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先端加工技術セミナー 平成 23 2 4 () 九州工業大学 先端金型センター 機械加工の振動解析 最近の診断解析ツールと安定ポケット理論の実用 星技術研究所 所長 豊橋技術科学大学名誉教授 星鉄太郎 1. はじめに 切削加工に生じる有害な振動には、いろい ろ発生の仕組みが異なるものがあります。 振動を防ぐには、それが発生している仕組 みを診断解析して正しく判定することが大 切な最初の要件であります。 診断解析の手順については、永年普及に努 めてきたところではありますが、なおまだ 産業界における実用は十分とは言えず、加 工現場では多くの問題が放置されているの が現状です。 近年、現場向きの診断解析ツールが整備さ れ、CutPRO などのシステムが市販されるよ うになりました。 切削加工中に生じる振動問題は、表1に示 すようにいろいろな種類のものがあり、そ れぞれ異なる発生の仕組みによって起こり ます。 最も良く見られる事例としていわゆるびび りと呼ばれる、顕著な振動があります。こ れは詳しくは再生びびりと分類される発生 機構によっています。 __________________________________ 鉄太郎 (Hoshi Tetsutaro) 星技術研究所 所長 愛知県豊橋市富士見台 2-13-13 E-メールアドレス;[email protected] 1 切削加工中に生じる振動の種類 I 強制振動 IA 力外乱形強制振動 IA1 断続切削による振動 IA2 切屑生成の周期性に起因する振動 IB 変位外乱形強制振動 IB1 空転時そのままの振動 IB2 混合形振動 II 自励振動 IIA 再生びびり IIB 摩擦形振動 [参考文献 1] 再生びびりの発生機構を説明する理論は、 1960 年台に Tobias、Tlusty らが提唱して 形成されてきました。 この理論によれば、 主軸回転数が高い領域で安定ポケットと呼 ばれるびびりの起こり難い加工条件のある ことが予言されていました。 再生びびり理論の提唱者の一人であった故 Tlusty 教授が主導した多くの研究により、 安定ポケット理論を実用して従来にない高 能率な切削加工を可能とする新しい技術が 2000 年以降に実用されるようになって来て おります。 まず機械加工の振動解析の技術を用いて、 どの種類であるかを判定し、再生びびりで 1

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先端加工技術セミナー 平成 23 年 2 月 4 日(金)  九州工業大学 先端金型センター

機械加工の振動解析

近の診断解析ツールと安定ポケット理論の実用

星技術研究所 所長 

豊橋技術科学大学名誉教授 星鉄太郎

1. はじめに

切削加工に生じる有害な振動には、いろい

ろ発生の仕組みが異なるものがあります。

振動を防ぐには、それが発生している仕組

みを診断解析して正しく判定することが大

切な 初の要件であります。

診断解析の手順については、永年普及に努

めてきたところではありますが、なおまだ

産業界における実用は十分とは言えず、加

工現場では多くの問題が放置されているの

が現状です。

近年、現場向きの診断解析ツールが整備さ

れ、CutPROなどのシステムが市販されるよ

うになりました。

切削加工中に生じる振動問題は、表1に示

すようにいろいろな種類のものがあり、そ

れぞれ異なる発生の仕組みによって起こり

ます。

も良く見られる事例としていわゆるびび

りと呼ばれる、顕著な振動があります。こ

れは詳しくは再生びびりと分類される発生

機構によっています。

__________________________________

星 鉄太郎 (Hoshi Tetsutaro)

星技術研究所 所長

愛知県豊橋市富士見台2-13-13

E-メールアドレス;[email protected]

表 1 切削加工中に生じる振動の種類 

I 強制振動

IA 力外乱形強制振動

 IA1 断続切削による振動

 IA2 切屑生成の周期性に起因する振動

IB 変位外乱形強制振動

 IB1 空転時そのままの振動

 IB2 混合形振動

II 自励振動

IIA 再生びびり

IIB 摩擦形振動 [参考文献 1]

