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X線分析の進歩 第36集(2005)抜刷 Copyright © The Discussion Group of X-Ray Analysis, The Japan Society for Analytical Chemistry 半導体検出器 河合 潤,村上浩亮,小山徹也 Solid State Detector Jun KAWAI, Hiroaki MURAKAMI and Tetsuya KOYAMA

半導体検出器 - Materials Informatics · シリコンドリフト検出器(sdd)や小型のpinフォトダイオード型検出器が用いられ ることが多くなったが,原理的には本稿の内容は有効であろう.また,電気回路は本

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X線分析の進歩 第36集(2005)抜刷

Copyright ©The Discussion Group of X-Ray Analysis,The Japan Society for Analytical Chemistry

半導体検出器

河合 潤,村上浩亮,小山徹也

Solid State Detector

Jun KAWAI, Hiroaki MURAKAMI and Tetsuya KOYAMA

 

X線分析の進歩 36 189

半導体検出器

Adv. X-Ray. Chem. Anal., Japan 36, pp.189-200 (2005)

半導体検出器

河合 潤,村上浩亮,小山徹也

Solid State Detector

Jun KAWAI, Hiroaki MURAKAMI and Tetsuya KOYAMA

Kyoto University, Department of Materials Science and EngineeringSakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan

(Received 30 September 2004, Revised 7 January 2005, Accepted 7 January 2005)

   The energy resolution of the so-called SSD, which are cooled by liquidnitrogen, are discussed with respect to the counting circuit parameters such asintegral and differential time constants. The SSD is used as energy dispersive X-rayspectrometer. We have decomposed the SSD and the inside of the detector is alsoshown.

[Key words] SSD, Solid state detector, Si detector, Counting circuit

 SSDと総称される液体窒素補給型エネルギー分散検出器の計数回路パラメータによる分解能

変化と機械的な構造について説明した.

[キーワード]SSD,固体検出器,Si検出器,計数回路

1. はじめに

 筆者らは,堀場製作所製エネルギー分散型X線検出器「ゼロフィー」を購入したが,

購入当時,同時に専用アンプを購入する予算的余裕がなかったので,持ち合わせの汎

用アンプをどのようなパラメータで用いるのが検出器の性能を最大限に引き出すのに

よいかを検討した.またORTECのSi(Li)半導体検出器がいよいよ老朽化したので分解

してみることにした.本稿ではこのような二つの経験をもとに,液体窒素で冷却する

方式の半導体検出器,いわゆるSSD(Solid State Detector)について,普段は見ること

京都大学大学院工学研究科材料工学専攻 京都市左京区吉田本町 〒606-8501

解 説

190 X線分析の進歩 36

半導体検出器

のできない構造や相性の悪いアンプにより出現する特性について解説した.最近は,

シリコンドリフト検出器(SDD)や小型のPINフォトダイオード型検出器が用いられ

ることが多くなったが,原理的には本稿の内容は有効であろう.また,電気回路は本

稿で説明したアナログ回路の時代は終わりを迎え,デジタル・シグナル・プロセッサ

(DSP)を介して直接USBポートやRS-232Cへデジタルデータとして計数値を引き渡

す方式に移行しつつある.アナログ回路の場合には 1万 cps程度で飽和したが,DSP

を用いれば飽和を避けられる場合も出てきた.一方,SDDでも 1万 cps以上ではやは

り飽和して使い物にならず,カタログデータは信用できないという見解も存在する1).

これは電気回路を十分に理解せずに実験を行なった結果の誤解に基づく結論であろう.

