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ESRI Discussion Paper Series No.295 子どもを持つ若年層を対象とした 幸福度に関する研究 上田路子 、川原健太郎 January 2013 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものでは ありません(問い合わせ先:https://form.cao.go.jp/esri/opinion-0002.html)。

子どもを持つ若年層を対象とした 幸福度に関する研 …ESRI Discussion Paper Series No.295 子どもを持つ若年層を対象とした 幸福度に関する研究

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ESRI Discussion Paper Series No.295

子どもを持つ若年層を対象とした

幸福度に関する研究

上田路子 、川原健太郎

January 2013

内閣府経済社会総合研究所

Economic and Social Research Institute

Cabinet Office

Tokyo, Japan

論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものでは

ありません(問い合わせ先:https://form.cao.go.jp/esri/opinion-0002.html)。

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ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研

究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究

機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し

て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見

解を示すものではありません。 The views expressed in “ESRI Discussion Papers” are those of the authors and not those

of the Economic and Social Research Institute, the Cabinet Office, or the Government of Japan.

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子どもを持つ若年層を対象とした幸福度に関する研究1

上田路子2、川原健太郎3

要旨

少子化問題を抱える現代社会において、一人でも多くの親が幸福を感じながら子育てを

していけるようにすることは大切である。特に次代を担う若年層が子育てに対して不安を

感じ、子どもを持つことを躊躇することにならないよう、その現状を明らかにし解決策を

探ることによって、子どもを持つことで未来への希望を持てるようにすることが求められ

る。本研究は平成 23 年度に内閣府によって実施された「生活の質に関する調査」を用い、

20 代・30 代の子育て世代の幸福度が、子どもの存在によってどのように影響を受けている

かを分析するものである。特に、子育ての負担は女性に多くかかっていると考えられるこ

とから、男女別の分析を様々な角度から試みた。

分析の結果、子どものいる若年層の女性は、子どもがいない同年代の女性に比べて、現

在の幸福感、生活満足度、5 年後の幸福度のいずれもが低い傾向にあることが明らかになっ

た。男性の場合、子どもがいる男性と子どもがいない男性に間に幸福度の差は存在しない。

さらに、世帯収入の高い女性は収入レベルが低い女性に比べて全般的に幸福度が高いもの

の、子どもがいる女性とそうでない女性の幸福度の差はかえって大きく、この結果は収入

の高さは子育てに関する負担感を補うわけではないことを示唆している。また、常用雇用

され、かつ子どもがいる女性は、現在の幸福感も生活満足度も低いという統計的に有意な

結果が得られた。つまり、子どもを持つ女性の幸福度が子どもを持たない女性に比べて低

いのは、共働きをしている女性が子育ての負担を多く感じていることによると思われる。

さらに子育て支援サービスに満足している女性の幸福度と、子どもがいない女性の幸福度

の間に統計的に有意な差は存在しない一方、満足していない女性の場合は、子どもがいな

い女性にくらべて幸福度が低い。この結果は子育て支援サービスの充実の重要性を示唆し

ている。

本研究の分析モデルでは、回答者が結婚している年数を入れることができなかったため、

本研究の結果では有配偶で子どものいない若年層の多くが新婚である可能性が高く、その

後子どもを持つ時には幸福度が下がってしまう恐れがあることに注意が必要である。

また、本研究はあくまでも子育ての入り口に直面している若年層に限った分析であり、

必ずしも子どもを持つことそのものが幸福感を下げることを示すものではない。子育て初

心者で悩みに直面する若年層が子どもを持つことの負担感がなくなるよう、より一層の支

援の充実が重要であると思われる。

1 本稿を公表するに際し内閣府経済社会総合研究所のESRIセミナーでの報告において、二神恭一早稲田大学名誉教

授・荒川区自治総合研究所所長には貴重なコメントを頂いた。さらに、小島愛之助内閣府経済社会総合研究所次長、幸

福度研究ユニットをはじめ、参加者の皆様から貴重なコメントをいただいた。ここに記して感謝申し上げる。なお、本

稿で示した見解はすべて筆者個人の見解であり、所属機関の見解を示すものではない。 2 シラキュース大学 リサーチ・アシスタント・プロフェッサー、内閣府経済社会総合研究所 客員研究員 3 内閣府経済社会総合研究所 政策調査員

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Childbearing and Subjective Well-being in Japan

: A Study on Parents in Their 20s and 30s

Michiko Ueda. and Kentaro Kawahara.

This paper examines the association between parenthood and subjective

well-being using survey data conducted by the Japanese Government in March 2012.

We analyzed whether parenthood is associated with the level of subjective well-being of

respondents aged 20-39 using an ordered logit model. Our estimation results suggest

that Japanese women in the age group are much less likely to be happier when they are

parents compared to when they are non-parents. We obtain the same results when their

subjective well-being is measured by the level of life-satisfaction or predicted happiness

in five years. In contrast, for Japanese men in the same age group, the presence of child

has no association with their happiness or life-satisfaction level. In addition, we find

that Japanese mothers with a full-time job report lower levels of subjective well-being

compared to mothers who are not working full-time. We also find that mothers who are

not satisfied with the quality and availability of childcare are more likely to report that

they are unhappy compared to those who are satisfied with the existing childcare

options.

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1.はじめに

本稿は主に子どもを持つ 20 代・30 代の若年層を対象とした幸福度に関する実証的研究で

ある。現代社会が直面している少子化の時代において、これから子育てに取り組む若年層

が一人でも多くより幸せに子育てをできるようにしていくことは重要であると思われる。

しかしながら、子どもを持ち子育てに取り組む中で、人は親として数多くの課題に直面す

る。それは例えば子育てに関する支援の不足、保育園の待機児童問題、子育てにかかる経

済的負担、ワーク・ライフ・バランス、ひとり親にかかる負担などである。

もし、これらのために若年層が子育てに対して不安を感じ、子どもを持つことを躊躇す

ることにつながるのであれば、その現状を明らかにし、解決策を探ることで子どもを持つ

ことの未来への希望を見出すことが求められる。そこで、子育てに直面している次代を担

う若年層の現状を把握することは重要な研究課題の 1 つであると思われる。

特に、本研究においては子どもを持つ若年層の幸福度に着目し、分析を進める。幸福は

古くはローマ・ギリシャ時代から人間の営みに関わってきた概念であるが、現代に入りブ

ータンによる国民総幸福量(Gross National Happiness : GNH)の提唱、持続可能な成長、

経済の枠組みを超えた新たな進歩の測定など、幸福の度合いを示す幸福度に対する注目が

改めて高まっている。2000 年代以降より近年にかけて幸福度に対する取り組みが非常に活

発化しており、日本を含む世界各国で様々な調査が行われている。学術研究の分野におい

ては、経済学、心理学、社会学などで幸福度に関する調査研究が複数の角度から進められ

ている。

海外及び国内の過去の研究において、子どもを持つことは生活満足度や人生価値などの

さまざまな主観的幸福度と関係していることが指摘されている。しかし、研究者の間で合

意ができているとはいえない状況であり、より多くの視点からの分析が求められている現

状にあると思われる。

以上をふまえ、本研究は子どもを持ち子育てに直面する 20 代・30 代の若年層の主観的幸

福度(現在の幸福感、生活満足度、5 年後の幸福感)の現状を明らかにすることを目的とす

る。特に本稿では子育ての負担が特に大きいと考えられる女性の幸福度が子どもの存在に

よってどのように影響を受けているかに注目する。具体的には、最新の幸福度調査を用い、

子どもがいる回答者と子どものいない回答者では幸福度に差があるかどうかを検証する。

そして、もし差があるのであればどのような属性を持つ親の幸福度が低い傾向にあるのか、

さらに子どもの有無によって幸福度に違いがある原因は何かを明らかにすることを目標と

する。さらに、補論として子育て中の若年層の生活時間の満足に関しても取り上げる。

本研究で使用するデータは、2012 年 3 月に内閣府経済社会総合研究所によって実施され

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た「第 1 回生活の質に関する調査」(以下「生活の質調査」)である。この「生活の質調査」

