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97 1 研究の目的 本稿の目的は,高等学校国語科の授業においてロール プレイを導入した話し言葉教育を実施し,実践の意義と 課題を捉えることにある。ロールプレイとは,ロールカ ードにより与えられる「役割,状況」に応じて会話をお こなう活動である。ロールプレイは,開発教育や医療教 育,法律教育,カウンセリング分野など幅広くおこなわ れているが,本稿では特に外国人に対する日本語教育の 方法からの応用として授業実践を試みる。 2 研究の背景 2.1 私的場面における話し言葉教育 平成 11 3 月に告示された現行の高等学校学習指導 要領の「国語表現Ⅰ」の目標の最後は「進んで表現する ことによって社会生活を充実させる態度を育てる」とし めくくられる (1) 。また,内容のアでは「自分の考えをも って論理的に述べたり,相手の考えを尊重して話し合っ たりすること」と記されており,「表現」の中でも「話 し合い」を第一項としている点からも,学習指導要領上 は話し言葉教育に重きを置いていることがわかる。 しかし,実際の高等学校国語科の学習においては,話 し言葉教育は十分に普及しているとは言い難い。国立教 育政策研究所の「平成 17 年度高等学校教育課程実施状 況調査」 注1 の結果を見てみると,「国語総合」の教師質 問紙では「文学的な文章を読むこと」の「調査時点まで に指導している教師」の割合は 100%,「科学的な文章を 読むこと」でも 99.0% と,読解は指導をしている割合が 極めて高い。それに対し話し言葉教育では,「人前でス ピーチや説明をすること」77.5%,「人前で報告や発 表をすること」 80.5%,「話し合いや討論などをすること」 79.9% にとどまる。 また,同じ「表現」でも,どうしても書く活動に偏 りがちである。同調査の結果によると, 「説明や意見など を書くこと」98.0%,「本の紹介文や感想文を書くこと」 94.8% となっている。もちろん,高等学校国語科におい て書くスキルを身につけることは非常に重要である。し かしその一方で,話すために必要なスキルを身につける ということも,特に一般社会で活躍することを考えれば 非常に重要であると言えよう。 また,高等学校に限ったわけではないが,国語科の「表 現」では上記の調査における「人前で」と称されるよう なプレゼンテーションやディベートといった公的場面で の活動が取り上げられることが多い。書く活動において も,上記の調査では「手紙や通知などを書くこと」とい う,やや私的な場面を想定させる問いでは,「調査時点 までに指導している教師」の割合は 70.2% にとどまる。 国立国語研究所(The National Institute for Japanese Language and Linguistics**大阪市立住之江特別支援学校(Suminoe Special Needs School日本語教育の方法を応用した話し言葉教育の試み -ロールプレイを用いた高等学校国語科の授業- *,豊 ** (平成 21 6 18 日受付,平成 21 12 4 日受理) An Attempt of Adapting Pedagogy in Japanese Teaching as a Foreign Language to Spoken Language Learning A Study on Classroom Teaching of a High School by Using Role Play MORI Atsushi*TOYOTA Makoto** We carried out classes of spoken language learning in a high school adapting pedagogy in Japanese teaching as a foreign language. The purpose of this study is to clarify its signicance and matters. Role Play is the method where pupils take roles in the situation given by the Role Play Card. It has been introduced into Japanese classes for foreign pupils as the base of communicative approach and recognized as highly sophisticated practice for communication in actual social scenes. We have examined the effectiveness based on not only the script of their conversation but also the data from questionnaires and follow up interviews. Key WordsSpoken Language LearningJapanese Teaching as a Foreign LanguageRole Play MethodAssertion Training

日本語教育の方法を応用した話し言葉教育の試みrepository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/... · で提唱され,外国人に対する日本語教育では広く授業実

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1 研究の目的 本稿の目的は,高等学校国語科の授業においてロールプレイを導入した話し言葉教育を実施し,実践の意義と課題を捉えることにある。ロールプレイとは,ロールカードにより与えられる「役割,状況」に応じて会話をおこなう活動である。ロールプレイは,開発教育や医療教育,法律教育,カウンセリング分野など幅広くおこなわれているが,本稿では特に外国人に対する日本語教育の方法からの応用として授業実践を試みる。

