分解は,

エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ様式であることを示した.これまでにフリーラジ

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カルはHAをランダムに分解し,種々の大きさのHAを産生することが知られているが 34),

KIAA1199 を介した HA 分解に,フリーラジカルの関与も含めた検討も必要である. KIAA1199 の N 末端 30 アミノ酸はシグナル配列と予想されていることから 28),

KIAA1199 の細胞内局在制御における N 末端 30 アミノ酸の役割について調べた.まずは全

長 KIAA1199(KIAA1199-V5)あるいは予め N 末端 30 アミノ酸を欠失した KIAA1199(KIAA1199(∆30aa)-V5)を HEK293 細胞で発現させたところ,KIAA1199(∆30aa)-V5 発

現細胞は HA を全く分解せず,HA 分解活性には全長 KIAA1199 の発現が必要であった.

一方,機能的に成熟した KIAA1199 は,N 末端 30 番目のセリンと 31 番目のスレオニンの

間 で 切 断 さ れ て い た . 次 に , 脱 糖 鎖 後 の 分 子 量 変 化 に て KIAA1199-V5 と

KIAA1199(∆30aa)-V5 の N 型糖鎖修飾の有無を検討した結果,KIAA1199-V5 は修飾を受

けるが,KIAA1199(∆30aa)-V5 は修飾を受けないと考えられた.N 型糖鎖は小胞体にて付

与されることから,KIAA1199(∆30aa)-V5 は正常な小胞体への移行,あるいは小胞体での

正常な折り畳みがなされず,小胞

体以降の輸送も正常に行われな

いことが推測された.そこで,免

疫細胞染色にて KIAA1199-V5 お

よび KIAA1199(∆30aa)-V5 の細

胞 内 局 在 を 調 べ た 結 果 ,

KIAA1199-V5 は原形質膜付近の

ベシクルに加え,小胞体やゴルジ

体にも一部局在していたのに対

し,KIAA1199(∆30aa)-V5 は,正

常な細胞内局在性を失い,サイト

ゾルに認められた.これらの結果から,KIAA1199 の N 末端 30 アミノ酸はシグナル配列と

して機能し,KIAA1199 は翻訳時に小胞体に移行後,N 末端 30 アミノ酸の切断と N 型糖

鎖修飾を受け,ゴルジ体を経由し,成熟したタンパク質として HA 分解に必須な原形質膜

近傍のベシクルへ輸送されると考えられた(Scheme 3). アミノ酸配列でヒト KIAA1199 と 91%の相同性を示す mKiaa1199 は,ヒト KIAA1199

と同様,HA 特異的な結合タンパク質であり,mKiaa1199 を発現させた細胞は,クラスリ

ン経路依存的で,エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ様式の HA 分解能を有すること

を示した.これらの結果より,mKiaa1199 はヒト KIAA1199 と基本的な機能を共有してい

たことから,mKiaa1199 のノックアウトマウスやトランスジェニックマウスは,生体内で

の HA 分解における KIAA1199 の役割を明らかにする上で有用なツールになり得ると期待

された. 本章では,KIAA1199 は HA 分解に関わる新規な HA 結合タンパク質であることを示し

た.KIAA1199 を介した HA 分解は,クラスリン経路依存的で,エンド-β-N-アセチルグル

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コサミニダーゼ様式であった.また,KIAA1199 の N 末端 30 アミノ酸は,KIAA1199 の

細胞内局在と HA 分解活性において重要な役割を担うシグナル配列であることを示した.

加えて,mKiaa1199 は,ヒト KIAA1199 と同等の性質を有していることを示した.

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第3章 KIAA1199 の疾病への関わり 第1節:序論

HA は関節の滑液に高濃度に含まれており,関節が滑らかに動くための潤滑剤や,関節に

加わる衝撃の吸収剤としての働きが予想されている.一方,関節炎おいては HA 分解が亢

進し,変形性関節炎(OA)や関節リウマチ(RA)患者由来の滑液では HA の平均分子量

が低下し,それが関節の潤滑性の低下や,滑膜の炎症度と逆相関があることなどが報告さ

れている 3-6).しかしながら,これまで関節における HA 分解機構は十分に理解されていな

い.また医薬品分野において,高分子 HA の関節内注射薬が OA や RA の治療に利用され

ているが,HA の分解による効果の持続性の問題から,定期的な投与を余儀なくされている.