は幸福度、生活満足度、生活局面の満足、生活時間の満足など、さまざまな形で幸福度に

関する質問項目を含んでいる。調査対象は 15 歳以上の者であり、訪問留置法によって

行われた。子どもの数、婚姻状況の他に子育てや子育てサービスへの満足度など、子育て

に関する項目も調査しており、子育てと幸福度の現状を知ることができる貴重なデータで

ある。

本研究の意義は、子どもを持つ若年層の幸福度を多角的に明らかにすることで、子ども

を育てる人々の負担感の軽減や子どもを育てる若年層の幸福度を高めることにつながるよ

うな、政策的インプリケーションを得ることにある。

以下、本論の構成は次の通りである。2 節では、子育てと幸福度に関する先行研究をまと

めその概要を論じる。3 節では本研究で分析に用いる調査の概要を述べる。4 節では、子ど

もの有無によって幸福度がどのように異なるか、そして異なるとすればその背景は何かを

明らかにする。5 節はまとめである。

2.先行研究

本節では子育てと幸福度に関係する先行研究を紹介する。

子どもを持つことによる幸福度に関する研究では、子どもを持つことは幸福度を高める

が生活満足度を引き下げる効果があることや、子どもを育てることは精神的な幸福感を高

めるが金銭面など生活面での幸福感を引き下げるとの研究がある(白石・白石、2010)。同様

に、子どもを持つことは非金銭面での満足度を高めるものの、金銭的な負担感が幸福感に

及ぼす負の影響が大きいため、総じて子どもを持つ人々はそうでない人々に比べて幸福度

が低いという研究結果も報告されている(Stanca, 2012)。さらに、過去の先行研究を詳細に

サーベイした Hansen (2012)は、子どもの存在と幸福度には負の関係にあると結論付けてい

る。

一方、子どもは生活満足度を高めるが、幸福度を高めないとの指摘もある(Haller and

Hadler, 2006)。さらに英国統計局による調査では、子どものいる世帯に暮らす人々は、現

在子どもと一緒に住んでいない世帯の人々に比べて、自分たちの人生により高い「価値」

を見出している反面、「生活満足度」「昨日の幸福度」、「昨日の心配」に関する質問への回

答では、子どもの有無によって平均値に有意差がないことが報告されている(ONS, 2012)。

また、子どもの存在は幸福度に直接的に影響していないものの、男女共に配偶者がいる場

合、子どもがいる回答者のほうがいない回答者よりも幸福度が高いことを示した欧州社会

調査のデータを用いた研究結果も存在する(Aassve et al, 2012)。子どもがいる世帯が子ど

ものいない世帯よりも鬱状態のレベルが高いという研究もある(Evenson and Simon,

2005)。

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子どもを持つことのライフコース全体への影響の研究に関しては、親であることや子ど

もを育てる経験はライフコースに渡って、潜在的に一部の人に対しては累加的な利益をも

たらすものの、他のグループには不利益を与えている可能性を指摘する文献サーベイも存

在する (Umberson et al, 2010)。さらに、子どものライフコースの遷移による親の幸福度

に対する影響の研究もあり、子どもの離婚がネガティブな影響を与え、子どもの結婚や出

産がポジティブな影響を与えることを示した研究もある(Kalmijn and De Graaf, 2012)。

性別に関しては、例えば、結婚と子育てに関する日米比較研究において子どもは女性の

結婚生活の質を低くすることや、子どもの誕生によって妻が子どもの負担を主に背負うこ

となどにより、子どもの存在の結婚生活の質に対するマイナスの効果が女性に限られてい

ることが指摘されている(小野・リー、2010)。日本、中国、韓国の東アジア諸国における

2006 年のデータを用いた研究では、12 歳未満の子どもを持つ女性は子どものいない女性よ

りも生活満足度が低いが、男性は幼い子どもの存在はかろうじて有意に正の影響があるこ

とが示されている(Yamamura,2012)。第 1 子を超える子どもは、男性には影響がないのに

対して女性の主観的幸福度にネガティブな影響を与えることを示す研究もある(Kohler et

al, 2005)。一方で、妊娠時に人間関係の満足が高い女性は満足度が低い女性より 3 年後も

満足度が高いとの結果もある(Dyrdal et al, 2011)。

育児の時間と性別に関する研究では、育児時間と仕事と家庭の円滑化の関係は、仕事を

持つ女性には肯定的だが、男性では有意ではないとの研究がある(Hill, 2005)。さらに、

性別により家庭内での役割分担は大きく、男性の方が有償労働の労働時間が長い反面女性

は無償の家事労働に費やす時間が長い傾向にあることも指摘されている(OECD,2012)。一

方、夫婦のパートナーの時間配分の不平等に関して、子どものいない家族においては時間

配分の満足に影響を与えるが、子どものいる家族ではそうではないとする研究もある(Le

and Miller, 2012)。

他にも、幼い子どもがいることは、幸福度や満足度に関連がない反面、男性の幸福度に

おける幼い子どもの影響は、社会における親であることのより広い評価に依存していると

の研究もある(Vanassche et al, 2012)。

子どもを持つ世帯の属性に関する研究では、次のようなものがある。子どもの数に関し

て、子どものいる世帯に暮らす人々の「人生の価値」は子どもがいない世帯に比べて有意

に高く、2 人またはそれ以上の子どもと暮らす世帯においてはさらに高いという報告がある。

さらに、「生活満足度」、「人生の価値」、「昨日の幸福度」に関する質問への回答の平均値は

末子が 1 歳の家族が最も高く、家族における末子の年齢が上がるにつれて減少していると

の調査結果がある(ONS, 2012)。ひとり親の幸福度に関しては、ひとり親は子どものいない

パートナーのいる人よりも幸福度が低いとの研究がある(Frey and Stutzer, 2000)。

子育てと幸福度に関する先行研究に関しては非常に多くの研究があり、ここでは紙幅の

関係もありその一部を紹介するにとどまる。しかし、パートナーの存在は主観的幸福度に

ポジティブな影響を与えていることや、子どもの存在はさまざまな社会的要因とも相まっ

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て、幸福度を必ずしも高めるものではないが、人生の価値など他の主観的幸福度を高めて

いるとの結果は既存研究で示されている。

以上みたとおり、主観的幸福度に対する子どもの存在の影響は、何らかの変化をもたら

しているようであるが、必ずしも一定の合意がみられてはいないという課題がある。本稿

ではこれらを踏まえ、最新のデータから日本の子育て中の若年層における主観的幸福度に

関して現状を明らかにするものである。

3.調査の概要

本研究において使用するデータは 2012年 3月に内閣府経済社会総合研究所によって実施

された「第 1 回生活の質に関する調査」である。これは 15 歳以上の者を対象に、現在の幸

福感などについて訪問留置法により調査を行ったものである。

○第 1 回生活の質に関する調査

調査名 第 1 回生活の質に関する調査

調査方法 調査員が調査票を配布、回収する訪問留置法。

調査内容 現在の主観的幸福感、生活満足度、生活局面の満足度、不安など

調査期間 平成 24 年 3 月 1 日から 16 日

調査区域 全国

調査対象 15 歳以上の者 10,440 人(被災地 1,000 人、被災地以外 9,440 人)