2 研究の背景2.1 私的場面における話し言葉教育 平成11年 3 月に告示された現行の高等学校学習指導

要領の「国語表現Ⅰ」の目標の最後は「進んで表現する

ことによって社会生活を充実させる態度を育てる」とし

めくくられる (1)。また,内容のアでは「自分の考えをも

って論理的に述べたり,相手の考えを尊重して話し合っ

たりすること」と記されており,「表現」の中でも「話

し合い」を第一項としている点からも,学習指導要領上

は話し言葉教育に重きを置いていることがわかる。

 しかし,実際の高等学校国語科の学習においては,話

し言葉教育は十分に普及しているとは言い難い。国立教

育政策研究所の「平成17年度高等学校教育課程実施状

況調査」注1の結果を見てみると,「国語総合」の教師質

問紙では「文学的な文章を読むこと」の「調査時点まで

に指導している教師」の割合は100%,「科学的な文章を

読むこと」でも99.0%と,読解は指導をしている割合が

極めて高い。それに対し話し言葉教育では,「人前でス

ピーチや説明をすること」77.5%,「人前で報告や発

表をすること」80.5%,「話し合いや討論などをすること」

79.9%にとどまる。

 また,同じ「表現」でも,どうしても書く活動に偏

りがちである。同調査の結果によると,「説明や意見など

を書くこと」98.0%,「本の紹介文や感想文を書くこと」

94.8%となっている。もちろん,高等学校国語科におい

て書くスキルを身につけることは非常に重要である。し

かしその一方で,話すために必要なスキルを身につける

ということも,特に一般社会で活躍することを考えれば

非常に重要であると言えよう。

 また,高等学校に限ったわけではないが,国語科の「表

現」では上記の調査における「人前で」と称されるよう

なプレゼンテーションやディベートといった公的場面で

の活動が取り上げられることが多い。書く活動において

も,上記の調査では「手紙や通知などを書くこと」とい

う,やや私的な場面を想定させる問いでは,「調査時点

までに指導している教師」の割合は70.2%にとどまる。

*国立国語研究所(The National Institute for Japanese Language and Linguistics)**大阪市立住之江特別支援学校(Suminoe Special Needs School)

日本語教育の方法を応用した話し言葉教育の試み-ロールプレイを用いた高等学校国語科の授業-

森   篤 嗣*,豊 田   誠**

(平成21年 6 月18日受付,平成21年12月 4 日受理)

An Attempt of Adapting Pedagogy in Japanese Teaching as a Foreign Language to Spoken Language Learning :

A Study on Classroom Teaching of a High School by Using Role Play

MORI Atsushi*,TOYOTA Makoto**

 We carried out classes of spoken language learning in a high school adapting pedagogy in Japanese teaching as a foreign language. The purpose of this study is to clarify its significance and matters. Role Play is the method where pupils take roles in the situation given by the Role Play Card. It has been introduced into Japanese classes for foreign pupils as the base of communicative approach and recognized as highly sophisticated practice for communication in actual social scenes. We have examined the effectiveness based on not only the script of their conversation but also the data from questionnaires and follow up interviews.

Key Words:Spoken Language Learning,Japanese Teaching as a Foreign Language,Role Play Method,Assertion Training

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話す活動に関しては,そもそも項目として前に述べた「人

前でスピーチや説明をすること」77.5%,「人前で報告や

発表をすること」80.5%,「話し合いや討論などをするこ

と」79.9%の 3 項目しかない。

 発表技術や討論技術としての話すスキルは言うまでも

なく重要であるが,一方で一般社会での活躍ということ

を視野に入れると,日常会話のような私的場面を取り上

げた話し言葉教育も必要である。しかし,国語科におい

ては十分に取りあげる機会が持たれているとは言い難い

現状がある。本稿で取りあげるロールプレイは,外国人

に対する日本語教育でも「目の前にある問題を解決す

る」というタスク達成型の学習活動として定着してお

り,国語科へ導入することで私的場面の話し言葉の学習

活動として有効に働くと考えられる。

2.2 先行研究におけるロールプレイ 教育現場においては,各教員の工夫により国語科教育

や道徳などにおいて,ロールプレイと類似の学習活動

が実践レベルでは数多くおこなわれていると聞く。しか

し,ロールプレイそのものと銘打った報告は管見の限り

見当たらない。

 学校教育に関係した先行研究では,ロールプレイに関

する実践を取り上げたのは教育実習生を対象とした松田

ほか (1975)が初めてだと考えられる (2)。教育実習生を対

象としたマイクロ・ティーチングは,集団でのロールプ

レイと考えられ,現今ではごく一般的におこなわれてい

る。また,幼児教育では,比較的早い時期に大澤 (1991)

で取り上げられている (3)。カウンセリング分野では,八

巻 (2004a,2004b)で取り上げられている (4)(5)。

 ロールプレイは幼児教育における「ごっこ遊び」や,

カウンセリング療法の一種として注目されることが多い

が,本稿で取りあげるように国語科において言葉の学び

の一環としておこなっても高い効果が得られると考えら

れる。ロールプレイは,コミュニケーションによってタ

スクを解決していくという点に焦点化できる活動である

ため,国語科においても有効な活動であると言える。そ

して,そこでどのような言語表現を使ったかを内省する

ことなど,実際のコミュニケーションを対象とした言葉

の学びを喚起する学習として適切だと考えられるからで

ある。

 このようなタスク先行型ロールプレイは,山内 (2000)