そのため,HA の関節内での分解を制御することができれば,持続性の問題を解決でき,患

者の QOL(quality of life)向上に寄与すると考えられる.そこで本研究では,滑液の HA代謝を担う滑膜細胞に着目し,関節炎患者の滑膜における過剰な HA 分解への KIAA1199の関与について検討した.

一方,KIAA1199 は内耳で高発現し,複数の非症候群性難聴家系にアミノ酸置換を伴う

突然変異(ミスセンス突然変異)が報告されていることから,難聴への関わりが考えられ

てきた 24).しかし,これまで KIAA1199 と難聴との直接的な関わりについては報告がない.

本研究では,難聴患者における KIAA1199 のミスセンス突然変異が HA 分解活性に及ぼす

影響についても検討した. 第2節:実験材料および実験方法 3-2-1 細胞培養 健常人(50 歳男性),変形性関節症患者(OA:67 歳女性,61 歳男性,77 歳男性)およ

び関節リウマチ患者(RA:40 歳女性,55 歳女性,58 歳女性)由来ヒト滑膜細胞は Toyobo社より購入した.滑膜細胞は 10%(v/v)非働化 FBS,100 units/ml ペニシリンおよび 100 mg/ml ストレプトマイシンを含有する DMEM 培地を用いて培養した. 3-2-2 培養系 [3H]HA 分解活性の評価法

[3H]標識高分子 HA の調製および細胞培養系 [3H]HA 分解活性の評価は,第1章で記載

した方法に準じて実施した. 3-2-3 抗体 ラット抗 KIAA1199 モノクローナル抗体は第1章で記載した方法に従い調製した.抗

GAPDH 抗体およびコントロールラット IgG2aκはそれぞれ Santa Cruz Biotechnology 社

および SouthernBiotech 社より購入した.

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3-2-4 RNA 干渉法およびウェスタン解析法 第1章で記載した方法に準じて実施した.

3-2-5 関節滑膜試料 関節滑膜組織は OA(n=10)および RA(n=8)患者より膝関節形成術時に採取した.非

炎症性関節疾患滑膜組織(n=3)は前十字靭帯の再建手術から約 1 年後の関節鏡検査時に採

取した.OA と RA は The American College of Rheumatology35, 36)の基準に従い診断され

た.滑膜組織の研究用途としての利用に関し,慶應義塾大学病院および㈱カネボウ化粧品

の倫理審査に従い,患者よりインフォームドコンセントを得た. 3-2-6 免疫組織染色法

KIAA1199 の検出にはホルマリン固定した RA 患者由来滑膜組織のパラフィン切片を用

いて実施した.発色は Vector® DAB(茶色; Vector Laboratories 社製)で行い,その他は

第1章で記載した方法に準じて実施した. 3-2-7 in situ ハイブリダイゼーション法

KIAA1199 の検出にはホルマリン固定した RA 患者由来滑膜組織のパラフィン切片を用

い,第1章で記載した方法に準じて実施した. 3-2-8 ミスセンス突然変異型 KIAA1199 遺伝子発現プラスミドの構築

4 種類のミスセンス突然変異型 KIAA1199(R187C,R187H,H783R,V1109I)24)の cDNAは Takara Bio 社にて化学合成した.発現プラスミドは,これらの cDNA をそれぞれ

pcDNA3.1(-)プラスミド(Invitrogen 社製)に挿入して構築した.組換え DNA 実験は㈱カ

ネボウ化粧品の倫理審査で承認された. 3-2-9 統計処理 統計解析は SAS システムにより実施した.Dunnett’s multiple comparison test でコン

トロールとの有意性を解析した.P 値 0.05 未満を統計的に有意とした. 第3節:実験結果 3-3-1 OA および RA 患者由来の滑膜細胞と滑膜組織における KIAA1199 の発現亢

進 関節炎の滑膜における過剰な HA 分解への KIAA1199 の関わりを調べるため,培養ヒト

滑膜細胞の HA 分解活性および KIAA1199 の発現を調べた.Fig. 3-1A に示した通り,健常

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人由来細胞に比べ,OA および RA 患者由来細胞の HA 分解活性は高く,それら活性は