今後DSPを利用する機会も多くなるが,デジタル的な信号処理は,原理的にはアナロ

グ方式で行ってきたことを高速数値処理に置き換えただけということができる.DSP

では微分や積分だけではなくいろいろな波形整形ができるという利点がある.した

がってDSPでは高計数率に対応できる一方で,信号の加工プロセスがオシロスコープ

では直接追跡できないという問題点も存在する.これらの波形整形は,各DSPメー

カーのノウハウに属するため,詳しい中身は公開されない.ペルチェ電子冷却は便利

な一方で,電気ノイズを抑えるためには,液体窒素温度までの冷却も必要という見解

もある.超微量分析にはやはり低ノイズの液体窒素冷却が必要であるとも言われてい

る.液体窒素補給後一日は安定しないと言われていた SSDが現在では 30分で安定な

分析結果を得られるところまで進歩し,使用しないときには液体窒素の補給も不要な

機種が多くなった.ペルチェ式の SDDや Si-PIN検出器は,電源投入後 1分以内に分

析開始可能である.このように技術的進歩の急激なエネルギー分散型検出器であるが,

その基本的な電子回路についてはあまり初歩的な解説がないのが現状である.

2. 半導体検出器ゼロフィーの特徴

 ゼロフィー(XEROPHY)は堀場製作所の商品名で,高純度 Siを用いた検出器であ

る.基本的にはPIN型である.Liの拡散を防ぐ必要が無く,使用しないときには常温

での保管が可能である.使用時は液体窒素冷却方式である.液体窒素補給後1時間で

使用可能になるが,一晩程度おくとより安定になる.測定開始時と終了時に同一標準

試料を測定して,横軸や縦軸のリニアリティーを確認したり経時変化をチェックする

習慣を持つことは重要である.Si(Li)型SSDでは,Si中にLiを昇温拡散させることに

よってX線に有感な I(真性)相を形成させるが,ゼロフィーでは高純度Siが I層にな

るため,Liの拡散が不要である.

 使用したゼロフィーのSi検出素子面積は10 mm2で,Mn Kα線に対する出荷時のエネ

X線分析の進歩 36 191

半導体検出器

ルギー分解能保証値は 144 eV,15 µm厚以下のBe窓とコリメータを有する.プリアン

プはオプティカル・フィードバック方式で通常アンプを用いるときには分解能が保証され

ない(10~30 %悪化するといわれている).オプティカル・フィードバックとは,初段

のFETのそばに発光ダイオードLEDが置かれており,FETへ入力される電荷パルス数が

積算されて蓄積された電荷量が一定値を超えると,プリアンプからこのLEDへ信号が入

りFETに光を入れ,蓄積された電荷をリセットする方式である.初段FETに入るX線の

パルスは,X線のエネルギーに比例した段差をもつ階段状のものとなり,時々リセット

されてまた階段状に増大する.測定時にBe窓に光が入るとノイズが増加するといわれて

いる.本検出器程度の厚さのBe窓は光を通さないので,照明下での実験には差し支えな

い.軽元素対応の超薄膜窓の場合に室内の光が問題となるだけである.プリアンプの電

源を入れずに高電圧をかけたり,液体窒素を入れる前に高電圧をかけると初段FETトラ

ンジスタが破損するといわれている.プリアンプには温度センサーがついており,十分

に冷えていなかったりプリアンプの電源が入っていなかったりすると安全回路が働くも

のがほとんどであるが,今回のように専用の回路を使わない場合には注意が必要である.

 ゼロフィーの詳細は新井が解説している 2).X線が入射する面が p型,反対側つま

り信号出力側が n型になっておりその中間に数mm厚さの真性領域(I)がある.真性

領域にX線光子が入射すると,電子・正孔対を生成する.1対の電子・正孔対の生成

には 3.8 eVを要するので,6 keVのX線では約 1600対の電子・正孔対が発生する.統

計的な過程により電子・正孔対の数はガウス分布となり,また生成される電子・正孔

対の間の相互作用により独立事象と仮定したガウス分布からゆがむ.ガウス分布から

のゆがみをファノ因子3)と呼びガウス分布(カウント数が少ない場合はポアソン分布)

