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論文概要書 和欧混植書体の印象に関する研究 -商品情報と和欧書体選択の相関性について- A Research on Impression formation by Typeface -About correlation between Merchandise Information and Choice of Type Mixture- 1w143002-7 網代稀沙莉 指導教員 長 幾朗 教授 AJIRO Kisara Prof. CHO Ikuro 概要: 本研究ではビジュアルデザインにおけるひとつの重要な要素であるタイプフェイスの 表現として、和欧混植書体による表現形式について検証した。商品の広告やパッケージのロゴタイプは印 象において重要な役割を担っていることは自明であるが、基盤となるフォントの選択は難しく、デザイナ ーの感性に頼る部分が大きい。特に和欧フォントを混植する際のそれぞれの書体の選択については未だに 基準は明確に定まっていないため、世界各国の文化の相違から齟齬をきたすおそれも有り得る。2020 年 のオリンピックを控えている今日、多言語を使用した国際的な表記は必須であり、また焦眉の課題でもあ る。適正なフォントやその表記法を考慮した和欧混植書体による表現について考察し、提案とした。 キーワード:ロゴタイプ、書体混植、印象、国際的な表記 Keywords:Logotype, Type Mixture, Impression, International notation 1. タイポグラフィの用語定義とその発展 本研究では「タイポグラフィ」を文字の書体を 選択し組む技術、「字形」、「書体」、「字体」をそ れぞれ字の形そのもの、字形の特徴毎にまとめた もの、漢字における「異体字」を表すものとす る。また「フォント」は一書体、一サイズの一揃 えを表す言葉とし、「ロゴタイプ」を企業や商品 用の印象を正確に表すように固有の造形的な個性 を持たせたものとし、本研究は「ロゴタイプ」に ついて扱うものとする。[1] タイポグラフィは時 代と共に発展するものである。現在では 2020 年 のオリンピックも控えており、和文だけでなく多 言語を混用している現場が増加している。よって 和文書体だけでなく多言語書体を併用したデザイ ンの追及が必要となってくるだろう。 2. 混植における調和と技術 和文書体と欧文書体は設計が異なるゆえ、併用 するときは調整が必要である。設計上の違いの例 を 1 つあげると文字の重心が中心にある和文に対 し、欧文には文字を揃えるラインが複数設定され ていることなどがある。これによって和欧書体は 各々の文字の揃え方が異なる。和文と欧文書体の 選択の仕方については諸説あるが、本文組では似 た性質のものを併用する均質化を選び、強調した いときや雰囲気を重視したいときはコントラスト を持たせるために異なった性質を持つ書体を併用 する異質化を技術書では推奨している。[2] しか し異質化については選択肢が膨大であることと、 対応する場面で全く異なった選択が行われるため 詳しく記されていない。したがって異質化が好ま れる傾向について、商品情報を使用して調査し た。

和欧混植書体の印象に関する研究 -商品情報と和欧 …...[2] 白石和也、工藤剛、河内知木. (2004). type face and typography [3] 向井志緒子. (2013)

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Page 1: 和欧混植書体の印象に関する研究 -商品情報と和欧 …...[2] 白石和也、工藤剛、河内知木. (2004). type face and typography [3] 向井志緒子. (2013)

