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- 188 - 東京成徳大学臨床心理学研究,17号,2017,188-197 展望 未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向 荒川惠美子 西村 昭徳 菊池 春樹 中村 真理 本研究では,日本国内の1987年から2016年までに医学中央雑誌とCiNiiに掲載された論文の中か ら「夫婦関係」「子育て」「育児」「調整」をキーワードに検索した。その結果,量的研究論文16編 と質的研究論文6編,内閣府・総理府・厚生労働省の統計調査結果に基づく報告書など6編がヒッ トした。論文内容を分析すると「情緒」「メンタルヘルス」「役割」「サポート」の4項目に分類で きた。項目別に概観すると「情緒」では,出産前と出産後では夫婦の情緒的な結びつきや夫婦関係 に対する満足度が出産後に有意に低くなり,子どもの養育態度にも影響を及ぼすことが明らかと なった。「メンタルヘルス」では,夫の妻に対する情緒的サポートが妻のメンタルヘルスに関連し ており,妻の自尊感情を高めるような夫の関わりが夫婦愛着を促進することが明らかとなった。「役 割」では,妊娠の時期,夫婦関係満足度,夫婦の行動面・情緒面の伴侶性が役割獲得に影響を与え ていた。「サポート」では,妻は夫からのサポートを受けていても夫のサポートに対する満足度は 低い。夫からのサポートと妻の満足度はサポートの有無,回数,時間の他に会話の内容や自尊感情, 夫婦それぞれの精神的健康度なども関連があることが示された。 キーワード:夫婦関係,育児,子育て,調整 問題と目的 日本の夫婦と子どもに関連する統計によれば,2016 年の婚姻件数は635,000件で婚姻件数の最も多かった 1970年と比較すると,3分の2にまで減少しており未 婚化と非婚化が進行している。結婚年齢については, 1980 年では夫27.8歳,妻25.2歳であり,2016年では夫 31.1歳,妻29.4歳と4~5歳高くなっており晩婚化が 進んでいる。 また母親の第1子出産年齢は,2016年 では30.6歳となり前年に続き30歳を超え晩産化が進 んでいる(内閣府 2014)。離婚については2001年に 290,000件でピークを迎えたが,その後は緩やかに減 少し2016年には220,107件となっている。その中で結 婚後5年未満の離婚率が最も高く,全体の3分の1を 占める(厚生労働省 2013)。 結婚後5年未満の離婚率が高率であるということ は,子どもがまだ幼い状況の中で離婚する可能性が 高いということでもあり,両親の離婚に伴う子ども へのさまざまな影響が危惧される。第1子出生時に 有職の母親の割合は,2010年では43.3%だったのに対 し,2015年では52.9%と増加している。育児休暇の取 得率は,母親は93.5%であるのに対し,父親は2.0%と なっており(厚生労働省 2013),出産後まもなくの 育児はほとんど母親が担っていることが窺える。また 児童相談所における子どもの虐待相談件数は,2016年 には103,260件でそのうち未就学児は38,665件(全体の 43.5%)であった。他の年齢区分(小学生・中学生・ 高校生)と比較すると高い割合を占めている。虐待者 については実母57.3%実父29.0%となっており,実母 が過半数を占めている(厚生労働省 2015)。虐待す る親が未婚もしくは離婚によるシングルであるかとい う点も支援の重要なポイントとなる。 上記のような未婚化,非婚化,晩婚化,晩産化,未 婚や離婚によるシングルでの子育ての増加などから, その心理的支援を行う上で夫婦関係と調整について知 ることは重要である。 近藤(1987)は,出産により夫婦関係から親子関係 に重点が置かれるようになり,夫婦間に心理的な距離 が生じ,夫婦生活に危機が訪れる可能性が高いと述べ ている。子どもを持ち夫婦・家族として機能していく のは困難を伴うものであることが窺える。また夫婦関 係は子どもの心身の発達にも大きく影響することが明 らかにされており,その調整のあり方について研究す ることは意義があると考える。 岩尾・斉藤(2012)によると現代の多くの妊婦は核 家族であり,妻の出産後の主な支援者として92.7%の 妻は夫を挙げ,85%の夫は妻の主な支援者として意識 している。これは妊娠期の夫婦関係が重要であるこ とを示唆している。妊娠期の妻は,身体的かつ精神的 な変化を日々体験しており,夫の言動や態度,思いや りなどが妻の心身に影響を及ぼすことは十分考えら れる。小嶋(2014)によると,母親は自分自身の身体 的変化により出産への準備が心身共に整いやすいと考 えられるが,父親の場合は胎児の画像など児の存在を 実感する援助,出産のための講座の受講などによりそ の効果が示されている。しかし父親としてのアイデン ティティ形成には,援助者の認識や援助の在り方,夫 東京成徳大学大学院博士後期課程 東京成徳大学

未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが …...児」「調整」をキーワードに,1987年から2016年の原 著論文を検索した。その結果,医学中央雑誌では30