の場合のファノ因子を1とする.X線が入射する側のP層にマイナスの高電圧をかけ,

正孔は P層へ,電子はX線入射と反対側のN層へ拡散してゆく.I層の中の電子の拡

散速度(8 ns)は正孔の拡散速度(15 ns)より速く,電子を検出した方が連続入射す

るX線の重なりを防ぐことが可能であると考えられるが,電子の寄与分だけを分離し

て計数するのは難しい.入射X線のエネルギーEとエネルギー分解能(FWHM)との

間には,E∝(FWHM)2の関係が成立する.但し,入射エネルギーを 0に外挿しても

FWHMは電気雑音のために有限の値をもつ.本論文のような電気ノイズが無視できな

い測定では,E = (FWHM)2 + (電気雑音)2となり,後出する実測スペクトルでは Cuの

分解能がVの分解能の 1.4倍にはなっていない.

 メインアンプの設定として,ゼロフィーのマニュアルによると「比較的長めの時定

数(8 µ~ 12 µsec)でエネルギー分解能がよくな」ると説明されている.時定数がこ

の範囲で最適になる理由は,電気雑音が容量によるもの(時定数に反比例する強度)と

192 X線分析の進歩 36

半導体検出器

電流によるもの(時定数に比例する強度)とからなっており,液体窒素冷却のSi検出

器ではもれ電流が小さくなるため,長い時定数で最適値となることによる.今回の

SSD出力は抵抗負帰還ではなくオプティカルフィードバックのため,比例計数管と同

様なポールゼロ調整 4)を行うことは不要である.

3. 分解能と回路パラメータ

 V,Mn,Co,Cuの酸化物粉末を金属元素が等モルとなる割合に混合してアルミリ

ングにプレスした試料を作成した.原子番号を1つ飛びにして,KαとKβが重ならな

いような元素の組み合わせである.この試料を,焦電結晶型X線発生源のAmptek社

製COOL-Xで励起し,ORTECモデル 410リニアアンプに接続してスペクトル測定を

行った.分解能に影響するパラメータとして,リニアアンプの積分と第一微分を変化

させた場合のスペクトルを Fig.1~ Fig.3に示す.実際には第二微分も含めて,積分,

第一微分,第二微分いずれもOUTまたは時定数 0.1 µs~10 µsまで,さまざまな組み

合わせでスペクトルを測定した.

 パラメータ組み合わせの中でもっともエネルギー分解能がよかったのは,積分1 µs,

第一微分 1 µs,第二微分 0.5 µsの場合であった(Fig.1).比較的長めの時定数(8 µ~

12 µsec)がよいはずであるがそうならなかった原因は,電気ノイズを十分に押さえた

測定ではなかったからであろう.第二微分はほとんど影響しなかった.V Kαの低エ

ネルギー側の 4.5 keVに起源不明の弱いピークが出現している.V,Mn,Co,Cuの

強度が徐々に低下するという結果となった.このように SSDでは低エネルギー側に

テールを引く場合があるが,テールの原因として,Si素子の不良またはX線がSi素子

に斜めに入射したことが考えられる.分解能を最適化する実験ではX線の斜め入射を

防いで測定する必要があるが,今回は広い領域から発生した蛍光X線を測定したため,

斜め入射のX線を防ぎきれなかった可能性が高い.また,リニアアンプの調整不良も

原因の一つとして考えられる.前田ら5)は単色X線をSSDに入射したときのエネルギー

スペクトルを測定してテールの形状を精密に算出した.前田らの実験ではX線の励起

に電子やX線を使わず,高エネルギーイオンビームを用いたので入射X線の散乱の影

響が無く,かつ分光結晶で単色化したので,本当に単色のX線が入射したときのSSD

の応答を測定することができた.このような測定はイオンビームを使わない場合には

大変むつかしい.文献 5の測定では検出器への斜め入射も十分に抑制されていた.