再生びびりの発生機構を説明する理論は、

1960年台にTobias、Tlustyらが提唱して

形成されてきました。 この理論によれば、

主軸回転数が高い領域で安定ポケットと呼

ばれるびびりの起こり難い加工条件のある

ことが予言されていました。

再生びびり理論の提唱者の一人であった故

Tlusty教授が主導した多くの研究により、

安定ポケット理論を実用して従来にない高

能率な切削加工を可能とする新しい技術が

2000年以降に実用されるようになって来て

おります。

まず機械加工の振動解析の技術を用いて、

どの種類であるかを判定し、再生びびりで

1

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あることが確かな場合にのみ、この方法が

有効であります。

現在のところ、アルミ合金の高速ミリング

に大きな効果を挙げております。 これを

鋼材、鋳鉄などの鉄削りにどのようにして

可能とするかが当面の課題であります。

そのためのソフトウェアを工作機械のCNC

に組み込み、ユーザーに加工条件の変更を

提案したり、自動的に調節する「加工ナビ」

というシステムが2年前からオークマ株式

会社により商品化されてきています。

また筆者が協力して開発した、工作機械に

外付けの装置で、加工中の振動をモニター

して表示あるいは制御を行う、リアルタイ

ムびびり制御装置(補注参照)も製品化さ

れております。

これらは、安定ポケット理論を加工現場で

容易に実施できることを目的として工夫さ

れてきている新技術であります。

チタン合金などの耐熱材料の切削加工に生

じる振動をどのようにして防ぎ、高能率加

工を実現するかについても、現在多くの努

力が行われています。それに適した工作機

械の開発が鍵となるものと考えられます。

安定ポケット理論を適用できるほどの高い

切削速度が使用できない場合が問題であり

ます。 この状況においては、不等ピッチ

あるいは不等リードカッターを用いること

が有効であります。

本稿では、まず機械加工の振動解析の方法

をご紹介した後、安定ポケット理論の実用

にかかわるこれらの新技術を中心に解説申

し上げます。

___________________

補注:NT エンジニアリング(株) 愛知県高

浜市芳川3丁目3-21 Tel:0566-52-0015

2.  機械加工の振動解析ツール

2.1 振動の種類の判定

決め手となる診断項目は、加工面の観察、

加工時の振動信号の解析、構造動特性の測

定の三つであります。

2.1.1 加工面の観察

図1 再生びびりの生じる状況 [参考文献1]

再生びびりは自励振動ですので、不安定条

件が満たされる場合には、図 1 に示すよう

なびびりの起こりやすい状態になるよう振

動周波数が自然に微調節されて発生します。

 その結果、図 2 に見るように送りの進む

に連れてびびリマークが遅れて現れ、結果

として左上がりの傾きのマークになります。

図 2 再生びびりのマーク(外周旋削)被削材:S45C 鋼、 直径

22mm、V120m/min、S0.05mm,切り込み

0.4mm,工具:P15 超硬、ノーズ R0.8mm

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マーク間隔のピッチ

マーク個数-2

マーク個数-1

マーク個数

図3 びびりマークから周波数を推定す

   る手順

観察したびびりマークから、振動の周波数

を計算しておきます。図3に見るように、

マークの間隔のピッチから求める、あるい

は一周あたりのマークの個数から次の計算

で求めることができます。

周波数(Hz)=切削速度(m/min)x1000 

      /(60xマーク間隔ピッチmm)