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荒川惠美子  西村 昭徳  菊池 春樹  中村 真理東京成徳大学臨床心理学研究,17号,2017,188-197   展望

未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向

荒川惠美子1  西村 昭徳2  菊池 春樹2  中村 真理2

 本研究では,日本国内の1987年から2016年までに医学中央雑誌とCiNiiに掲載された論文の中か

ら「夫婦関係」「子育て」「育児」「調整」をキーワードに検索した。その結果,量的研究論文16編

と質的研究論文6編,内閣府・総理府・厚生労働省の統計調査結果に基づく報告書など6編がヒッ

トした。論文内容を分析すると「情緒」「メンタルヘルス」「役割」「サポート」の4項目に分類で

きた。項目別に概観すると「情緒」では,出産前と出産後では夫婦の情緒的な結びつきや夫婦関係

に対する満足度が出産後に有意に低くなり,子どもの養育態度にも影響を及ぼすことが明らかと

なった。「メンタルヘルス」では,夫の妻に対する情緒的サポートが妻のメンタルヘルスに関連し

ており,妻の自尊感情を高めるような夫の関わりが夫婦愛着を促進することが明らかとなった。「役

割」では,妊娠の時期,夫婦関係満足度,夫婦の行動面・情緒面の伴侶性が役割獲得に影響を与え

ていた。「サポート」では,妻は夫からのサポートを受けていても夫のサポートに対する満足度は

低い。夫からのサポートと妻の満足度はサポートの有無,回数,時間の他に会話の内容や自尊感情,

夫婦それぞれの精神的健康度なども関連があることが示された。

 キーワード:夫婦関係,育児,子育て,調整

問題と目的

 日本の夫婦と子どもに関連する統計によれば,2016

年の婚姻件数は635,000件で婚姻件数の最も多かった

1970年と比較すると,3分の2にまで減少しており未

婚化と非婚化が進行している。結婚年齢については,

1980 年では夫27.8歳,妻25.2歳であり,2016年では夫

31.1歳,妻29.4歳と4~5歳高くなっており晩婚化が

進んでいる。 また母親の第1子出産年齢は,2016年

では30.6歳となり前年に続き30歳を超え晩産化が進

んでいる(内閣府 2014)。離婚については2001年に

290,000件でピークを迎えたが,その後は緩やかに減

少し2016年には220,107件となっている。その中で結

婚後5年未満の離婚率が最も高く,全体の3分の1を

占める(厚生労働省 2013)。

 結婚後5年未満の離婚率が高率であるということ

は,子どもがまだ幼い状況の中で離婚する可能性が

高いということでもあり,両親の離婚に伴う子ども

へのさまざまな影響が危惧される。第1子出生時に

有職の母親の割合は,2010年では43.3%だったのに対

し,2015年では52.9%と増加している。育児休暇の取

得率は,母親は93.5%であるのに対し,父親は2.0%と

なっており(厚生労働省 2013),出産後まもなくの

育児はほとんど母親が担っていることが窺える。また

児童相談所における子どもの虐待相談件数は,2016年

には103,260件でそのうち未就学児は38,665件(全体の

43.5%)であった。他の年齢区分(小学生・中学生・

高校生)と比較すると高い割合を占めている。虐待者

については実母57.3%実父29.0%となっており,実母

が過半数を占めている(厚生労働省 2015)。虐待す

る親が未婚もしくは離婚によるシングルであるかとい

う点も支援の重要なポイントとなる。

 上記のような未婚化,非婚化,晩婚化,晩産化,未

婚や離婚によるシングルでの子育ての増加などから,

その心理的支援を行う上で夫婦関係と調整について知

ることは重要である。

 近藤(1987)は,出産により夫婦関係から親子関係

に重点が置かれるようになり,夫婦間に心理的な距離

が生じ,夫婦生活に危機が訪れる可能性が高いと述べ

ている。子どもを持ち夫婦・家族として機能していく

のは困難を伴うものであることが窺える。また夫婦関

係は子どもの心身の発達にも大きく影響することが明

らかにされており,その調整のあり方について研究す

ることは意義があると考える。

 岩尾・斉藤(2012)によると現代の多くの妊婦は核

家族であり,妻の出産後の主な支援者として92.7%の

妻は夫を挙げ,85%の夫は妻の主な支援者として意識

している。これは妊娠期の夫婦関係が重要であるこ

とを示唆している。妊娠期の妻は,身体的かつ精神的

な変化を日々体験しており,夫の言動や態度,思いや

りなどが妻の心身に影響を及ぼすことは十分考えら

れる。小嶋(2014)によると,母親は自分自身の身体

的変化により出産への準備が心身共に整いやすいと考

えられるが,父親の場合は胎児の画像など児の存在を

実感する援助,出産のための講座の受講などによりそ

の効果が示されている。しかし父親としてのアイデン

ティティ形成には,援助者の認識や援助の在り方,夫

1 東京成徳大学大学院博士後期課程

2 東京成徳大学

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未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向