回収率 61.8%

本調査では回答者の現在の幸福感を含め、同居家族の幸福感、幸せを感じている状態、5

年後の幸福感、生活満足度などさまざまな主観的幸福度が測られている。以下の分析では、

「現在の幸福感」、「生活満足度」、「5 年後の幸福感」についてたずねた質問項目の回答を用

いる。「現在の幸福感」は、「現在、あなた自身はどの程度幸せですか。「とても幸せ」を 10

点、「とても不幸せ」を0点とすると、何点くらいになると思いますか。いずれかの数字を

1つだけ○で囲んでください」という質問によって測定されている。生活満足度も同様に、

0 から 10 の尺度を持ち、質問は「あなたは全体として最近の生活にどの程度満足していま

すか」となっている。「5 年後の幸福感」は-5 から+5 までの値を取り、「あなたは今から

5年後、現在に比べてどの程度幸せを感じていると思われますか。現在と同じであれば0、

今より幸せであると思われる場合はその程度に応じて+1~+5 まで、今より不幸せになる

と思われる場合にはその程度に応じて-1~-5 までで当てはまるものを1つだけ○で囲ん

でください」という質問によって測られている。

本調査の単純集計を含む主な結果は、内閣府の幸福度に関する研究会の第 6 回研究会

(2012 年 4 月 27 日開催)において、検討用資料の形にて発表されている(内閣府幸福度研究

ユニット(2012(a))。

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本調査と他調査との比較に関しては内閣府幸福度研究ユニット(2012(b))「第 1 回生活の

質に関する調査 他の統計との比較(検討用資料)」において、既に分析がされている。本

稿に関連する部分を取り上げると、(1)若年層(特に 20 歳前半男性)の回答率が低いこと、(2)

本データは全国消費実態調査と比較して低所得層が多いため、解釈には留意が必要である

ことが示されているが、配偶状況には大きなバイアスがないことも明らかにされている。

ここでは、上記紹介した比較に加えて、20 代、30 代に限定し、配偶状況に関して平成

22 年の国勢調査における 20 代、30 代の配偶関係と割合を比較したところ、以下の結果と

なった。有配偶者の回答者の割合が母集団のそれより若干多く、未婚の回答者が多少少な

めに含まれている傾向にあるが、以下の統計分析では配偶者の有無は統計的に統制されて

おり、また有配偶者の回答者が分析の中心となるため、特に問題はないと考えられる。

第 1 回生活の質調査(訪問留置)の 20 代、30 代の配偶状況

配偶者有 未婚 離婚 死別

生活の質調査(n,%) 651(46.01%) 706(49.89%) 57(4.03%) 1(0.07%)

平成 22 年国勢調査(20 代、30 代)の配偶関係 *不詳は除く

配偶者有 未婚 離婚 死別

平成 22 国勢調査(%) 13531336

(43.53%)

16593562

(53.39%)

920021

(2.96%)

37853

(0.12%)

4.子どもの有無と主観的幸福度

本節では子どもの有無とさまざまな主観的幸福度の関連について分析を行う。はじめに

本研究で対象とする若年層(20,30 代)の現在の幸福感の分布を紹介する。図1は若年層の

現在の幸福感を示す。また、参考として全回答者(15 歳以上)の現在の幸福感の分布も示

されている4。現在の幸福感に関する質問は 0 から 10 の値を取り、0 が「とても不幸」、10

が「とても幸せ」を指している。図 1 によると、5、7、8 を選択する回答者が多い傾向は全

サンプル・若年層とも同様であるが、9 や 10 を選択する割合は若年層のほうが多く、全体

的に若年層のほうが全サンプルより現在の幸福感は若干高い。現在の幸福感の平均値は若

年層が 6.825、全サンプルが 6.656 となっている。なお、内閣府幸福度研究ユニット(2012(a))

の「第 1 回生活の質に関する調査結果(検討用資料)」によると、幸福度は「10 代から 20

代にかけて低下し、30 代で上昇するものの、再び低下し、50 代を底に回復するという W 字

形」(p.5)になる傾向がある。したがって、本稿で対象とする若年層の幸福感が全サンプル

に比べて若干高いのは、個人の幸福度は 30 代にかけて上昇する傾向にあることが背景にあ

ると考えられる。 4 本稿における分析では、サンプリングウェイトを用いて集計が行われている。

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図1 現在の幸福感の回答分布

現在の幸福感の回答分布

次に、幸福度のもう 1 つの指標である生活満足度の若年層及び全サンプル回答分布を図 2

に示す。生活満足度に関する質問も現在の幸福感と同様に、0 が一番低く、10 が一番高い

満足度を示している。図 2 によると、若年層の生活満足度のほうが全般的に低い値を取る

ことが多い。若年層全体の幸福感は高かったとしても、現在の生活に満足していない回答

者も一定数存在するようである。ただ、生活満足度の平均値を見ると若年層が 5.825、全サ

ンプルが 5.973 となっており、両者の間に大きな差は存在しない。

図 2 生活満足度の回答分布

生活満足度の回答分布

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10全体 0.33% 1.05% 1.51% 4.29% 5.05% 20.21% 10.49% 18.35% 21.55% 8.15% 9.03%20、30代 0.54% 0.63% 1.41% 3.76% 4.24% 17.89% 11.87% 19.06% 20.47% 8.46% 11.69%

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10全体 2.22% 1.94% 2.61% 7.83% 7.64% 20.90% 12.06% 15.94% 17.16% 6.63% 5.07%20、30代 3.07% 2.44% 3.23% 8.49% 7.78% 19.38% 12.72% 15.91% 15.42% 6.53% 5.03%

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本節の主な目的は若年層の幸福度がどの程度子どもの存在によって説明されるかを明ら

かにすることである。まずはじめに、若年層の幸福度が子どもの有無によって影響をうけ

ているかどうかを分析するため、回帰分析を用いて幸福度と子どもの存在の関係の推定を

行う。推定に際しては、以下のモデルを推定する:

β λw ρ ε (1)

被説明変数の[Happiness]は回答者 i の幸福度を測る指標であり、「生活の質調査」に含ま

れる 3 種類の指標を別々に使用した。具体的には、「現在の幸福感」、「生活満足度」、及び

「5 年後の幸福感」に関する質問項目それぞれについての回答を用いている。いずれの指標

も数値が上がるにつれ高い幸福度・満足度を示していることから、推定には順序尺度ロジ

ット(ordered logit)モデルを用いた。式(1)の主な説明変数である[Child]は回答者 i の

子どもの存在を測る変数である。分析に使用した一つ目の推定モデルでは「子どもあり」

ダミー変数を用い、二つ目のモデルでは「子どもの数」変数を含めることによって子ども

の存在の幸福度への影響を測った。「子どもあり」ダミーは子どもがいる回答者の場合は1、

いない場合は 0 の値を取る。「子どもの数」は 0 から 5 の値を取る。5 が最大値となってい

るのは、「生活の質調査」において子どもの数が「5 人以上」という質問項目までしか含ま

れないからである。「子どもの数」を入れたモデルでは、子どもの数は幸福度へ線形の影響

を与えると仮定されているが、子どもの数は非線形の影響を与える可能性もあるため、3 つ

目のモデルでは「子どもの数 1 人ダミー」「子どもの数 2 人ダミー」「子どもの数 3 人ダミ

ー」の 3 つの変数を分析に加えた。もし子どものいる回答者の幸福度が子どものいない回

答者に比べて高ければ、これら 3 つのモデルに共通して、子どもに関連する変数の係数(β)

