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主な未侵入害虫の解説 - maff.go.jp...観察され、これが本病の病原(PPD細 菌)である ことが判明した。1983年には本細菌の人工培養に 成功し、その性状が明らかとなった。PPD細

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  • 主な未侵入害虫の解説

    リンゴウスチ ャハ マキ学 名:Epiphyas postvittana (Walker)

    英 名:light brown apple moth

    本種はオース トラ リア原産で、1892年 にニュー

    サウスウェールズ州でりんごの害虫として初めて

    記録された落葉果樹の害虫である。第二次世界大

    戦後 、梨果類の重要害虫 として知られるように

    なった。

    分布地域 オース トラ リア、ニュージーラン ド、

    ニューカレ ドニア 、イギ リス 、ハワイ。

    寄主植物 リンゴ 、ナシ 、ブ ドウ、カンキツ類 、

    スグ リ類 、アカシア 、マツ、キウイフルーツ 、ホ ッ

    プ、ツメクサ類 、オオバコ、キク、ハマシオン等。

    形 態 成虫の体色は変化に富み 、他のハマキガ

    類と混同されやすい。雄の前翅長は6mm~10mm。

    基部は明るい淡黄褐色で 、しばしば褐色の網目模

    様がある。翅の中央から翅端にかけて暗い赤茶色

    で 、外縁線は黒色である。後翅は斑紋を欠き 、均

    一な明るい茶色である。雌の前翅長は7mm~13mm

    で普通均一な明るい茶色であ り、明瞭な斑紋はな

    い。産卵直後の卵は淡緑黄色で形は扁平。1齢 幼

    虫の頭部は黒茶色で、2齢 以降の幼虫の頭部と前

    胸背板は淡黄褐色である。終齢幼虫は10~18mmほ

    どである。成熟した幼虫の体色は緑色で、背面中

    央と側面に濃い緑の縦線がある。

    生 態 ニュージー ラン ドのオークラン ドから北

    の地域では1年 に4世 代を完了し、成虫が飛翔す

    る時期は9月 ~10月 、12月 ~1月 、2月 ~3月 、

    そして4月 ~5月 である。休眠はしない。卵は、

    葉 または果実の表面に2~150の 卵が鱗状に重なっ

    た状態で卵塊として産下される。幼虫は物陰を好

    み、1~2枚 の葉を巻いたり、葉 と果実を糸で綴

    ったりする。成熟すると巻いた葉の中に繭を作 り

    蛹化する。被 害 幼虫は巻いた葉の中や物陰に隠れて葉脈

    を残し摂食する。果実では主に表皮を食害する。

    リンゴ、ナシ、カンキツ類においては、果実の内

    部へ食入することは少ないが、若齢幼虫がリンゴ

    やナシの顎の部分やカンキツ類のへたの部分から

    果実の内部に食入することがある。収穫直前の果

    実に産卵されることもあり、この卵からふ化した

    幼虫は、貯蔵中の果実を食害する。

    防除法 コ ドリンガの防除に使用される農薬は本

    種にも有効で、NAC、DMTP、 グチオン剤等

    の散布が行われている。また、発生予察には、合

    成性フェロモン トラップが用いられる。

    植物防疫病害虫情報 第54号(1998年3月15日)

  • モモのホニイ病学 名;Xylella fastidiosa Wells et al.

    英 名:peach phony disease (PPD)

    分布地域 アメ リカ合衆国

    寄主植物 モモ 、スモモ等のサクラ属植物

    病原菌 本病は接木伝染しヨコバイ類で媒介され

    ることから長い間 、ウイルス病であるとされてい

    た。しかし、1973年 に電子顕微鏡観察によ り本病

    に罹病したモモ樹の導管部に リケッチヤ様細菌が

    観察され 、これが本病の病原(PPD細 菌)で ある

    ことが判明した。1983年 には本細菌の人工培養に

    成功し、その性状が明らかとなった。PPD細 菌

    (Xylella fastidiosa Wells et al.)は グラム陰性で、

    大きさは0.25×2.5μmで 通常の植物病原細菌 に

    比較して非常に小さな桿菌である。本菌はモモの

    他スモモにも感染 しleaf scald(葉 や け症状)を

    起こ す。な お、ブ ドウの ピア ス氏病(Pierce's

    disease)、アーモン ド、クワ、ニレ等のleaf scorch

    (業縁か らの急激な枯れ込み)もX.fastidiosaに

    よる病害であるがPPD細 菌とは異なる系統であ

    るとされている。

    PPD細 菌は通常 、導管部に局在 し、モモでは

    根部に多く分布 し、葉や枝には少ないが 、スモモ

    では全身に一様に分布する。このため 、モモの場

    合,罹 病植物の根部片を健全植物の根部へ接木す

    ると容易に伝染するが 、地上部を用いた一般の接

    木では伝染率はかな り低い。

    また、本菌はHomalodisca coagulataやOncometopia

    nigricans等のヨコバイ類によって媒介される。こ

    れらのヨコバイ類はいずれも大型で寿命が長く成

    虫で越冬する。一度PPD細 菌を獲得すると死ぬ

    までPPD細 菌を伝搬(永 続伝搬)し 続けること

    ができる。アメリカ合衆国における本病の分布は

    媒介虫の分布と一致しているが、我が国にはPP

    D細 菌を媒介するこれらのヨコバイは同属も含め

    その分布は知られていない。

    本病の診断法としては、抗血清が作製されたこ

    とからELlSA法 や蛍光抗体法による診断が可

    能となっている。

    病 徴 枝の節間が短縮し、多くの側枝が伸長す

    る。葉は暗緑色となり濃密に生ずる。このため、

    樹全体は葉が多く、緑色が濃く、樹冠は平らにな

    り樹形はコンパクトな外観となる。なお、本病に

    り病しても急激に枯死することはないが、数年後

    には木部がもろくなり側枝や枝が枯れあがる。

    被 害 開花や結実は健全樹に比べ早まるが、果

    実の大きさは健全樹の半分程度と小さくなる。味

    や香りも悪くなり商品価値は無くなる。また、果

    実の生産量が80~90%減 少すると言われており被

    害は非常に大きい。

    防除法 本病は伝播が非常に速いため早期検出並

    びにり病樹の除去が重要である。繁殖する際には

    健全母樹を用いる。また、媒介虫であるヨコバイ

    類の防除も重要である。

    植物防疫病害虫情報 第54号(1998年3月15日)