婦の関係性も影響を与えている。また円満な夫婦生活

を営むために,夫は妻との認識の差異を理解すること

が重要であるとしている。さらに良好な夫婦関係を維

持するためには,夫婦間の認識の差異を減らすために

夫婦の信頼関係をより高め,夫婦共通の理解をするこ

とが重要である。

 本研究では,妊娠期から育児期までの夫婦において,

夫婦の関係性をどのように意識しているか,夫婦関係

に影響を与える要因は何か,夫婦の関係性における調

整などについて明らかにすることを目的として,原著

論文,統計白書,年報などの先行研究をレビューした。

方  法

 医学中央雑誌,CiNiiにて「夫婦関係」「子育て」「育

児」「調整」をキーワードに,1987年から2016年の原

著論文を検索した。その結果,医学中央雑誌では30 編,

CiNiiでは4編が抽出された。その中で,妊娠期から

育児期の未就学の子どもをもつ夫婦における夫婦関

係,家事育児に関する役割意識の相違などに関する量

的研究論文16編と質的研究論文6編,内閣府・総理府・

厚生労働省の統計調査結果に基づく報告書など6編を

レビューの対象とした。会議録や特集の解説などの7

編と外国語の論文1編,調査対象が未就学児以外の親

や祖父母の調査,災害時の調査は除外した。レビュー

対象として選定した論文で扱っている変数を大学教員

2名と院生1名で協議し整理したところ,4つのカテ

ゴリーが抽出された。それらは,「情緒」「メンタルヘ

ルス」「役割」「サポート」となりTable1にまとめた。

夫婦関係と4つのカテゴリーの関連を以下カテゴリー

ごとに述べる。

結  果

夫婦関係と情緒

 夫婦関係と「情緒」の関連を扱った先行研究は7編

で, 量的研究5編,質的研究2編であった。

 佐々木・高橋(2007)は,初めて親となる男性を対

象に,子どもの誕生による夫婦関係ならびに父・母・

子の三者関係の変化を検討した。評価指標として,夫

婦関係尺度,さらに夫婦関係を含む家族関係のより客

観的評価を目的として,家族イメージ図を用いた。家

族イメージ図の「線の太さ」「シール間距離」,こころ

の向きを示す「シールの向き」などによって人間関係

のよさや情緒的な結びつきの強さを表すと考え,シー

ル間の距離と結びつきに着目して分析した結果,夫婦

の結びつきは子どもの出産前に比べ出産後は有意に低

下した。また,家族イメージ図内の父親個人の関心の

向きについては,妻から子へと変化するが,三者の関

心の向きでは「3人向き合い」が大半を占める一方で,

「夫婦向き合い」が出産後有意に減少し「母子向き合い」

が有意に増加した。これは家族的システムの変化によ

り家族の関係性が夫婦から親子へと変化したことを示

している。さらに子どもの誕生により夫婦から親子へ

と家族システムが複雑になるこの時期は夫婦間に葛藤

が生じると考えられ,夫婦から親への移行は危機的移

行であるとも考えられる。

 高橋(1987)は,親の役割を取得し遂行していく過

程における,夫婦関係の変化の実態を明らかにするた

めに,幼稚園・保育園の園児の父母を対象に夫用と妻

用を1組にした調査を行った。調査用紙は573部配布

され,その内容は「結婚生活の安定性」「伴侶性の変化」

「夫婦の役割観・期待・行動」などの項目で構成され,

子どもの出生前と出生後における夫婦の行動面と情緒

面の伴侶性の変化を調査している。出生前後の伴侶性

の変化は,「夫婦で過ごす時間」「夫婦で遊びに出かけ

る」「性生活」などで低下が著しい。それ以外の項目

ではあまり変化は見られないが,夫と妻の双方とも9

割近くが夫婦関係は現在うまくいっていると考えてい

るにも関わらず,夫婦関係の具体的な内容あるいは事

柄についての満足感は低いという結果であった。

 堀口(2006)は,5歳児をもつ妻124名と夫108名に

夫婦関係と養育態度の関連を見るための夫婦関係満足

度尺度を用いた自記式質問紙を配布し調査した。これ

により子どもの誕生時と5歳時点を比較すると妻と夫

両者の夫婦関係満足度が5年間で有意に低下してい

た。また子どもの養育態度では,妻は夫よりも厳しい

非受容的な態度をとる傾向がみられた。夫婦関係満足

度と養育態度の相関では,夫婦関係の良否は,子ども

をたたく,外に出す,どこかに閉じこめたりするなど

の行為とは有意な関連はないことが明らかとなった。

 江上(2013)は,「母性愛」信奉傾向とその相互作

用が,夫婦関係満足度や養育態度に及ぼす影響につい

ての研究を行った。この研究の分析対象は,2~6歳

の子どもをもつ夫婦304組で,研究の結果は母親と父

親の両方の「母性愛」信奉傾向が高い(父親も母親も,

伝統的な性役割に基づいた母親役割を信じている)場

合には,母親の夫婦関係に対する満足度は高い。しか

し,母親の「母性愛」信奉傾向が低く,父親の「母性愛」

信奉傾向が高い(父親のみ,伝統的な性役割観に基づ

いた母親役割を信じている)場合には,夫婦間のコン

フリクトが生じ,母親の夫婦関係に対する満足度が低

くなる可能性が示された。なおこの研究では,父母の

養育態度に関しても検討しており,母親の夫婦関係に

対する満足度は子どもとの関わりの積極性にも影響を

及ぼす重要な心理的側面であることが示されている。

 渡邉(2013)は,妊娠末期にある妻と夫からみた夫

婦関係の実態と夫婦関係に関連する要因について夫婦

関係(結婚満足度,情緒的関係,意見の一致度など)