は正の値を取るであろう。一方、もし子どものいる回答者は子どものいない回答者に比べ

て幸福度が低い傾向にあるのであれば、子ども関連の変数の係数は負の値を取るはずであ

る。

推定モデルにはさらに回答者の属性(wi)を含めた。回答者の幸福度は子どもの有無だけに

よって決まるわけではなく、当然配偶者の有無や就業状況などによっても決定されること

から、回答者の属性を推定モデルに含めることによってそれらの影響を統制する。分析に

は回答者の年齢、配偶者の有無(ダミー変数)5、配偶者との離別の有無(ダミー変数)6、

就業状況(失業中ダミー)、家事(主婦・主夫)ダミー、学生ダミー、教育レベル、世帯年

収レベルを含めた。なお、子どもの年齢数はが調査項目に含まれていないないため、説明

変数に加えることはできなかった。このうち教育レベルは 4 年制大学に在学中あるいは大

5 本来ならば、婚姻からの年数も統制変数としてモデルに含めるべきであると考えられるが、「生活の質

調査」では該当する質問項目がないため分析項目に加わっていない。 6 若年層の回答者のうち、配偶者と死別しているものは一名のみであったため、未婚として処理した。死

別カテゴリーを別途加えて分析しても、あるいは回答者を分析から除いても結果は変わらない。

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学を中退・卒業している場合「教育レベル(中)」というダミー変数で表し、大学院修士課

程・博士課程に在学中あるいは中退・卒業している場合「教育レベル(高)」とした。収入

レベルについては、世帯の年間収入が 200 万円未満を低収入と定義し、世帯年収が 200 万

以上かつ 700 万未満を「収入レベル(中)」、700 万円以上を「収入レベル(高)」というダ

ミー変数としてモデルに含めた。これらの変数の記述統計は表 1 に掲載されている。

表 1:記述統計量の表(20・30 代のみ)

なお、以下の分析は 20・30 代の若年層だけを対象にしているため、記述統計も 20・30

代の回答者のサンプルに限定している。最後に、式(1)には回答者の住居地の地域を固定

効果(ρ )として含めることによって地域の属性も考慮に入れた。

子育ての父親への負担と母親への負担とでは異なると考えられるため、式(1)の推定は

男女別におこなった。若年層の女性の回答者を用いた推定結果は表 2 にまとめられている。

(1) (2) (3) (4) (5)変数名 総数 平均 標準偏差 最小 最大

現在の幸福感 1,419 6.772 2.104 0 105年後の幸福感 1,418 1.164 2.190 -5 5生活満足度 1,419 5.790 2.375 0 10配偶者有 1,420 0.458 0.498 0 1離別 1,420 0.0401 0.196 0 1死別 1,420 0.000704 0.0265 0 1子どもの数1人 1,420 0.151 0.358 0 1子どもの数2人 1,420 0.187 0.390 0 1子どもの数3人以上 1,420 0.0662 0.249 0 1子どもあり 1,410 0.406 0.491 0 1子どもの数 1,410 0.736 1.012 0 5主婦・主夫 1,420 0.0838 0.277 0 1学生 1,420 0.0338 0.181 0 1失業中 1,390 0.0468 0.211 0 1教育レベル(高校) 1,420 0.635 0.482 0 1教育レベル(大学) 1,420 0.415 0.493 0 1教育レベル(大学院) 1,420 0.0415 0.200 0 1年収レベル低 1,420 0.0972 0.296 0 1年収レベル中 1,420 0.683 0.465 0 1年収レベル高 1,420 0.187 0.390 0 1

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9

表 2:子どもの存在と主観的幸福度(20・30 代女性)

まず、「子どもあり」ダミーを主な説明変数として用いたときの推定結果を載せた列(1)

から(3)によると、子どものいる若年層の女性は、子どもがいない同年代の女性に比べて、

現在の幸福感、生活満足度、5 年後の幸福度のいずれも低いことがわかる。これらはすべて

統計的に有意な結果である(p<0.01)。推定の際には、配偶者の有無などの個人の属性の影

響は統制されているため、得られた係数は他の変数の影響を排除した上での子どもの幸福

度への影響を測っていると考えられる。

子どもの数が増えるにつれ女性の幸福度が変化するかどうかを調べた列(4)から(9)

によると、列(4)から(6)では子どもの数が多いほど、子どもがいない女性との幸福度

の差は大きくなるという推定結果が得られている。ここでは効果が線形であることを仮定

している。この仮定を緩めて、子どもの数に関するダミー変数を用いて推計を行った結果

を載せた列(7)から(9)によると、子どもの数が増えるほど 5 年後の幸福感は下がる傾

向にあるようであるが(列(9))、現在の幸福感と生活満足度に関しては、子どもの数とそ

れらの変数が必ずしも線形の関係にないという結果が得られている。列(4)から(6)に

(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)

現在の幸福感

生活満足度

 5年後

幸福感現在の幸福感

生活満足度

 5年後

幸福感現在の幸福感

生活満足度

 5年後

幸福感

子どもあり -0.626*** -0.782*** -0.782***

(0.206) (0.108) (0.288)

子どもの数 -0.185* -0.254*** -0.293***

(0.0963) (0.0804) (0.102)

子どもの数1人 -0.674*** -0.902*** -0.688***

(0.219) (0.176) (0.230)

子どもの数2人 -0.564** -0.571*** -0.839**

(0.237) (0.0959) (0.412)

子どもの数3人以上 -0.677* -1.147*** -0.949***

(0.361) (0.211) (0.315)

年齢 -0.0187 -0.0211 -0.0360*** -0.0181 -0.0197 -0.0332*** -0.0194 -0.0211 -0.0336***

(0.0194) (0.0153) (0.00822) (0.0180) (0.0155) (0.00807) (0.0178) (0.0156) (0.00762)

配偶者あり 1.599*** 1.445*** 0.619** 1.365*** 1.187*** 0.401* 1.599*** 1.444*** 0.618**

(0.340) (0.241) (0.292) (0.315) (0.201) (0.231) (0.338) (0.242) (0.288)

離別 0.395 0.0713 0.0778 0.149 -0.184 -0.170 0.410 0.105 0.0577

(0.614) (0.318) (0.445) (0.580) (0.312) (0.349) (0.601) (0.333) (0.435)

失業中 0.424 0.499 -0.203 0.332 0.392 -0.272 0.444 0.549 -0.227

(0.296) (0.456) (0.171) (0.287) (0.466) (0.173) (0.316) (0.444) (0.155)

家事 0.467** 0.606*** -0.219 0.417** 0.552** -0.263 0.475** 0.633*** -0.221

(0.220) (0.231) (0.281) (0.209) (0.242) (0.276) (0.215) (0.215) (0.271)

学生 0.817* 0.810*** -1.069*** 0.819* 0.816*** -1.042*** 0.809* 0.805*** -1.046***

(0.472) (0.314) (0.220) (0.471) (0.296) (0.217) (0.475) (0.306) (0.227)

教育レベル(大学) 0.101 0.400* 0.0146 0.104 0.408 0.0121 0.0971 0.380 0.0109

(0.262) (0.237) (0.0789) (0.275) (0.259) (0.0836) (0.265) (0.242) (0.0771)

教育レベル(大学院) 0.939** 1.080*** 0.644** 0.939** 1.062** 0.620* 0.934** 1.050*** 0.628*

(0.427) (0.401) (0.311) (0.445) (0.434) (0.342) (0.421) (0.394) (0.331)

年収レベル中 0.511* 0.400* 0.310 0.526* 0.420* 0.333 0.505* 0.384* 0.319

(0.290) (0.238) (0.249) (0.300) (0.243) (0.243) (0.294) (0.223) (0.247)

年収レベル高 0.850*** 0.722*** 0.585** 0.877*** 0.756*** 0.612*** 0.851*** 0.739*** 0.589**

(0.183) (0.249) (0.238) (0.187) (0.247) (0.228) (0.188) (0.250) (0.233)

