13
「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築 移動店舗「ハーツ便」を始めるきっかけは2つあり、一つは「組 合員ニーズ」、もう一つは「地域ニーズ」への対応です。 組合員ニーズへの対応として、福井県民生協(以下、県民生協) では1996年に1号店を出店し、今年で15年目となりますが、いまだ に6店舗しかないことがあります。私たちが目指している供給のあ り方は、組合員が宅配と店舗の両方を利用できる環境を県内に張り 巡らすことですが、現実はそれとは程遠いものです。そのため店舗 を利用している宅配組合員は、全体の約4割しかいません。あとの 6割の組合員は、店舗を利用したくてもできない状況があるわけで す。 そこで2009年のことですが、「なんとか宅配の組合員にも店舗の 生鮮品をお届けできないか」と、若狭地区で特別注文配達の実験を 行ないました。この時は特にお肉が欲しいということで、県民生協 の店舗、ハーツつるが(敦賀市)で扱っている精肉を、店から週1 回、ある拠点にお届けする仕組みをつくり、「わくわくハーツ便」 と名付けました。利用された組合員からとても好評でしたので、 「これを、もう少し事業的に確立できないか」と考えたことが移動 店舗に取り組むきっかけになりました。 また地域ニーズへの対応としては、福井県内では過疎化や高齢化 が急速に進んでいることがあります。とりわけ限界集落 ※1 は、09 年の県集計で104もあります。08年は99だったので、わずか1年で 5つも限界集落化しているわけです。県もその点を憂慮しており、 ※1 過疎化などによっ て、65歳以上の高齢者 の割合が50パーセント を超えている集落。一般 的に、買い物が困難にな る、冠婚葬祭の人手が足 りなくなるなど、社会生 活への影響が出ている集 落を指す。 6 特集 1 福井県民生協 「ハーツ便」から学ぶ 移動販売事業の構築と今後の課題 現在、過疎・限界集落だけでなく、都市部でも「買い物弱者」といわれる人たちが急速に増え ている。その対応策として、福井県民生協が2009年10月にスタートさせた移動販売「ハーツ 便」に、全国の流通関係者や行政から注目が集まっている。多額の初期投資が必要となるこの 事業を継続・発展させていくために必要なこととは何か。専務理事の松宮幹雄氏に伺った。 福井県民生協  専務理事 松宮 まつみや みき

No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応として、移動店舗「ハーツ便」を構築

移動店舗「ハーツ便」を始めるきっかけは2つあり、一つは「組

合員ニーズ」、もう一つは「地域ニーズ」への対応です。

組合員ニーズへの対応として、福井県民生協(以下、県民生協)

では1996年に1号店を出店し、今年で15年目となりますが、いまだ

に6店舗しかないことがあります。私たちが目指している供給のあ

り方は、組合員が宅配と店舗の両方を利用できる環境を県内に張り

巡らすことですが、現実はそれとは程遠いものです。そのため店舗

を利用している宅配組合員は、全体の約4割しかいません。あとの

6割の組合員は、店舗を利用したくてもできない状況があるわけで

す。

そこで2009年のことですが、「なんとか宅配の組合員にも店舗の

生鮮品をお届けできないか」と、若狭地区で特別注文配達の実験を

行ないました。この時は特にお肉が欲しいということで、県民生協

の店舗、ハーツつるが(敦賀市)で扱っている精肉を、店から週1

回、ある拠点にお届けする仕組みをつくり、「わくわくハーツ便」

と名付けました。利用された組合員からとても好評でしたので、

「これを、もう少し事業的に確立できないか」と考えたことが移動

店舗に取り組むきっかけになりました。

また地域ニーズへの対応としては、福井県内では過疎化や高齢化

が急速に進んでいることがあります。とりわけ限界集落※1は、09

年の県集計で104もあります。08年は99だったので、わずか1年で

5つも限界集落化しているわけです。県もその点を憂慮しており、

※1 過疎化などによって、65歳以上の高齢者の割合が50パーセントを超えている集落。一般的に、買い物が困難になる、冠婚葬祭の人手が足りなくなるなど、社会生活への影響が出ている集落を指す。

6

特 集 1 福井県民生協

「ハーツ便」から学ぶ移動販売事業の構築と今後の課題

現在、過疎・限界集落だけでなく、都市部でも「買い物弱者」といわれる人たちが急速に増えている。その対応策として、福井県民生協が2009年10月にスタートさせた移動販売「ハーツ便」に、全国の流通関係者や行政から注目が集まっている。多額の初期投資が必要となるこの事業を継続・発展させていくために必要なこととは何か。専務理事の松宮幹雄氏に伺った。