と結婚と妊娠の状態,身体的・心理的状態を調査した。

その結果,夫の結婚満足度は妻より有意に高かった。

妻と夫いずれも情緒的関係は高得点であり,妻と夫い

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荒川惠美子  西村 昭徳  菊池 春樹  中村 真理

Table 1 未就学の子どもを持つ夫婦の関係調整に関する研究概要

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未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向

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荒川惠美子  西村 昭徳  菊池 春樹  中村 真理

ずれも結婚満足度と情緒的関係が他の要因に比べて高

い関連があった。夫婦関係に影響を与える要因として

第1に妊娠・育児によって生じるストレス,第2に変

化に対する夫婦の対処の問題,第3に夫婦間コミュニ

ケーションであった。自尊感情尺度のストレスが夫婦

関係にネガティブに影響し,具体的ストレスとして身

体的ストレス,心理的ストレス,生活変化にかかわる

ストレス,経済的ストレス,人間関係的ストレスなど

をあげている。また渡邉(2014)は,妊娠末期にある

夫婦の「情緒的関係」に影響を与える要因の調査を行っ

た。この結果,妻と夫が受け止めている情緒的関係の

特徴として「配偶者から受けている情緒的支援」は妻

と夫に有意差はなく,「配偶者への情緒的支援」は,

妻が夫より低かった。妊娠は妻の身体的な変化と同時

に夫婦の生活に影響を及ぼし,夫婦間の役割の調整が

必要になることから,2人の間に意見の不一致や葛藤

が生じやすくなり妊娠期は妻だけでなく夫にとっても

ストレスになりやすい時期であると述べている。さら

に「配偶者から受けている情緒的支援」は,妊娠期の

夫婦関係や心理的な安定において中核となる要因であ

り,情緒的関係に視点をおいた支援の重要性を示唆し

ている。

 質的研究では,小島(2007)が,当該の児が保健

所の3ヶ月児健康診査,1歳6ヶ月児健康診査を受診

した母親に,子どもが2人であることに特有の育児困

難感とその背景要因を調べるために質問紙を配布して

調査を行った。育児困難感は,①スケジュール調整の

困難さ,②第2子の行動についての悩み・困惑,③第

1子の行動についての悩み・困惑,④第1子にかまっ

てあげられないことの4つを含むことが明らかになっ

た。また育児困難感の背景要因には,第1子と第2子

の年齢差,夫による子どもの世話サポート,夫婦関係

満足度が関連していた。

夫婦関係とメンタルヘルス

 夫婦関係と「メンタルヘルス」を扱った先行研究は

3編で,量的研究2編,質的研究1編であった。

 大関・大井・佐藤(2014)は,乳幼児を持つ母親と

父親のメンタルヘルス状態と夫婦愛着および自尊感情

との関連を明らかにすることを目的に「精神健康度調

査票」(General Health Questionnaires: GHQ12)「夫

婦関係尺度」(Quality Marriage Index : QMI)「自尊

感情尺度(Self Esteem Scale:SES)を用いて質問紙

調査を行った。この結果35.8%の母親,24.1%の父親

がメンタルヘルス上何らかの支援を必要としていた。

母親父親共にメンタルヘルスには夫婦愛着よりも自尊

感情が強く影響していた。自尊感情とは「自分はこれ

でよい(good enough)」と感じることであり,母親

と父親のメンタルヘルスケア上,非常に重要な要因で

あることが示唆された。この結果から,母親・父親共

に「相手の育児に満足」と夫婦愛着,自尊感情,メン

タルヘルスは関連しており,夫婦愛着が直接メンタル

ヘルスに関連するのではなく,自尊感情を介して影響

している可能性を示唆している。笠井・河原・杉本

(2006)は,保健センターの健診に来所した母親95名

とその夫を対象に「夫の育児サポート」と「夫婦関係」

について自記式・無記名の質問紙調査を行った。その

結果,「夫の育児サポート」について「夫は家事を手

伝う」「夫はあなたのストレス発散に気を使っている」

に強い相関がみられ,「夫婦関係」では「一体感がある」

「喜びや悲しみを共に感じている」「なんでも話し合い

相談ができる」に中程度の相関がみられた。また高木・

成田(2012)は,うつ病をもつ妻の妊娠・出産・育児

について,夫への半構造化面接による質的研究を行っ

た。妊娠中から第2子出産前までの夫婦の体験の語り

を分析し,看護におけるサポートの在り方について看

護師と精神科との協働,夫婦と家族に対する情報提供

と調整,夫婦の関係性と家族全体の良好な状態を保つ

ための観察を挙げている。

夫婦関係と役割

 夫婦関係と「役割」を扱った先行研究は12編で,量

的研究6編,質的研究6編であった。

 黒澤・加藤(2013)の夫婦間のストレス場面におけ

る関係焦点型コーピング尺度研究では,幼児を育てる

親117名(父親53名,母親64名)を対象に調査を行った。

調査では先行研究を邦訳,改訂した項目を用いた。そ

して因子分析を行った結果,「回避的関係維持」(緊張

が落ち着くまで関わらないようにする等)「積極的関

係維持」(配偶者が何かに困っている時に話し合って

みようとする等)「我慢・譲歩的関係維持」(自分が不

安を感じても,それを打ち消したり相手に見せないよ

うにする等)の3因子を見出した。さらに妥当性の検

証を通じて「積極的関係維持」の適応性と「回避的関

係維持」の不適応性が確認されている。一般的にコー

ピングの分類としては,問題焦点型・衝動焦点型の2

点が用いられることが多い。育児期には,育児方針で

対立したり,子どもが発熱し予定を調整しなければな

らなくなったりと,多くのストレス場面に直面しやす

い。そして夫婦関係は簡単には解消できないことを考

慮すると, 関係をやりくりしながら維持しようとする

努力を含む関係焦点型コーピングは,夫婦の良好な関

係を目指す際に重要となる。

 神谷(2013)は,育児において役割観が相互に調整

されていない夫婦であっても,そのことが必ずしも夫

婦間に不和をもたらすものではなく,共感的な関わり

によって夫婦,特に妻の関係満足度を高め関係性を維

持しているのではないかと述べている。また盛山・島

田(2008)は,結婚後妊娠群と妊娠先行群との比較研

究で,計画外妊娠は計画妊娠よりも夫婦ともに結婚に

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未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向