周波数(Hz)=(一周のマーク個数)x(主軸回

      転数rpm)/60

図4 正面フライスにおける再生びびり

被削材:SS41P、幅360mm、カッタ直径

457mm、18枚刃、ダウンカット

S105rpm(V151m/min)送り0.32mm/tooth、切

り込み5mm

正面フライス削りで再生びびりが発生すれ

ば、旋盤削りと同様に、送りの進むにつれ

て図4に見るようにマークが少しずつ遅れ

て現れます。

図5 難削材特有の切りくず生成の周期

   性に起因する振動のマーク

被削材:アダマイト鋼、直径 180mm, 外周

旋削 V10-30m/min,送り 0.25mm/rev,切り込

み 1.5mm,工具 P20 超硬、ノーズ半径 0.4mm,固有振動数 170Hz の振動しやすい片持ち梁

に取り付けた工具による切削

振動の発生が、主軸の回転と同期する仕組

みがまったく無い状況では、振動マークの

傾きは図5の例に見るように、まちまちと

なり、一定の方向にのみ傾くということが

見られません。

チタン合金以上の耐熱金属、アダマイト鋼

などの高硬度材料、焼入れ鋼などの難削材

料の切削加工では、極低速、極小送りの場

合を除いては、5.1 節に示す図 19 に見るよ

うに鋸歯状の切りくずが生成されることに

よって誘発される難削材特有の切削振動で

あります。

この種の振動の特徴は、高い固有振動数で

起こる、刃先の切削方向の振動が原因であ

る、極低速、極小送りでは起こらないなど

の事が挙げられます。

振動の周波数と工作物回転数との間に直接

に比例する関係が成り立つのは、主軸駆動

3

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に同期して発せられる強制振動の場合であ

ります。図6の例は、立て旋盤において、

図6 主軸駆動系に起因する変位外乱形強

   制振動のマーク

被削材:特殊鋼板溶接構造の歯車材、内径

980mm,立て旋盤による内径面の仕上げ切削、

V31-58m/min(S10-19rpm),切り込み0.1mm,

送り0.16-0.54mm/rev,工具:P20超硬、ノー

ズ半径6mm

穴の内面仕上げ加工時に生じて問題となっ

た縞目模様の振動マークで、工作物を回転

させるテーブルの駆動系に組み込まれてい

るある軸が一回転あたり2回の振動を生じ

ていることに起因していたものであります

図7 混合形振動マークの例

被削材:炭素工具鋼SKD5(250Bhn)、直径

197mm,長さ968mm,S147-451rpm,切り込み

0.5mm,送り0.09mm/rev,P10超鋼、ノーズ半

径0.8mm、外径旋削。

強制振動の周波数が、たまたま再生びびり

を生じやすい固有振動数の近くにある時に

は、空転時に生じている振動の振幅が切削

中に、増幅されたり減衰されたりして現れ

ます。 図7は、隣接する機械から伝わっ

てきた外来振動が原因となってそのような

混合形振動を生じた場合の例であります。

図8 正面フライス加工の、切削の断続に

   よる強制振動のマーク

被削材;SS41P,幅 360mm,カッタ直径

457mm,18枚刃、ダウンカット、

S85rpm(V122m/min)、送り0.41mm/tooth,切

り込み5mm

切れ刃の断続周波数が固有振動数の極く近

くにあり、いわゆる共振を起こした場合の

振動マークの一例を図8に示します。

2.1.2 加工時の振動信号の収録と解析

主軸頭に加速度ピックアップを取り付け、

切削加工時の振動を収録して解析する方法

を紹介します。 CutPROソフトウェアシス

テムのMalDAQという信号取り込み解析モジ

ュールを使用しています。

図9は収録した信号の時間波形、図10はそ

の内の切削期間のみの信号をフーリエ解析

して、周波数成分の情報に変換した結果を

示しています。

TPFreq(工具通過周波数)333Hzは、主軸回

転速度(rpm)x刃数/60 で求められる切削

の断続周波数を示し、その2倍、3倍、など

整数倍の高調波周波数を x2,x3 …で示し

ています。

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D10 Ball End Mill: CutTest3 S10,000, F1,000Chatter•1166Hz

TPFreq 333Hz

x2 x3x4

x5 x6

x7

x8 x9

図9 切削加工実験の振動測定による収録加速度信号

CutTest 3 S10,000、F1,000、AxialDOC1.4, RadialDOC1.0

ボールエンドミル直径10mm、刃数 2, 突き出し長さ150mm

被削工作物:工具鋼SKD61 焼き入れ材 硬さ Hrc45

図10 上記収録信号のフーリエ解析結果 びびり発生:周波数1,166Hz  大加速度2.25g

も大きい周波数成分は 1166Hzにあり、そ

の周波数が TPFreq の 3倍と 4倍の間にある

ことが判ります。 このように 大成分の

周波数が、TPFreq の高調波周波数と一致し

ない場合は、再生びびりが発生しているこ

とを示しています。

2.1.3 構造動特性の測定

一例として D80L450 のボーリングバー先端

を測定する場合を紹介しましょう。この例

では ShopPRO というソフトウェアのインパ

ルステストモジュールを使用しています。

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振動特性はボーリングバーそのものと、そ

れを取り付けて使用する工作機械の主軸構

造(主軸の径、長さと軸受け配置 )によって

異なるので、実際の加工状況について機上

で実測することが必要です。

工作機械の主軸に取り付けたボーリングバ

ーの先端に、図 11 に見るように、加速度ピ

ックアップを取り付け、インパルスハンマ

を手に持って主軸先端を打撃するテストを

行います。インパルスハンマの先端には圧

電式の力センサが付いていて、ハンマがボ

ーリングバーに加えた打撃力の信号を検出

します。また加速度ピックアップは、その

打撃によってボーリングバ-先端に引き起

こされた自由振動の信号を検出します。

二つの信号は、AD 変換装置を経て、ノート

ブックパソコンに入力され、専用の信号処

理ソフトウェアがコンプライアンス(力入力

に対する振動変位出力の比)伝達関数に変換

して画面に表示します。

図 12 に、パソコンに入力された力信号と加

速度信号の時間波形を示しています。

ボーリングバー先端

刃先加速度ピックアップ

インパクトハンマー

ハンマーチップ

力センサー

図 11 ボーリングバーのインパルステスト

インパルスハンマーからボーリングバー先端へ伝わった力の時間波形

ボーリングバー先端の振動加速度の時間波形

ハンマー先端の接触時間

図 12 インパルステストによる信号波形

コンプライアンスのゲイン

ミクロン/N

位相、deg

固有振動数、184Hz

図 13 コンプライアンス伝達関数のゲイン

位相表示

図 13 は、専用の信号処理ソフトウェアによ

って計算された、コンプライアンス伝達関

数のゲイン-位相線図、図 14 はそれを実部

-虚部表示に切り替えた画面であります。

コンプライアンスの実部ミクロン/N

コンプライアンスの虚部ミクロン/N

最大負実部, 1.57ミクロン/Nコンプライアンスの実部ミクロン/N

コンプライアンスの虚部ミクロン/N

最大負実部、1.57ミクロン/N

図 14 実部虚部表示

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この測定例では、固有振動数が 184Hz と測

定されました。

以上に述べた、加工面の振動マークから推

定した振動の周波数、加工中の振動を収録

してフーリエ解析して把握した周波数、構

造動特性の測定を行って得られた固有振動

数の3者が互いに近い値であることを確か

めるておくことが診断解析の基本条件とし

て必要であります。

N= Ni+1 Ni Ni-0.5 Ni-1

Ni+0.5

Nは安定ポケットの次数 (浮動少数点)

Niは安定ポケットの次数 (整数)