 積分 2 µs,第一微分 2 µs,第二微分 0.5 µsの場合には,分解能は試みた中では中く

らいであった(Fig.2).Fig.1と比較してバックグラウンドが全体に上昇しており,各

元素のKβ 線の位置が正しい位置より低エネルギー側へシフトしている.このシフト

X線分析の進歩 36 193

半導体検出器

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 120

400

800

1200

CuKα

CoKα

MnKα

VKα

KβKβ

Inte

nsity

(C

ount

s/20

00se

c)

Energy (keV)

Fig.1 Xerophy spectrum of an equimolar sample of V, Mn, Co, and Cu. The main amplifiercondition was int. = 1 µs, 1st diff. = 1 µs, and 2nd diff.=0.5 µs.

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 120

400

800

1200

Cou

nts/

1800

sec

Energy (keV)Fig.2 Same as Fig.1. The main amplifier condition was int.=2 µs, 1st diff.=2 µs, and 2nd diff.=0.5

µs.

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 120

200

400

600

Cou

nts/

1800

sec

Energy (keV)Fig.3 Same as Fig.1. The main amplifier condition was int.=1 µs, 1st diff.=5 µs, and 2nd diff.=1 µs.

194 X線分析の進歩 36

半導体検出器

量は,V<Mn<Coと原子番号が大きくなるほど顕著で,Co Kβの場合,Fig.1では 7.65

keVという正しい値を示しているが,Fig.2では 7.50 keVまでずれている.Cu Kβの

テーリングが Coのシフトの原因ならば Coは高エネルギー側にシフトするはずなの

で,Fig.2の現象とは逆である. CuのKβの位置は,ずれていない.Cu KαとCo Kα

程度に隣接すると両ピーク位置がお互いに影響してシフトする可能性も考えられる.

Fig.2ではCu Kαの高エネルギー側にテールがあり,V Kαの低エネルギー側にはテー

ルが無いことから,各Kαピークはその高エネルギー側のKβピークを低エネルギー側

へシフトさせた可能性がある.

 Fig.3はかなり悪い場合で,パラメータをもっと変化させると,もはやスペクトルと

いえるものが測定できなくなる.積分 1 µs,第一微分 5 µs,第二微分 1 µsの場合で

ある.スペクトル悪化の主な要因は第一微分である.

 Fig.2と Fig.3では Cuの強度が他の元素に比べて大きいが,これは COOL-Xから照

射されるX線がCu Kα線(8.04 keV)またはTa Lα線(8.15 keV)であることから,散

乱線が検出されたためであると思われる.CuとTaのX線は加熱・冷却時にそれぞれ

発生する.Fig.1は散乱線の検出をうまく防ぐ実験配置であった.Fig.2と3は測定スペ

クトルにサビツキー・ゴーレーのスムージングを行った結果を示してある.Cu Kβは

8.91 keV,Ta Lβは 9.34 keVに観測されている.統計重率では Lβは Lαの 1/2の強度

であるが,実際にはLβのほうが強い場合も多く,Taの寄与の大きさの判断はむつか

しい.なおいずれの測定もゼロフィーには-990 Vのバイアス電圧をかけた.オプティ

カル・フィードバックが回路に組み込まれているので,プリアンプとメインアンプの

間に結線を変換するための回路をアルミのボックス内に自作して挿入した.類似の測

定パラメータでMnのみを測定した結果を,Fig.4に示す.Fig.4(a)のスペクトルが余

計な微細構造が出現せず,良い形状をしている.FWHMは 265 eVであった.専用の

アンプを使う場合に比べて100 eV以上悪化している.Fig.4(b)ではFWHMはもっと

も細いが,低エネルギー側にこぶが出ており,好ましくない.この実験を行った時点

では,このこぶがある回路パラメータは最適ではないと考えたが,今になって考える

と測定配置が悪いためのアーティファクトであって回路パラメータは妥当だったと思

われる.Fig.4(c)はさらに大きなこぶができて FWHMも広くなっている.結局今回

のようにノイズが多く,斜め入射を防ぐことが出来ない大面積のX線測定では Fig.4

(a)の条件が最も良いようである.ただしノイズを低減させて,斜め入射を防ぐ工夫

を行えば,マニュアル通りのもっと長い時定数がふさわしいと思われる.計数率が低

いときには長い時定数で高分解能が達成されるが,計数率が高くなると,本実験のよ

うな短い時定数にせざるを得ず,エネルギー分解能が悪化する.