対する満足度が下がる傾向があり,特に若い妊娠先行

群の夫婦は妊娠期からすでに結婚後妊娠群より低い状

態であることから,産後は夫婦関係が懸念されると述

べている。

 質的研究では青木(2009)が,幼児をもつ共働き夫

婦185組を対象に育児における夫婦間の協力に着目し,

協同育児としてそれにかかわる要因を明らかにするた

めに,質問紙調査を実施した。調査内容は, 親役割肯

定感(12項目),配偶者からの役割期待(16項目),仕

事環境(12項目),協同育児(29項目)であった。 そ

の結果,夫は「配偶者からの育児の相談や調整の期待」

を感じ「相互理解・調整」「遊び相手の分担の衡平さ」

が促進されることと同時に「積極的・肯定的な親役割

意識」や育児に関わることに対する理解・支援が得ら

れる「仕事環境」であるという認識も重要であること

が明らかになった。また妻は,夫同様に「配偶者から

の育児の相談や調整の期待」「育児による負担・制約

の少なさ」を感じることで「相互理解・調整」「遊び

相手の分担の衡平さ」が促進された。また育児の責任

にかかわる「相互理解の調整」には,「積極的・肯定的

な親役割意識」が反映されこと,育児に関わることに

対する職場からの理解・支援が得られ,育児と仕事を

両立しやすい仕事環境であることを感じていることも

重要であった。

 中垣・千葉(2012)は,産後3~4ヵ月の母親の母

親役割獲得の状況と妊娠中にイメージした産後の身体

的変化と実際のギャップや,産後の生活や育児に関す

る妊娠中の夫婦間の調整の有無およびその他の要因と

の関連を検討した。対象は,乳児健診に参加した母親

348名で,無記名自記式質問紙を配布した。調査内容

は,「母親役割の受容に関する意識尺度」を用いた母親

役割獲得の状況,産後の身体的イメージと実際,妊娠

中の夫婦間における産後の生活や育児の有無,出産満

足度などであった。回収した113名の回答を分析した

結果は,初産婦では産後の「傷の痛み」「乳房の痛み」

はイメージしにくく,実際も「イメージより辛かった」

という回答が多かった。「後陣痛」がイメージより辛

い事と母親役割の「否定的受容」「脱肛」がイメージ

より軽いことと「肯定的受容」に有意な関連があった。 

育児の調整と「肯定的受容」では,「児の世話」「児の

相手」「児のお風呂」が有意に高かった。家事の調整

と「否定的受容」では「買い物」の調整が有意に高かっ

た。「母親役割」「肯定的受容」と「出産満足度」「否

定的受容」と「家事負担」「育児負担」にはそれぞれ

正の相関があった。

 川口・松原・井口・小路(2016)は,父親になる男

性に「仕事時間と育児・家事時間の調整の意義と方法

に焦点を当てた産前教育プログラム」を実施し,父親

の産後の育児・家事行動を増加させ得るかを調査した。

自記式質問紙によって父親の受講前後で産後における

育児・家事関与に関する意識と行動の変化を比較した。 

 育児・家事関与にかかわる意識は,質問紙の自由記

述と電話調査の内容を質的に分析した。その結果は,

父親はワーク・ライフ・バランスの調整に焦点を当て

た産前教育プログラムを受講したことにより,仕事時

間と育児・家事時間の調整に関する意識は変化したも

のの産後の育児・家事行動を増加させるまでには至ら

なかったという事が明らかになった。

 竹村・泊(2006)は,幼児期の障害児をもつ父親が,

どのようにして養育行動を獲得してきたかを明らかに

することを目的に,障害児をもつ12名の父親に半構造

化面接によって調査を行った。父親は,「障害児の世

話に四苦八苦」「世話を回避できない妻の姿に突き動

かされる」「あるべき障害児の父親像を模索」「障害児

と暮らす土壌」「新たな障害観を手にする」「夫婦でやっ