で提唱され,外国人に対する日本語教育では広く授業実

践で用いられている (6)。本稿では,日本語教育における

ロールプレイの手法を取り入れ,高等学校国語科の授業

に応用することを試みた注2。

2.3 アサーション・トレーニング アサーションとは「自分の気持ち・考え・意見・希望

などを率直に正直にしかも適切な方法で自己表現するこ

と」であり,「自分と相手の相互を尊重しようという精

神で行うコミュニケーション」と定義され,アサーショ

ン・トレーニングにおける活動でもロールプレイが中心

的に使われている (7)。外国人に対する日本語教育におけ

るロールプレイでは,場面や状況に応じた適切な表現を

学ぶという側面が前面に押し出されるが,日本語母語話

者である高校生を対象とした場合は,表現を学ぶという

側面もゼロではないが,非母語話者ほど必要とはされな

い。では,母語話者である高校生に対するロールプレイ

は,何を目的とすべきだろうか。その答えの一つがアサ

ーション・トレーニングにある。

 アサーションないしアサーティブという用語は,とも

すれば「率直」という部分が先走り,「攻撃的」と捉え

られることがあるがそれは誤りで,「受身的」でも「攻

撃的」でもなく「自分と相手の相互尊重」こそがアサー

ション(アサーティブ)の意味するところなのである。

 例えば,アサーション・グループワークにおけるロー

ルプレイとして「遊びに誘う」という課題があったとす

る。この課題に対して「付き合いの悪い奴だと思われる

と嫌なので気が進まないが行く(受身的)」や「相手の

気持ちを配慮せずとにかく断る(攻撃的)」という二つ

しか対応がないと考えるのではなく,「行きたいがどう

しても都合が悪く,次は誘って欲しいと言って断る(ア

サーティブ)」のように,自分も相手も尊重する第三の

選択肢を学ぶことが,母語話者へのロールプレイにおい

ては必要である。

 学校教育でのアサーションに関する先行研究には,

国語科教育も視野に入れたカウンセリング分野で鈴木

(2004-2005),国語科教育で永田 (2005)がある (8)(9)。

3 授業実践3.1 授業概要 本節では高等学校国語科におけるロールプレイの授業

実践について紹介していく。授業概要は以下の通りである。

   

対 象:大阪市立桜宮高等学校体育科(29名)・スポー

ツ健康科学科(35名)

日 時:平成19年 6 月19日・20日

時 数:体育科「国語表現Ⅰ」 2 時間,スポーツ健康科

学科「国語演習」 2 時間

題材名:ロールプレイで学ぶコミュニケーション(自主

教材)

3.2 指導目標 本授業実践にあたっては,下記の 3 点の指導目標を持

って臨んだ。

(1)日常のコミュニケーションの中で問題を解決する

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方法について自分の考え方を深めることができるよう

になる。(国語への関心・意欲・態度)

(2)自分の考えをもって意見を述べ,相手の考えを尊

重してコミュニケーションをおこなうことができるよ

うになる。(話すこと・聞くこと)

(3)目的や場に応じて,言葉遣いや表現を工夫してコ

ミュニケーションをおこなうことができるようにな

る。(言語についての知識・理解・技能)

3.3 指導計画(2時間扱い) 本授業実践は 2 クラスそれぞれ 2 時間の扱いでおこな

った。それぞれのクラスの指導計画は以下の通りである。

(1)第 1 時

・「普段のコミュニケーションで困ったことや,改まっ

た場面でうまく話せなかった経験はありますか」とい

った発問から導入をおこなう。

・指導者の説明だけではなく,外国人によるロールプレ

イの実際を視聴することによって,活動の具体的なあ

り方についてイメージを持つ。

・「ある状況・立場でどのようにコミュニケーションを

おこなうか実演によって練習する」といったロールプ

レイの主旨を説明する。

(2)第 2 時

・第一段階として,インフォメーションギャップ(情報

格差)を用いるため,Aさん側とBさん側に,それぞ

れ異なったロールカードを渡す(つまり,相手がどう

いう立場かはわからない状態で始める)。→まずはこ

れだけで発表( 3 ~ 5 組)。指導者からのフィードバ

ックをおこなう。

・第二段階として,ロールプレイとフィードバックを参

考に,改めてお互いのロールカードを確認し合い,も

う一度練習する。→もう一度発表する(3 ~ 5 組)。

指導者から改善された点などのフィードバックをおこ

なう。

3.4 ロールカード ロールプレイを実施するに当たって,各人がどのよう

な役割を演じるかという情報を与えるロールカードをど

のように作成するかは非常に重要なポイントとなる。本

授業実践においては,体育科については日本語教育で実

際に使われている教材である山内 (2000)から「友人同士

の会話」を基準に132頁のロールカードを選んだ (6)。ス

ポーツ健康科学科については,著者らが「改まった場面」

を基準に独自のロールカードを作成した。それぞれのク

ラスのロールカードの内容は以下の通りである。

(1)体育科ロールカード(山内2000より)(6)

【Aさんのロールカード】

 あなたはルームメイトのBさんと交代で夕食を作って

います。あなたが当番の日は,材料をいっぱい買って来

て,手の込んだ料理を作るのでBさんはいつも喜んでい

ます。しかし,Bさんが当番の日は,冷凍食品やインス

タント食品が多く,体によくないので,あなたはあまり

食べたくありません。二人の健康のためには,あまりイ

ンスタント食品に頼るべきではないということを,Bさ

んにわかってもらってください。

【Bさんのロールカード】

 あなたはルームメイトのAさんと交代で夕食を作って

います。Aさんはいつも手の込んだおいしい料理を作っ

てくれますが,あなたは時間がないので,冷凍食品やイ

ンスタント食品に頼りがちです。あなたも,それについ

てはAさんに少し悪いと思っていますが,短い時間でお

いしいものを作る自信がありません。それに,最近は,

かなりおいしくて栄養のあるインスタント食品もたくさ

ん出回っています。

(2)スポーツ健康科学科ロールカード(独自制作)

