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150―――第31回 実践研究助成 研究課題 日本の国際協力をテーマとした「情報」の実践 副題 学校名 帝京高等学校 所在地 〒173-8555 東京都板橋区稲荷台27-1 学級数 28 児童・生徒数 803名 職員数/会員数 115名 学校長 橋本 悳正 研究代表者 三輪 清隆 1.はじめに 日本は周りを海に囲まれた国であり、国民はほぼ単一の 民族から構成されていることから、日常生活で外国を意識 することは難しい。ニュースで海外の出来事が取り上げら れても、高校生には実感できないことが多いのではないだ ろうか。大人でもすべての国について、どんな文化や歴史 的背景を持っているのかおおよそでも言える人はそういな いだろう。私自身、今回の研究授業で「バヌアツ」と交流 を行うまで、その国がどこにあるのか知らなかったのであ る。 一方で、日本は国際社会においてリーダーシップをとろ うと努力しているし、期待もされている。リーダーシップ をとることを期待されている理由の1つが、世界的に見て も国際協力に対して積極的な活動をしていることが理由の 1つとしてあげられるだろう。では、いったい日本は国際 協力の分野でどのような貢献をしていて、どんな人たちが 活動しているのだろうか。 本校にはインターナショナルコースという海外帰国子 女・留学生のためのコースがあり、一般の高校生に比べて 国際社会に対する関心が高い生徒が在籍している。従来 「日本紹介ビデオ」を生徒に作らせる過程で情報のディジ タル化について学び、作品を留学先の国々で見せてくると いう授業を実践してきた。今回は実際に国際協力事業に関 わられているコーエイ総合研究所、プロのカメラマンの方 にご協力いただき、他国の若者との交流を交えながら「日 本の国際協力」をテーマとして情報の授業を計画した。 2.研究の目的 「情報A」の授業で実施する場合の目標を学習指導要領 をベースに考えると、 (1) 情報を活用するための工夫と情報機器 ―情報伝達の工夫― 情報伝達を行う場面としては「日本紹介ビデオ」、「ニュ ーズレター制作」、「小論文」がある。ビデオの制作では、 「身近な日本」を紹介する手段として映像という伝達手段 を用いた。その際に、映像の編集作業で汎用コンピュータ から映像編集専用機まで利用することによって、用途に応 じた機器の適切な利用ということを学習する。 「ニューズレター制作」ではマルチメディアの統合を目 指した作品制作を行い、伝えたい情報ごとに最適な表現方 法を考えて作品制作する。 「小論文」では論理を展開する上で必要となる図表の制 作をできるだけ各自に考えてもらうように指導し、より分 かりやすい図表を制作するには、どうしたらよいのかを考 える。 (2) 情報の収集・発信と情報機器の活用 ―情報の検索と収集― バヌアツ、ラオスとの交流に当たって、事前に両国につ いてインターネットを用いて調べる。Webページに書か れている内容が適切なものであるかどうかといった問題提 起も行う。 (3) 情報社会を支える情報技術 ―情報技術の進展が社会に及ぼす影響― ラオスとの交流ではJICAネットという専用回線を使 実践研究助成 高等学校

日本の国際協力をテーマとした「情報」の実践152―――第31回 実践研究助成 ーネットで調べさせる(対象とした国はラオス、バヌアツ、

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Page 1: 日本の国際協力をテーマとした「情報」の実践152―――第31回 実践研究助成 ーネットで調べさせる(対象とした国はラオス、バヌアツ、

