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えへん!!諸君こんにちは今回は《荘厳ミサ曲》について話をしよう。 知っての通り《荘厳ミサ曲》は、ルドルフ大公の大司教への即位式典で演奏するために書き始 められたんじゃ。ベートーヴェンはバッハ、パレストリーナらの前時代のミサをくまなく研究し、 古きよきミサ曲の特徴と自分の目指す音楽とをつなぎ合わせようとしたんじゃ。曲は次第に壮大 になってゆき、祝典ミサの領域にとどまらなくなっていったんじゃ。結局、式典には間にあわず、 完成までに4年かかったのじゃ。 ベートーヴェンの理想や哲学を折り込むこの《荘厳ミサ曲》は、「教会のミサの儀式に歌う為」 というその意味を遥かに超え、究極の神への愛、人間愛をうたっているのじゃよ。 終章「Dona nobis pacem(我らに平安を与えたまえ)」に「Bitte um innern und äußern Frieden (内的そして外的平安を求める祈り)」と書いているように、神の世界、 精神世界の平和のみならず、この世の平和までも祈っている。曲は既に ルドルフ大公に捧げられるためだけではなく、時間を超え多くの人々に 捧げられる普遍的な作品となっていったんじゃ。そして今日「人々の心の 中に深く入り込んでゆくミサ曲」と評されるわけじゃよ。 では、《荘厳ミサ曲》を解説しよう・・・ /24 名古屋市民コーラス 作成/ベートーヴェン研究会 No.あれこれ情報満載 2014 荘厳ミサ曲はこうなっている Assai sostenuto 充分に音符の長さを保って、テンポを抑えて Mit Andacht 信仰、敬虔さを持って》1小節~ 合唱と独唱 Kyrie eleison. 主よ 憐れみたまえ。 Andadte assai ben marcato 程良くゆっくり、歩くような速さで、はっきりと》86 小節~ 独唱しだいに合唱 Christe eleison. キリストよ 憐れみたまえ。 Tempo 最初の速さで》128 小節~ 合唱と独唱 Kyrie eleison. 主よ 憐れみたまえ。 「主よ 憐れみたまえ、キリストよ 憐れみたまえ、主よ 憐れみたまえ」各文が 3 回ずつ唱えられる。 三行が 3 回ずつ歌われることは三位一体を念頭に置くものである。また声部を交差させ十字架を表すなど教会音楽に基 づくものである。 キリエ (Kyrie) 憐みの賛歌 ギリシャ語 日常生活に居る我々の心を穏やかに、祈りの場所に導く *「キリエ エレイソン」は「主よ憐れみたまえ」という意味のギリシャ語"Κυριε ελεησον"をラテン語読みしたもの。 ※ベートーヴェンは楽譜の冒頭にVon Herzen-möge es wieder-zu Herzen gehen (心から出で、願わくば再び、心へと至らんことを)と記する。 Mr. Music Holmes -1-

あれこれ情報満載 - さくらのレンタルサーバnagoyashimin.sakura.ne.jp/members/kenkyukai/bno4.pdf独唱 Qui tollis peccata mundi, 世の罪を取り除いて下さる方よ

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Page 1: あれこれ情報満載 - さくらのレンタルサーバnagoyashimin.sakura.ne.jp/members/kenkyukai/bno4.pdf独唱 Qui tollis peccata mundi, 世の罪を取り除いて下さる方よ