【Aさん(店長)のロールカード】

 あなたはコンビニエンスストアの店長をしています。

今,お店では人手が足りなくて大変忙しく,すぐにでも

新しいアルバイトの人を採用したいと思っています。た

だし,前に採用した人がアルバイトの開始時間にいつも

遅刻してくるだけでなく,1週間で辞めてしまい,大変

困った経験があるので,きちんと働いてくれるかどうか

については,しっかりと確認しておきたいと思っています。

【Bさん(アルバイト応募者)のロールカード】

 あなたはアルバイトをしてみたいと思い,近所のコン

ビニエンスストアでアルバイトの面接を受けることにな

りました。あなたは,アルバイトがしたいとは思ってい

ますが,どうしてもここでなくてはならないというわけ

ではなく,条件次第では別の所に行ってもいいと思って

います。ただ,このコンビニエンスストアは近所なの

で,いつも買い物に使っており,働かないとしても気ま

ずくならないようにしたいと思っています。

3.5 事後調査 それぞれの授業の直後に各クラスの生徒3 ~ 4名と授

業を参観した国語科教員 1 名にフォローアップインタビ

ューを実施した。また,授業実践の数日後に質問紙によ

るアンケートを実施した。

4 授業実践の分析と考察4.1 ロールプレイのスクリプトとフィードバック 前述の通り体育科・スポーツ健康科学科で,第一段階

と第二段階でそれぞれ 3 ~ 5 組のロールプレイを発表し

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てもらい,録画及びスクリプトの文字起こしをおこなっ

た。

 体育科のロールカードについては,友人同士という身

近な設定であったため,役割を演じやすかったようであ

る。どのような条件で相手を説得するかといった条件な

どについても,比較的にアドリブが多く自由度の高いロ

ールプレイが展開されていた。

 一方で,スポーツ健康学科のロールカードについて

は,「改まった場面」として設定したため,アルバイト

を含めてほとんど面接を経験したことがない生徒も多

く,必ずしも生徒たちにとって身近な設定ではなかった

と言える。特に店長側の立場になることは,高校生では

普通はあり得ないため,どのような条件を設定して提示

すべきかのアドリブが効きにくく,パターン化した面も

あった。しかし,ロールプレイは,「想定して演じる」

ことも趣旨での一つであり,必ずしも身近な設定ばかり

が良いとは限らない。今回についても,フォローアップ

インタビューで「面接官になる機会はないので,そういう

設定で話をするのは興味深い」といった意見も出ている。

 ただ,本稿では紙幅の都合もあり,全てを取り上げる

ことはできないため,分析対象として,二つのロールプ

レイのスクリプト及び教師のフィードバックを取り上げ

る。同じロールカードを使っても,その展開に違いが生

じるということがよりよくわかるようにするため,より

自由度の高いロールプレイとなった体育科の第一段階と

第二段階それぞれを一つずつ取り上げる。(A,B,C,

D,Sは生徒。Tは授業者(森))

4.2 体育科ロールプレイ第一段階「役割分担」A:私たちは毎回交代で料理を作っているのに,えーと

私はちゃんと料理を作っているのに,なぜあなたは

インスタントなんですか?①

B:時間がなくて,仕事も忙しいし,でもインスタント

って言っても,栄養があって最近はおいしいからい

いんじゃないですか。

A:でも,私たちは運動してるから,そういう偏った

インスタントだったら駄目だと思うんだけど。②

B:いつもおいしい料理を作ってくれてることには感謝

してるけどちょっと無理やから,そこは…許して下

さい。

A:じゃあ,えー私が料理全般をするので,あなたは他

の洗濯や家事をお願いします。③

B:わかりました。

 第一段階の中でも早い順番での発表なので,かなり緊

張が伺える。基本的に共通語主体のデスマス体で話され

ており,①のようにロールカードの内容にかなり強く引

きずられた形で会話が始まる。

 しかし,②では,ロールカードにはない自分たちの状

況をアドリブで加えて話を展開し始めている。結果とし

てはあまり大きく話題が盛り上がることなく,Aの③の

提案で幕引きとなる。

4.3 体育科フィードバック第一段階「役割分担」T:えーと,今の解決策は非常によく分かりましたね。

結局,そのー,料理は作れないので,その他の家事

を引き受けると。その代わり料理はもう当番制はや

めて,栄養あるものが作れるAさんが作ると言うこ

とですね。これは解決策の一つとして妥当だろうと

思います。④

T:で,そのほか話し合いの中に出てきた表現として

は,「私たちは運動をしているから,あのー,イン

スタントばかりでは駄目だと思う」みたいな話が出

ていましたよね。これも設定に特にないですけど,

現実問題,どうしてその栄養にこだわるのかという

ことで考えると,皆さんの経験からもたぶん妥当で

すよね。⑤

T:で,それに対して,Bさんが「私は料理作りたい

んやけども,無理やから」っていう話をしていまし

たよね。ここの無理っていうのを,無理で終わらせ

るんじゃなくて,どうして無理なのか(間)どうし

て無理なんだと思う? 無理だからと言ったんだけ

ど。どうして無理だと?