ABプロセスダンピングによる低速安

定範囲

不等ピッチ/不等リードの有効範囲 安定ポケット法の有効範囲

図15 びびりの抑制方法として、低速安定性の利用、不等ピッチ/不等リードカッ

ターの使用、安定ポケット法が有効の主軸回転速度範囲の説明図

1次

安定ポケッ2次

3次

びびり周波数

Hz

切り込み

mm

切削速度, mm/min

3. 安定ポケット理論の実用

図15の説明図において、左端の主軸速度が

極めて低い範囲は、びびりが起こったら切削

速度を下げるしかないという古来の知識によ

る安定範囲を示します。

2000 年頃より実用化されてきている安定ポ

ケット理論は、右側の高速な範囲で1次から

5次までの安定ポケットが有効であります。

両者に挟まれた中間の速度範囲では、不等ピ

ッチ或いは不等リード角のカッタが有効であ

ります。これは、等ピッチカッターの場合に

は幅が狭くて使用できない高次の安定ポケッ

トが、不等ピッチ或いは不等リード角のカッ

タを使う場合には、幅が広く有効に使用でき

る安定ポケットとなるものがあるためであり

ます。

なお、一枚刃で行うボーリング或いは旋削の

場合には、主軸速度を常時連続的に上げ下げ

して、同一箇所を続けて2回同じ速度で通過

することがないようにする、変動速度切削と

いう方法がこれに対応します。

本稿ではまず 初に、近年実用化された安定

ポケット理論による再生びびり抑制の新しい

方法と、それを行うために必要な CutPRO と

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呼ばれるソフトウェアツールを紹介させてい

ただきます。

実際の加工工程に応用する場合、主軸回転数

の変動あるいは NC 指令による送り方向の変

更によって起こる構造動特性(固有振動数)