観察数 693 693 693 693 693 693 693 693 693

Robust standard errors in parentheses

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

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10

おいては子どもの数(0-5)を直接推定モデルに入れているのに対して、列(7)から(9)

においては子どもの数が 3 人以上であった場合ひとくくりにして「子ども数 3 人以上」と

いうダミー変数で表すなど直接比較が可能な結果ではないものの、これらの結果は子ども

の数が増えるにしたがって幸福度が必ずしも下がるわけではない可能性を示唆しており、

解釈には注意が必要である。いずれにしても、子どものいる女性の幸福度全般が子どもの

いない女性よりも低いことはここでも確認された。

他の統制変数に目を向けると、配偶者のいる女性の現在の幸福感、生活満足度、5 年後の

幸福感のすべてが配偶者のいない女性に比べて高いようである。さらに、女性の学生の場

合、現在の幸福感も生活満足度も高いようであるが、将来の幸福度は現在より下がると判

断している者が多いようである。教育レベルに関しては、大学教育を受けた女性は高卒の

回答者とあまり幸福度に差がないものの、大学院まで進む回答者は全般的に幸福度が高い

ようである。同様に、世帯年収に関しても、低収入のグループと中レベルの収入のグルー

プとではあまり幸福度に差がないが、高収入の回答者は他の回答者に比べて明らかに幸福

度が高い傾向にある。

男性の若年層についての推定結果は女性のものとは非常に対照的である。結果は表 3 に

まとめた。男性の場合、子どもがいる男性と子どもがいない男性に間に幸福度の差は存在

しない。唯一の例外として、子どもの数が一人の父親は、子どもがいない男性にくらべて

現在の幸福感が高いようである(列(6))。他の説明変数も女性の場合と同じような符号を

取っていることが多いが、男性の場合、失業中の回答者はそうでない回答者にくらべて幸

福度が大幅に低い傾向がある。女性の場合には、このような差は見られない。また、男性

の学生は他の回答者にくらべて幸福度が高いわけではないこと、そして教育レベルの高い

男性とそうでない男性との幸福度の差があまりない点についても女性の場合とは異なって

いる。

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11

表 3: 子どもの存在と主観的幸福度(20・30 代男性)

表 2 と表 3 の結果は、子育てをしている女性の幸福度全般が子どものいない女性にくら

べて低いことを強く示唆している。次に、このような傾向が回答者の収入レベルや教育レ

ベルによって異なるかどうかを検証する。例えば、世帯収入レベルの高い女性は、そうで

ない女性にくらべて有料の子育て支援サービス(ベビーシッター、一時保育など)を利用

することが容易であるとすれば、世帯収入レベルの高い女性の子育てに関する負担感は比

較的少ないかもしれない。あるいは、教育レベルの高い女性ほど育児休暇の取得や時短勤

務が可能であるような会社で働いている可能性が高いとすると、子どもをきっかけに仕事

を辞めることを余儀なくされた女性よりも幸福度が高いかもしれない。

これらの可能性を検証するために、順序尺度ロジットモデルの推定結果に基づき、20・

30 代の女性の回答者の世帯収入レベルと教育レベル別に現在の幸福感尺度のそれぞれを選

択する確率を計算した。確率を求める際には、式(1)に含まれるすべての個人属性及び地

域の属性の影響がコントロールされている。男性の場合子どもの有無によって幸福度が変

わらないため、ここでの分析は女性のみに限定している。世帯収入別の結果を示したもの

が図 3 である。図 3 によると、例えば子どもがいる低所得の女性が現在の幸福感について

「とても幸せ(10)」を選択する確率は 0.076 であるが、子どもがいない低所得の女性の場

合、その確率は 0.138 と推定されている。図 3 によると、収入が上がるにつれ、子どもの

(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)

現在の幸福感

生活満足度

 5年後

幸福感現在の幸福感

生活満足度

 5年後

幸福感現在の幸福感

生活満足度

 5年後

幸福感

子どもあり 0.337 0.423 -0.0421(0.390) (0.426) (0.227)

子どもの数 -0.00752 0.0904 -0.0640(0.150) (0.158) (0.0979)

子どもの数1人 0.591** 0.549 0.152(0.298) (0.449) (0.299)

子どもの数2人 0.172 0.294 -0.224(0.428) (0.395) (0.292)

子どもの数3人以上 0.117 0.506 0.0557(0.488) (0.622) (0.327)

年齢 -0.0413*** -0.0307 -0.0114 -0.0396*** -0.0306 -0.0103 -0.0387*** -0.0301 -0.00989(0.0149) (0.0187) (0.0267) (0.0145) (0.0193) (0.0281) (0.0150) (0.0202) (0.0292)

配偶者あり 1.315*** 0.792** 0.354* 1.577*** 0.999*** 0.404** 1.303*** 0.792** 0.352(0.271) (0.351) (0.205) (0.174) (0.232) (0.175) (0.275) (0.359) (0.214)

離別 -0.0701 -0.629 -0.140 0.107 -0.523 -0.0843 -0.125 -0.700 -0.242(0.224) (0.666) (0.406) (0.211) (0.567) (0.468) (0.232) (0.737) (0.359)

失業中 -1.443** -1.748*** 0.0809 -1.459** -1.759*** 0.0777 -1.447** -1.751*** 0.0738(0.641) (0.480) (0.540) (0.631) (0.498) (0.550) (0.646) (0.483) (0.544)

家事 0.656 0.413 2.498 0.678 0.444 2.500 0.652 0.421 2.503(1.162) (1.199) (2.224) (1.154) (1.185) (2.219) (1.175) (1.198) (2.226)

学生 0.546 0.441 -0.582*** 0.549 0.443 -0.576*** 0.552 0.446 -0.575***(0.781) (0.574) (0.177) (0.780) (0.574) (0.176) (0.784) (0.579) (0.179)

教育レベル(大学) 0.109 0.0772 0.0426 0.105 0.0705 0.0386 0.103 0.0884 0.0501(0.130) (0.116) (0.159) (0.130) (0.118) (0.155) (0.122) (0.108) (0.159)

教育レベル(大学院) 0.707*** -0.0336 0.192 0.680*** -0.0382 0.183 0.684*** -0.0352 0.195(0.144) (0.303) (0.398) (0.157) (0.300) (0.391) (0.129) (0.303) (0.416)

年収レベル中 0.345 0.496 0.284 0.346 0.493 0.290 0.359 0.499 0.288(0.439) (0.485) (0.362) (0.430) (0.485) (0.364) (0.422) (0.484) (0.367)

年収レベル高 1.459*** 1.518*** 0.780* 1.448*** 1.493*** 0.791* 1.505*** 1.531*** 0.801**(0.471) (0.508) (0.398) (0.453) (0.516) (0.408) (0.461) (0.504) (0.405)

観察数 686 687 685 686 687 685 686 687 685Robust standard errors in parentheses*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

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12

有無にかかわらず現在の幸福感は上がる傾向にある。また、特に低所得の女性の間で子育

ての負担感は強いようである。同じ収入グループの中で子どもありと子どもなしの回答者

の差に注目した場合、どの収入グループ内においても子どもなしの女性のほうが高い幸福

度を選択する確率が高いが、子どもありの女性と子どもなしの女性の現在の幸福感の差は、

世帯年収が上がるにつれ大きくなるようである。特に、収入レベルが一番高いグループで

その差は顕著であり、世帯年収が高い女性が高い幸福感(8,9,10 のいずれか)を選択す

る確率は子どもありの場合 0.482 であるが、子どもなしの場合 0.626 と、その差は 0.14 ポ

イントにも上っている。推定の際には年齢、配偶者関係や教育レベルなどは考慮に入れら

れているため、この差はこれら他の要因では説明できない。図 3 の結果を総合して考える

と、世帯年収の高い女性は収入レベルが低い女性に比べて全般的に幸福度が高いものの、

子どもがいる女性とそうでない女性の差はかえって大きく、収入の高さが子育てに関する

負担感を補うわけではなさそうである。

教育レベル別に同様の推定も行ったが(結果は省略)、図 3 のような顕著なパターンは見

られず、子どもの存在の幸福度への影響は教育レベルによっては異ならないようである。

図 3 子どもの有無・収入レベル別現在の幸福感(20 代・30 代女性)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