Fig. 3-1. KIAA1199-mediated HA degradation in OA and RA synovial fibroblasts, andexpression of KIAA1199 by synovial lining and sublining cells in the RA patients. (A)Synovial fibroblasts from a normal subject (n=1), OA and RA patients (n=3 each) weretreated with control non-silencing siRNA or siRNAs for KIAA1199, and incubated with[3H]HA for 48 h. HA depolymerization was analyzed by size exclusion chromatography.Protein expression of KIAA1199 was assessed by immunoblotting (Insets). Representativedata of three OA (OA-2) and RA synovial fibroblasts (RA-3) are shown. Representative datafrom two siRNAs are shown. (B) The expression of KIAA1199 mRNA (upper panel) andprotein (lower panel) in cultured normal (n=1), OA (n=3) and RA (n=3) synovial fibroblastswas analyzed by real-time PCR and immunoblotting. GAPDH, loading control. (C) Theexpression levels of KIAA1199 in synovial tissues from the patients with non-inflammatoryjoint disease (n=3), OA (n=10) or RA (n=8) were determined by real-time PCR. Data arepresented as a scatter blot with mean ± SD. Statistical analysis was done by the Dunnett test.(D and E) Identification of cells expressing KIAA1199 in RA synovial tissue. The expressionof KIAA1199 mRNA and protein was determined by in situ hybridization using anti-sense(left) and sense (right) RNA probes (D) and by immunohistochemistry with anti-KIAA1199antibody (Ab) (left) and control rat IgG2aκ (right) (E). Arrows, KIAA1199-expressing cells;Scale bars, 50 mm. Representative data of eight subjects are shown.

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KIAA1199 mRNA およびタンパク質の発現レベルとよく一致した(Fig. 3-1B).また,

siRNA による KIAA1199 の発現抑制により,いずれの細胞の HA 分解活性もほぼ完全に消

失した(Fig. 3-1A).これらのことから,KIAA1199 は滑膜細胞の HA 分解においても必須

の因子であり,その発現亢進が OA および RA 細胞における HA 分解活性の亢進に寄与し

ていることが考えられた. 次に,リアルタイム PCR 解析により,KIAA1199 遺伝子の発現は非炎症性関節疾患滑膜

組織に比べ,OA 滑膜組織で上昇傾向にあり(P=0.088),RA 滑膜組織で有意に上昇(P<0.05)していることを示した(Fig. 3-1C).さらに,in situ ハイブリダイゼーション法および免疫

組織染色法により,KIAA1199 は RA 滑膜組織の主に lining 細胞といくつかの sublining細胞に発現していることを見出し,そのシグナルはネガティブコントロールであるセンス

プローブや non-immune IgG では検出されないことを確認した(Fig. 3-1D, E). 3-3-2 難聴患者で見出された KIAA1199 のミスセンス突然変異が HA 分解活性に与

える影響 KIAA1199 において難聴との関連性が指摘されている 4 種類のミスセンス突然変異 24)が

HA 分解活性に与える影響を調べた.4 種の変異型 KIAA1199(R187C,R187H,H783R,

V1109I)と野生型 KIAA1199 cDNA を作製し,HEK293 細胞で一過的に発現させた.その

結果,いずれの変異型タンパク質も野生型タンパク質と同等のレベルで発現が認められた

(Fig.3-2).一方,R187C および R187H 変異型を発現する細胞の HA 分解は,野生型,

H783RおよびV1109I変異型を発現する細胞のHA分解より著しく低下していた(Fig.3-2).

第 4 節:考察 今回の研究において,siRNA 依存的な KIAA1199 の発現抑制により,健常人,OA およ

び RA 患者由来のいずれの滑膜細胞の HA 分解もほぼ完全に消失することを見出した.こ

Fig. 3-2. KIAA1199-dependent depolymerization by cells expressing wild-type ormutant KIAA1199 proteins. HEK293 cells were transfected with vectors containingcDNAs of wild-type (WT) KIAA1199 or four missense mutations (R187C, R187H,H783R and V1109I), and incubated with [3H]HA for 24 h. HA depolymerization wasexamined by size exclusion chromatography. Expression of the WT and mutant forms ofKIAA1199 was confirmed by immunoblotting with anti-KIAA1199 antibody (IMB).