の変化、加工の進行に伴って形状が変化して

ゆく工作物の構造動特性の変化など、時間の

経過に伴う変動要因があります。この変動を

リアルタイムに追従して安定範囲を保つため、

主軸回転数の変更へフィードバックする「リ

アルタイムびびり制御装置」も開発されまし

た。安定ポケット理論の解説に続いて、この

リアルタイムびびり制御装置についても

紹介させて頂きます。

3.1 安定ポケット理論とは

再生びびりの安定限界線図に、安定ポケット

のあることは古くから理論的に知られてはい

ましたが、それを利用して実際にびびりを抑

制する技術は、近年の工作機械主軸の高速化

と、CBN を代表とする高速切削に適した工

具の実用によって初めて可能となりました。

この新技術の実用は、カナダのマックマスタ

ー大学(1971-1985)とそのあとアメリカの

フロリダ大学(1985-2001)で活躍した、故

G.トラステイ教授とその同僚、教え子諸氏の

多年にわたる研究によって実証され、普及し

てきたものであります。

本稿で紹介する CutPRO ソフトウェアは、

G.トラステイ教授のマックマスター大学での

活躍を支えた技術員であって、現在カナダの

ブリテイッシュコロンビア大学で研究開発を

続ける Y.アルテインタス教授が、同大学が

設置している Manufacturing AutomationLaboratories 社(MAL Inc)から製品化している

ものであります。

一方、G.トラステイ教授がその後フロリダ大

学で活躍したときの教え子たちが商品化して

いる Manufacturing Laboratories 社(MLI Inc.)のソフトウェア製品もあり、MetalMAX の名で

知られております。また同社からはリアルタ

イムびびり制御装置として Harmonizer とい

う製品が商品化されています。

これらのソフトウェア製品を使うことにより

工具側あるいは工作物側の振動特性を簡単に

機上で測定すると、直ちに安定限界線図を計

算して表示し、ユーザはそれを見て主軸回転

数をある特定の速さに調節することにより、

びびりのない加工を行うことが出来る新しい

技術が実用されるようになりました。

その効果は画期的でありまして、1990 年台

の後半からアメリカ、カナダの航空機産業で

実用されるようになり、今日では高速高出力

主軸 (20,000-30,000rpm、60-120kw)を備えた

航空機機体構造部品加工用大形マシニングセ

ンタによるアルミ合金の高速ミリングの実現

を見るにいたっています。

また複雑形状のため突き出しの長い工具を必

要とし、工作物が難削材であるケーシング、

インペラ、インヂューサ、ブリスク、タービ

ンノズルなどの航空機エンジン部品のマシニ

ングセンタ加工にも必須の技術となっていま

す。

航空機関連を除く、われわれに身近な加工状

況であっても、(長さ/径)比の大きなボー

リング加工、長いエクステンションアーバの

先にカッタをつけて行う深彫りフライス加工

などに顕著な効果を発揮します。安定ポケッ

ト理論の実用によるびびり抑制のこの新しい

技術は、今後金型加工にも威力を発揮できる

ものと考えられます。      

3.2 安定限界線図の見方

先の図 13 あるいは図 14 のように、構造動特

性の測定結果が得られますと、専用ソフトウ

ェアは続いて安定限界線図を計算し、図 16のように画面に表示します。

図 16 の安定限界線図は、古くから知られた

Tobias あるいは Tlusty 等のびびり理論に

8

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大まかには合致する結果ではありますが、細

部では少し異なっています。 多年にわたり

多くの研究者(アルテインタス教授達)が、さ

らに詳細で込み入ったびびり理論を研究し、

その理論を数式化してコンピュータで綿密に

計算した、いわゆるバーチャルな専用ソフト

ウェアによる計算結果であります。

この図は主軸回転数に対して、びびりを生じ

る限界切込みが変化する状況を示しており、

図の右の方には、安定限界が部分的に高くな

るいわゆる安定ポケットがいくつも並んでい

ます。どのようなわけで、これらの安定ポケ

ットが現れるのか以下に簡単に解説します。

先の図 1 は、再生びびりが生じる状況を示し

ておりました。前回切削時にびびりのために

残された起伏 (アウターモジュレーション

という) を、そのつぎには、ややずれて倣

いながら削っていく現象であります。後者に

より生じる起伏をインナーモジュレーション

といいます。 両モジュレーション間のずれ

を図中の位相角 φで示し、工具刃先に作用す

る切削力の瞬間変動分は刃先点における両モ

ジュレーションの差に相当する瞬間切削厚さ

の変動分 u に比例するものとしています。

再生びびりは位相角 φが約 4 分の 1 周期(約90 度)ずれる図 1 の状況でもっとも起こりや

すいのですが、もし主軸の回転速度を調節し

て、位相角 φが 0(ゼロ)、つまり両モジュ

レーションの時間的なずれがない状況を作り

出すことが出来れば、切削厚さは一定で変動

がなくなり、振動を起こそうとする変動力

11,040rpm

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 Cutting Speed [m/min]

[1] 184Hzx60=11040rpm危険速度に付き、使用できな

い回転速度[1/2]

11040/2=5520rpm

11040/3=3680rpm

[1/4] 11040/4=2760 rpm

旧来の回転速度範囲

びびり抑制推奨回転速度

[1/3]