150―――第31回 実践研究助成

研究課題

日本の国際協力をテーマとした「情報」の実践

副題

学校名 帝京高等学校

所在地 〒173-8555

東京都板橋区稲荷台27-1

学級数 28

児童・生徒数 803名

職員数/会員数 115名

学校長 橋本 悳正

研究代表者 三輪 清隆

1.はじめに

日本は周りを海に囲まれた国であり、国民はほぼ単一の

民族から構成されていることから、日常生活で外国を意識

することは難しい。ニュースで海外の出来事が取り上げら

れても、高校生には実感できないことが多いのではないだ

ろうか。大人でもすべての国について、どんな文化や歴史

的背景を持っているのかおおよそでも言える人はそういな

いだろう。私自身、今回の研究授業で「バヌアツ」と交流

を行うまで、その国がどこにあるのか知らなかったのであ

る。

一方で、日本は国際社会においてリーダーシップをとろ

うと努力しているし、期待もされている。リーダーシップ

をとることを期待されている理由の1つが、世界的に見て

も国際協力に対して積極的な活動をしていることが理由の

1つとしてあげられるだろう。では、いったい日本は国際

協力の分野でどのような貢献をしていて、どんな人たちが

活動しているのだろうか。

本校にはインターナショナルコースという海外帰国子

女・留学生のためのコースがあり、一般の高校生に比べて

国際社会に対する関心が高い生徒が在籍している。従来

「日本紹介ビデオ」を生徒に作らせる過程で情報のディジ

タル化について学び、作品を留学先の国々で見せてくると

いう授業を実践してきた。今回は実際に国際協力事業に関

わられているコーエイ総合研究所、プロのカメラマンの方

にご協力いただき、他国の若者との交流を交えながら「日

本の国際協力」をテーマとして情報の授業を計画した。

2.研究の目的

「情報A」の授業で実施する場合の目標を学習指導要領

をベースに考えると、

(1) 情報を活用するための工夫と情報機器

―情報伝達の工夫―

情報伝達を行う場面としては「日本紹介ビデオ」、「ニュ

ーズレター制作」、「小論文」がある。ビデオの制作では、

「身近な日本」を紹介する手段として映像という伝達手段

を用いた。その際に、映像の編集作業で汎用コンピュータ

から映像編集専用機まで利用することによって、用途に応

じた機器の適切な利用ということを学習する。

「ニューズレター制作」ではマルチメディアの統合を目

指した作品制作を行い、伝えたい情報ごとに 適な表現方

法を考えて作品制作する。

「小論文」では論理を展開する上で必要となる図表の制

作をできるだけ各自に考えてもらうように指導し、より分

かりやすい図表を制作するには、どうしたらよいのかを考

える。

(2) 情報の収集・発信と情報機器の活用

―情報の検索と収集―

バヌアツ、ラオスとの交流に当たって、事前に両国につ

いてインターネットを用いて調べる。Webページに書か

れている内容が適切なものであるかどうかといった問題提

起も行う。

(3) 情報社会を支える情報技術

―情報技術の進展が社会に及ぼす影響―

ラオスとの交流ではJICAネットという専用回線を使

実践研究助成

高等学校

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第31回 実践研究助成―――151

高等学校

わせてもらえたが、バヌアツとの交流ではダイヤルアップ

回線を使って交流した。専用回線では一般的ではないが、

ダイヤルアップ回線を利用する交流なら、どこの家庭でも

手軽に行うことができる。このことから、今後の社会に及

ぼす影響を考えてもらうきっかけとする。

3.研究の方法

(1) 日本紹介ビデオ

・ 映像作品の構成、映像ファイルに関すること等につい

ては学校教員が講義する。

・ 作品のシナリオ作りについてはコーエイ総合研究所の

石井先生、西田先生にアドバイス、講義をいただく。

・ 日本語学校を訪問して、留学生の方たちにシナリオ作

りの参考とするためのインタビューを実施する。

・ 生徒間の意見を取りまとめるのにブレーンストーミン

グ、KJ法を利用する。

・ カメラワークについてはプロのカメラマンに講義を依

頼する。

(2) 南北問題を考える(ラオス、バヌアツの若者との

交流)