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れらの結果から,KIAA1199 は皮膚線維芽細胞だけでなく,滑膜細胞の HA 分解にも必須

の分子であると考えられた.また,健常人由来培養滑膜細胞に比べ,OA および RA 患者由

来滑膜細胞において,KIAA1199の発現がmRNAおよびタンパク質レベルで上昇しており,

同時に HA 分解活性も上昇していることを見出した.皮膚線維芽細胞において,KIAA1199の発現量が HA 分解速度を決定することが示されたことから,OA や RA 滑膜細胞における

KIAA1199 発現量の上昇が,これらの細胞における HA 分解活性の亢進に寄与していると

考えられた.さらに,OA および RA 患者由来の滑膜組織における KIAA1199 遺伝子の発現

は,非炎症性関節疾患滑膜組織に比べて上昇しており,RA 患者の滑膜組織における

KIAA1199 発現細胞は主に滑液に接している lining 細胞であった.以上の結果から,関節

炎患者の滑膜細胞における KIAA1199 の発現亢進が,滑液における HA の過剰な分解に寄

与している可能性が考えられた.近年,乳ガン組織あるいは株化された乳ガン細胞におい

て KIAA1199 遺伝子の発現が亢進しており,その原因として KIAA1199 遺伝子の転写調節

領域における低メチル化が関与することが報告された 35).そのため,関節炎患者由来滑膜

細胞や滑膜組織における KIAA1199 の発現亢進にも,同様のメカニズムが関与しているか,

検討することは有用かもしれない.また,皮膚線維芽細胞と同様,OA および RA 患者由来

滑膜細胞における KIAA1199 遺伝子の発現は,ヒスタミン刺激により上昇した(結果省略).

これまでに関節炎患者の滑液においてヒスタミン濃度が上昇していることが報告されてお

り 36),関節炎患者の滑膜における過剰なヒスタミン刺激が KIAA1199 発現亢進の一因にな

っている可能性も考えられた. 難聴患者に見出された KIAA1199 のミスセンス突然変異(R187C および R187H)が,

HA 分解を著しく低下させた.これまでに,HA は細胞間の分子フィルターとして内耳に存

在し 37),KIAA1199 は内耳液の恒常性維持に重要な働きをする蝸牛管のラセン靱帯に強く

発現することが知られている 24).そのため,HA 分解の低下は電解質と水の静的平衡に影

響を与え,聴力を低下させている可能性が考えられた.また,KIAA1199 の ARG187は機能

が不明の GG ドメインに含まれていることから,GG ドメインの機能として HA 分解活性に

関与する可能性が示唆された. 本章では,KIAA1199 の疾病への関与を調べることを目的とし,KIAA1199 の発現亢進

が,OA および RA 滑膜の過剰な HA 分解に寄与している可能性を示した.また,難聴患者

で見出された KIAA1199 のミスセンス突然変異が,培養系における HA 分解活性を低下さ

せることを示した.

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総括 ヒアルロン酸(HA)は脊椎動物組織の細胞外マトリックスの主要な構成成分として広く