えへん!!諸君こんにちは今回は《荘厳ミサ曲》について話をしよう。

知っての通り《荘厳ミサ曲》は、ルドルフ大公の大司教への即位式典で演奏するために書き始

められたんじゃ。ベートーヴェンはバッハ、パレストリーナらの前時代のミサをくまなく研究し、

古きよきミサ曲の特徴と自分の目指す音楽とをつなぎ合わせようとしたんじゃ。曲は次第に壮大

になってゆき、祝典ミサの領域にとどまらなくなっていったんじゃ。結局、式典には間にあわず、

完成までに4年かかったのじゃ。

ベートーヴェンの理想や哲学を折り込むこの《荘厳ミサ曲》は、「教会のミサの儀式に歌う為」

というその意味を遥かに超え、究極の神への愛、人間愛をうたっているのじゃよ。

終章「Dona nobis pacem(我らに平安を与えたまえ)」に「Bitte um innern und äußern Frieden

(内的そして外的平安を求める祈り)」と書いているように、神の世界、

精神世界の平和のみならず、この世の平和までも祈っている。曲は既に

ルドルフ大公に捧げられるためだけではなく、時間を超え多くの人々に

捧げられる普遍的な作品となっていったんじゃ。そして今日「人々の心の

中に深く入り込んでゆくミサ曲」と評されるわけじゃよ。

では、《荘厳ミサ曲》を解説しよう・・・

6/24

名古屋市民コーラス

作成/ベートーヴェン研究会

No.4

あれこれ情報満載 2014

荘厳ミサ曲はこうなっている

《Assai sostenuto 充分に音符の長さを保って、テンポを抑えて Mit Andacht信仰、敬虔さを持って》1小節~

合唱と独唱

Kyrie eleison. 主よ 憐れみたまえ。

《Andadte assai ben marcato 程良くゆっくり、歩くような速さで、はっきりと》86小節~

独唱しだいに合唱

Christe eleison. キリストよ 憐れみたまえ。

《Tempo Ⅰ 最初の速さで》128小節~

合唱と独唱

Kyrie eleison. 主よ 憐れみたまえ。

「主よ 憐れみたまえ、キリストよ 憐れみたまえ、主よ 憐れみたまえ」各文が 3回ずつ唱えられる。

三行が3回ずつ歌われることは三位一体を念頭に置くものである。また声部を交差させ十字架を表すなど教会音楽に基

づくものである。

キリエ (Kyrie) 憐みの賛歌 ギリシャ語

日常生活に居る我々の心を穏やかに、祈りの場所に導く

*「キリエ エレイソン」は「主よ憐れみたまえ」という意味のギリシャ語"Κυριε ελεησον"をラテン語読みしたもの。

※ベートーヴェンは楽譜の冒頭に『Von Herzen-möge es wieder-zu Herzen gehen

(心から出で、願わくば再び、心へと至らんことを)』と記する。

Mr. Music Holmes

-1-

Page 2: あれこれ情報満載 - さくらのレンタルサーバnagoyashimin.sakura.ne.jp/members/kenkyukai/bno4.pdf独唱 Qui tollis peccata mundi, 世の罪を取り除いて下さる方よ

神とその子でイエスをひたすら讃え感謝するもの。作曲家の想像する天井の神々の世界が描かれる。

典礼文は主なる神とイエス キリストと聖霊の三つで構成されている。三位一体を表す三拍子ではじま

り、神の楽器といわれるトランペットが鳴り、神の音楽であるフーガで締めくくられる。これら三つは

「グロリア」の定番である。

《Allegro vivace 快活に速く》1小節~

三位一体を表す三拍子。輝かしい4小節のファンファーレに始まり、まず神を讃える。

合唱 Gloria in excelsis Deo, et in terra pax hominibus bonae voluntatis.

天のいと高きところでは神に栄光が、そして地上の善き人々には平和がありますように

Laudamus te,benedicimus te,adoramus te,glorificamus te,

私たちはあなたを誉め、あなたを祝福し、あなたを拝し、あなたを崇めます

《Meno Allegro 速度を落として cantabile歌うように表情を込めて》131小節~

美しいクラリネットソロが新たな段落を導く。

独唱から合唱 Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam,

私たちはあなたに感謝を捧げます。あなたの大いなる栄光のゆえに。

《Tempo Ⅰ 最初の速さで》174小節~ 合唱 Domine Deus, Rex caelestis,Deus Pater omnipotens.

主なる神よ、天の王よ、全能なる父なる神よ。 独唱 Domine fili unigenite, Jesu Christe.

唯一つの御子である主、イエス・キリストよ Domine deus, agnus Dei, filius patris. 主なる神よ、神の仔羊よ、御父の御子よ

《Larghetto ゆったりと遅く、ひろびろとした気持ちで》230小節~

独唱 Qui tollis peccata mundi, 世の罪を取り除いて下さる方よ

合唱応答 miserere nobis. 私たちを憐れんで下さい。

《espressivo 表情豊かに感情をこめて》263小節~

合唱、独唱 suscipe deprecationem nostram. 私たちの願いを聴いて下さい。

トランペットによるファンファーレ 268小節~ Qui sedes ad dexteram patris, miserere nobis. 御父の右に座しておられる方よ、私たちを憐れんで下さい。

Ah! Miserere nobis あぁ、私たちを憐れんで下さい Oh!miserere nobis おぉ、私たちを憐れんで下さい

*Ah,Oh の感嘆詞は ベートーヴェンが追加した

◆Quoniam なぜなら

《Allegro maestoso 快速に、威厳に満ちて堂々と》310小節~

~だけ(唯一)を象徴するために合唱は単一声部、高音域で開始している。 合唱 Quoniam tu solus sanctus, なぜなら あなただけが聖なる方であり、

quoniam tu solus Dominus. あなただけが主であり quoniam tu solus altissimus, あなただけが至高なる方だからです、 Jesu Christe イエスキリストよ