・ 「国際的」という言葉をキーワードに生徒同士で討論

させる。

・ グループごとに国名を明らかにしていない写真を見

て、話し合いながら国名を当ててもらう。

・ 写真に紹介された国の基本情報を調べる一般的なサイ

トを紹介する。

・ 「地球家族」(ピーター・メンツェル著)を用いて国際

援助を必要としている国々の身の回りの品々から、南

北問題について第三者(保護者など)と話し合っても

らう。

・ Webカメラ、Yahooメッセンジャーを用いた交

流、JICAネットを用いた交流。

(3) ニューズレターの作成

・ 国際協力に関わる関係団体を訪問して取材する。

・ グループごとに作業(ブレーンストーミング、アロー

ダイヤグラムを利用)。

(4) 小論文

・ 大テーマ「日本の国際協力を考えよう」に対して、小

テーマを各自が決定する。決定に至る過程で、教員と

諮問を行う。

4.研究の内容

(1) 日本紹介ビデオ

「日本紹介ビデオ」という映像作品制作をするに当たり、

まずは映像作品がどのように構成されているかを理解しな

ければいけない。サントリーの飲料CMを例にとって、映

像作品がカットから構成されることを理解してもらった。

具体的には繰り返し1つのCMを見てもらって、絵コンテ

を完成した映像作品から起こすというものである。絵コン

テはこのあと、自分たちの作品を作る際にグループ内のコ

ンセンサスをとるためにも用いられることにもなる。また

その他に、映像作品はどのような過程を経て作られるのか、

映像ファイルにはどんな種類のものがあるのか、解像度と

はなにかということについても教科書を利用して学んだ。

撮影をする際の注意点については、プロのカメラマンで

ある池野一成先生にご指導いただく。カメラのフレームは

固定して撮影すること、三脚

の使用に当たって水平をとる

ことの大切さ、インタビュー

シーンの撮影ではアングル・

イマジナリーラインが大切で

あることなどが実習と共にご

指導いただけた。

シナリオを作るに際し、日本語学校に通う留学生の方た

ちにインタビューを計画する。事前に3グループに分けて、

インタビューする質問事項をまとめる。グループごとに質

問内容をまとめてもらい、クラス内でそれらを発表させる。

グループによっては絵などを用いて発表してくれるなど、

視覚にうったえる表現方法も見られた。指導に当たっては

コーエイ総合研究所の石井徹弥先生、西田敦子先生にご協

力いただく。5月13日(金)放課後、JR埼京線板橋駅前

にあるJETアカデミー日本語学校様を訪問する。留学生

の方たちも3グループに分かれてもらい、それぞれ3室で

インタビューが行われた。 初はぎこちない様子であった

が、年齢が近いこともあって徐々に打ち解けて会話するよ

うになっていった。予定時間終了後には名残惜しそうに、

お互いアドレス交換や写真を

取り合う姿などが見られた。

インタビュー後の授業ではグ

ループごとにブレーンストー

ミング、KJ法を活用して映

像作品のシナリオを話し合い

の上、作ってもらった。

「日本紹介ビデオ」は3つのパートからなる。1つは日

本の交通機関を紹介するもの、次に日本の高校生の放課後

を紹介するもの、そして東京の街を背景としたインタビュ

ーシーンである。シナリオ完成後はグループごとに作品制

作に当たり、 終的に3つのパートからなる「日本紹介ビ

デオ」を制作した。ビデオカメラ、三脚はすべてのグルー

プに貸し出して、デスクトップPCも1台ずつ占有させた。

ただし、3つのパートをまとめる際にはビデオ編集専用機

(EDIROL)を利用した。

(2) 南北問題(ラオス、バヌアツの若者との交流)