安定ポケットNo.1安定ポ

ケットNo.2No.3

No.4

不安定ローブNo.1

不安定ローブNo.2

No.3

No.4

  図 16 専用ソフトウェアによって計算された安定限界線図

9

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がなくなるからびびりは理論的におこらな

いはずであります。

そのような状況はボーリングバーの場合、

主軸一回転当たりちょうど一周期の振動が

生じるときに起こりうるので、そのような

回転数を計算してみると、例題のボーリン

グバーの固有振動数は 184Hz であるから

184Hz x 60/(刃数=1) = 11,040rpm

先の図 16 中では、この値を中心速度として

No.1 の安定ポケットのあることが示されて

います。 ただし刃数が 1 のボーリングバ

ーの場合、この速度はそのまま回転軸の固

有振動数であり、それは危険速度であるた

め、その近くの速度で主軸を回転さすこと

は極めて危険です。決して行ってはなりま

せん。

主軸回転速度を二分の一にして主軸一回転

当たりちょうど二周期の振動が生じるよう

にしても、同じ φが 0(ゼロ)の原理でび

びりの起こり得ない状況となります。これ

が No.2 の安定ポケットで、その中心速度は

11,040/2=5,520rpm です。

同様に主軸一回転あたり、三周期あるいは

四周期の振動が生じるように調節すれば同

じく φが 0(ゼロ)の状況が得られ、それ

ぞれ No3. No4 の安定ポケットがそれに

対応します。

さらに主軸一回転あたりの振動の回数が多

くなると、経験上この方法は効果が失われ

ます。No.4 までは効果があるが、No.5 はや

や薄れ、No.6 以上ではびびり抑制が困難と

なります。 

その理由は、安定ポケットの中心回転数に

ぴったり主軸速度をあわせておいても、び

びりの起こる周波数がひとりでにわずか変

化して、インナーモジュレーション、アウ

ターモジュレーション間の位相差 φがびび

りの起こりやすい 90 度近くに自己調整され

てしまうためであります。

従って、一枚刃のボーリング工具であれば、

No.2, 3 および 4 の安定ポケットの中心回

転数が、推奨できる主軸回転数です。

旧来、安定ポケット理論が実用できなかっ

た理由は、図 16 の左側に示したように切削

速度が低く次数の高い安定ポケットが連な

る領域で作業せざるを得なかったためであ

ります。

今日では、工作物が鋳鉄であれば CBN 工具

を使うことにより 1,500m/min までの高速加

工が可能でありますから、図 16 中の推奨回

転速度のいずれかを選んで作業すればびび

りなしの加工を行うことが出来ます。

例題のボーリングバーは、旧来はいかに工

夫を重ねても強烈なびびりが発生して、貫

通穴の仕上げ加工ができなかったものが、

No.4 ポケットの中心回転数 2,760rpm を採用

することにより、びびりを生じることなく

高精度の仕上げ加工が行えるようになりま

した。

1

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安定ポケットNo.1

117Hz x 60 /4 = 1755rpm

No.234

図 17 D80, L550 の 4 枚刃シェルエンドミルの安定限界線図

3.3 フライス加工の例

D80, 4 枚刃のシェルエンドミルをエクステ

ンションバーにつけて突き出し長さ L550とした工具を、マシニングセンタ主軸に装

着して機上でインパルステストを行った結

果は、固有振動数が 117Hz でした。

びびり安定限界線図は、図 17 に見るように

計算され、安定ポケット No.1 の中心回転数

が 117Hz x 60 / (刃数 4) = 1755rpm に

あり、これは刃数 4 で割られているから、

主軸の危険速度ではありません。No.2 はそ

の 2 分の 1 の 878rpm、No.3 は 3 分の 1 の

585rpm、No.4 は 4 分の 1 の 439rpm で、これ

らが推奨回転数であります。例題のカッタ

は、従来やむを得ずびびりながら 6 時間か

かって加工していた作業を、1755rpm で行

うことにより、びびりなしに

45 分で終了できるようになった事例でした。

4. 気を付けて頂きたいこと

4.1 びびりの種類

びびり限界線図の安定ポケットを利用する

この新しい技術は、再生びびりにのみ有効

であり、発生原因の異なる他の種類のびび

りには効果が有りません。

4.2 インパルス加振で打撃する場所

機上に装着した工具の刃先をハンマでイン

パルス加振しますが、振動しやすい場合に

はハンマが二度打ち(ダブルヒット)してデ

ータが取れないことがあります。

刃先より根元側をインパルスすれば二度打

ちは起こらないが、採取されるデータが正

しくなくなり、安定限界線図が不当に高く

計算される結果となります。

1

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このような場合、替わりに根元側をインパ

ルスしてデータを採取し、後で刃先をイン

パルスした場合のデータを計算で求める

「リセプタンス合成」という方法がCutPRO

ソフトウェアのModalというモジュールに

用意されていますので、この方法を利用し

てください。

4.3 低速ミリングの安定ポケット計算

安定ポケット理論は上に述べたように、ア

ルミ合金を材料とする航空機機体構造部品

の高速ミリング(主軸回転速度が毎分数千

から数万回転)で成功を収めてきました。

近年は航空機機体構造部品にもチタン合金

材料が増えてきました。 また金型も含む

普通の鋼材の加工は毎分数百から数千回転

の比較的低速で行われます。

このような低速(上記の高速に対比して)