論文概要書

和欧混植書体の印象に関する研究

-商品情報と和欧書体選択の相関性について-

A Research on Impression formation by Typeface

-About correlation between Merchandise Information and Choice of Type Mixture-

1w143002-7 網代稀沙莉 指導教員 長 幾朗 教授

AJIRO Kisara Prof. CHO Ikuro

概要: 本研究ではビジュアルデザインにおけるひとつの重要な要素であるタイプフェイスの

表現として、和欧混植書体による表現形式について検証した。商品の広告やパッケージのロゴタイプは印

象において重要な役割を担っていることは自明であるが、基盤となるフォントの選択は難しく、デザイナ

ーの感性に頼る部分が大きい。特に和欧フォントを混植する際のそれぞれの書体の選択については未だに

基準は明確に定まっていないため、世界各国の文化の相違から齟齬をきたすおそれも有り得る。2020 年

のオリンピックを控えている今日、多言語を使用した国際的な表記は必須であり、また焦眉の課題でもあ

る。適正なフォントやその表記法を考慮した和欧混植書体による表現について考察し、提案とした。

キーワード:ロゴタイプ、書体混植、印象、国際的な表記

Keywords:Logotype, Type Mixture, Impression, International notation

1. タイポグラフィの用語定義とその発展

本研究では「タイポグラフィ」を文字の書体を

選択し組む技術、「字形」、「書体」、「字体」をそ

れぞれ字の形そのもの、字形の特徴毎にまとめた

もの、漢字における「異体字」を表すものとす

る。また「フォント」は一書体、一サイズの一揃

えを表す言葉とし、「ロゴタイプ」を企業や商品

用の印象を正確に表すように固有の造形的な個性

を持たせたものとし、本研究は「ロゴタイプ」に

ついて扱うものとする。[1] タイポグラフィは時

代と共に発展するものである。現在では 2020 年

のオリンピックも控えており、和文だけでなく多

言語を混用している現場が増加している。よって

和文書体だけでなく多言語書体を併用したデザイ

ンの追及が必要となってくるだろう。

2. 混植における調和と技術

和文書体と欧文書体は設計が異なるゆえ、併用

するときは調整が必要である。設計上の違いの例

を 1 つあげると文字の重心が中心にある和文に対

し、欧文には文字を揃えるラインが複数設定され

ていることなどがある。これによって和欧書体は

各々の文字の揃え方が異なる。和文と欧文書体の

選択の仕方については諸説あるが、本文組では似

た性質のものを併用する均質化を選び、強調した

いときや雰囲気を重視したいときはコントラスト

を持たせるために異なった性質を持つ書体を併用

する異質化を技術書では推奨している。[2] しか

し異質化については選択肢が膨大であることと、

対応する場面で全く異なった選択が行われるため

詳しく記されていない。したがって異質化が好ま

れる傾向について、商品情報を使用して調査し

た。

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論文概要書

図 1. 多言語表記が多くみられる都会(渋谷)

(DMM 英会話 Blog より引用

http://eikaiwa.dmm.com/blog/3803/)

3. 書体の印象と非言語的要素

書体の印象評価については先行研究[3]でも行わ

れており、いくつかの因子が抽出されている。ま

た、フォントの違いによってイメージが伝達され

るか否かの先行研究も行われており、フォントは

他のフォントと相対的に評価して初めて特定のイ

メージを持つものである。それと同時に言語に依

存しない非言語的要素を持っていると推定され

た。[4]この先行研究を参考に、欧文は特に日本人

にとって和文以上に言語情報が少ないとして、本

研究では言語情報と欧文書体についての相関性は

言及せず、他フォントとの相対性を中心に評価を

行った。

4. 実験

実験は2つ行った。どちらの実験においてもデ

ィスプレイ上で画像を表示した。実験1では和文

書体5つ、欧文書体5つについての印象評価を

SD 法で行い、実験2では「商品の種類」、「価

格」、「ターゲット層」の3つの商品情報を提示し

たうえでイメージに合う書体を和文、欧文から

各々選択させた。被験者は実験1が 20 代から 40

代の男女計 32 名、実験2は 20 代の男女計 14 名

で行った。験1の結果より因子分析を行った結果

3因子が抽出された。それより各書体の因子得点

を算出し、クラスタ分析を行った結果図1のよう

なクラスタに分類できた。また実験2の結果をウ

ィルコクソンの符号付順位和測定を各商品情報で

行い、母代表値に差があるか検定した。結果はど

の商品でも差はなく、また近いクラスタに所属し

ている書体同士が選択された。

図 2. クラスタ分析の結果

5. 結論

実験の結果商品情報での書体のイメージの差

異はなく、同印象同士の書体が好まれることがわ

かった。本研究では異質化という点に関しての有

益な結果を得られることはできなかった。しかし、

印象の近いフォントが扱いやすく異質化に比べ

単純であることが改めて明確にすることができ、

複雑な異質化についての研究の必要性が感じら

れた。今後の展望として、商品の種類を増やして

実際のデザインを使用と被験者がデザインした

ものの比較や評価、解析を行うことでそのデザイ

ンの目的などを調査し、書体との相関性を調べる

こと、和欧書体混植のデザインの効率化に貢献す

る事を今後の展望とした。

参考文献

[1] 小宮山博史. (2010). タイポグラフィの基礎..

[2] 白石和也、工藤剛、河内知木. (2004). type face and typography

[3] 向井志緒子. (2013). 和文書体フォントの印象に関する因子

構造の探索.

[4] 石原次郎、熊坂亮. (2002). フォントの違いによるイメージの

伝達効果

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