福井県民生協 専務理事

松宮まつみや

幹みき

雄お

Page 2: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

限界集落を対象にしたアンケートを実施しています。その中で、

「今生活に困っていることは何ですか?」という問いに対して、3

番目に多かった答えが、「食品が買えない」というものでした。

そこで県としても限界集落での買い物支援事業を支援する方針を

打ち出し、移動販売事業を行なう民間事業者に対し補助金を出すこ

とが決まりました。いくつか事業者が手を挙げたわけですが、その

中から県民生協が移動販売による限界集落での買い物支援事業の委

託を受けました。県からの委託条件は2つあり、一つは「限界集落

のうち、17集落に対して週1回以上の移動販売を行なうこと」と、

もう一つは、「移動販売は最低5年間継続すること」というもので

した。

当初、補助金として提示されたのは、車両代として上限400万円

(単年度)、人件費として年間220万円でした。しかし、結果的に人

件費分だけの支援となり、10年度は200万円、今年度は280万円の補

助金を受けています。このように、組合員ニーズと地域ニーズの両

面で、移動店舗に取り組むきっかけがあり、現在、県内での営業ポ

イントを構築しているところです。

移動販売事業のネックは重い初期投資

事業開始4年目での経常黒字化を目指す

移動店舗の初期投資は、2台の大型車(3トン)が各2,000万円、

残り6台は小型車(2トン)で各1,000万円、それに、システムや

営業許可費用などの費用が別途掛かります(資料1)。最初に導入

したのは大型車2台ですが、金額からも分かるように初期投資が重

たいため、以降は小型車を導入しています。特殊車両となるため、

税法上の減価償却期間は4年となり、しかも初年度で62%を償却

(大型車なら、1,240万円)しなくてはならないため、1年目での黒

字は到底あり得ません。われわれとしては車両の減価償却の終わる

4年目をめどに経常黒字を確立することを経営方針として掲げてい

ます。なお、中期構想では14年までに20台態勢にすることを考えて

おり、その際にはさらに小さな車両の導入も考えています。

私たちの経験からすると、今の車両で1日に移動店舗を開くこと

ができるポイントは10カ所が限度です(資料2)。現状では、車両

1台当たりの日時供給高は約7万円です。損益分岐点となる供給高

は10万円なので、あと3万円足らないという状況です。

ですから、車両コストをいかに下げ、回ることができる場所数を

上げるかが今後の事業戦略上の課題となっています。例えばこれが、

軽トラック改造車両になれば、5万~6万円くらいの供給高でも収

生協運営資料 2011.9 7

Page 3: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

買い物弱者支援事業の事業構造と今後の展望

8

Page 4: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

支が成り立つという考えです。もちろん、小さい車両ですと当然そ

れに見合った品目数となるため、かなり取り扱いを絞らなければな

らなくなります。現在の品目数は大型車で700品目、小型車で600品

目ですが、軽トラックになると200~300品目になると思います。今、

客単価が1,480円くらいなので、軽になると客単価も当然落ち、だ

いたい1,000円~1,200円を見込んでいます。

従って、今は週1回が基本ですが、軽トラックでは週2回の巡回

を基本に、開店回数を上げていこうと考えています。それは、週1

回では購入先としてメインになり得ませんが、2回ならなり得る可

能性があるのではないかという仮説によるものです。

組合員の利用状況と

供給を上げるための工夫について

現在、週6日、月曜から土曜までの営業で、1日当たり10ポイン

トでオープンしています。利用者は1日平均48人です。ですから1

台当たり週280人くらいの利用人数になります。なお、載せる商品

は売れ筋を中心にセレクトしています。なお、店舗と全く同じ商品

で、移動店舗のために特別に用意している商品はありません。ただ

し供給構成比は店舗と若干違い、「ハーツ便」では水産と惣菜の供

給構成比が高くなっています。具体的には、水産は店舗が約11.3%

に対し、移動店舗は14.3%です。総菜は店舗が7.8%に対し、移動店

舗は14.0%と、移動販売のほうが供給構成比は高くなっています。

また、コースによって売れる商品に違いがあります。当たり前と

言えば当たり前ですが、海辺の地区では「魚は要らないから肉や野

菜が欲しい」、中山間地では「魚が欲しい」という声が多くなりま

す。そのためコースによって品ぞろえを変えています。また、「今