ミリングの安定ポケットを計算する場合に

は、不要に高い固有振動数の構造動特性を

削除しておくことが必要です。

不要に高い固有振動数は、加工に用いよう

とする低い主軸回転数では低速安定性のた

めに実際にはびびりを生じなくなっている

ためであります。

削除すべき固有振動数は後出5.3節の(1)式

を用いて加工しようとする主軸回転数に対

し、固有振動数を逆算します。その値の二

分の一の固有振動数あるいはそれ以上の周

波数の固有モードを削除しておくことが必

要です。

削除する操作はModalというモジュールで

構造動特性のモーダルパラメータを同定す

る際に行います。

図 18 リアルタイムびびり制御装置の表示画面

1

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5. リアルタイムびびり制御装置

リアルタイムびびり制御装置は、CutPRO ソ

フトウェアを用いて加工条件を決定しても、

加工が開始されてからの時間経過にしたが

って生起する変動要因に自動的に追随して

制御するための装置であります。加工機械

のカバー内に設置したマイクロフォンで加

工音の音圧信号を、あるいは機械本体に取

り付けたセンサで加速度信号をこの装置に

取り込みフーリエ解析と識別を行います。

フィードバック制御を行うためには、加工

機のオーバライド入力端とこの装置を接続

し、自動フィードバックのトグルボックス

にチェックを入れておくことにより、イン

ターフェースを介して主軸速度と送り速度

のオーバライド指令がリアルタイムに NC制御装置に伝達されます。トグルボックス

にチェックを入れない場合には、表示のみ

の使用となります。

この装置の制御モードを、次の三つのいず

れかにセットして使用します。

制御モード1:等ピッチカッターの使用

このモードは、アルミ合金や鋼などの通常

材料を比較的高速度で加工する場合に安定

ポケット理論を適用します。

制御モード2:不等ピッチ/リードカッタ

ーの使用

制御モード1よりやや低い、等ピッチカッ

ターでは安定ポケット理論が有効ではない

切削速度の場合に適当です。

制御モード3:プロセスダンピング効果の

使用

このモードは極端に大きな切込みに対して

低速安定性を利用し、切削速度を極めて低

くして行う場合に適当です。

以下の各節に、各制御モードでの使用方法

を紹介します。

5.1 制御モード1:等ピッチカッター

振動状況が現在次のいずれであるかが表示

されます。

1.強制振動

2.再生びびり

3.難削材特有の振動

1の強制振動と判定されている場合には、

びびりは起こっていないので、 良の状況

にあります。

2の再生びびりの場合には、それを避ける

よう安定ポケット内に移行するための主軸

オーバライド指令が表示されます。 自動

フィードバックのトグルボックスにチェッ

クが入っている場合には、そのオーバライ

ド指令が NC 制御装置に送られて自動的に

制御が進行します。

再生びびりの判定結果が表示されて、主軸

速度のオーバライドが行われたにもかかわ

らず強制振動の表示に変化しないというこ

とを何度も繰り返す場合には、NC プログラ

ムに設定されている切込み量が大き過ぎる

か、または工作物の構造動特性が変化して

大幅に不安定領域になっています。加工を

中断して調整しなおす必要があります。

チタン合金、耐熱鋼、インコネルなどの難

削材の場合には特有の振動が発生すること

があります。この振動は難削材特有のもの

で再生びびりではありません。先の表1に

ある IA2 切屑生成の周期性に起因する振動

です。図 19 にそのような切りくずの例を示

します。

3の難削材特有の振動と判定された場合に

は、許容して加工を続けるか、それを防ぐ

ように加工条件を変更するかの意思決定を

行います。

チタン合金の粗加工の場合は、わずかな振

動マークが仕上げ面に残るものの許容でき

1

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図 19 難削材特有の鋸歯状切りくず

るものと考えられます。ただし極めて重切

削を行う時は、工具切れ刃の損傷を起こし

ます。

仕上げ加工の場合には許容できません。 

またチタン合金以外の硬質の難削材では工

具切れ刃のマイクロチッピングが起こるの

で普通はこの振動を防ぐことが必要です。

この種類の振動を防ぐためには、切れ刃直

角の切削厚さを小さく(0.05mm 以下)にする

か、または切削速度を低くします。

5.2 制御モード2: 不等ピッチ/リー

ドカッタ

不等ピッチ或いは不等リードのカッタを有

効に使用するためには、幅が広く有効に使

用できる安定ポケットがどの主軸回転数で

発生するか、その中心回転数をCutPROソフ

トウェアのミリングシミュレータを使って

把握しておくことが必要です。

5.2.1 シミュレーション計算の手順

不等ピッチ或いは不等リードカッタの安定

限界線図計算は、時間経過で加工作業を再

現して計算するタイムドメインと呼ぶ方法

で行われます。

以下の図 20 以降の設定を行なってから、タ

イムドメイン計算を行う主軸速度範囲を指

定して計算を開始します。

図 20 不等リードカッタのデータ入力

 図 21 構造動特性データの呼び出し

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図 22 加工状況と計算条件の設定

図 23 タイムドメイン計算の主軸速度範囲

    の設定

図 24 設定終了と計算開始

図 25 タイムドメイン計算で求めた安定限

    界線図の例

5.2.2  加工プロセスシミュレーションで、

生じる振動の周波数を同定する。

リアルタイムびびり制御装置のモード2を

使用して、不等ピッチ/不等リードカッタの

びびり制御を行うには、次の二つの値を把

握しておくことが必要です。

A びびりの生じる固有振動数

B それに対応する安定ポケットの中心主

   軸回転数

の二つです。

タイムドメイン計算で求めた安定限界線図

図 25 から上記の B を求め、次に加工プロセ

スシミュレーションで A を同定します。

〔安定条件の例〕 図 25 中で、安定条

件(ハ)を選定しました。その条件でのシ

ミュレーション結果図 26 に見るように、も

っとも顕著な振動成分の周波数が、主軸回

転数、または(主軸回転数x刃数)の整数

倍に一致する場合は、強制振動が起こって

おり、びびりは起こっていません。安定な

状況です。

〔不安定条件の例〕図 25 中で、不安定条件

(二)を選定しました。シミュレーション

結果図 27 に見るように、もっとも顕著な振

動成分の周波数が、主軸回転数、または

(主軸回転数x刃数)の整数倍に一致せず、

それらの中間の周波数に現れる場合は、び

びりが起こってる不安定状態です。

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図 26 安定条件(図 26 の(ハ) S3100rpm、DOC50mm)でのシミュレーション結果例

図 27 不安定条件(図 26 の(二) S3100rpm、DOC200mm)でのシミュレーション結果例

図 27 の例では、びびり周波数は 990Hz に現

れています。対応する固有振動数は 961Hzと推定されます。

したがって、次の二つのパラメータが得ら

れます。

A.仮定する固有振動数 961HzB.その固有振動数に対応する、使用した

い安定ポケットの中心回転数 3100rpm

リアルタイムびびり制御装の制御モード

2(不等ピッチカッターの使用)において、こ

れら二つのパラメータを設定します。

5.3 制御モード3:プロセスダンピング

効果の使用

インペラと呼ばれる部品の直線線素を持つ

ブレード面に、図 28 に見るように工具の側

面を当てて加工する場合は、軸方向切込み

が大きくなるためびびりが極めて発生しや

すい状況です。しかしこの場合でも切削速

度を極端に低くすると、びびりが抑制でき

ることは古くから知られており、その原因

は刃先にプロセスダンピングと呼ばれる減

衰力が作用するためであるといわれてきて

います。

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図 28 インペラの直線線素を持つ

ブレード面の加工

このプロセスダンピングの現象に関して、

これまでに行われた研究結果 [参考文献

2-7] をまとめることによって、ある限度

以下に切削速度を下げると、いかなる重切

削においてもびびりが生じなくなる、臨界

切削速度 Sas のあることが明らかとなって

います。

ミリング加工の場合の臨界切削速度の値は

次の(1)式で与えられます。

ただし、ミリング加工特有の図 29 に示すよ

うな幾何学的な関係から、Zav は、Z をカッ

タの刃数とするときの、平均実効刃数で次

の式で与えられます。脚注)