合唱 cum Sancto Spiritu, in gloria Dei Patris, 聖霊と共に 父なる神の栄光のうちに Amen. アーメン

《Allegro ma non troppo e ben marcato あまり速くなく、各音をはっきりと》360小節~

グロリアを締めくくる壮大なフーガ

合唱、独唱 in gloria Dei Patris, Amen. 父なる神の栄光のうちに アーメン

《Poco pi'

u Allegro 少しずつ今までよりも Allegro にして》459小節~

アーメンという言葉に向って、壮大なクライマックスを築く。

《Presto 極めて速く》525小節~

グロリアの主題が再現しさらに高潮。

合唱 Gloria in excelsis Deo. 天のいと高きところでは神に栄光がありますように

グロリア (Gloria) 栄光の賛歌 ラテン語

主なる神

イエス

キリスト

聖霊

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~聖イグナティウスの栄光~ 見る者を絢爛たる天上世界に誘う サンティニャツィオ教会の天井画

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「私は唯一の神を信じます、全能の神を信じます、イエス・キリストを信じます。」と唱える歌詞。

そしてキリストの生涯を歌う。曲は誕生、受難、磔刑、復活、昇天と各場面を表現する。さらに最後の

審判、死者の復活と来世の世界を願う。

《Allegro ma no troppo アレグロで、しかしあまり速くなく》1小節~

合唱 Credo in unum Deum, 私は唯一つの神を信じます

Patrem omnipotentem. 全能の御父を(信じます)

factorem caeli et terrae, 天と地と見えるものすべてと、

visibilium omnium et invisibilium, 見えないものをつくった方を

Credo in unum Dominum Jesu Christe. また、唯一つの主なるイエス・キリストを(信じます)

filium Dei unigenitum. 神のひとり子を

et ex patre natum ante omnia saecula 世界のできる前に御父から生まれた方を(信じます)

Deum de Deo, lumen de lumine, 神からの神、光からの光

deum verum de Deo vero. まことの神からのまことの神

genitum, non factum, つくられることなく、お生まれになり

consubstantialem Patri: 一体である御父と

per quem omnia facta sunt. その方によってすべてのものが造られたのです

フルートの優しい音色と共に、温かな変ニ長調に転調 87小節~

qui propter nos homines, その方はわれら人間のため

et propter nostram salute そして、われらを救うために

descendit de coelis. 天から降りてこられたのです

降臨を、急速な下降音階が表現して一区切り 114~123小節

◆Et incarnatus そして肉体が与えられた

《Adagio ゆるやかに》124小節~

合唱と独唱テノール Et incarnatus est de spiritu sancto そして、聖霊によって処女マリアから

ex Maria virgine: 肉体を受け

独唱者達による応答

神秘的な教会旋法で歌われる。

音量を抑えるために数人の弦楽器でと指示がある。

《Andante 程良くゆっくりと歩くように》144小節~

独唱テノール 合唱応答 et homo factus est. そして人となられたのです

合唱応答

《Adagio espressivoゆるやかに表情豊かに感情をこめて》156小節~

雰囲気が深刻に一変し、ここから受難の場面となる。

弦楽器でイエスの鞭打ちの音を表現している。(楽譜参照)

独唱と合唱

crucifixus etiam pro nobis 私たちのために

sub Pontio Pilato: passus, ポンティオ・ピラトのもとで

et sepultus est 十字架に架けられ 苦しみを受け葬られました。

ゴルゴダの丘に向う足取り、見守るものの嘆き、イエスの死が描かれる。

十字架音形(楽譜参照)を取り入れる。

クレド (Credo) 信仰宣言

~受胎告知~天使が「あなたは身籠り男子を生む」とマリアに告げる。

~ローマ総督ピラトの裁き~ イエス救済を試みるが、群衆の激情に恐れをなし死刑宣告の裁きから身を引くピラト。

~イエスの磔刑~

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◆Et resurrexit そして復活

《Allegro 快活に速く》188小節~

合唱ア・カペラ

Et resurrexit tertia die, secundum scripturas

そして3日目に復活されました、聖書にあるように

《Allegro molto とても快活に速く》194小節~

上昇する音階が「昇天」を現す。

合唱

et ascendit in caelum: sedet ad dexteram patris.