存在するグリコサミノグリカンである.皮膚には生体 HA の約 50%が存在し,その代謝半

減期は 1-1.5 日と言われている.一方,関節炎やガンなどの病態においては HA の分解が亢

進し,病態との関連性が報告されているが,HA 分解機構については未だ不明な点が多いの

が現状である. 本申請論文では,生理的状態あるいは病態における組織の HA 分解機構を明らかにする

ことを主眼として検討を進めた. 第1章では,正常ヒト皮膚線維芽細胞の HA 分解機構の解明に取り組んだ.皮膚線維芽

細胞は,培養系において外的に添加した HA を旺盛に分解した.しかし,その活性は細胞

溶出液では完全に消失することから,これまで HA 分解分解を担う分子の同定は困難であ

った.一方,ヒトには 6 つの HA 分解酵素(様)遺伝子が見出され,組織の HA 分解機構

として,CD44(HA 受容体)と 2 種類の HA 分解酵素(HYAL1 および HYAL2)が共同的

に働くというモデルが提唱された.しかしながら,皮膚線維芽細胞において HYAL1 遺伝子

の発現は認められず,また siRNA による CD44 や HYAL2 の発現抑制も HA 分解に影響を

与えなかったことから,皮膚線維芽細胞にはこれらの分子が関与しない,新規な HA 分解

機構が存在すると考えられた.そこで,HA 分解に関わる未知の分子を同定すべく,まずは

マイクロアレイ解析により,線維芽細胞の培養系 HA 分解活性と,その発現の挙動が一致

する遺伝子を包括的に抽出した.次に,得られた遺伝子について,siRNA 依存的に発現抑

制を行い,機能不明の難聴遺伝子として報告されていた KIAA1199 の発現抑制が,皮膚線

維芽細胞の HA 分解を顕著に抑制させることを見出した.さらに,培養系で HA を分解し

ない HEK(human embryonic kidney)293 細胞に KIAA1199 cDNA を導入したところ,

皮膚線維芽細胞と同様の HA 分解能を新たに獲得したことから,KIAA1199 こそが HA 分

解を担う新規な分子であると考えられた.さらに,KIAA1199 は正常ヒト皮膚真皮の線維

芽細胞で発現していたことから,皮膚の生理的な HA 分解に寄与していると考えられた. 第2章では,KIAA1199 分子の機能および KIAA1199 依存的 HA 分解機構の特性につい

て検討した.KIAA1199 安定発現 HEK293 細胞(KIAA1199/HEK293 細胞)は HA 特異的

な分解能を有しており,クラスリン経路依存的に高分子 HA を細胞内に取り込んだ後,ク

ラスリン被覆小胞もしくは初期エンドソームなどの酸性区画において,HA をエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ様式で分解し,分解産物(10-100 kDa)を細胞外に放出する

と考えられた(Scheme 4).また,KIAA1199 は HA と特異的な結合活性を有しており,

クラスリン重鎖と結合すると考えられたことから,KIAA1199 はクラスリン被覆ピットに

おいて,HA を細胞内に選択的に取り込む受容体として機能する可能性が考えられた.一方,

KIAA1199 の細胞内局在について検討した結果,KIAA1199 は小胞体やゴルジ体を経由し

た後,最終的に原形質膜ではなく,原形質膜近傍のベシクルへ輸送されると考えられた

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40

(Scheme 4).そのた

め,KIAA1199 が原形

質膜上においてHAの

取り込みに直接関わ

る可能性は低く,むし

ろ原形質膜近傍のベ

シクルにおいてHA分

解に関わる可能性が

推察された.しかしな

がら,KIAA1199/HEK293 細胞の溶出液に HA 分解活性は検出されず,またコムギ胚芽無

細胞タンパク質合成法により調製したリコンビナント KIAA1199 にも HA 分解活性は認め

られなかった.これらの結果より,KIAA1199 依存的 HA 分解活性には,細胞内の酸性で

かつ動的な微小環境に加え,他の分子との結合による KIAA1199 の立体構造の変化が必要

である可能性が考えられた.今後,KIAA1199 の機能を解明する上で,これらの条件を再

構築することが重要であり,とりわけ HA 分解活性に必要な KIAA1199 のパートナータン

パク質の同定が重要と考えられる.一方,KIAA1199 に HA 分解活性がない場合,KIAA1199は未知のヒアルロニダーゼのアダプター分子である可能性や,HA 分解にフリーラジカルが

関与する可能性が考えられる. 第3章では,KIAA1199 の疾病への関わりについて調べた.KIAA1199 は,皮膚線維芽

細胞と同様,培養滑膜細胞の HA 分解にも必須の分子であり,その発現は変形性関節炎(OA)

および関節リウマチ(RA)患者の滑膜細胞や滑膜組織において亢進していた.また,これ

までに非症候群性難聴家系で見出された KIAA1199 のミスセンス突然変異のうち,2 種類

のミスセンス突然変異(R187C および R187H)が HA 分解を著しく低下させた.そのため,

生理的な発現レベルを逸脱した KIAA1199 の発現亢進や,HA 分解の低下を伴う KIAA1199の機能変化が,関節炎滑膜における過剰な HA 分解や,聴力の低下に寄与している可能性

が推察された.近年,胃ガンや大腸ガン,あるいは不死化した腎細胞ガン細胞において

KIAA1199 が高発現していることが報告されている 20, 28, 38).分子量 20 kDa以下の HA は,

炎症を惹起したり,血管の新生や細胞の遊走を誘導することなどが知られていることから

5, 7, 8),KIAA1199 を介して低分子化された HA が,ガン組織における血管新生や腫瘍細胞

の浸潤に関与している可能性も考えられた. 以上,本申請論文では, HYAL 酵素や CD44 が関与しない,KIAA1199 が司る新規な

HA 分解機構が存在することを示した.本分子は,正常ヒト皮膚真皮における生理的な HA分解だけでなく,関節炎患者の滑膜など,種々の病態における HA 分解においても重要な

役割を担うと考えられた.そのため,KIAA1199 を標的とした HA 分解制御剤の開発は有

用であると考えられた.