脚注)ボーリング加工の場合は、Zav=Z、h av=半径方向切り込みとなります。

)(/))()(120()( mmhhHzZrpmS avoavas 工具直径、固有振動数、 += γ 

…(1)

Engage Angle

EA(rad)

Disengage Angle

DA(rad)

θ

h

h (cosθ)

Rotation of cutter

図 29 ミリングの幾何学的関係

EA と DE はそれぞれエンゲージ角およびデイスエンゲージ角(ラジアン)

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π

πθ

2)(

2EADAZ

dZZ

DA

EAav

−=

= ∫…(2)

また、平均実効切削厚さh av が次の式で

与えられます。

)()sin(sin

)(cos

EADAEADAh

d

dhh DA

EA

DA

EAav

−−

=

=∫

∫θ

θθ

… (3)

また、(1)式中のγは切削送り分力に対

する主分力の比、h o は、刃先力の等価

切削厚さです。

Amin

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

x Sas(rpm)

8

6

4

2

1

0

3

5

7

xA

min

図30 プロセスダンピンgによる低速安定性の増大

臨界切削速度 Sas に切削速度が近づくと、

図 30 に示すように、無条件安定限界切り込

み Amin が増大します。

〔数値例〕

〔工具条件〕

工具直径 20, 等ピッチカッタ 4 枚刃 (Z=4),すくい角 12o, 逃げ角 12o

〔切削条件〕

f = h = 0.05mm/tooth、エンゲージ角 30 度(π/6)、デイスエンゲージ角 90 度(π/2)、半径方

向切り込み 5mm, Zav =0.67, h o=0.044 γ =2.2563 hav: 0.05/ (π/3) = 0.05/1.05 = 0.047,

〔仮想的な固有振動数〕 1,000 Hz

)(/))()(120(

)(

mmhhHzZ

rpmS

avoav

as

工具直径、

固有振動数、 += γ

=0.67 x 120 x 1000 x 2.25 x (0.044+0.047)/20=824rpm

以上が臨界速度以下に切削速度を下げると、

いかなる重切削においてもびびりが生じな

くなる、いわゆるプロセスダンピングの効

果の原理であります。

臨界速度は式(1)に見るように、びびり

を生じる固有振動数に比例するので、あら

かじめ加工状況に応じてびびりを生じるあ

る仮想的な固有振動数(この計算例の場合

1,000Hz)に対応する臨界速度 (824rpm) をユ

ーザが与えておけば、加工中にびびり周波

数をリアルタイムに検出する本装置によっ

て、主軸回転数を適当な値に保ち、びびり

を抑制するのが制御モード3であります。

6. まとめ

切削加工に生じる振動問題のうち、事例が

多くまた有害な「びびり」(正確には再生

びびり)について現在知られている有効な

手段には、プロセスダンピングによる低速

安定性の利用、不等ピッチ或いは不等リー

ドカッターの使用、ならびに安定ポケット

理論の実用の3件があります。

本稿は、それらを実際の加工に応用するた

めに役立つ CutPRO ソフトウェア、ならび

にリアルタイムびびり制御装置の使い方を

概説いたしました。

1

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これまで成功例の多い航空機機体アルミ合

金部品の高速ミリングのほかに、 近増え

てきているチタン合金や、ごく普通の鋼材、

航空機のエンジン部品、金型の粗加工なら

びに仕上げ加工などの、低速ミリング(アル

ミ合金の高速ミリングに対比して)において

も有効な加工状況は多く有ります。

振動問題を診断し解析しこれらの手段を使

いこなして、解決に当たる担当者の養成が

急務であります。

筆者は機械加工の振動解析をライフワーク

として研鑽に努めてまいりました。

企業の現場担当者にそのノウハウと経験を

お伝えすることに傾注しております。

現場ご担当者からのご相談と指導に無償で

対応させていただいております。遠慮無く

次の連絡先に連絡してください。

ホームページ

http://hoshirt.lspitb.org E-メールアドレス  

[email protected] )

参考文献

[1] 星 鉄太郎、機械加工の振動解析、工

業調査会、15, 1990[2] M. K. Das and S. A. Tobias: The Basis of aUniversal Machinability Index, Proc. 5th Int.MTDR Conf., (1964) 183.[3]   M. K. Das and S. A. Tobias: StatisticalBasis of a Universal Machinability Chart, Proc.6th MTDR Conf., (1965) 719.[4] M. K. Das and S. A. Tobias: The Relationbetween the Static and the Dynamic Cutting ofMetals, Int. J. MTDR, 7 (1967) 63.[5]   T. Hoshi and K. Okushima, Cuttingdynamics associated with vibration normal tocut surface, Annals CIRP 21/1, 1972, 101[6] T. Hoshi and T. Takemura, CuttingDynamics Associated with Vibration Normal toCut Surface, Memoirs of Faculty of Engineering, Kyoto University, Vol. XXXIV,Part 4 (OCTOBER 1972) 373.[7] 竹村正、京都大学博士学位論文, 1977

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