S:仕事が忙しいって言いました。

T:うん,仕事が忙しいっていうところね。だから,仕

事が忙しいから無理なんだというところをわかりや

すく言う。ま,もっと言えば,「料理を作るのが苦

手だ」とかでもいいと思うし,あのー,前に作った

ことがあるんだけど大変なことになったとかね。な

んかそういう,まーあのー,無理なら無理というこ

との理由をはっきりとわかるようにですね。⑥あの

ー,伝えるとよりわかりやすいということになりま

す。

 「役割分担」へのフィードバックである。まずは,最

終的な解決策を改めて言い換えて提示して,その妥当性

について④のように肯定的な評価を与えている。実際に

「どちらかが一方的に折れる」のではなく,アサーティ

ブな解決策になっているので高い評価を与えるべきであ

る。

 続いてロールカードにはない設定が現実問題を考慮し

た真正性の高いものであることを,⑤のように評価して

いる。相手への主張を述べるには,その主張を支える論

拠が必要であり,その論拠はできる限り実経験に基づい

た真正性の高いものである方が説得性が高いことを示唆

している。

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 さらに主張を退ける側にも退けるだけの論拠が必要で

あることを⑥のようにフィードバックしている。ここで

は否定的な見解は挙げていないが,単に「忙しい」だけ

でなく,「料理が苦手だ」など説得性が高いと考えられ

る論拠を,例えば複数出すことを提案している。このよ

うに,相手を無理に言い負かすのではなく,アサーショ

ンを意識して,論拠を述べて相手を納得させる説得性の

高い会話ができるような方向性でフィードバックをおこ

なった。

4.4 体育科ロールプレイ第二段階「料理教室」C:あのー,いつも料理作ってるやんか。なあ。

D:うん。

C:作ってるやんか。

D:はい。

C:なのになあ,作らんやかあ,自分な。⑦インスタン

トばっかりで,嫌!。

D:忙しいし,私,料理作られへんから,できへんね

やんかあ。⑧

C:それはわかるけど…。

D:(大きく手を振りながら)自分の料理おいしいし,

作ってくれるのはホンマに感謝してるねんけど,作

りたくても作られへんし,私,料理へたやから,イ

ンスタントにやっぱ,なってしまうんやんか。⑨

C:じゃあな,作られへんって言ってたけど,本とか見

たらいいやん。⑩

D: 本見て作ってんけど,この前,鍋焦がしてしまって,

やっぱへたくそや…(言いさし)

C:それは本読み足らんから。(本を開く仕草をしなが

ら)本をもっとちゃんと…時間とか書いてるやん。

中火とか。やろ?

D:(親指を立てて)じゃあ私,来週からちょっと料理

の教室行くわ。だから来週からでいい?⑪

C:時間ないのに行けるん?⑫

D:頑張ってみる!(大きく拳を突き上げる)