収入レベル(低)

no child

parent

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

収入レベル(中)

no child

parent

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13

注:順序尺度ロジットモデルの推定結果に基づき、20・30 代の女性の回答者の世帯収入レベル別に現在の

幸福感尺度のそれぞれを選択する確率を計算したものである。収入レベル(低)とは世帯年収が 200 万円

未満の回答者、収入レベル(中)とは世帯年収が 200 万円以上、700 万円未満の回答者、収入レベル(高)

とは世帯年収が 700 万円以上の回答者を指す。計算の際には、回答者の年齢、配偶者関係、就業状況、教

育レベル、及び地域の属性が考慮に入れられている。

図 3 の結果は世帯収入が高い女性ほど、子育ての負担をより多く感じている可能性を示

唆している。世帯収入が高いということは、配偶者の収入が高い、あるいは女性自身が働

いているかのどちらかであると考えられるため、図 3 の結果は共働きの女性にかかる負担

が大きいことによる可能性もあると思われる。この点を明示的に検証するため、子育てを

しながら働いている女性の幸福度が子どもがいても働いていない女性、あるいは働いてい

ても子どもがいない女性の幸福度よりも低い可能性を検証する。女性の雇用状態を測るた

め、「直近1週間のあなたの就業状況についてお答えください。少しでも仕事(収入を伴う

仕事を指し、自営の手伝いや内職も含みます)を行っていましたか。」の質問項目に対して、

「少しでも仕事をしていた」と答えた回答者のうち、従業上の地位を「常用雇用」と選択

した回答者を「常用雇用」ダミーで示し、それ以外を 0で表した。そして、「常用雇用」ダ

ミーと「子どもあり」ダミーとの交差項をモデルに加えることによって、働いている回答

者はそうでない回答者に比べて子どもの存在の幸福度への影響が異なるかどうかを分析し

た。なお、「常用雇用」とは期間を定めずに雇用されている労働者のことを指すが、もし期

間を定めずに雇用されていても育児休暇などで調査の直近 1 週間に働いていなければこの

変数の値は 0となることに注意が必要である。育児休業給付を受けている 20・30 代の回答

者数は 24 人と少ないため、この点を考慮に入れた分析を行うことは不可能であった。

これまでと同様に順序尺度ロジットモデルを男女別に推定した結果は表 4 に示されてい

る。女性に関する推定結果をまとめた表 4の列(1)と(3)によると、「常用雇用」ダミー

変数の係数は正であることから、子どもをもたない常用雇用の女性は常用雇用の地位につ

いていない子どものいない女性よりも現在の幸福感、生活満足度ともに高いことがわかる。

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

収入レベル(高)

no child

parent

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14

また、「子どもあり」変数の係数は統計的に 0と区別できないことから、常用雇用されてい

ない女性に関しては、子どもの存在は幸福度と関係がないようである。しかし、常用雇用

され、かつ子どもがいる女性は、他のどのグループと比較しても現在の幸福感も生活満足

度も低いという統計的に有意な結果が得られた(p <0.01)。つまり、子どもを持つ女性の幸

福度が子どもを持たない女性に比べて低いのは、共働きをしている女性が子育ての負担を

多く感じていることによる可能性をこの結果は示唆している。

表4:雇用形態別子どもの存在と幸福度の関連の違い

同じ推定を男性のサンプルを用いて行った結果を示した表 4の列(2)と(4)によると、

男性の場合、常用雇用かどうかにかかわらず、子どもの有無は幸福度に影響を与えないよ

うである。「常用雇用」変数の係数が統計的に有意に正と推定されていることから、子ども

がいない男性に限っては、常用雇用されている回答者のほうがそうでない回答者よりも幸

福度が高いという結果となっている。しかし、他のグループ間では子どもの有無や雇用状

況によって幸福度に統計的に有意な違いは存在しない。

それでは、なぜ子育てをしている 20・30 代女性の幸福度は子どもを持たない同年代の女

(1) (2) (3) (4)

女性 男性 女性 男性

子どもあり 0.126 0.648 -0.308 0.891(0.312) (0.558) (0.286) (0.889)

常用雇用 0.586*** 0.276** 0.364* 0.579**(0.182) (0.132) (0.215) (0.248)

子どもあり×常用雇用 -1.041*** -0.336 -0.647** -0.542(0.281) (0.300) (0.325) (0.567)

年齢 -0.0294 -0.0428*** -0.0267 -0.0328*(0.0186) (0.0128) (0.0167) (0.0171)

配偶者あり 1.690*** 1.300*** 1.519*** 0.789**(0.338) (0.286) (0.233) (0.390)

離別 0.461 -0.102 0.112 -0.649(0.577) (0.227) (0.317) (0.780)

死別 17.47*** 4.282***(0.935) (0.368)

家事 0.188 1.025 0.418 1.034(0.186) (1.175) (0.257) (1.065)

学生 1.196*** 0.825 1.046*** 0.938(0.428) (0.807) (0.247) (0.622)

教育レベル(大学) 0.112 0.0876 0.386* 0.0463(0.272) (0.132) (0.219) (0.132)

教育レベル(大学院) 0.883* 0.700*** 1.040** -0.0424(0.473) (0.158) (0.432) (0.311)

年収レベル中 0.462* 0.377 0.342 0.382(0.265) (0.427) (0.216) (0.484)

年収レベル高 0.739*** 1.425*** 0.679** 1.340**(0.150) (0.467) (0.270) (0.523)

観察数 708 701 708 702Robust standard errors in parentheses*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