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謝辞 本申請論文の作成にあたり,終始ご懇篤なるご指導を賜りました野水 基義教授に深甚

なる謝意を表します.また,本研究の遂行にあたり,ご親切なご指導を頂きました井上 紳

太郎博士に心から感謝の意を表します.更に,本研究にあたり,ご懇切なご助言を頂きま

したカネボウ化粧品価値創成研究所の方々に厚く感謝致します.

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掲載論文 本研究の内容は以下の論文に発表した. 第1章,第2章,第3章 Yoshida H., Nagaoka A., Kusaka-Kikushima A., Tobiishi M., Kawabata K., Sayo T., Sakai S., Sugiyama Y., Enomoto H., Okada Y., Inoue S., KIAA1199, a deafness gene of unknown function, is a new hyaluronan binding protein involved in hyaluronan depolymerization., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 5612-5617 (2013). 第2章 Yoshida H., Nagaoka A., Nakamura S., Tobiishi M., Sugiyama Y., Inoue S., N-terminal signal sequence is required for cellular trafficking and hyaluronan-depolymerization of KIAA1199., FEBS Lett., 588, 111-116 (2014). 第2章 Yoshida H., Nagaoka A., Nakamura S., Sugiyama Y., Okada Y., Inoue S., Murine homologue of the human KIAA1199 is implicated in hyaluronan binding and depolymerization., FEBS Open Bio., 3, 352-356 (2013).

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KIAA1199 遺伝子が司る新規ヒアルロン酸分解機構の解析

研究分野 生 化 学 紹介教授 野水 基義 学位申請者 吉田 浩之

ヒアルロン酸(HA)は,N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とグルクロン酸(GlcA)

の二糖が交互に結合した高分子多糖で,哺乳動物の結合組織に広く存在するグリコサミノ

グリカン(GAG)の一つである.皮膚には生体 HA の約 50%が存在することが知られてお

り,皮膚真皮に存在する HA は細胞外マトリクスを構築する分子として機能する一方で,

細胞の遊走や増殖といった様々な細胞機能にも寄与する.組織における HA の代謝は非常

に速く,皮膚での代謝半減期は 1-1.5 日であり,分子量 1,000 kDa 以上の高分子 HA が

10-100 kDa の HA 断片に分解される.一方,関節炎やガンなどの病態においては HA の分

解が亢進していることが知られており,変形性関節炎(OA)や関節リウマチ(RA)患者の

滑液においては,HA の平均分子量の低下が,関節の潤滑性の低下や,滑膜の炎症度と関連

があることが報告されている.これまでに組織の HA 分解機構として,CD44(HA 受容体)

と 2 種類の HA 分解酵素(HYAL1 および HYAL2)が共同的に働くという説が有力だが,

これらの分子が組織の HA 分解に関わることを示す直接的なエビデンスは乏しいのが現状

である. 本申請論文では,生理的状態あるいは病態における組織の HA 分解機構を明らかにする

ことを目的とした.以下の 3 章において,線維芽細胞の HA 分解に関わる遺伝子の包括的

な探索により見出された,KIAA1199 が司る新規な HA 分解機構に関し,正常ヒト皮膚や

関節炎患者の滑膜における HA 分解への関わりや,その特性について詳細な検討を行った. 第1章 正常ヒト皮膚線維芽細胞の HA 分解機構を担う KIAA1199 遺伝子の発見 正常ヒト皮膚線維芽細胞 Detroit 551 株は,外的に添加した分子量 1,000 kDa 以上の[3H]

標識高分子 HA([3H]HA)を 10-100 kDa の中間サイズに分解し,分解産物を細胞外に蓄

積させた(Fig. 1).この HA 分解機構に CD44,HYAL1 および HYAL2 が関与するか調べ

るため,まずは皮膚線維芽細胞におけるこれらの分子の発現を RT-PCR により確認した.