 このCとDのペアは,第一段階のAとBのペアとは別

人物である。第二段階になり,かなり緊張がほぐれたこ

とにより,会話が本来の生活言語である関西方言にシフ

トしている。⑦にある「自分」は関西方言における二人

称(あなた)として使われている。

 できないことの論拠については,第一段階でのフィー

ドバックが効いたのか,⑧のように「忙しい」と「料理

が作れない」の二種類が挙げられている。この時点では

フィードバック通りの「型」を押し付けている形になっ

てしまっているが,これが日常のコミュニケーションの

中で,型から脱却して「複数の論拠」というストラテジ

ーが定着すればよりよい。

 ⑨では,Dからの反論がおこなわれている。できない

理由を述べる前に,相手の行為を尊重する発言がなされ

ており,アサーティブな発話となっている。そして,

⑧に挙げられていた「料理ができない(下手)」という

論拠を繰り返し,その上で自分のできる範囲も示してお

り,非常によい。

 しかしながら,Cはこれで退いてしまうことなく,さ

らに⑩のように,Dへの新しい提案をおこなっている。

「本を見る」という新しい提案は,さらにDによって「や

ったけれどもうまくいかない」と反応され,さらにそれ

に対してCが「きちんと見てないから」と反論するとい

うテンポのいいやりとりがなされる。

 「本を見る」という行為では不可能だと感じているD

が,⑪のように「料理教室に行く」という対案を提示し

て,このロールプレイは決着する。フィードバックでも

触れているが,非常に重要なのはCの⑫で,Dがロール

プレイの冒頭の⑧で述べた前提の確認をおこなっている

点である。このように,第一段階と比べて,改善された

ロールプレイであるといえる。

4.5 体育科フィードバック第二段階「料理教室」T:えーと,まーまず,一つはジェスチャーということ

ですよね。あのー,もちろんこれは個人差があるん

ですけども,あのー実際にはみなさんは,あのー,

しゃべって伝えてるつもりでもですね,かなりジェ

スチャー使ってるんですね。たぶん。あのー,これ

はー,あのー,使う人と使わない人の差はあると思

いますけども,実際には自分たちもよく使っている

と思いますし,特にね,あのー,なんかあのー,外

国語を話す時なんかの場合にはですね,あのー,で

きるだけオーバーアクションの方がですね,もし言

葉が不十分でも伝わるっていうことがあるので,実

はジェスチャーっていうのは会話の一部であるとい

うことはよく言われていることなので,非常に良か

ったと思います。⑬ね。

T:で,あとは最後のところで,あのー,みんなからツ

ッコミあったから言ったのかどうかっていうところ

がちょっと微妙なんですけども,「料理教室に通う

わ」って言ったときに,「時間ないんちゃうん」っ

ていうツッコミがありましたよね。あれも,これも

妥当なところで相手が,あのー,今までの主張と違

うことを言った場合に,それに対して,あのー,

それは本当ですかという追及をするというのは,こ

れはその会話の技術としては非常に重要なこと⑭な

ので,矛盾があったところに関しては,それはこう

だったんじゃないのというふうに相手に問いただす

というのは非常に大切なことだということになりま

す。はい。

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 スクリプトにカッコ書きで示したように,このCとD

のペアは非常に大きな身振りでやりとりをおこなってい

た。これを⑬でノンバーバルコミュニケーションの意義

としてフィードバックしている。

 そして分析でも述べたように,⑭で主張の矛盾につい

ての確認や追及の重要性についてフィードバックしてい

る。もちろん,相手の会話の矛盾を「攻撃する」とアサ

ーティブな会話とはいえなくなってしまうので,確認ぐ

らいの形にするのがよい。その意味で,4.4節のCの⑫

はアサーティブな確認の仕方になっていると言え,フィ

ードバックの対象としては非常に好例であると言える。

5 授業実践の意義5.1 日本語教育と国語科教育におけるロールプレイの 位置づけの違い 日本語教育では,ロールプレイは中級から上級への段

階でおこなわれることが多い (6)(10)。日本語学習者の中級

というと,単純な状況で具体的な会話のやりとりによる

タスクが解決できるような段階である。つまり,いわゆ

るサバイバル日本語を駆使する段階であり,その意味で

はどういう状況でどういう表現を使うかという部分が重

視される。しかし,母語話者とりわけ高校生にもなると,

サバイバル日本語という段階とは遠くかけ離れる。事

実,外国人に対する日本語教育でも上級から超級にかけ

ては,ロールプレイはあまり実施されず,プレゼンテー

ションなどのアカデミックスキルを練習することが多い。

 その意味では,高校生にロールプレイをおこなうとい

うことの意義はアサーション・トレーニングに求めるべ

きであろう。実際にフォローアップインタビューにおい

て「遅刻の理由などをストレートに聞くのではなく,

婉曲的に聞くという技術が身についた」という回答もあ

り,まさにアサーティブな考え方を実際のコミュニケー

ションを通して身につけたという自己評価となっている。

5.2 フォローアップインタビュー 前節でも触れたが,フォローアップインタビューにお

いて現れた回答の中で興味深いものをピックアップして

みる。

・相手の立場を考えて,許せる気持ちも大切。

・表現力(説明能力),考える力がつくのでよい。

・相手の考えを意識しながらコミュニケーションをして

いる。相手の気持ちを知る。

 この三つは,授業の目的にアサーションの考え方を導

入したことが影響している。一回だけの実践でこうした

考え方が定着するとは思えないが,小中高を通して年間

指導計画の中にロールプレイやアサーションを位置づけ

ることで,定着する可能性もあるのではないか。

・いろいろな立場で話をしてみると,考える場面が多か

った。

・英会話の授業で話す授業がある。考えるようなパター

ンではなかった。

 これは同一の生徒のフォローアップインタビューから

得られたものである。まず,話し言葉教育については,

国語科よりも英語科での体験を思い起こすことが多いと

いうことであった。さらに,英語科での話し言葉教育

は,定型的で考えるような機会ではなかったと述べてい

た。母語における「考える」話し言葉教育の必要性を示

唆している。

5.3 アンケート項目 アンケート項目は以下の通りである。自由記述欄と複

数回答可の項目以外は 5 段階で評定してもらった。

Ⅰ:「今回の授業」についてお聞きします。

 1 今回の授業は楽しかったですか。

 2  今回の授業はあなたにとって役立つと感じましたか。

 3  2 で「ア・イ」を選んだ人は「役立つと感じた理 由」

を,2 で「エ・オ」を選んだ人とは「役に立たないと

感じた理由」を何でも書いてください。

 4 今回の授業は「国語らしい」と感じましたか。

Ⅱ:「国語」全般についてお聞きします。

1  国語は得意ですか。

2 あなたの考える「国語の授業らしさ」に当てはま る

ものに○を付けてください。(複数回答可)

 ア 文学教材の読解  イ 説明文教材の読解

 ウ 漢字  エ 古文の解釈  オ 現代語の文法

カ スピーチ練習  キ コミュニケーションの訓練

 ク 作文  ケ 詩を読む  コ 詩を作る

3 コミュニケーションを「相手に自分の考えを伝え

る・相手の考えを理解する」こととすると,あなたは

コミュニケーション力を今までの国語の学習で身につ

けることができたと思いますか。

4 コミュニケーションを「相手に自分の考えを伝え

る・相手の考えを理解する」こととすると,あなたは

コミュニケーション力を今までどこで身につけてきま

したか。(複数回答可)

 ア 国語の授業  イ 英語の授業

ウ 社会の授業  エ 数学(算数)の授業

オ 理科の授業  カ 体育の授業

キ 音楽の授業  ク 美術(図工)の授業

ケ 技術の授業  コ 家庭科の授業

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サ クラブ活動  シ その他の学校生活

 ス 家庭  セ アルバイト先

ソ その他の学校外の活動

5 国語の授業で身につけたいと思う力は何ですか。自

由に書いてください。

5.4 アンケート結果(5段階評定部分) アンケート結果の全てを扱うことは紙幅の都合で不可

能であるため,本節で先に5段階で評定したⅠ- 1 ,Ⅰ

- 2 ,Ⅰ- 4 ,Ⅱ- 1 ,Ⅱ- 3 の 5 項目について全ての

結果を示すと共に統計的な分析をおこなう。自由記述と

複数回答可部分については別に抜粋して扱う。(体=体

育科,ス=スポーツ健康科学科) 5.5 アンケート分析(5段階評定部分) 今回は体育科では山内(2000:132)より,日本語教

育教科書で実際に使われているロールカード (6)を使用

し,スポーツ健康科学科では独自に考えた教材を使用し

た。アンケート結果にこうした教材の違いによる影響が

あったのかを調べるために,Ⅰ- 1 からⅡ- 3 までの 5

段階評定による 5 つの質問項目について,体育科とスポ

ーツ健康科学科の平均の差について,有意水準 5 %のF

検定により等分散性の検定をおこなった後に,両側検定

のt検定により検討した(得点化についてはアを 5 点,

オを 1 点とする)。その結果は下記の表 6 の通りとなった。

 Ⅰ- 1 からⅡ- 3 までの 5 段階評定による 5 つの質問

項目の全てにおいて,平均値の差は有意ではなかった。

統計的な有意差はなかったが,その中でも最も差が大

きかったのは,Ⅰ- 1 「今回の授業は楽しかったですか」

である。体育科の値も十分に高いが,自主教材を用いた

スポーツ健康科学科の値の方が高かった。両者のロール

カードの違いについては,4.1で述べたとおりであるが,

自主ロールカードについては,フォローアップインタビ

ューで国語教師より「パターンが一般化していたので,

アドリブの入る余地が少なかった。場面の種類の問題」

という指摘があった。これは場面設定における自由度の

低さを示唆しているが,反面,そのことがロールプレイ

の難易度低下にもつながり,Ⅰ-1「楽しかった」の値

表1 (Ⅰ-1)今日の授業は楽しかったですか。

表5 (Ⅱ-3)コミュニケーションを「相手に自分の考えを伝える・相手の考えを理解する」こととすると,あなたはコミュニケーション力を今までの国語の学習で身につけることができたと思いますか。