天に昇られ 父なる神の右に座っておられます

et iterum venturus est cum gloria

そして再び栄光のうちにこられます

トロンボーンが「最後の審判のラッパ」を吹き鳴らす。221~224小節

judicare vivos et mortuos: 生者と死者とを裁くために

cujus regni non erit finis. その王国は終わることはありません、けっして

Credo in unam sanctam catholican

私は信じます、唯一にして聖なる公の

et apostolicam ecclesiam. 使徒から継承された教会を

confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum.

私は罪人をゆるす唯一の洗礼を認めます

et exspecto resurrectionem mortuorum. そして待ち望みます、死者の復活と

et vitam venturi saeculi. Amen 来世の命を アーメン

ここまで歌詞を全部歌ったのち、あらためて来世の生命を待ち望み、

「Et vitam venturi saeculi. Amen」一行の歌詞による大フーガを開始する。

*ベートヴェンはこの「Et vitam venturi saeculi. Amen」を最も重視し、フーガとしてクレド作曲の最初に

着想、クレド全体がここに集結するよう構成した。

◆フーガ

①《Allegretto ma non troppo やや快速で、しかしあまり速くなく》306小節~

合唱 Et vitam venturi saeculi. 来世の命を待ち望みます。

Amen. アーメン ②《Allegro con moto さらに動きがあるように》372小節~

合唱 Et vitam venturi saeculi. 来世の命を待ち望みます。

Amen. アーメン ③《Grave 重々しく、荘厳に非常にゆっくりと》433小節~

合唱 独唱 Et vitam venturi saeculi. 来世の命を待ち望みます。

Amen. アーメン

①華やかに穏やかに開始され、②やがてテンポをあげて来世の幸福と、③更にテンポを落として招かれて昇天

してゆく様が独唱者を加えて限りなく美しく描き出される。

異例の3段階構造を持ち、このミサ曲の中心点となっている。

《Allegro ma non troppo un poco maestoso 速すぎず音符の長さを保って、威厳に満ちて堂々と》264小節~

「クレド」冒頭のテーマが戻ってくる。

カトリックの教義を早口言葉で歌う、ユーモラスでもある。

Credo in Spiritum Sancutum 私は 主なる聖霊を信じます

Dominum, et vivificantem: 主であり 生命を与えてくださる方を

qui cum Patre, filioque procedit. 御父と御子とともに出て

qui cum patre, et filio simul adoratur, et conglorificatur:

御父と御子とともに等しく崇拝され讃えられる方を

qui locutus est per prophetas. 予言者を通して語られていた方を

~イエスの墓を訪れるマリアたち~ 純白の衣を纏った天使が、墓の入り口を塞いでいた石に座りイエスの復活を告げる。

~最後の審判~ この世の終末にキリストが人類の罪を審判する。ラッパがなると死者は復活して朽ちない者とされる。

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Amen アーメンについて

限りなくロマンティックで美しい管弦楽ではじまる。

冒頭でサンクトゥスを3回唱えるので、和訳では「三聖頌」ともいう。

《Adagio ゆるやかに Mit Andacht 信仰、敬虔さを持って》1小節~

独唱 Sanctus, Sanctus, Sanctus, 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、

Dominus Deus Sabaoth. 万軍の神なる主は

◆Pleni sunt coeli 栄光に満ちている

《Allegro pesante 速く重々しく》34小節~

独唱 Pleni sunt caeli et terra gloria tua 天も地もあなたの栄光に満ちています。

◆Osanna オザンナ

《Presto 極めて速く》53小節~

独唱 Osanna in excelsis. いと高きところにオザンナ

*「Osanna オザンナ」はヘブライ語の音訳で原義は『救いたまえ』。イエスがエルサレム入城の際に人々が

「オザンナ、主の名によって来られた方に祝福があるように・・・」と出迎えたとされる。

◆Präludium管弦楽による序奏

《Sostenuto ma non troppo 各音符の長さを保って、しかしあまり速くなく》78小節~

非常な神秘的な音楽である。

◆ベネディクトゥス (Benedictus) 短い賛歌で、普通「サンクトゥス」と併せて一つの曲にまとめられる。(マタイ福音書 21:9)

ベートーヴェンがそれまで交響曲などでみせた事のないやさしい表情と、究極の美しさを

持っている。

ヴァイオリンが一筋の光のように繊細に奏でられ『ベネディクトゥス』の開始を告げる。 《Andante molto cantabile e non troppo mosso 111小節~