「国際化」という言葉についてグループごとに討論させ、

まとめたものを発表させる。続いて、21枚の写真の中から

同じ国の写真を抜き出す作業を3グループで実施する(21

枚の写真は3カ国の写真から構成されている)。答えを披露

して、グループごとにそれぞれの国の基礎データをインタ

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152―――第31回 実践研究助成

ーネットで調べさせる(対象とした国はラオス、バヌアツ、

エチオピア)。調べた基礎データと日本の生活との格差を理

解してもらう。その上で、「地球家族」を利用して、「豊か

さ」をテーマにしたインタビューを家族・友人にしてもら

う。

バヌアツ、ラオスについて

基礎データ、生活の様子など

を調べる。そして、交流を予

定しているバヌアツのブーゲ

ンビル高校、ラオスのラオス

日本人材開発センターに自己

紹介文、ビデオを送る。ラオスからは写真と音声によるメ

ッセージがインターネット経由で届けられた。10月29日

(土)バヌアツとの交流を、Yahooメッセンジャーを

利用して行う。音声が途切れてしまう場面も多かったが、

映像の送受信もうまくいき、交流は成功した。10月29日

(土)にはJICAを訪問し、JICAネットによるラオ

スとの交流をする。機器のトラブルもなく、衣食住をテー

マとした交流は無事に終えることができた。

(3) ニューズレターの作成

国際協力に携わっている団体を訪問して担当者の方から

お話を聞き、Webページを利用したニューズレターを作

成する。訪問する団体はコーエイ総合研究所の西田様より

ご推薦いただき、日本ユニセフ、JICA、NPO法人オ

イスカとなる。生徒には各団体についてインターネットを

使い下調べして、質問内容を作成させる。訪問後は各団体

でいただいた資料や聞けた内容をもとにして、制作する

Webページのラフスケッチを描かせる。その後完成した

ラフスケッチをもとにしてグループ内での作業分担を決め

させる。また、作業パートごとの作業日程を明示するため

に、アローダイヤグラムを作らせる。制作作品はWebペ

ージをベースとしたが、取り扱うコンテンツに応じてアニ

メーション、音楽や図表などが用いられた。なお、音楽に

ついては音楽作成ソフトのACIDを利用して生徒によっ

て作られた。

(4) 小論文

「日本の国際協力を考えよう」を大テーマとして、各自

で小テーマを考える。レポートと小論文の違いを意識して

書き上げるようにすることができればよかったのだが、レ

ポートで終わってしまう生徒が多かった。アンケートを実

施して書き上げる生徒もいた。

5.研究の成果と今後の課題

イラクへの派兵、国連常任理事国問題など、国際社会に

おける日本への期待や役割が注目されていることもあり、

今回の研究は生徒の興味・関心を引くには十分なものだっ

たようだ。特に今までの枠組みで考えると、「日本の国際協

力」といえば現代社会で展開されるところを情報で展開で

きたことが、情報という教科の可能性を広げたのではない

だろうか。

また、いままでは映像作品の指導やテーマの展開に当た

って、教員が自学・自習し生徒を指導していたものを専門

家から直接指導してもらう機会がもてたことで、生徒だけ

でなく教員も大変参考になった。当然のことであるが、こ

こで展開してもらった授業内容については、次年度の授業

にも積極的に取り入れていきたい。さらに、機会があれば

「国際協力」の授業を他校で展開する際の基本モデルとし

てもらいたい。特に、情報インフラに悩む学校であっても、

ダイヤルアップ回線を利用した国際交流の授業は十分に展

開できるはずである。一方、Webページをベースとした

マルチメディアの統合では、新しい情報発信の表現方法の

1つとして取り扱っていくことも可能である。

次年度は専門家の助力を得ずに教員だけでどこまで展開

できるかを確認するとともに、さらに新しいアイデアを盛

り込んで行く予定である。

6.おわりに

今回の研究を行うに当たり、(財)松下教育研究財団様、

(株)コーエイ総合研究所の石井様、西田様、(株)エー

ス・ワン池野様、独立行政法人 国際協力機構様、(財)オ

イスカ様、(財)日本ユニセフ協会様、バヌアツ・ブーゲン

ビル高校川崎様、金子様、ラオスLJC日本語コース平田

様、JET日本語学校得猪様には大変お世話になりました。

この場を借りて感謝いたします。

参考文献

「地球家族-世界30か国のふつうの暮らし」 ピータ

ー・メンツェル(著)

「世界がもし100人の村だったら」 池田香代子(著)