1
©日本証券アナリスト協会 2014 65 はじめに .グローバル自動車産業の現状と課題 .グローバル自動車産業の競争力比較 .主要国の現状と日本メーカーの課題と戦略性 はじめに 単品種大量生産システムを確立し産業基盤を築 いたのがフォードの「フォーディズム」であり、 市場成熟化に対しマーケティング管理と事業部制 システムという新たなイノベーションを生んだ GM中興の祖、アルフレッド・スローンから名づ けられたのが「スローニズム」である。米国メー カーが生みだしたイノベーションに牽引され、ま さに彼らの覇権の手中で、自動車産業は世界の重 要産業の地位を確立した。 その欧米主導の大量生産システムから競争優位 を奪取し新たな覇権を築いたのが、わが国の自動 車産業であり、それはまさにジャストインタイム を含めた「リーン生産システム」のイノベーショ ンの賜物以外のなにものでもない。このシステム は四半世紀以上にわたり自動車産業の競争優位を 支配し、時代の浮き沈みはあったものの、最終的 に米国ビッグスリーの社を2009年に経営破綻 に追い込んで勝敗を決したのである。 ところが、勝負はまだ終わってはいないようだ。 2000年代後半に入るとトヨタ自動車を代表とす る日本メーカーが今度は閉塞感に包まれ、六重苦 の外部環境の中で国際競争力に陰りを著しく示し クルマは誕生以来、アーキテクチャが根本から変わることはなかったが、進化速度は従前の穏やかさとは性質 が異なる新たな展開を認識する。混沌としたグローバル大競争時代に突入する中、競争優位確立への構造対応が 求められる。経験のない規模と複雑化のコントロールと同時に、先進国と新興国のクルマの要求性能の収斂を克 服できるコストと性能のブレークスルーを実現する設計、調達、製造のイノベーションがわが国の自動車産業の 国際競争力維持のために必要不可欠となってきた。 最近のわが国自動車産業の動向と展望 西 中西 孝樹(なかにし たかき) ㈱ナカニシ自動車産業リサーチ代表。米国Institutional InvestorII)誌自動車セクター、日 経ヴェリタス人気アナリストランキング自動車部門で2004年から09年まで年連続第位と不動の地位を保った。セルサイド復帰後、II、日経ランキングともに自動車部門で13 年に第位。1986年オレゴン大学卒。山一證券、メリルリンチ証券等を経由し、06年か J. P. モルガン証券東京支店株式調査部長、09年からアライアンス・バーンスタインのグ ロース株式調査部長に就任。著書に「トヨタ対VW」(日経新聞出版社)などがある。 経済・産業・実務シリーズ

最近のわが国自動車産業の動向と展望©日本証券アナリスト協会 2014 65 経済・産業・実務シリーズ はじめに 1.グローバル自動車産業の現状と課題

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • ©日本証券アナリスト協会 2014� 65

    経済・産業・実務シリーズ

     はじめに

    1.グローバル自動車産業の現状と課題2.グローバル自動車産業の競争力比較3.主要国の現状と日本メーカーの課題と戦略性

    目 次

     はじめに

     単品種大量生産システムを確立し産業基盤を築

    いたのがフォードの「フォーディズム」であり、

    市場成熟化に対しマーケティング管理と事業部制

    システムという新たなイノベーションを生んだ

    GM中興の祖、アルフレッド・スローンから名づ

    けられたのが「スローニズム」である。米国メー

    カーが生みだしたイノベーションに牽引され、ま

    さに彼らの覇権の手中で、自動車産業は世界の重

    要産業の地位を確立した。

     その欧米主導の大量生産システムから競争優位

    を奪取し新たな覇権を築いたのが、わが国の自動

    車産業であり、それはまさにジャストインタイム

    を含めた「リーン生産システム」のイノベーショ

    ンの賜物以外のなにものでもない。このシステム

    は四半世紀以上にわたり自動車産業の競争優位を

    支配し、時代の浮き沈みはあったものの、最終的

    に米国ビッグスリーの2社を2009年に経営破綻

    に追い込んで勝敗を決したのである。

     ところが、勝負はまだ終わってはいないようだ。

    2000年代後半に入るとトヨタ自動車を代表とす

    る日本メーカーが今度は閉塞感に包まれ、六重苦

    の外部環境の中で国際競争力に陰りを著しく示し

     クルマは誕生以来、アーキテクチャが根本から変わることはなかったが、進化速度は従前の穏やかさとは性質

    が異なる新たな展開を認識する。混沌としたグローバル大競争時代に突入する中、競争優位確立への構造対応が

    求められる。経験のない規模と複雑化のコントロールと同時に、先進国と新興国のクルマの要求性能の収斂を克

    服できるコストと性能のブレークスルーを実現する設計、調達、製造のイノベーションがわが国の自動車産業の

    国際競争力維持のために必要不可欠となってきた。

    最近のわが国自動車産業の動向と展望

    中 西 孝 樹

    中西 孝樹(なかにし たかき)

    ㈱ナカニシ自動車産業リサーチ代表。米国Institutional Investor(II)誌自動車セクター、日

    経ヴェリタス人気アナリストランキング自動車部門で2004年から09年まで6年連続第1位と不動の地位を保った。セルサイド復帰後、II、日経ランキングともに自動車部門で13年に第1位。1986年オレゴン大学卒。山一證券、メリルリンチ証券等を経由し、06年からJ. P. モルガン証券東京支店株式調査部長、09年からアライアンス・バーンスタインのグロース株式調査部長に就任。著書に「トヨタ対VW」(日経新聞出版社)などがある。

    経済・産業・実務シリーズ