ていこうと腹をくくる」の6つのカテゴリーが抽出さ

れた。

 森田・森・石井(2010)は,初めて親となる男性に

おける,産後の父親役割行動を考える契機となった体

験を明らかにするために,妊娠34週以降の妊婦の夫21

名を対象に半構造化面接法による調査を行った。その

結果,産後の父親役割として次の体験が明らかになっ

た。「父親役割モデルとの出会いや想起により,自分

なりの理想的な父親像について考える」「周囲が求め

ている父親役割に気づいて,自分が担う必要性を認識

する」「親役割モデルの提示を受けて,自分も父親役

割を担っていくことができるだろうと感じる」「育児

準備に携わる機会を与えられることによって,父親と

して行う育児について想像する」「客観的にわが子の

存在を認識し,わが子の育児を想像する」「赤ちゃん

に関する一般的な情報を知って,わが子の育児につい

て想像する」「育児をする妻の身体的・精神的負担を

知り,妻に協力しようと思う」「母親へと変化してい

く妻の姿に気づき,妻に協力しようと思う」「妊娠・

出産をする妻への愛情を再確認して,夫/父親として

協力する気持ちが芽生える」「周囲から育児に関する

情報を受けて,仕事と家庭内役割のバランスについて

考える」

夫婦関係とサポート

 夫婦関係と「サポート」を扱った先行研究は11編で,

量的研究8編,質的研究3編であった。

 岩尾・斎藤(2012)は,妊娠期の夫婦関係の良好な

関係性を維持するためには,夫婦関係の認識の違いを

受容し,夫婦共通の理解が得られるよう夫婦が互いに

各々のニーズを理解することが重要であり,経済的な

安定を基盤として,夫婦間の信頼関係をより高めるた

め,夫婦が互いに精神的サポートを意識する必要があ

ると述べている。

 佐藤(2012)は,夫婦間のコミュニケーションにお

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荒川惠美子  西村 昭徳  菊池 春樹  中村 真理

いては,母親が自分の意図や感情を相手に主体的かつ

正確に伝えるスキルが高いほど,夫からより多くのサ

ポートを受けており,夫婦間のコミュニケーションが

円滑に行われることが母親の育児サポートに対する肯

定的認識につながっていると述べている。 大関・大井・

佐藤(2014)によれば,乳幼児の育児は,乳幼児の生

理的,心理的欲求を満たす24時間継続する重労働であ

る。母親は身体的疲労感から父親に支援を求めている

ことが考えられる。また育児の手伝いが期待できる3

世代世帯は16.3%と減少傾向にあり,このような社会

変化を考慮すると,母親の父親に対する育児への期待

には多大なものがあると述べている。父親の支援は,

母親の身体的疲労回復のほかにメンタルヘルス上,非

常に重要であるとしている。また大関らによれば,父

親の子育て参加は母親の情緒的サポートにつながり,

父親の情緒的サポートの無さは母親のストレスの原因

になっている。父親の母親に対する情緒的サポートで

は「自分にはいくつか見どころがある」と思えるよう

な父親の関わりが重要であり,そのことが夫婦愛着に

関連し,母親の自尊感情を高め,父親の関わり方が夫

婦愛着を促進すると述べている。

 質的研究では,藤岡・湧水・佐藤他(2015)は,重

症心身障害児の家族支援において,家族エンパワメン

トが重要な指標とされていることから,在宅で重症

心身障害児を養育する父親18名に半構造化面接を実施

し,家族エンパワメントにおける父親の役割を調査し

た。家族のエンパワメントの役割として「ケアや家事

における母親との役割分担」「仕事の調整」「母親の相

談役」「家族旅行などのコーディネート」「サービス担

当者との関わり」「行政機関との交渉」「司法(裁判)