その結果,CD44 および HYAL2 の発現は認められたが,HYAL1 の発現は認められなかっ

た.次に,CD44 および HYAL2 について siRNA を用いて発現抑制した結果,皮膚線維芽

細胞の HA 分解には全く変化が認められなかった.これらの結果から,皮膚線維芽細胞に

は CD44,HYAL1 および HYAL2 が関与しない,新規な HA 分解機構が存在すると考えら

れた.これまで皮膚の HA 分解研究を阻んでいた大きな障壁として,皮膚線維芽細胞は培

養系では旺盛に HA を分解するものの,細胞溶解液ではその活性が完全に消失する点が挙

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げられる.そこで本研究では,HA 分解を担う分子

の同定を目的とし,皮膚線維芽細胞の培養系 HA 分

解活性と発現の挙動が一致する遺伝子の探索を試み

た.まずは interleukin(IL)-1α,IL-1β,transforming growth factor(TGF)-α,TGF-β1,epidermal growth factor,hepatocyte growth factor,interferon-γ,tumor necrosis factor-αおよびヒスタミンで線維芽

細胞を刺激したところ,培養系 HA 分解活性はヒス

タミンにより顕著に亢進し,TGF-β1 により顕著に

抑制されることを見出した.次に,マイクロアレイ

遺伝子発現解析により,ヒスタミン刺激で発現が亢進し,かつ TGF-β1 刺激で発現抑制す

る遺伝子を包括的に探索した結果,25 の遺伝子が同定された.それらの遺伝子についてそ

れぞれ siRNA で発現抑制を行ったところ,これまでに機能不明の難聴遺伝子として報告さ

れていた KIAA1199 の発現抑制により,線維芽細胞の HA 分解が顕著に抑制されることを

見出した.更に,KIAA1199 cDNA を一過的に導入した human embryonic kidney(HEK)

293 細胞は,新たに線維芽細胞と同様の HA 分解活性を獲得したことから,KIAA1199 は

HA 分解に必須の分子であると考えられた.また,in situ ハイブリダイゼーション法およ

び免疫組織染色法により,KIAA1199 は主に正常ヒト皮膚真皮の線維芽細胞で発現してい

たことから,KIAA1199 は真皮の生理的な HA 分解において重要な役割を担う分子である

と考えられた. 第 2 章 KIAA1199 が司る HA 分解機構の特性解析

KIAA1199 のアミノ酸配列は HYAL を含

む他のタンパク質と相同性を示さず,また

HA 結合タンパク質に認められる HA-リン

クモジュールや B(X7)B HA-結合モチーフ

も認められない.一方,KIAA1199 は細胞

外リガンドとの結合が推測されている G8ドメインや高分子多糖の加水分解への関与

が考えられている PbH1 ドメインなどを有

し,また N 末端 30 アミノ酸はシグナル配

列であることが予想されている(Fig. 2).本研究において,KIAA1199 は HA 以外の GAG(コンドロイチン硫酸 A, C, D,デルマタ

ン硫酸,ヘパリン,ヘパラン硫酸)とは結合せず,HA とのみ特異的に結合することを見出

した. 次に,KIAA1199 が司る HA 分解機構の特性を詳細に検討した.新たに樹立した

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KIAA1199 安定発現細胞(KIAA1199/HEK293 細胞)は HA を選択的に分解し,他の GAG(コンドロイチン硫酸 A, C, D,デルマタン硫酸,ヘパリン,ヘパラン硫酸)を分解しなか

った.分解された HA 断片の還元末端糖および非還元末端糖はそれぞれ GlcNAc と GlcA で

あったからことから,HA はエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ様式で分解されると

考えられた.次に HA 分解に関わるエンドサイトーシス経路の同定として,クラスリン経

路に関わるクラスリン重鎖(CHC)および AP-2 を siRNA により発現抑制したところ,

KIAA1199/HEK293 細胞の HA 分解は顕著に低下した.しかし,カベオラ経路に関わるカ

ベオリン-1 の発現抑制は HA 分解に全く

影響を与えなかった.さらに,細胞に添加

したビオチン標識 HA は,共焦点顕微鏡

観察により原形質膜付近のベシクルにシ

グナルが認められた。これらのことから,

外的に添加した HA はクラスリン経路を

介し,一旦細胞内に取り込まれると考えら

れた.次に HA 分解の場の同定を目的とし,

阻害剤を用いた解析では,Dynasore(エ

ンドサイトーシスおよびベシクルの形成阻害),NH4Cl(エンドソーム-リソソーム内のアル

カリ化),バフィロマイシン A1(液胞型プロトン ATPase 活性阻害),モネンシン(受容体

リサイクリング阻害)は KIAA1199/HEK293 細胞の HA 分解を低下させたが,ノコダゾー

ル(初期エンドソームから後期エンドソームへの輸送阻害)はそれには影響を及ぼさなか

った(Fig. 3).さらに,外的に添加した[3H]HA はそのほとんどが培養上清に回収された.