表2 (Ⅰ-2)今回の授業はあなたにとって役立つと感じましたか。

表3 (Ⅰ-4)今回の授業は「国語らしい」と感じましたか。

表4 (Ⅱ-1)国語は得意ですか。

表6 5段階評定部分の平均の差の検定結果

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を高くしたと推測される。

 次に 5 項目間の相関係数行列を求める。前述の通りⅡ

- 3 に一つ無効回答があったため,この回答者を除き,

63人分のデータで求める。

 各項目の相関をみると,Ⅰ- 1 「楽しかった」とⅠ-

2「役立つと感じた」に中程度の相関(0.47)が見られる。

このことは,ロールプレイの授業に限らず,一般的なこ

とであると思われるため特筆すべきことではない。

 次にⅠ- 4「国語らしいと感じた」とⅡ- 3「今まで

の国語でコミュニケーション力が身についた」に弱い相

関(0.31)が見られる。これは解釈が難しいが,今回の

ようなコミュニケーション的な授業も国語の範疇と考え

る学習者は,コミュニケーション力を広く捉えている可

能性があり,コミュニケーション力を広く捉えれば,

国語でもやっていると感じるということではないだろう

か。

 また,Ⅰ-2「役立つと感じた」とⅠ-4「国語らし

いと感じた」にも弱い相関(0.23)が見られる。これは

今回の授業に対するポジティブな評価ということで相関

が出たのだろう。

 この他にもⅡ-1「国語は得意ですか」とⅡ-3「今

までの国語でコミュニケーション力が身についた」が

0.21,Ⅰ-2「役立つと感じた」とⅡ-1「国語は得意で

すか」にも0.19という値が出ており,弱い相関の下限で

ある0.20前後であるが,今回は解釈を省略する。

5.6 アンケートの結果と分析(自由記述部分)(Ⅰ-3)2 で「ア・イ」を選んだ人は「役立つと感じた理由」

を,2 で「エ・オ」を選んだ人とは「役に立たな

いと感じた理由」を何でも書いてください。

「ア」を選んだ人

・コミュニケーション能力というものが今後,絶対に必

要とする中で,こういうのが苦手なぼくは,今回の授

業を通して,相手が不愉快な気持ちにならないように

するための訓練になるので役立つと思いました。

・ 1 つの題材でも人によって考え方や感じ方が違うんだ

とわかって視野が広がったと思うから。

・どうしたら相手を納得させられるか,自分の考えを的

確に伝えられるか,これからの社会で,自分の意見を

主張する際に必要だと思いました。

「イ」を選んだ人

・これをキッカケに相手の気持ちを考えて先読みしよう

と思った。

・自分の中では当たり前であったり,仕方ないと思って

いることでも,相手はそう思わなかったり,嫌に思っ

ていることは日常生活の中でよくある。それを,楽し

みの中でシュミレーションできてよかったです。

・相手の立場も考えてしゃべらないといけないことを知

った。

「エ」を選んだ人

・やっぱり思っていても,どう表現したらいいかわから

なかったので,とってもむずかしかったから。

・普段のやりとりで,やっていけてると思う。

 Ⅰ- 2「役立つと感じた」でア「感じた」と回答した

20名と,イ「そこそこ感じた」と回答した27名のうち3

名ずつと,エ「どちらかといえば感じた」の全てを抜粋

した(エと回答した4名のうち,2 名は(Ⅰ- 3 )の記

述部分は無回答であった。また,オ「感じなかった」を

選んだ回答者はいなかった)。概ね今回の授業意図は十

分に伝わったと言える。

(Ⅱ-5)国語の授業で身につけたいと思う力は何です

か。自由に書いてください。

1 位 読解力21

2 位 会話力・コミュニケーション力20

3 位 漢字18

4 位 正しい日本語10

5 位 語い力 8,音声言語理解力 8

7 位 敬語 6

8 位 文章力 3

9 位 思考力 2,想像力2

(ことわざ,慣用句,古典,文法,一生懸命さ,各1)

・相手の言いたいことを理解する力。

・読解力。敬語。漢字の力。

・読む力や考えることや想像力。

・古典。文法。

・正しい日本語。

・考えの豊かさや,語いの豊かさです。

・文章で,作者は何を考えてこの文章を考えているの か。

(作者の意図)

 回答を集計し,カテゴリーに分類して上位から示し

た。下段は実際の回答から一部抜粋したものである。回

答は様々であるが,基礎基本に当たることが求められて

表7 5段階評定部分の相関係数行列

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いる印象である。

5.7 アンケートの結果と分析(複数回答可部分)(Ⅱ- 2 )あなたの考える「国語の授業らしさ」に当て

はまるものに○を付けてください。

1 位 漢字53

2 位 文学教材の読解44

3 位 説明文教材の読解36

4 位 作文29

5 位 現代語の文法26

6 位 古文の解釈25

7 位 コミュニケーションの訓練21

8 位 詩を読む16

9 位 スピーチ練習15

10位 詩を作る 9

(64名中の回答数)