現在の幸福感 生活満足度

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15

性に比べて低いのであろうか。その理由として一つ考えられるのは、子育て支援サービス

の不足である。例えば、子どもを預けて働きたい女性が保育園に空きがないために働くこ

とを断念した場合、そのような理由から仕事を諦めなくてはならないことのない子どもの

いない女性に比べて幸福感や満足感が低くなるかもしれない。あるいは、仕事をしている

母親の場合、ファミリーサポートの利用が困難であったり、子どもが病気になったときに

利用できる病児保育が不足しているならば、仕事と子育ての両立に関する負担が幸福度の

低下につながっている可能性も考えられる。

この点を検証するために、回答者が子育て支援サービスに満足しているかどうかによっ

て幸福度が異なるかどうかを分析する。まず回答者の子育て支援サービスへの満足度を測

る 3 つのダミー変数を作成した。「生活の質調査」においては回答者に子育て支援サービス

についての満足度もたずねており、回答者は 0 から 10 の尺度で回答するようになっている。

「全く満足していない」にあたる 0 から 3 を選択した回答者は「子育てサービスに満足し

ていない」と定義し、逆に 7 から 10 を選択した回答者は「子育てサービスに満足している」

とした。それ以外の回答者は「どちらともいえない」と分類した。これら 3 つのダミー変

数を「子どもあり」のダミー変数と交差させることによって、子育て支援サービスへの満

足度によって子どもを持つ女性の幸福度が異なる影響を与える可能性をテストした。他の

変数については式(1)と同じモデルを用いた。結果を簡略にするため、ここでの被説明変

数は現在の幸福感と生活満足度に限定した。

女性についての推定結果をまとめた表 5 の列(1)と(3)によると、子育て支援サービ

スに満足していない母親、あるいはサービスに強い不満を持たない母親は子どもがいない

女性に比べて現在の幸福感も生活満足度も低いが、子育て支援サービスに満足している母

親の場合、幸福感や生活満足度に関して子どもがいない女性との間に統計的に有意な差は

存在しない。つまり、子育て支援サービスに満足している母親は、子どもがいない女性と

現在の幸福感及び生活満足度が変わらないのである。この結果は子育て支援サービスの不

足が子どもを持つ女性の幸福度が低いことの一因であることを強く示唆している。ちなみ

に男性の回答者についても同じ分析をしたところ(表 5、列(2)と(4))、子育て支援サー

ビスに不満がある場合、あるいは不満でも満足でもない場合は、子どもを持つ男性とそう

でない男性の間に幸福度の差は見られないことがわかった。ただ、父親が子育てサービス

に満足している場合、子どもを持たない男性に比較してより高い幸福感・生活満足度を持

つようである。母親の幸福度は子育てサービスの満足度によって異なるものの、男性の場

合、子育てサービスに関する満足度と幸福度とはあまり関連がないことから、子育てサー

ビスの不足によって負担を受けているのは主に女性であることが推測される。

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表 5:子育て支援サービスへの満足度別子どもの存在と幸福度の関連の違い

最後に、公的あるいは民間の子育て支援サービスに不満を持っていたとしても、両親や義

理の両親(つまり子どもの祖父母)に子どもの面倒を見てもらうことを頼むことができる

回答者は子育ての負担をあまり感じていない可能性を検証した。両親や義理の両親と頻繁

に(最低でも週 1 回)会っている子どもを持つ回答者はそうでない回答者にくらべて、子

どもに関する幸福度が異なるかを分析したが、男女ともに特に統計的に有意な差はなかっ

た。両親や義理の両親に頻繁に会っていたとしても、子どもの面倒を見てもらっていると

は限らないため、結果の解釈には注意しなくてはいけないものの、肉親の手助けよりも子

育て支援サービスの充実の重要性をこの結果は示唆している。

(1) (2) (3) (4)

女性 男性 女性 男性

子どもあり×子育てサービスに満足していない -1.338*** -0.441 -1.049*** 0.0890(0.283) (0.419) (0.190) (0.638)

子どもあり×子育てサービスについてどちらともいえない -0.772*** 0.198 -1.002*** 0.208(0.298) (0.330) (0.104) (0.398)

子どもあり×子育てサービスに満足している -0.194 1.101*** -0.147 1.562***(0.231) (0.390) (0.136) (0.425)

年齢 -0.0128 -0.0479*** -0.0153 -0.0354*(0.0189) (0.0150) (0.0165) (0.0187)

配偶者あり 1.627*** 1.417*** 1.366*** 0.811**(0.317) (0.209) (0.194) (0.326)

離別 0.430 0.0750 -0.0671 -0.457(0.587) (0.249) (0.295) (0.577)

死別 17.13*** 3.645***(1.007) (0.300)

失業中 0.343 -1.497** 0.536 -1.808***(0.289) (0.625) (0.431) (0.460)

家事 0.459** 0.699 0.597** 0.397(0.186) (1.191) (0.248) (1.223)

学生 0.842* 0.519 0.822*** 0.431(0.455) (0.796) (0.291) (0.597)

教育レベル(大学) 0.131 0.0668 0.441* 0.0663(0.287) (0.113) (0.265) (0.0937)

教育レベル(大学院) 0.955*** 0.731*** 1.088*** -0.0114(0.363) (0.140) (0.338) (0.330)

年収レベル中 0.447* 0.340 0.306* 0.444(0.249) (0.473) (0.184) (0.529)

年収レベル高 0.820*** 1.450*** 0.664*** 1.466***(0.148) (0.489) (0.219) (0.526)

観察数 698 691 698 691Robust standard errors in parentheses*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

現在の幸福感 生活満足度

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5.まとめ

若年層(20 代・30 代)の主観的幸福度において、本研究では以下の結果が明らかになった。

(1)子どもの存在の主観的幸福度への影響に関して、子どものいない女性よりも子どものい

る女性の方が現在の幸福感、生活満足度、5年後の幸福感がいずれも低い。(2)男性に関し

ては子どもの存在の幸福度への影響は見られない(補論で後述するが、生活時間の満足と現

在の幸福感の相関も女性の方が高いことが示されている)。(3)子どものいる女性の幸福度と

収入との関連も大きく、特に低所得の女性の間で子育ての負担感は強い。(4)女性の場合、

年収レベルが上がるにつれて子どもの有無による幸福感の差が大きくなっていることから、

世帯収入が高い女性でも子育ての負担をより多く感じている可能性がある。(5)仕事に就い

ていない女性の場合、子どもの有無は幸福度と関連がないが、子どもを持ち、かつ常用雇

用の地位についている女性の幸福度は低い。(6)子育てサービスに満足している子どものい

る女性の場合、子どもがいない女性と幸福感に差がないものの、子育てサービスに満足し

ていない母親の幸福感は低い。(なお、補論で子どもを持つ人の方が生活時間全般の満足が

低いことや、子どもを持つ人は子どもを持たない人に比べて各種の生活時間の満足が現在

の幸福感と関係が強いことが明らかになっている。)

以上の結果からは、子どもを持つ女性は子どもを持たない女性より幸福度が相対的に低

く、その背景に就労とのワーク・ライフ・バランスの問題があることが浮かび上がった。

本研究の結果を踏まえて政策へのインプリケーションを考えるならば、保育サービスは働

く女性の幸福度に対して重要な役割を担う存在であり、より一層の充実が求められるとい

うことが挙げられる。充実した子育て支援サービスの存在によって働く女性の負担感が軽

減される可能性を本研究の結果は示唆しており、多様な支援の取り組みをすることにより

若年層が子育てをしやすい環境を整えることが肝要であろう。また、そもそも出産を機に

仕事を辞める女性や育児休暇を取得しない女性も依然として多く、女性が子育てと仕事を

両立することが容易になるような社会をつくっていくことも重要であると考えられる。

2012 年に公表された厚生労働省の調査結果によると、出産前に働いていた母親の実に半数

近くが出産を機に離職しており、その理由としては、常勤の母親の場合、仕事を続けたか

ったものの、子育てとの両立が難しいためと回答した女性が 35 パーセントに上るという。

また育児休暇を取得しなかった常勤の女性の 3 分の1が「職場の雰囲気や仕事の状況」が

原因で育児休暇の制度はあるが取得をしなかったと回答している(厚生労働省, 2012)。こ

の調査結果は出産を機に仕事を辞めざるを得なかった女性が数多くいること、そして仕事

と育児の両立に対する周りの理解や支援が依然として乏しいことを強く示唆しており、こ

れは若年層の母親の幸福度の低さとも無関係ではないであろう。

男性に関しては子どもの有無と幸福度との関連がみられなかったが、男性の子育てへの

参加促進は女性の負担感を下げることに繋がることが推察される。したがって、父親がよ

り当事者意識を持てるよう子育てへの参加意識の一層の醸成を図ることや、育児休暇の取

得支援などが求められる。子育て支援サービスが重要であることは本研究の中で明らかに

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なったが、子育てに関する支援は公的な支援では限界もある。核家族化や社会的つながり