における交渉」の7つのカテゴリーが抽出された。父

親は母親とケアを分担しており,ケア役割を担うため

に,仕事を定時で切り上げたり,転職をしたりしてい

た。時には母親の相談役として母親の苦悩を傾聴し,

養育方針について話し合っていた。また家族全体のス

トレス軽減やリフレッシュを図るために,家族旅行な

どのコーディネートもしていた。外部に向けては,家

族の代表としてサービス提供者(専門職者)とサービ

スに関して意見を交換したり,行政や司法手続きの際

に交渉したりしていた。

 高木・成田(2012)は,うつ病をもつ妻とその夫に

とっての妊娠・出産・育児を通しての夫婦の体験を明

らかにするために,うつ病をもつ妻が第2子を妊娠し

出産予定である夫婦1組を対象に,妊娠期から産後ま

での参加観察と,産後を半構造化面接によって調査し

た。その結果,「精神疾患の病状に振り回される苦しみ」

「よい精神状態を保っていこうとする強い意志」「子を

産み育てる中で高まる妻の自信」「妻にとっては夫が

安全基地」「妻が会える安全な場所であり続ける夫」「支

え合えるかけがえの無い家族」という夫婦の体験が明

らかになった。

 田中(2014)は,1歳児をもつ子育て初体験夫婦の

家族内ケアに着目し,「夫(妻)と子どもとの関係」「夫

(妻)と家庭外との関係」についてどのように配慮を

しているのかを10組の夫婦に半構造化面接による調査

を行った。その結果,夫が「妻と子どもの関係」に関

して配慮などをしているのは,「育児負担」「しつけ」「家

事負担」「育児に伴う心身の気遣い」であった。そし

て妻が「夫と子どもの関係」に関して配慮などをして

いるのは,「子どもの世話」「育児に伴う心身の気づか

い」であった。また夫が「妻と家庭外の関係」に関し

て配慮などをしているのは,「育児ネットワークとの

つながり」「妻の仕事への理解と協力」であり,妻が「夫

と家庭外の関係」に関して配慮などをしているのは「夫

の仕事への協力」であった。

考  察

 本研究では,夫婦関係と調整について先行研究から

概観した。

 「情緒」では,妊娠期には夫・妻ともに情緒的関係

と結婚満足度との関連が高く,妊娠・育児によるスト

レス,変化に対する夫婦の対処の問題,夫婦間コミュ

ニケーションが影響を与える要因となっていた。情緒

的関係は,子どもの出生前後で変化しており,関心の

向きが夫婦間から子どもへと移り,関心の強さも出生

後では弱くなることが明らかになった。「夫婦関係満

足度」や「結婚満足度」においても出生後に有意に低

下していた。夫婦にとって育児期は,子どもという家

族が加わることで大きな関係性の変化が起こるため,

夫婦という二者間から多者間への移行に困難さが伴う

状態となる。また,妊娠中における夫婦関係の在り方

が,その後の育児における夫婦関係にも大きく影響す

ることが推測され,夫婦の心理的支援は妊娠期から育

児期まで継続して行われていくことが重要である。

 「メンタルヘルス」では,量的・質的研究ともに少

なかった。 その中で大関他(2014)は,夫・妻共に

夫婦愛着がメンタルヘルスに直接関連するのではな

く,自尊感情を介して影響することを明らかにしてい

る。自尊感情に視点を当てた研究は少なく,子育て不

安などにも自尊感情が影響することから推察すると,

子育てと自尊感情の研究が今後進むことが望まれる。

 笠井他(2006)は,夫の育児サポートについての操

作的定義を「母親が行う育児・家事行動を夫が担うと

いう単なる代行ではない」,心理面の負担なども含め

「夫婦一緒に育児を行っていると感じることができる

夫による援助活動」であるとしている。この「夫の育

児サポート」における夫と妻の認識の違いが,結婚満

足度や夫婦関係満足度と大きく関連している。この認

識の違いを夫婦間で調整していく必要性があり,夫婦

間での調整が困難な場合には第3者のサポートが重要

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未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向

となる。「夫のサポート」と「夫婦関係」の関連につ

いての調査では,夫婦間ではほぼ同程度の認識である

という結果であった。

 望まない妊娠や準備の整わない状況での妊娠は,そ

れまでの慣れ親しんだ生活を手放す喪失体験ととらえ

られる。また,出産が想像以上に困難であった場合

や,子どもの要因(障害や先天性疾患,過敏からくる

激しい泣き,哺乳力の弱さなど)で育児が難しい場合

なども,想像していた出産や望んでいた出産ではな

かったという意味では,喪失体験といえるだろう。妊

娠や出産の喪失体験にストレスが加わることで焦燥感

や罪悪感など複雑な感情を抱きやすくなり,母親だけ

でなく父親においてもその後の育児への意欲を低下さ

せたり,不安を強めたり,虐待などの危険性が懸念さ

れる。このような親のメンタルヘルスの悪化は,子ど

もの心身の成長・発達にも大きな影響を及ぼすことが

明らかにされており,夫婦のメンタルヘルスについて

丁寧に支援していくことは夫婦だけでなく,子どもを

含めた家族への影響という点からも重要である。

 「役割」では,神谷(2013)は,“育児期において役

割観が相互に調整されていない夫婦であっても,その

ことが必ずしも夫婦間に不和をもたらすものではな

く,夫婦間における共感的なかかわりによって夫婦,

特に妻の関係満足度を高め,関係性を維持しているの

ではないか”と述べている。笠井他(2006)は,夫婦

関係は“子どもを育て上げるという共同目標をもって

おり”,“夫婦間では,意見が一致するか否かよりも納

得するまで話し合うことや,お互いの声掛けや会話な

どによりコミュニケーションをとり,理解し合うこと

が大切である”と述べている。荒川・西村・菊池他(2016)