X線分析の進歩 36 195

半導体検出器

Fig.4  Xerophy spectrum of MnO2. The main amplifier condition was (a) int.=1 µs, 1st diff.=1 µs,and 2nd diff.=0.5 µs, (b) int.=2 µs, 1st diff.=2 µs, and 2nd diff.=0.5 µs, and (c) int.=5 µs, 1stdiff.=5 µs, and 2nd diff.=0.5 µs. The FWHM of Mn Kα is (a) 265, (b) 244, and (c) 345 eV.(b) is narrowest but the shape is worse than (a).

4 5 6 7 80

100

200

300

400

500

600

Inte

nsity

(Cou

nts/

200s

ec) (b)

Energy(keV)

4 5 6 7 80

100

200

300

400

500

Inte

nsity

(Cou

nts/

200s

ec) (c)

Energy(keV)

4 5 6 7 8

100

200

300

400

500

600

700

Inte

nsity

(Cou

nts/

200s

ec) (a)

Energy(keV)

196 X線分析の進歩 36

半導体検出器

 このようにスペクトルを測定して現象のみを追っていても,回路の応答の詳細がわ

からないので,ファンクション・ジェネレータで 100 kHzの三角波を発生させて回路

パラメータ依存性をオシロスコープで測定してみた.Fig.5は積分も第一微分もOUT

Fig.5 Main amplifier response to 100 kHz saw shape input signal. Upper signal: input. Bottom:output. int.=out, 1st diff.=out, and 2nd diff.=out.

Fig.6 Same as Fig.5, but (a) int.=out, 1st diff.=0.1 µs, and 2nd diff.=out, and (b) int.=out, 1st diff.=1 µs, and 2nd diff.=out.

(a)

(b)

X線分析の進歩 36 197

半導体検出器

とした結果である.Fig.5上側の信号が入力で,1秒間に105回繰り返す三角波である.

信号の立ち上がりが波打っているのはギブス現象である.積分も第一微分もOUTとす

ると,かなり正確に縦方向に利得分だけ拡大されたスペクトルが得られることがわか

る.この周波数領域ではアンプによる波形ひずみはない.

 積分はOUTのままで,第一微分を 0.1 µsと 1 µsとで測定した結果をそれぞれ Fig.6

(a)と(b)に示す.微分の時定数が短いほど入力信号の立ち上がりに対応した鋭いパ

ルスが得られる.時定数が長くなるにつれ指数関数的なテールを引くこともわかる.

 微分はOUTのままで,積分を 0.1 µsと 1 µsとで測定した結果をそれぞれ Fig.7(a)

と(b)に示す.時定数が長くなるほど入力信号の鋭い部分が丸くなって出力される様

子がわかる.

 SSDのエネルギー分解能が最もよかった積分 1 µs,第一微分 1 µsのときの信号波

形をFig.8に示す.鋭い信号が,数µsの大型のパルスに変換されて,次のパルスが来

るまでに完全に0になっている.分解能に対してはPHAのADコンバータとの相性も

(a)

(b)

Fig.7 Same as Fig.5, but (a) int.=0.1 µs, 1st diff.=out, and 2nd diff.=out, and (b) int.= 1 µs, 1st diff.=out, and 2nd diff.=out.

198 X線分析の進歩 36

半導体検出器

寄与すると考えたほうがよいであろう.今回測定に用いたPHAはラボラトリー・イク

イップメント社製のNEC PC9801用ボードおよびプログラムである.