以上の結果から,細胞内に取り込まれた HA はエンドソームとリソソームの融合前の酸性

区画,すなわちクラスリン被覆小胞もしくは初期エンドソームで分解された後,リサイク

ル経路を介して素早く細胞外に放出されると考えられた.また,KIAA1199 と CHC の二重

抗体染色では,両分子のシグナルは KIAA1199/HEK293 細胞の原形質膜付近にベシクル様

で観察された.今後,詳細な検討が必要であるが,HA 分解における KIAA1199 の機能と

して,原形質膜近傍のベシクル生じる HA 分解に関わる可能性が推察された.また,全長

および N 末端 30 アミノ酸を欠失した KIAA1199 の cDNA を用いた解析により,KIAA1199の N 末端 30 アミノ酸はシグナル配列として機能し,KIAA1199 の適切な細胞内輸送と培養

系 HA 分解活性に必須であることを明らかにした. マウスにはヒト KIAA1199 と DNA 配列で 86.8%,アミノ酸配列で 91%の相同性を示す

ホモログ遺伝子(mKiaa1199)が存在する.mKiaa1199 を発現させた HEK293 細胞は,

ヒト KIAA1199 と同様,クラスリン経路を介してエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ

様式で HA を分解することが示された.従って,mKiaa1199 のノックアウトマウスやトラ

ンスジェニックマウスの作出は,生体内での HA 分解における本分子の役割を明らかにす

る上で有用と期待された.

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第 3 章 KIAA1199 の疾病への関わり 関節炎患者の滑膜における過剰なHA分解

への KIAA1199 の関与を調べるため,健常人

と OA および RA 患者由来培養滑膜細胞の

HA 分解活性を調べた.OA および RA 患者

由来細胞のHA分解活性は健常人由来細胞に

比べて高く,加えて KIAA1199 mRNA およ

びタンパク質の発現も上昇していた.また,

siRNA による KIAA1199 の発現抑制は,い

ずれの細胞のHA分解活性もほぼ完全に消失

させた.次に,in situ ハイブリダイゼーショ

ン 法および免疫組織染色法 により,

KIAA1199はRA滑膜組織の主に lining細胞

に発現していることを示した.さらにリアル

タイム PCR により,KIAA1199 遺伝子の発現は非炎症性関節疾患滑膜組織に比べ,OA お

よび RA 滑膜組織で上昇していることを見出した(Fig. 4).これらの結果から,KIAA1199は滑膜細胞の HA 分解においても必須の因子であり,滑膜組織での KIAA1199 の発現亢進

が,関節炎患者の滑膜における過剰な HA 分解に寄与している可能性が考えられた. KIAA1199 は内耳で高発現し,複数の非症候群性難聴家系にアミノ酸置換を伴う突然変

異(ミスセンス突然変異)が報告されていることから,これまで難聴への関わりが考えら

れてきた.そこで本研究では、これらミスセンス突然変異が HA 分解活性に与える影響を

調べた.4 種類の変異型 KIAA1199(R187C,R187H,H783R および V1109I)と野生型

KIAA1199 の cDNA をそれぞれ HEK293 細胞で一過的に発現させた結果,R187C および

R187H 変異型を発現する細胞の HA 分解は,他の細胞に比べ著しく低下していることを見

出した.そのため,HA 分解の低下を伴う KIAA1199 の機能変化が,聴力の低下に何らか

の影響を及ぼしていることが推察された. 今回の研究により,KIAA1199 は正常な皮膚真皮の生理的な HA 分解だけでなく,関節

炎滑膜における過剰な HA 分解においても重要な役割を担う新規な分子と考えられた.ま

た,KIAA1199 の機能変化が,聴力の低下と何らかの関係がある可能性を示した.近年,

胃ガンや大腸ガンでの高発現も報告されており,今後,KIAA1199 をターゲットとした治

療薬の確立は有用であると考えられた. 本研究結果の掲載 1) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 110, 5612-5617 (2013). 2) FEBS Lett., 588, 111-116 (2014). 3) FEBS Open Bio., 3, 352-356 (2013).