の行った調査では,問題が起こった際に妻は話し合う

ことを方略として選ぶ傾向にあり,夫は妻に合せたり

妻から距離をとって静観しようとする方略を選ぶ傾向

があることが明らかとなった。このような問題に対す

る方略のとり方の違いは,認識のズレとして意識され

「わかってもらえない」「何を考えているのかわからな

い」などの妻のネガティブな夫の理解につながりやす

い。それを避けるためには認識のズレも含めてお互い

を十分に理解し受け入れること前提に,話し合いやコ

ミュニケ―ションを図ることが必要であり,このこと

が夫婦間満足度や結婚満足度を低下させないことにつ

ながる。

 「サポート」では,量的研究に比べて質的研究が少

なかったことと,ここ最近の傾向として母親の研究に

比べて父親の研究に関心が高まっていることが感じら

れた。サポートの内容は,保健センターなどの機関に

よるサポートと,夫婦間サポートの両者であったが,

夫婦間サポートについての研究が多く,そのほとんど

が夫から妻に対するサポートについてであった。佐藤

(2012)は,夫婦間コミュニケーションについて“妻

から夫に伝えるスキルが高いほど夫からのサポートが

受けやすい”と述べており,夫婦を支援する際には,

そのようなスキルを妻が身につけられるような支援を

行っていくことも有効であることが示唆された。

 全体として,量的研究に比べて質的研究が少なかっ

た。また妊娠期から育児期までを通しての研究は少な

く,継続した支援について述べている研究も少なかっ

た。夫婦という継続した関係の中で,妊娠・出産・育

児という体験を通して変化していく夫婦関係を継続的

に研究することは重要である。メンタルヘルスに関す

る研究も少なく,就労による夫のうつや妻の産後うつ

などが増加している現状からは,もっと関心が高まり

より多くの夫婦関係とメンタルヘルスについての研究

が待たれる。調整に関する研究では,夫婦関係におけ

る調整の要因については多くの研究の中で挙げられて

いたが,その調整の仕方や調整に対する支援の在り方

についての研究は少なかった。今後の妊娠・出産・育

児を通しての夫婦関係の状態,問題解決の方略,支援

の在り方などがさらに明らかになることが望まれる。

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-2017. 2.23受稿,2017. 3. 1受理-

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未就学の子どもをもつ夫婦の関係調整に関するわが国の研究動向

Trend in Japanese Research related to the Relationship

Adjustments of Married Couples with Preschool Children

Emiko Arakawa (Tokyo Seitoku GraduateSchool of University)

Akinori Nishimura (Tokyo Seitoku University)

Haruki Kikuchi (Tokyo Seitoku University)

Mari Nakamura (Tokyo Seitoku University)

  CiNii and Central Medical Journal were used with the keywords of "marital relationships," 

"childcare," "parenting," and "adjustment" to search for articles written in Japan from 1987 

until  2016. The  result was  that  there were 16 quantitative  research  thesis,  6 qualitative 

research thesis, and 6 reports based on the results of statistical surveys done by the Cabinet 

Office, Prime Minister's office, or the Ministry of Health, Labor and Welfare, and the trends 

concerning marital relationships and adjustments were outlined from these results. When 

the content of these theses was analyzed, they were categorized into the 4 items of "support," 

"mental health," "roles," and emotion." (1) In the works on "emotion," emotional connection 

of the married couple and the level of satisfaction with the marital relationship significantly 

decreased for before and after the birth of a child, and it became clear that this had an impact 

on the attitude for bringing up the child. (2) In the works on "mental health," the husband's 

emotional support for the wife was connected with the wife's mental health, and it became clear 

that interactions with the husband that improved the wife's self-esteem promoted love for the 

married couple. (3) In the works on "roles," the pregnancy period, level of satisfaction within 

the marital relationship, and behavioral and emotional companionship of the married couple 

had an impact on role acquisition. (4) In the works on "support," the wife's level of satisfaction 

regarding  the husband's support was  low even when  the wife  received support  from the 

husband. It was shown that the wife's level satisfaction and support from the husband was 

connected with whether or not there was support, the number of times it was given, the amount 

of time it was given for, the content of conversations, self-esteem, and the mental health level of 

both members of the married couple.

Key words: marital relationships, childcare, parenting, adjustment 

Bulletin of Clinical Psychology, Tokyo Seitoku University

2017, Vol. 17, pp.188-197