日は暑いのでアイスの利用が多いのではないか」というような、天

候による品ぞろえの変更は、日々担当者が工夫しています。

ケース売りについても、「ご用聞き」と言っていますが、「来週、

サイダー1ケース持ってきて」といっていただければ、「はい、分

かりました」と持っていくこともあります。ご用聞きで注文を受け

るのは、基本的に現場ですが、コールセンターでも受け付けていま

す。また、その日の供給が終わった後に、明日行くところに電話し

て、「何か要るものはありますか?」とお聞きすることができる場

所もあります。このようなポイントが増えると、供給高への上乗せ

も大きいです。

実は、昨年度には「ご用聞き」を仕組み化し、コールセンターか

ら毎週電話を掛けるようにしました。しかし担当者からの電話と、

生協運営資料 2011.9 9

Page 5: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

コールセンターからの電話では反応は全然違うのです。ポイントは

やはりコミュニケーションにありました。顔を知った担当者からの

電話のほうが、組合員の反応は断然いいんです。ですから今は、コ

ールセンターは注文を受けるだけで、こちらからは担当者が次の日

に行くところに電話を掛けるようにしています。

また、移動店舗での供給促進は店舗と連動させています。例えば、

直近でいうと「土用のうなぎ」や、紋日での販促商品などは店舗と

統一しており、予約注文をいただくようにしています。

かつての班長的な役割を果たす「お世話役」が

「ハーツ便」の利用向上に貢献

私は、移動販売を事業として成立させるために必要な条件は3つ

あると考えています。その1つ目は、まさに経営の確立です。物件

費でいうと車両の購入改造費と、人件費をいかに抑えられるかが重

要です。また、現在の供給高では、正職員では人件費負担が非常に

重いので、ある程度パート職員化を模索していく必要があると考え

ています。

2つ目の条件として、供給高を伸ばすという点では、移動店舗を

開店するポイントに「お世話役」を配置することが重要だと考えて

います。これは昔の共同購入でいうところの、班長さんやお当番さ

ん的役割を果たす人ですが、こういう人をどれだけ組織化できるか

がカギになると思います。このお世話役がいるポイントと、いない

ポイントでの1人当たり利用高、あるいはポイント当たりの利用人

数には明らかな違いが出ています。現在、県内には「ハーツ便」の

開店ポイントが約500ありますが、このうち40ポイントにお世話役

がいます。そこで今年度中に、500ポイントの半数、250ポイントに

お世話役を置くことに取り組んでいます。

なお、「お世話役」については県民生協の機関紙『がんばらにゃ』

の11年4月号(資料3)でも紹介しています。その方は、石川県と

の県境に近い、あわら市の組合員さんですが、ハーツ便が来る日に

は、地区の公民館を開放してくれて、注文の取りまとめや地区の皆

さんに声掛けも行なってくれます。また、地域のコミュニティーと

いう面も重視し、年配の方だけでなく、若い方に対しても積極的に

呼び掛けして、小さいお子さんとの交流の場が自然発生的にできて

います。ここでは今、40人くらいの方がハーツ便の利用登録をされ

ています。お世話役がいる現場を見ると、まさに生協らしさを感じ

るとともに「すごいな」と実感しています。

3つ目の条件として、限界集落対応では補助金の交付を含め、行

買い物弱者支援事業の事業構造と今後の展望

10

Page 6: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

政との連携が重要だということです。また、限界集落には集落支援

員が県の委託でいます。集落支援員とは、いわば公的な世話役です

が、こういう方と連携を図っていくことで、地域とのつながりもつ

くりやすくなります。

以上のように、経営の確立とお世話役の配置、そして行政などと

の連携、この3つが移動販売事業を事業として継続させていくため

のポイントではないかと思っています。

商品ロスは少なからず発生するが

拠点店舗にとってメリットもある

この事業に関して、多くの生協さんからよく聞かれることとして、

商品ロスの問題がありますが、そもそも私どもでは値引きは一切行

なっていません。店でいう「特売品」とか「家計応援品」といった

プロモーションはなく、いわゆるコンビニ価格で販売しています。

そのため、値入率は30%くらいあります。そこで、仮に毎日5%の

商品ロスが出たとしても利益率は25%です。一方、県民生協の店舗の

利益率は平均24%ですから、5%のロスは許容範囲と考えています。

また移動店舗は、拠点店舗の目に見えないロス改善にもつながっ