の希薄さなどを超え、地域での子育て支援ができるようにすることも重要である。例えば

保育所等の預かり保育を充実させるだけではなく、病院に行く際等に利用できる一時預か

りのより一層の充実なども重要であると思われる。

本研究では子育てに取り組み始めたばかりの若年層を対象にした分析であり、40 代以降

の子どもを持つ者の幸福感には言及していないが、回答者の年齢が上がるにつれて子ども

の存在と母親の幸福度との負の関係はなくなる傾向になることにも言及しておきたい。つ

まり、子育てが女性の負担感につながるのは子どもが小さいうちだけである可能性が高い。

これから子どもを持とうとする若年層や子どもを持ち始めたばかりの若年層が、子育ての

負担により、より多くの子どもを持つことを断念しないようにすることが重要と思われる。

本研究では若年層を対象に子育てと幸福度に関して分析を行ってきたが、課題も多い。

まず、子育てに関して非常に負担が大きいと推察されるひとり親の幸福度について分析す

ることは重要であると考えられるが、サンプル数が少なく、別途分析を行うことは不可能

であった。また、回答者が保育所の待機児童の問題に直面しているかどうかによって幸福

度に違いがあるかどうかを検討することは興味深いテーマであるが、これも回答者の居住

する市区町村の特定が不可能であったために分析は断念せざるを得なかった。さらに、分

析モデルに回答者が結婚している年数を入れることができなかったため、本稿が行った子

どもがいないグループとそうでないグループの比較は、新婚の(あるいは結婚からあまり

年数が経っていない)女性とそうでない女性との比較になっている可能性も完全には否定

できない。おそらく新婚の女性のほうが全般的に幸福度が高いと考えられるため、本研究

の結果は子どもの存在に加えて新婚である効果も合わせて測定している可能性があること

に注意が必要である。ただ、子どもの存在の有無と幸福度の負の関係は女性にだけ認めら

れること、また雇用形態や収入レベルによって影響が異なることを考えると、すべての結

果が新婚である効果だけによって説明できるとは考えにくい。しかし、ほかの個票データ

を用いて上記の点を検証することは今後の重要な課題である。

また、今回の分析では現在の幸福感や生活満足度を主観的幸福度を測る指標として使用

したが、他の指標を用いて分析を行った場合異なる結果が得られる可能性もある。例えば、

エウダイモニア(人類の最高善)の観点や自己有用感など、子どもを持つことによる人生の意

義の観点からの指標も考慮する必要があり、これらを用いた分析も今後の課題である。さ

らに、幸福度は主観的な指標による研究であるために、分析に用いるデータによっては異

なる結果が得られる可能性もある。また、調査の時期によって分析結果が異なる可能性も

否定できない。本研究の結果はあくまで「生活の質調査」というひとつのデータセットに

基づいたものであり、結果の信頼性をより高めるためには、他のデータも用いて同様の分

析を行い、結果の再確認を行うことが重要であると考えられる。

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補論 子どもを持つ若年層の生活時間の満足と現在の幸福感

ここでは補論として、今後子どもを持つ若年層の幸福度を高めることを見据え、各種生

活時間の満足に関する設問を取り上げ、若年層の現在の幸福感との相関を確認する。本論 2

節では子どもは生活時間の変化に影響をもたらすという Hill(2005)や OECD(2012)を取り

上げたが、子どもを持つことはライフステージにおける大きな変化であり、子どもを持つ

ことの生活時間の満足を現在の幸福感との関係をみる必要があると考え分析を行った。さ

らに、子どもを持つ若年層のうち、家事や育児に関する時間の満足について、性別による

違いも確認した。生活時間の満足とは、「最近1ヵ月で、あなたの平日1日当たりの時間配

分についてどの程度満足していますか。」との問いに対して、「生活時間全般、就業時間、

学習時間、睡眠時間、通勤・通学時間、家事時間、看護・介護・育児時間、その他自由時

間」の満足度をそれぞれ 5 段階で質問したものである。ここでは配偶者の有無による影響

を排除するため配偶者ありの若年層 (すべての生活時間満足に回答したサンプルに限定)を

し、各項目と現在の幸福感との相関を子どもの有無や性別に確認した。以下にその結果を

論じる。

(1)子どもの有無による生活時間満足と現在の幸福感

図 4 は生活の質調査で質問を行った、生活時間全般や就業時間の満足(1 非常に不満であ

る、2 どちらかと言えば不満である、3 どちらとも言えない、4 どちらかというと満足して

いる、5 非常に満足している)別に現在の幸福感を集計した。

図1のうち、横軸は各種生活時間の満足の点数(1 から 5)、縦軸左は回答件数、縦軸右は

現在の幸福感の点数(0 から 10)を示すものである。回答件数が少なかった看護・介護・育児

時間の満足を除き子どもの有無別に集計をした。生活時間全般の満足、就業時間の満足、

睡眠時間の満足、その他自由時間の満足を 1 と回答した子ども有のサンプルは子ども無の

サンプルより現在の幸福感が低くなっており、これらの生活時間に満足していない場合に

は現在の幸福感が低い傾向が読み取れる。なお生活時間全般の満足の平均点は、子ども有

3.10 点、子ども無 3.21 点であり、子ども有の方が若干ではあるが低い結果となった。

図 4 各種生活時間の満足と現在の幸福感の子どもの有無別比較(平均点および回答件数)

(20 代、30 代、配偶者有)

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表6 各種生活時間と現在の幸福感の相関係数(20 代、30 代、配偶者有のみ)

さらに、表6の各種生活時間の満足と現在の幸福感の相関をみると、子ども有は子ども

無より学習時間を除きいずれも相関が高くなっており、子ども有の方が生活時間の満足と

現在の幸福感の関係が強いことが確認できた。

(2)性別による生活時間満足と現在の幸福感

次に子ども有のサンプルのうち、性別で生活時間満足別に現在の幸福感の平均を集計し

た。図 5 の横軸は各種生活時間の満足の点数(1 から 5)、縦軸左は回答件数、縦軸右は現在

の幸福感の点数(0 から 10)を示すものである。家事時間の満足や看護・介護・育児時間の満

足をみると、女性に比べ男性は「3 どちらとも言えない」との回答が多くなる結果であり、

生活時間全般

就業時間 学習時間 睡眠時間通勤・通学時間

家事時間看護・介護・育児時間

その他自由時間

子ども有 0.31*** 0.26*** 0.09 0.18*** 0.18*** 0.20*** 0.29*** 0.16***

子ども無 -0.01 -0.05 0.40*** 0.03 0.16 0.04 ・・・ -0.02*** p<0.001

子ども無の看護・介護・育児時間はサンプルが少ないためデータを除いた。

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子ども有の男性は育児時間に対して積極的な層が少ないことが伺える。

表7の現在の幸福感との相関係数に関して性別の違いをみると、男性は就業時間満足、

通勤・通学時間満足で女性よりも相関がみられた。看護・介護・育児時間満足との相関は

女性が r=0.31、男性が r=0.23 といずれも弱い相関がみられたが、女性の方がより強い相関

がみられた。

図 5 各種生活時間の満足と現在の幸福感の性別比較(平均点および回答件数)

(20 代、30 代、配偶者有、子ども有)

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表7 各種生活時間と現在の幸福感の相関係数(20 代、30 代、配偶者有、子ども有)

補論では子どもを持つ若年層の生活時間満足を取り上げたが、子どもを持つ若年層は持

たない若年層に比べ、現在の幸福感と生活時間満足との関係が強く、子どもをもつ若年層

の幸福度を高めるには、ワーク・ライフ・バランスの推進が手掛かりの一つとなることが

示唆されていると思われる。

生活時間全般

就業時間 学習時間 睡眠時間通勤・通学時間

家事時間看護・介護・育児時間

その他自由時間

男性 0.31*** 0.30*** 0.07 0.21** 0.23*** 0.20** 0.23** 0.20**

女性 0.28*** 0.17* 0.14 0.14* 0.08 0.21*** 0.31*** 0.15**** p<0.001, ** p<0.01, * p<0.05

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