ほどよくゆっくりと歩くように、とても感情をこめて、しかしあまり動き過ぎないように》

天上より降りる聖霊のごとく、フルートともに3オクターブにもわたって下降する

感動的なヴァイオリンソロが奏でられる。

合唱バス 独唱 合唱

Benedictus 祝福されますように

qui venit in nomine Domini. 主の御名によって来られる人が

Osanna in excelsis. いと高きところにオザンナ

合唱バスが静かに歌いはじめ、他の声部へと受け継がれていく。

途中「オザンナ」で力強く盛り上がるが、全体に清澄な気分に溢れた楽章である。

サンクトゥス (Sanctus) 感謝の賛歌

神などに関する言葉

Deus 神

Dominus 主

Pater 父(=神)

Filius 息子(=イエス・キリスト)

Spiritus 精霊、心、魂

Christus キリスト(聖油を注がれた者の意)

Iesus イエス・キリスト

Mater 母(聖母マリア)

~ステンドグラスからの光~

ヴァイオリンソロはまるでステンドグラスの光のように、天上から地上に降り立つ天使の輝きを思わせる

「まことに、ほんとうに」という意味のヘブライ語「amen」

に由来し「まことにその様でありますように」という意味。

古代ユダヤ教会では、ラビが聖書の一句を読み、続け

て会衆が復唱することで、聖書(丸暗記)教育を施した。

しかし、会衆は次第に復唱を省略し「アーメーン!(そのと

おり!)」とだけ言うようになった。これがユダヤ教から派生

したキリスト教にそのまま受け継がれ、神父が祈りの言葉

を言った後に会衆がアーメンと言うようになった。

キリスト教が世界中に布教された時、「Amen」は各国の

言葉に翻訳されずそのまま使われることとなった。

-5-

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最終章であるアニュス・デイでは、人間の罪深さを改めて振り返り、最後の祈りの言葉として

「私たちに平安を授けて下さい」と歌う。曲は戦争とそれにおびえる人々を再現している。

アニュス・デイ (Agnus Dei) 平和を祈る

《Adagio ゆるやかに》1小節~

しみじみとしたバス独唱で、切々とした祈りが始まる。

独唱バス 男声合唱 Agnus dei, qui tollis peccata mundi 世の罪を取り除いて下さる神の子羊よ

miserere nobis 私たちを憐れんで下さい. 独唱アルト・テナー、合唱

Agnus dei, qui tollis peccata mundi 世の罪を取り除いて下さる神の子羊よ

Miserere nobis 私たちを憐れんで下さい 独唱者たち 合唱

Agnus dei, qui tollis peccata mundi 世の罪を取り除いて下さる神の子羊よ

Miserere nobis 私たちを憐れんで下さい 暗いどん底から「憐れんで下さい」と救済を求める。

◆ドナ ノ―ビス パーチェム(Dona nobis pacem) ベートーヴェンは『Bitte um innern und äußern frieden』すなわち、『どうか、内なる平安と

外なる平安を(お願いします)』と書き込みをしている。

心の中でも、現実であっても、日常の平安を破壊するようなことが起きないことを願っている。

《Allegretto vivace 快活に速く》96小節~ 暗から明への転換。 合唱 独唱

Dona nobis pacem. 私たちに平安を授けて下さい 「田園交響曲」第5楽章に通じる自然と祈りに満ちた理想郷が表現される。

《Allegro assai 充分に非常に快活に速く》164小節~ 突然不安な表情に一変して、遠方から軍隊、戦争を象徴するトランペット、ティンパニーが鳴る。 独唱

Agnus dei, dona nobis pacem. 神の子羊よ 私たちに平安を授けて下さい 合唱呼応

Miserere nobs 私たちを憐れんで下さい

《Tempo primo 最初の速さで》190小節~ 最初より充実した形で「われらに平和を授けて下さい」と歌う。 合唱 独唱

Dona nobis pacem. 私たちに平安を授けて下さい

《Presto 極めて速く》266小節~ 器楽の威圧的な演奏に続き、激しいトランペット、ティンパニーとともに、力強い平和への願が歌われる。 合唱 独唱

Agnus dei, dona nobis pacem. 神の子羊よ 私たちに平安を授けて下さい

《Tempo primo 最初の速さで》354小節~ 独唱 合唱

dona (nobis )pacem. (私たちに)平安を授けて下さい (私たちに)は省略される

平安と不安な感情が交互に続き、最後に平和を歌いあげたかと思うとあっさり曲を閉じてしまう。

これは、平和の願が未だに満たされない現実を意味している。

参考資料 ベートーヴェンの到達と祈り「荘厳ミサ曲」/著者:茂木大輔 聖書物語新約篇/著者:山形孝夫 Web ベートーヴェンミサ・ソレムニスの歌詞と音楽/KAZUAK 曲目解説 荘厳ミサ曲

~神の子羊とはイエスキリスト~

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