ていると考えています。例えば、私どもの店舗の農産や水産ではバ

ックヤード在庫を多く持ちがちです。そのため、時には300円で売

れるところを150円で供給するなどして在庫調整している場合があ

ります。つまり、店舗での半値処分は、移動店舗のロス率5%より、

10倍も利益流出させているわけです。ところが、移動店舗を導入す

ることで店舗の商品回転率は確実に上がりますので、在庫過多によ

る値引き機会の削減につながっていると思います。

ただし移動販売の宿命として、売れすぎた時の補充の問題があり

ます。午前中に7万円以上供給すると、商品はかなり少なくなりま

す。その時はお昼の時間帯に補充します。商品は店から現地まで持

ってきてもらうか、中間地点で合流して補充するようにしています。

なお、「ハーツ便」での供給は、拠点店舗に入りますので、補充の

商品はその店の職員に持ってきてもらうようにしています。

生協運営資料 2011.9 11

Page 7: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

買い物弱者支援事業の事業構造と今後の展望

12

出典:福井県民生協機関紙『がんばらにゃ』2011/4月号

資料3

Page 8: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

生協運営資料 2011.9 13

Page 9: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

「ハーツ便」で地域を回るうちに、

これまで気付かなかった地域ニーズに気付く

なお、移動店舗の職員からは、さまざまな報告が上がってきます。

一番多いのは品ぞろえに関するもので、「今日は何がよく売れた」

とか、「地域別や季節の品ぞろえで、店のほうが遅れている」とい

うものです。例えば、3月くらいになると移動店舗では、野菜や草

花の「種」がよく売れるそうです。それは、高齢者の需要が多いか

らです。店舗では1年中、店の片隅に埋もれていることが多いので

すが、移動店舗ではシーズンに応じて、もしくは年代層でみた時に

極めて需要の高い商品となっているのです。では、その翌週のニー

ズは何かというと、県民生協では品ぞろえできていないのですが肥

料なのです。担当者は、「一緒に持ってこれなくてごめんね」と謝

っているようですが、このようなニーズはたくさんあります。

昨年、年間を通して対応し切れなかったのが、地域のお祭り対応

でした。それは担当者の日報で、「今度お祭りがあるから、にぎり

ずしの何人前の注文もらった」とか、「十何人前のお弁当の注文を

いただいた」といった報告が数多くあり、そういう地域ニーズを私

たちは移動店舗をやって初めて、深掘できていないことに気がつき

ました。そこで今年は、コースもしくはエリアごとに、「今週は何

町の何祭り」が分かるように一覧表にしてあります。

また、地域に密着した商品供給のような切り口もあると考えてい

ます。例えば、「この町内ではこれを食べるから、おはぎでもきな

粉を持ってきて」とか「餅は、○○餅を持ってきて」とか、地域に

よる食の違いは、思ったより多いようです。「ハーツ便」で地域を

回るうちに、そういうところに少しずつ入り込めてきたかなと感じ

ています。

過疎高齢化地域を回って実感した

移動販売のさらなる進化の必要性

過疎地を実際に回ってみて実感し、考えなければと思ったことが

あります。それは、お年寄りの歩く早さ、移動の大変さということ

です。ある村の端に公民館があり、その前で「ハーツ便」を開いた

時、その反対の端にいる高齢者が歩いてこようとする姿が目に入り

ましたが、見えてからも「いつになったら来るのか」というくらい

ゆっくりでした。しかも、途中で休みながら、「はぁはぁ」言いな

がら、「遠いわぁ」という何げない声もお聞きしました。仮に、お

年寄りの行動限界が100メートルならば、われわれは50メートル単

買い物弱者支援事業の事業構造と今後の展望

14

Page 10: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

位で、村の中に開店ポイントを設けていくことが、真のお役立ちに

つながるのではと思っています。これを可能とするのが、軽トラッ

クの移動店舗だと考えています。

現在では、ほぼ県内全域が移動店舗の展開エリアとなっており、

一番遠いところは店から約1時間20分くらいかけて行っています。

そこは、名田庄なたしょう

村というところで、山を2つほど越えると京都府

です。ただし、三み

方かた

や高浜たかはま

地域はまだカバーできていません。実

際のところ、限界集落でカバーしているは104集落のうち37ですか

ら4割程度です。

「ハーツ便」の今後の展開を考える場合、前述のように、お店を