4. ORTEC Si(Li) SSDの分解

 当研究室で所有しているORTEC製Si(Li)SSD(Fig.9)は,昭和 55年(1980年)に理

化学研究所で購入したもので,理研時代は毎週液体窒素を補給していた.液体窒素

を補給すると先端部分が結露するので,ビニール袋で覆って中にシリカゲルを入れ

ておくのが通常の保管方法であった.1990年代に筆者の河合が京大へ赴任する際に

京大へ移管した.購入時のエネルギー分解能は 5.9 keVで 165 eVであったが,移管

時にはすでにスペクトル測定に支障をきたす程度の分解能低下があった.また規定

のバイアス電圧は-2000 Vであるが,京大へ移管後は-800 Vを越えると放電が生

じるため,-800 V以下で使用した.帯電によるX線の発生実験 6)に用いたのはこ

の検出器である.京大に移管後は,液体窒素の補給は測定時のみで,通常は常温で

保管していた.最近は-600 Vまでバイアス電圧をかけると放電するようになった.

また断熱が十分ではなくなり,液体窒素を補給すると外部に水滴がひどく付着する

状態になった.高い電圧をかけられないのはプローブ部分の真空が悪化しているの

が原因で,結露するのも真空悪化によって断熱が十分ではなくなったことを意味し

ている.製造業者や代理店に依頼すれば真空引きを行ってくれるが,純正の業者で

はなくても,最近は真空引きを行ってくれる業者がある.本SSDでは,真空接続バ

ルブが旧式のため,真空引きは純正業者以外できないということであったので,分

解することにした.

 デュワーとプローブの接続部分をはずした写真をFig.10(a)と(b)に示す.銅のね

Fig.8 Same as Fig.5, but (a) int.= 1 µs, 1st diff.= 1 µs, and 2nd diff.=out.

X線分析の進歩 36 199

半導体検出器

じと網でできたコールドフィンガーがデュワーから先端のSi素子まで延びており,効

率よく伝熱できる仕組みになっている.つなぎ目のねじをはずすと,内部はそのとき

でもまだ少し減圧になっていた.

5. おわりに

 筆者らが最近おこなった液体窒素補給型SSDに関するさまざまな測定操作・作業・

失敗に関して解説を加えて結果を説明した.オリジナルな研究としての価値はないが,

近年このようなノウハウを知らなくても,良いスペクトルが測定できるようになる一

Fig.9 Ortec SSD view.

Fig.10 Separated Ortec SSD. (a) dewar side, and (b) probe side.

(a) (b)

200 X線分析の進歩 36

半導体検出器

方で,初歩的な間違いをしたまま測定を行っても気づかないことも多くあるようで,

実験を行う上で他の研究者の参考になればと考え,あえてアーティファクトの多いス

ペクトルを示した.

謝 辞

 原稿を細かくチェックしていただき多くの間違いを指摘していただいた堀場製作所

の新井重俊氏に感謝する.

参考文献

1) 第63回分析化学討論会(2002年5月,姫路工業大学)での河合らのSDDを用いた発表(1H01)

に対する SPring-8所属研究者からのコメント.

2) 新井重俊:高純度シリコンX線検出器(ゼロフィー),Readout,HORIBA Technical Reports,

January 1991,No.2,pp.49-56.

3) G. F. Knoll: “Radiation Detection and Measurement”, 第2版は「放射線計測ハンドブック」4.

木村逸郎,阪井英次訳,日刊工業新聞社(1982),第 3版はWiley, New York (2000).

4) 河合 潤:比例計数管,X線分析の進歩,35,209-222 (2004).

5) 前田邦子,河合 潤:X線微量分析の妨害線:放射的オ-ジェサテライト,X線分析の進歩,

25, 25-38 (1994).

6) 河合 潤,稲田伸哉,前田邦子:帯電によるX線の発生,X線分析の進歩,29,203-222 (1998).