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生活満足度を高め“リカバリー”を目指す新たな統合失調症治療
トランスレーショナル・メディカルセンター臨床研究支援部長
中込 和幸
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)市民公開シンポジウム脳と心の医療と研究最前線
統合失調症の治療
症状の改善
社会的機能レベルの改善
自覚的苦痛の改善
自尊心の回復
実感としての回復
生き甲斐の回復
疾患のみならず,やまい(体験としての障害)の治療を含む,したがって,患者主体による,薬物療法と心理社会的治療の組み合わせ
主観的満足感
回復は得られるか?
“早発性痴呆”
(Thompson et al, 2001)
“神経発達障害”
縦断的経過を含む診断概念
“精神分裂病群”・異種性・“healing with scarring”
回復概念 (recovery “in” illness)
• 疾患によってもたらされる制限にもかかわらず,満足できる,期待に満ちた,世間で役に立つ人生を送る生き方
• 精神疾患によってもたらされる悲劇的な影響を乗り越えて成長する中で,人生において新たな意味や目的を見出すこと
(Anthony, 1993)
社会機能の回復のみならず,主観的な満足感の重要性
統合失調症の生涯経過理論的モデル
年齢
30 40 502010
良好
不良
機能
病前期
Premorbid 前駆期Prodromal
進行期Progression
Stable relapsing
安定再発期
統合失調症の生涯の経過
Lieberman, J.A. : J. Clin. Psychiatry, 57 (S11), 68-71, 1996 (より作成)
臨界期
症状が安定している期間
1年間の再発率 1年半の再発率
1~2年 70% 80%
2~3年 65% 90%
3~4年 60% 70%
合計 60% 80%
Johnson, D.A.W.: J. Clin. Psychiatry, 45(5), 13-21, 1984 (より作成)
抗精神病薬を中断した場合の再発率
統合失調症の症状
陽性症状幻覚,妄想
陰性症状感情鈍麻,意欲低下
社会的転帰,社会機能
認知機能記憶,注意,遂行機能
気分症状抑うつ,情動不安定
主観的満足感,QOL
統合失調症の認知機能障害
認知障害があれば・・・
授業に出席するたびに,思わず気が散り,集中が困難である。教師は注
意をし,クラスメートからは馬鹿にされる。た資料を覚えようとするが,記
憶が悪い。努力もむなしく,試験は不合格になる。徐々に自分は愚かだと
感じ始める。勉強よりは,仕事の方が容易だと考える。雇用はされるが,
すぐに指示を忘れてしまい,上司を怒らせてしまう。早口で話しかけられ,
同時に複数のことをするように依頼されるが,何が重要か,最初に行うべ
き仕事かが不明瞭である。どうすればよいかわからず,不安で,仕事は
手につかない。もし助けを求めれば,批判されるのではないかと心配する。
問題が起きた時の対処能力にも自信を失い始める。自分がダメだと感じ
れば,不幸せで,他者への怒りをもつこともあるだろう。
統合失調症の心理社会治療の歴史
1950年代 1960年代 1970年代 1990年代 2000年以降
精神分析 家族療法
ケースマネージメント
心理教育 認知行動療法
居住・就労支援
認知矯正療法
精神力動理論
対人関係理論
再発におけるEEの役割
転帰の決定因子としての認知障害
神経可塑性の役割
認知矯正療法とは?
脳の神経可塑性の仮説に基づき、特定の脳神経活動に伴う課題に従事することで、脳機能、認知機能の改善を目指す治療法
(Tandon et al., 2010)
統合失調症の心理社会的治療
就労支援
家族教室
作業療法
生活技能訓練
認知行動療法
認知機能
リハビリテーション(認知矯正療法)
…など
社会的不利
Handicap↑
能力障害
Disability↑
機能・形態異常
Impairment↑
疾患
disease
就職できない
結婚できない
↑料理が出来ない
服薬を守れない
↑認知障害
(注意・記憶・遂行機能)
↑統合失調症
(McGurk et al, 2007)
認知訓練による雇用率への効果の持続
*雇用率、就労時間、就労期間、給与すべて改善
2年間のCETによる脳灰白質保護作用
(Eack et al, 2010)
脳灰白質保護作用と認知機能
(Eack et al, 2010)
Neuropsychological
Educational
Approach to Cognitive
Remediation
認知矯正療法
神経心理学者による発案教育心理学の影響
18
NEARの治療構造
1週間
認知課題
セッション言語グループ
認知課題
セッション
認知課題(ゲームソフト)
オフィスの事務職について書類を一定の規則に沿い,時間内に分類
レストランで来客にメニューを渡し,注文をとり,料理を時間内に運び,請求書をテーブルに置く
注意集中,視空間記憶 注意配分,遂行機能
言語セッション
認知課題セッションでの記憶課題
ブリッジング(橋渡し)
lab
Real life 「飲食店でのアルバイトで品物の値段や陳列場所を記憶しておかなければならない」
2012/10/421
2012/10/422
認知矯正療法の効果-メタアナリシスの結果-
(McGurk et al, 2007)
①認知矯正療法単独ES=0.05
②その他の精神科リハビリテーション(SST、就労支援・訓練)を組み合わせると ES=0.47
就労支援プログラムSSTCBT・・・
認知機能リハビリテーション(認知矯正療法)
強打者になるには・・・
まとめ
統合失調症治療は,“精神症状の改善”,“社会機能の改善”から主観的満足感を重視した“リカバリー”(recovery in illness)へと転換。
“リカバリー”実現のために,認知機能の改善を目指す認知リハビリテーション(認知矯正療法)は有力な武器である。
認知リハビリテーションは,脳の機能や形態をターゲットとする新しいタイプの心理社会的治療法である。
認知リハビリテーションでは,トレーニングと実生活における社会的行動とのブリッジングを図るための言語セッションが内発的動機付けを高める上で重要な役割を果たす。
認知リハビリテーションは,従来の様々なリハビリテーション技法と組み合わせることで,社会機能の改善をもたらし,“リカバリー”の実現を目指す。