利用できない6割の組合員さんをはじめ、限界集落も現時点では全

体の約4割しかカバーできていませんので、まだまだ行かなければ

ならないところは多いということです。ただし、それだけ残されて

いても経営的な面からいうと、さらに条件は厳しくなるわけです。

そこでも事業として成り立たせる手法として、先ほどの車両の小型

化と職員のパート化、そして、お世話役が必要だと考えています。

教育的な観点からも、多くの職員に

経験してほしいと考えています

現在のところ、「ハーツ便」の運営に携わっているのは、宅配事

業の職員がほとんどです。やはりface to faceの能力は、宅配事業

の職員のほうが長けていると思います。しかし、商品知識となりま

すと店舗職員の方が優れている場合も多いので、宅配の職員でなけ

ればということではありません。

現在、宅配の不在率が高まり、商品を置いていくというケースが

非常に多くなっています。ところが移動店舗の場合は、必ずそこに

組合員さんがおり、昔の班のようです。そういった組合員さんとの

コミュニケーションは、職員自身の成長にもつながると考えていま

す。ですからわれわれとしては、教育的視点からも可能な限り多く

の人にこの移動店舗を経験してほしいと思っています。なお小型車

の場合、担当する職員は1人ですが、週6日の稼働日を通しての業

務はさせず、必ず交代要員を置くようにしています。

生協運営資料 2011.9 15

Page 11: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

「ハーツ便」事業の到達点と

今後の展望について

「ハーツ便」の10年度供給高は5,500万

円ありましたが、剰余は▲6,700万円の赤

字でした。これには200万円程度の補助

金も入っています。今年度の供給高予算

は2億円で、剰余は▲4,000万円の計画を

立てています。ただし、車両の原価償却

が終わる4年目、13年度には経常黒字化

できるものと考えています。

前例がない中で、これだけの初期投資

を行ない、事業に取り組んだのには、前

述のように地域の過疎高齢化をはじめ、

県民生協が置かれている地域情勢が、ほ

かの生協さんとだいぶ違うことがありま

す。より地域に根差す事業、県民生協と

しての社会的な役割発揮として、移動店

舗「ハーツ便」が組合員や地域の皆さん

に喜ばれるのではないかと考え、この事

業に踏み切りました。「ハーツ便」がこ

こまでこれたことは本当にすごいことだ

と思っています。

県民生協では現在、供給事業として宅

配事業と店舗事業があり、そして3番目

の事業として生活支援事業を位置づけて

います。その中に移動店舗「ハーツ便」

があり、さらに「夕食宅配」「買い物代

行」「お買物バス」などをひとくくりに

しています(資料4)。これらを事業ネ

ットワークとして、連携を強めていくこ

とがこれからさらに求められていると思

います。

この秋に向けて、前述の軽トラック架

装車両の導入を計画しており、今秋に2

台投入したいと考えています。これは、

これまでになかった俊敏性を持つものに

なります。軽トラックなら一軒一軒、家

買い物弱者支援事業の事業構造と今後の展望

16

資料4

出典:福井県民生協機関紙『がんばらにゃ』2011/7月号

Page 12: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

の前まで行くことも可能になります。そう考えた時に、家の外に出

られないくらいの年輩の方に対しても、そのまま玄関先まで持って

いくような商品供給のお役立ちの仕方も考えられます。このような

配送が実現できれば、本当の意味での「見守り」にも直結してくる

だろうと思います。ここでも、社会的な貢献ができるのではないか

とわれわれは考えています。

また近年、全国の多くの生協さんが「夕食宅配」事業を開始して

います。この事業では、おおむね、月~金曜日までお弁当をお届け

するわけですが、今のところどの生協さんもお弁当しか届けていな

いと思います。しかし、都市部で「夕食宅配」を利用される顧客の

多くは高齢者で、移動店舗を必要とする人とほぼ一緒だと思われま

す。そういった方に対し、軽トラックによる移動店舗で「夕食宅配」

もお届けすることができれば、一緒に生活必需品の移動販売も行な

うことができます。そこまで「ハーツ便」で対応できればと、現在

考えているところです。

生協運営資料 2011.9 17

Page 13: No261 特集1 福井県民生協coop-book.jp › list › unei › pdf › No261_tokusyu1.pdf「組合員ニーズ」と「地域ニーズ」への対応 として、移動店舗「ハーツ便」を構築

買い物弱者支援事業の事業構造と今後の展望

18