 今回のロールプレイという授業実践の直後に取ったア

ンケートであり,「コミュニケーションの訓練」の意識

が通常よりも高く出てしまっていると考えられるにもか

かわらず,回答数は21で 7 位とそれほど選ばれなかっ

た。一方で漢字や読解などが上位となっており,高校 3

年生まで国語科教育を受けてきて「国語の授業らしさ」

のイメージはおおよそ固まっていると言える。

(Ⅱ-4)コミュニケーションを「相手に自分の考えを

伝える・相手の考えを理解する」こととする

と,あなたはコミュニケーション力を今まで

どこで身につけてきましたか。

1 位 クラブ活動64

2 位 その他の学校生活38

3 位 家庭35

4 位 その他学校外の活動26

5 位 体育の授業21

6 位 国語の授業11

7 位 英語の授業 8

8 位 アルバイト先 5

9 位 家庭科の授業 3

10位 社会の授業 2 ,音楽の授業 2 ,美術(図工)の授

業 2 ,技術の授業 2

14位 数学(算数)の授業1,理科の授業1

(64名中の回答数)

 驚いたことにクラブ活動は全回答者が挙げるという結

果になった。これは体育科,スポーツ健康科学科という

回答者の属性がそのまま反映したといえる(ちなみに「体

育の授業」も21である)。「その他の学校生活」や「家庭」

が「国語の授業 (11)」や「英語の授業(8)」超えるのは

興味深い。

6 授業実践の課題とまとめ 国語科教育における話し言葉教育ではプレゼンテーシ

ョンやディベートなど公的場面の学習活動が多い。それ

に対して日常会話など私的場面の学習活動はほとんどお

こなわれていない。日本語母語話者は日本語能力が高い

ので,私的場面の学習活動は不要だと考えられているの

かもしれない。しかし,現実には日本語母語話者でも自

分の「思い」を伝えられず悔しい思いをした経験,本来

の意図と違って伝わって誤解された経験があるはずであ

る。ましてや,昨今の学校教育事情を考えれば,私的場

面の学習活動導入の重要性はさらに高く,その導入は大

きな課題である。

 冒頭にも挙げたが,指導要領にもある「自分の考えを

もって論理的に述べたり,相手の考えを尊重して話し合

ったりすること」を達成するためには,日本語教育で話

し言葉教育としてノウハウが蓄積されたロールプレイを

アサーション・トレーニングの視点を踏まえて導入する

ことの意義は大きいと考えられる。

ー 注 ー1. 国立教育政策研究所のHPの「研究成果アーカイブ

(研究開発部)」を参照のこと。

http://www.nier.go.jp/kaihatsu/katei_h17_h/index.htm

2. 逆に日本語教育では初級ではシラバスも整備され教

育方法もかなり確立されているが,中上級(特にアカ

デミック・ジャパニーズなど)についてはまだ模索の

段階である。その意味で国語科教育から日本語教育へ

示唆できる点も大きい。

ー 文 献 ー( 1 ) 文部省(2001年より「文部科学省」)『高等学校指

導要領(平成11年3月)』大蔵省印刷局,1999

( 2 ) 松田伯彦・時田光人・西村正司・宮野祥雄「教育

実習生の授業におけるロールプレイングの効果」『千

葉大学教育学部研究紀要 第1部』24,pp.101-110,

1975

( 3 ) 大澤功一郎『表現活動のアイディア―自由表現から

劇あそび・ロールプレイへ』明治図書,1991

( 4 ) 八巻寛治「小学生といっしょに 自分の気持ちを言

葉にできないときのシナリオロールプレイ」『月刊学

校教育相談』18(11),pp.86-89,2004a

( 5 ) 八巻寛治「小学生といっしょに 気まずい感じを与

えていることに気づくシナリオロールプレイ」『月刊

学校教育相談』18(14),pp.86-89,2004b

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( 6 ) 山内博之『ロールプレイで学ぶ中級から上級への日

本語会話』アルク,2000

( 7 ) 園田雅代・中釜洋子『子どものためのアサーション

(自己表現 )グループワーク』日本精神技術研究所,

2000

( 8 ) 鈴木教夫「やってみようアサーション」『月刊学校

教育相談』18(5) ~ 19(4),2004-2005

( 9 ) 永田麻詠「「自己と向き合う」国語教育の基礎的研

究 : アサーション・トレーニングとナラティヴ・アプ

ローチに学ぶ」『国語科教育研究 全国大学国語教育

学会発表要旨集』109,pp.185-188,2005

(10) 中井順子・近藤扶美ほか『会話に挑戦!中級前期か

らの日本語ロールプレイ』スリーエーネットワーク,

2005

ー 付 記 ー 本稿は,第113回全国大学国語教育学会岡山大会(2007

年11月3日)における同名の口頭発表に基づいて作成し

たものである。席上で有益なコメントくださった参加者

の皆様に感謝申し上げたい。ただし,本稿の不備は全て

筆者らの責任である。

 また,本稿は科学研究費補助金(平成18年度~ 20年

度若手研究B,研究課題:日本語学・日本語教育の概

念を応用した国語科言語事項の指導法開発,課題番号:

18730548,研究代表者:森篤嗣)の成果の一部である。